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極楽人生

野獣を魅了せし刀


投稿者名:BJL
投稿日時:05/ 8/ 9

 そこには二人の男と一人の女が居た。
 カーンっと金物を叩く耳に良い音が、部屋を支配する。
「やっと出来た。おい、起きろ!!」
 男は自分の刀に声をかけた。
 別に正気を失ったとか、変な電波が繋がっているわけでもない。
 では、何で話しかけるのかと言うと、答えは一つ返事をしてくれるからだ。もちろん妄想ではない。返事が出来るように作られたのだから。
『何だ我を作りし人間よ』
 刀はどこにも口が無いのに、平然と喋り出した。
「おお、成功したか!?さすがに成功をするかどうか不安だったが、無事に出来て俺はうれしいぞ!!
 見てくれよカオスのじっさん!!」
「ふん。わしの技術と頭脳さえあればこんなもの簡単に作れるわい。のお、マリア?」
「イエス。ドクター・カオス」
 男は刀を持って落涙をしながら言った。
「本当にありがとうございます」
『・・・・おい』
「まあ、わしも久しぶりに感動できるものを拝めてよかったわい。
 さて、わしも本来の目的を達成させてもらおうか・・・・」
「本来の目的?」
『・・・おーい』
「ふっふっふっ。君の肉体じゃよ」
「え・・・・」
 刀を持つ男の顔がみるみるうちに真っ青になっていく。
「ふっふっふっ。そう怖がる事はない。成功すれば私は神に一歩近づくのだ!!ふっふっふっふ。ハーハッハッハ」
 部屋を震わせるように高笑いを始めたカオス。そして、息を吸う為に笑いを止めて前を見てみると・・・・。
「って、あれ?あの男は何処に行った?」
 カオスの目の前に居た男は影も形も無く消え失せていた。
「二十秒前に「貞損の危機だー!!」と言って逃げました」
 カオスの質問にマリアが冷静に答えた。
「へ・・・・?」
 パチンと火鉢が申し訳なさそうに鳴った。

 ここはさっきの家からかなり遠ざかった裏路地。
 男はここで一息をつくため座り込んだ。
『我を無視するでない!!』
 思わず刀は大声を上げる。
「ああ、すまんすまん。
 ちょっとした感動と恐怖でオマエの存在を忘れていたよ」
『自分で作っておきながら、忘れるでない!!』
「いや、だからすまんと誤ったではないか。
 怒ってばっかりおるといつか血管が切れるぞ」
『我に血管などない!!』
「ああ、そういやあオマエは全身が鉄だもんなぁ。
 いやぁ、普通に話すとどうも人と話しているような錯覚に陥るよ。ハッハッハッ」
『・・・・一体何の為に我を作りだしたのだ?
 もしや、話す相手もおらず人恋しさに我を作り出したのか?』
「いや、そんな事はない。話す相手ならほんの少しはいるからな」
『さっきのご老人か?』
「止めろ!さっきの事は思い出させるな!!思わず尻を押さえて逃げ出したんだぞ俺は!!!」
『す、すまん。では、何の為に我を作ったのだ?さあ、申してみよ?』
 男は真剣な目で刀を凝視する。そして、一滴の汗が頬に流れた。
「・・・・忘れてしまった」
『なにー!!』
「いやぁ、当初は目的が有ったはずなのだが、作るのに必死で何の為に作ったのか分からなくなってしまった」
 ポリポリと頭を掻きながら男は言った。
 刀はショックのあまりしばらく放心状態に陥ってしまった。
 一人と一刀はそのまま時が止まったかのように黙り込んだ。

 そして、カオス達の居た村から逃げ出して一週間が過ぎた日に事件は起こった。
 男が少し深い林を歩いていた時、辺りの気配がいちじるしく変わった。
「おい、出て来いよ」
 大きな声では無かったがそれなりに迫力が有る。
「チッ、ばれたか」
 出てきたのは三人の山賊達だった。
 男を囲むようにして現れた。
「さあ、兄ちゃん。命が欲しければ金目の物を置いて行きな。そうすれば、命だけは見逃してやるからよぉう」
 刀の刃をちらつかせながら、山賊Aは男に近づいた。
「悪いが、俺は貧乏だ。今も生きるか死ぬかの瀬戸際に居る」
 男は拳を眼前に出し、中指を立てて自慢にもならない事を堂々と言った。
「ああん、テメェ俺達をなめてんのか?」
「さっさと金目のもんを置いてけやぁ」
「それとも俺ら三人と戦って死ぬかぁ?」
 どんどん三人の顔が男に近づいてくる。
「いえいえ滅相もございません。自分はただ、アンタ達の親分に会いに来ただけですから」
「は?何を言ってやがる?」
「あれ、違うのか?あそこに居る奴に脅されているとてっきり思っていたんだが・・・」
(そこだ!!)
 男の手から放たれた一本の脇差しが木に突き刺さった。
「おい、さっさと出て来いよ」
「おいおい、何を言ってやがんだ?」
 見事に無視されている山賊たちは男の行動に困惑していた。
 木からヌラっと何本もの触手を生やした人外の者が出て来た。
「妖怪か?」
『その通りネ。
 ・・・何をやっておるネ?ささっとそこの男を殺れネ!!』
「ひぃぃぃぃ。な、なんだありゃ!?」
 山賊は脅えた目つきで人外の輩を見る。
 中には腰が抜けた奴も居る。
「邪魔だ!!」
 男は山賊たちを押しのけ、普通の刀を手に取り、触手の化け物に挑みかかった。
『何故、我を使わん?』
 腰から一本の刀から声が聞こえた。
「おまえのような頭が固いタイプは使うだけじゃあ、いけないんっだ」
 触手の化け物も迎え打たんとばかりに自分の触手を男に向かわせた。

 何本何十本は切っただろうか。だが、触手の勢いは止まらない。
 男は迫り来る触手にしか注意をしていなかったから気付かなかった。
「うおっと」
 地面から新たに出現した触手に足を捕らわれてしまった。
 いきなり足に触手が巻きついた事に驚き、危なくこけそうになってしまい動きが鈍くなってしまった。その間に触手 の妖怪は男を持ち上げた。そして、他の触手で男の胴体を縛り自由を奪った。
 その後は、何度も男を地面に叩き付けた。
「グッ、くそ、離しやがれ、がっ!!」
 触手の一本で男を殴った。そして、妖怪はくるりと男の方ではなく、山賊達の方を見た。
『さて、少し腹が減ったネー』
 妖怪の放った尖った三本の根が山賊たちにものすごい勢いで迫る。
「ひぃぃぃぃ!!ゆ、許してください!!何でも言うことは聞きますから、お願いします」
 山賊たちは腰を抜かし、動けずにいた。急に、三本の根が山賊達の目の前で急停止した。
『何でも言う事を聞くネか?』
「は、はい。何でもです」
 助かるという微かな希望と喜びで胸を震わせた。
『・・・じゃあ、食わせるネ』
 根が三人を貫いた。
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
 根の色がだんだんと赤くなった。そして、三人の身体はみるみる内に乾き皮だけになった。
 男は黙ってその光景を見た。
『やっぱ、まずかったネ。お次はメインデッシュネ』
 そう言って、三人の遺体を無造作に捨てた。
『さて、キサマはどんな味か楽しみネ』
 触手がお腹かから退いて、さっきの山賊から吸った根を男に当てる。
「おい、聞きたい事が有るんだが、いいか?」
 男が口を開いた。
『何だネ。最後の言葉ぐらいなら、少し聞いてあげるネ』
「ああ、ありがとよ。
 四日前にここら辺に小さい女の子が来なかったか?特徴は髪に紅色のリボンを付けていたんだが・・・」
『・・・・知らんネーっと言ったらどうするネ?』
「いや、どうもしないさ。ってか、出来ないかな。なんせ、手も足も使えないんだからさ」
 妖怪は笑いながら、自分が出てきた木の根から土を掘り返し、紅いリボンを取り出した。
 所々は土で汚れていたが、見分けはつく。
「それは!!」
『ギャッギャッギャッそうネ。キサマが思う通りネ。
 アア、やっぱり人間の女の子の血は最高ネ』
「テメェ!!」
『それに、あの恐怖に引きつられた顔!!あれは最高の調味料ネ。しかも、震える声も最高だったネ。
 今、思い出しただけでも涎が止まらないネ。ああ、そう言えばあの声も最高だったネ』
「あの声?」
  男は思わず聞き返した。
『あの声をもう一度聞きたいネ。「お母さん助けてぇ」って、ネ。何度も泣きながら叫んだネ。
 ああ、最後の最後まで最高だったネ。おいしいからついついゆっくりと味わってしまったネ。時間をかけてじっくりとネ。ギャッギャッギャッ何をとっても最高の食事だったネ!!』

 ブチン

 男の何かが切れる音がした。
「その子の母さんはな、二日前に首を吊って死んだよ」
『ギャッギャッギャッ。それはそれは馬鹿だネ』
 男は妖怪の言葉を聞いてはいなかった。
「聞いた話では、干からびた自分の娘を見て発狂したらしいぜ」
『ギャッギャッギャッ。その人間は弱いネ。子供なんて作れば良いのにネ。人間はすぐに子供を作れるからネ』
 妖怪は笑い終わると、男を這っていた触手を離した。
『ギャッギャッギャッ。良いつまみになる話をありがとネ。さて、キサマの味はいかがかネ?』
 根が一直線に男を貫こうとする瞬間男の手は刀に触れていた。
(おい、聞こえるか?)
(無論だ)
(俺はこの妖怪がむかつく。オマエはどうだ?)
(我も吐き気がしていた所だ)
(だったら、これがオマエの初陣だ!!しっかりと輝けや)
(我を作りし主よ。我は全力で主に尽くそう!!)
 人の心と刀の心が重なり合った。
「をぉぉぉぉぉぉ!!」
 刀の柄が男の手に入って、柄をだんだんと上へと引き寄せる。徐々に刀身が現われ、輝き出す。
『何ネ!?何が起きたネ!?』
 妖怪の動きが驚きで止まった。もし、このまま根で男を貫いていたら未来は変わっていたかもしれない・・・。
「はぁぁぁぁぁああああ!!」
 男を捕らえていた触手に皹が入る。
『ぎゃぁぁぁぁ!!き、キサマぁぁぁ』
 妖怪は男の顔に狙いを付け、根を走らせた。
 男の身体は完全に触手をやぶり、刀を抜いていた。男は空中で一回転をして、スタッと着地をした。
 妖怪の根はそのまま男を貫こうと走る。その後にも無数の触手が付いて行く。
 男は目を瞑った。それは、怒りを押さえる為だった。
(怒りでは一時を凌げたとしても後は続かない。冷静を保て俺!!)
 自分に言い聞かせるように心で自分を責める。
 男は刀を振り上げた。
 根が眼前まで近づく。
 男の目が開いた。
「やっぱり、怒りを押さえるなんて無理だな俺には!!死にさらせ、このウネウネ野郎が!!」
 男は刀を振った。目の前に有った根が真っ二つに切り裂かれる。続いてその後に続いていた触手をも断ち切って、本体まで切り裂いた。
『ぎゃぁぁぁぁぁ!!』
 妖怪が断末魔を上げた。
 だが、まだ倒れなかった。
「人間はなぁ、簡単に子供を作れるかもしれねぇ!!だがな、代えなんて居ねぇえんだよ!!」
 刀が男の心を刃に変え、解き放った。
「極楽へ、行ってきな!!」
 男が振った回数は一回だけだった。だが、妖怪の身体には八つの刃が刻み込まれた。

 男は紅いリボンを依頼主である老人に渡し、何も言わず黙って姿を消した。
 後に残った老人はただただ紅いリボンを握り締めて、泣きながら男に頭を下げていた。

 男が歩いている途中に女の子にぶつかった。
「お、おい。大丈夫か?」
 あわてて女の子を見ると、こっちを見て笑っていた。
「すまんな、少しボーっとしちまってた」
「ありがとう」
「は?」
 いきなりお礼を言われ、意味が分からなかった。
 そして、女の子は駆け出した。
 その女の子の頭には紅いリボンが付いていた。

 それからもたびたび問題を起こったが、平穏無事に過ごした。
 それと、刀の新たな能力も発見できた。
 ある依頼でまた妖怪を退治した時に気付いた。それは、相手の霊力を奪ってしまうとゆう能力であった。
「オマエって何か無敵だな」
『お主が我を作り出したのだ。だったらお主は何者だ?』
「俺か、俺は最強のサムライだよ。オマエとゆう相棒が居るからな。
 ・・・そう言えば、オマエには名前が無かったな」
『別に名前などいらぬ。名前が無くても我は我なのだから』
「そうだなぁ、八つの刃が出ることと、霊力を溜める事から、八房っていうのはどうだ?」
『無視か!?それに、名前などどうでも良いと言ったであろう』
「まあ、そう言うな、よろしくな八房」
『ふん。今更とゆう感じはするが、まあいいだろう。
 ・・・そういえば、何故我から八つの刃が飛び出るのだ?』
 男は刀の言葉にハッとする。
『何故[八]とゆう中途半端な数字なのであろう?』
「・・・・たぶんそれは俺のせいだろうな」
『?』
「そういえば、俺の過去なんて話した事なんて無かったな。
 俺はな昔、妖怪退治をしていたんだ。そんときはホント毎日が地獄だったなぁ。
 何でかは知らんが、俺の剣“村雨”が目的だったんだろうな。
 俺はいっつも妖怪に狙われていて安らぐ日が無かった。そんな地獄の日がついに最終日になった。あと少しで死ぬって瞬間が有ったんだよ。
 そんな時に俺は何て考えていたと思う?俺は頭の中で痛くなけりゃあいいなーって思っちまったよ。
 笑っちまうだろ?死ぬ瞬間に恐怖や相手に対する憎悪が全く無かったんだ。
 あと一歩で妖怪が俺の喉首を貫く瞬間死んだのは妖怪の方だったんだ。
 俺はアホウの様に口を開いたね。そして、目の前に居る男が言ったんだよ。『よっ、兄弟』ってね。
 そいつから聞いた話なんだけどよ、俺って【犬士】とかゆう勇者なんだとさ。俺には自覚ねぇんだけど。
 俺は男の顔を見て言ったのさ『バッカじゃねえのか?』ってさ。まあ、助けてくれたと言う恩もあってそいつと一緒に旅をしたんだ。
 そして、気付いてみたら仲間がいつの間にか俺を合わせて八人もいやがる。その時のチームのあだ名は【八犬士】っていう名だったかな?だってな、みんながみんな【犬】っていう漢字が付いてたんだぜ。笑っちまうだろ?
 そん時が俺の人生で一番楽しかったかな。まあ、オマエとの出会いもなかなか楽しいけどな」
 男の顔が青い空に向いた。目が懐かしさと悲しみでいっぱいだった。
「でもな、どんな良い奴でもいつかは別れちまうんだ。
 気付いたら、俺は一人になっちまってた」
 誰にも見られるわけでもないのだが、男は手で顔を覆った。そして、顔を着物で拭きいつものように明るく言った。
「まあ、そんな暗い話しはさて置き、何で八つの刃が飛ぶがだが、たぶんアレを混ぜたおかげだろうな」
『アレとは何だ?』
「何かな、珠の中に字が書き込まれてたんだ。たしか、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌だったかな?
 たぶん、いや、絶対にオマエの刃の数に関係が有るものだ。いわゆる、オマエの出す刃には一つ一つ意味が有るのさ」
『・・・・そうであるか』
 八房は言った後黙り込んだ。

 男はある日旅人の女を助けた。
 その女は人狼だった。
 男は人狼の里に行きやがてその女と結婚をし子供を産ませた。
 男は死んだ。別に妖怪に殺られたとかではない。純粋な寿命だ。まだ若い母親と男の子を残したまま死んだ。
 人間の寿命など人狼にくらべれば微々たるものだ。だが、男は幸福の中で死ねた。

 男が死ぬ前に八房に言った。
「次にオマエを手にする奴が良い奴だと良いんだがな」
『お主は歳をとってもうろくでもしたか?
 我のような巨大な力を持つ刀を持って正気でいられる者などそなたしかおらん』
「いや、そうとも限らないんじゃないかなぁ?
 俺は信じるよオマエを手にする奴は仲間思いで、仲間の為なら命を無くしても良いと言う奴がオマエを使ってくれるとな」
『おると良いな』
「いるさ」
 それが八房の最後に聞いた自分を想像して作った男の言葉だった。
 その後、八房は危険視され封印を何重にも施された。
 八房は破壊されても何日かしたら元に戻ってしまうのだ。だったら、誰も使わない様に八房を眠りにつかせる事に村は一致団結をした。
 八房はそれで良いと思った。自分のような力を持った物が居るといつか災いになる。
『我は眠ろう。我を目覚めさせる物があの男の言うような者なら良いのだが・・・』

   何年

   何十年

   何百年

 どの位の時が経ったのだろうか、八房の封印は再び解かれた。
 八房の封印をしていた御札が全て吹き飛んだ。
「これがか、さすがは妖刀八房・・・!!
 よく斬れそうな刃よ!」
『我の目を覚ます者よ、何者だ?』
 八房を持つ男がギョッとしためで刀を見る。だが、それも一瞬だけだった。
「さすがは妖刀!!口もきけるのか!?」
『お主は一体何の為に我を目覚めさせたのだ?』
「ふっ。知れた事。拙者のいや、我々犬神族の悲願を達成する為に力がいる。
 その為にお主の力がいる」
『・・・我は所詮道具だ。好きにするがよかろう』
「さすが犬神の先祖が作った刀だ。聞き分けが良いな」
『何を言っているのだ?我を作ったのはにん――』
 八房の言葉はそこで途切れた。何故なら、一人の右目に布を巻きつけた隻眼の来訪者が来たからだ。
「何をしている犬飼!!その刀は使ってはならん決まりであろう!!」
「これはこれは犬塚殿ではないか、一体どうしたのですかそんなに慌てて?」
 犬塚は渇を入れんばかりに怒鳴るが、それを犬飼は軽く流した。
「ここは見なかったことにする。すぐに八房を鞘に収めよ」
「嫌だと言ったら?」
「その時は・・・・斬る!!」
 犬塚の声には全くの迷いはなかった。現に犬飼が変な行動をすればすぐに斬るとゆう意思表示なのか柄に手をかけていた。
「これは恐ろしい。・・・・あなたとは殺し合いなどはしたくない。ここは拙者が退きましょう」
 そう言って犬飼は八房を鞘に収めようとした。
 それを見て犬塚も柄から手を離した。
 次の瞬間に決着はついていた。
 犬飼が八房を振ったのだ。
 犬塚は反射的に刀を手に取り、刃を弾いた。だが、反応が出来たのは五つまでだった。

ザシュザシュザシュ

 右手右足右腹に刀傷が生まれる。どれも致命傷と言っても良い。
 犬塚は倒れた。
「い、い・・ぬかい。・・・き、きさ・・まぁ」
 どれもか細い声にしかならなかった。
 犬塚は自分の命の灯火がだんだんと削られていくのを感じた。
「油断大敵ですよ。では、失礼します」
 そうして、犬飼は犬塚の目の前から消えた。
「し・・・ろ・・・すま・・ない」

『一体何故仲間を殺したのだ?』
 人狼の里から抜け出してから、しばらく経ってから八房は言った。
『お主は言ったな「我々犬神族の悲願を達成する為に力がいる」っと。
 さっき殺めた者もお主と同じ犬神ではないのか?』
「あんな野良犬に成り下がった男など居ても拙者の邪魔にしかならん。
 それに、野望には少なからず犠牲が付きものだ。あやつも我々のために死んだそれだけだ。
 そう思えばあの男も本望だろう」
『・・・そうか』
「話は終わりだ。さて、楽しい狩りが待ちどうしいな」
 そして、犬飼ポチは人里に降り立った。

 こうして、我は何人者の血を吸い霊力を貯えた。
 最後には男の思い道理にフェンリルになる力を手に入れる事となった。
 そして、我の役目は終わった。
 銀の弓が我を打ち抜いたのだ。
 それ以降の記憶など無い。
 だが、気付くと我は再び元の形に戻っていた。
 ほとんどが白いっと言っても良い老人の人狼が、我を再び封印をしようとしている。
 どうやら、あの男の野望は費えたようだな。
 そう言えば、最初に斬った男の名前はたしか犬塚・・・もしかして・・・そんなわけは無いであろう。いや、あってほしくはないな。
 それにしても、我は疲れた。
 もう、我を使うなどと愚かな者が居ない事を心から願おう。




 なあ、犬塚信乃よ、何故お主は我を作ったのだ?




 刀は一生返ってこない答えを待ち続けた。




――続くかも――


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