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金の卵と金の腕

夢と超能力の国・後編


投稿者名:黒土
投稿日時:05/10/29

 ここ『関東ディズィーランド』の中央にあるもの、
それは巨大な夢のお城、『ツンデレラ城』であった。

「・・・何で和風やねん。」

葵が思わず突っ込みを入れるのも無理はない。
なぜならこのお城、江戸城をモチーフとしているため和風なのだ。

「よくもまあ日本の城でおシャレな夢の国とか言えるなあ。」
「シャレのきつい悪夢の国って意味かもしれないわよ?」

「あんた達、自分の置かれてる状況分かってんのかい?」

女首領の言葉に、葵と紫穂は口を閉じる。

「まだあきらめてないって目をしてるね・・・
 まあいいさ、どうせそのうち何も分からなくなるんだからね。」

ツンデレラ城前広場にて薫と並んで立つ女首領。
それに対峙するように、『普通の人々』の部隊が展開する。

「さて、お嬢ちゃん、邪魔なゴミを片付けておくれ。」

女首領が『普通の人々』を指差すと、
それに合わせて薫はフラフラと数歩前に歩み出る。

「う・・・う・・・」

ヘッドギアに精神を蝕まれているためか、はたまた無理にサイコキネシスを振り絞ったためか、
薫の息遣いは荒く、ゴーグル越しにも顔色の悪いのがうかがえる。

「う・・・あ・・・あ・・・!」

ふいに薫の体が宙に浮かび上がる。

「ああああ!」

凄まじい叫び声、『マインドジャグラー』と激しく格闘する薫の叫び。
その強烈なエネルギーは留まるところを知らない。

「あ、あかん、暴走しかけとる!」

『マインドジャグラー』と薫の精神力がぶつかり合う、そのエネルギーの余波で
ベンチ・ゴミ箱・植え込み、周囲にあるものが湾曲していく。

「な・・・なんて事・・・」

身の危険を感じた女首領が薫を置いて避難する。
だが、薫のサイコキネシスはさらに力を増していった。

「おおおおお!」

次の瞬間、薫の周囲にあったものは跡形もなく消し飛んだ。
それでもなお飛散するエネルギーが、稲妻の如く辺り一面を打ち据えていく。
さらには薫自身の体にも相当な負担がかかっているようで、
息遣いはさらに荒くなり、10歳児の体が悲鳴を上げはじめていた。

「薫!」
「薫ちゃん!」

葵と紫穂の声も、もはや薫には届いていなかった。
それどころか、自分に呼びかける2人に向けてゆっくりと手を突き出す。

「・・・薫・・・!?」

敵意でも悪意でもない、ただ必死に何かに抗おうとする薫。
だが、その力は今にも親友に向けられようとしていた。


ズガァーン!


突如鳴り響く銃声。
ヘッドギアに強い衝撃を受け、一瞬薫のバランスが崩れる。

「薫!」

そこには狙撃用ライフルを構える皆本の姿があった。
皆本は続けざまにもう一発、ヘッドギアめがけて発砲する。

「皆・・・本。」

2発の銃弾によって、薫の装着していたヘッドギアが砕ける。
それと同時に薫はドッと地面に倒れこんだ。

「しっかりしろ、薫!」

大急ぎで駆け寄り、薫を抱きかかえる皆本。
意識こそないものの、薫の脈拍と息遣いはしっかりしていた。

「・・・な、何だかわからんが、今が好機!
 エスパーどもを皆殺しにしろ!」

体勢を立て直し、『普通の人々』が銃口を向ける。
だが、次に聞こえてきたのは銃声ではなく、聞き覚えのある野太い声であった。

「そこまでだ!全員動くな!」

スピーカーからバベル局長・桐壺の野太い声が響く。
彼と『普通の人々』のまわりには、ものすごい数の警官隊がひしめいていたのだった。

「テロリストどもめ・・・可愛い子供たちをいじめた罪、
 身をもって思い知らせてくれるわ!」

局長の叫び声と同時に警官隊が突撃、あっという間に『普通の人々』を押さえ込む。
先ほどの薫のサイコキネシスによって疲弊していた『普通の人々』は、
そのあまりの戦力差に成す術も無く取り押さえられていった。

「遅れてすまなかったな、みんな。」

薫を抱きかかえる皆本の元に、葵と紫穂も駆け寄る。

「『酸泥コーポレーション』の口をようやく割らせる事が出来た、
 この事件自体がテロリストと結託して仕組まれたものだったんだ。
 奴らは大金を得るために、裏でエスパーを対象とした非人道的な兵器を開発していた、というわけさ。」

壊れたヘッドギアを見る皆本。

「さらに、同社の内部に『普通の人々』の内通者がいる可能性があってね。
 私設部隊のボスもエスパーだって言うから、奴らの襲撃に備えていたんだ。」

「皆本はん・・・」
「皆本さん・・・」

潤んだ瞳で葵と紫穂が皆本に寄り添う。

「そーいうことはもっと早く言わんかい!」
「薫ちゃんに何かあったらどうするつもりだったのかしら?」

「あんぎゃあぁぁ!」

2人に関節を極められる皆本。

「しっかし、いきなり銃撃やなんて無茶しおるなあ。」

エスパー錠を外しつつ、崩れ落ちる皆本に葵が言う。

「ああ、研究開発部が『マインドジャグラー』の存在を吐いた時に
 強度を含む全データを貰ったんだよ。あとは夢中だったから・・・」

「それより、誰か忘れてない?」

紫穂の言葉に、一瞬考える皆本。

「ああ、マイダスなら君達とはぐれた後は『普通の人々』のほうを当たって・・・」

「・・・ちゃうで、あのいけ好かんオバハンのほうや。」

葵と紫穂の表情が変わる。

「薫ちゃんは今動けないけど、その分たっぷりお返ししてあげないとね。」


 女首領の逃げた方へ向かう、葵・紫穂・皆本の3人。

「渡されたデータによると、奴らまだ携帯型ECMを持っているはずだ。」
「携帯型ECM?」

葵の問いかけに皆本が続ける。

「携帯電話サイズのECM、『酸泥コーポレーション』の試作品。
 出力こそ微弱だが、装着した人間に対するESP攻撃を87%カットする装置、だそうだ。
 一応の使用に耐えうるものが2つあったらしい。」
「残っている兵士は2人。
 あの女首領と、その兵士のどちらかが持っていると考えるべきね。」

ふいに3人の視界が開ける。
そこは『ツンデレラ城』を挟んで、先ほどの広場の裏側にある大噴水であった。
そしてその大噴水の前に、あの女首領が待ち構えている。

「アタシもずいぶんヘマをしたもんだね・・・でもまだ諦めないよ。
 さあ、黒コゲになりたくなかったらとっとと消えな!」

右手をかざしつつ脅しをかける女首領。
それと同時に皆本達の近くにあったゴミ箱が激しく燃え上がる。

「無駄だ、お前の手の内はとっくに分かっている。」

全く動じる様子の無い皆本。

「お前たちの雇い主がすべて吐いたぞ。
 そのギアがただのガラクタだってことも、お前が超度2の発火能力者だってこともな!」

「チッ・・・!」

皆本の言葉を聞き、女首領はヘッドギアを外して投げ捨てる。
露になったその瞳には、あからさまな憎悪がみなぎっていた。

「まあ、超度2の発火能力でも、要は使い方しだいだがね。」

横から割ってはいる声。
今までどこに行っていたのか、いつの間にやらマイダスが合流していた。

「着ぐるみの頭や缶、通路の床から油と火薬が検出された、そこのゴミ箱も同じだろう。
 マジックの種にしてはちょっと陳腐だったね。」

マイダスの話が終ろうとしたその時、突然茂みから1人の兵士が飛び出した。

「甘いわ!」

その場にいた誰よりも早く、葵がESPを発動する。
兵士がトリガーを引こうとした時には、すでにその手から銃が消えていた。

「もう一丁!」

今度は兵士自身が消える。

「奥義!寸止めフリーフォール!」

はるか上空から地面に向けてまっ逆さまに落ちる兵士。
もちろん、地上スレスレで止めるのだが、すでに彼は失神している。

(こいつはECMを持ってない・・・?)

「くそぉ・・・何から何まで・・・!」

兵士が取り押さえられると同時に女首領が走り出す。

「オバハン、ちょっと待たんかい!」

葵が女首領に向けてテレポーテーションを発動しようとするが不発に終る。

「やはり1つはあいつ自身が持っていたか!」

大噴水の中を逃げる女首領に向けて銃を構える皆本、
そこにマイダスが割ってはいる。

「ちょうどいい機会だ、さっきの講釈の続きといこう。」

そう言うとマイダスはその場にかがんだ。

「私の能力は元素レベルでの強制的な変換、とまでは言ったな。
 ・・・それゆえに、対象となる物質が固体でなくとも関係ない。」

水面に手をつき、気合を込めるマイダス。

「つまり、それが液体であっても!」

その瞬間、大噴水に湛えられる全ての水が金に変わり、女首領の体を拘束する。

「な、何い!」

水に浸かっていた脚を固められ、動きを封じ込められる女首領。
すると、すかさず女首領は右腕を真っ直ぐ振り上げる。


ズガーン!


女首領の合図とともに、どこからとも無く銃弾が撃ち込まれ、
マイダスの顔をかすめる。

「あ、あそこ!」

紫穂の示す先、それは『ツンデレラ城』の上層階、その窓からこちらに向けてスコープの光が反射している。
携帯型ECMを持っているためか、テレポーテーションで引き寄せることができない。

「よろしい、ではレッスン2といこう。」

純金へと変わった水面に手を当てたまま、マイダスが再び口を開く。

「私の力が超度6と言われる理由、
 それは元素の強制変換・変換速度・効果範囲にある。」

マイダスはさっきよりも強く手に力を込める。

「むぅん!」

掛け声をひとつ。
すると、何ということか、『ツンデレラ城』の城壁がじわじわと金へと変わっていく。
侵食はさらに進み、ついに『ツンデレラ城』は光り輝く黄金の城へと姿を変えた。

「乗用車くらいまでの大きさなら0,1秒とかからず金になる。
 少々出力を上げれば、水などの流動体も可能。
 最大出力での範囲は街一区画!・・・理論上はな。」

「うわ〜・・・悪趣味な城になってもうたなあ・・・」
「今度こそ『シャレのきつい悪夢のお城』ね。」

呆れる葵と紫穂。
だが女首領は馬鹿にした笑い声を上げる。

「ハン、お城を金に変えて、それが何だっていうのさ。」

ゆっくりと立ち上がるマイダス。

「純金というのは密度が高く、非常に重い金属だ。
 そのくせ硬度は2,5、人間の爪くらいの硬さだな。
 そんなものでお城なんか建てた日には・・・」

一斉にお城の方を見る一同。
皆の予感どおり、『ツンデレラ城』はみるみる傾いてゆく。

「そこの兵士!助かりたければ武器とECMを捨てろ!」

城に向かって疾走するマイダス、その声を聞き慌ててECMを捨てる兵士。
もちろん、救出する代わりに寸止めフリーフォールの刑を受けて気絶する運命にあった。
『ツンデレラ城』はすぐさま元に戻したため、少し傾いてはいるものの崩れる事は無い。

「・・・これはまた今度、あのサイコキノのお嬢さんにでも手伝ってもらうか・・・」

マイダスのつぶやきをよそに、葵たちは女首領の方を睨む。

「さて、どうなるかわかっとるやろな?」
「今度はは私たちの番ね。」

動けない女首領にゆっくりと近づいてゆく2人。
だが、女首領の顔は涼やかであった。

「それには及ばないよ。」

女首領は素早く拳銃を取り出し、自らのこめかみに押し当てる。

「!?」

「ふふ・・・もうお終いだよ、アタシの夢も、何もかも。」

葵はテレポーテーションで銃を取り上げようとするが、
携帯型ECMに阻まれてうまく発動できない。

「あんた達の勝ちだ。さよなら、お嬢さんたち・・・」

ズギューン!

乾いた銃声が響く。
しかし、女首領の拳銃から放たれた弾丸は、誰も傷つけることなく上空へと消えた。

「あんた・・・!?」

女首領の腕をつかみ上げる皆本。
彼はあの僅かな時間に滑り込み、彼女の自殺を阻止したのだ。

「お前が何者であろうと、ここで死なせるわけにはいかない。
 おとなしく法の裁きを受けるんだ!」

叱り付けるような皆本の言葉に、心なしか女首領の顔が赤くなる。

「あ、あんた・・・青臭いけど、いい男だね・・・」
「な、何を・・・?」

女首領は皆本の首に腕をまわして抱きつく。

「あんたとならいいよ・・・どこにでも連れて行っておくれ。」

より強く抱きしめる女首領。

「あ、あの、ちょっと!?」

その時、慌てる皆本の視界に入ってきたものは・・・

「皆本はん、フケツや!」

距離をとる葵。

「へー、そうなんだ。」

意味深な表情で棒読みで喋る志保。
そして・・・

「・・・・・」

まさにお約束。
そこにいたのは意識が回復し、憔悴した体を引きずってきた薫。
言うまでも無く、この上ないほど機嫌の悪そうな表情をしている。

「人がせっかく駆けつけて来てやったのに・・・」

「いや、待て!落ち着け!僕は・・・!」

「皆本の・・・バッカヤロォー!!」

小さな体のどこにそんな力が残っていたのか、
溢れる力は地面の金を砕き、皆本と女首領は『ツンデレラ城』に叩きつけられる。

「・・・あ。」

お城を見上げていたマイダスが戦慄する。
薫の強力なサイコキネシスと皆本達の肉弾は、傾いたお城に止めを刺すには十分であった。


 翌日、バベル内部の病室にて。

「何というか・・・まったく、タフだなあ。」

皆本がため息をつく。
『マインドジャグラー』に精神を蝕まれ、その影響を調べるために入院したものの、
翌日にはすっかり回復している薫。
むしろ、崩れたお城から助け出された彼のほうが重傷であった。

「へへ、かなりヤバかったけど、あたしが負けるわけないってね。」

薫の笑顔に微笑み返す皆本。

「見てみ、これ。大きく出とるで〜」

葵の持ってきた新聞には、昨日の事件がトップニュースとして載っている。

「派手にやったものね、お城無くなっちゃったし。」

確かに紫穂の言うとおり、『酸泥コーポレーション』開発局長の逮捕記事や、
あの女首領たちの逮捕記事よりも、『ツンデレラ城』崩壊のニュースが大きく書かれていた。

「『夢のテーマパークのシンボル全壊、責任は誰に!?』だって。」
「・・・さあ?」(あの場合は薫じゃないかな・・・)

そんな事を思ったが最後、あの紫穂が逃すわけもなく。

「『あの場合は薫じゃないかな・・・』って思ってる。」
「・・・皆本ぉ〜!」

重傷の身でありながら壁に埋められる皆本。

「あー、今いいかな?」

その声に薫のサイコキネシスが止まり、皆本が開放される。
病室の入り口には、果物カゴを持つマイダスの姿があった。
もっとも、見た目は果物カゴだが、中身はエロ雑誌とスタミナドリンクである。

「局長さんからこれがいいって言われてね、迷ったけど希望に沿う形で。」

そう言いつつカゴを置くマイダスだが、彼の目には皆本の病室にしか見えなかった。

「さて、来てすぐで悪いが、私は次の依頼があるので失礼するよ。
 またのご利用、お待ちしております・・・」

くるりと向きを変え、ゆっくりと立ち去るマイダス。
だが、微笑む紫穂と目が合うと一瞬固まった後にダッシュで逃げ去った。

「『ゴールデンタッチ』か・・・」

マイダスを見送る皆本がつぶやく。

「バベルの資料を読んでみたけど、元素変換能力?か物質干渉能力?とでも言うのかな。
 あの能力は他に例がなくて、まだ正式名称がないらしい。
 『ゴールデンタッチ』というのは、彼自身が寓話にちなんで呼んでいるもののようだ。
理論上では超度7なら、気体や都市まるごとを金に変えることができる、とあったよ。」

ふと『ツンデレラ城全壊』の記事に目をやる皆本。

(彼のコードネーム・・・
 自らの欲深さのため、愛する娘までも金に変えてしまった呪いの王『マイダス』、か。
 彼は一体、何のために力を振るい続けるのだろう・・・)


 その日の夕方、『ツンデレラ城』倒壊現場にて。

「あのー、こういうのは私の専門外なんですけど・・・」

額に汗して瓦礫を片付けるマイダス、その背中に局長の怒声が突き刺さる。

「コレの責任がウチに来てるんでな。
 あの子達の責任は大人の責任!報酬分はしっかり協力してもらおう!」


お城の跡地で見る夕日は今日も美しい。


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