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復活

電撃クイーン!3


投稿者名:ETG
投稿日時:05/ 7/18

「なぜ、ここを占拠し続けている? それだけの知能があればヤバイことはわかるだろう?
 一般人を襲ってないってことは、人間に悪意があるわけでもないんだよな」

晴れ渡った星空の下で、横島が正面に対峙した船蟲マザーに問う。

日中は天気良く、秋にしては暑いぐらいだったが、放射冷却で急速に冷えてゆく。

「人間に悪意なんかないよ。感謝しているくらいさね」

船蟲マザーの意外な言葉が続く。
「私たちはね、釣り人の残した餌とか加工のこりなんかがごちそうだったからね。
 ある日、知性が芽生えちまったてのかな。泳いでる魚なんかが怖くなくなった。身体も大きくなったしね」

船蟲マザーが遠い目で独り言のように説明する。
「すぐ数も増えた。するとね、足らないんだよ。食い物が。はじめは、魚を少しくすねるくらいだったんだけどね。
 母親は子供を飢えさせたくはないし、敵からも守ってやりたい。
 そのうちに霊能の使い方も憶えたし、眷属なんてものも作れるようになった。何時のまにやらこのざまさ」

周りの子供達を見回しながら続ける。
「フナムシの悲しさでここまでは見通せなかった」


そのころ、姿を消したちっちゃなルシオラがサイコダイブで人質の一人に話しかけていた。
『今から縄を切って、霊力封印を消すわ。でも幻術で今までどおりに写すから、合図があるまでじっとしててね』
『ありがたい。さすが横島どのだ!! あの強かった黒いヤツを一撃でしたな』
『でも、彼女らを全部倒せるほどの戦力はどう考えてもないの』
『美神事務所が総掛かりだろ?』
『残念ながらヨコシマ一人よ。で、困ってるわけ。人質が居るともこんなに賢いとも思わなかったしね』
『そうなんだ。どう考えても妖怪化してから数年の力じゃない』

ルシオラが3人を解放しながら集めた情報では、おそらく前回のチーム全員が人質になっていること、
50cm程度以下のやつは無視できる戦闘力であること、今出てるのがほぼ全戦力であろうことがわかった。

その話を横島に伝える。
『1m級以上、約500匹が相手。少し気が楽になったわね〜。どうしよ?』
『襲ってきた殺し屋も殺してないってか。それに、子供の食べ物のためか。ケンカする気無くしたよ』
『相変わらずやさしいわね。相手はこっちより強いのよ? そこにも惚れたんだけどね。とりあえず人質を逃がして有利に運ぼか』
『せやな。その後、交渉でなんとか』


「ならば、食料を渡せばここから立ち退いてくれるのか?」
除霊料金から考えれば一年や二年分くらいの食料代はしれている。まともなお札1枚分かそれ以下だ。

「イエス、と言いたいところだが、そういうわけにも行かないんだよ」
船蟲マザーがため息をつく。

「なぜなんだ?」

「この霊能と知恵を得るためのものがね。この港からを動くと効果を失なっちまうのさ。
 自我が芽生えて1年くらいかな。鳥のような羽をもつ人みたいな霊体がね。
 赤くて丸い木の実をくれたんだ。
 これで子供達を殺さずに済むだろうってね。でもこの場所に括られて移住はできなくなるぞって」

「今となっては明日の分からないタダのフナムシの方が良かったかも、さ。
 でも、知恵と霊能を失うのもできない相談さ」
まさに禁断の知恵の実。その味を知ると苦しむが捨てられない。


話をしていた船蟲マザーの表情が急に二対4本の触角を振りながら横島を睨む。
「アンタ、時間稼ぎをしながら人質を解放しようとしてたね!!!
 (コイツの匂いが人質の付近からもするのね!?! 姿を隠した仲間が付近にいるよ!! お探し!!)」

とたんに小さなフナムシが付近を走り回り、幻術に隠れていた人質に登って姿を暴く。
目印のフェロモンが付けられてたこともあり、つかの間、解放された人質は簡単にお縄。

『ヨコシマ、コイツら敏感すぎるわ!! さすがフナムシ妖怪よ!!!』
自身は空中に逃れ、なんとか姿を暴かれるのを免れたルシオラが訴える。

「(肝心の仲間は見つからないのかい!!)」
「(匂いはすれども触れられません)」「(少なくとも今は人質に触れていません)」
人質にびっしり張り付いた小さなフナムシどもが返答する。

「うぅ〜〜〜!!!」「むぅぅぅ〜〜〜!!!」
海ゴキブリともいわれるフナムシに顔と言わず服の中と言わず、
全身纏い付かれて思わず猿ぐつわから声にならない悲鳴を漏らす3人。


「宣戦布告ってことかい?!!」
船蟲マザーの命令で、1mまで迫っていた数十cm級の奴ら数千匹が360度から一斉に横島に襲いかかる。

『ヨコシマ、こいつらは弱いわ!!』
間一髪、空中に横島を引き上げながらルシオラが指示する。

キィィ――ン!!

横島が元いた場所で文珠『眠』が炸裂し、襲ってきた奴らのほとんどを眠らせてしまう。

「どうやった?!!・・・、しかもアンタ空飛べるのかい?」
降りてきた横島を睨み付けながら海際の積み上げてある箱を指さす。
「まったくもって侮れないね。でも、あれごらん!!」

小さなフナムシが数匹取りき、箱の周りで火花が散ったと見るや燃え上がる。
「今度隠れてなんかやったら、人質の一人がああなるよ!!」

『小さなフナムシが触角打ち合わせて発火させたわ』
『たしかあの箱、潮かぶって濡れてたよな・・・』
ルシオラと横島が魂内で顔を見合わせる。

「大抵のモノは燃やせるよ。こっちもまだ隠してる能力があるんだからね!」

油断してちっこいフナムシ数匹に取りつかれたら焼死ってかい!! シャレになってねーぞ!!
数百匹まで縮んだ敵の軍隊がふたたび100万にふくれあがる。

そのフナムシのど真ん中に足が震えるのを必死に隠しながら降り立った横島が口を開く。
「こ、今度は少し余裕があったから、アンタの子供達は殺してない。眠らせただけだ。確認してくれ。
 交渉したい。俺は横島だ」


夜温がますます下がり、空気が湿り出す。
『ヨコシマ、まずいわ!!』
『や、やばい夜霧が出てきやがった!! ルシオラの幻術が使えなくなる!! イザの時、逃げれね〜〜っ!!』

漂いだした海霧にフナムシ妖怪達と横島が放つ霊波が籠もってゆく。
『どうしよう!!??』『あとで暴かれるより先に出たほうがましね』
『今の内に親玉眠らせて人質にでもとれるやろか?』『やってみるわ。めちゃくちゃ敏感だし、期待しないで』

気配に振り返り驚く船蟲マザー&直上50cm位で触角に叩かれそうになり、姿を出すちっちゃなルシオラ。
(いつのまに!!)(やっぱり霊麻酔かけられるところまでは近寄れなかったわね)

「あなたを倒しても良かったんだけど」ルシオラが声を掛ける。「人質がどうなるか分からなかったから」
文珠なら倒せただろうのでハッタリに近いが嘘ではない。

「姿を隠してた相棒だ。ルシオラという」
「フン。まあ信じようかい。私はリジアとでも呼んどくれ」




幽霊屋敷。

塀の外から首だけ出して様子を窺うシロタマ&おキヌ。
悪霊どもは屋敷に再び引っ込んでるので真夜中の怪しい3少女だ。

「統率がいいし、こんなんぜーったいBクラスじゃないわ!!」
「悪霊は言うに及ばずミストにゾンビ、動く人形までてんこ盛りでござる!!!」
「いくら何でもこんなに成仏させられないよ〜!!」
「一気に全部やらないと残りにやられちゃうわ。どうしよ? おキヌちゃん」
「入ったとたんに一斉に襲いかかってきたでござる!!
 ちゃっちゃと終わらせて先生の所に手伝いに行くどころではないでござる!!」

敷地に入ったとたんに群れに襲われ、簡易結界と式神ケント紙を身代わりに逃げ出した。
地縛されているのか、敷地からは出てこなかったのが幸いだ。

「何とかするのがGSですよね。美神さんや横島さんだったらどうするんだろ〜?」
巫女姿のおキヌが、唇に人差し指で上を向き、力で勝る相手をも倒してきた上司と同僚を思い出す。


もわわわわぁぁ〜〜ん、とおキヌの脳内に合成映像(音声付き)。

『美神さ〜ん!! こんなんどうしようもないッスよ〜〜!! 死ぬ前にイッパツ!!』
とかいって横島さんが美神さんにダイブするか逃げかけて、
『見習いとはいえアンタもGSでしょ!!』とか『いっぺん死んでこい!!』
とかいって、美神さんが悪霊の中に横島さんを蹴り込むかな?

『このままでは死ぬ、死んでしまう!!』とか『もー ヤケじゃ!!やけくそじゃ!!』
とかいいながら、横島さんが結構悪霊を蹴散らしたり防いだりしてる間に、
『そこか!! 極楽にいかせてやるわ!!』
と、美神さんが弱点見つけ出して攻撃と。

で、親玉は『ぎゃぁ〜〜〜!!!』っか。
横島さんが、『あー死ぬかと思った!!』で復活しておしまい?


「こんなの私にはできない〜〜!!」シロちゃんやタマモちゃんは復活しない〜〜ぃ!!
2人のコンビネーションを思い出してな〜んの参考にもならないことが分かって凍りつくおキヌ。
やっぱり美神さん横島さんてすご〜ぃ!!

おキヌが泣き言をつぶやく。
「美神さん、どうしましょ〜〜?」
『Bならこの位はいくらでもあり得るわよ? 外で眺めてても何も解決しないわよ!! GSでしょ!!』
令子に叱られたような気がしたおキヌ。

「でも、こんなにたくさん一気に成仏させるにはシロちゃんやタマモちゃんの霊力合わせても足らないし・・・」
『外には出てこないんでしょ。まずは敷地の外から少しづつ削るのよ』
今はいない美神さんがアドバイスしてくれているようですぅ。

「塀からだと屋敷まではネクロマンサーの笛が届かないです〜〜」
『タマモにおびき出させるの。防御はシロにさせて』
さらに令子がおキヌにアドバイスする。

「なるほど、さすが美神さんですね!! えっ!!」

「横島クンの影響ね。声が出てたわよ」
ふよふよと病院パジャマ−スリッパ姿の美神令子の幽体が目の前に浮いている。


「夜とはいえ、透けてないわ。よっぽど心残りがあるのね」
「ここに現れてアドバイスとは仕事と金が一番の心残りということでござろうなぁ」
病院+幽体=死亡、とみたシロタマが実体があるかのような濃い幽体をぼーぜんと見ている。

「み、美神さん!! ホントに腸が切れちゃったんですね!! 迷わず成仏してください!!」
どっから取り出したか、御幣を振ってお祓いを始めるおキヌ。
「この除霊料金は必ずお供えしますから!!」

「生きてるわよ!!』
細い魂の緒をぶんぶん振り回す。

「気になって見に来たのに。アンタらが私をどう見てるかがよーく分かったわ・・・」
幽体令子が夜叉のような顔で一同を睨む。
「そんなことありません!!」「ご、誤解でござる!!」「みんなのためよね!!」
とぶるぶる、両手と首を振るシロタマ&おキヌ。

「とにかく、この美神令子が来たからにはこの程度の幽霊屋敷はちゃっちゃと終わらせるわよ!!」
「「「ハイッ!!」」」
なんだかんだ言っても不安だった3人は安心感から勢いよく答える。

「おキヌちゃん。遠慮せずに心眼全開で偵察して!! 私が霊力補充するからおもっきりね」

おキヌが全力の心眼で幽霊屋敷をなめ回す。あっという間に幽霊屋敷の霊の配置やトラップが暴かれてゆく。
それを建物の配置図に書き写してゆく。

幽体令子がおキヌに霊力補充。おキヌは消耗しないが、令子幽体はどんどん薄くなってゆく。
力を使い果たし、足はおろか手もなくなり浮遊霊のより見えにくくなった令子がふらふらと上へ漂ってゆく。

「美神さん、成仏する気ですか!!」
幽体が肉体無しで霊力を使い果たせば死んでしまう。

「美神さんは自分の命より金の方が大切なの!?」
「拙者感動したでござる!! 命を削って仲間を助けるとは!」

「こ、こんな美人がそんなもったいないことするわきゃないでしょ・・・」
電柱のてっぺんまで登ると、変圧器から青白いスパークが飛び散る。
送電用6600V(美神家の人間以外は素手で触ってはいけません)の電圧であっという間に、
幽体令子に手がはえ足がはえ、ふたたび濃くなる。

「ほほほほっ!! ふっかぁつ!! 充電完了!! 美神令子流電力-霊力変換よ!!」
令子幽体、パジャマ姿でガッツポーズ。

「美神さん!! すご〜いっ!! あ〜でも今の盗電じゃ・・・!!」
おキヌは一瞬驚き、次にひっじょーに複雑な顔をする。

シロタマも別の意味でこめかみを押さえている。
「非常識極まりないわね。ここにいててホントに人間社会の常識が身に付くのかしら?」
「長老に言われた人狼と人間の共存はここまでできないとだめでござるか?」

「細かいこと気にしちゃ皺が増えるわよ!! ママほどの高出力はムリだけど、魔法陣不要、電気があればどこでもOK!!」
どうやらこれから除霊現場で盗電しまくるつもりのようだ。
「家庭用100Vと違って3φの送電用高圧線は早いわ〜!!」


その頃、白井医院では、暗い病室で魂のない令子の肉体に霊力補給しながら美智恵がつぶやいていた。
「雷を霊力に変換する時の練習方法を聞かれたから、幽体離脱して感電せずにする方法を教えたんだけど。こんな事に使うとはね」
横ではひのめが、クークーとかわいらしい寝息を立てている。
「確かにあの子は雷でなくてもいいし、変換率も私より良くて便利なんだけど・・・。大丈夫かしら?」


「じゃ、乗り込むわよ!!」
いつもどおり、しかしパジャマ−スリッパ姿で先頭に立つ幽体令子は神通棍無し。
「入り口で襲ってきたヤツをまずは全力で叩くのよ。ある程度力使い果たしたら引く!!」

おキヌのように幽体操作に慣れてればともかく、幽体初級の令子は今回は単なる“充電器”である。

「引いたら私が霊力補充する、を繰り返して中に侵入してゆくのよ。親玉の位置は分かったから最短距離行くわよ!!」
パジャマ令子がコブシを握ってほくそ笑む。
「これから霊力総量無限大でボロもうけよ!! うまくいけば横島クン並にアイテム要らずよ!!」
盗電すればタダ〜。盗電しなくても電気なんて除霊具に比べりゃタダ同然〜〜♪♪♪

令子がほくそ笑んでいる間にもタマモにおびき出された悪霊やゾンビがおキヌの笛で次々に成仏させられてゆく。
残った雑魚妖怪や自動人形はシロが叩き切る。
みな、霊力ペース配分を考えなくて良いので大盤振る舞い。

おキヌが心眼&ネクロマンサーの笛を全開で響かせ、
シロが斬馬刀のような霊波刀を振り回し、
タマモが火炎放射器のようなキツネ火を薙ぎ払うように使って焼き払う。

「体力までは補充できないんだからね!! 体の動きは控えるのよ!!」
令子が皆が調子に乗りすぎないように釘を刺す。

「あ〜っ 私も悪霊しばきたい!! シロが気持ちよさそう!! おキヌちゃんの満足そうな顔がイイわ!!」
建物の前で3人に霊力補充しながらパジャマ姿で欲求不満に悶える令子。

「そろそろ霊力使い果たしたから引くわよ!!」
シロタマをしんがりに引いてゆく一同。

「めちゃくちゃ楽でござるな!! 霊力美神どのクラスは気持ちがいいでござる!!」
「今までのペース配分考えながら、ちまちま作戦立ててやってたのがバっカみたいね!」
「これなら一回で100人200人くらいは楽に成仏させてあげれます!!」
「これでBクラスでも一日3件いや4件は楽勝でいけるわ!! あ゙〜っ!! 自分でも神通棍でしばいてみたいわ!!」
皮算用にほくそ笑みながら悶えるパジャマ令子と興奮さめやらぬメンバー達。

令子が霊力補充した後、再び幽霊屋敷につっこむ一同。
「いくわよ〜〜!!」
「「「おぉ―――っ!!!」」」


この後、すぐにこの幽霊屋敷の始末は終わった。

他の霊の分まで霊力を吸って肥え太った悪代官姿の親玉悪霊。
「あれ〜〜!! お代官様お許しを〜〜」
「どうせ迷うのは同じじゃ! いいではないか、いいではないか」

唇をタコのようにして、若い娘の霊の霊力をさらに吸おうとした所にシロが踏み込む。
「この世での悪行の数々ゆるせんでござる。観念するでござる!!」

「小癪な! ものども、出会え、出会え!!」
残った悪霊どもが親玉の声でわらわらと集まってくる。
若い娘の霊を引っ立てながらその後ろへ逃げ込む親玉悪霊。

それを、いつの間にやら着流しポニーテール(違)のシロが叩っ斬ってゆく。

「ひとーつ、ひとの屋敷の不法占拠!」
ざしゅっ!! ざしゅっ!!

「ふたーつ、浮遊霊を食い物に」
ざしゅっ!! ざしゅっ!! ざしゅっ!!

「みーっつ、皆と徒党を組んで悪事三昧!!」
ドザシュ!!

とうとう、親玉悪霊が隅に追いつめられた。

「ぎゃ〜〜〜っ!!!」

若い娘の霊を盾にしようとするが切り捨てられる。
「うら若き娘ごを盾にするとは武士の風上にも置けぬでござる!!」

と、同時におキヌが笛を一吹き。

「極楽へいかせてあげます!!」

(ああっ、それは私の決めぜりふ〜〜!!)
目の前でおいしいところを指をくわえて見てねばならず、血の涙を流すパジャマ姿の幽体令子。

「おめえは地獄直行」
後ろ手に縛られた悪代官が地獄の獄卒にしょっ引かれ、他の霊がぺこぺこと頭を下げて成仏してゆく。

死に神が数人の天国行きの魂を手招きしている。
「あ〜、お嬢さん。親父さん。あなた方はこっちだ。他の人は三途の川経由で審査が待っている」



「次は横島クンの所よ!! おキヌちゃん状況聞いてくれる?」
充電と共に気も取り直し、パジャマ姿の令子がおキヌに指示する。ルシオラに携帯で状況を聞く。

『あ、おキヌちゃん。そっちの状況どお? こっちはちょっと厄介なことになってるわ』
ちっちゃなルシオラの中で管につながったちっちゃなちっちゃなルシオラが、呑み込んだ携帯に答える。
お互いの状況を報告し合う。

「ん〜、やっぱり横島クンだけでは手に負えないわね。幽体はあんまり距離関係ないから先行くわ!!」
「あ、美神さん私も行きます!!」ネクロマンサーの笛をつかんで幽体離脱するおキヌ。
フル充電された2人の幽体が横島がフナムシと対峙する港の倉庫群へとすっ飛んでゆく。

「拙者も行くでござる!!」
「幽体離脱できなきゃどうしようもないでしょ!!」
幽体離脱金属バットにぎったタマモとチーズあんシメサババーガーの空袋を握りしめたシロ。たんこぶがいくつか。

『いくらシロ様でも私の操縦するコブラの方が早いかと』
「ウォ〜〜ん!! 拙者の幽体のばかやろ〜〜!!」
「うっさいわね!! とうとう自分でバカ犬って認めたの!」
隣で耳を押さえて怒鳴るタマモ狐。
「美神どのもおキヌどのもズルイ!! ずるいでござる〜!!」
かまわず遠ざかる幽体に助手席に座って吠える狼。

ぎゃんぎゃんほえる狼と狐、それにくてっとしたおキヌの肉体を乗せて疾走する人工幽霊一号操縦のコブラ。
しばらくして、
『木更津から東京湾横断道路へ入ります。とばしますからシートベルトを締めてください』

シロとタマモがおキヌの体をシートベルトにがんじがらめに紐で縛る。
「これで急ブレーキでも落ちないわね」
『タマモ様、警察なんかをちょっと誤魔化してください』

黄色点滅に代わった真夜中の国道をハザードライトフル点灯で疾走するコブラ。
他の車を相対時速数十キロで次々にゴボウ抜きしてゆく。




「美神さん。なんで、先にこっち来てくれたんですか?」
幽体おキヌがパジャマ令子と港へと飛びながら聞いてみる。
「依頼書を見る限りは横島さんの方が危険おっきいですよね?」

「ん、なんとなく、かな」
そういえばそうね、と令子が考える。
「それにアイツが除霊ごときで死ぬわけないじゃん!!」
やがてきっぱり言い切る。

「なんだかんだ言って横島さん信用してるんですね」
おキヌがちょっとうらやましそうな顔。

「悪運だけはすごいからね。 ルシオラもついてんだしさ」
「確かに、ルシオラさんが横島さん死なすはずないですね」
お互いに言いつつちょっと複雑な表情の令子&おキヌ。

「あっ!! ルシオラは横島に怪我させないためならきっと平気で赤字出すわ!!」
そこにも気が付いて焦り出す令子。

「なーんかめちゃくちゃ気になりだしたわ!! 急ぐわよ!!」
「ハーイ!! 美神さんの健康のためにも!!」
「みんなして!! おキヌちゃんまで!!」




こちらは港の倉庫群。

「夜霧も出てきたし濡れたくはないだろう? 倉庫を1つ開放してくれないかい?」
船蟲マザー、リジアが提案する。
「そこで話ししないかい? そうすれば人質を1人解放してもいいよ」

横島&ルシオラも倉庫の中ならイザとなれば幻術が使えるので異存はない。
『ヨコシマ、3人とも解放で倉庫半分ってしない? 3人なら戦力になるかもよ?』
『向こうが受けるかな? 確かに大体半分ずつ解放だが』
『受けたら倉庫の中に子供がいるって状況証拠にはなるわよ?』


しばらく後、倉庫のひとつの中、船蟲マザー、リジアとその子供達。
「(お袋、アイツはやばすぎだ。こないだの奴らとは桁違いだ)」
「(あっさり倉庫半分渡したしねぇ。まだこっちが人質もってんのにね)」

「(こっちも弱みは見せられないが、一番幼い弟妹達と食料が抑えられたままだ。そろそろ飯と潮水やらないと・・・)」
「(ああ、湿度が高いからましだが下手したら死んじまうぞ)」

「(開放された倉庫ではおもりは姉妹も眷属も全部眠らされていたわ。中からなんかできるとはおもえないわ)」

「(お袋は反対するだろうが、全員で一斉にかかろう!!)」
「(おやめ!! 相手の力もわからないし、人間全部を敵に回したらとてもじゃないが敵わないよ!!)」

「(お袋・・・、アイツ、横島ってたよな。少し前に人質の奴らが、GSで1,2を争う強さだっていってたのを聞いたことがある)」
「(オイ、本当か!!)」

「(知るかい!! 重要なのはその後だ。ちょっと黙ってろ。
 なんでもアイツの相棒・・・確かミカミとか言ってたとおもうが、そいつが同じかそれ以上強い上に悪知恵が働くらしい。
 しかもだ、あの横島とかいうのとコンビを組むと魔神すら倒す術ができるらしい。
 お前ら、俺ら総掛かりでも魔神を倒せると思うか?)」
「(倒せるわけ無かろう!!)」

「(つまりだ、その相棒のミカミとかいうのが援軍で来る前に何が何でもあの横島を倒してしまわんと勝ち目が無いわけだ)」
「(横島ってやつも、交渉って言ってるって事は、こっちを確実に倒せるアテがないのでしょうね?」
「(ああそれは確かだろうな。もしかするともう援軍を要請してるかもしれん)」
「(交渉引き延ばして時間稼ぎか!!)」
「(可能性が大きいわね)」

「(あんたたちお止め!! 憶測で動くと本当に一族全滅してしまうよ!!
 それにあんたたち半分失うぐらいなら力を失って故郷を捨てた方がましさね)」

「(お袋、知ってるんだ。ここを動くと俺たちはともかくお袋は死んじまうってことを。
 俺は自分が死んでもお袋は死んで欲しくない。タナイス兄さんもそうだったと思う。
 ぶっちゃけ、お袋が生きてれば俺たちはいくらでも生まれてくる)」

「(子供を盾にして生き延びたい母親がいると思うのかい!! お前達が生き残れるなら喜んでこの命ぐらい・・・)」

「(お袋!! お袋が死ねば俺たち全員タダのフナムシにもどっちまう。そうすればどうせ駆除されて一族全滅なんだ!!)」

その言葉にマザーリジアがぐっと詰まる。

「ビリア、テュロス、小さな弟妹達を連れて脱出してくれ。
 タダのフナムシに戻っても駆除されないようにできるだけここから離れるんだ!!)」

ジャサが長い触角を振って叫ぶ。
「(みんな!! 俺に命を預けてくれ!! 一気に踏みつぶすんだ!!)」

聞いていたフナムシたちがジャキン!!と触角を鳴らして賛同する。


ビリアと大きな妹たちが、集まっていた一番小さな弟妹たちを腹に抱え、糸を紡いで固定してゆく。
その間にテュロスが人間の地図を見ながら逃走経路を検討。

「(母様、兄様無事を祈っております。弟妹達はお任せ下さい)」
マザーリジアに小さな子供達が抱きついて最後になるであろう別れを惜しんでいる。

「(ジャサ兄ぃ、悪ぃが俺はビリア達と一緒に行くわ。お前のことだから再会できると信じてるぜ!)」
「(テュロス、頼んだぞ)」

「(このコースでゆく。海沿いに進んで、この近くからトンネルに入って対岸へ出る。
 とりあえずこの木更津人工島‘海ほたる’と書いてあるところまで一気に走るぞ。
 ここで食い物を妹たちに食わせてやれるはずだ。対岸に着いたら3日ほど潜伏する。
 俺たちがフナムシに戻らなければ勝ったと見て戻る。人間に近づいたら普通のフナムシになってやり過ごすんだ)」

テュロスが数本の候補経路とはぐれた時の落ち合い場所などを地図を示してビリア達に説明する。

「(では行くぞ!!)」




「美神さん、そろそろ例の倉庫群です」
少し前、海を渡って港町に近づいたおキヌと令子の幽体。

とりあえず近くの変電所に陣取っておキヌが心眼を全開にする。

「すごいフナムシの数ですよ!! 美神さん」
おキヌが思わず声を上げる。

「ええ、正面からだとちょっと手こずるわね」
令子が電気を霊力に変換して、おキヌに補充しながら答える。

「ここまで短時間に強くなった原因があるはずよ。それを探して。今の戦闘になってないうちに探らないと」
ルシオラが報告してきた強さは異常だ。変化したての虫の妖怪のレベルは遙かに超えている。

おキヌが倉庫を1つ1つ丁寧に見てゆく。

1つの倉庫を注視して、事前に貰った貨物一覧には無かった物を見つけた、おキヌの眉が寄せられる。
「あぅ。美神さん。ここ心霊具が混ざってますけど」

「え、んなもん普通の倉庫に入れちゃ駄目なはずだけど? だれか倉庫代ケチったわね!! で? 何があったの?」
本来は対霊措置のきちんとしたところに置くか、ある一定以下の数量にしなければならない。

「まず魔法薬のたぐいですね。ヘンゲリンαや薬事法違反品のジェノサイド、カタストロフまであります」
おキヌがあきれた声?で報告する。

「あったっていうべきかな? 今は食べられそうなものは全部空箱です」
魚やヤモリの干物、香辛料、ナッツの空箱などと共に魔法薬や霊具の箱、魔法書までが散らばっている。
魔法薬の材料にもなるこれらを一緒にいれて検査の目を誤魔化していたらしい。

「そんなもん普通の倉庫に、しかも食い物と一緒に入れるな!! そいつらの食べ合わせでフナムシが妖怪化したのか!!」
クライアントも余った倉庫貸してそんなモン入れられるとは思って無かっただろう。
多分入れる時にでも乱暴に扱われて封が破れてしまったのだ。

「あ〜〜っ!!」
一声叫んでおキヌが真っ赤になる。

「まだ何かあったの?」
「え、ぇぇっとですね・・・・。み、美神さんのはだ・・ごにょごにょ写真に・・・、うわっモロ!!
 えっ、六女の更衣室!!?・・・・エミさんも隊長さんも!! それに知らない女の人の・・・・・・」

お宝のオリジナルはここに置いて普段はコピーを使用しているのだろう。
被写物のキケンさから手元の物はいつ破壊され(もしくは処分し)てもおかしくはない。

(ううっ!! いくら探しても私のはないですぅ!!)
ちなみにシロタマやルシオラのもない。おキヌはそんなことには気が付いていない。

「アイツらかーっ!! 厄珍もとことん面倒起こしてくれるわね!!」

あとで厄珍脅していくらか巻き上げれるわね!! 横島は!! 終わった後で原型無くしてやるわ!!
横島が倉庫なんか借りるはずもないし、厄珍がママやエミの盗撮できるはずないモンね!
多分アイツのバックアップでもあるんでしょうね!!

今は勤めて冷静に・・・・!!

「でも、魔法薬ごときで横島クンのハンドオブグローリーを余裕で跳ね返すような強力な妖怪にはならないわ」

「んー。あ、横島さん倉庫にいるようです。周りをフナムシが取り巻いてますけど至って平静ですね。
 その他に変わった事と言えば・・・・」
なんとか倉庫群のスキャンを終わらせたおキヌがフナムシそのものを注視している。

「あ、あの一番大きなフナムシ、肉体が生きてない? の割にはすごい霊力です」
「フナムシのゾンビってこと?」


令子の問いかけには答えず、マザーリジアを注視したおキヌの目から涙が次々とこぼれ出す。

心眼を通して流れ込む母の心。
子を想う母の思い。

食べられた子供を救えなかった情けなさ・・・・
嵐が続いて食べ物を探せず次々に飢えて死んでゆく子供たち・・・・

偶然口にした魔法薬で目覚める知性。

子を守るためには何でもしようという決意。
魔法薬を試しては力をためす日々。

そして、ある日死にかけ、その心につけ込むかのような提案。

強力な霊体に食べさせられたものが母の体を強力な妖怪に変えてゆく。
フナムシとしての寿命が尽きても死なず、
魔法薬ごときでは得られないような強力な体に。

それと共に子供達も強大になる。
謀らずも子供達まで妖怪にしてしまった母の嘆き。

そして子供達が死ななくなった歓び。

今、自らの強さが呼び寄せてしまった強大な敵の出現を前に、
子供が再び失われてゆく悲しみと怯え。


「美神さん・・・・。この人達、何も悪いことしてません」
おキヌがぽそりとつぶやき、その後、令子にとりすがって自分が見た心象風景をかきくどく。

「おキヌちゃん・・・・だから相手の弱点を見つけて? このまま正面からぶつかれば全滅しちゃうわ」
しばらく抱きしめておキヌの髪をなぜていた令子が口を開く。
「うまく人間と仲立ちするのも仕事なのよ。私達がうまくやらないと別のGS、下手したら軍隊が出てくるわよ?」

「ハイ・・・・・」
おキヌが心眼を再びフナムシたちに向ける

「美神さん。どうもあの一番大きなフナムシに取り憑いている寄生妖物が妖力源のようです」
おキヌが地面に絵を描いて説明する。

「つまり、そいつを倒せばフナムシ全部元に戻るわけ?」
「私の能力ではそこまでは。ヒャクメ様ならわかるでしょうけど。たぶんぶーすたーみたいなもんです」
「ルシオラなら解析できるかもね。とりあえず合流するか」



ずズぅ〜〜ん。



変電所から移動しようとした、令子とおキヌの目に横島が入っているはずの倉庫がいきなり炎上し崩れてゆくのが映る。

「横島クン!!」「横島さん!」



to be continued


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