椎名作品二次創作小説投稿広場


ザ・デウス・オブ・ハーツ !!

椎名先生は萌えというものを 本当によくわかってらっしゃる


投稿者名:由李
投稿日時:05/11/ 6

 目覚し時計のベルがけたたましく鳴り出した。まだ頭痛のする頭でなんとかベルを止める。のそのそと布団から這い出て時刻を確認する。まだ事務所に行くには余裕がある。


「昨日のこと、夢じゃないよな」


 未来からやってきた自分。彼はこれから大事件が起こると言った。そして自分の大切なものがなくなると。それを防ぐために彼は自らの命を自分に与えた。一体これから何が起こるのか結局何も言わずに同化し、消えた。果たして彼は何を経験してきたのか。大切なものとは、一体。
















ザ・デウス・オブ・ハーツ
第二話:椎名先生は萌えというものを 本当によくわかってらっしゃる
















「俺の霊力……強くなったのか?全っっ然実感無いぞ」


 急に昨日のことが嘘に思えてきた横島は、試しに昨日見た文珠を作ろうと手に霊力を集中させた。もし本当に霊力が高まっているのならあの文珠が出るはずだ。二文字込めることができるあの特殊な文珠が。


「出ろ!出ろぉぉ!むぅん!」


 コロっと出てきたのは至って普通の文珠だった。


「や、やっぱり夢……?いやあれは夢じゃない!なんせ俺が言ったことだ!ああっしかしそれ故に説得力が無い!こーなったら長期戦だっ」


 なんとしても夢オチで終わらせたくないのか、あの特殊な文珠が出るまで粘ってみることにした。


「ぬっ!出る!」


 が、やはり普通の文珠だった。


「まだだ!まだ終わらんぞ!」




****一時間後*****




「……」


 ずらっと並んだ文珠コレクション。その数54個。しかしどの文珠もあの特殊な文珠ではなかった。
 急にテンションが下がった横島はいそいそと出る支度を始めた。薄っぺらい財布と文珠を6個程ポケットに詰めて肩を落としアパートを後にした。絶え間なく頭痛がしたが、遅刻した時のことを考えると頭痛どころではなかった。
しかし横島は気付いていない。ここまで文珠を出しておいて疲労していない彼の霊力のスタミナは今や魔族並だった。ちなみに煩悩はもはや魔神レベルだが。
















「雪乃丞が魔族に襲われた……!?なんすかその冗談は。すっげー笑えますけど」


 事務所についていの一番に聞かされたことは腐れ縁の雪乃丞が正体不明の魔族に襲われたという話だった。


「冗談でもないし、笑える話でも無いわ(←自分が関わっているから)。とにかく事情を聞きに今から病院に行きましょう。六道女学院の生徒も襲われたらしいしね」
「美神さん!今すぐ病院に行きましょう!雪乃丞が気がかりです!」
「……」
「横島さんのフケツ……」


 二人分のじと目で更に激しくなってきた頭痛に顔を歪ませる横島は、その生徒が弓だとは思ってもいなかった。そして弓と雪乃丞がデートしている最中に襲われたということを聞いたのは病院へ向かう車の中であった。
















「思ったより随分とやられてるわね……」
「美神のダンナか、面目ないぜ。いきなり教われて反撃も出来ずにこのザマさ」


 包帯を巻かれ痛々しい姿でベッドに横になっている雪乃丞は、言葉を話す体力もあまりないらしく、いつもの彼からは想像できないくらい衰弱していた。


「一体何されてここまでチャクラをズタズタにされたの?」
「センサーみたいなもので霊力を無理矢理吸い出されたんだ。おかげで怪我は大したことないのに歩くこともできやしねぇ」


 雪乃丞クラスの相手がここまでやられるのは、魔族の中でも実力者であろう。雪乃丞の顔が語っていた。「俺なんかじゃ100回やっても勝てねえよ」と(横島談)。


「一つはっきりさせて欲しいんだ。雪乃丞」
「俺もお前に聞きたいことがあるんだが、じゃあお前から言えよ」
「弓さんと何処までいってるんだ!?Aか?Bか!?Cかぁぁ!!??」
「他に聞くことないんかい!」


 病院であるにも関わらず美神の激しいツッコミで血をどくどくと流す横島は、更に痛みを増す頭痛のせいもあり、しばらく起き上がってこなかった。そのせいで雪乃丞は聞きたかったことをひっこめざるをえなかった。いつの間にそこまで強くなったんだ?ということを。


「じゃあ私からも一つ質問させて。そいつらは何か探していたのよね?」
「心当たりでもあるのか?」
「ちょっと……ね。念のため小竜姫やワルキューレには話しておこうかしら」


 その時巨大な霊圧が美神たちを襲った。雪乃丞の「こいつらだ!」という叫び声を聞いた美神は手早く警戒態勢をとった。横島とおキヌも準じて警戒態勢をとる。

 頭痛が消えた。


「あらいやだ。前に調べた男じゃない」
「違うでちゅルシオラちゃん。髪の長い女でちゅ」
「もう一人変なのがいるけど、そいつはどうすんだ?」



 一人はむちむちのばでぃーにきつい目が男心をくすぐるスタイル抜群の女。
 一人はスレンダーな体つきに大きな目をした美少女。
 一人はロリータ代表の元気いっぱいな太陽のような少女。


 こんな切羽詰った状況でなければ横島の煩悩は限りなく満たされていたことだろう。


「美神さん!戦っちゃ駄目です!この人たち強い……っ」


 おキヌが横島よりも先に逃亡を考えたのはそれ程までに相手が悪いということだ。おキヌの言葉を受けてか、美神は敵に華麗に突っ込み……そのまま華麗に逃げ出そうとした。しかしスレンダーな女――一ルシオラと呼ばれた少女――に足を鞭のようなもので捕まれ、あっけなく引き戻された。リングが美神に向かって投げられる。絶対絶命のこの瞬間、誰もが期待していなかったこの男が動いた。


「一人くらい期待しとけー!でぇいっ!」


 横島は「凍」の字を込めた文珠を敵に向かって投げつけた。閃光が部屋を覆う中、美神を捕えたリングに誰にも悟られぬようこっそりと「障」の文珠を放っておいた。自分の手際の良さに自分で惚れ惚れとした辺り、非常に横島らしい。


「どーだ!まい……ってない?」


 霊体が少し凍りついただけで、二人にはあまりダメージがないようだった。二人……?


「っ!……」


 突然目の前が揺らぎ、訳がわからないまま横島は意識を失った。倒れた横島の後ろからは、文珠の攻撃を逃れたルシオラが現れた。


「ただの冷気攻撃じゃないな。一時的にチャクラを凍らして戦闘不能にさせるものか。ガードしてなかったら危なかった」
「ルシオラちゃん酷いでちゅ!一人だけ逃げるなんてー!このペチャパイ!まな板!」
「あ、貴方がそういうことを言うの!?」


 言い合いになりそうだった二人はリングが演算を終了したので元通りに戻った。横島の文珠のおかげか、美神の頭上のリングはあらぬ結果を導き出した。


『分類:神魔混合 霊力:15マイト 結晶 存在せず』
「あーあちょっと期待ちてたのに」
「ま、そんなに早く見つかったら苦労しないわね」
「さっさと帰るぞ」


 ぐったりした美神を抱えたおキヌは命が助かったことに安堵した。しかしそれも束の間、一番小柄な少女が突然気絶した横島のところに駆け寄り、軽々と持ち上げそのまま空に飛び去ってしまった。ぽかーんと口を開けて状況がうまく飲み込めないおキヌは、雪乃丞が声をかけるまですっとその調子だった。


「よ、よ、よ、横島さんが、お、女の子にお持ち帰りされた!!」
「おキヌ、それちょっと違う」











「パピリオ!そんなもの捨てちまいな!」
「嫌でちゅ!この人間は私が飼うんでちゅ!」
「まったくもーこの子ってば……でもこいつ一体何者かしら?あとでちょっといじくってみてもいい?」
「私のペットに手を出ちたら駄目でちゅよ」
「はいはい。わかったわよ」


 会話が終わるとルシオラたちは異空間に入っていった。横島は自分が連れ去られてたのも知らず呑気にパピリオの肩の上で眠っていた……というのは全くの嘘で、今起きたら殺されると思った横島は、意識が回復した今でも寝たフリを続けていた。ルシオラたちは麻酔が効いていると安心してそのことには気付かなかった。


(大事件が始まったのか?くそっ、いつになったら美少女と×××な展開になるんだか……ああ、しかしこいつらだったらさらわれてもいいと考えてる自分が可愛い……)


 そこからあらぬ妄想に入り煩悩が高まった結果、気付かれたルシオラに今度は物理的(グーパンチ)に眠らされた横島であった。本当に、彼らしい。
















 声が聞こえた。か細い声が自分を呼んでいる。少しだけ焦りが混じったその声は聞き覚えがあった。暗闇の中かと一瞬思ったが、自分が目をつぶっていることに気付くとまぶたに力を入れ微かな光を確認した。意識がはっきりしてくると共に、声も一層はっきりと聞こえてきた。どうやら自分は眠っていたようだ。目を完全に開けると、微妙な距離に女の子の顔が。


「棚からぼたもち!頂きますっ!」
「キャー!横島さん私よ!ヒャクメ!」
「はぇ?なんでヒャクメがここに?……ていうかここは……」


 唇を突き出しあろうことか神族を汚そうとした横島は、完全にはね起きるとフリーズしていた頭を回転させ現在の状況を確認し始めた。まず記憶はどこかに連れ去られようとして、タヌキ寝入りがばれたところまである。そしてここは牢屋であろう。つまり自分は敵に捕えられ、そして女の子と密室で二人っきり。


「うーんまさかヒャクメ×横島なんて誰も期待してないだろうしな……」

 どういう思考をしても行き着く先は一緒であった。しかもヒャクメとヒャクメファンに酷い。


「ちょっと待って。貴方本当に横島さんですか!?」
「何言ってんだよ。俺は横島忠夫。それ以上でもそれ以下でもないさ」
「だって、霊力がえらく増してる気がするのねー。それに魂がなんていうか……変」


 もっと違う言い方もあっただろうが、今まで見たことのないタイプの魂にどういう形容をしていいかわからなかったヒャクメは率直な感想で済ませた。


「うーんどう見ても横島さんだけど、何か引っ掛かるのねー」


 そう言えば未来から来た横島はこう言っていた。「魂の融合は絶対のタブーだよ〜ん」と。ここでばれる訳にはいかない横島は話を変えるべく何故ここにヒャクメがいるのか聞いた。


「そうそう!大変なことが起こったのねー!実は……


 アシュタロスを倒すぞー! → あっけなく撃沈 → そして自分は捕虜(ペット)に


と言う訳なのねー」
「わかりやすいな」



 ウィィンと機会音を鳴らしドアを開けて誰かが入ってきた。二人は一旦話をやめて誰が来たか確認してみた。そこには小柄な女の子の魔族、パピリオがちょっとスパイシーな香りを放つ骨付き肉を持って立っていた。目が合うとにっこり笑いこちらに近づいてくる。ヒャクメは横島とは無関係を装う為か、奥の暗がりで寝たフリをしている。


「ポチ!ほーらほら腐った肉でちゅよー」
「わ、わーい嬉しい……訳ねえだろ!」
「食べないと殺すでちゅよ」
「美味しく頂かせてもらいます」


 「残さず食べるでちゅよ。お残しは死刑でちゅ」と言い残しパピリオはさっさと部屋を出た。横島は口に含んだ酸っぱい肉を吐き出し、ヒャクメを呼ぶと、幾分警戒しながらものそのそと近づいてきた。辺りをうかがい誰も監視している者がいないとわかるとため息を一つ吐き出し、話の続きを話し始めた。
 この移動要塞兵鬼、逆天号は凄まじい火力を持ち、このままでは小竜姫は妙神山ごと消滅してしまう。このことを小竜姫に伝え避難させなければいけない。つまるところここから脱出しなくてはならないということだった。


「ドアの脇に開閉スイッチがあります。早く脱出しましょう」


 わけなく牢屋から脱出した横島たちは出口を捜そうとしたのだが、突然爆発と共に壁が吹っ飛んだ。吹き飛んだ壁からは遠く下に地面が見えた。一瞬敵かと思ったが、よくよく考えたらここは敵の基地なんだから味方だろうと考え、誰か助けにきてくれたのかと期待したのも束の間。ヒャクメが穴の開いた壁から落ちていくのが見えた……。空を飛ぶ力すらないのか、力無く落ちてゆくその姿は哀れだった。そして下方にあるのは紛れも無く妙神山。先程の攻撃は妙神山からであった。


「ヒャクメが妙神山に落ちたってことは……あとはヒャクメに任せて俺はトンズラってことだな」


 小竜姫への伝言はヒャクメに任せて、さっさと安全な経路で脱出しようとした横島であったが、悲しいかな。妙神山からの砲撃は壁に穴を開けただけではなく、ケルベロスの檻と横島の天国への扉も開けてしまった。


「グオオオオ!」
「み、未来の俺はどうやって切り抜けたんだろう……のわっ!」


 ケルベロスの攻撃をなんとか避けて、駄目元で反撃しようとしたが、煙の中からあの三人の魔族が顔を出した。
 一人は怒っていて、一人は呆れていて、一人は申し訳なさそうに肩をすくめていた。


「っのクソ犬が!霊波エンジンのシリンダーを壊しやがって!パピリオ、あんた三日間メシ抜きだよ!」
「えーん怒っちゃ嫌でちゅべスパちゃん。シワが増えるでちゅよ〜」
「五日間に延長」
(気にしてたんでちゅか……)


 ケルベロスをいとも簡単に倒したベスパに、改めて横島はこの三人の魔族のでたらめな強さに驚嘆する。本能が「逆らえば死ぬ」と告げていた。もはやこの天国に一番近い場所で生き延びるにはプライドを捨てるしかない。横島の丁稚人生第二章の始まりであった。















「ポチ。これ着てみるでちゅ。きっと似合うでちゅよー」


 悪趣味としかいいようのない服を持ってきてもそれを着るしかない。


「ポチ。ハチミツと流水、それと菜の花とプルトニウム用意しといて。五秒以内に」


 無理な願いもハイハイ聞いた。というかプルトニウムがどれだけ人間に有害か少しは考えてくれ。


「ポチ!肩(揉め)」


 手首の感覚が無くなるまで肩を揉み続けたこともある。


「ポチ。居住区の掃除頼むぞ。二十二部屋全てチリ一つ残さずな」


 こいつだけは我慢ならん。何故なら美少女でないから。











「よーし洗濯終わりっ」
「ぽーぽー(おつかれ)」
「うう、お前らだけだよ。俺をいたわってくれるのは」


 パピリオに肩幅の広い、まるでサ○ヤ人の親戚のような格好をにさせられた横島は、それでも文句一つ出さず今日の最後の仕事「洗濯」をやり終えた。
 たまに通神鬼を通して美神や今回の作戦の指揮を取っている、美神美智絵の声を聞いたりする以外、外界との接触はない横島。このままでは骨の隋まで魔族に染まってしまうと最初は危惧していたのだが、最近は仕事も馴れてきて完璧に敵に取り入っている。かといっていつスパイなのがバレないかとハラハラドキドキの毎日なのは変わらない。


「いつになったら帰れるんだよ……」


 移動要塞「逆点号」の甲板から見える夕日に向かって一人愚痴ってみた。横島の声は夕日に吸い込まれた。こんな状況でも太陽は昇り、夕日になり、沈み星が輝く。例え横島が死のうと世界は回る。そんなことを考えたら無性に悲しくなったのだが、背中の気配に体は一気に強張った。


「やっぱり帰りたいの?」
「ル、ルシオラっ……様」


 あの病院で綺麗に自分をKOした張本人、ルシオラがいつの間にか甲板に出て横島の背後にいた。横島が動揺していることなど露知らずルシオラは「綺麗」と呑気に夕日を魅入っていた。


「あ、あのぅ……さっきのはホームシックの類でして決してあなた方を裏切ろうなんて……」
「黙って夕日を見なさい」


 決して回らない口をなんとか回し言い訳しようとした横島は、相変わらず夕日に目が釘付けのルシオラに違う意味の釘を刺された。その時初めてルシオラを間近に見た横島は、夕日に赤く照らされた彼女の横顔を見て、綺麗だな、と素直に思った。


「あ……」


 思わず見とれていたらしく、急に振り向いたルシオラとばっちり目があってしまった。女の子とこういう雰囲気でこういう目線を合わすことは無かった横島。それはもう慌てたとか。


「名前、なんていうの?ポチじゃ変じゃない」


 今ごろ気付いたんかーい!とは顔に出さず、「横島忠夫です」と丁寧に、ついでにいつもの営業スマイルを浮かべて答えた。
 ルシオラはその作り笑いが気に食わなかったのか、またぷいと顔を夕日に向けて、ぽつぽつと語り出した。
 ルシオラは自分達が一年しか生きられないことや、パピリオが横島に覚えてもらいたいから、不器用なくせに横島の服を作ったこと。ついでに服のセンスも言われた。それと、おそらく一番言いたいことであり、今ルシオラがこの場所にいる理由も言った。




「夕日って綺麗よね。昼と夜の一瞬の隙間、少ししか見られないから余計に綺麗に感じるんだわ。私たちみたいだもの」


 私たちみたいだもの、と言った時ほんの少しだけ、ルシオラが悲しそうな目をした気がした。しかしそれを確かめるにも、既にルシオラはいつもの表情に戻っていた。
 助けたいと思った。悪と正義が存在するとしたら、この少女が悪とは到底思えない。だが自分たちが悪だとも思えない。なぜ敵なのだろうか。正義とは何なのだろうか。


「ヨコシマ」


 初めて名前を言われたそのとき、胸に形容できない想いが膨れ上がった。その想いはとても愛しく、切なく。


「私たちのこと、忘れないで欲しい」


 大切な気持ちであった。


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