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BACK TO THE PAST!

続・ケジメ


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 7/28

「先生は己のエゴを満たし、その結果回避できた苦悩は、全部拙者に回す気でござるか・・・。



冗談じゃないでござるっ!!」
「んぐっ!?」
横島は胸倉を掴まれて、つるし上げられた。
逆光で陰りが強くなった、悲しみと憤怒を混ぜたような、強烈な意思を感じさせるシロの顔に目がくぎ付けになった。

ここで暮らすようになってもうすぐ一年が経つが、その間彼女がここまで意思をはっきりと示した事は一度も無かった。横島はそれを彼女の、自分への少々甘すぎる愛情ゆえのものだと思っていた。そして、その甘さに甘えてもいた。

「挙句の果てには、俺の事を想うなら、などとほざくでござるか。

勘違いしているようでござるな。・・・拙者はこの一年一度たりとも先生の為に自分を殺した事など無いでござるよ。
ただ、拙者がそうしたかったから、そうしたに過ぎないでござる!」

横島の考えは浅はかだった。もしかすると、彼女の優しさに触れすぎたがために、自信過剰になっていたのかもしれない。

「そして今までやってきた全ての事は・・・先生と何時までも一緒に居るための物でしかないのでござる。
学業の道を自ら断ち、あなたに追いつこうと必死になった。修行の合間を縫って、料理も覚えたでござる。掃除洗濯も頑張ったでござる。そして今も、あなたに好かれるために、頑張ってきた。

この努力、そう簡単には、無駄に・・・・出来んでござるよ」
声が弱まると同時に彼女の腕の力も弱まり、地に下ろされた横島は軽く咳き込んだ。
そして開放された彼は反論を始める。

「ぐほっ・・・げほっ・・・。何、馬鹿なこと言ってんだよ・・・。

お前は若い。そして過ちも犯しちゃいねぇ・・・。お前には、まだ未来があるんだ!


――――その事こそ無駄にしちゃいけねぇ事だろうがっ!」


「違う!己が信念を貫き通さずしてすごす未来など、何の価値もないでござる!」

「この分からず屋のバカ犬がっ!俺の生活がどういう物か解からねぇのかよ!
逃げても逃げても追われつづけて、せっかく手に入れなおそうと思った物も全て奪われる・・・。


朝から晩まで襲われつづけ、まともに眠れる夜なんか来やしねぇ!


血で血を洗う絶え間ない殺し合いの連続で、もう、俺の両手は・・・汚い血で真っ赤だよ。


解かるだろう?そんな世界にお前を、連れて行きたくないんだ」
横島は悲しげな目でシロを見た。その声は未だかつて無いほど情熱的で、深い悲しみに満ちていた。
そんな彼の心をぶつけられたシロは、一時言葉につまり目を伏せる。だが決意するかのように拳を握り締めると言葉をつむぐ。
「先生が、そこまで拙者を案じていてくれていると言うことは、解かったでござるよ。それはとても嬉しい。


でも先生は、知っているはずでござる。




残されるって、どういうことかを」

彼女の言葉は巧みに彼の心を覆い隠す氷壁の隙間を縫い、そのド真ん中へと、静かに飛び込んだ。

「ぐっ・・・・!」
横島の顔が怒りか悲しみか判断できないようなカタチで、歪んだ。

「己の半身とも言える人が自分を置いて手の届かない所へ行き、

一人で苦しみ、

一人で傷つき、

一人で、死ぬ。



そして自分だけがのうのうと生きている。

その苦しみに比べたら・・・「やめろっ!!」
声を、横島は遮る。
しかし彼女は口を止めはしなかった。
「・・・その苦しみに比べたら、死の恐怖など微々たる物。
いや、生きることすら苦しみと化す」
「やめて、くれぇ・・・」
地面に膝をついた横島の口から、くぐもった声が漏れる。
シロは、そんな彼の頭を慈しむように抱きしめると、その耳元で、囁くように呟いた。



「拙者は・・・そんな思いをするのは死んでも御免。





だから付いて行くでござるよ。
・・・何処までも」

「・・・・」



もはや、彼には何も言えなかった。



自分が彼女に与えようとしている悲しみ。それを思い出してしまったから。





がらりという音がして、家に開いた穴からタマモが這い出るようにして、庭に降り立った。何処か人を小馬鹿にしたような笑みが勝利を確信したのかのようにその顔に張り付いている。
「ヨコシマ、諦めなさい。・・・・あんたの負けよ。

そうでしょう?」
そう言って彼女はついっと魅力的な唇の端を吊り上げて見せた。


抱きすくめられた横島は、シロの暖かな鼓動に包まれる感覚に支配されていた。
遥か昔に失い、そして求めたくとも自ら自制し、跳ね除けていたモノの持つ、甘美な心地よさが全身を包んでゆく。
だんだんと強張っていた身体の力が抜け、目に穏やかな光が戻る。



「・・・・俺は」



この選択をとって、許されるのか?





彼の震える手が恐る恐る伸ばされ、彼女の身体に回されようとしていたその時、




爆音が鳴り響いた。




ドガァァァァァァァン!!!!




・・・・ドボォッ!!

燃え上がる火柱。そしてその直後、横島達のすぐ近くにナニモノかが、高速で飛来し、地面をえぐる。

「ごほっごほっ・・・げ〜〜〜っほ!・・・貴様ら急げ、ここを離れるぞ!!
通りすがりに時空ゲートを破壊したおかげで少しは時間が稼げたはずじゃ!!」
もうもうと立ち込める土煙の中、しわがれた声が聞こえてくる。






「何をぼーっとしておる、逃げるんじゃよ!


神魔の連中が押し寄せて来るぞ!

ここが嗅ぎ付けられた!!」


涼しげな夜風に土煙が押し流され、現われたのは


半壊したマリアと、額から血を流すドクターカオスだった。















楽園は終わりを告げる。

その主が最も恐れていた、なんとしてでも回避したかった方法によって・・・。










愛しい人を抱きしめる女性の顔に、不安な表情が浮かぶ。
果たして、この腕の中の人がどんな選択を取る気なのかと。


しかし、その運命の選択を握る男は只、無言を保ちつづけるのだった。


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