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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『情念>>合期』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 7/25

眼前に迫る炎。

どうにかなるはずもないが、思わず反射的に銀一は手をかざす。

業火に包まれると覚悟した瞬間、視界が反転した。

気がつけば、横島が横合いから突っ込んできて、二人もろとも空に飛び出していた。

それとほぼ同じくして後方で爆音が響き、さらに何も無い空中に押し出される。

背中を灼く熱気に、火炎を避けられたことを実感するが、同時に今度は自由落下の浮遊感が襲う。


「わ…ぅぉわぁッ!?」

「ぐッ…しっかり掴まってろ、銀ちゃん!!」


横島は一声叫ぶと身を捻り、右手を自分たちが飛んだ展望台の屋根に向ける。


「伸びろォォ─ッ!!」


刹那、右手に霊気が収束し、手甲の形を成すと同時にそれが伸びる。

鋭い爪を備えたそれは、屋根の縁へと突き刺さり、がっしり掴んで固定する。

横島の持つ『栄光の手』は元々霊波刀というよりも、変幻自在の篭手といったほうが正しい。

よって、このような使い方もあるのだ。

がくんッ、と衝撃が伝わり、続いて二人の体は弧を描きながら、すぐ真下の窓に向かう。


「よしッ…このまま突き破るぞッ!!」

「お、おうッ!! い…ッけぇぇ─ッ!!」


振り子のように勢いのついた二人の体は、そのまま吸い込まれるように窓ガラスへと──。

ベシンッ。ピキピキッ。


「ぶべっ!?」


─ぶつかって、ひびを入れただけに終わった。

当然である。こんな高層建築物の窓ガラスが、単なるガラスのわけは無いだろうに。

想定外の衝撃を受け、屋根の縁を掴んでいた『栄光の手』が外れてしまう。

再び、自由落下を開始する二人。


「くッ…こなくそーッ!!」


こちらも再び、『栄光の手』を伸ばす横島。

だが、掴むのは屋根の縁ではない。

伸ばされた『栄光の手』は、先程ひびが入った窓ガラスを突き破り、天井付近の建材を掴む。

続けて一気に体を引き寄せると、脆くなったガラスを砕きながら、二人は今度こそ屋内に飛び込んだ。

床に投げ出され、しばらくは荒い息を整えることに必死になる。


「横っち…今のシリアスな状況にボケはいらんのやけどな…。」

「いや、別にボケようと思ったわけと違うけどな…。」


ボケたくないのに、ボケてしまう。

人はこれを、『お約束』と呼ぶ。


「と、とにかく、こっからどうする…─あぐッ!?」

「どないした、横っち!? …って、左足!! 酷い火傷やないかッ!!」


見れば、横島のジーパンの左脛の部分が焼け落ち、その下の皮膚も真っ赤になっている。

爛れるほどではないが、ところどころ水ぶくれが出来ており、血も滲み出している。


「まさか、さっきの…食らってたんか…?!」

「ちょっとだけな…! 躱しきったと思ったんだけどな…。」


そう零す横島の顔から、じわりと脂汗が噴出している。

恐らく、凄まじい激痛が襲っているのだろう。

この脚では、これ以上の戦闘どころか、歩くことさえ厳しい。


「…横っち。一度、下へ逃げよう。美神さんたちもこっちに向かっとるやろうし。」

「そうだ、な。おキヌちゃんやシロとかがいれば、ヒーリングで何とかなるし、な。」


実際、美神たちはすでに下まで到着しており、シロはタマモと刻真と一緒に昇ってきている。

もっとも、二人はその事を知らない。

撤退は、いまだ抜けきらない困惑からの逃避といった面が大きい。

ともあれ横島は、銀一に肩を貸してもらい、脚を引きずりながらエレベーターへと向かう。

横島を壁にもたれさせてから、銀一はボタンを押そうと手を伸ばし─ふと動きを止める。


「ん? …あ、あかん、壊されとる!!」


グシャグシャにひしゃげたプレートからは、配線が飛び出して小さなスパークを起こしていた。

見れば、エレベーターの扉も少し歪んで、隙間が出来ている。

横島がそっと中を覗いて、脱力したようにため息をつく。


「おまけに、中のワイヤーもきっちり切断されてやがる。逃げ道なしだ。」

「そ、んな…!」


その瞬間。

凄まじい振動と音、そして瓦礫が銀一の目の前に落ちてきた。


「うわぁッ!?」


ぱらぱらと粉塵が舞い散る中に、巨大な尾がゆらゆらと揺れている。

しばらく声も無くそれを見つめていると、尾は素早く屋根の穴の向こうに消えてしまう。

ふいに訪れた静寂の中、ごくりと唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。


「これって…!」


銀一が横島を抱え上げ、その場を飛び離れたのと、再び衝撃と瓦礫が降ってきたのは同時だった。

だが、それだけで終わらない。

銀一たちの後を追うように、連続して破砕音が続く。


「う、うわッ!? ちょ、あかん! あかんて、そんなんッ!?」


次々に降り注ぐ瓦礫を、横島を脇に抱えたまま、転がるようにして銀一は避ける。

…そう、『転がるようにして』だ。


「あたッ! い、痛ッ、痛いッ!! い…痛いって、ちょ、銀ちゃん…!!」


振り回されながらも抗議する横島だったが、避けることに気をとられている銀一には届いていない。

おまけに、その避けた瓦礫の幾つかは横島に直撃している。

本人は庇おうとしているつもりだろうが、見ようによっては盾にしているようにも見えなくは無い。


「ちょ…ま、待て…いッ!? 〜ッ、痛いっつっとるんじゃ…ブッ!?」

「ん? 何や、横っち!? おい、どうしたッ!?」


ようやく気づいた銀一が声をかけるも、横島からの返事は無い。

その後頭部にざっくりと両拳大の破片を生やしたまま、ぐったりとしている。

さらに銀一が呼びかけようとした、その時。

一際大きな衝撃が走ったかと思うと、大量の瓦礫とともに異形の影が降ってきた。

やや離れたところに立つその姿を、銀一は横島を庇うようにして見据える。

パキッと、半人半蛇の異形が瓦礫を踏み砕く音が響く。


「…さぁ、おふざけはそこまでや。」


造魔『キヨヒメ』と化した夏子は、艶然と微笑みながら手を伸ばす。


「横島をこっちに…。」

「な、夏子!! もう、やめぇ!! こんなん…ッ!?」


銀一の説得も、後半は言葉になることなく、尾の一撃に吹き飛ばされる。

狭い屋内で弾き飛ばされた体は、二度ほど壁にはね返ってから床に転がる。


「…ッはッ!! が、ふッ…!! …ッ!!」


喰らった衝撃に、身動き一つ出来ず倒れ付したままの銀一に、夏子は底冷えのする視線を投げる。

そこには、昨日までの微笑みの欠片すら見当たらない。


「邪魔しなや、宮尾。…殺したりはせぇへんけどな、それも邪魔せんかったらの話や。」


そう言い捨てると、夏子は横島へと向き直る。

横島はぐったりとして、床に投げ出されたまま、何の反応もしない。

夏子の目に、狂気の光が宿る。


「あぁ…やっと、横島がうちのものに…。 横島を殺してうちも死ぬ。二人はもう離れへんねや…。」


うわごとのような呟き。

銀一は、胃に冷たいものが落ちる錯覚を覚える。

視界の端では、夏子が火炎を吐こうとしているのが見える。

徐々に、口元で揺らめく光が強まっていく。

銀一は叫ぼうとした。止めようとした。

だが、体は動いてくれない。喉に錆くさいものが詰まって叫べない。

床に爪を立てる。それだけしか出来ない。

横島は、動く気配さえない。

夏子が上体をそらす。

その口から零れた炎が、爆ぜて音を立てる。

銀一は必死に叫んだ。

実際は咳き込むだけだったが、それでも心で叫んだ。

火焔が解き放たれる。

熱気が、まさに爆発的に膨れ上がり、襲い掛かる。

銀一は目を閉じた。









「──狐火ッ!!」


横合いから、夏子が吐き出したものとは違う、蒼い炎がぶつかる。

紅蓮の炎と蒼白の炎が、絡み合いながらせめぎ合う。

そのわずかな隙に、白銀の影が横島の体を抱え込んで、飛び離れる。

一拍遅れて、紅蓮の炎が競り勝ち、壁の一角を吹き飛ばした。

銀一が目を開けたとき、その傍に金色の影が降り立つ。


「やっぱ、あっちの方が火力は上か…。なんか悔しいな。」

「でも、間に合って良かったでござるよ。」


いつの間にか、白銀の影も傍に来ており、横島を床に下ろしながら安堵の息をつく。

金色の影─タマモは、その両腕を翼から人の手へと戻しながら、銀一を振り向く。


「まあ、それもそうね。一般人を犠牲にしたら、後で美神さんにどんなお仕置きを喰らうか…。」

「…それもあるでござるが、横島先生が殺されるとこだったのはどうでもいいんでござるか?」


白銀の影─シロは、タマモの言葉に少し頬を引きつらせる。

タマモは、そんなシロにちらりと視線を向け、それから不敵な笑みを夏子へと向ける。


「いいわけないでしょ!!」

「同感でござる!!」


シロも同じ表情を浮かべて、夏子に向けて構える。

右手から飛び出した霊波刀が、空気を切り裂いて唸りをあげた。


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