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GS〜Next Generation Story〜

明かされる運命


投稿者名:ja
投稿日時:05/ 8/10

「英夫は?」
「ゆっくり寝ています。今は瑞穂ちゃんが付き添っています」
 小竜姫が妙神山内の病室から出てきた。
「まさか、これほどとはな」
 先ほどの英夫の姿を思い出す。
「最後に、あの二人が止めに入らなければ」
「今ごろ、世界は滅んでいましたね」
 小竜姫が自分の手を見る。
「私と貴方、そしてルシオラ。『人』と『神』と『魔』。偶然とはいえ、恐ろしいものですね。いえ、偶然ではなくこれが英夫の運命だったのかしらね」
と、考え込む。
「力を持つことが、彼の運命なら。ノアは?」
「え?」
「いえ、少し確かめたいことができました。しばらく天界に行っています」
と、離れていく。
「何を?」
「マムに会ってきます。どうやら、英夫には作られた運命があるようですから」
「ああ。だが英夫はどうする?俺もそろそろここを発つが」
 小竜姫が振り返る。
「まだ、追っているのですか?あの『悪霊』を?」
「当然だ。『あいつ』だけは、俺が始末する。この命に代えても。
 これが終われば、俺はただのGSとして今までやってこられなかった『家族サービス』でも始めるか」
 その言葉に小竜姫は小さく反応する。
「そうですね。考えてみれば私達は英夫に寂しい思いをさせて来たのかもしれませんね。妙神山の管理人としてここをあまり離れられない私と、あなた。でも、貴方はともかく、私は」
 自分が横島とは違う事を思い出す。夫婦とはいえ、彼らは人間と神族なのだ。いずれ誰よりも哀しい思いをするのは自分なのである。
 そして、今度は振り返りもせずに離れていく。
「すまないな、英夫」
と、病室を見る。
「俺は、ただ過去に囚われているだけなのかもしれない。あの時、あの子を守れなかった罪に。そのためには、『あいつ』を討たなければならないんだ」
 そして、病室にいる一人の少女の顔を思い出す。
「運命か。俺たちの子供がこうしてめぐり合ったのも運命なのかな。おキヌちゃん?」
 皮肉な運命だ。横島自身が自分のGSとしての甘さゆえ傷つけた少女―かつての最愛の人―の娘がこうして自分の息子とめぐり合っているのだから。そう考えると、全てが誰かの掌の上で踊らされているのかもしれない。少女が傷つき、その傍らから離れた自分、そして、神族小竜姫と過ごした日々の中、生まれた子、英夫。
「まあ、いいさ。俺は誰の掌の上であれ、精一杯踊ってやる」

 星井瑞穂はベッドの横に備え付けられているイスに腰掛け、眠っている少年の寝顔を眺めていた。
「やっぱり、結構いい男ね」
 しかし、それ以上に英夫には何かを感じていた。それは、英夫の手に触れた瞬間に頭の中に浮かぶ映像のことでもあるし、それ以上に何かを感じていた。
「試して見る価値はあるわね」
 幸い、病室には二人しかいない。
 そして、英夫の手をゆっくりと握る。

 それは、永い一瞬だった。時計の針は数秒しか進んでいなかった。
その間に瑞穂は永い夢を見ていた。英夫の、いや、彼が受け継いだ父親のDNAが彼女に見せた。横島忠夫と氷室おキヌの若かりし時、その愛に満ちた日々を。そして、一体の悪霊によって引き裂かれた運命。
「こんな事があったなんて」
 瑞穂は横島忠夫が現在も世界中を旅し、その悪霊を追っていることを知っている。まるで、彼自身の罪滅ぼしであるかのように、彼は悪霊を捜し求めている。そして、英夫の顔を見る。先ほどのノアに美希が殺された時の英夫の変化振りを思い出す。
「貴方の力の源が【怒り】だったとすると、貴方のお父さんの力の源は何だったのかしらね?」
 もちろん、彼の力の源が【煩悩】であったことを知るはずもなかった。

「う、うーん!」
 英夫はゆっくりと体を起こす。
「俺は………」
と、傍らを見ると瑞穂がイスに座りながら眠っていた。
「ああ、お目覚め?」
 瑞穂が目をこすりながら尋ねる。
「ここは?」
「妙神山よ。まだね」
「そうか。美希は?」
「私なら大丈夫です」
 美希が部屋に入ってきた。
「死んだと思ったんだが?」
「お生憎様ですね。この通り何ともないです。でも、記憶に障害は見られませんね?」
と、英夫の顔を覗き込む。
「そうよ。あの化け物じみたヤツは何だったの?」
 瑞穂も先ほどのことはひとまず置いといて、ノアとの戦闘を思い出す。
「解らない。ただ、あの時の記憶はあるんだ。どうやら、能力と人格が変わるだけで、記憶は共有しているらしい」
「でも、良かったですね。何とか無事で」
「ああ、そうだな」

「お話があります。マム様」
 小竜姫はマムに謁見をしていた。
「そろそろ来る頃だと思いました」
 マムは相変わらず慈愛に満ちた雰囲気を出している。
「聞きたいことは何ですか?英夫君の事?ノアの事?」
 やんわりとした声だ。しかし、それが今は不気味でもある。
「それを含めてです。何を企んでるんですか?」
 対照的に小竜姫の声は鋭い。
「あらあら、それが神族の長に対する態度ですか?」
 少し、空気が揺れる。
「神族である前に、母親ですから」
 小竜姫はひるまない。
「なるほど。母は強しというわけですね。
 いいでしょう。お話ししましょう」

 壁が吹き飛ぶ音が聞こえる。
「だ、駄目です」
 下級魔族の声を無視して一人の魔族が入ってきた。
「カインか?」
 デビルの前にカインが姿を現す。
「お久しぶりですね。デビル」
「ほんまに。これだけ近くで話すんは神魔戦争以来やね」
 のんきな口調だが、その目は鋭い。
「用件は解ってるんでしょう?」
「そうやな。かつては俺の親衛隊長を努めたお前や」
「では、教えていただけますか?あなた達の計画を」

「ねぇ。小竜姫さん、私の、いえ。私とデビルの望みって解りますか?」
 ゆっくりと尋ねる。
「それは、神族と魔族が共存し、人間とも上手くやっていくということでは」
 さも、当然のように答える。しかし、その答えにマムは首を横に振る。
「違います。私達個人の望みです。解りませんか?」
「ええ。思いつきません」
「そうですか」
と、哀しそうに上を見る。
「アシュタロスを覚えていますか?」
「はい。覚えています」
 かつての敵を思い出す。
「彼の犯した罪はとても大きかった。でも、彼を私達は許しました。何故だか解りますか?」
 小竜姫は黙る。
「それはね、私とデビルの望みは彼と同じ。自らの滅びだったからなのです」

「自らの滅び?デビル。あなたは何を言ってるんです?」
「そう。俺達は永遠ともいえる時間を生きてきた。そうなってくると望みは唯一つ。自らの滅びだ」
「デビル。あなたは滅びたかったのですか?では、神魔戦争は?あれは相手を滅ぼすための戦いですよ」
 語気が強まっていく。
 当然だろう。彼は、そして彼の同僚らはそれを目的として命をかけてきた。
「そのニュアンスは少し違う。あれはどちらが強いかではない。どちらが滅びることができるかや。お互いのトップは滅びを望んで戦ってたんや」
「それじゃあ、俺達は何のために戦ってたんだ」
「お前はより強い者との戦いを望み、他の者もそれぞれの目的で戦ってきた。それは事実や。でもな、俺は、滅びたかったんや」
 そう言って、哀愁を漂わせる。
「しかし、神魔戦争も終わり、デカントに突入してもうた。俺達の目的も達成できひんまま時間だけが過ぎた。そんな時や。横島英夫が生まれた。
 なあ、俺達が滅んだ後。どうなると思う?」
「それは、おそらく神魔界の秩序が乱れ、神魔戦争が本格的に再燃するのでは?」
 現在の武闘派の魔族がもっとも望んでいるもの。神魔戦争の再来。そして、今度こそはどちらかが滅びる。
「半分当たりや。おそらく、神魔界は統一される。いや、統一させなあかん。神と魔。二つの相反する者がおるからややこしくなるんや。それなら、一つになってしまった方が安定する」
「なるほど。あなたの目的はだいたい解りました。では、その統一されたあとの神魔界は誰が率いるのです?圧倒的なカリスマ性と力。この二つがいるのですよ?」
「わかっとる。しかし、お前にはその心当たりがあるんとちゃうか?」
 そう、彼には一人心当たりがあった。【神】と【魔】のチャクラを持ち、圧倒的な力を誇る一人の男。
「まさか、横島英夫?」

「英夫を新しい世界の王に?!」
「そうです。神と魔と人。それぞれのチャクラを持ち、圧倒的な力を持つ。相応しいと思いません?」
「そんなことを言われましても」
「あなたの気持ちも解ります。しかし、あの子にはその素質がある。おそらく、あのような者は今後生まれてこないでしょう。だから、私たちの長年の夢を果たす最後のチャンスなのです」
「状況は解りました。でも、私は反対です。何より、あの子にはそれだけの力がない」
「そうです。だからこそ、あの子の力を増大させる、『触媒』となる者が欲しかった。解るでしょう?」
 小竜姫には一人心当たりがある。
「まさか、ノア?!」
「ノアは形式的には魔族側の力の補完のためですが、事実は違います。彼女には英夫君の力を増大させるために生まれてきた者。解るでしょう。彼女の運命が」
と、天を仰ぐ。
「横島英夫。彼の誕生を知った私とデビルは、早速彼を見に行きました。
 さすが、貴方の子供ね。その霊力は人間の域を越えていました。そして父親が、あの『横島忠夫』であることを知り、私達はある可能性を信じ、そして確信しました」
「3つのチャクラ?」
「【人】、【神】、【魔】。しかし、これらの3つのチャクラを同時に持つ者は現れなかった。人間と神族の子や、人間と魔族の子は数多く存在はしました。彼らは、人間以上の力を持っていましたが、所詮は神族や魔族には及ばなかった。
そして、正反対の力【神】と【魔】を持つ者は当然ながら存在しえなかった。いえ、かつて一人だけいた、いえ、造ったのですが」
と、昔を思い出す。
「そして、私達は気付いたのです。いえ、知ったのです。【神】と【魔】では共存できませんが、そこに【人】のチャクラが加われば安定し、強い力となる。まるで、今の世界みたいですね」
 小竜姫の方を見る。
「横島忠夫と氷室おキヌ。この二人の別れがあの子を誕生させた。おそらく、あの二人が結ばれない事はありえないと私は考えていたのですが、運命とは時として残酷ですね。
 しかし、あの事件が私達に大きなヒントをくれました。横島忠夫の欠点はおそらく横島英夫にも受け継がれている。そう、彼の欠点」
「甘さ、ですね。忠夫さんは心の底が優しすぎた、それは人間としては長所ですが、ことGSとしては最大の欠点となる」
「さすがは、良くご存知で。
 しかし、あの事件以来、横島忠夫は変わった」
「ええ。GSとして一皮むけたといっても過言じゃないでしょう。絶頂期の彼には、私でも勝てたかどうか解りませんからね」
 横島忠夫が聞いたら諸手を挙げて喜びそうな賛辞である。
「そこで、私達は一つの決断を下しました。彼の最大の欠点となりうる甘さ。それを除くための存在。それがノアです。
 最大級の力を与え、顔も横島忠夫とあなたの好みを融合させた美形に仕上げました。そして、彼女に横島英夫が惹かれながらも、彼女を倒す。そして、彼は精神的にも強くなり、新世界の王に相応しくなる。
 そう、踏んでいたのですが」
と、片手で頭を抱える。
「まさか、あそこまであなたの息子が甘いとは思いませんでした。そして最大のミスは、ノアが横島英夫に惹かれてしまったことですかね」
 その点は小竜姫も薄々感じでいた。
「しかし、彼女の運命は横島英夫をただ強くする事。横島英夫に惹かれる自分に、倒さられなければならない自分。その狭間で、苦しみ、哀しみ、そして力を増していった。彼女の強さはそこです」

「なるほど。ということは、私のことも計算内だったと?」
「ああ。魔族の中でもトップクラスに武闘派なお前や。おそらく、横島英夫に戦いを挑むのは目に見えとった。その時に、ノアを同行させることもな」
「なるほど、私は手のひらの上で踊らされていたというわけですか」
 そこで、カインは振り返り歩き出した。
「私は、横島英夫に戦いを挑んできます。この馬鹿げた計画を滅するためも、あいつを殺します。あなたの今の話をすれば、同調する仲間も多いでしょう」
「なるほど。良い考えや。横島英夫が死ねば俺は死ねない。そうすると、お前が望む戦いは永遠に続くというわけか。俺がそれを見逃すとでも?」
「俺達にやられるような奴では計画は遂行できませんよ?」
「よく解っているな。好きにしろ。それで死ぬなら、横島英夫はその器やなかったっちゅうことや」
「自信がありますね?」
 さも、意外そうに言う。
「お前は見てへんかったんか?あの化け物じみた姿を」
 ノアですら足元にも及ばなかった英夫の脅威を思い出す。
「それは、是非戦ってみたいですね」
 そう言って歩き出す。
「私は『あの者達』を使います。解りますよね?神魔戦争時代、最凶とおそれられた魔王親衛隊」
「忘れへんよ。お前がその隊長やった」
「そうです。最凶が故に最強だった我が直属の部下4人。彼らとともに横島英夫を殺します」
 そう言って出ていった。
「まったく、カインも物騒やね。あの4人を使うやなんて」

「というのが事の真相です」
 小竜姫は黙っている。
「どうなさいますか?小竜姫さん?」
「私には、どうすることもできないのですね。でも、英夫には普通の、人間として生きて欲しい」
「その前に、気にしなくてはいけないことがありますね。おそらくはこの事は他の誰かも知るはず。武闘派の連中が聞きつければ、英夫君は狙われ続ける。どうなさいますか?」
「守るしかないですね。母は強しです」
「………。あなたは、つらい運命ですね。神族であるが故、愛する人間とは生きられない。横島忠夫さんが死ぬ頃にも、あなたは生き続ける。今と変わらぬ若さで」
「それが、私の運命です」
 少し、俯く。
「一つ、アドバイスをあげましょう。これは私の占いの結果ですが」
と、小竜姫の顔を見る。
「横島忠夫さんに大きな影響を与えた女性達。美神冷子、ルシオラ、そして、あなた。この三人の女性が今の彼のGSとしての力、人間性を作っていると言っても過言ではありません。そして、彼の息子。横島英夫君も同じ運命にあります」
「三人の女性」
「あなたなら、その三人が解るんじゃありませんか?そのうち、一人は霊力はともかくとして、気になりませんか」
「しかし、彼女がいくらがんばっても神族クラスになれるとは思えません」
「そうです。彼女には莫大な霊力を授ける必要がありますね。あなたなら、その方法が思いつくんじゃありませんか?」
「まさか、あの方法を?」
 小竜姫は一つの方法を思い出す。しかし、それは同時に神族・小竜姫の消滅を意味する。
「小竜姫さん。あなたは何年生きましたか?」
「数えてはいません」
突然の質問に驚きながらも答える。実際に、もう数えてすらいない。
「そうですね。貴方は長く生きています。永い間、我々神族の為に尽くしてくれました。後は、あなたの自由にして下さい。それが、私からの褒美です」
 その言葉が小竜姫に一つの決断を下させた。


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