椎名作品二次創作小説投稿広場


秘密

延々とらぶこめは続く


投稿者名:cymbal
投稿日時:05/11/13

 ・・・窓の外の季節も、そろそろ冬と呼んで差し支え無く、薄い色の空に風も冷たく、この室内とは別世界みたいな気もする。もちろん部屋には暖房がついて快適な所為 (せい) もあるけど、一番の理由は目の前にいる女の人。

 ゆったりとしたソファーに腰掛けながら、対面には黒髪の女性。私とこの女性の前には湯気の立ち上るコーヒーが置かれ、彼女はにこにこと暖かな雰囲気を室内に振り撒いてる。そして心配そうにこっちを見て、気さくに話しかけてくる。

 昔は腰近くまであったらしい髪も、この当時にはばっさりと切っていて、肩辺りでゆらゆらと揺れていた。私の知ってる姿も髪の毛は短かった。綺麗な髪だなあと、うっとりと眺めてみたり。

 「本当に・・・この間はびっくりしちゃって。話してたら急に倒れちゃって、心配したんですよ。退院したなら一言、連絡でも入れてくれれば良いのに。私もあの後ちょっと忙しくなっちゃってお見舞いにもいけませんでしたけど」
 「ご、ごめんね。ちょっと・・・ここのところバタバタしてたから、ほら、この通り、部屋も・・・アレでしょ」

 私の指差す方向には散らかったごみ、ゴミゴミ。二週間ほど前におばあちゃん・・・美智恵さんが、片付けてくれたものの、あっという間にゴミは溜まる一方。

 掃除するのって、結構面倒だなあって・・・言い訳にもならないけど。お母さんを思い出してちょっぴり悲しくなったり。でも勝手に片付いてくれる訳でも無い。

 「・・・でも、無事で良かったです。美神さんに何かあったら私・・・それに横島さんも。あっ、でも、もうすぐ美神じゃなくなるんですよね、うふふっ」
 「おキヌちゃん・・・」

 ほんとっ・・・! ・・・良い人だなあって思う。昔 (あっ、正確には未来でもある) 、お年玉とかたくさんくれたし。それにひょっとしたら、この人とお父さんがくっついてたかも知れないって聞いた事ある。お母さんのライバルだったって。でも、もし仮にそうなっていたら私は産まれない訳で・・・あっ、なんか想像すると恐いっ。駄目駄目っ。
 



 
 てゆーか・・・また馬鹿な事考えてる、もー!





 あれ程、自分で反省したにも関わらず・・・こっちの生活を楽しんでいる場合じゃないって。さっきも言ったけど、美智恵さんが遊びに来てから二週間ほど経った。

 だけど・・・特に何も進展も無く、私自身、霊能力や超能力などを自覚している訳も無い。そんな普通である私に何か出来る筈も無く、とりあえず家に篭りながら、ぼんやりとネットでも眺める生活。一応色々検索とかはしてみたけど、参考になりそうなものも見つからなかったし。

 後は、時々美智恵さんから電話とかあったり・・・何か恐いオーラを電話越しに感じて、油断出来ない人だと再確認した。

 お父さんはといえば、私の身に起こった事例に対する文献なんかを必死に探してるみたい。仕事の方は結局、しばらくお休みにするとか何とか。私とお母さんの事が心配でしょうがないって。ちょっとドキドキ。

 そんなこんなで暇な私に訪ねて来たのが、この氷室おばさん。でも 「まだ」 若い。むかしは幽霊をしていたり、苦労の耐えない人だったとか。こうしてみると知り合いに普通の人はほとんどいないのかなあ・・・。

 「えっとそれでですね・・・遅いお見舞いに来たつもりだったんですけど、ちょっと、ほら、散らかってますし、私が部屋を片付けましょうか? 美神さんもまだ病み上がりで大変でしょうし」

 別に気を使わなくても良いのに・・・

 「ちょっと散らかってる」 だなんて、むしろ 「もの凄く汚い」 で。

 「ゴミ屋敷」 とまではいかないけど。

 「えっ、あっ、そ、それは悪いわよ。別に、ほ、ほら私はもう大丈夫だし」
 「いいですから。気にしないで下さい、私も仕事が一段落ついて休暇中なんです」

 腕を回して子供のように元気一杯をアピールしたけど、氷室おばさんは特に気にする様子も無く、いやむしろやんわりスルーされた。

 笑顔で言葉を返して、テキパキと部屋の中を片付け始める。凄く手馴れた感じ。家庭的で、綺麗で、優しくて・・・完璧な人だなあ。私も少しくらい家事とか出来るようになった方が良いのだろうか? 正直、まだそんな事、あんまり考えたくも無いんだけど。


 


 「ところで結婚式の準備の方は進んでるんですか?」

 ぼーっとおばさんを見ていると、掃除機をかけながら、私の方にちらりと視線を送って尋ねてきた。掃除機の音がスイッチ切る音と共にピタリと止まる。

 「け、結婚式? えーと、う、うん進んでる・・・と思う」



 そういやどうなってるんだろ。お父さんも何もしている様子は無いし・・・それどころじゃないのは分かるけど。招待状やら式場やら料理やら・・・全然分かんないよっ、どこまで進めてあるんだろう? 

 まあ、さすがに二ヶ月切った今となって何もやってない事はないだろうけど、ひょっとしたら最悪、延期なんて事無いよね? ぜ、ゼ○シィとか、読んでおいた方が良いのかも。あっ、でも私が結婚式に出る訳じゃ・・・やっ、もしこのまま戻らなかったら・・・ええっ、ドレスとか着れちゃったり! やだあっ、ちょ、まじ嬉しいっ!



 「美神さんっ? 美神さんっ!? だ、大丈夫ですか美神さん?」
 「えっ? あっ、ああっ。だ、大丈夫。ちょっとゴタゴタしてたから。大丈夫っ、何とかする」



 やばい・・・ちょっと別の世界逝っちゃってた。お父さんじゃないんだから。まだ口に出さないだけましかな。お父さんなんか良くそれでお母さんと喧嘩してたっけ・・・ふっと、そしてまた罪悪感。


 最低だあ・・・私っ!


 「それなら良いんですけど。いーなあ、結婚かあ・・・」
 「相手はいないの?」
 
 「・・・知ってるじゃないですか美神さん。いじわる」
 
 「ご、ごめん」

 いないんだ。まだこの時は付き合ってなかったのかあ・・・。まっ、でも心配するまでも無く、おばさんなら引く手数多 (あまた) だと思うけどね。

 少し寂しそうに、おばさんはまた掃除機のスイッチを入れて、掃除の続きを始める。落ちているコンビニの弁当の空き箱とかもゴミ袋に詰めたり、ペットボトルを潰したり。その横顔は笑ってるけど・・・やっぱり寂しそうで。

 ・・・ひょっとしたら、まだお父さんの事、引きずってるのかなあ。



 やっぱり・・・その、好き・・・だった訳だし。



 結構付き合いも長かったって言うし、未来でも中々あの人との結婚に踏み切れなかったのもそれが原因だったって。





 「・・・ねえ、氷室おばさん」
 「・・・はっ?」

 あっ、しまったっ!

 「お、おばさん?」
 「あっ、いや・・・ひ、氷室の家は、そ、そうお姉さんは元気?」
 
 確か居た筈。居てくれないと困るっ! 気まずくなるっ!

 「お姉ちゃんですか? え、ええ元気ですけど。急にどうしたんです?」
 「そ、そう。それなら良いわ。いや・・・たまには実家に帰ってあげたりしたら喜ぶんじゃないかしらーって思って。あんまり・・・いやきっとほとんど帰ってないでしょっ」
 
 「そうですね・・・ここのところ確かに帰ってないです。そっか、実家かあ・・・。折角、休暇取ってるんだし、帰っても良いかも知れませんね。あっ、なんか逆に心配して貰っちゃいました。すいません」
 「そんな事、気にしなくてもいいのよーっ。私とおキヌちゃんの仲なんだからっ」

 あ、危なー・・・。何とか誤魔化せた。不用意に話しかけない方が良いかも。でも無言ってのも辛いし・・・。


 がちゃりっ。


 「ただいまーっ」
 「あっ、お帰りなさい」

 お父さんっ! ないすっ。丁度良い所に。

 「あれっ、おキヌちゃん?」
 「お邪魔してますっ」

 あれっ、何? おばさん凄く嬉しそうじゃない? え? 

 「あっ、ひょっとして、ほた・・令子の様子を見に・・・悪いな。ごめん、そういえば退院した事、連絡してなかったな」
 「良いんです良いんです。横島さんも仕事とかあって大変でしょうし。あっ、ほら上着お預かりしますっ」

 「えっ、あっ、そーだね」
 「お疲れ様です」

 おばさんはお父さんから上着を預かると嬉々としてそれを綺麗にハンガーに通す。 

 「・・・」
 
 こ、このらぶおーらは・・・何かこの二人仲良くない? ・・・夫婦みたいで・・・まだ私に対する挨拶が無いよーな気もする。目の前に婚約者が居るのにっ! ムカムカするっ!



 ぷちんっ。



 「ちょっと・・・横島君?」
 「は、はいっ!?」

 ・・・自然と言葉が口を次いで出た。まるで私が私じゃないみたいに。その声色を聞いたお父さんは身体が硬直したように固まり、冷や汗がたらりと落ち、こちらに顔を向けれない。

 「れ、令子?」
 「お帰りなさい」
 「た、ただいま」

 「あっ、わ、私、台所でお茶沸かしてるの忘れてましたっ。ついでに御飯も作りますねっ」

 ぱたぱたぱたっ。

 やばいっと思ったのか 「おキヌちゃん」 はこの場から逃げ出す。

 「ちょ、ちょっと・・・! おキヌちゃん置いてかないでっ・・・!」

 嫉妬、だと思う。私の感情では無くお母さんの感情。自分の意思で止める事が出来なかった。すっと立ち上がると凍り付いているお父さんの方に一歩一歩近づいて行く。

 (お、おちつこーよお母さん。ほら、別に対した事してないしっ。別に悪気も無いと思うしっ)

 (・・・ちょっと、からかうだけよ)

 (やっ、私からきつく言っとくから・・・ねっ?)

 (・・・・・・)

 私の抵抗と説得? お陰か、少しづつ、少しづつ身体の支配が解除されていく。そして硬直するお父さんの前に立ったと同時に私は開放された。

 正直ちょっと恐かった。子供の頃、悪い事して怒られた時の事を思い出す。

 「ふう・・・あっ、びっくりした?」

 「ほ、蛍だよな? ちょっ、恐かったぞ・・・まるで本物の令子みたいだった。心臓に悪い真似はやめてくれ・・・や、今のは多分俺が悪いけども」

 私の声が 「普通に戻った」 感じを受けてお父さんもほっとしたようだ。相当怯えていたらしい・・・がその顔には不思議な安堵な表情もあった。
 
 「・・・本物かも知れないよ」
 「えっ?」
 
 「何でもない。おばさん手伝ってくるね。・・・おキヌちゃん、私も手伝うっ!」
 「は、はーい」

 「おっ、おい」

 私も面白くない事には変わりないし、お母さんとの約束だから、ちょっと反省させてやろうと思う。お父さんの横を通り過ぎると、呼び止めようとした声を無視して台所へと向かった。お父さんはぼうっとしてこっちを見つめているように見えた。 



 (馬鹿っ)



 ”・・・あれか。やっぱり意識が混じってて、時々、令子が表に出てくるのだろうか。

 はっきりいってすっげえびびった。

 でも、それはつまり、意識を全て蛍に乗っ取られてる訳じゃないって事だ。乗っ取るって言葉はあんまり使いたく無いけどな。

 何か上手い方法があれば良いのだけど、一向に手がかりは見つからない。色々知り合いにも当たっているんだけど・・・。

 ・・・でも何だか久しぶりの緊張感でちょっと嬉しかったような。・・・俺ってやっぱ 「女王様」 である令子に弱いのだろーか。逆にほっとした気もする”





 ・・・その後、おキヌちゃんも含め、三人で食事もしましたが、さっきの事もあり、気まずかった・・・。却って (かえって) お父さんには遅く帰って来てもらった方が良かったかも。お母さんも所々で 「負けないからっ」 とばかりにちょこっとちょこっとづつ出てくるし。

 既に決着はついてると思うんだけど。

 それでも表面上の笑いとは裏腹に、妙な空気が場に漂っていて・・・凄く疲れた。
 
 早く、元に戻りたい、戻してあげたいなあ・・・って凄く思う。



 せめて結婚式までには何とかなりますよーにっ!



 続く。


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