港、波止場でルシオラから降り立ったデニムの上下、赤バンダナの横島。
「ええとこっちが待ち合わせ場所やったっけ」Faxの地図を見ながら歩いてゆく。
「美神令子除霊事務所の方ですか?」
メガネを掛けた小太りのオッサンと警備の服を着た霊能者が近寄ってくる。
横島のライセンス証と事務所の名刺を見ると、メガネのオッサンが
「明後日には冷凍魚がコンテナ船一杯入ってくるんです。明日までに何とかお願いします!!
それ以上に、このままではここの倉庫が全部つかえないのです」
横島の顔を見て何か言いたそうだったが、長居はしたくないのだろう。
後の説明を引き継いだ霊能主任が今までの状況を横島に説明する。
「でっかい美少女フィギュア胸ポケットに入れた、アホ面の高校生みたいなのが一人だぞ?」
倉庫群の管理課長は、横島と別れ、警備の霊能主任と車に帰って来るなり聞く。
「前のチームの方がよっぽど‘らしかった’ぞ!! 大丈夫か!!」
「美神除霊所の横島っていや、妖怪はおろか魔族を何人も倒してんだ。前のチーム全部より強ええことは間違いねぇ」
警備の霊能主任は車を出しながら、心配するなって顔で説明する。
「足になる車もバイクもなかっただろう? 課長にゃわからんかっただろうけど、いっきなり強い霊圧が出現したんだ。
高速で飛んできたか瞬間移動ってことだ。俺ら並の霊能者はできねぇし、できてもやらねぇ。後にさしつかえるからな」
霊能主任は六道冥子、ピエトロ・ド・ブラドー・・・・と高速飛行・瞬間移動のできるGSを数えてゆく。
「じゃあ、あの胸ポケットに入ってたフィギュアはなんなんだ?」
管理課長はまだ納得していない。
「ルシオラってな、魔神アシュタロスの元配下の超強力な魔族で今は横島氏の式神。これだけでも強さがわかるってもんだ」
霊能主任が続ける。
「しかし、美神除霊所に急ぎで頼んだ以上派手だぜ。倉庫の数個は壊れる覚悟と対策しとけよ」
契約書にもそうなっている。短期間で済ます以上は仕方がない。
「六道に頼むよりゃ、おとなしいだろうけどな」
聞いた管理課長が渋面を作る。
「どっちにせよ、尻ぬぐいする現場はたまったもんじゃない」
「上もさっさと金だしゃいいんだよな。時間があれば比較的安くて、遠距離呪術で綺麗に仕事する小笠原オフィスで済んだのに」
「たしかに。気もせくしな。結局、小笠原以上に金かかったんだろ?」
「たぶんな。倍近いだろうぜ。あんな相手にその辺の拝み屋ではダメだってのが何度言ってもわからん上じゃしょうがない」
二人してため息をつく。
「先に除霊に行って死んだGSも哀れってか」
喰われたのか死体も見つかっていない。
「あんだけの調査期間使ったくせに相手の力量もわからずに安い金でつっこむ方も悪い。
横島氏は一目でかなわなけりゃ逃げるってたろ。そのくらいの相手なんだ」
「それだと入ってくる冷凍魚が腐るぞ!!」
ふたたび不安にとらわれる管理課長。
「それだけ慎重、大見得きった前の奴らとは違うってことさ。ダメっだったら除霊所総掛かりで来るだろ。今晩中に」
美神令子除霊事務所は違約減収をめちゃくちゃいやがる。
「さあて、勢いで一人で来ちまったけど大丈夫かな?」
当の横島は倉庫群のフェンス前でひとりごちる。
「フナムシ妖怪か。1チームやられてるわね。とりあえず偵察ね」
「ああ、頼むわ。その間に俺はここに避難場所の結界張っとくわ」
汽笛と潮の香りの中、ルシオラが姿を消し倉庫群に飛んでゆく。
倉庫群のフェンスの外の広場――普段はトレーラーの待機場所にでもなっているのだろう。
にある管理人小屋?の中。
横島は魔法作業用インキペン(六道除霊装具製、商品名:マッキィ)を取り出して防御結界魔法陣をモルタルの床に描いてゆく。
え、横島が魔法陣なんかどうして描けるのかって? ルシオラに刷り込まれたに決まってるでしょーが!!!
かきかきかき・・・・
「ううーん? あ、線の太さが違うぞ?」けしけし・・・
小笠原エミが見れば肩をすくめるだろうか?
それとも「おたく、それでもGS?」とハリセンで頭を張るだろうか?
「ああっ!! またトーン間違えたぞ?」
直径2m程度の小型魔法陣1つに何分かかっとんじゃ?
おキヌちゃんなら2分ほどで描くぞ!!
「ああ―――――っ!!! うぜぇ!!!」
頭の中にあるものを写すだけがなかなかできず放り出して座り込む。
『ヨ・コ・シ・マ? ちゃんと描かないと後で死ぬかもよ? 今日はおキヌちゃんいないからヒーリングも雑魚一掃も無しよ』
ルシオラが魂内会話でクギを刺してくる。
『今、倉庫の中だけど、どの倉庫もフナムシの繁殖場みたいになってるわよ。
たぶん全部眷属か一族よ。10万、いえ、細かいの入れると100万ね』
何枚か映像を送ってくる。
普通のフナムシサイズから王蟲の子供か!! てな全長3m近くあるよーなのまでが、壁と言わず棚と言わずびっしり。
床に転がっている空箱は、餌になった元在庫商品であろう。
『倉庫の冷凍機は食料が残ってるところは動いてるわ。自家発電機なんかも含めてメンテができる知能がありそうよ』
冷凍機やら自家発電機にとりついているひときわ大きなフナムシどもの映像。
「へーいいぃ」
それらを視た横島が慌ててマッキィを握り直して魔法陣を描き上げる。
「・・・・冥界の・・・に願い奉る・・・我に仇なすモノを喰らい尽くしたまえ!!」
ルシオラに刷り込まれた魔法陣起動の呪文を唱える。
襲ってきたモノを贄にするタイプの、エミも真っ青な黒魔術だがルシオラのお勧め品。
煩悩霊力源の横島には結構相性がイイ。雑魚よけ休憩用だ。
ブウゥ――ン 無事魔法陣が起動する。
出入りして自分(人間)が対象外であることを確かめつつ、魔法陣の中に荷物を置き、すぐに魔法陣稼働を休止する。
この分だと稼働しっぱなしだとフナムシどもは対策を考えるだろう。
休止状態ならある程度霊圧のあるモノが入れば自動復帰する。
さらにヒーリング用曼荼羅なんかをあと何個か描いて緊急避難場所を作る。最後に壁にべたべたと防御結界札を貼る。
「美神さんの万能ぶりやおキヌちゃんの有り難さが身に沁みるな〜〜〜」
描き終わってふうっと額の汗をぬぐう。
「2人が居るだけでこんなのは全部要らないんだもんな」
2人がいればおキヌの偵察のあとすぐ攻撃、 であろう。少々危険になっても令子が何とかしてくれる。
『いいわね』
横島から送られた画像を見てルシオラがOKを出す。
「ボチボチ行くでぇ!!」
コブシを手のひらにたたきつけ、かっこよく言い切るが腰が完全に引けて足が震えている。
がごごごごご〜〜〜〜
夜の帳と共に倉庫の扉が開き、長い触覚を振り回し、多くの脚を波打たせ、ぞろぞろと出てくる大小様々なフナムシども。
大きな複眼と鋭い大顎が残照を受け不気味に輝いている。
全長5m、2トントラックほどのひときわでかいヤツが3m程のを数十匹従え横島の方に向き直る。
1mほどの比較的小さなヤツが護岸沿いに音もなく横島の背後に回る。
ふと見れば周りのコンクリートの地面はざわざわ動く小さなフナムシに埋め尽くされてツヤツヤと輝いている。
潮騒の中、沈まんとする夕日と海を背に100万の大軍に一人で挑むドンキホーテの運命は如何に!!
某所、お堀端。
あたりは薄暗く、風に揺れる柳の陰からいかにもなんかでそうである。
おキヌ、シロ、タマモがお堀端を手分けしてうろつくがなにも出てこない。
「若い女性専門に引きずり込むはずなんだけどなー」
ここぞと思うところを心眼で視たが居ない。
「美女2人そろってても出てこないでござるな〜。心眼や霊視でもダメござるか?」
見鬼くんを持ってタマモとお堀を2周してきたシロがダメモトで聞いてみる。
「ひとつ目でこれだと先生のとこお手伝いに行くのが遅れてしまうでござる」
「心眼全開ならいけると思うけど、広いから後のこと考えるとやりたくないなぁ」
おキヌが再び手のひらに水晶玉をのせて中域霊視をしながら答える。
「依頼書の通り並の霊視ではわかりませんね。エミさんや冥子さんならわかるかもしれないけど」
「もうちょっとスタイル良くしてみようかしら?」
タマモがくるんと一回転してバイン、キュッ、ボンのねーちゃんに化けてみる。
「これなら少なくとも横島はダイブしてくるわね」
令子なみの露出&妖艶なスタイルでポーズ♪
((う、うらやましい!!!))
内心、悔し涙を流す、おキヌ&シロ。
「じゃぁねん」流し目を2人にくれて再びお堀端に沿って歩き出す。
ひょうっ!! へぇっ!! 関係ない通行人が若い男を中心に思わず振り返る。
(は〜〜、ダイブもしてくれないのは魅力が無いのかなぁ〜〜〜? タイガーさんもだったし・・・・)
仕事中なのにどよょ〜〜んと落ち込むおキヌ。
(女狐ぇ!! 拙者より子供のクセにズルイっ!! ずるいでござるぅっ!!!)
ガルルルルッ!!! 陽気に憤慨するシロ。
2人を尻目に人気のないあたりでお堀端沿いの道に入るタマモ。
「「うぅ!!」」
サポートのため離れてついて行く、うなだれおキヌ&牙剥きシロ。
波止場、倉庫群前。
虚勢をはった横島を2〜3m離れて360度、大小様々なフナムシがびっしりと取り巻いている。
『ヨコシマ。済んだわよ。各倉庫にバルタンPジェット10缶づつ仕掛けたわ。おもりの奴らも眠らせたわ』
魂内でルシオラの声が響くと共に倉庫群の巨大な電動シャッターが一斉に閉じ、扉の鍵が閉まる。
がらっがらっがらっがらっ、ズズゥン。ガチャン、ガッチャン・・・・。
「この分だと俺の言葉は理解できるな? 今、総ての倉庫の扉を閉じた。中の薫蒸処理準備も終わった。
俺の念波一発で中の仲間が全部死ぬぞ。嫌なら話し合いに応じろ。倉庫に仲間を近づけるな」
膝が震えるのを必死で止めながら横島が話しかける。
「俺はここの倉庫が使えるようにしろ、という依頼を受けているだけでお前らを殺せと言われているわけではない」
全長5m、2トンダンプほどのひときわでかいヤツが人型に変化し、答える。
「どうやったのかわからないけど、前のいきなり襲いかかってきた連中よりは頭もいいし話がわかりそうね」
鎧を装着した、肝っ玉母さんと巴御前を足したような姿と長い触覚。前を3m級のヤツらが護衛している。
後ろを振り返り、「子供達、騒ぐんじゃない!! 元の配置に戻るんだよ」横島にもわかる言葉で命令する。
倉庫扉を開けようとしていたヤツらが扉から遠ざかる。
「でも、こっちだけ人質とられてちゃ、話し合いになんないね。奴ら連れてきな!!」
しばらくしてマンホールのふたが開く。中から後ろ手、猿ぐつわの3人ほどの男女が出てくる。
ご丁寧に額に霊力封じの呪文まで描かれている。
「前に襲ってきた奴らだよ。餌も与えてあるし命に別状はないはずさ」
「前のチームか? 生かしてたのか!?」
(げぇっ!! コイツら妖怪化したてのハズ。変化したてのムシの妖怪の知能レベルじゃねーぞ??!!)
「あと数人いるよ。さ、これで条件とりあえず釣り合ったわね。交渉さね」
あっさり切り返された。横島、思わず母の百合子を思い出し顔が引きつる。
(本気のお袋を敵に回すようなもんか?!! シャレになんねぇっ!!!)
横島の内心を知らずか、顔を見たとたんにうなだれた人質3人の目が輝く。
(((アシュタロス戦の英雄、横島忠夫!!)))
それを見て、船蟲マザーが触覚を振り横島を睨み付ける。
「アンタ、怯えたフリして・・・頭がいいだけでなく相当強いみたいね。心してかからなきゃね」
横島にはわからない言葉で何事か命令する。
「☆ゞ〆∀∃‡Å‰@℃m(_ _)m(@_@)Φν!!」
一番小さなサイズのフナムシが、倉庫群の壁といわず街灯といわず適当な間隔を開けてうろつき回る。
『ヨコシマ、死角を無くすための配置よ!! しかも位置を常に入れ替えてるから一部の監視だけ排除することも難しいわ!!』
ルシオラからの解説でヨコシマの顔が引きつる。
「ふん、その顔だと意味がわかったようだね。そう、匂いからするとなんか相当隠れるのがうまい仲間がいるようだからね。
1つ教えといたげるわ。誰も見てないところで一人殺してもすぐ、位置と手段がわかるわよ。
誰も見てない、なんて状況は生じないと思うけど」
横島を睨んだまま続ける。
「もう一つ教えたげるわ。アンタにはわからないだろうけど。この子達はほんの少しの私の子供と、
アンタ達が“眷属”って称する使い捨ての兵隊が混ざってるのよ。だから人質を取ったつもりで取れてないかもよ?」
『ルシオラ、区別つくか?』
『外見では全く。倉庫の中に大事に育てられている子虫がいたわ。それは子供だと思う、としかいえないわ』
勤めて表情を変えず、姿を消したルシオラと魂内会話。
その時、よく見えるようにだろう。人質が照明の元に引き立てられる。
豊満な胸のスレンダーなシスター姿の霊能者と、どうでもいい野郎×2。
周りはびっしりフナムシで固められている。
あ〜〜っ!!! 美人のねーちゃん!! ちょっと泥ついてるけどめっちゃイイおんなぁ!!!
縛られた美人シスター!! 燃える!! 燃えるシュチエーションじゃぁっ!!
「お嬢さん!! 不肖、横島忠夫が必ず助け出して差し上げます!!!」
横島、見たとたんに2人の男とフナムシどもおよび物理法則は無視し、ダイブ!!!
「だから、ちょっとだけ前払い!! ねっねっ!!」
豊満な胸の谷間に顔を埋めて頬をすりすりすり〜♪
「む―――――っ!!!!」
思わずシスター、身を捩って逃れようとするが、フナムシに拘束されて動けない!!!
役得役得!!!←どこがや。 すりすりすり〜〜〜〜♪♪♪♪
ええ胸やな〜〜〜。美神さんの2/3くらいはあるな〜〜。
もみもみもみ〜〜〜〜♪♪♪
美神さんより弾力があるかな〜〜
「☆★▽▲!!!む―――――っ(>_<)(ToT)(>_<)(ToT)!!」
『ヨコシマ―――――っ!!!! いくさの最中よ――――っ!!!』
姿を現して霊波砲を撃ちたくなるのを何とか抑えるルシオラ。
《以下フナムシ語は「(読める日本語:翻訳ETG)」で表記》
「(一瞬でっ!! き、きさまどうやった?! 訳のわからん能力!!?)」
船蟲マザーが思わずフナムシ語で喚く。
その一瞬後、横島に3m級の真っ黒なヤツが一匹襲いかかる。
「(タナイス!! おやめ!!)」
「(母さん。コイツはやばい!!! 俺が力量を探る!! 眷属を使い捨てたと偽ってくれ!!)」
横島、飛び退きつつ、反射的にハンドオブグローリーを槍のように伸ばす。
ヵキイィィン!! あっさり相手の背甲で滑ってはじき返される。
(嘘だろう!! 親玉ならともかく!! 文珠!!)
メドーサをも一撃で葬った『滅』の文珠を叩きつけ、“タナイス”を消滅させる。
「ぐあぁぁぁっ(探れんかった・・・!! 母さんゴメン!!)」
それをルシオラが霊力を爆発的に高めた横島がグローリーの第2槍目で串刺しにし、後も残さず消滅させたように偽装する。
『ヨコシマ、この分だと3m級のヤツは3000万円以上のお札と精霊石しか効かないわ。文珠と合わせても全部とても倒せないわ』
『あってもそんなん数使ったら大赤字や!! 調査内容よりかなり強ええぞ!!! 麻酔は効きそうか?』
『数が多すぎるわ。こんな強い妖怪が何でいきなり発生したのかしら』
魂内会話で相談するも、もちろん結論は出ない。
「(一番強いタナイス兄さんが一撃で!!! しかも最も堅い正面から串刺しなんて!!)」
前面の3m級の奴らは静かだが、後ろの小さなフナムシたちがざわめく。
(あの黒いヤツは私ら総掛かりでも敵わなかった!! 霊波刀の一刺しで消滅させるなんて!!!)
横島のデタラメな強さに目を見張って希望に目を輝かせる人質達。
(でも、英雄横島が最低最悪のセクハラ魔ってのは本当みたい〜〜〜。終わったらなに要求されるんだろ〜〜)
思わず貞操の危機に身を震わせるシスター。
(こんな人気のない倉庫群じゃなにされてもわからないわ〜〜〜! 抵抗なんてできそうもないし!)
倒れたフナムシや抵抗できない仲間の前であ〜んなことやこ〜んなことをされている自分の姿が脳裏に浮かぶ。
「むぅつっっっ〜〜〜〜!!!(そんなんいやぁっ〜〜〜!!!)」
「やるじゃない? でも眷属一匹消滅させただけよ? でも、今の感じだと長続きはしなさそうね」
(タナイス。お前のおかげでとてつもなく強いのがわかったわ!! やばいわ。なんとか子供達を!!!)
内心は爪をかみながら、片目をつむってチッチッチッと人差し指を振ってブラフをかける船蟲マザー。
「(みんなお静まり、相手に弱みがわかるよ)
そっちが悪いのよ? いきなり人質に近づくんだから。なんなら眷属総掛かりでいくわよ?」
船蟲マザーの声と共に3m〜1m級のヤツがずずっっと横島の方に前進する。
『力試しに一匹だけ差し向けるとは。やっぱり、子供ではなく眷属か?』
『わっからないわね。でもとりあえずは交渉よね』
『正面からは勝てそうもないもんな』転進かな?
「人質が本物なのはわかった。一人殺して悪かった」
いかにも確認だったという風情で横島が続ける。
「なぜ、ここを占拠し続けている? それだけの知能があればヤバイことはわかるだろう?
一般人を襲ってないってことは、人間に悪意があるわけでもないんだろ」
某所、お堀端。
「これなら少なくとも横島はダイブしてくるわね」
タマモが令子なみの露出&プロポーションでポーズをとってお堀端の人気のない方へと歩き出す。
その後をサポートのシロとおキヌがかなり離れてついて行く。
「これでスケベな霊がかかるといいでござるな。若いおなごを片端からお堀に引きずり込むとは許せんでござるよ」
シロがひどい時は日に13人も被害に遭っていた依頼書の内容を思い出して憤慨する。
「でも、ここの人(霊)は引きずり込むだけで一人も殺してないから悪霊というより騒霊に近いんじゃ?」
なんにせよ、そうなった心の傷を癒して天に帰してあげないと。
「確かに横島先生がいつもやってる程度のことで他のGSに破魔されるのは可哀想でござるな。おキヌどのよろしく頼むでござるよ」
シロもそれはその通りとばかり。
2人とも女性のくせに横島に毒されたらしい。
「キャァ!!!」バシャ〜〜ん
普通に歩いていたタマモが突然お堀の方へひっくり返って落ちる。
「シロちゃん!!」「出たでござるな!!」
霊波刀を伸ばしたシロが駆け寄り、おキヌが霊視を中域走査から注視に切り替え、笛を構える。
「あれ? なにも居ないでござるな?」
シロがあたりを見回し霊気を嗅ぐが何も感じない。
「手足のバランスが〜。ハイヒールが〜。胸が重くてトップヘビーよ〜〜。歩きにくいぃ〜〜!」
子狐がお堀から顔を出している。
「バカ狐!! ドジ狐!! マヌケ狐!! アホ狐!!! ‘赤子’狐が慣れないことするからでござる!!」
ニヤニヤ笑ったシロが、上がってくるのに手を貸しながら、ここぞとばかりに吠える。
「バカ犬に言われて言い返せないなんて〜〜〜〜!! 美神はよくあんな格好で走り回ってるわね」
ずぶ濡れの子狐をシロが首の後ろを掴んでズボン!!と引き上げる。その九本に別れた尻尾の1つにバカでっかいウナギがぶらーん。
「タマモ! 大漁でござるよ!!」シロが大笑いする。「釣狐でござるな!! ウナギにあぶらげで誘われたでござるか?」
「ククッ!! なんでこんな目に!!」
タマモが悔しがり、その目がきらりと光る。
「シロちゃん!! 離れて!! タマモちゃんじゃない!?!」
霊視から心眼に切り替えたおキヌが叫ぶ。
「ちがう。タマモちゃんだけどなにかに操られてるわ!」
「ちっ、もう少しで俺の人形がもうひとつ増えたのにな。いい目をしてるじゃないか」
尻尾に食いついていたウナギがみるみる変形する。
「霊だと思ってたら妖怪でござるか!! どうりでおキヌどのの霊視では見つからないわけでござる!!」
シロがおキヌの言葉と同時に飛び退き、霊波刀で薙ぐ。
長い髪と鋭い牙。蛇かウナギのような長い胴体。濡れ女ならぬ濡れ男。
濡れ男は霊波刀をかわしざまにタマモから離れ、水に潜り込む。
「そっちのお嬢さんも玩び甲斐のありそうな美人じゃないか。俺の玩具になってくれよ。飽きたら身体の中から喰ってやるよ」
「霊力を抑えて隠れていたでござるな!!」
霊力を抑え、魚に化ければなまなかな霊視ではわからない。
ボボッ!! ぐおおぉぉっ。
獣形態のタマモが特大のキツネ火を口から吐く。火の玉がシロの真っ正面から襲いかかる。
「タマモ!! 九尾でござろう!! こんなヤツに操られるなんて金毛白面の名が泣くでござるぞ!!」
間一髪避けながらシロが訴える。
「俺が女を引きずり込んで溺れさせるだけだと思ってたんだろうな」
堀から上半身を出してあざ笑う。
「今までのヤツは操りもしなかったしな。我慢した甲斐があったってものだ」
「霊力のある方が喰いもんとしてはずっと上等なんでな。弱い悪霊のふりして拝み屋を待ってたのさ」
目を光らせてタマモに命ずる。
「やれ!! 力は互角そうだから相打ちにするんだ。俺はその間にそっちの人間をやる」
とろんとした目つきからは想像できない早さでタマモがおキヌとシロの間に割り込む。
シロはおキヌの元に戻ろうとするが、タマモは巧みにおキヌから離すように攻撃してくる。
好色そうな顔で舌なめずりしておキヌの方を向く。
「若い女の霊能者が3人。しかも妖狐と犬神とは願ってもない。それにどう見ても3人とも乙女だな。楽しみだぜ」
タマモを攻撃できないシロはタマモに翻弄される。
攻撃を避けるのが精一杯で、おキヌに近づくどころかどんどん引き離されてゆく。
タマモがシロをおキヌから引き離したところで濡れ男が悠々と堀から這い出す。
「足がすくんだのかいお嬢さん。逃げないなんてな」
おキヌは動きもせずにタマモを心眼で注視している。
(わからない。全開か)
今まで細かった額の心眼がヒャクメのごとく丸く開く。
「シロちゃん!! タマモちゃんの真ん中の尻尾の先を切り落として!」
心眼を納めたおキヌが叫ぶ。
「そこに牙が残ってて、操ってるわ」
「大したものだな。でも無駄だぜ。牙を抜いてもしばらくは俺の支配下にある。その間にお前を仕留めるさ」
細いが30m近い身体を乗り出しておキヌを遠巻きにする。
「これだけ近づいても攻撃してこないとは。お前は攻撃力はないようだな」
一気におキヌを胴体で締め上げにかかる。
どごぉぉおおお!!! ザシュッ!!
「なに!! ぐわぁぁぁっ」
タマモのキツネ火が頭を、シロの霊波刀が胴体を直撃する。
「よくも操ってくれたわね。おキヌちゃんはともかく、シロに借りを作らすなんて許さない!!」
歯がみしたタマモがまさに怒髪天をつく、という言葉そのままにナインテール逆立て煌めかせる。
「ちっ」
濡れ男は傷ついた身体と焦げたパーマ頭を踊らせお堀に飛び込む。
ぶうううぅぅ。どがっ!!!
「ぎゃっ!!」
タマモに知覚を狂わされた濡れ男が、お堀を泳いでるつもりでわざわざ車道まで這い出して車に轢かれたのだ。
「騙すのはたぶんアンタより上よ。痛覚は狂わさないから感謝してよ」
フン!!と鼻を鳴らしてタマモが金色のナインテールをふたたび光らせ、車道をお堀と思いこませる。
「さすが九尾でござるな。拙者が尻尾切ったとたんに正気にかえったでござる」
「借りをまた作るとは!! キツネの名折れだわ!!」
少し短くなった真ん中のナインテールを気にしながら歯がみするタマモ。
「尻尾は大丈夫?」おキヌがヒーリングしながら声を掛ける
「シロちゃんもギリギリで切ってるわね。ウナギの咬んだ位置憶えてたのね」
「おキヌどのに言われて、生臭い匂いがしてるのがわかったんでござるよ」
えっへんと胸を張るシロを、悔しそうに睨むが2人に素直に頭を下げる。
「ありがとう。このくらいはすぐ再生するわ。心配掛けてゴメン。おキヌちゃん」
3人ののんびりした会話の間も、次々に轢かれてぼろぼろになってゆく濡れ男。
はねられるたびに逃げるが、タマモが大型車の方へどんどん誘導する。
あっ、今度はトレーラー。
はねる車の方もタマモに誤魔化されて全く気が付かずに過ぎてゆく。
「こっちこそ。最初から心眼全力で使ってたら・・・」
最初はその予定だった。令子が入院したので霊力を温存するため心眼を使い渋ったのだ。
「それにもうちょっとで、このおふだで攻撃して大赤字になっちゃうとこだった」
おキヌは巫女衣装の袖から「八千万円」と大書きされた破魔札を取り出して微笑む。
「ギリギリまで使わないなんて!! おキヌちゃんも美神化してるわね〜!!!」
タマモがあきれて口を開ける。別に危なくも何ともなかったわけだ。
3人、濡れ男の後ろから、話ながら車道横の歩行者通路を話ながらコブラに戻ってゆく。
パーマ頭濡れ男はお堀のつもりでまだ車道に沿ってのたくっているのだ。
車にふまれながらますますお堀から遠ざかる濡れ男。
どごっ! どかん!! がす!! ああっ、今度は長い胴体を3台一度に踏まれたぞ。
「結構しぶといわね?」
「タフでござるな――― あ、戦車のせた車両運搬車。かっこいいでござるな」
70トンはありそうだ。そのに後ろから10トン級砂利トラック。
ぐちゃっ。ぐちゃっ。パーマ頭を70トンでふまれさすがに動きが鈍くなる。長さも踏まれるたびに縮んでいっている。
「タ、タマモちゃんもういいんじゃ・・・」
「おキヌちゃんがいいなら。おキヌちゃんをヤって喰おうなんてヤツにはまだ足らない気がするけど」
「拙者ならいいんでござるか!!」
「ウナギに操られたうっかり狐に捕まるほどバカ犬じゃないでしょ」
「狼でござる!!」
「バカ犬じゃないっていったはずだけど。バカ狼なの?」
バカ話の間にさらに車に轢かれてウナギの正体を出した濡れ男。
タマモが歩道に蹴り出して50円の破魔札でトドメを刺す。
ぴりりりり―― 念のため笛を一吹きして、おキヌがウナギの霊を冥界へ送り込む。
「どろくさ。こりゃ小さいし蒲焼きにはならないわね」
タマモが残った焼けウナギを東京都マークの付いたゴミ箱に放り込む。
「なんかもったいないでござるな」「タマモちゃん。生ごみは隣ですよ」
焼けウナギの匂いに指をくわえるシロ、そしてウナギ霊を見送ってからつまみ出して移すおキヌ。
「じゃ、次行きましょうか」
「終わってみれば大したこと無かったわね」
「かかったのは50円札一枚とタマモの尻尾の先だけでござるからな」
ブロロロロ〜〜〜〜
その頃、病院では、
「美神さん、もうとっくに面会時間は過ぎてますよ」
「もうちょっといいじゃない!! 個室なんだし。今、肝心なトコなのよ!!」
「先生すみませんね〜。この子ったらワガママで・・・でももうちょっといいかしら?」
「そうは言いましてもね。 み、美智恵さん!! 娘さんが2人いるじゃないですか!!
しかも、片方は顔色が悪い!! 脈も弱くなっている?? ああっ!! 片方は宙に浮いてしかも影が薄い!?!」
「令子、幽体が先生に見えるし聞こえるんだから、もう一踏ん張りよ。先生、すみませんね〜」
「クローン再生?? 現代医学の勝利だ〜〜〜っ!!!」
「一刻も早くものにしなきゃ!! 儲け損ねてまた腸が切れちゃうわ!!!」
少し後の高速道路。
「やっぱりおキヌどのはすごいでござるな」
「車の速度ゆるめもしてないもんね」
「すぐ次ぎ行きますよ!! 少しでも早く終わらせて横島さんと合流しないと!!」
人工幽霊一号が操るコブラに乗ったまま、すれ違いざまに高速道路の暴走バイク霊を成仏させ、
交通規制で他の車両がない道を、次の現場にひた走る巫女さん&お供の犬と狐。
「狼でござる!!」「誰がお供よ?」
後ろでは頭を下げてから成仏しようとした元悪霊があっけにとられて見送っている。
「俺も高速を160kmで逆走ってのはやったことないなぁ」
その頃、横島は、
「や、やばい夜霧が出てきやがった!! ルシオラの幻術が使えなくなる!! イザの時、逃げれね〜〜っ!!」
内心頭を抱えて、鎧甲姿の船蟲マザーと対峙していた。
to be continued
フナムシ一家も一癖も二癖もありそうで展開が楽しみですね。
女性陣の方も見事な連携でした。 (KURA)
SSではなんか『横島は外部では無名、実は最強』の設定が多いですからね。
これは逆です。
もはや読んで頂いて判っておられるとは思うんですが・・・・
フナムシのひねりは一癖ぐらいで終わってしまいました。
二癖までひねるだけの脳みそがぁぁあっ!! (ETG)