椎名作品二次創作小説投稿広場


GS〜Next Generation Story〜

温泉と修羅場。そして、せまる闇


投稿者名:ja
投稿日時:05/ 9/14

「体は何ともないが、やはり疲れているな」
 英夫の体調は万全だが、どこか疲れている。
「そうだ、こんな時はあそこだな」
 英夫は妙神山内の癒しの場所へ向かった。

「あら、美希ちゃん。体はもういいのかしら?」
「はい。まあ、一度死んだ身ですから、何処か変かと思いましたが、何ともないみたいです。でも、一度リフレッシュして来ます」
「そうね。みんな明日には帰るんだし。残念ね。折角にぎやかだったのに」
「はい。でも、ずっとここにいるわけにはいきませんし」
 一礼して去っていった。
「確かに美希ちゃんの場合、そういったゆっくりした療養が一番かもねー。ん?あれは」
 前方から瑞穂が歩いてきた。
「どうしたのねー?」
「ああ、ヒャクメさん。ここって、お風呂ありませんか?」
「お風呂?ああ、この先に露天風呂があるのねー」
「露天風呂ですか」
「いいお湯なのねー。行ってみるといいのねー」
「はい。そうします。では、失礼します」
と、温泉の方に歩き出す。
「温泉?何か忘れているような?ああ、美希ちゃんか。まあ、女同士お風呂でゆっくりと長話するのもいいのねー。そういえば、昔は小竜姫とよく入ったものねー。あれは英夫君が生まれる前だったかしら?」
「俺がどうかしましたか?」
 突然後ろから声をかけられる。
「わ、ビックリさせないで欲しいのねー」
 英夫が立っていた。
「どうしたのねー?」
「露天風呂ってどっちでしたっけ?」
「あっちなのねー」
と、指差す。
「ありがとうございます」
「まったく。ここの管理人の息子が迷子になってどうするの?言わば、ここは貴方のお母さんの実家でしょうが」
と、愚痴をこぼす。しかし、もうそこには英夫はいなかった。
「ありゃ?逃げられたのねー」
と、肩を落とす。
 英夫は小竜姫の子供だが、多忙な小竜姫に代わり、英夫が小さい頃から面倒を見ていたため、ヒャクメにとっても我が子のようなものだった。
「まあ、いいか。でも、はて?何かを忘れているような?」
 ヒャクメは考えながら、自分の部屋へと向かう。
「あ!」
 瑞穂と美希がいたことを思い出す。
「二人とも、温泉に行ったのねー」
と、慌てるが、
「まあ、いいか。よく考えたら面白そうだし」
と、監視室に向かった。

「へー、ここの温泉も気持ちが良いわね」
 ゆったりと瑞穂は手足を伸ばす。広大な岩風呂には、誰もいないので、貸切状態だ。
『英夫さんか』
と、顔を思い浮かべる。そして、自分の右手を見る。
『お母さん』
 先日、英夫に触れた時の事を思い出す。
『二人は、結ばれる運命だったのに。あの『悪霊』のせいで』
 幾度となく会った、横島忠夫を思い浮かべる。
『あの人は、今でもその『悪霊』を追っているわ。まるで、自らの罪滅ぼしのために。お母さんを傷つけてしまった、いえ、『裏切って』しまった、その罪滅ぼしのために。だって、横島さんは、その悪霊を』
 目を伏せる。
『いえ、それすらも、その『悪霊』のせいかしら?』
 頭を振る。
『いえ、今はもう過去の事ね。私には関係のない話』
 そして、英夫のことを考える。
『お母さん、やっぱり私は、あの人のことが』
と、立ち上がり何気に横を見ると、英夫の顔があった。
「え?」
 下を見ると体も付いている。
「あれ?」
 喋った。
「何で?」
 表情も変わった。
「きゃああ!」
 瑞穂は湯船に一気に飛び込む。そして、顔だけ出し、
「ちょっと、何でいるのよ?」
「何でって言われても」
と、申し訳なさそうにそっぽを向く。
「いや、誰もいないかと思って」
「まあ、確かに」
と、納得しかける。
「まあいいわ」
 英夫と一緒に温泉に入るのも悪くないかと、思った時、
「あ、誰か来る」
「ええ?ちょっと!」
と、向こうの方に岩が見える。
「あっちに行っているから」
 それだけを告げて、瑞穂は大急ぎで行った。
「まあ、普通の反応だな」
と、自分は男で瑞穂が女であることを改めて確認する。
 そして、誰かが入って来ていることを思い出し、そちらを見る、
「げ!」
 第一声である。
「!」
 相手は多少驚いているようだが、無表情だ。
「美希」
 声には反応せず固まっている。

「カイン様」
 横に一人の魔族が跪く。
「朱雀か」
「はい。ここに」
 カインはゆっくりと周りを見渡す。
「全員、来たか?」
「はい」
 そこには、三人の魔族がいた。
大柄な巨人魔族の玄武。少年ともいえる姿の白虎。そして、美しい女性の姿をした青竜。
「久しぶりに、仕事だ。今回の仕事内容を説明しよう。
 横島英夫は知っているな?」
 全員が頷く。
「彼に、この城にお越し願いたい。手段は問わない」
「そう言うことでしたら」
 青竜が立ち上がる。
「私に任せていただけませんか?」
「ほう。自信ありだな?」
「お任せください」

 長い一瞬が過ぎた。
「何だ、ヒデですか」
 どうでもいいかのように呟き、湯船に入る。そしてゆっくりとしゃがみこみ、一つの岩に腰掛けたのか胸の下までが湯に入る。
「どうしたのですか?入らないのですか?」
 いたって冷静な声だ。
「あ、ああ。そうですね」
 声が裏返っているのが情けないが、英夫もしゃがみ込む。そこには腰掛けられる岩はなかったらしく、首までもが湯に入る。
『な、何がどうなっているんだ?』
 頭はフル回転している。そして、さきほどの瑞穂の反応を思いだす。
『あれが、普通だよな』
 チラリと美希の方を見る。タオルを体に巻いているとはいえ、体のラインは明らかである。着やせするのか普段はそうでもないが、抜群のプロポーションを誇っている。
『うーむ。どういうつもりだ?』
 そして、次の瞬間美希が横に立っていた。
「え?」
「何してるんですか?」
と、英夫を後ろから抱え挙げる。浮力も手伝ってか、あっさりと持ち上げられる。
「昔から言っているでしょう?肩まで入ると、体に負担がかかって、危ないって」
と、自分が腰掛けていた岩に英夫を座らせ、その横に美希も座る。
「え?」
「はい?何か変ですか?」

「どういうつもりよ。美希さん」
 岩陰から瑞穂はその様子をずっと伺っていた。遠目なため英夫が慌てている事はもちろんのこと、美希の冷静さもわからない。
「まさか、あの二人にはあれが自然なの?」
 二人が幼馴染で、常日頃から行動を共にしていることは知っている。しかし、温泉で鉢合わせても、いたって普通でいられるほど親密だとは思ってもいなかった。

 しかし、英夫と瑞穂の思惑とは逆に、美希はパニックに陥っていたのであった。
『ええ!?何でヒデがこんな所にいるの』
 鉢合わせた瞬間にいきなりパニックになっていたのだ。
『どうしよう?いきなり逃げたらやっぱり変かな?それは、そうよね』
と、頭をフル回転させる。
『よく考えたら、ヒデとは一緒にお風呂くらい入ったことあったわよね』
と、それがここの温泉であったことも合わせて思い出す。
『少し、懐かしいかな、って、それは幼稚園のころでしょうが!!今はもう高校生だし』
 英夫は固まっている。それを見て、美希は一気に冷静になる。
『クスッ!まあ、普通はそうよね』
 そして、湯船に入った後も英夫が向こうを向いて固まっていることが、段々と滑稽に見えてきた。
『ヒデッたら、肩まで浸かると体に悪いって言ってあげたこともあるのに』
と、立ち上がり英夫を湯船から引き上げる。
『ええっと、手ごろな岩は』
と、辺りを見渡すが自分が座っていた岩くらいしか見つからない。
『………。まあ、後は成り行きに任せるか』
と、英夫を座らせその横に美希も座る。

 そして、もう一人。この光景を見ていた者がいる。
「わあ、美希ちゃん。大胆ね」
 画面には英夫と美希が並んで座り、その様子を瑞穂が覗いている様子が映っている。
「まあ、昔からのことを考えれば、これくらいのことは許されるわよねー。あの鈍感な英夫クンが相手だし」
と、邪悪な笑みを浮かべる。
「高校生とはいえ、ここは日本であって日本じゃないのねー」

「しかし、よろしいのですか?横島英夫が成長しきっているとは思えないのですが?」
 朱雀が話し掛ける。他の三人は姿を消している。
「ああ。今のレベルでも十分だ。だが、もう一皮むけてもらえたら良かったんだがな」
 デビルとの会話を思い出す。
「思い通りにはいかないか。所詮は」
 遠い昔に思いを馳せる。
「何か?」
「いや、彼の父親の事を思い出してな。横島忠夫を」
と、自分の体を見下ろす。
「唯一、私と互角以上に渡り合った人間だからな。ましてや、彼を中心としたチームは私すら脅かした。今思い出しても、至福の時だった。
 だが、彼にも重大な欠点があった。私はその欠点を克服した横島と戦ってみたかった」
「それで、『アレ』の封印を?」
「少し、違うな。『アレ』の封印が解けたのは事故だ。私は、『アレ』から『ヤツ』を呼び覚ましただけだ。今でも横島が追っている『悪霊』をな。
 まさか、あそこまで上手くいくとは思わなかったよ。あの『悪霊』も上手く立ち回ってくれた。横島の甘さを突いてな。いや、それすらもあの『悪霊』の力だったのかもしれないが。おかげで、横島忠夫は完璧な戦士となった。そして」
と、自分の服をめくる。そこには大きな傷跡があった。
「その代償が『コレ』だ。おかげで、しばらく、眠りにつく羽目にあってしまったよ。あの時の横島忠夫は、今でも私の中では最強の男だ。しかし、時間とは残酷だな。私が眠りに就いている間に、横島は年をとり、力も弱まっていた。
しかし、横島には息子がいた。そう、父親以上の力を秘めた息子がな。私はあの至福の時をもう一度味わってみたいのだ。それが、自らの滅びに繋がろうともな」

「どうしたのですか?何か言いたいことでも?」
「い、いえ。そういうわけでは」
 英夫は先ほどから落ち着かず、もぞもぞしている。
『一体、何を考えてるんだ?この女?』
『もう、ヒデッたら。折角なんだから』
 仕方なく、二人は笑いあうだけだった。
 それからしばらくすると、一つのお盆が流れてきた。上には徳利とお猪口が載っている。まさしく、酒である。
「何これ?」
「さあ?ヒャクメさんからですかね」
 早速、美希は徳利からお猪口に注ぐ。
「待て、俺たちは未成年だぞ」
「はい?ヒャクメさんがわざわざお酒を出すわけがないでしょう?気分を味わうための、中身は水ですよ」
と、一気に煽った。
「そうか」
と、英夫も口にする。しかし、明らかにお酒の味だ。
「げ!やっぱりこれ、酒だ」
 横の美希を見る。
「あ、確か、こいつって」
 以前の記憶がよみがえる。
「酒乱ってやつでは?」
 気付いた時には遅く、美希の目つきが変わっていた。
「ああ、そうだ。僕、これから夏休みの宿題があったんだった。じゃあ、美希。ゆっくりくつろいでね」
と、立ち上がる。しかし、時は既に遅かった。
「どこに、行くの?」
 手ががっしりと掴まれていた。
「いや、だから、夏休みの宿題を、ですね」
「そう言って、昔っから私のを写していたでしょう」
「そりゃあ、お前が見せてくれるし」
 手を離そうとするが、凄まじい握力だ。
「じゃあ、そのお礼は?」
「お礼?」
 美希が期待の篭った目で見てくる。
「何だ?どうせ、ろくなことじゃないだろ」
 反対に英夫は怯えた目だ。
「そうね。じゃあ、デジャブーランドにでも連れて行ってもらおうかしら?」
「え、デジャブーランド?いや、俺は」
「そうね、ヒデは苦手でしたね。ジェットコースター」
「よく、ご存知で」
「じゃあ」
と、突然英夫の首に両腕を回してきた。
「え?」
「一度でいいから」
と、その時、英夫のピンチを救う女神が現れた。
「何をしているの?!」
 その人物は、いきなり英夫を美希から引き剥がし、英夫を後方に放り投げた。
「美希さん。どういうつもり?」
 美希に詰め寄る。
「どういうって?普通よ」
と、腰に手を当て、言い放つ。
「普通って?」
「私とヒデはね、昔っから」
「付き合いの長さじゃないわ」
「じゃあ、何?」
と、お盆から徳利を持ち上げる。
「まあ、コレでも飲んで」
と、手渡す。
「言っておくけど、私の田舎じゃあ、子供だってお酒くらい飲めるんだからね」
と、一気に煽った。
「いててて!!」
 英夫が後頭部を抑えながら二人に近付いてきた。
「いきなり、なにするんだ?瑞穂」
と、瑞穂の手に徳利が持たれているのを確認する。
「ま、まさか?お前も?」
「大丈夫よ。私の田舎では、子供でも」
と、余裕の表情を見せる。しかも、誰もいない方向に向かって。
「あ、確かこいつも」
 再び記憶が蘇る。
「あ、そろそろラジオ体操に行かないと」
と、逃げようとするが、ワンテンポ遅かった。
「ヒデ。どうしても、確認しておきたいことがあるんだけど?」
「そうね、私も」
 後方から不気味な声が響く。
「な、何でしょうか?」
 振り向かずに答える。それほど、怖い声だ。
「カオスさんから聞いたんだけど、ノアと仲良く暮らしていたんですって?」
「はい。でも、それは、仕方がないと、言いますか」
「何で、そんなに声が上ずっているの?」
 瑞穂ものってくる。
「へー、じゃあどんな生活を送っていたのか、教えてくれない?」
「あ、私も聞きたい」
 声がさらに低くなっている。
「えーっと、それは、普通にですね。朝起きて、ご飯を食べて、カオスさんの代わりに働いて、それから、その………」
「へー………」
「楽しそうですね」
 さらに不気味な声だ。

 その光景を、監視室でヒャクメは腹を抱えながら見ていた。
「さあ、英夫君は大ピンチです。どう出るのでしょうか?」
「そうね」
と、相槌が帰ってきた。
「面白いでしょう?ねえ……」
 この部屋には誰もいなかった事を思い出す。
「どうしたの?」
 声の主は冷静だ。
「あの、これは、その、ほんの悪戯心といいますか」
「そう。悪戯心で未成年にお酒を?」
 声の主、小竜姫はゆっくりと近付く。
「勘弁してほしいのねー!」
「ヒャクメ!!」
「い、痛い痛い!!剣は無しなのねー!切れてるわよ!!」
 数分後。ヒャクメはごみくずと化した
「まったく」
と、小竜姫はモニターを見る。
「でも」
 考え込む。一人の大人としては、未成年(しかも飲酒)の男女が風呂場で揉めあっていたら、止めに入るだろう。しかし、揉め合っている、その根本の原因は自分の息子である。そして、
「まあ、いいか。ついでだからどっちが相応しいか見極めさせてもらいましょう。英夫の嫁候補として。全て、ヒャクメになすりつけることもできるんだし」
 その表情は、母親の顔だった。

 小竜姫がヒャクメを半殺しにしている頃、事態はさらに複雑になっていた。
「そういえば、ノアとの戦いの時も変だったわよね」
「変、と言いますと?」
「何で、あんなに攻撃をためらったのかしら?今までの魔族相手には容赦がなかったのに」
「いや、そんなことは」
「正直に答えて」
 瑞穂が目の前に迫る。
「英夫さんは、ノアのことどう思っているの?」
「え?まあ、そうですね。綺麗な人だとは最初から思っていたけど、それ以上に、何か引っかかるというか」
 バキッ!
 何かが砕ける音がした。見ると、美希が岩を叩き割っていた。しかも、素手で。
「へー、そう?!」

「ああ、そういえば、ノアもいたわね」
 小竜姫はのんきに煎餅を食べていた。自分の息子は人生最大のピンチだというのに。
「三つ巴か。母親としては、誰がいいの?」
「それは」
と、小竜姫は横を見る。ヒャクメが復活していた。
「ヒャクメ」
「まあまあ、こうなったらもう私たちは共犯なのねー。それより、誰がいいの?」
「そうね」
と、諦めたかのようにモニターを見る。
「瑞穂ちゃんとは、ただならぬ運命を感じるし、ノアにしてもそうね。美希ちゃんは子供の頃から知っているし、悩む所ね。でも、誰とくっついても文句は言わないわ。誰にも肩入れはしないし」
「でもね、小竜姫」
と、モニターを見ながらヒャクメは青い顔をしている。
「今は、英夫君に肩入れしたら?大ピンチよ」

「そう、ヒデは美人タイプが好みだったのね?」
「いや、だから」
「じゃあ」
と、瑞穂を見る。
「脱落、ね?」
「何を、突然!!」
 瑞穂が食って掛かる。
「だって、あなた、美人度ではノアに負けているわよ」
「そういう、美希さんはどうなの?」
「どうって?そうね」
と、英夫の方を見る。
「ねえ、私とノアはどっちが美人かしら?」
 酔っているとはいえ、とんでもない事を口にする。
「は?いや、それは比べられないんだけど。そもそも、比べる必要がないというか」
「必要があるから聞いているのよ」
 凛とした声だ。そして、再び砕ける岩。
「いや、俺にとっては美希は、何と言うか、『怖い姉』といった感じで」
「こ、怖い姉?」
 その一言に大きなショックを受ける。そして、そのままのぼせたのとショック、そして酒の力で後方に倒れる。
「ははは、怖い姉って……」
 つられて瑞穂も酒の酔いで後方に倒れる。
英夫が水音に気付いて後方を見ると、二人が倒れていた。
「な、何なんだ、一体」

 翌日、二日酔いで頭を抱えながら二人は下山していった。もちろん、記憶は綺麗に飛んでいた。
「しかし、英夫君は何ともないのねー。案外、将来は酒豪かも」
 ヒャクメは最後に冷静に分析した。


今までの評価: コメント:

この作品へのコメントに対するレスがあればどうぞ:

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp