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あの素晴らしい日々をもう一度

第四話


投稿者名:堂旬
投稿日時:05/10/10

「いやぁ〜、股間に血が集まる予定が頭に血が集まることになってしまったとは奇怪な話だ。そろそろクラクラしてきましたよ? どうしてでしょうね武田君」

「それはね、横島君。僕たちは今ロープでぐるぐる巻きにされて逆さにされた状態で吊らされているからさ。そりゃ重力にしたがって血は頭に下がってくるっちゅう話ですよ」

「困ったね、武田君。どうして僕たちはこういう状況に陥ってしまったのかな?」

「それはね、横島君」

 ロープで体を隙間無く縛られた上に、逆さ吊りにされて蓑虫のような格好でぷらぷらと揺れながら、お互いの状況を確認する横島と武田君。
 そんな二人の様子に愛子は声を張り上げた。

「アンタラが皆の信用を裏切ったからでしょッ!! 猛省しなさい!!」

 そう、まあ、つまり、ばれたのだ。女子の着替えを覗いていたことが。
 あれほど完璧に気配を消し、忍者顔負けに空気と同調していた二人。そんな二人ともあろうものがどうして覗きを悟られてしまったのか。
 それには以下のようなやり取りがあってたりする。



 前回のジャンケン対決において、数十回のあいこの末、先に肩車の上になって教室を覗く権利を得たのは武田君のほうだった。
 女子が体操服に着替える理由が横島の霊力アップであることを考えれば、横島が先に覗くのが筋というものだがそれはそれ。横島もその理屈を持ち出さなかったあたり、漢である。漢字の漢と書いておとこである。

(では横島君、申し訳ないがしゃがんでもらおうか)

(くッ……なるべく早く変わってくれよ、武田君)

 横島がしゃがみこむと、その肩に武田君がまたがる。
 横島は窓の縁を掴むと気合を入れて立ち上がった。

(よいしょおッ!!)

 横島が立ち上がったことで武田君の頭が天井近くまで上がる。だが、カーテンの隙間に届くには少々高さが足りなかった。

(横島君、すまない。肩に立たせてもらうよ)

 横島が頷くのを確認すると、武田君は上履きを脱ぎ、横島の肩に足を置いて立ち上がった。バランスをとる為に廊下と教室を隔てる窓枠に手をかける。武田君が脱いだ上履きは横島が見事に音も無くキャッチした。
 直立する横島の肩にさらに立つことで、武田君の頭は天井すれすれの位置まで上がった。カーテンの隙間には十分届く高さである。

「では、失礼して………」

 武田君はそう言いながら窓にかかるカーテンの隙間に顔を寄せた。そしてぐぐっ…と教室の中を覗き込む。
 そこに広がっていたのは―――――まさしく桃色パラダイスだった。

(う、うおおおおおおぉぉぉぉ!?)

 そう、まさにタイミングドンピシャだったのである。
 すでに体操服に着替えていたのはほんの2,3人。残りの者はちょうど制服を脱ぎ始めたところという者が大多数だった。
 白だの、水色だの、縞々だの、むむ、黒いものまでおるではないか。けしからん。シンプルなものもあれば、まるで職人が三ヶ月かけて作ったかのような豪奢なものまである
 そんな中で愛子の姿が武田君の目には一際輝いて見えた。

「ふ、ふおうッ!!」

(馬鹿野郎!! 声をだすんじゃないよ!!)

 思わず声を上げてしまった武田君を横島はテレパシーで叱り付ける。だが、武田君は愛子から目を離すことが出来なかった。
 愛子は、下着姿だった。
 他の子たちのように、ブルマーをはいてからスカートを下ろすだの、体操服を着てからセーラー服を脱ぎ始めるだのの姑息な手を使わず、その神々しいまでの白いブラを、純白のショーツを惜しげもなくさらけ出していた。
 武田君がごそごそとズボンのポケットをまさぐりだしたのを横島はおいおいこの野郎と見咎める。まさか自分の真上でナニをポロリと出されちゃかなわない。
 武田君のポケットから何やら黒光りするモノが取り出された。
 思わず横島はお前なにしとんじゃと怒鳴りそうになったのをぐっと堪えた。そしてその黒光りするものの正体に気付いて目を大きく見開く。
 武田君のポケットから取り出されたのは―――――デジカメだった。

(うおおおおおおおおおおお!? た、たけだくぅ〜ん!?)

 横島の驚きも意に介さず、武田君はカメラの照準を教室内に向ける。だが横島はそんな武田君に慌てた様子で問いかけた。

(き、キミはなぜそんなものをッ!?)

(ふ、横島君。僕はこの世界に引き込まれる時、たまたまこのカメラを持っていたのさ)

(武田君、キミってやつはッ!!)

 横島の声が荒くなる。やはりそこまでやるとシャレにならないし、なにより中の女の子に対してひどすぎる。そういった思いからの叫びだろうか。
 どうやら横島にも騎士道精神というものがわずかながらも備わっているらしい。

(キミってやつあ……神様じゃないのかい!? 僕にも撮ったやつくださは〜い!!)

 どうやら横島には騎士道精神など欠片もないらしい。まあわかってはいたけれども。
 武田君を見上げながらぐっ!と親指を突き出す横島に、武田君もまたぐっ!と親指を突き出して答えた。
 武田君が再びカメラを教室内に向ける。そのファインダーに収められているのは…狙われているのは、当然、愛子だ。
 武田君ははぁはぁと息を荒くしながら、それでも一切被写体をぶらすことなくシャッターを切った。
 パシャッ!という音と共に、教室の中が眩い光に照らされる。

 光に照らされる?

「た、たけだぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!! お前なにフラッシュ焚いとんじゃあーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「う、うわあーーーーーーーーーー!!!!!!! す、すまなんだあーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

「横島ああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!」

 物凄い形相で教室から飛び出してくる愛子。慌てた拍子にもつれあい、もみくちゃになっていた横島たちに、逃れる術はなかったのでした。

 チャンチャン♪









あの素晴らしい日々をもう一度

  第四話 妖怪学校大探検!! 〜〜おお、友よ〜〜    後編







 というわけで話は冒頭に戻るのである。
 結局横島は一切着替えを覗くことは出来ず、むしろ今の状況に煩悩は低下、女子はおそらく今後一切協力してはくれないだろうと、状況は最悪に陥っていた。
 ちなみに逆さ吊りにされた二人の横には、柏木君、高松君を始めとする残りの男子全員が正座させられていた。理由は横島、及び武田君の奇行を抑えられなかったからである。かわいそうに。
 さすがに横島も武田君もこれには悪いことをしたなと思っていた。

「それでは第11026回HRを始めます。議題はこの二匹のケダモノをどうやって更生させていくかです!!」

 その時教室の前の方では、愛子を議長として、女子たちだけでHRが始められていた。
 教室の後ろのほうに男子が一列に正座し、天井から巨大蓑虫が二匹プラリとぶら下がっている状況で、教室の前では何事も無いようにHRが行われているこの様子は滑稽である。
 そんな中で横島はこれからどうしようかしらと、わりと楽観的に考えていた。

 一方、現実世界。

「まったく、世話が焼けるやつねえ。ま、お金が出るからいーけど」

 学校から連絡を受けた美神は、校長を脅して報酬をしっかり確約させてから、横島の教室に訪れていた。
 担任や現場を目撃した生徒の話では、古い机が横島を飲みこんだという。
 だが美神が教室に入った時、そんな古い机は見当たらなかった。

「机が無くなってる! 確かにここにあったのに!!」

 生徒の中の一人が声を上げる。

「ふ〜ん…誰か机が動いたの目撃した人いる?」

 事態が面倒になったことに嘆息しながら、美神は周りの生徒に訊ねる。だが、目撃したというものは現れなかった。

(…とすると、異界空間に逃げた? いや、でも空間を切り裂いて姿を隠すなんて、学校妖怪なんてちゃちい奴らに出来るわけないし。じゃあ一体…木造の机なんて目立つもの、誰にも目撃されずに動けるものかしら? 教室から出ようものなら絶対に誰かに見つかるでしょうし…つまり、教室からは出ていない。まだここに……いる?)

 ふと気配を感じて上を見上げる。
 古き机はそこにいた。机から生えた醜悪な足で、天井に張り付いていた。

「しまったーーーーーーーー!!!!」

 机の引き出しから恐ろしい速さで舌が伸びる。
 その舌に絡めとられると、なす術も無く美神は机に飲み込まれてしまった。

「み、美神さん!?」

 おキヌは美神が飲み込まれるのを呆然と見送っていた。
 教室にシン…と静寂が訪れる。
 おキヌの瞳がウルウルと滲み出した。

「うえ〜〜ん!!!! 今回も出番が少ないよ〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

 涙を滝のように流しながら、自身の不遇をおキヌは嘆いていた。










「なっ!?」

 美神は驚きの声を上げた。それも当然だろう。何しろ教室で机に飲み込まれたと思ったら、また教室に放り出されていたのだから。
 『机に飲み込まれたらそこは不思議の国でした』。どこかで使われていそうなフレーズである。まあ実際は不思議の国どころか妖怪の腹の中なのだが。ある意味不思議の国ではあるが。

「み、美神さんッ!?」

「よ、横島クンッ!?」

 突然現れた美神の姿に横島は驚きの声を上げる。美神もまた驚いていた。別な意味で。

「……何してんのあんた」

「いや、まあ、これには色々と深い事情がありまして……」

 蓑虫状態で逆さ吊りになっている横島に、美神は呆れながらため息をつく。美神はまた何かアホなことをやらかしたんだろうと決め付けた。そしてそれは間違ってはいない。
 瞬間、美神の背筋を怖気が走った。周りを見渡すと、何人もの生徒が尋常じゃない様子でこちらを見つめている。

「先生ッ! 先生ーーーーッ!!」

 愛子を始めとして、皆が美神に駆け寄ってきた。

「な、なんなのこいつらはッ!!」

「ついにこの学校にも先生がーーーーッ!!」

 困惑する美神の前に、愛子が進み出る。

「これで授業ができますわ!! 学級委員長として、クラスを代表して歓迎します!! この学園に幽閉されて以来、私たちはうんぬんかんぬん、しかし学生ばかりではうんぬんかんぬん、私たちは教師が現れることを待ち望んでいたのですっ!!」

 愛子は状況に付いていけていない美神に力説する。ちなみにごちゃごちゃ言ってた部分は省略しました。あしからず。
 それを聞いた美神は―――――やっぱり状況についていけていなかった。

「誰だ!? あのボンッ! キュッ! ボンッ!のイカしたお姉ちゃんは!!」

「俺のバイト先の上司で美神さんっていうんだ。プロのGSだよ」

「な、なに!? とすると横島君、キミはあんな刺激的なカッコをした美人でグラマラスなお姉さんと共通の時間を過ごしているっていうのかい!? しかも金をもらって!? 馬鹿な!! 普通金を払って過ごすようなシチュだぜッ!?」

「………時給255円だぞ。しかもおっそろしくキツイぞ。20キロや30キロの荷物背負わされて山登りさせられるぞ。まあ確かに時々風呂覗けたりパンティーがチラッと見えたりするが……いまんとこ、確実に赤字だな」

「……マジ? そりゃ、キツイね〜………」

「ちなみに武田君、キミはここのキャリアはどのくらいになるんだね?」

「実はまだ三ヶ月前に来たばかりさ。ぺーぺーの新米だよ」

「え? 何年生?」

「二年さ」

「マジかよ武田君!! 俺と同学年(タメ)ってことじゃないかッ!!」

 こっちはこっちで、状況についていこうとすらしていなかった。
 横島たちがこんな会話をしているかたわら、なんやかんやで美神は教師になることを引き受けていた。変に断って連中を刺激するのは避けたほうが吉、との判断の上でのことである。
 美神が教卓の前に立つと、皆慌しく席に着き、姿勢を正す。でも横島と武田君は相変わらずぷらりぷらり。
 美神はごほん、とひとつ咳払いをした。

「わかりました。先生もう覚悟を決めました! しかし! 授業を始める前にひとつだけはっきりさせたいことがあります! 前後の状況から考えてこの空間を作った妖怪はこの中にいるはずです!! 妖怪の人は黙って手をあげなさい!!」

 シーン。静寂が教室に満ちる。誰も手をあげたりはしない。

「……名乗らないわね、先生悲しいわ」

 ちっ、と舌打ちしながら美神は顔を伏せる。
 しかし、その時だった。

「はい、美神さん」

 逆さに吊られたまま、ロープの隙間からなんとか腕を出して横島が手をあげた。といっても逆さなわけだから手を下げたという方が正しいかもしれない。
 美神のこめかみに血管が浮かんだ。どーやらけっこうイライラきてるらしい。

「なによッ!? アンタが妖怪なの!? あ〜ら、だったらいいわね〜〜!! アンタシバけばそれですむんですもの!!」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!! 俺、多分わかります!! 誰が妖怪なのかッ!!」

 横島の言葉に美神だけでなくクラス全体が、えっ?と横島に視線を向ける。例外なのは武田君で、彼はついに長時間の逆さ吊りに耐えられず、泡を吹きながら意識を失っていた。

「……で、誰なの?」

「えっと…多分、アイツっす」

 そう言って横島が指差したのは―――――愛子だった。

「横島君ッ!? やめてよ!! なんの根拠があってそんなこと―――――!!」

 愛子はひどく取り乱しながら声を上げた。しかし横島はあくまで冷静に、いつも通りの口調で言った。

「えっ、だってお前…俺を初めて見たとき、『とんでもないもの引き込んじゃった』とか何とか言ってたじゃん」

 どこかで「チーン♪」と音が鳴った気がした。
 聞こえてたんだね横島君。


 しばらく時が止まっていた教室で、一番先に再起動したのは愛子だった。

「くっ…! ばれてしまっては仕方が無いわね! でもばれたからってなんてことはなくてよ!! この学校自体が私なのだから!! みんながここで学園生活を営み続けたいと思うまで閉じ込めてやるわッ!!」

 愛子は大きく飛び上がると天井に張り付き、次第に同化し始めた。やがて愛子の姿が教室から完全に消える。

「逃げる気!? そうはいくもんですかッ!!」

 そう叫ぶと美神は教室から飛び出した。どうやら愛子を追いかけるつもりのようだ。
 携帯していた神通棍を発動させて、美神は妖気を探りながら廊下を駆け出した。

「ちょ、誰かほどいてーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 横島は必死で体を揺すりながら呆然と成り行きを見守っていた生徒たちに頼み込んでいた。
 武田君はただただ泡を吹いていた。


 愛子は考えていた。
 どうしてこんなことになってしまった?
 私はただみんなと学園生活を楽しみたかっただけだ。
 横島忠夫。
 あいつだ。あいつをここに引き込んだのが最大の間違いだった。
 横島忠夫。あの男は異常だ。あの魂の鮮烈な輝き。あんな人間は見たことが無い。

(そう、横島君が現れたことでみんながここからの脱出を考え出した。みんなの心は私が取り込んでいたはずなのに…! 横島君が何か行動するたびに、みんなの心が正常な働きを取り戻していった…! 武田君なんて、もう完全に私の支配から解き放たれていたわ……! 私の正体もばれた。もうこれじゃ、みんなと一緒に学園生活を続けていくことなんて……!)

 いや、まだだ。まだ、なんとかなるかもしれない。
 横島忠夫と、新たに現れた美神というGSさえいなくなってしまえば。
 その後で、みんなの記憶を少し操作すれば。
 まだ、この学園生活を続けることが出来るかもしれない。
 続けたい。失くしたくない。
 私は―――――誰かと一緒にいたい。


 横島は美神を追いかけて教室を飛び出し、勘で方向を定めて廊下を走っていた。
 階段を駆け下りる。その途中でその階段がどこまでも下に続いていることに気付いた。

「げげッ!?」

 上を見上げるとこれまたどこまでも階段が続いている。
 横島はやっぱり教室でおとなしく待っているべきだったかしらんと、たらりと汗をかいた。

「いや、俺だってもう無能な荷物持ちじゃない! ちょっとは霊能も扱えるようになったんだ!! 素人に毛が生えた程度だけどねッ!!」

 そう言いながら適当なところでまた廊下に出て駆け出す。
 しかししっかりと自分の実力を把握しているところがえらいというか、ちょっと悲しいというか。

「…ッ!? 愛子!?」

 廊下の向こうに愛子が立っていた。愛子はそのまま近くの教室に入っていく。

「おい、待てよ…!!」

 横島は愛子が入っていった教室―――化学準備室と書いてある―――の中へ駆け込んだ。
 様々な実験機材が並ぶ棚の向こうに愛子は窓を背にして立っていた。

「愛子………」

「あなたがこなければ………」

 ガタガタと棚に置かれていたビーカーや、三角フラスコが震え始めた。横島はその様子にごくりと唾を飲む。

「あなたさえいなければみんなうまくいっていたのにッ!!」

 愛子の叫びと同時にポルターガイスト現象が巻き起こった。メスシリンダーも、リトマス紙も、果ては天秤に至るまで(天秤はけっこう重いのさ!)激しく宙を飛び交う。
 横島は自らに迫り来るソレらを、サイキック・ソーサーで叩き落した。

「俺がこなければっておまえが無理やり連れてきたんだろがッ!!」

「私の何が悪いの!? 私はただみんなと一緒に青春を感じたかっただけなのに!!」

「全然人の話きいてねーでやんの!!」

 サイキック・ソーサーは右手の掌を覆うくらいのサイズしかない。横島はそれで迫り来る凶器たちをことごとく叩き落していた。超人的な反射神経である。
 横島の顔が青ざめた。
 横島にいざ向かわんとしている褐色のビン。そこには『硫酸』とラベルが貼ってあった。

「おおおおおおッ!? あ、愛子! 話し合いで解決しよう!! 暴力は何も生まないと僕は思います!! あ、お前委員長だろッ!? 委員長が暴力振るっちゃだめだろ!!」

「うっ……!!」

 痛いところを突かれたのか、横島の言葉に愛子は少しのけぞる。
 そして愛子がふう、とため息をつくと宙をまっていた物たちがその場にどさどさと落ちた。

(た、助かった………)

 『硫酸』とラベルが貼られたビンが落ちるのを確認して横島はほっと胸を撫で下ろす。
 しかしまだ問題は山積みだった。

(……さて、どーしよう?)

 話し合いで解決しようと言ったはいいけれど、妖怪を言いくるめられるほど、自分がボキャブラリ豊かだとは思わない。むしろボキャブラリが貧困なほうだということは、先ほど女子に体操服に着替えるよう説得しようとしたときに発覚している。
 かといってまたさっきのように硫酸だの塩酸だのぶつけられそうになったらたまらない。
 ここは美神がここを発見するまで時間稼ぎをするのが最善だろうと横島は判断した。

「で、なんでお前はこんなことをしたんだよ?」

 とりあえず横島は一番気になっていたことを聞くことにした。

「横島君さえ…あなたさえいなくなれば、またみんな元通りになると思ったから…だから……」

「ああ違う違う。俺が聞いてんのはそもそもなんでみんなを取り込んで学園生活送ろうなんて思ったのか、ってこと」

「それは……」

 愛子は顔を伏せると、やがてぽつりぽつりと語りだした。

「私…長い間使われてた机が変化した妖怪なの。それで私、ずっと学園生活に憧れてて…みんなと一緒に授業を受けてみたかった。みんなと休み時間にわいわい話してみたかった。でも私は妖怪だから…こんな方法しかなかったの。私、どうしても青春っていうものを感じてみたかったのよ……!!」

 涙を流しながら愛子はそう語った。
 横島は愛子が話し終わるまで、黙ってじっと話を聞いていた。

「なるほど……そんな事情があったんだな……うん、じゃあこんなことしちゃうのもしょうがないよな………って言うと思ったかバーーーーーーーーーーーーーーーーーカッ!!!!!!!」

「な、なんですって!? あなたなんかに何がわかるのよッ!!」

 涙を拭いながら愛子は横島を睨みつける。
 再び迫り来た硫酸のビンを横島は優しくソフトにキャッチ&リリースした。

「お前は長い間使われた机が変化した妖怪だってのはわかった!! そんなお前がどんだけ学校ってモンに憧れていたのかもわかった!! そんで学園生活味わいたくて取った方法がコレってなんでやねんッ!! まず学校側に入学させてくださいって頭下げんのが筋やろッ!!!!」

「だってしょうがないじゃないッ!!!! 私は妖怪なんだものッ!!!!!!」

 再び愛子の目から涙が溢れ出した。
 だが横島の言葉は止まらない。

「試したことあんのかッ!! 受け入れてくれるやつらが探せばいるかもしれないだろッ!!」

「そんな人いるはず……!!」

「少なくとも俺はッ!!! たとえ妖怪だろうが可愛い女の子だったら無問題!!!!」

「……!!」

 荒れ狂っていたポルターガイスト現象が再び止んだ。
 愛子は涙を流し、それでも口元に微笑みを浮かべながらその場にへたりこんだ。

「だって……横島君は特殊な人じゃない」

「そんなことはない!! 思春期の男子高校生は九割がこんなもんだ!!!!」

 胸を張って横島はそう言い切る。思春期の男がこんなやつばかりだったら日本は終わっているだろうが、とにかく横島はそう言い切った。
 その時、バタンと音がして準備室の扉が何者かによって開けられた。
 そこに立っていたのは――――――そう、武田 武(たけだたけし)その男だった。

「横島君!! 一体全体こいつぁどーゆーことだいッ!? 目が覚めたら教室に誰もいないじゃないかッ!! びっくりだよッ!!!!」

「た、武田君!! どーやってここへッ!?」

「勘ッ!!!!」

 素敵に無敵に武田君はそう言い切った。
 横島は何かを思いついたのか、にやりと笑った。

「愛子…証拠、見せてやるよ」

「えっ……?」

 横島は直感していた。
 こいつは、俺と同じだと。

「武田君!! とんでもないことが判明した!!! 実は愛子は……キミに恋心を抱いていたらしい!!!!!!!!」

「んなんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!! 愛子ちゃん、なぜもっと早く打ち明けてくれなかったんだいッ!!!!」

 横島は狂喜乱舞しなから愛子に駆け寄ろうとする武田君を押しとどめた。

「しかし武田君!! キミに告げなければならないことがあるッ!!!!」

「何だね横島君!!!!」

「実は愛子は妖怪だったんだッ!!!!!!!!」

「ンなもん関係あるかーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!」

 愛子の正体を知ってなお武田君の勢いは衰えなかった。
 横島は武田君をしっかり押さえたまま、目をパチクリとしている愛子に微笑みかけた。

「………な?」

「うん……!!」

 愛子もまた、涙を拭い、しっかりと―――――微笑んだ。












「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!! 離すんだ横島くぅ〜〜〜ん!!!!!!!!」

「セイッ!!!!」

「おふッ!!!!!!!」

 いつまでも興奮状態から冷めなかった武田君。横島から脊髄に一撃を入れられてグッドナイト。
 目覚めた時にはこの数分間の出来事をすっかり忘れていた。













 そして事件は解決し―――――

「何しにきたのよ私はッ!!!!!!!」

 愛子と生徒たちが熱い青春ドラマを演じている教室の隅っこで美神はすねていた。











 その後愛子はもともと変わり者の多い横島のクラスにあっさりと受け入れられ、これをエピローグとしてこの事件は幕を閉じたのである。





















 その三日後。
 愛子はすっかりクラスの皆と打ち解け、その様子をみて横島は微笑んでいた。
 クラス担任が教室に入ってきた。朝のSHRが始まるらしい。

「今日はSHRの前にちょっと転入生を紹介する。何でも親の都合で福岡から急にこっちに引っ越してきたそうだ。君、入りたまえ」

 担任に呼びかけられ、転入生がその姿を現す。
 横島は思わず立ち上がっていた。

「き、君は………武田君ッ!!!!?」

 教室に入ってきたのは間違いなく愛子の中で共に戦った(?)あの男―――――武田 武(たけだたけし)だった。

「馬鹿野郎……たけしって呼べよ………親友!!」

 そう言って武田君改めたけしがぐっ!と突き出した親指に、横島もまたぐっ!と親指を突き出して答えた。

「なんだ、お前ら知り合いか?」

 そうのんきに漏らす担任をわき目に、愛子は思わず眉間を押さえていた。








 第四話  妖怪学校大探検!! 〜〜おお、友よ〜〜    後編


                                 終わる


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