椎名作品二次創作小説投稿広場


ドッグス オア ウルヴズ?

決着は事務所にて


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:05/10/ 5


 場所は美神除霊事務所。ジャッジは横島と、反則の監視に人工幽霊壱号。

 そこまではすんなりと決まったのだが、美神とタマモの第1回チキチキ横島争奪戦の勝負方法は中々決まらなかった。タマモも美神も、自分に有利な方法で勝負しようと譲らなかったからだ。

 なんせ、オンナの真剣勝負。負けたら、失うものは横島だけではなく、オンナのプライドその他まで一切合財無くしてしまう。

 そして3時間にも及ぶ話し合いの末、両方の主張を合わせて3回勝負と決定したのだった。


「それでは、2人ともこのエンゲージの契約書にサインを」


 契約を破った場合、死神のような契約の神が出てきてカマを振るうという、イヤな紙を美神とタマモに差し出すおキヌ。今回、心ならずも第3者という事で、進行の役を押し付けられたのだ。


「タ・ダ・オ。もうすぐ私達のモノにしたげるから、待っててねー」


 笑顔で契約書にサインしながら、横島にウィンク付きの黄色い声を飛ばすタマモ。当然のように、美神はタマモではなく横島の方を睨み付ける。

 喜んでいいのか、怯えていいのか。腰が引け、体を震わせながら笑顔を浮かべる横島は、これからの展開を予想した。


「……いかん、イヤな予感しかしない……」


 多分、その予想は正しい。

 そして逃げるか?いや、逃げたら美神さんだけじゃなくてタマモも俺をシバきにくる…ああっ俺はどうしたらー!?という、横島の叫びをゴングがわりに、第一回戦が開始された。


 そして流れる、どっ○の料理ショーの音楽。(BGM by 人工幽霊壱号)

 そう。第一回戦の内容は、料理対決だっ!


「まず一勝目は貰ったわっ!!普段シロと一緒に家事をおキヌちゃんに任せて、グータラしてるタマモに勝ち目は無いのよっ!」


 ひゅーほほほ、と高笑いしつつ、テキパキと手際良く複数の料理を同時に仕上げていく美神。確かに言うだけの事はある。誰に仕込まれたのか、それとも自分で勉強したのか、大した腕前だ。


「家事をおキヌちゃん任せにして、グータラしてるのは美神さんだって一緒じゃないっ!おキヌちゃんがちょっと里帰りしただけで、事務所がどうなったか忘れたとは言わさないわよっ!」


 的確な反撃をしつつも、タマモもレシピ片手に、調理の手を止めない。しかし美神に比べると品数も少なく、どれも手の込んでいない物でしかないのは見て取れる。

 美神もそれを察したか、一応用意していたオブラートに包んだ胡椒や砂糖、ひとたらしで激辛になる究極ラー油などなど、奥の手の数々を見つからないようにしまいこんだ。タマモの料理が自分よりも上そうだったら、隙を見てコッソリ混入するつもりだったらしい。


「わ、私はやれば出来るからいーのよ!しないのと、出来ないんじゃ意味が違うんだからっ!」

「うわー、屁理屈にしか聞こえなーい」

「うるさい!実際こうやって出来てるでしょーが!はい、こっちは完成したわよっ!!」


 横島の前に、ドンと置かれる料理の数々。

 洋風に纏められ、きちんとオードブルからデザートまでそろっている。一気に出すのはどうかと思うが、横島の食事スピードなら問題あるまい。

 以前韋駄天が憑依していた頃、フォアグラのように、強制的に口にコース料理丸ごと流し込まれても大丈夫だったようだし。


「いただきます」

「はい、召し上がれ」


 美神の手料理など本当に久しぶりだったため、妙に緊張して食べ始める横島。

 そしてそれを微笑ましく感じたか、くすりと笑って見守る美神。

 なにやらラブな空間が展開され、見ている一同の額に血管を浮き出させる。


「美味いっ!こら美味いっ!」


 ラブ空間と食事の美味しさという2つのバリアに守られ、横島は刺すような視線にも気付かず食事に集中。赤ピーマンのムースのかかったフレッシュトマトが、ソースのかかった舌平目のムニエルが、ベーコンとキャベツのスープが、地鶏のロティーが。次々と彼の口の中へと消えてゆく。

 フレッシュトマトの酸味と甘味、ムースの若干のほろ苦さのハーモニー。舌平目の白身魚の旨みと油に、焦がしたバターの風味が何とも言えない。スープのベーコンにしても、普段横島の口に入るような安物とは全く違う。旨みと燻製の香りが詰まった絶品だ。

 素材の味を言うならば、そのどれもこれもがそうなのだが、この美味しさはそれだけではない。各種ハーブや調味料。特に塩加減が完璧だ。関西育ちの横島好みに若干の薄味、それでいて東京暮らしの若者にありがちなジャンクフードに慣れた舌にも解る、香辛料の適度な刺激。

 最後にデザートの黒糖のムースまで完食し、横島は満足げに大きく息を吐いた。


「美味かった〜〜」

「ほんとに解ってんの?」


 その食べっぷりは作った側としては嬉しかったりもしたけれど。あまりにもがっついて、一気に食べていたので、ゆっくり味わっても欲しかった美神が、疑わしそうに装って、少し拗ねたようにそう口にした。


「心外っスね〜。俺だって、美味いもんは美味いって解りますよ?」

「どーだか」


 拗ねたままの美神に、横島はいつもの調子で言い放つ。


「本当ですって!愛!そう、美神さんの愛を感じましたよ!」

「………バカ」


 ごろごろごろごろじたばたじたばた


 いつもと違って、なんと言うかカユくて仕方が無い美神のリアクションに、床に転がって体をかきむしるシロとおキヌ。人工幽霊壱号も体があったら参加していただろう。

 なにせ、いつもなら「バカ言ってんじゃないわよ」と冷たい目を向けるところを、少しだけ目を逸らして、頬を赤らめて「………バカ」である。美神を良く知る彼女達が、ゴロゴロと転がるのも無理はない。


「………………………なにやってんだお前ら」


 転がる彼女達のひるがえるスカートから見える『何か』をちゃっかり観察しつつ、ツッコミに回る横島。当事者の強みか、それとも単なる鈍感か。彼には美神のツンデレっぷりもさほどカユくはなかったらしい。


「そーゆーアンタこそ何やってんのよ」


 そして同じく当事者のタマモが、横島にツッコみつつ料理を持って参上。


「ぬ!?それは…」

「へへへ〜。コッソリ練習もしてたからね。見た目もバッチリでしょ!」


 その手にあったのは、美神の見た目からして豪華で食欲をそそる品々とは逆に、地味ではある。しかし、美神のもの以上にそれは横島の食欲をそそった。

 タマモの料理はお盆にのった4品。ご飯に味噌汁、お漬物。そしてお好み焼きである。


「ご、ごはんにお好み焼き?タマモ、アンタ勝つ気あるの?」


 内心しめた!と思いつつも問い掛ける美神に、逆に勝ち誇った笑みを浮かべてタマモが答える。


「知らないの?関西じゃ、お好み焼き定食ってのは当たり前に存在するそうよ?ほら、横島だって美味しそうに食べてるじゃない」

「なんですって!?」


 劇画調の顔で振り返った美神の目に飛び込んできたのは、タマモの指摘どおりの、そして美神の予想と少しだけ違った光景。


「ん。美味い……あ、これも、これも美味いな…でもなんか懐かしい味だ」


 しみじみと。落ち着いて、穏やかな顔で食事をする横島の姿だった。


「な…なんで」

「ふふ〜ん。こんな事もあろうかと。そう、こんな事もあろうかと、タダオのお母さまに国際電話でレシピを聞いておいたのよ!現代の男が、お袋の味に弱いというのは調査済み!もはや勝ったも同然ねっ!!」


 カカーカカカカ!と高笑いして、胸を張るタマモ。しかし、自分の料理に自信があるのは美神も同じ。負けるものかと、サイズの違うバストを押し出すようにタマモにぶつけて、ひゅーほほほと高笑いを返す。


「お子様にお袋の味が再現できるとでも!?この勝負、私の勝ちよっ!!」

「いいえ!料理とはあくまで食べてくれる人のためを思って作るもの!そして関西人は粉物が好き!勝つのは私よっ!!」


 睨み合う2人に、箸を置く音と横島の「ご馳走さま」の声が聞こえた。

 そして進行のおキヌちゃんが、横島にマイクを向ける。


「横島さん。判定は?」


 一同が、固唾を飲んで横島の出す答えを待つ。

 しーん、と静まり返った空気の中。

 横島が引き分けってのはナシ?とアイコンタクトで問い掛けるも、美神もタマモもナシだと切って捨てる。

 そして、横島の出した答えは…


「えっと、その……美味かったのは、美神さんっス」

「やっ…」

「でも!!」


 勝った!と歓声をあげようとした美神を遮って、横島は続けてこう言った。



「でも……勝ちはタマモです」



 わけがわからない。美神は、当然ながら激高する。


「なんで!?どうしてよっ!!私の方が美味しいんなら、なんで!!」

「確かに、美味しかったのは美神さんの方です。でも……また食べたい、毎日食べたいと思えるのはタマモの方だったんですよ…」


 納得がいかない。更に詰め寄ろうとした美神の肩に、おキヌが手を置いた。


「私…解るような気がします」

「おキヌちゃん?」

「料理って、きっと、美味しいってだけじゃダメなんです。相手に喜んでもらう、その事がきっと大事なんだと思います」

「おキヌちゃん……」


 タマモや横島が、いや、母親の美智恵でも、他の誰が言っても美神は納得しなかっただろう。

 でも、この娘がそう言うのなら、きっとそうなのかもしれない。美神は素直にそう思えた。


「そうね……解ったわ。一回戦は、私の負けよ。でもね、次は負けてあげないから!」

「解ってるわ!こっちこそ次も勝って、勝負を決めてあげるんだから!」


 バチバチと視線の火花を散らす美神とタマモ。

 あれ?なんで爽やかになってんの?という横島の疑問をよそに、お話は続く。


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