椎名作品二次創作小説投稿広場


文珠使い

  閑話 ラプラスの思惑


投稿者名:ヨシ
投稿日時:05/11/ 9

明日でまた100年の時が過ぎる。
100年前に視た私の予測によると、
ここに来るのは高確率で眼鏡をかけた小太りの僧侶。
次に無口で会話すら楽しめないシスター。
その次が雇われた兵士、ビクビクしながらやって来るのだったか。
そしてその次は…………確率が低すぎて忘れてしまったようだ。


―――――――ああ、退屈だ。


60年くらい前に、戦争が起きてここが壊される可能性も僅かにあったのだが、
所詮、遠く離れた世界軸での話、ほんの少しも期待などしていなかった。
この私が視て、確率的に結論づけた未来予測だ、期待していたはずがない。


―――――――くそぅ、ナチスの根性無しめ。


まあ、期待は全くしていなかったのだが、私の望みではあったな。
いいかげん、何もせずに同じ所で同じ風景を見ているのも限界なのだよ。
ただでさえ先行く世界を視て、未来を予測できてしまう退屈な存在だというのに。
まさか、記憶力が落ちてる気がするのはボケというやつじゃないだろうね。


―――――――それは勘弁して欲しいんだが。


900年前に捕まった私がドジでマヌケだと言う事なのだろうが。
この私にまったく戦う力を授けなかった、創造主が悪いと思いたいところだね。
おかげで私はあっさり捕縛され、囚人扱いを受けているのだから。
そもそも、私は最悪な未来を予測して囁いているだけだよ。
それに抗えず不幸になる人間は、自身の愚かさを呪えば良いものを、なぜ私に逆恨みをするのか。
そのせいで、私が世界を最悪へ導く悪魔のように言われるのだ。


本当に根性無しの人間どもめ―――――――自業自得を知れと言いたい。


まあ、とは言うものの、私は実際に悪魔という存在だからな。
悪く言われるのは構わないさ、私自身も人間がどうなろうと知った事ではない。
とはいえ、そろそろ本来の役目である人間への囁きがしたいものだな。
最悪な未来に挑む人間を見るのが、私の唯一の趣味だと言うのに、
ここの人間どもときたら自分の未来を囁かれるのが怖いのか、地球の未来を囁けと言う。
それも僅か100年先の未来までと、わざわざご丁寧に私の能力を封印までしてくれた。


私に退屈という試練を与えてどうする気だね、試練を受けるのは君達の方だろうに。


人間の未来は、どんな結末だろうと最後は死で終わるのだよ。
魂のみが輪廻し転生するが、その人生とて結局は死で終わるのだ。
人間に望まれているのは、その魂の鍛錬であり、昇華へ至る事なのだよ。
そうすれば、少なくとも人間としての死からは逃れられるからな。
魂の昇華は神へと至る道、まあ、悪魔に落ちる方が楽だし早いし気楽ではあるが、
まあどっちでも構わないさ、とにかく暇つぶしになってくれる者。


最悪で過酷な未来へ誘導し神にでも悪魔にでも、人間止めるまで囁き続けてやるぞ。


そういえば、誰か一人に徹底的に囁いた事はなかったな。
一度囁いておけば不安だけで自殺する者もいるし、一人を見続けるのは私が飽きてしまう。
よその世界を視てみても、そんなストーカーのような私はかなり希少だな。
ふむ、この溜まりに溜まった退屈と言う私の思念、
使い様によっては面白い事ができるかもしれない。
これだけ溜まっていれば、わたしの意識を分離させる事が―――――――


できるだろうが、すぐに死んでしまう人間では意味がないか。


はあ、しかしこうも退屈と長い間共存させられていると、
ろくでもない事ばかり考えてしまうものなのだな。
自由であった頃は、気の向くままに人間に最悪な未来予測を囁いて、
その人間の行く末を楽しんでいられたというのに。


自由なまま存在している、他の世界の私自身を呪ってしまいそうになるよ。


まったく、なぜ私はこの世界に存在しているのだろうな。
いくらでも別の世界があるのを知っているだけに我慢がならん。
世界など、始まりが何処だかわからんが、とにかく無数に生まれ続けるものだ。
ほんの少しの差異を持つ世界が、平行して生まれ続けるだけでも無限なのに、
その世界軸の全てに時間軸の違う世界が、これまた無限に生まれ続ける。
更には時間軸の違う世界からも、わずかな差異で分岐世界が生まれるのだ。


それだけある世界の中で、私が捕縛されるのは結構希少なのだよ?


まあ、希少な世界にいられるのは私達にとって、嬉しい事ではあるがね。
なにせ余りに多くの自分を視れてしまうために、個性というものへの憧れがあるのだよ。
とはいえ、こんな牢獄生活で希少になっても他の世界の私達に笑われるだけだが。


ああ、退屈な上に不満まで貯めこませるつもりなのかね。


考えれば考えるほどに腹が立つ、人間は退屈で悪魔を殺すつもりなのか。
それともこれは人間が私へ与えた試練で、私に神族にでも反転しろと言うのかね。
確かに私が反転すれば、最高な未来予測を導く者になるわけだがね。
すでにその役目を持ってる者は存在しているではないか。そいつを捕縛しろ。


大体、アイツの導く最高な未来は、恐ろしく過酷な試練の先だぞ。


ほとんどの人間が目指しても辿りつけない未来だ。
その未来を目指す過程で、そこそこの幸せに落ち着いていくものだ。
あきらめという堕落に抗い、挑み続けるという試練を与えているのだよ。
高確率でアイツの試練を達成できる者などいないと断言してやろう。
どのみち神か悪魔かの差でしかない、結局は人間に試練を与える役目ではないか。


それなら私は、最悪な未来を囁く存在であるほうが楽しいよ。


退屈でさえ、なければ―――――――






―――――――ん?

なんだ、今なにか面白い事を閃いたのだが……。






カチ。

カチカチカチ。

カチカチカチカチカチカチカチカチ―――――――


「お、おおお、おま、おまま、お前が、ぜ、前知魔、ラプラスかっ!!
 ここここ、この教皇様の日記帳で、ひゃ、100年先の未来を見るんだっ!!
 そ、そうしないと、こ、この銃で、うううううううう、撃つぞ、撃つぞぉお!!」


ガチャガチャガチャガチャ。

ガクガクガクガクガク。

ブルブルブルブル。




……はあ。




「とりあえず―――――――落ち着きたまえ、兵士君。」


考え事をしている間に、もう今日になっていたのか。
ん……兵士? 私の予測した1・2番を差し置いて、3番目の確率が来たのかね。
クックックック、この世界に何か起きる予感が高確率でするね。

―――――――世界の変化は望むところだよ。


「こ、これ、こここ、これっ。」


バサバサバサバサバサ。


「……わかったから、日記帳が破れる前に渡したまえ。兵士君。
 心配しなくとも未来はちゃんと囁いてやるから。」


さて、私の予測がずれるとは希少な未来の始まりだな。





久しぶりのお役目だ、楽しませてもらおうか―――――――





『アナタの制限された能力で、処理できる未来を与えましょう。』


『ああ、頼むよ―――――――記録天使、リピカ君。』






閑話―――――――『ラプラスの思惑』






こ、これは……。


これほどの……事件があるとは。


すごい、この100年はすごいじゃないか。
2度の世界大戦が高確率で起きるだけでも最悪な未来だというのに、
いよいよアシュタロス君が、高確率で世界への反乱を始めるのか。
900年前にも、いくつかの世界軸で魔神になろうとあせったアシュタロス君が、
未完成だった究極の魔体で大暴れして、相当の世界を消滅させているからね。


さてさて、今回も私の存在する世界は生き残れるかどうか。


それにしても、アシュタロス君は悪魔でいることがそんなに嫌なのか。
わざわざ魔神になって力を求める反面で死にたがるとはね。
3000年もかけて究極の魔体を育てながら、何を考えていたんだろうね。


元々の君は、小さな生き物を愛するやさしい男だったはずなのに。


君が悪魔に落ちたのは世界を汚す、人類への嫌悪からだ。
確かに人間が支配種族である世界は、君の愛した生物たちには厳しい世界だろうね。
だからといって悪の象徴である事が役目の悪魔は、君には辛かったのだろうか。
長い時の中でずっと苦しんだのかもしれないね、私にはわからない感覚だが。
まあ、悪魔も神も、そうそう役目から降ろされる事はないからね。
世界を巻き込んでの自殺嘆願書か、なかなか格好良いよアシュタロス君。


巻き込まれた側には、ずいぶん迷惑な自殺になるようだがね。


しかし、この100年は随分と消滅の予測される世界が多いな。
二つの世界大戦が起きてしまう時点で結構な数の世界が100年もたずに消滅するが、
アシュタロス君がコスモプロセッサを発動させて消滅する世界がとんでもない数だ。
更にはそれが原因でハルマゲドン勃発しまくりじゃないかね。


何をやっているんだ神魔の最高指導者は、さぼってるんじゃあるまいな。


君達の役目は世界の維持と、魂の成長を見守る事だろうに。
人間に試練があるようにアシュタロス君の反乱は君達への試練とも言えないかね?
それなのに、なんだねこのていたらくは、人間以上にたるんでやしないかね。


はあ、私のいるこの世界がはたして存続できるのか、かなりの高確率で不安だね。


アシュタロス君の活躍で、今の私の能力で視れる世界のうち94%の世界が消滅している。
戦争で消滅する世界も合わせると、99%の確率でこの世界も消滅する可能性があるわけだ。
私の視てきた無限に存在する世界の中でも、これほど大規模な世界消滅はあまり記憶にない。
かなり離れた平行世界ではいくつか視た事があるが、まさか私の存在する世界でも起きるとはね。


なるほど、それで創造主は、いくつかの世界軸に特別な力を与える事にしたのか。


美神美智恵。

―――――――美神令子。

――――――――――――――横島忠夫。


時間移動能力者が2人に、文珠使いまでいるのか。
900年前にアシュタロス君が暴れた時は、藤原道真君一人だったのにね。


どおりでこの100年は、時間軸が複雑になっているわけだ。


美神美智恵君は子供を助けるために、先いく時間軸の世界に飛んでいる、
更に先行く時間軸にも飛んで、アシュタロス君に戦いを挑んでいる。
この美神美智恵君は、別世界の自分と入れ違ってないかね。
先行く世界を飛び越えて、世界の狭間をさまよってるのもいるし、
存在のかぶった世界では2人の彼女が旦那を奪い合っているぞ。


む、無知とは恐ろしいな……。


未来に飛ぶというのは、同じ世界軸だが時間軸の違う別の世界への移動だ。
それを視てくる為に与えられた能力なのに、別世界の未来を変えているとはね。


しかし、そのおかげでアシュタロス君にも勝てる分岐世界が生まれたと言えるのか。


逆に美神令子君は高確率で後行く時間軸へ飛んでいるな。
過去は能力を制限された私には、視る事ができないが想像はたやすいさ。
おそらく過去の時間軸の世界で、母親同様に世界を変えまくっているのだろう。
後行く世界を変えても元の世界は別の時間軸、変化などあるわけがないというのに。


それにしても、前世にまで飛んで世界を分岐させているとはね。


1000年もの時間軸を返って、生み出した分岐世界がこの世界に繋がっているという事かね。
なんと複雑な世界の絡まり方なんだ、私の演算能力でも可能性の算出が難しすぎるよ。
いくら創造主から力を与えられた者達だからといって、分岐世界を作りすぎじゃないかね。


ん? おやおや、この前世への時間移動はヒャクメ君が起こしているじゃないか。


世界を存続させた結果に結びついていても、これは与えられた役目を超えるだろうが。
君は現存世界の監視の目だろうに、自分の役目より趣味を優先させ過ぎだよ。
この世界軸じゃなくとも、アシュタロス君を倒した希少な世界があるというのに。
わざわざ、新たな可能性を生み出すために世界を分岐させてしまうとは……。


うらやましい事だな―――――――私も役目など無視してみたくなる。


ヒャクメ君にしろ、美神親子にしろ、余りにも自由が過ぎるよ。
視るだけにして、その世界に影響を与えないのが最低限のマナーだよ、まったく。
巻き込まれて時間移動なんて体験してしまうから、横島忠夫君まで安易に使ってしまうんだ。
女魔族ルシオラ君の復活に、美神令子君の命を救うためにと、飛びまくりじゃないか。
そんな事しなくても、君には文珠があるだろうに。文珠使いの名が泣くぞ。


まあ、文珠使いとして覚醒する君はかなり希少なようだから、仕方ないのかもしれんが。


ふむ、この世界軸には先行く時間軸が100年はある、どうやら私は生き残れるようだ。
それにしても、随分と希少な世界に私は存在できているようだな。
ん? ほう、横島忠夫君と美神令子君がここへ来る可能性があるのかね?


クックックック、これは面白い―――――――特別な客ではないか。


これは私もヒャクメ君にならって、何か面白い事でもしてみようか。
さて、何をしようか、なにせ私は牢獄の中――――――――――――――



―――――――ん?



そういえば、兵士君が来る前に何か思いついたな私は。

……………………………………なん……だったかね?

―――――――……………………………。

―――――――………………………。

―――――――………………ぶちっ



くそう、違うんだこれはっ、私はボケたりしないのだよっ

退屈が悪いのだっ 退屈めっ、退屈めっ。退屈めぇっ。

ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ。

はあ、はあ、はあ。



ふぅ―――――――



まあいい、彼らがここに来るまで100年あるのだからな。
彼らとの出会いを利用して、私に何ができるのか―――――――考えて過ごそうじゃないか。






「クックックック、楽しい時間が始まりそうだ。」






最悪な未来を予測し囁く悪魔ラプラス。



その100年後―――――――

自分の生み出した思念体に裏切られる事までは……予測できなかったのだった。





―――――――文珠使い 閑話 ラプラスの思惑 END―――――――


今までの評価: コメント:

この作品はどうですか?(A〜Eの5段階評価で) A B C D E 評価不能 保留(コメントのみ)

この作品にコメントがありましたらどうぞ:
(投稿者によるコメント投稿はこちら

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp