場所は美神除霊事務所。ジャッジは横島と、反則の監視に人工幽霊壱号。
そこまではすんなりと決まったのだが、美神とタマモの第1回チキチキ横島争奪戦の勝負方法は中々決まらなかった。タマモも美神も、自分に有利な方法で勝負しようと譲らなかったからだ。
なんせ、オンナの真剣勝負。負けたら、失うものは横島だけではなく、オンナのプライドその他まで一切合財無くしてしまう。
そして3時間にも及ぶ話し合いの末、両方の主張を合わせて3回勝負と決定したのだった。
「それでは、2人ともこのエンゲージの契約書にサインを」
契約を破った場合、死神のような契約の神が出てきてカマを振るうという、イヤな紙を美神とタマモに差し出すおキヌ。今回、心ならずも第3者という事で、進行の役を押し付けられたのだ。
「タ・ダ・オ。もうすぐ私達のモノにしたげるから、待っててねー」
笑顔で契約書にサインしながら、横島にウィンク付きの黄色い声を飛ばすタマモ。当然のように、美神はタマモではなく横島の方を睨み付ける。
喜んでいいのか、怯えていいのか。腰が引け、体を震わせながら笑顔を浮かべる横島は、これからの展開を予想した。
「……いかん、イヤな予感しかしない……」
多分、その予想は正しい。
そして逃げるか?いや、逃げたら美神さんだけじゃなくてタマモも俺をシバきにくる…ああっ俺はどうしたらー!?という、横島の叫びをゴングがわりに、第一回戦が開始された。
そして流れる、どっ○の料理ショーの音楽。(BGM by 人工幽霊壱号)
そう。第一回戦の内容は、料理対決だっ!
「まず一勝目は貰ったわっ!!普段シロと一緒に家事をおキヌちゃんに任せて、グータラしてるタマモに勝ち目は無いのよっ!」
ひゅーほほほ、と高笑いしつつ、テキパキと手際良く複数の料理を同時に仕上げていく美神。確かに言うだけの事はある。誰に仕込まれたのか、それとも自分で勉強したのか、大した腕前だ。
「家事をおキヌちゃん任せにして、グータラしてるのは美神さんだって一緒じゃないっ!おキヌちゃんがちょっと里帰りしただけで、事務所がどうなったか忘れたとは言わさないわよっ!」
的確な反撃をしつつも、タマモもレシピ片手に、調理の手を止めない。しかし美神に比べると品数も少なく、どれも手の込んでいない物でしかないのは見て取れる。
美神もそれを察したか、一応用意していたオブラートに包んだ胡椒や砂糖、ひとたらしで激辛になる究極ラー油などなど、奥の手の数々を見つからないようにしまいこんだ。タマモの料理が自分よりも上そうだったら、隙を見てコッソリ混入するつもりだったらしい。
「わ、私はやれば出来るからいーのよ!しないのと、出来ないんじゃ意味が違うんだからっ!」
「うわー、屁理屈にしか聞こえなーい」
「うるさい!実際こうやって出来てるでしょーが!はい、こっちは完成したわよっ!!」
横島の前に、ドンと置かれる料理の数々。
洋風に纏められ、きちんとオードブルからデザートまでそろっている。一気に出すのはどうかと思うが、横島の食事スピードなら問題あるまい。
以前韋駄天が憑依していた頃、フォアグラのように、強制的に口にコース料理丸ごと流し込まれても大丈夫だったようだし。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
美神の手料理など本当に久しぶりだったため、妙に緊張して食べ始める横島。
そしてそれを微笑ましく感じたか、くすりと笑って見守る美神。
なにやらラブな空間が展開され、見ている一同の額に血管を浮き出させる。
「美味いっ!こら美味いっ!」
ラブ空間と食事の美味しさという2つのバリアに守られ、横島は刺すような視線にも気付かず食事に集中。赤ピーマンのムースのかかったフレッシュトマトが、ソースのかかった舌平目のムニエルが、ベーコンとキャベツのスープが、地鶏のロティーが。次々と彼の口の中へと消えてゆく。
フレッシュトマトの酸味と甘味、ムースの若干のほろ苦さのハーモニー。舌平目の白身魚の旨みと油に、焦がしたバターの風味が何とも言えない。スープのベーコンにしても、普段横島の口に入るような安物とは全く違う。旨みと燻製の香りが詰まった絶品だ。
素材の味を言うならば、そのどれもこれもがそうなのだが、この美味しさはそれだけではない。各種ハーブや調味料。特に塩加減が完璧だ。関西育ちの横島好みに若干の薄味、それでいて東京暮らしの若者にありがちなジャンクフードに慣れた舌にも解る、香辛料の適度な刺激。
最後にデザートの黒糖のムースまで完食し、横島は満足げに大きく息を吐いた。
「美味かった〜〜」
「ほんとに解ってんの?」
その食べっぷりは作った側としては嬉しかったりもしたけれど。あまりにもがっついて、一気に食べていたので、ゆっくり味わっても欲しかった美神が、疑わしそうに装って、少し拗ねたようにそう口にした。
「心外っスね〜。俺だって、美味いもんは美味いって解りますよ?」
「どーだか」
拗ねたままの美神に、横島はいつもの調子で言い放つ。
「本当ですって!愛!そう、美神さんの愛を感じましたよ!」
「………バカ」
ごろごろごろごろじたばたじたばた
いつもと違って、なんと言うかカユくて仕方が無い美神のリアクションに、床に転がって体をかきむしるシロとおキヌ。人工幽霊壱号も体があったら参加していただろう。
なにせ、いつもなら「バカ言ってんじゃないわよ」と冷たい目を向けるところを、少しだけ目を逸らして、頬を赤らめて「………バカ」である。美神を良く知る彼女達が、ゴロゴロと転がるのも無理はない。
「………………………なにやってんだお前ら」
転がる彼女達のひるがえるスカートから見える『何か』をちゃっかり観察しつつ、ツッコミに回る横島。当事者の強みか、それとも単なる鈍感か。彼には美神のツンデレっぷりもさほどカユくはなかったらしい。
「そーゆーアンタこそ何やってんのよ」
そして同じく当事者のタマモが、横島にツッコみつつ料理を持って参上。
「ぬ!?それは…」
「へへへ〜。コッソリ練習もしてたからね。見た目もバッチリでしょ!」
その手にあったのは、美神の見た目からして豪華で食欲をそそる品々とは逆に、地味ではある。しかし、美神のもの以上にそれは横島の食欲をそそった。
タマモの料理はお盆にのった4品。ご飯に味噌汁、お漬物。そしてお好み焼きである。
「ご、ごはんにお好み焼き?タマモ、アンタ勝つ気あるの?」
内心しめた!と思いつつも問い掛ける美神に、逆に勝ち誇った笑みを浮かべてタマモが答える。
「知らないの?関西じゃ、お好み焼き定食ってのは当たり前に存在するそうよ?ほら、横島だって美味しそうに食べてるじゃない」
「なんですって!?」
劇画調の顔で振り返った美神の目に飛び込んできたのは、タマモの指摘どおりの、そして美神の予想と少しだけ違った光景。
「ん。美味い……あ、これも、これも美味いな…でもなんか懐かしい味だ」
しみじみと。落ち着いて、穏やかな顔で食事をする横島の姿だった。
「な…なんで」
「ふふ〜ん。こんな事もあろうかと。そう、こんな事もあろうかと、タダオのお母さまに国際電話でレシピを聞いておいたのよ!現代の男が、お袋の味に弱いというのは調査済み!もはや勝ったも同然ねっ!!」
カカーカカカカ!と高笑いして、胸を張るタマモ。しかし、自分の料理に自信があるのは美神も同じ。負けるものかと、サイズの違うバストを押し出すようにタマモにぶつけて、ひゅーほほほと高笑いを返す。
「お子様にお袋の味が再現できるとでも!?この勝負、私の勝ちよっ!!」
「いいえ!料理とはあくまで食べてくれる人のためを思って作るもの!そして関西人は粉物が好き!勝つのは私よっ!!」
睨み合う2人に、箸を置く音と横島の「ご馳走さま」の声が聞こえた。
そして進行のおキヌちゃんが、横島にマイクを向ける。
「横島さん。判定は?」
一同が、固唾を飲んで横島の出す答えを待つ。
しーん、と静まり返った空気の中。
横島が引き分けってのはナシ?とアイコンタクトで問い掛けるも、美神もタマモもナシだと切って捨てる。
そして、横島の出した答えは…
「えっと、その……美味かったのは、美神さんっス」
「やっ…」
「でも!!」
勝った!と歓声をあげようとした美神を遮って、横島は続けてこう言った。
「でも……勝ちはタマモです」
わけがわからない。美神は、当然ながら激高する。
「なんで!?どうしてよっ!!私の方が美味しいんなら、なんで!!」
「確かに、美味しかったのは美神さんの方です。でも……また食べたい、毎日食べたいと思えるのはタマモの方だったんですよ…」
納得がいかない。更に詰め寄ろうとした美神の肩に、おキヌが手を置いた。
「私…解るような気がします」
「おキヌちゃん?」
「料理って、きっと、美味しいってだけじゃダメなんです。相手に喜んでもらう、その事がきっと大事なんだと思います」
「おキヌちゃん……」
タマモや横島が、いや、母親の美智恵でも、他の誰が言っても美神は納得しなかっただろう。
でも、この娘がそう言うのなら、きっとそうなのかもしれない。美神は素直にそう思えた。
「そうね……解ったわ。一回戦は、私の負けよ。でもね、次は負けてあげないから!」
「解ってるわ!こっちこそ次も勝って、勝負を決めてあげるんだから!」
バチバチと視線の火花を散らす美神とタマモ。
あれ?なんで爽やかになってんの?という横島の疑問をよそに、お話は続く。
ギャグとしてかなり楽しめる展開でタマモの性格も面白くていいなと思いました。
でも…関西人であろうが、さすがに毎日お好み焼き食べたいとは思わんと思います(汗
自分もお好み焼きは1ヶ月に2,3回しか食わんし…(これでも多いか?) (ジェネ)
そしてそこまで見せといてタマモの勝利。
つまり・・・横島にツンデレは通用しない!!!!!!!
ヤバイデス。美神スキーな自分としては彼女の可愛いところは全てツンデレに集約していると言っても過言ではない今日この頃。
勝てるのか!?美神さん!!
つか題名からして美神さんが負けそうジャンノд`)゜。
・・・それでも美神さんの勝利を祈ってるmasaでした。 (masa)
一話から読んでみての全体評価はもちろんA。
全体的にどたばたしているところが気に入りました。
読み始めの時にはタイトルからしてもシロがヒロインだと思っていましたけど、だんだんだんだんタマモ&美神に移ってきましたね。
僕的にはもう少しおキヌを絡ませて欲しかったです。 (鷹巳)
今だに続きが気になります。 (GX)