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復活

電撃クイーン!おまけ


投稿者名:ETG
投稿日時:05/ 7/18

「ヨコシマ、好きよ!!」
天使のようなルシオラが横島の顔を引き寄せる。

「ヨコシマになら、何されてもいいわ」
キスをした後、恥じらいながらルシオラが胸のボタンに自ら手をかける。

「とうとうその気になってくれたか〜〜!!」
横島がやさしく抱きしめるとルシオラも、ひしっ、と抱き返し、2人で柔らかいベッドに倒れ込む。

下になったルシオラは横島をじっと見つめ・・・「やさしくしてね、ヨコ・・・
 ・・・シマ、幸せな妄想に浸ってるとこ申し訳ないけど、そろそろ起きて?」

ルシオラがサイコダイブで呼びかける。
今日の妄想夢の主役はルシオラだったのでホンのちょっと機嫌がよい。

(ここ一週間、美神さんに4勝6敗5引き分けね!! おキヌちゃんが結構強いのよね〜!!)

妄想夢の主役が街で見かけた巨乳ギャルやクライアントの美人のネーちゃんのようなときはめちゃくちゃ機嫌が悪い。
脳にいきなり霊波を流し込まれて叩き起こされたりという、相当理不尽な扱いされることを併記しておこう。

(スケベなのはしゃーないとして。浮気癖だけは今生の内に叩きつぶすわっ!!)

「なんでもうちょっと!! せめてお前とあーんなことするまで待つ情けはないのか!!」
横島がルシオラにくってかかる。
「どーせヨコシマの知識じゃあれ以上妄想するのは無理でしょ。私も知らないし。あそこで止めとくのが情緒があっていいわ」

言うなり布団を引っぺがす。
「いきなりなにする!! 風邪ひいたらどうする!!」
「そろそろシロちゃんが来るわよ? せめて服着替えて」

「かったるいな〜、今日から食事前の早朝トライアスロンは神奈川までいかにゃならんからな」
結構冷たくなってきて朝、顔洗うのがツライ。

毎朝の散歩とご飯の‘ついで’にフナムシに餌をやりに行くことになし崩し的になってしまったのだ。

数日に一回で充分だと思うんやけどな〜。



「・・・・・・・遅いな」
「シロちゃんでももう無理だわ」
昇る朝日を見ながらふたりごちる。

「おキヌちゃんもいるし全員ルシオラで行くつもりかな?」
「昨日というか一昨日というか結構ハードだったから、寝坊してるのかしら?」

フナムシとドタバタした後、朝ご飯を食べて事務所に着いたら昼近かった。
そのまま全員倒れ伏したのだ。



結構日が高くなってきた。

「腹減ったな・・・・・」
「なにかあったのかしら。事務所いこ?」


ぶぅううぅぅぅん。





二人して人工幽霊一号に声をかける。

「「おは…「横島様!! 大変でございます!! 3人とも朝から全身に痛みが走って起きられぬ状態です!!」

「なんだって!!」
「私には何がなんだかわからず、どうしたらいいのか!!」

珍しく人工幽霊一号がおろおろしている。
「霊障も外傷もありません。いかなる病気ともデータベース上一致しません」

とるものとりあえず、駆け込む。
「ご病気のマスターに連絡したものかどうか・・・。氷室様が一番ましです」


ぷるるるる。


2Fのおキヌの部屋へ上がりかけたところで電話が鳴る。
「私が出るわ。ヨコシマは行ったげて」
「スマン」


「ハイ、おはようございます。こちらは美神令子除霊事務所です。申し訳ありませんが・・・・・」
『あら、ルシオラさん。おはよう。あなたが出るって事はそっちもやっちゃったようね』
「美智恵さんはなにが起こったのかご存じ?」
『多分、全員原因不明の全身痛で寝込んでるんでしょ。能力を遙かに超える霊力を長時間扱ったことによる幽体痛よ』

『あう゛う゛う゛う゛〜〜〜』

横で令子がうめいているらしい。
『令子、だから言ったでしょ。あんまり調子に乗って使うなって』
美智恵があきれ顔で携帯をふたして応対。

『ぞゔいえ゙ば、じょうりゅうぎにベアバンドがりだどぎも同゙じよ゙ゔな゙目゙に゙あ゙っだわ゙ね』
病院ベッドの中で腹痛と幽体から来る全身を走る痛みにぴくりとも動けない令子。
『どりあえず、いやぐげんぼうにならながっだがらよじどずるわ゙!!』

『腸以外は悪いところは全くない!! なぜだ!! 現代医学わ〜っ!!』
『先生! 止めてください!』
笑気ガスボンベとモルヒネアンプルをもって婦長に組み付かれている白井医院長。

横目でそれを見ながら美智恵が軽く言う。
『心配しなくてもほっとけば癒るから。霊力涵養にいいものでも食べさせてあげて』


屋根裏部屋でちっちゃなルシオラと横島に挽肉入り肉汁ときざみ揚げを貰いながらうめくシロタマ。
「なんで先生ば平気でござるが〜〜?」「金毛白面が人間にまげるなんで〜」

「ホラ、ヤモリも。私は元々魔族であの程度の霊力ではまだ足らないぐらいだし・・・・」
「俺は文珠であの程度の霊力は扱い慣れてるし、それにほとんどルシオラに回したからな」

2人は‘あの程度’と言い切ってしまう。
ルシオラの基本キャパシティは6000マイト超えるので当然と言えば当然。
蓄積ワザである文珠は1つで約300マイトの霊出力。2つ一度に使えば6〜700マイトを制御しなくてはいけない。


「えへへっ。もう起きれると思うけど、まだねてよ!。横島さんにご飯食べさして貰えるし。次のご飯は私が作るから!!」

これも神様アイテム“心眼”が霊力のかなりを消費したためにましだったおキヌ。
ヤモリの粉とタマネギ入りおかゆで一気に楽になった。

一番先に横島に来て貰って自室の布団の中でちょっと幸せ。
まー、まじめな彼女のこと、昼ご飯を横島のあーんで食べさせて貰った後、一時間ぐらいで起き出したんだが。


「横島さん、今日の除霊どうしましょう? Cクラスばっかりだから危険は少ないですけど」
「そうだよなー。やっぱ断るしかないかな〜?」
「シロちゃんやタマモちゃんもあの状態ではね?」
二階を少し心配そうに見ながら首をかしげる。

「それより、美神さん大丈夫かな? 5人分だろ」
「美智恵さんの話ならすぐ治ると思うけど・・・・」
「私も他の人にヒーリングできるほど回復してないし、横島さんも文珠無いから自然に回復するのを待つしかないですね」
3人あきらめ顔。




ピンポーン。呼び鈴が鳴る。

「六道冥子様がお見えです」人工幽霊一号の声が響く。

「「え°」」
精神的奇襲を受けた2人の思考が一瞬止まる。


と〜て、と〜て、と〜て。  だき!!


「横島ク〜ン。冥子会いたかった〜。GS試験ではゴメンね〜〜。冥子〜、子供だから〜よくわからなかったの〜」
とやってきて横島に問答無用で抱きつくフェニミンなドレス、絹手袋な冥子。

おキヌがピシッと凍り付く。

魂から来る痛みもなんのその、屋根裏ではその敏感な聴力でシロタマが聞き耳を立てている。
タマモ:「他人の恋は蜜の味〜♪」、シロ:「キス以上ってどういう意味でござるか!!」
          「「いててててっ!!」」

さらに
「ルーちゃんは〜ともかく〜、令子ちゃんも〜いるところでは〜、
 キス以上はムリよね〜? おかあさまに〜言われるまでわからなかったの〜」
などとのたまわる。
(この状況は拙SS:誰が為に金はある?(1)参照)

シューッとしろい蒸気を噴きながらカチンカチンに凍った真っ赤なおキヌを見て、
「おキヌちゃん〜どーしたの〜? あら〜、結構〜幽体〜腫れてるわよ〜?」とクビラを出して診察する。

「ショウトラちゃん〜お願い〜」バウ!! ぺろぺろぺろ。
おキヌが解凍されてゆく。幽体の腫れもしばらくしてなくなる。

「すごい楽になりました! ありがとうございます」おキヌが頭を下げる。
「冥子さんのヒーリングはあいかわらずすごいわ。前から世話になりっぱなしね。ヨコシマ」

「あは、アハあはアハ・・・・ 冥子さん厚かましいんだけど、シロやタマモにもやって貰えないでしょうか?」
横島はおキヌの冷ややかなジト目に背中を刺されながら、冥子を屋根裏へ案内する。
逃げた、ともいう。


「キス以上って!! 一体何があったんですか!!」
冥子が消えると同時に昼ドラばりの妄想が頭に渦巻いたおキヌがルシオラに聞く。
もちろん屋根裏ではシロタマが獣形態・耳おもっきり下向きで聞き耳を立てている。

その頃、冥子はまだ2階。
横島は冷や汗をかきながらも2階をゆっくり歩き、昨日の説明と当たり障りのない話題でルシオラが話す時間を稼ぐ。
もちろんシロタマ&人工幽霊一号には話が筒抜けなのをよーく知った上で、である。

『やましいことは何もやってね〜!! ルシオラ頼む〜!』魂内でルシに土下座する横島。
『どっしよっかな〜。そこらで煩悩全開しまくる男にはお仕置きが必要よね〜』
『あれはマジでどうしようもなかったんや〜〜〜』泣。

その時、横島の右腕に冥子が抱きついて無邪気な笑顔で聞いてくる。
「でも〜、横島クン〜? キス以上って〜どういうことか知ってる〜?」

(ああっ!! 冥子ちゃんかわいい!! 腕にふたつのやーらかい感触がぁっ!! )
腕から這い上がってくる感触で脳内煩悩メーターがレッドゾーン。

「え、ええと、布団の中で、お、お互いに抱き合ったり する ことでは な いでしょ お か?」
言った瞬間に鼻の奥の血管が切れたような気がするが根性で血を逆流させたので、冥子は気が付いていない。

「あ〜!! 横島クンを〜熊さんの〜ぬいぐるみみたいに〜扱う事なのね〜?
 たしかに〜それは〜令子ちゃんの前では〜できないわ〜」

意味がわからんが冥子基準ではそうなるらしい。
「こんど横島クンの〜ぬいぐるみつくろ〜。令子ちゃんや〜おキヌちゃんと〜並べるの〜」

シロタマ脱力。
タマモは痛みにもかかわらず笑いが止まらない。
「シロ以上だとは思わなかったわ!! いたたたっ!!」
枕をぽこぽこ両手コブシで叩いている。

冥子の言葉を聞いたルシオラも苦笑しておキヌにありのままを、いや少し弱めて説明する。

「なんだ。何もなかったんですね」
ヒーリングのお礼のバードキス一回と聞いて胸をなぜおろす。

「でも、ライバル増えちゃったわね? おキヌちゃん。
 冥子さん手強いわよ〜。純真でかわいくて、見境無しでしかも怖いから」


その時、冥子がヒーリングを終わらせシロタマと共に一階応接室へ降りてくる。
「冥子さん、ありがとうございます。あれ? 横島さんは?」
「なんか〜、屋根裏に〜少し用があるって〜」

首をかしげるおキヌにルシオラが囁いてくれる。
「これ以上、冥子さんに抱きつかれたままだと煩悩が決壊するから少し冷ましてんの」

タマモが苦笑し、シロがぶすーっとしている。
(拙者が抱きついても平気なくせに〜!! 拙者の方がぷりてぃーでござるのに!!)
(横島さんですね〜)おキヌも笑うしかない。

「あ、危なかった〜!! もうちょっとでシロタマの前で押し倒してしまいそうになった!!」
こんなトコでヤったら全員に祓われちまう!!

屋根裏で床に手をついて荒い息をする横島。鼻血がどくどくと床を赤く染めてゆく。

「覚悟を決めて冥子ちゃんで行くか? ルシオラは文句なさそうだし・・・」
冥子とルシオラが両方からアーンして、その側に執事のセバスチャンが料理とワインをカーゴに乗せて持ってくる。

その妄想を考えたとたんに、なぜかメフィストとおキヌとシロの般若のような顔が渦巻いて背筋を凍らせる。
脳内で令子とシロの集中攻撃を受けてボロボロになったところで、おキヌの笛で極楽へ送り込まれる。 

ヒィぃぃぃ〜〜〜!!!

「あっ? 文珠一個でてる!! らっきー!」
ムリヤリ思考を別の方へ持ってゆく。


何とか冷ました横島が階下に降りてくる。
「で、冥子さん、今日は何で来られたんです?」
小指を上げてティーカップを傾けていた冥子に勤めて冷静に聞いてみる。

「えーっとね。えーっとね。1つは〜横島クンに〜謝ってぇ〜、
 もう一つは〜、令子ちゃんに〜お願いが〜あるんだけど〜」
「美神さんは今、入院してるんっスよ」
横島が経緯を説明する。

「じゃあ〜、お見舞いしなくっちゃ〜。幽体の傷は〜普通の〜お医者様だと〜治せないし〜」
「ええ、美神さんにもヒーリングお願いできると有り難いんですが」

冥子の乗ってきた、巨大な黒リムジンで一同うちそろって白井総合病院へ。





「あら、みんな元気そうね? 幽体痛は無いの?」
美智恵が一同を見て意外そうに言う。令子は首も回せない。

「ええ。俺は何ともなかったし、他の人は冥子さんがヒーリングしてくれたんッスよ」
横島が代表して答える。

(ええっ! 横島クン、無傷!?! あんだけの力流したのに!! どーいう事よ?!!)
(いくら横島クンが文珠やルシオラさん使い慣れてても、何ともないって事はないと思うけど?)
令子のみならず、美智恵も内心少なからず驚愕する。
(私も慣れるまで相当かかったのよ?)

「令子ちゃ〜ん 大丈夫〜? 今ぁ〜ヒーリング〜してあげる〜」
(それにナンで冥子が!?)
疑問だらけでも動けない令子をショウトラがなめ回す。
やがてヒーリングが終わる。幽体痛がすっかり収まり、令子がベッドから起きあがる。

「六道さん。ありがとうございます。実はあんまりひどいんで、Gメンのヒーラーをお願いしようかと思ってたとこだったのよ」
美智恵が立ち上がって頭を下げる。
「ホラ! 令子もお礼を言うの!」
令子の頭を押さえつける。

「ママッ! わかってるって!! 冥子ありがとう。助かったわッ!」
「令子ちゃん〜。お友達じゃな〜い。でも〜、腸は〜私じゃききめ低いから〜 お大事にね〜」
さすがに病人には抱きつかず、笑って手を振る冥子。

ふと用件を思い出して冥子が真剣な表情になる。
「実は〜、冥子ね〜、令子ちゃんに〜お願いがあってきたの〜」

「ど、どんなことかしら?」内心びくびくしながら聞き返す。
冥子の“お願い”はロクな事があった試しがないがこの状況ではひっじょーに断りにくい。
冥子はそういう打算で動くタイプではないのでなおさらだ。


「冥子を〜 雇って欲しいの〜」


「な、ナンデマタ?」
あまりのことに令子の声が裏返っている。
「令子ちゃんのとこ〜今〜すごく〜忙しいでしょう〜? だから〜ダメな子の〜私でも〜なんか〜できるかな〜って。
 荷物持ちでも〜なんでも〜やるから〜。お願い〜」

「えみノトコヤおかるとGめんモダケドナンデウチナノ?」
声裏返りっぱなし。


「横島クンの〜側にいたいの〜」


真っ直ぐ言われて、令子、おキヌ、シロ、横島がフリーズ。
(ホント見境無しね〜)タマモ&ルシ。
(へぇー?)美智恵。

「横島クンって〜、ルーちゃんを〜24時間〜出し続けてるでしょう?
 こんなことの〜できる〜式神使いはいないわ〜。これだけでも〜冥子敵わない〜。
 おまけに〜近頃は〜、文珠でも〜ハンドオブグローリーでも〜同時に〜だせるでしょ〜?
 すごいの〜。六道の〜歴史でも〜、十二神将と簡単な〜術以上が〜、同時に〜使えた人はいないの〜」

十二神将総ては出し続けるだけで不安定になってしまうのだ。
同等かそれ以上のルシオラを今も出し続けて平然としている横島を、憧れの目で見る冥子。
ルシオラも冥子が見るたびに強力になり、天井が見えない。
初めて自分を遙かに超える天才を見た。


それを聞いた美智恵の顔が一気に引き締まる。

「だから〜、冥子も〜令子ちゃんの所で〜修行すれば、横島クンに〜追いつけるかも〜って」

何気ない風に美智恵が令子よりも先に口を出す。
「令子、どうする? 難しい問題かもね〜」

目で、令子に口を出さないよう押さえ込んだ後、ちょっと、考え込むフリをする。
「みんな、済まないけど、ちょっと喫茶店でもいっててくれないかしら?
 今のこと令子でもみんなの前では考えにくいと思うから」

令子も訳がわからないが何かあると見て母に合わせる。
「ええ、冥子だといろいろ絡むし、ちょっとママに相談したいわ。退屈だろうから下いってて。
 冥子、ってわけで少し待ってくれる?」

「わかった〜、冥子待ってる〜。令子ちゃんお願いね〜〜」

冥子がやけに素直に立ち上がり、一同が「?」な顔と共にそれでも素直に病室を出て行く。




「令子。あなたホントに騒動の星に生まれついてるみたいね?」
皆がエレベータに乗ったことを確認して口を開く。

「まったく。冥子が雇ってくれって言い出すとは・・・・」ため息をつく令子。
「やっぱり、まだ気が付かなかったのね。そんな小さな事じゃないわ」こちらも小さなため息。
「どういうこと? ママ」

美智恵が背筋を伸ばして座り直し、令子を正面から見る。
「私は式神は使ったこと無かったからピンとはきてなかったんだけどね。今日の六道さんの話である疑問が解けたかもね。
 いい、令子。横島クンはアシュタロス事変直後、ルシオラさん出し続けて、霊能ほとんど無くしてたんでしょう?」
「うん。ほとんど荷物持ちに逆戻りだったわ(原作アシュ編直後35、36巻辺り。拙SS:令子独白まで参照)」

「今はどのくらい霊力あるの?」
「確か、昨日の定期測定でルシオラ出して70、引っ込めて100くらいだったわ」
アイツ霊的成長期っても霊力上がるの早過ぎるのよ!! GS試験の時、引っ込めて70しかなかったのに!

「つまり、彼、アシュタロス倒す直前に100マイト弱だったから、100+70=170マイトよね。少なく見積もってね」
「私もそう思うわ」


だから、あせってんのよ!? ママ! 私は120ちょいなのよ。しかも、近頃もうほとんど伸びてないのよ?!
横島クンの後ろを歩くのはイヤ!! 電気ドーピングでいけるかと思ったのにあのざまよ!!


「でも少なく見積もってってどういう事?」

「1つは、式神としてのルシオラさんの霊力消費が100−70=30マイトなはずないわいよね?
 六道さんは十二神将総て出すと不安定になっちゃうわよね。それと同等以上のハズなんだから」

頷いた令子も式神ルシオラを借りた時を思い出す。出しただけでかかった霊圧は30マイトなんてものではない。


「2つめは、菩薩様の話憶えてる?『霊能が高ければ復活が早くなる』って。
 つまり霊能が高くなったら、よりルシオラさんの養生に回す霊力負荷が大きくなるのよ。
 今、何マイト分、かかってるんでしょうね?」

「100マイトの時、残りほとんど0かつ、ルシオラの見かけの霊力消費が相当低めに出てるって事は・・・」
「そう、どういう負荷設定になってるのかわからないけど、千マイトでも1万マイトでもおかしくはないのよ。
 現に令子の電気ドーピング、彼だけが平気だったでしょう? 元が170マイト程度なら全く平気なはずはないわ」

「言われてみればルシオラの成長速度が加速的に上がってるわ!
 前は半年でやっと3cm大きくなったのに、この1ヶ月で3cm大きくなってるのよ!」

思わず令子が掛け布団を跳ねとばし、枕元のメモ用紙にルシオラの身長変化と横島の霊力を書き殴り、計算する。

6倍ってことは600マイト?!? 体積比例なら3乗だから2万、いや増加分だから10万マイト遙かに超える!?
 さすがにこれはないわよね! でも、もしかすると小竜姫に勝てるって事に!

「へえ? ほぼ決まりね」
美智恵が納得顔でメモを覗き込む。

「彼は強くなれば自動で重くなる霊的鉄下駄履いてるようなものね。
 しかも、外に出てる残り霊力は実際の霊力のホンのカケラぐらいの可能性が強いわね」
美智恵の言葉に令子がごくりとつばを飲む。

「高位の神族魔族が5体もかけてなんで一下級魔族を生き返らせるのか不思議だったのよ。
 その時は、横島クンに対する詫びとご褒美かなと思って納得してたんだけど」

「裏に何かある!! “ルシオラの復活”って餌で横島クンは昼夜問わず必死で修行してたってわけか!!」
思わずうめく。

毎日見てたのに!! なんでママに言われるまで気がつかなかったのよ!!
アイツ毎日毎日、霊力が0になるまでやってたんだ!! 
文殊菩薩の「多く使役すれば少しでも復活が早くなる」ってのはそういう意味だったのね!!

令子がギリと歯がみし、拳を握りしめる。

「それで、ここんとこの横島クンの霊力の成長が尋常でなかったのね!」
霊力が大きくなったんでルシオラ、いや養生システムからの漏れが増えてんだわ!!

「アシュタロス級の何かが起こる可能性があるから、こっそり人界に戦力を作ってるんじゃないかしら?」
「神界魔界が直接手を出すとハルマゲドンになるからか!!」
「かもね」
「ママ、小竜姫もワルキューレも味方じゃない」
「かもね」
「ヒャクメもジークも」
「かもね」
「ベスパやパピリオも」
「・・・・・」

しばらく母娘は無言で見つめ合う。

「令子。私たちは彼とルシオラさんには返しきれない借りがあるのよ。今度の横島クンの厄災には全力でサポートする!!
 間違っても足手まといにならないようにしないとね」

「うん」素直に大きく頷く令子。
アイツに要るのは信用できるパートナー。雇用主やセクハラの相手じゃないわ。

「人界の防御固めて情報集めないとね。彼が現役の内に起こるとすると早すぎるって事はないわ」
ハードなGSの現役期間はせいぜい10年か15年。強引なやり方から見てたぶん5,6年以内。

美智恵の目が光を放ち始める。柔らかい母の目から鋭い戦士・策士のそれへ。

「しばらく黙ってた方がいいわね、ママ。特に横島クンとルシオラには」

「まだ憶測に過ぎないからね。私もまだ西条クンにも言うつもりはないわ。
 でもたぶん、六道理事長も気が付いてるわ。横島クンをお婿さんにしたいのもあるだろうけど。
 きっとそれもあって冥子さんを令子の所に入れようとしてるのよ」

「冥子は雇わざるをえないわけか!」

六道理事長も相変わらずのほほんとしてるようで抜け目ないわ。
危機対策に婿引き込みに冥子の鍛え直しの一石三鳥ってわけね。

「霊的成長のほぼ止まった令子はまず電気ドーピングに慣れないとね。冥子さんのヒーリング能力は必須よ。
 貴重な文珠に頼るわけにはいかないんだから。
 さっきの様子だと、冥子さんもある程度言われてるか、気が付いてるわね」

さっきの六道さんの言葉は、理事長に私に会ったら言え、とでも言われてきたのかもね。


「まずはママ並みに一万マイト扱えるようにならないといけないってか! やったろうじゃない!!
 ママにも横島クンにもできて私ができないはず無いじゃない!!」

令子がベッドから立ち上がり、拳を握りしめて吼える。


120マイトや170マイトごときでうだうだ言ってたなんてどうかしてたわ!!
私は美神令子よ!! 横島ごときにまぁ〜けてたまるもんか!!

上級神魔がなによ!! ハルマゲドンがなんだってのよ!!
10万マイトでも100万マイトでも操って、極楽に行かせてやるわ!!


「それにさっ、数千マイト扱えるようになれば普通の除霊なんてハリセンイッパツ、ぺぺぺのぺーでボロもうけよね!!」

1000マイトでしばいてやれば、エミのヤツどんな顔するかしらねっ!!
ああっ、世界中の金と名誉が私のものよっ!!!

いつのまにやら腹痛が無くなり、うっとりと恍惚の表情の令子。



ふと現実に戻り、携帯に怒鳴りだす。

「関東電力▽○×営業所? 美神令子除霊事務所に高圧線引きたいんだけど見積もりに来てくれる?」

「厄珍!? 神通棍の特注よ!! 千マイトに耐えれるヤツよ! 誰が使うんだって!? 美神令子に決まってんじゃん!!
 1万と10万に耐えれるヤツも発注するわ!! そんなヤツ無いって? 違反倉庫の件ばらされたい?
 カオスとでも何でも共同研究しなさいよ!!」

美智恵が苦笑して携帯を借りる。
「厄珍堂さん。1万に耐えれるのは、Gメンに設計図があるからすぐ作らせて。千マイトのなんていらないわ。
 10万も令子がいくらでも研究費用出すって言ってるから製作所の心づもりお願いするわ。100万も視野にいれといてね?」

「そ、そんなことは言ってない〜〜〜!! ちょっとはGメンで持ってよ!! 世界を救うためでしょ!!」
すかさず携帯をOFFにした美智恵に慌てた令子がくってかかる。

「あら、今、除霊に使うって言ってたじゃない。それに横島クン援助するためでしょ?
 恋人を救うのにお金も魂も体も投げ出すなんて燃えるわね〜。横島クンじゃなくてもメロメロよね〜!」

片眼をつむった美智恵が両手の平を合わせ、小首を傾げてからかう。
「これでルシオラさんに勝てるかもね?」

「な!!」真っ赤になった令子が言葉を失う。

「令子もルシオラさんや横島クンに引け目があってイマイチ素直になれないんでしょ。がんばりなさい!!
 ママはね、彼はあなたとの相性最高のパートナーだと思うわ」

今までからかって笑っていた美智恵が令子の胸倉掴んで睨む。

「引け目ぐらいで狙った獲物を逃がすんじゃないわよ!! 信頼できるパートナーとか甘いこと考えてんじゃないでしょうね。
 これを機会に彼の横のポジション確保しちゃいなさい!!」

(ゴメンね〜令子。今からやらなきゃならないこと考えると神通棍の開発費用までは出そうにないのよ。
 今回下手したら神族魔族両方敵に回すから。
 アシュタロスの時、わたし用に作った1万マイトの神通棍の設計図の横流しで勘弁してね。

 まずは情報収集ね!! 前の試験試合でのアガリが早速役に立つわね!!)

「ぷぷぅ? まぁあ〜、ねぇ〜?」
自分を忘れたかのような母と姉の横顔に首を傾げるひのめ。

   令子はその日の内に退院して溜まった除霊を横島1人を引きずっていって片付けてしまった。
   昨日まであった病変部が今日の検査では全くなくなってしまい、
   半狂乱になった白井医院長を後に残して・・・・・

投函された定期測定の書類には麗々しく“電力−霊力変換:500マイト(測定機上限)”の新規項目。


数日後、GS協会の公開サイトでそれを見た南国系GSに気弱な虎が八つ当たりを喰い、
由緒ある六道祈祷所が新興の美神令子除霊事務所に事実上吸収合併されたという衝撃が霊能業界を駆け抜けた、

というのは別の話である。



to be continued


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