少し前、倉庫の中の横島とルシオラそして３人の元人質達。
「交渉と言いながら出てこんな。仲間内でもめてんのかな」
横島が首を傾げる。
「ルシオラ、残りの倉庫は異常ないか？」
「残してきた“見張るくん”は異常ないわね。この倉庫の周りも壁も兵隊で一杯だけど、残り倉庫周辺は一匹も居なさそうね」
答えると共に、魂内で報告する。
『さっき、おキヌちゃんから連絡があったわ。とりあえずこっちに向かうって』
『えらく早いな？』
『美神さんの幽体が応援に来てくれたらしいわ』
「横島殿、これから我々はどうしたらよろしいのでしょう？」
横島が渡した予備の装備を確認していた元人質のチームリーダーが丁寧に質問する。
横島の倍は生きてそうな人物だけに完全に格上と認めた物腰に横島の方がとまどってしまう。
残り２人も横島に頼り切った目を向ける。
シスターは仲間の後ろに隠れたままだが。
（俺ってシリアス弱いんだよな〜〜）
シリアスな横島クンはＧＳの価値がないって言われたくらいだし・・・・
美神さんならこれ幸いとこき使うんだろうけどな？
「あなた達の知ってるフナムシたちの能力詳しく教えてくれないかしら？」
戸惑っている横島の代わりにルシオラが口を開く。
「その間に防御結界を張らない？ いきなり押しかけられないとも限らないわ」
その言葉で残り２人の元人質が防御結界札を壁や扉に張り出す。
「申し訳ないが我々では横島殿が暴いた能力までも見ていない。発火能力さえ今日知ったくらいです」
「眷属が大小問わず混ざってるのは信憑性があるかしら？」
「それは間違ありません。簡単に使い捨ててくる時と、必死で仲間を守る時がありました」
「やっかいね。あ、交渉人が来たようよ」
その時、人型をとった男のフナムシ５人入ってくる。西条似の１人が進み出て横島に手を差し出す。
「やあ、お待たせしました。失礼だがこんな閉鎖された所では事故が怖い。
で、母の代わりに私、ジャサが全権委任されてきました」
壁の結界を見て、
「なかなかご用心深い。それでこそ一流の妖怪退治というものですな」
横島も、
「そっちこそ、この倉庫の周り兵隊で固めやがって。どういうつもりだ？」
ケッ！！ フナムシのくせにロンゲかい！
「なに、念のためというものです。早速に倉庫を半分開放して頂いたおかげで弟妹達に再会できましたよ」
「もう半分は決着つくまでは開けれないぜ？」
横島も礼儀上手を差し出す。
「そうですね。決着付けましょう！！」
ジャサが言うやいなや長い堅い棘だらけの触角を真横に振る。
「グウッ！！」
真横の何もないはずの空間で、横島の胸から血が滴る。
残り４人もそれぞれに襲いかかる。元人質３人があっという間に倒される。
「我々は気配に敏感なんで近ければ隠れてもすぐわかりますよ？」
『ヨコシマ！！ 残りの倉庫の‘見張るくん’のリンクが切れたわ！！』
こちらは間一髪避けて、相手に霊波砲を撃ったルシオラ。
人型からフナムシに変わった相手は余裕で背甲で跳ね返す。
「ちっ、やっぱり効かないわ」
横島をぶら下げて天井に飛ぶ。
『倉庫に仕掛けたバルタンも反応がない！！ なぜ！？』
「天井に逃げても無駄ですよ？」
天井・壁が一斉に火を噴く。鉄と断熱材でできた壁が、だ。
外側一面に張り付いた眷属達が一斉に発火能力を使ったらしい。
防御結界と共に崩れ落ちてゆく倉庫。真っ赤に焼けた梁や波板が雨のように降りかかる。
くずれつつある倉庫の外側には、直前までなかった霊波遮断結界。
よく見れば描いてあるのではなく、小さなフナムシが魔法陣の形に蠢いている。
「（ふふふっ。傷ついた人間はこれでひとたまりもあるまい。妖怪が妖力で勝負するとは限らん）」
頑丈な背甲とフナムシ特有の素早さで、崩れだした倉庫からいち早く退避したジャサがつぶやく。
「（みな、油断はするな！！ 死体を確認するまでは終わらん！！）」
がれきの下で文珠の結界に守られた横島。
「めちゃくちゃしやがって！！」
「ヨコシマ、他の人もいちおう息があるわ。でも倉庫に持ってきた道具類は全滅ね」
とりあえずルシオラが瓦礫の下を引きずってきた人質達と自身を文珠でヒールする。
しかし、一個しか使っていないので横島はともかく元人質達は気を失ったままだ。
「人質も取り返されたってわけか！！」
「あの魔法陣崩さない限りはね」
「うっかり念波一発って言っちまったからな」
「鉄や耐火壁まで燃やせるとはね」
燃える物の無かった倉庫の火はすぐに収まり、濃い夜霧が押し寄せてくる。
姿は隠せないがルシオラの光幻術は充分に阻害するというロクでもない濃さだ。
（もっと霊力があればこのぐらいの霧・・・ 言っても詮無いわ）
人質の弟妹が入った倉庫が開放されたのを確認したジャサが、
「（魔法陣を対人吸霊力結界に切り替えろ！！）」
統制が取れているとは思えない眷属の動きと共に、対象無差別な霊波遮断するだけの急造魔法陣が
複雑な指向性魔法陣に確実に切り替わってゆく。
「魔法陣の切り替え？！ なんでフナムシがここまで頭いいのよ！！」
「今度こそ死んでしまう〜〜！！！」
「ヨコシマ、やばいわ。アレが完成したら！！」
ルシオラが問答無用で横島を呑んで飛び上がる。もー怪我した人質は瓦礫の下の空間に置きっぱなしである。
「あ〜！！ 美人のネーちゃんはもったいない！！」
横島が呑まれつつもシスターの手を引こうとする。
「もうっ！！ こんな時まで！！ 命あっての物種よっ！！ 人質の価値があるから怪我人殺さないわ！！」
待ちかまえていたフナムシが次々と放つ網や振り回される触角をかいくぐりながら魔法陣から抜け出ようとする。
放つ方も捕獲というより、加速を妨げているのだ。
「もう遅いよ。チェックメイトだ」
ルシオラが完成間近の魔法陣に霊波砲を放つ。
しかし、あっという間に予備の眷属で埋められてしまいほとんど時間稼ぎにならない。
「キャァッ！！」
巨大な魔法陣が完成すると同時に霊力を奪われたルシオラがフェイドアウトして横島がほうり出される。
「横島君。怪我１つ無いとは驚きだ。君は生かしておくには危険すぎる。覚悟を決めて貰おう」
慎重に横島の周りを３ｍ級の兄弟・眷属で固めながらジャサが近づく。
さっき横島の血を吸った触角をブンッと引き戻し、何とか受け身をとった横島に歩を進める。
「こいつら、アシュタロスより強い！？ もうだめや〜〜！！ なんで虫に囲まれて一生おわらにゃならんのやー！！」
涙と鼻水を吹き出しながらキョロキョロするが逃げるスキは全くない。
「こんなんやったらメドーサかパピリオにでも殺された方がましやった〜〜！！
ルシオラ〜〜〜！ 美神さ〜ん おキヌちゃぁ〜ん！！」
「錯乱した演技で油断させようとしても無駄だよ」
じりじりと狭まる包囲網。
「西条でも文句は言わん！！ 助けてくれ〜〜〜！！」
「ビリア、もうすぐトンネルだ」
「トンネルを抜ければとりあえず一安心ね」
「ああ、そこまで行けば万が一の時でも普通のフナムシに紛れれるだろう」
大勢の弟妹を引き連れた２人が少し安堵する。
先行させた眷属から警告でテュロスが皆に念を押す。
「小さくなって壁沿いに行くぞ。車に轢かれるな。今も一台猛スピードでこちらに向かってきている」
その猛スピードのオープンカー。
「もうすぐでござる！！ もうすぐ先生のお手伝いができるでござる！！」
令子にフル充電されたシロが勇姿を横島に見せたくてずうずしている。
「もう。落ち着きなさいよ。あと２０分もすれば着くんでしょう？」
タマモがおキヌのくてっとした魂の抜け殻の上で丸まったまま鼻を鳴らす。
「ハイ。あと１７、８分と予想されます。トンネルを抜けた後は高速の最寄りの箇所で、
お二方のみ降りて現場へ行かれるのが早いかと」
「ん、そうするわ。美神さんに充分霊力貰ったし。シロ抱えて飛ぶくらいどうってことないわ」
しばらくして人工幽霊一号が警告を発する。
「トンネル出口付近で霊体レーダーに反応多数。たぶん妖怪です。いかがいたします？」
「んー、早く先生の所へ生きたいでござるし、悪い妖怪ともかぎらんでござるし・・・・・」
「でも、この匂いフナムシじゃない？ 確かフナムシ妖怪だったわよね？」
タマモが霊気の流れに鼻を向ける。
「そういえば・・・。先生への援軍を防ぐための足止め隊でござるか。
主力の美神どのが居ないからこっちこそ足止めするでござる！！ 川中島の逆でござるな！！」
シロは敵の群れを翻弄することに決めたらしい。
「どうやってこっちの進路を察したんだろ。ルシオラの言ってたとおりめちゃくちゃ頭がいいようね」
「先方も気づいたようです。遊撃らしき小さい霊体が散開中」
「テュロス、あの車。横島とか言う妖怪退治屋と同じ匂いがしない？」
「ああ、ジャサの言ってた援軍らしいな。後ろに下がれ！！ 俺が防いでる間に南の第二避難経路へ逃げろ！！」
詳しい報告を先行する眷属から得たテュロスが頷き、護衛の眷属を散開させる。
頷いてビリアが下がりかけるが、オープンカーから強い霊力が２つ離れるのを察知。
「遅かったようよ。叩かない限り逃げた方向がわかってしまう。それに、こいつら遅らせればジャサ兄さんが勝つ確率が増えるわ」
ビリアも３ｍの本性を現し、腹に抱えた弟妹達を降ろしながら戦闘態勢をとる。
「お前達は散開して隙を見て逃げるのよ」
大きな妹たちもそれに倣う。
「ひときわ大きな霊体達が小さな霊体を多数放出中。どうやら母艦のようです」
人工幽霊一号が降りたシロタマに警告する。
「テキは本気よ！」「望むところでござる！！ 先生が居ないのが少々残念でござるが」
倉庫が崩れるのを見た令子とおキヌがすっ飛んでくる。
倉庫群の近くの高圧線の上あたりで、おキヌが飛んでいこうとするのを令子が押さえ込む。
「美神さん！！ 早く行かないと横島さんが！！」
対人吸霊結界の中で横島が追い回されている。
「落ち着くの！！ 今、あの魔法陣に近寄ったら、肉体のない私達は下手したら成仏よ！
デジャブーランドやＧＳ試験で使った小型のいい加減な物とは性能が大違いなのよ！！」
要所要所にアイテムまで入った、外側にまである程度効果のある一級の結界魔法陣である
厄珍！！ 魔法書や魔法陣アイテムまでいれてくれたおかげでフナムシがエミ並みよ！！
「でも！！」
「横島クンを信用してないの？！！ あんなんで死ぬくらいならもうとっくに死んでるわよ！」
クソっ！！ おキヌちゃんには言ったもののどうするか！！
「そうだ！！ おキヌちゃん、横島クンの装備はどこ？ 今、持ってないって事はどこかにあるのよね？」
フェンスの外の小屋の中で横島のリュックを漁る令子＆おキヌ。
「くっ。銀弾付き銃なんてやっぱり持ってきてないか！！」
パジャマ令子が破魔札を床に叩きつける。この期に及んで５０円や１００円の札しか叩きつけないのが令子らしい。
「精霊石や破魔札じゃダメなんですか？」
「どっちも起爆する時に霊波がいるからね。あの魔法陣の近くではタダの石や紙きれね」
令子が５０円破魔札に八つ当たりしながら答える。
「霊体ボウガンで１０匹や２０匹眷属やったって仕方ないわ！！」
１００円破魔札を何枚かボロボロにしながら、
「なんっかないかしら！！ ああっ！！ シロかタマモがいればあの魔法陣に近寄れるのに！！
バズーカか手榴弾でもあれば少なくともあの魔法陣は潰せるのに！！」
どちらもコブラだ。
「くっ！！ 人間のくせになかなか素早い！！」
ジャサが触角を振り回すが当たらない。
他の巨大な兄弟や眷属は逃亡防止に周りで円陣を組んで基本的には追いかけてこない。
バッファローの作る防御円陣に似ている。ただし棘だらけの角は内側で鞭のように動いて円陣の中の横島に襲いかかる。
魔法陣を作っている小さな眷属達と共に、常に横島が中心付近になるように慎重にじりじり円陣を狭めてくる。
「はぁ ハァ はぁ こんな死にかたしてたまるか！！」
よつんばいでカサカサ走り回り、倉庫の残骸に潜り込んで、残骸ごとブッ叩かれる。
残骸は粉々になって飛散。
「くそっ！！ 今頃、美神さんは豪華な個室に戻って暖かいベッドで隊長に甘えながら惰眠をむさぼってるに違いない！！」
サイキックソーサーならぬただの鉄皿（なんかのフタ）で触角を受けるも一撃でひん曲がる。
「今死んだらルシオラが今生でもとにもどらんやないか！！」
餃子のようになった鉄皿をジャサに投げつけてシリアス顔でつぶやき、
「ぜぇったい生き延びてルシオラと ピーッ とか ピーッ とかヤッてやる！！」
突進を避けながら本音顔で喚いて崩れたシェルビングの間に潜り込む。
シェルビングごと潰されて、間一髪飛び出したところにさらに斜め横から振り下ろされる触角。
曲がった鉄骨で受けて後ろへ飛び退く。
移動させる気はないらしい。
「ルシオラだけじゃねぇっ！！ 美神さんともおキヌちゃんともまだなんにもヤってねぇっ！！」
周りから投げかけられる投網は台所害虫そこのけの動きで避け回る。
「冥子ちゃん小鳩ちゃん愛子小竜姫様ワルキューレヒャクメにベスパ弁天様神無に朧・・・
隊長も捨てがたいし、シロやタマモももーちょっと育てば・・・・
世界中、いや宇宙中のねぇちゃんが俺の帰りを待ってるんや！！」
だんだん縮んできた巨大装甲フナムシの円陣。さすがの煩悩全開横島といえども動きが取れなくなってくる。
半径３ｍぐらいまで包囲網が縮まる。
「よくぞここまで逃げ回った。そのあきらめの悪さに敬意を表するぞ」
触角で叩くのは無駄と見たジャサが３ｍ巨体で横島を押しつぶそうとする。
「もうダメ・・・ダメなのか！！ こんなゴキブリの親玉に殺されるのか！！ 青き衣の美少女は助けにこんのか〜〜！！」
もはや円陣内の残骸はジャサに叩きつぶされ潜り込む隙間も盾になる切れ端もない。
ジャサが棘だらけの７対１４本の脚を広げ、分厚い装甲を持った巨体でのしかかってくる。
背甲より腹甲のほうがだいぶ薄いとはいえ霊力０の横島には気休めにもならない。
「ううっ！！」
視界一杯に迫る鉄の処女並の棘脚と腹甲。
「いやだ〜〜！！ み、みがみざぁ〜〜ん じぎゅう２５５えんでいいがら、だずげで〜〜！！」
泣きわめいて、それでも頭を抱えて脚の隙間から逃れるべくダイブする。
ズドン！！ ズシ―――ン
「あ〜？ 死んでねぇぞ？」
グサッとかドカッとかの擬音と痛みがないので頭をかかげるが上に何もない。
黒衣、ボブカットの美少女フィギュアが横島の影から弾丸のように飛び出してジャサをはじき飛ばしたのだ。
仰向けに落ちたジャサが横島の霊力が回復したのを悟りわめく。
「（眷属どもどうした！ 早く魔法陣を組み直せ！！）」
しかし、眷属の反応が鈍い。大小を問わずうろうろして言うことを聞かない。
マンホールから細く澄んだ笛の音が響いてくる。
「ネクロマンサーの笛！！ おキヌちゃんよ！！」
あちこちで霊体ボウガンの矢に括り付けられたバルタンが煙を噴いている。
倉庫にルシオラが仕掛けていたヤツだ。
屋内用燻煙悪霊駆除剤は、屋外で使われたためさほどの効果は無い。
が、眷属の微妙な統制を乱し魔法陣の機能を一時的に失わせ、おキヌが笛の有効範囲まで近寄るには充分だったらしい。
「ルシオラさん！！ あっちの倉庫の屋根に美神さんが居ます！ そこまで逃げてください」
地面から顔を出したおキヌが指さして叫ぶ。
「体ないし、眷属多いし、奪い取れるほどの力ないんです」
「やったわね！ おキヌちゃんナイス！！ 精霊石は使わなくてもいけそうね！！」
ルシオラがジャサを跳ね飛ばしたのを見て、屋根の上の令子が精霊石を括り付けたボウガンを発射するのを止める。
精霊石を外してしまい込みながら、
「５０００万儲けたわね！」
ルシオラが横島のベルトをひっつかんで急上昇する。
周りの巨大フナムシが一斉に襲いかかってくるのをＵＦＯ並のジグザグ飛行でよける。
「ぐえぇぇぇ―――――っ！！」横島の蛙のつぶれたような声。
いきなり腹をぶん殴られたうえに腹を掴んで振り回されるのだ。しかたあるまい。
かまわずに全力加速で令子に向かうルシオラ。
「ヨコシマ、ベルト以外じゃ切れちゃうのよ」
横島白目っ。聞こえてないって。
「ホッホッホッ！！ ルシオラ、ざまー無いわね！！」
パジャマ令子がルシオラが屋根に着いたとたんに意地の悪ぅい高笑い。
「使役者守れないなんて冥子の十二神将以下、式神失格よね！ 元魔族のくせに妖怪に封じ込まれるなんてね！！」
ぐぎぎぎ！！
「み、美神さんこそ入院しても依頼取り消さずにヨコシマを危ない目に遭わせた張本人じゃない！！」
横島が最後の最後で令子に助けを求めたこともありダメージが大きい。
「へーぇ。アシュタロス倒した英雄とそのヒロインだから余裕かな〜って思ったんだけど」
最後の横島の泣き言が聞こえていた令子は上機嫌で言い返す。
「でもさ、あの横島と生まれて３年たたないくらいのガキだったことも思い出して来てみたら案の定ピンチじゃない」
「み、美神さ〜ん。そんなこと言ってる場合じゃないとおもうんですけど・・・・」
こちらは地下から戻ってきて、白目の横島にヒーリングするおキヌ。
「ほほほっ！ そうだったわね。横島っ、起きろ！！」
パジャマ姿の令子がおキヌから横島を取り上げ、胸倉掴んでビビビビビッとほっぺたをはり倒す。
パッ。
展開予想して目を覚ました横島から手を離す。
「美神さーん！！ 来てくれるって信じてました！！ 信じてました！！
そのカッコで助けに来てくれるってことはもー告白ですね！！ ワーッ！？！」
横島カンゲキー！！ っと パジャマ令子に抱きつこうとして、そのまま後ろへ突き抜け、下に落ちてゆく。
ひゅ〜〜ん ぐしゃ。
ルシオラが はぁぁ〜〜〜〜〜ぁッ と ため息。しばらくしてから血まみれ全身複雑骨折の横島を拾ってくる。
「さぁてっと。美神除霊事務所は‘３人’そろえば無敵！！ 一丁いくわよ！！」
横島が復活するのを見て、令子が高らかに宣言する。
（３人って。やっぱり幽霊でない私は足手まといですよね）
（ざーっとらしいわね！！ どうせ私は役立たずの式神よ！！）
（やっぱ、俺は荷物持ちか・・・・・。ルシオラいればいらねーよな。文珠も数無いし。ルシオラの付録か）
元気のいい令子となんとなく落ち込む×３。
やっぱり令子は‘玲子’と間違えられるのがふさわしい女王様であった。
下々の多少の落ち込みは気も付かずにてきぱき命令を下してゆく。
「おキヌちゃんは心眼で見張ってて。また魔法陣組みそうになったら笛で攪乱して」
「ルシオラはサイコダイブでおキヌちゃんが見た、一番でかいフナムシに引っ付いてる寄生妖物の解析して」
「横島クンは今から私が霊力補充するからこっちへきて」
横島に霊力補充。
（ちょっと！！ 何コイツ！！ 底なしに霊力吸収するじゃない！！）
あっというまに吸い尽くされそうになって、慌てて倉庫への引き込み高圧線から盗電。
「イヤー、さすが美神さんスね！！ ただの電気を霊力に換えれるなんて隊長以上の人外ブッ！！」
お約束の顔面右ストレート。
「物理法則まで無視するお前が言うな！！」
「ああっ、久々に高い霊力で動けるわっ」
おキヌの頭の上でルシオラが流れてくる霊力の快感でうちふるえている。
しばらくうと〜〜っとして、ひょいと飛び降りる。
おキヌの側に落ちていた霊体ボウガンに霊力を与えながらなにやら呪文を唱え始める。
「ボウガン、ボウガン、目をおさまし。目を覚ましたらお前は私のペットよ！！ ちょちょいのちょい っと」
ふざけた呪文が終わると霊体ボウガンがその矢を巻き込みながらみるみるふくれあがる。
ギリギリギリとキャタピラをきしませ、目のついた巨大な弩砲が動き始める。
「お前の名は‘ＢＯＷ矢’よ！」
ルシオラが‘ＢＯＷ矢’に頬ずりしながら命名する。
霊力４５０マイト、どことなく童顔、坊ちゃん刈りの雑魚モンスター‘ＢＯＷ矢’が弓体をあおって恭順の意を表す。
「ＢＯＷ矢の得意技は長距離精密射撃と多数の矢の乱れ撃ちよ。これでリジアに取り憑いた兵鬼をつぶせるわ。
おキヌちゃんが気が付いたとおり、あの兵鬼を潰せば一気に解決よ」
「もっと作れない？ こんなのが一個小隊そろってれば！！」
少々の妖怪はまとめてやれそうなＢＯＷ矢を見上げて、令子がお金色に染まった目でルシオラに詰め寄る。
「できるわよ。じゃ、どんどんヨコシマに霊力補充して」
ルシオラがあっさりと頷く。
（ううっ やっぱ俺はルシオラの付録？ いや霊力変換アダプタか？）
ノートパソコンのおじゃまな黒い箱を思い出して横島が落ち込んでる。が、久々の霊力量と金色にまみれた２人は気が付かない。
３人とも気が付いていないが、実はルシオラに直接霊力補充すればよいので変換アダプタですらない。
おキヌは笛で眷属迎撃に奮闘中。
「次はおキヌちゃんの負担を軽くするために見鬼君かしら。おキヌちゃんが笛吹いててもリジアを探し出せるわ」
リュックサックから見鬼くんを取り出して霊力をため始める。
「まだまだ足らないわ！ もっと霊力ないと術に入れない！！」
早く作ろうと焦った令子が電気を目一杯吸い込みはじめたため、あたりの照明がスウッっと暗くなる。
「まだ？！！」
「も少し溜めないと」
さらに電気を吸収する令子。
バチン
「あ、ブレーカーが落ちちゃったみたい」
倉庫群総ての元が落ちたらしくあたりの照明のほとんどが消えてしまう。
「大元がどこかなんてわかんないわ！！」
思わずあたふたする令子。悪い時は重なるわけで、
「おおきなのに倉庫取り囲まれちゃいました。おおきなのは笛が効きません」
ほぼ同時におキヌが報告してくる。
「「しまった！！ 霧で見えないのと使い魔作んのに気をとられて忘れてたわ！！」」
思わずハモる令子＆ルシ。さすが同じ男に惚れた魂の姉妹。基本的には同じようなもんらしい。
「忘れてたんかい――――ッ！！！」
横島が思わずつっこむ。
薄くなったおキヌが言いにくそうに続ける。
「それと、私、霊力使い果たしちゃいました。これ以上やると笛がもてなくなっちゃいます」
肉体ないんで回復しません。地脈などの霊的スポットもありません。電気は今使えなくなりました。
グラグラ！！ ズシズシン！！
「うわっ！！ 地震か？！」
屋根から滑り落ちそうになった横島を慌ててルシオラが引きずり上げる。
「でっかいヤツが倉庫の柱に体当たりをかましてんのよ！！」
揺れと共に今まで、おキヌが制していた小さな眷属がわらわら這い上がってくる。
笛が止まったので一斉に攻撃をかけてきたらしい。
「ルシオラ！ その使い魔で何とかしてくれ！！ 屋根が落ちちまう！ 立ってられん！！」
「ＢＯＷ矢は俯角は−２度しか取れないのよ！」
「役立たず！！ 役立たずや〜〜」
「ひっどい！ 私のＢＯＷ矢は役立たずじゃないわ！！ ペスと一緒にしないで！」
「そいつの体重で屋根が落ちかかっとるやないか〜〜！」
言ってる間にも揺れる屋根上にたどりついた小さなフナムシがぞろぞろ押し寄せてくる。
上にたどり着くなりツィーツィッ、と飛びかかって発火するそいつらを必死に祓い落としてゆく。
「あちちちっ」
「道具を守るのよ！！」
リュックに向かうフナムシを令子が必死に祓い落としている。
ちなみに燃えるのは横島と道具類それにＢＯＷ矢だけである。
「こんな時まで俺の命より金優先ですか〜〜！！」
「横島クンは燃えても再生するけど道具はしないのよっ！！」
「ああっ！！ ルシオラもＢＯＷ矢の方優先で祓ってる！！」
「ヨコシマも手伝ってよ！！ ハンドオブグロ−リーが一番効率よく祓えるのよ！！」
「お、おキヌちゃんは？」
「とっくにネクロマンサーの笛抱えて上へ逃げたわよ」
「ごめんなさい〜〜！ 霊力残ってないしこれなくなったらなにもできないです〜」
その間も休み無く体当たりや連結具への発火は続けられ倉庫が軋みだす。
グラッ。大きくかしむ。
「あかん！！ もう落ちる！」
どーん！！ どんがらがっしゃーん！！
とうとう倉庫の屋根が落ちる。
と、同時に周りから一斉に巨大な装甲フナムシが襲いかかる。
ドンドンドン！！ ヒュヒュヒュヒュヒュンッ ブンッブンッ
崩れた倉庫の残骸からルシオラの霊波砲、ＢＯＷ矢の乱れ撃ち、それにサイキックソーサー。
令子に充電して貰った直後なので威力充分。
霧の中からいきなり出てくる矢弾はフナムシを次々に貫いてゆく。
敵のド真ん中に落ちて可哀想のなんのという精神構造をもってるやつはいない
「こうなったら仕方ないわ。ヨコシマ！！ 魔法陣作られないように小物を全部仕留めて！！」
霊視ゴーグルをかけた横島が四方八方に破魔札を舞わせ、押し寄せる小さな眷属のほとんどを吹き飛ばしてしてゆく。
充電で霊力がアップしているので破魔札も数格上の威力がある。
破魔札に焼かれ、矢弾に中って次々と動けなくなってゆくフナムシたち。
眷属はダメージを負うと消え、一族は仲間がＢＯＷ矢の乱れ撃ちの中を引き上げてゆく。
「くそっ！」
ジャサが歯がみして再び自ら飛び込もうとして後ろからはたかれる。
「（ジャサ、お前の言ったように援軍で途轍もなく強くなったようね）」
マザーリジアがいつの間にか来ていたようだ。
「（眷属がだいぶやられたわね）」
「（お袋！！ 隠れててくれ！！）」
流れ矢をはたき落としたジャサが思わず叫ぶ。
それにかまわず前へ進み出るマザーリジア。流れ矢が何本か当たって滑るが意に介さない。
「（これ以上子供の影には隠れていられないよ。私はお前達の母親なんだからね。残った眷属の指揮権は貰うよ）」
「（でも！！）」
「（親の言うことが聞けないってのかい！！ 死人が出ないうちに怪我した子を引いてお下がり！！）」
ジャサを一喝し、ふっと顔をゆるめる。
「（この戦、勝ってもここを去らなきゃね）」
「（！！ それではお袋が・・・・・）」
「（ああ、そういうことになるね。テュロスやビリアは無事みんなと、新天地へついたかねぇ）」
「（あいつらのことだきっと大丈夫だ・・・）」
「（ま、フナムシの普通の寿命より遙かに永くすごしてんだから文句はないよ。父さんの顔も見たくなってきたよ）」
リジアがしみじみと述懐する。
「（それにさ、自分のことばっかり考えて気が付いてみればこの岸壁のフナムシは私らだけさ。
フナムシどころかカニもフジツボも居なくなっちまった。いつの間にかみんな追い出しちまったようだよ）」
「（人間だってやってる事じゃないか。お袋は強くなって俺たちを守ってくれた。それでいいじゃないか）」
「（さすがに人間は追い出すには強すぎたってことだろうねぇ。結局元の弱いフナムシの方が平和だったんだろうさ）」
「（お袋、そんなことはない。コイツらさえ倒せば何時までも一緒にここでみんなと暮らせるんだ）」
ジャサが思わず叫ぶ。
マザーリジアが首を横に振る。
「（またすぐ次の退治屋が来るだろう。
それに、お前達、結婚も子供もできないよ。今は私の眷属みたいなもんだからね。
おまえが私が生きてりゃいくらでも生まれてくるってた時に目が覚めたよ。
結局、私１人の我が儘だったってことなんだろうね）」
「（お袋！！ それは違う！！ お袋は俺たちのために！！ 自分を犠牲にして苦労して・・・また今日も・・・・！）」
「（心配しなくてもわざと負けるつもりはないよ。けじめつけるのは勝ってお前達が新天地へ移住してからさね。
でないとお前の言うとおり、ここで元のフナムシに戻れば全員駆除されちまうだろうからね）」
とりすがるジャサやその他の子供達をやさしく押しのけながら前へ進み出る。
「（まあ見といで。伊達にあんたたちの倍は生きてないよ。それより邪魔になるから眷属残して全員引き上げな）」
横島に霊力が回復すると共に閉まった食料倉庫を見上げながら母がつぶやく。
下手にこじ開けてもガスが回り食べられなくなる。
小さな弟妹を助けた後、食料までは手が回らなかったのだ。
「（それにみんなそろそろ腹が減ったろう？ 大きい子も小さな子も飢えているはずさ。すぐ食べさせてやらないとね）」
この数この大きさでは波打ち際の食べ物では一番小さな子にしか回らない。
他の兄弟姉妹は海水を舐めるだけで我慢しているはずだ。
波打ち際に棲み、胃や長大な腸のないフナムシは長時間の絶食に耐えれるようにはできていない。
「母親が出てきたわ。アレに憑いてる兵鬼を潰せば終わりよ！！」
ますます濃くなった霧にかすむリジアを見つけたルシオラがＢＯＷ矢に精密射撃を命じる。
ＢＯＷ矢が細い照準霊波を発し始める。
「おキヌちゃん。兵鬼の居場所をＢＯＷ矢に指示してやって」
令子に霊力補充をして貰ったおキヌも霊視で見つけて心眼を全開する。
「この霧で見えてないと思うから真っ直ぐ狙えるわ」
ＢＯＷ矢に小さなフナムシが飛びかかってくる。
「ちょろちょろと！！ ＢＯＷ矢やおキヌちゃんの所までつっこんでくるんじゃない！！」
霊波砲を絞って打つが当たらない。
物陰に隠れてはつっこんでくるフナムシに破魔札も霊波砲もダメージが与えにくくなってきた。
マザーリジアが指揮権をとったことで眷属の動きが攻撃から陽動の疑似攻撃に変わっていた。
元々逃げるのが得意なフナムシ。
攻撃するつもりが無くなったとたんにこっちの攻撃が当たらなくなる。
みかけの攻撃はますます激しくなり、
ＢＯＷ矢が抜けたことで防御に手一杯のルシオラと横島はそのことに気が付けない。
マザーリジアの子供達は霧に隠れて総退却し、外側で円陣を組む。
マザーリジアが５ｍの巨体を誇示するようにゆっくりと進み出る。
体内の隠れた兵鬼を狙うのでなければこの霧の中でももはや照準霊波などは必要のない距離だ。
（ふん、私に狙い澄ましてるって事はもう霊力源がコイツだって事はばれてるみたいね。
あの額に目のある巫女が‘目’ってとこか）
倉庫の残骸に身を潜め、童顔をきりりと引き締めたＢＯＷ矢が
背中に背負った一本の矢に全力を溜め、ギリギリまで弦を引き絞る。
マザーリジアの装甲もこれなら貫けるであろう。
「撃てッ！」照準霊波がマザーリジアの体内の兵鬼に当たったのを視たおキヌがＢＯＷ矢に命じる。
ゴウッ
矢は放たれず、ＢＯＷ矢は火に包まれている。
「ああっ！ 私のＢＯＷ矢が！！ ＢＯＷ矢は木でできてて火に弱いの！！」
ルシオラが思わず悲鳴を上げる。
ＢＯＷ矢の下の瓦礫に小さなフナムシがツツッっと潜り込んで逃げてゆく。
「（まず一鬼。次はあの応援に来ている‘目’の巫女かねぇ？ アイツがいなくなれば眷属が動かしやすくなるね）」
マザーリジアがつぶやいてさらに前に進み出る。
こちらは手持ちの霊力をおキヌ＆横島に補充した後、電源元探しする令子。
「あった。これが大元か」
電線伝いに、壁を抜けたり地面を抜けたりして電源をやっと探り当てた令子がリセットしようとするが。
「なんて堅いのよ！！ おキヌちゃん連れてくるんだったわ！！」
幽体ごと体当たりするがびくとも動かない。
大電流ブレーカーはそれなりに大型でカタイ。３００年幽霊やって大型鞄でも持てるおキヌとは違うわけで。
しかもパチンと戻せばそれで終わりではなく、きちんと手順を踏まなくては戻らない。
「キーッ！！ 私は電気技師じゃないのよ！！」
パジャマ姿で説明書を読みながら切れていた。
横で、これも苦労して持ってきた携帯がふるえる。
「取り込み中にだれよ！！ え、人工幽霊一号？」
慌てて通話ボタンを押す。
『あ、やっと繋がりました。オーナー。今、シロ様、タマモ様がフナムシと交戦。苦戦中です』
「なんですって？！ そっちに別働隊がいってんの？」
『待ち伏せされたようです。３ｍ級が２匹、２ｍ級２匹、それに小型のが少なくとも４千』
「３ｍ級は横島クンでも文珠使うか霊力高めないと倒せないのよ！ いくら霊力高めててもあの２人じゃ無理よ！
しかも数千の眷属が襲いかかってきたら！！」
そこまでまくし立てて、ふと疑問がうかぶ。（なんで蹴散らされてないのかしら？）
『美神オーナー、小型のフナムシは今のところ少数しか積極的に参加していません』
「へっ？ ちょっと詳しく闘いぶりを送ってくれない？」
『・・・・こんな感じでしょうか』
人工幽霊一号から携帯に戦闘配置の時間ごとの変遷図が送られてくる。
「これだとこっちでの奴らより明らかに及び腰。しかも小型のを特攻させるどころか庇ってるわね」
小さな水雷艇の群れが戦艦や巡洋艦の後ろに隠れているような配置だ。今までドンパチやっていた相手とは全く逆。
「後ろで結界作ったり、武器操作してるわけでもないの？」
数千しかいなくては結界も作れないか。と言ってから考え直す令子。
『そのような気配は全くありません』
しばらく考えた後、結論を出す。
「たぶん、別働隊じゃなくって疎開集団ね。ほんとに偶然ぶつかったんだわ。
人工幽霊一号、そっちの装備に縛妖簡易結界がいくつか積んでいたでしょう」
『はい、しかし、さっき使って、効果はありませんでしたが？』
「巨大なヤツじゃなく、後ろの小さいのに使うの。多分小さいヤツは眷属じゃなく子供よ。人質に押さえれば降伏するわ。
殺しちゃダメよ。うまくいけばすぐ連絡して。もし降伏しなかったり失敗したら、そっちはほっといてこっちに合流して」
携帯を切った令子がうなる。
「こっちに残ってるのは眷属と戦闘力のあるヤツばっかりってことか！
おキヌちゃんやルシオラが視たとおりなら親子の情はすごいわね。あっちを人質に取れば？ だめね。膠着するだけだわ。
契約期限は明日てか今日の昼までに引き渡しだもんね。ハイジャック犯みたいな悠長なまねはできないわ」
配電盤にぶら下がって、しばらく考えていた令子がニヤリと嗤う。
「そうか、あいつらフナムシだったわね！ こないだ親父が言ってたっけ。
虫は本能にインプットされた行動には抗いにくい、ダメだと思っててもやっちゃうって」
「それにしてもこのブレーカー硬すぎよ！！ もーやめ！！」
「キツネ火は効かない、幻術は通じない。なんでこんなに強いのよ！！」
「霊波刀も滑ってしまうでござる！！ とんでもなく厚いヨロイでござる！！」
触角の鞭を避けてシロタマが左へ右へと舞う。
「（くそっ！！ こいつらすばしっこい！ かすりもせんぞ！）」
タマモは感覚・精神構造の違うフナムシをあまりうまく化かせてはいなかったが、その攻撃をかなり甘くしていた。
「（お前たち！ 早くここからお逃げ！）」
飛んできた火の玉を、弟妹達の所へ流さないように受けながら、指示するビリア。
４人は攻撃を前面の厚い装甲で受けながら、小さな弟妹たちから引き離すようにシロタマを攻撃する。
「バカにしてんのかしら！！ 攻撃を全く避けようとしないわね！」
「むしろわざと当たっているように見えるでござる！！」
ビリアが再び弟妹達に促す。
「（早く！ 南の集合場所で落ち合うのよ！！）」
「（姉ちゃん！ でも・・・・）」
小さな弟妹たちはなかなか離れてゆかない。
ようやく集団で動き始める。
「（集まっちゃダメ！！ バラバラに行くのよ！）」
それでもなかなか散らばらない幼い弟妹達。
振り返り振り返り離れてゆく。
そこへ遠くの人工幽霊一号のトランクから発射された縛妖結界が襲いかかる。
輪になったしめ縄にいくつかの御幣とお札がぶら下がってるだけの簡易結界だが
年端も行かぬ幼妖怪達を纏めて動けなくするには充分。
「（わぁん！）」
「（ねぇちゃん！！）」
「（しまった！！）」
思わず振り返るビリア。
「スキあり！！ どっせーっ！！」
シロがちらりと見えた装甲の薄い腹側に、師匠直伝のサイキックソーサーを投擲する。
体を浮かせたため見えた薄い腹甲にもろにサイキックソーサーがぶち当たり、脚が何本がちぎれ飛ぶ。
「（ビリア！）」 。
「キツネ火が効かないならこれよ！！」
思わずビリアに気をとられた触角の動きが止まったテュロスに、タマモが破魔札を投げつける。
前面の装甲はびくともしないが、可動の根元がちぎれ、触角が落ちる。
「やった！！」
ビリア、テュロスは薄青色の血を流しながらも弟妹を背にしてふらつく体でシロタマに向き直る。
「まだやる気でござるか！ トドメでござる！！」
シロが動きの鈍ったビリアに、霊波刀最大出力で飛びかかる。
「（クっ！ これまで！ せめて相打ちに！！ え？）」
「まったー！！ シロ！！」
タマモがシロの前に大の字で立ちはだかる。
「タマモ！！ またばかされたでござるか！！」
突然のタマモの変貌に大声で噛みつくシロ。
霊波刀の切っ先をタマモにかえて、化かされた原因を探ろうと霊気を嗅ぐ。
「バカ犬！ アレが見えないの！」
負けずに大声で言い返すタマモが示した先には、
思わず自ら縛妖結界に入った２ｍの２匹に小さなフナムシたちがすがりついて震えている。
２匹はじっとこちらを睨んで弟妹達を抱え込んでいる。
自分達だけなら結界を破るのは難しくないだろう。破る時の爆発も余裕で防御するだろう。
いや、現に、ついさっき易々と破って見せた。
「親子か兄弟か知らないけどこんなのみて祓えないわ」
振り返ってビリアとテュロスに言う。
「ちょっとじっとしてなさいよ。私を後ろから襲ったりしても無駄だからね」
シロに向き直り、
「おキヌちゃんや横島でもこうしたでしょうね。私の時はしてくれたんだから」
令子と大勢の武装した軍隊の前で冷や汗を流しながらも隠してくれた２人。
かくまってくれたのに化かしても後で何も言わずに接してくれた２人。
落ち着いた後では人間も悪くないかなと思わせてくれた。
「美神どのをどうするかでござるな」
フナムシたちを見て納得したシロも霊波刀を消す。
「先生はどうやったのでござるか？」
「吸印札で封じたフリをしてくれたようだけど、その手は使えないでしょうね。コイツら吸印するには強すぎるわ」
二人して考え込む。
「アンタらね！ 私を誤魔化すのは１００年早い！！」
令子が２人の後ろに浮いている。いたずらッ子に激怒したように見せる母親のような顔。
「わ、わきゃっ！！ み、美神さん！！」
「美神どの！！ なんで脈絡無く顕れるでござるか！！」
後ろから怒鳴られ跳び上がるシロタマ。
「幽体に距離はあんまり関係ないのよ？ それに人工幽霊一号もいんのよ」
数百、数千キロ上空の人工衛星に憑いたグレムリン退治なんかにも利用される幽体離脱技である。
場所がわかってれば車で十数分の距離なんて無いも同然である。
フナムシに向き直った令子が、充電で目一杯上がった霊力を放出しながら脅しにかかる。
「アンタらも私が来たからには覚悟して貰うわよ？」
幽体にまとわりつく、あたりが照らされるような霊気を見てテュロスとリビアが戦慄。
「（今までの２人とは桁違いに強い！！ ケガしてなくとも俺たちでは歯がたたん！）」
覚悟を決め、言葉を紡ぎ出す。
「俺たちを殺せば退治したことになるのだろう？ おとなしく殺されるから、弟たちや妹たちは助けてくれ」
「ＯＫ。 子供の命までは取らないわ。覚悟はいいわね」
「美神さん！」「美神どの！！」
シロタマが慌てて令子に駆け寄ろうとする。
パシャン
隠し持った揮発性の強力な眠り薬を皆が集まっていたところにぶちまける。
「「「「「きゃん！！」」」」」
襲ってきた匂いにフナムシは愚かシロタマまでが正体を出して倒れ伏す。
「ゾウでも一撃で眠らせる薬だからね。幽体だけだとうまく力が出ないのを知らなかったようね」
１人平気な肉体無し令子が、眠りこけ小さくなったフナムシたちを霊力封印札のついた箱に入れる。
「使わないと思うけど念のための人質ね。フナムシごときの生命尊重なんて私も甘くなったもんだわ」
人工幽霊一号にサポートしてもらって、すぴょすぴょと眠りこけるシロタマと共にコブラの助手席に放り込んで縛って固定する。
「私は横島クンの所に一旦戻るわ。人工幽霊。言ったように厄珍の所へ最大スピード。シロタマには起きたら説明してやって」
念のためにシロタマに目一杯、運転席のおキヌの肉体にちょっと霊力補充してパジャマ姿の令子がとびさる。
to be continued
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