椎名作品二次創作小説投稿広場


The lost 愛s !!

第二話


投稿者名:由李
投稿日時:05/10/27

 一度事務所に戻った令子達は、西条が持ってきた資料を眺めこれからの作戦を話し合っていた。事件の犯人、『マッドスキャナー』の犯人像、そしてその能力をプロファイルした資料の項目には、こう記してあった。









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【マッドスキャナー(以下MD)についての考察】

能力:主にテレパシーに精通したサイキック能力者。攻撃面に特化している部分から、基本となるテレパシー
能力、「思考を読み取る力」は苦手と思われる。MDが使用できるであろう能力は今のところ催眠、幻覚、そ
してサイキック能力として最も危険とされるテレパシーノックアウトである。

MD:事故現場に落ちている毛髪から白髪であることと、霊圧が低いことがわかっているが、霊圧が低い故に
証拠となるものが極端に少なく、犯人像は未だ闇に包まれている。

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「はあ……随分厄介な相手ね」

 資料を机の上に放り投げ、ため息交じりに吐き出した不満は皆の視線を令子に集めることとなった。事務所に集まった令子、横島、おキヌ、シロ、タマモ、西条のうちこの資料に書いてあることが完全に読み取れるのは、オカルトGメンの西条と、若いながらも経験のある令子だけだった。
期待するような視線が令子に集まり、仕方ないとばかりに令子はさっさと資料の説明とこれからの作戦を話し始めた。

「いい?テレパシーを使う奴(タイガーのこと)なら横島クンとおキヌちゃんは前にも相手したことあるわよね。あの時は幻覚だと見破れたけれど、今度の相手は同じ能力者でもレベルが違うわよ。もしも催眠と幻覚を同時に使われたら成す術はないわ。しかも霊圧が低いということは一般人と見分けがつかないってことよ。まあ白髪頭みつけたら片っ端からぶん殴ればいいんだけど。はいシロ!」

 尻尾を揺らしながら元気よく手を挙げる少女に、令子は質問を促した。シロと呼ばれた少女は好奇心満々な顔でテレパシーノックアウトについて質問した。

「聞かれると思ってたわ。テレパシーノックアウトっていうのはね、本来自分の思考を送信したり、相手の思考を受信したりするテレパシー能力の送信のほうの技よ。簡単に言えば自分の感情をテレパシーに乗せて送信して、相手を思考支配する恐ろしい技。唐巣先生やピートはこの技にやられたみたい。旧ソ連では軍事用に研究されていて、ウルフ・メシングのような能力者がいたけど日本にもいるなんて驚きだわ。それも天然の。もう質問は無いわね?じゃあ作戦を説明するから、皆こっちきて」

 令子の作戦とは以前の通り魔妖刀事件と同じく、まずシロとタマモが現場である教会にいって犯人の匂いを追跡。シロは横島と、タマモはおキヌとそれぞれペアとなって捜査をする。教会からのびる匂いは必ず2つある。それはマッドスキャナーが教会に行く時と、教会から出た後の匂い。どちらかが正解。つまりどちらかのペアがマッドスキャナーと遭遇することとなる。

「そこでこいつの登場よ。はいコレ」

 横島とおキヌは大体それが何かわかったが、シロとタマモは令子が手渡したものを手にとったり嗅いだりして、頭に???マークを浮かべていた。説明すると服に内臓できる通信機で、コードレスイヤホンを耳につければ常に声が聞こえるし、襟元に内臓されたマイクから周囲の状況がわかるようになっている優れものだ。

「これをつけて追跡してもらうわ。私と西条さんは事務所に待機して指示を出すから、その指示に従ってね。それとマッドスキャナーらしき人物を見かけても絶対に深追いしちゃ駄目よ。何か質問はある?ないなら匂いが消えない内に捜査を始めるけど」
「美神さん……1つだけ、聞かせてください」

 神妙な面持ちで真っ直ぐ目をのぞいてきた横島に、顔を引き締め直した令子は「何?」とだけ聞き返した。今回の相手はとても厄介だ。令子はそう直感していた。きっと横島もそれがわかっているのだろう。握り締めた拳が、痛々しい。

「なんで……なんで西条のヤローと2人っきりなんすか!間違いがあったらどうするんすかー!」
「お前はさっさと洗脳されろ!」
「ぶほっ!」





「じゃあ行ってくるでござる」
「はーい気をつけてねー」

 通信機を装着した追跡班は、ハートブレイクショットで気絶した横島をひきずりながら事務所を後にした。令子と同じ場所で捜査できるのが嬉しいのか、後ろで西条が小さくガッツポーズをしていた。















〔よお、調子はどうだ?〕

 森林公園の中を当ても無く歩いていた少年は、不意に聞こえてきた声に歩みを止めた。その声は耳の鼓膜を振動させたものではないので、声とは言えないかもしれない。だが自分にとっては声だ。世界でたったひとりの友達。自分以外の人間には声すら聞こえないが、自分にとっては親友。少年はそう信じて疑わなかった。
 後ろを振り返る。振り向くとそいつはニヤニヤ笑っていた。少年も笑い返した。

「いいよ。すごくいい」
〔ケケケ。そりゃそうだ。喰った後だからなあ〕
「……ほんとにこれで、いいのかな」
〔何が?〕
「これって犯罪、だよね」




 犯罪、のところで白髪の少年は息を詰めた。自分は犯罪者だ。何人もの人間を病院送りにした。もしかしたら死人も出ているかもしれない。出ていなくとも、自分は既に人を1人確実に殺している。
 あの夜。自分の能力が暴走し人を殺した。実の母親だったが、そのことについて大した想いもなかった。ただ無性に焦る気持ちを抑える為、夜の闇を徘徊した。少年は近くの公園に辿りついた。足取りは軽かった。というより、地面が自分の体重を押し返しているとは思えないような、まるで宙に浮いているかのような感覚だった。人気のない公園に、そいつはいた。自分と同じ白髪で、自分と同じくらいの背丈、同じくらいの年齢。ただ1つだけ違うのは、そいつには眼球が無かった。名前を「ザイコ」と言った。「僕と似ているね」と少年が言うと、音もなくザイコは近づいてきて、少年にこういった。

――幸せになれる方法を、教えてやろう

 ザイコは言った。「幸せ」とは、犠牲の上に成り立つものだと。犠牲とは他者の「幸せ」が踏みにじられることだと。お前は「不幸せ」だ。だからお前は戦わなくてはならないと。世界中の人間を殺せば、白は白ではなくなる。お前が黒だと言えば黒になる。自由だ。翼だ。壊せ。壊せ。「幸せ」を全て壊せ。お前が作るんだ。お前だけの「幸せ」を。戦え。お前には力がある。何をすればいいか俺が全て教えてやる。俺の言うとおりすれば、お前は人並み以上の「幸せ」を手に入れることができる。そのためには壊せ。壊せ。壊せ。
 その夜から少年は「ひとり」ではなくなった。




 思い出の世界からはっと我に帰り辺りを見回すが、いつの間にかザイコは消えていた。ザイコは答えられない質問をするといつも風のように消える。しかし何を質問したか、少年はいつも忘れていた。
 立ち止まったまま少年は歩こうとせず、教会の祭壇の上に置いてあった聖書を開いた。何故聖書なんかを持ってきたのか少年自身わからなかった。ザイコの指示でもなかった。適当に開いたページにはこんな記述があった。




<ふたりはひとりにまさる。彼らはその苦労によっていい報いを得るからである。すなわち彼らが倒れるとき、そのひとりがその友を助け起こす。しかしひとりであって、その倒れるとき。これを助け起こすもののない者はわざわいである。またふたりが一緒に寝れば暖かである。ひとりだけで、どうして暖かになり得ようか>




 偶然開いたそのページをしげしげと眺め、ページの端を折りいつでも開けるようにした後、また当ても無く少年は歩き出した。その顔は笑っているようにも、泣いているようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。















「な、なんだこりゃ?」

 教会に入った横島は中のありさまに素っ頓狂な声をあげた。教会は外からはわからないが、中に入るとその凄惨さに息を呑むほどだった。
 机は破壊され、祭壇は跡形も無く、十字架は交差している部分から下が崩れ落ちていた。現場にいた警官は横島たちに気付くと、敬礼と共に事件のあらましを伝えた。それによるとこれをやったのは唐巣神父とピートたちらしい。マッドスキャナーに操られた結果であろう。

「確かに、ちょっと親父臭い霊波と」
「半魔の霊波がするでござるな」

 シロとタマモは四つんばいになりくんくんと鼻を鳴らし残った霊波を探っていた。その姿は一般人が見たらちょっとアレだが、幸い周りにいるのは横島とおキヌ、数人のオカルトGメンであるので全く問題は無い。

「すごいな……見鬼くんは何も反応してないのに」
「こいつらは特別っすからねー」

 シロとタマモの霊波探知能力に感嘆の声をあげるオカルトGメン。その視線がだんだんと四つんばいになってめくれてきているスカートにのびていったので、横島はそいつをとりあえず殴って気絶させておいた。10分後、懸命な捜査により2人とも匂いを見つけたらしい。ちょうど2人が1つずつ見つけたので別れて追跡できる。
 追跡を始めれるとわかるよシロはタマモを向いて自信満々にこう言い放った。

「またアレをやるでござるよ!」

 アレ、とはやはり前回の捜査協力の時にしていた賭けだろうと推測できた。

「先に犯人を見つけたほうの言うことをなんでも聞くってアレ?」

 例によってタマモに対抗意識を見せるシロだが、タマモはあまり乗り気ではなかった。タマモの直感がこういっていた。『コノ匂イ 追エバ 死ヌ』。一瞬自分の「死」がリアルに頭を駆け巡り、寒気が襲った。自らを抱きかかえるようにして身を小さくしたタマモは、シロに一言だけ告げた後おキヌと共に匂いを追って教会を出た。


「おいシロ。俺達も行くぞ」
「え、あ、はいっ先生!」







――死ぬなよ、バカ犬……







「お前もなバカ狐……」


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