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魔神少年

第一話 少年のいる風景


投稿者名:蛟
投稿日時:05/10/ 9


魔界。

仰々しい名前が現す通り、自然界じゃありえないような歪な形をした植物とか、一般人なら見ただけで腰を抜かして気絶してしまうような醜悪な獣とか、ちょっと吸い込んだだけで内側から侵食されてやがて緑色の泡になって消えてしまうような猛毒ガスを発生させる奇怪な蟲とか…
そんな普通のやつらから見たらとても住むなんて考えられない、暗くて辛気臭いこんな世界が…

「ただいまー」

結構気に入ってる、俺の故郷だったりする。











テクテクテク

「はぁ、相変わらず考えるのも馬鹿らしくなるくらいだだっ広いなこの城は」

魔界の中心付近に佇む城塞。外見は黒の基調で統一した西洋の城といった趣だが、初めその姿を見る者は、まずその巨大さに度肝を抜かれるだろう。
まず目に留まるのが、天を衝くという言葉を地でいく程の高さ。見上げても、よほど視力の良い者でない限り、その頂すら目視することはかなわないだろう。

テクテクテク

右へ左へ、上へ下へ。
横島の目に映るのは、嫌味な程代わり映えしない柱や扉たち。その一切の遊び心を捨て去ったかのような簡素な造りは、まるで住む者のことを一切考えずに建造されたと推測できる。
そんな、見るものに畏怖さえ覚えさせる荘厳な黒城も、今の少年横島にとっては唯々無駄に広いだけの不親切な建造物に過ぎなかった。

「あれ? こっちじゃねぇや…はぁ、やっぱり素直に地図もらっとくべきだったかな…間に合わねぇんじゃねぇのか、これ?」

横島は後悔していた。
『自分ちで地図が無きゃ迷うなんてかっこ悪い』
などと変な意地を張らず、たまには素直に忠告を聞いておくものだ、と。

「そういやぁ、この城出たのって今回が初めてなんだよな……あっ!」

タッタッタッ

「そうだ、ここだ! ここ真っ直ぐ行って二つ目の柱を……右に!」

思い出したのか、それともなにか目印になるものでも見つけたのか、歩調を速めた横島。

「そんでもって、左側ドアを手前から…5つ目! ここだっ!」

目的地に辿り着いたのか、若干やり遂げた男の顔を見せながら数あるドアの一つの前に佇む。

「ふー、なんとか間に合ったか」

完全に確信したのか、ドアノブを掴もうとしたその手には躊躇など何一つ感じられない。

「よーし、ただいま戻りましたーーー!!」

ガチャッ!!

扉の開いたその向こうには

「…………………………あ」

「…………………………き」

若干成長不足な胸が特徴的な、スレンダーな肢体がありましたとさ。

「きゃーーーーーーーーーーー!!!」

バチーーーーーン!!!!

「ぶべらっ!!」

教訓教訓。思い込みでの行動は控えましょうー。あと、扉を開ける時はノックを忘れずにー。









「だから、悪かったって言ってるだろ」

「………………」

「な? 機嫌直せよ、土産も買ってきたからさ〜」

「………………………」

「な〜、なんか言ってくれよ、ルシオラ〜」

「……は〜、もういいわよ。次からは気をつけてよね、兄さん」

ボブカットの黒髪にバイザーをつけ、黒を基調としたタイツスーツのようなものに身を包んだ女性、ルシオラは人差し指を額に当て、呆れ顔でそう呟いた。その顔は少し紅潮しているように見える。やはり恥ずかしかったのだろうか。

「お、機嫌直ったか? いや〜悪い悪い。なんせこの広さだろ?やっぱり素直に地図持っとくべきだったと反省したよ。うん」

「まったく、へんな意地はるからよ…で、どうだったの?」

「ああ、バッチリ。やっぱりお前の発明はスゲーわ」

「ありがと…じゃあ早速作戦実行?」

「いや、それが一つ問題があってな……これから報告に行くからそん時説明するよ」

横島はルシオラの少し斜め後で、後をつけるようにして歩いていた。ルシオラはこの内部の構造を完璧に把握しているのだろう、その足並みは横島のそれと明らかに違っていた。


しばらく歩を進めていると、ルシオラが一つの扉のノブに手をかけ躊躇無く開く。
そこはこれまでの西洋の城といった趣とはまるで違う、言うならばまるでSF映画に出てくる宇宙船の作戦室のような、または一流IT企業の会議室のような、メカニカルなイメージが漂う部屋だった。どうやらここが横島の本来の目的地だったらしい。

そこには1人の少女が暇をもてあそぶように椅子から放り出した足をぶらぶらさせていた。少女が入ってきた二人を見ると、待ちくたびれたかのように声を上げた。

「遅いでちゅよルシオラちゃん! もうみんな集まってるでちゅ…あ、お帰りでちゅタダ兄!!」

「おお、ただいまパピリオ」

パピリオと呼ばれた少女は、見た目小学生程で言葉遣いも子供っぽいが、外見で十代後半くらいに見えるルシオラとはほとんど年が離れていない姉妹だ。

「ねぇねぇ、おみあげちゃんと買ってきたでちゅか?」

「ああ、ちゃんと買ってきたぞ。でも、人間界のだからって違いあるのか? 同じハチミツだろ?」

「ぜんぜん違いまちゅよ! ここのハチミツもおいしいでちゅけど、人間界のはまた全然違った味で、驚く程あっさりして食べやすいんでちゅよ!」

好物なのだろう、パピリオは興奮気味にハチミツの違いについて解説する。

「わかったわかった。これが終わったら食べような……あれ? べスパはどうしたんだ?」

横島はここにいないもう1人の女性の名を上げた。
ルシオラ、べスパ、パピリオの三人は、この城に住む三姉妹で、横島は彼女たちの義理の兄なのだ。

「べスパちゃんならトレーニング終わってシャワー浴びてまちたから、もう来るはずでちゅよ……それよりどうちたんでちゅか? そのほっぺた」

クッキリと横島の右頬に刻まれたもみじ形のあざを見つけたパピリオは、そこをつんつんと突っついた。

「いたたっ! な、なんでもないなんでもない。ちょっとな」

「ふーん、またメドちゃんの着替えでも覗いてたのがばれたんでちゅか?」

「!! なっ…!!」

「…また?」

ルシオラの目が横島を責める。

「いっつも失敗ばっかりしてるんでちゅから、いい加減あきらめたらいいでちゅのに」

「ば、馬鹿っ! そりゃ内緒にって………は!?」

 ザザザザザザザザザザ……!!!
 
まるで木々がざわめく様な音とともに、ルシオラから強烈な魔力の波動が漏れ出す。

「ま、まてっ! これには深い訳があってだな…!!」

「ふうん…どんな訳なの?」

 ザザザザザザザザザ!!!!

魔力の波動がさらに出力を増し、部屋全体が悲鳴を上げはじめた。

「いや…あの…その……」

「………………………………………………」

「………すんません」

横島がそう呟くやいなや、ルシオラはバンダナを巻いた横島の額に手を伸ばし

 バチバチバチッ!!!!!

「はががががががががっっ…っ…!!!! 痛い痛い…!! ギブッ!ギブだから!! すんませんでしたっ!! もうしませんっ!! ああああっ……!!!」

横島の叫び声が室内にこだまする。その絶叫は扉を通り越し外にも漏れていたようで、ちょうどこの部屋へと入ろうとしている一人と一匹(一個?)の耳にも鮮明に聞き取れていたようだ。

ガチャ

「………なに? またやったのか、忠夫?」

「帰ってきて早々騒がしい奴だなお前は」

扉を開けて入ってきたのは、抜群のプロポーションを誇るちょっとキツ目の美女べスパと、喋って動くおもしろ埴輪の土偶羅だ。べスパと土偶羅はぼろ雑巾のような有様の横島の姿には特に気にせず、それぞれ席に着いた。

「ふむ、全員揃っているな…では始めるとするか」

「あれ? メドちゃんとハピちゃんがいまちぇんよ?」

「今日のはあの二人には直接関係がないからこれで全員だ、おい横島、いつまで寝コケとる、はよ起きんか」

土偶羅が呼びかけるも、まるで屍か置物の如く、横島の体はピクリとも動かない。
このままでは事が進まない。いくら埴輪だといっても、土偶羅は暇ではない。こんなナリでも土偶羅は事務処理能力に関してはこの城でも随一。故に仕事もひっきりなしで、時間は一秒でも惜しいのだ。

「やれやれ…この後はメドーサと鍛錬だろう? 時間に遅れたらまたきつーい『おしおき』が待っとるぞ?」

 がばっ!

「よしっ! すぐ始めようか! 時間は一秒でも惜しいからな!」

ばね仕掛けの人形のように勢いよく立ち上がり準備に取り掛かる横島。先ほどまでの惨状がまるでなかったかのようなその姿に、四人は呆れたとも感嘆とも取れる表情を作る。






横島は準備が終わったようで、室内中央に置かれたプロジェクターに写真のようなものを1枚セットする。そこに写っていたのは先日横島が接触した『美神令子』のバストアップだった。(若干のブレと被写体からの角度から、おそらく盗撮)

「早速だが、あのルシオラの造った装置の算出結果通り、『結晶』の保有者はこの『美神令子』で確定だ。生い立ちとかプロフィールなんかはまだ調べ切れてないから、わかってるのは彼女はゴーストスイーパーで、それも世界屈指の実力者ってことぐらいだ」

次はこっち、と横島は写真を入れ替える。二枚目の写真に写っているのはカラフルな色の人魂のようなモノが写っている。

「こいつはルシオラの造った機械で写した『美神令子』の魂の投影だ。問題なのはココで、魂の投影画に『結晶』と思われる影がうっすら映ってるんだけど、先に送っといたこの画像を土偶羅が解析したら、どうも厄介なことがわかったらしい」

三人娘は揃って『?』と首を傾ける。そしてこの説明の続きは横島にかわり土偶羅が続けた。

「まったく厄介なことに、『結晶』と美神令子の『魂』の高いレベルでの癒着が認められたのだ」

「「「癒着?」」」

三人娘はそろって声をハモらせた。土偶羅の説明は続く。

「うむ。おそらく長期間体内で留められていたために『結晶』が安定し馴染んでしまったのだろう……これでは無理やり結晶だけを取り出そうとしても、魂ごと結晶も消滅してしまう」

「じゃあどうすればいいんだい?」

べスパが、手っ取り早く結論を述べろと言いたげに土偶羅をせかす。

「方法は一つ。安定してしまった結晶と魂を少しずつ、ゆっくりと分離させていくしかない」

「どうやって分離させるんでちゅか?」

「魂とは極めてデリケートで壊れやすく、本来は異物の進入やましてや癒着などはありえない。つまり魂は進入した異物を除去する、生物学的に言うと『免疫反応』を持っている。それを活性化させてやればいい」

「活性化? どうやったらそんなことできるのさ?」

「『魂』に触れることだ。その人間と接し、行動を共にし、苦しみや感動を共感すると、『魂』は変化する。変化していくことで免疫反応も強くなり、徐々にだが確実に結晶は異物と判断され分離されていくだろう」

土偶羅の説明が終わって、三人娘はそれぞれ考えを巡らせる。その中でルシオラがいち早くあることに気付き、

「じゃあもしかして………その『魂に触れる』ってのを…」

そのルシオラの言葉に、土偶羅はあっさりと

「ああ、その役目を横島に任せることにした」

そう言ったとたん

「「「えええーーー!!!」」」

三人娘はまたも声をハモらせて、土偶羅へと詰め寄る。

「どういうことでちゅか!」

「なんで忠夫がそんなことしなきゃなんないんだ!!」

「そんなの他の誰かを変装させて行かせたらいいじゃないっ!!!」

仮にも彼女達の上司である土偶羅だが、そのあまりの剣幕に完全に押されてしまっている。

「ま、待て! これにはちゃんとした理由があるのだ!」

「やかましい! このチ○ポ口!!」

「チ…チ○ポ口…!!!!」

ガーーーーン!!!

気にしていたのか、それとも可愛いがっていた部下のあまりの言い草に衝撃を受けたのか、涙を流し完全にフリーズしてしまった。三人娘は動かなくなった土偶羅から、標的を横島へと変える。横島はその迫力にたじろぎながらも、とにかく説明するために三人娘を落ち着かせようと席に着かせる。

「土偶羅も言ったが、ちゃんと俺じゃなきゃならない理由はあるんだ。アシュタロスは今回のことを予測してたらしくて、あいつが直接土偶羅に言ったらしい」

なんとか三人を落ち着かせた横島は、一つずつ、順番に説明を始めた。

「この役目が俺に適任なのは……」

三人を順番に見渡し、横島はゆっくりと続けた。





「俺が『人間』だからだ」


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