椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

ケジメ


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 7/27




俺は、何をしているんだろう。





横島は縁側から外を眺めつつ、手元の湯飲みを傾けた。


いや、それよりも俺は・・・・どうするべきなのだろう?


大きな問題だった。普通なら此処で『現状維持・愛のために生きる』と言う選択を迷わずチョイスするところだが、その選択だけはとるわけには行かない。
只普通に暮らしている者には決して解かりえない悩みである。



シロは体調を崩してから数日で回復。今ではあのことが嘘であったかのように元気に家事をこなしている。
天狗の所から盗んできた秘薬『滴る生肉』が聞いたのだろうか・・・?
それは喜ばしい事で、問題ではない。しかし、横島は彼女の回復を見届けたら自分はこの生活を捨てると、そう決めていたのだ。

つまり、別れは近い。

だが、いざ旅立とうと思っても中々決心がつかないのが人間というもので、「もしかしたら、このまま暮らしていても・・・いやいや、神魔を舐めちゃ駄目だ。いつか必ず此処をかぎつける。そうしたらシロはどうなる。それどこらかカオスやマリア、タマモだって・・・」という悩み事を抱えながら何時までも悶々と考え込んでいる横島なのであった。

しかもシロと、何時の間にかあっけなく寝返ったタマモの二人による巧みな時間稼ぎが行われているようで、彼の心はなおさら決まらない。



結局だらだらと時間が経過した。



「ちっ・・・」
と、あまりにも情けなさ過ぎる現状を思い出し、横島は湯飲みを握り締めた。

ぱきゃん!ばしゃっ

「はおっ!?熱っ!」
湯飲みは砕け、熱湯が膝にほとばしった。
げんなりとした顔で茶を服の袖でおざなりにぬぐい、湯のみの破片を片つけ、新しく湯飲みを持ってきてお茶を入れなおす。
「・・・・ちっ」
無性に腹がたった・・・。

しかし怒った所で解かっていながらもシロとタマモの策略に引っかかっている自分や、この雰囲気が何時までも続いたら・・・などと考えている自分もいるわけで、

ふっ・・・

「俺って・・・ヘタレだな」



ずずず・・・とすする、お茶が渋かった。




あお〜〜〜〜ん!


遠くで、命を賭してでも守らなくちゃいけない人の、自分を呼ぶ声(というか遠吠え)がする。
その声を聞いた時、このままじゃいけないと思った。

「さてと・・・ケジメつけますかね」


どっちにしろ決めなくては、ならなかった。





「よぉ、どうした?」

横島が声に導かれてその場に降り立つと(文字通り『飛』んできた)シロは、大きな獲物を仕留め、得意げな顔で笑いかけてきた。
「今日はずいぶんと大きな獲物を仕留めたゆえ、運ぶのを手伝ってもらおうかと思ったのでござるよ」
「そうか、にしてもやたらでかいなぁ」
横島はそのやたらでかい獲物・・・身の丈3mはありそうな猪を見上げるようにして眺めた。
「タタリ神にならなければいいが・・・」
「?」
「いや、こっちの話」

一本の手ごろな丸太にその巨大な獲物をくくり付け、二人で背負って山を下る。
「いやぁ、これだけあれば一週間はもつでござるなぁ」
「ああ、そうだな」
ってこれで一週間・・・
横島は答えてから、自分が以下に人間離れした食生活を再確認する。

しばらく、会話もなく横島は前方で丸太の一端を支えているシロの後姿を眺めていた。
横島といるのが嬉しいのか、それともこの獲物から広がる無限の可能性に思いをはせているのか、テンポ良く振られる尻尾が愛らしかった。

「なぁ、シロ」
「なんでござるか?」
笑顔で、彼女が振り返る。
「・・・・・いや。何でも、無い」
横島は俯いた。シロは一瞬怪訝な顔をした後、



「今日はおーどそっくすに牡丹鍋にでもするでござるよ」


また笑顔で・・・・そう言った。







言えなかった。

言える訳が無かった。


(切り出すのは飯時にしよう・・・)


ああ、俺って駄目なやつだよなぁ。
心からそう思いながら、横島達は山を下り始めた。








その日の晩。横島達の家ではオレンジ色の電球の、明るい食卓の明かりが夜闇を削り、家庭的な雰囲気をかもし出していたが、この家の男、横島の心中はそう穏やかではなかった。
外からはかすかな虫の声が入ってきて、早春の涼しげな気分になってくるが、この状況では少し涼しすぎる。
横島はもそもそと飯を掻き込みながら、じっと切り出す機会をうかがっていた。

ぐつぐつと煮え立つ牡丹鍋(とシロ専用の生肉)を『三人』で囲んで

「そういやお前も来るんだったな・・・」
「何よ悪い?」
横島は頭を抱え、そんな彼にタマモはガンを飛ばした。重い話を切り出すのが、より困難になった。

・・・でも寝返ったとはいえ、この前のタマモは協力してくれるって言ったよな。
あいつ、ああ見えてリアリストだし実は解かってくれたりたりするのか?

横島は言うと決めていてはいたものの、考えていなかった状況に、しばらく言おうか言うまいか悩んでいたがこーゆー考え方もできるな、とポジティブに考えた。

そしてついに、
「はい、どうぞ。先生」
シロが勝手に飯をよそってくれた茶碗を受け取ると、口を開いた。




「話があるんだ」




続いてタマモの茶碗にも飯をよそっているシロの背中が、ぴたりと止まった。

「俺、今凄く幸せだ。お前と暮らして、失ったはずの平和を取り戻したような気分になって。
シロには言葉で言い尽くせないほど感謝してる。
ほんとに、ありがとな。

でもさ、俺は本当はこんな平穏な日々を送れないはずなんだよ。だから何時かきっと、何かがこの生活を壊しに来る。
そんな時、お前を巻き込みたくない。
俺、お前に凄く感謝している。そしてお前の事が・・・大好きだ。

だからこそ、俺は、ここを出ようと思う」


搾り出すような苦しい訴えを吐き出して、横島は俯いた。
側でタマモが物凄い形相でこちらを睨んでいるのが解かる。全身に彼女の怒りの波動が降り注ぎ、肌がぴりぴりした。
伊達に尻尾が九本も着いていないようだ。

「すまん。相手の好意を逆手にとって、自分だけ満足して逃げるなんて・・・・。シロには凄く酷い事をしてるよな。
でもこればっかりは仕方が無いんだよ・・・。他に、何も方法が、思いつかないんだっ・・・。
俺は、お前にまでも・・・苦しんでほしくない・・・。


・・・ごめんっ!」

彼は頭を下げた。


誰一人として声を発する事の無い空間が、しばらく続いた。
幽かに聞こえる虫の声が空気の重さに拍車を掛け、身動きすら取りにくい。

何時までたっても横島の言葉に、シロは答えてくれなかった。
しかしケジメはつけなければならない。

横島は一旦顔を上げ、彼女の背後に周り、その方に手を置いた。
「なあシロ、よく聞いてく・・・・・・・・


・・・おい」
横島の顔があきれ果てたそれへと変化する。

シロは指で、完全に耳をふさいで目をつぶっていた。

「こっちは真剣なんだぞ・・・。とりあえずその耳を塞ぐのを止めてくれ」
横島はシロの両手を動かそうと手を伸ばす

「いやでござるっ!!」

だがそれを振り払うが如く、シロは叫び声を上げた。
頭を抱え込むようにしてその場にうずくまり、これでもかとばかりに耳を押さえ、瞼を引き締める。

「我侭言うなよっ!
俺だって、俺だって辛いんだぞ!!」
横島はうずくまる彼女の両腕を掴んで耳から引き剥がそうとする。
「あんたっ!!」タマモが怒声を上げて彼めがけて狐火を放つ。「邪魔すんなよっ!」しかし横島が、ただ右腕を振るっただけでそれは掻き消え、食卓ごとタマモを吹き飛ばす。
「きゃあっ!」
暖かな夕食がそこら中に飛び散り、先ほどとは一変した悲惨な光景が出来上がった。


「俺といると、死んじまうんだよ・・・」
シロは横島が両耳から手を離させようとするのに必死で抵抗したが、相手は魔神である。例え彼女が人狼であろうとも、あっけなく引き剥がされてしまった。

「美神さんも、パピリオも、ルシオラも、皆俺のせいで死んじまったんだよ!」
ぐいっと、無理やり体を反転させてから押し倒すようにして身体を密着させ、くっ付かんばかりの距離で、横島は今にも泣き出しそうな声で言った。

「頼む・・・・・これ以上・・・・・背負わせないでくれ・・・・お願いだ」

シロは、耳を塞ぐ手を退かされたものの相変わらず目を瞑ったまま、顔を背けている。

だが、横島の

「もう、誰かが死ぬなんて嫌なんだ。だから・・・俺を想うなら尚更、俺から・・・離れてくれ」

この言葉を聞いた瞬間、かっと目が見開かれた。





がっ!





気付いた時には、横島は障子を突き破り、庭に転がっていた。

「つ・・・」
背中の痛みが現実味を帯びる頃、ようやく、自分はシロに巴投げのようなものを食らったという事が理解できてくる。
痛む背中を擦りつつ、上体を起こすと今しがた自分が居た家の壁をぶち抜いて、自分が弾き飛ばされていた事を確認できる大穴が目に入った。

「これ以上背負いたくない?誰かが死ぬのが嫌だ?だから俺から離れろ?

・・・・・随分と勝手な事を言うんでござるな」

その穴から、家から漏れる明かりを背に受けつつ、シロはゆっくりと立ち上がった。

その細められた目からほとばしるは怒り。
横島は、久しく感じる事の無かった射竦められる感覚を覚えた。


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