「ん?ここは?!」
英夫はゆっくりと体を起こす。そして、首を振り周りを見渡す。
「牢獄?」
自分の置かれた状況を思い出す。
「気がついたようね」
横を見るとノアが座っていた。あわてて剣を構える。
「心配しないで、今はそんな状況じゃないわ。もとの時代に戻れるまでは、休戦しましょう」
と、牢獄の柵を見る。
「ここは【時の最果て】。絶対に脱出不可能な牢獄よ。
この中では【時】という概念は無い。ただ、ただ永遠だけが存在する」
と、英夫の方を見る。
「私たちはここで永遠の時を生きる」
「え?」
と、柵の方を見る。
「こんな物、叩き斬る!」
剣に霊力を込める。しかし、力がまったく入らない。
「無駄よ、何故ここが脱出不可能か知っている?全ての霊力を無効にする力が漂っているからよ」
「そんな」
確かに剣に霊力がこもらない。
「この!」
さらに、力を入れようとする。
「私も何度か試したけど」
と、英夫の肩に触れた瞬間、体中に電撃が走った。
「え?」
英夫もそれを感じたようで、ノアの方を見る。
「何だ?今の」
「なるほど。何か知らないけど邪魔者は消えたようね」
ゲイルが地上に降り立つ。
「ジュダの奴もどさくさに紛れて逃げたようだが。まあいい。私一人でも十分よ。ゴミ掃除をさせてもらいましょう」
と、剣を構える。
「そうは、行きません」
小竜姫が目の前に立つ。
「私がお相手しましょう」
と、剣を構える。
「なるほど。音に聞く神剣の使い手小竜姫か。
でも、虚勢を張っても無駄よ。あなたの霊力、先ほどの結界を張るのにほとんど消費してしまったようね。それじゃあ、下級魔族すら倒せないわよ」
「く………!!」
確かにその通りであった。
「横島忠夫はもう私と渡り合うだけの力は残っていないようね。何しろ、私と互角に戦うために相当な無理をしたようだから」
「え?!」
全員が横島の方を見る。
「ばれていたか」
「当たり前よ。そうでもしないと人間が私とここまでやり合えないわ」
そして、キラの方を見る。
「あなたとは前回戦っているわね。人間ならともかく、神族がこの短期間で劇的なパワーアップを果たしているとは思えないわ」
と、剣を構える。
「後は、GSの人間達だけね。そんなの物の数ではないわ。死んで頂きましょう」
と、そこへ美希が近寄る。
「私をお忘れですか?」
精霊石が美希の周りを回りだす。
「精霊王の力を手に入れたとはいえ、私と貴方では二十倍以上の霊力の差があるのよ。早い話が、そこにいる小竜姫でも無理なのよ。私と戦うには。
横島忠夫は文殊を使い、自分の限界以上の力を引き出した。そのおかげで、今ではボロボロの状態よ。あなたもやってみる?」
と、馬鹿にしたような目で見る。しかし、美希は冷たい笑みを浮かべる。
「いいえ、私はそんな冒険はしません。私が手に入れたのは精霊王の力だけだと思いましたか」
「え?」
美希が魔装術に身を包む。そして、精霊石がその回転速度を増していく。
「GSとアシュタロスとの戦い。その中で面白い記録を見つけました」
さらに速度が増していく。
「霊力の共鳴か。確かにそれはある。しかし、それを使いこなすには霊力の波長のコントロールが必要。俺の場合文殊があった。しかし………」
横島は文殊を作り出す霊力も残っていない。
「大丈夫です。そのために、私には精霊石がある」
だんだんとゲイルの顔から余裕が消えていく。
「お気づきになりましたか?」
「精霊石を使っての霊力共鳴か?!」
だんだんと美希の霊力が上がっていくのに周りの者は気づき始める。
「でも、大丈夫?そんな事をして。あなたの体は保つのかしら?
アシュタロス戦以後、霊力共鳴を使わなかったのはその体に限界を超えたためのダメージが残るからよ」
事実、美神は数年でGSからの引退をしている。
「そのための、魔装術です。何度か試しましたが、魔装術に身を包んでいる限り何の問題もありません」
精霊石の動きが目で追えなくなる。
そして、美希の体を中心に光の柱が昇る。その中から、美希が出てきた。
「おお!」
周りの者が目を奪われるほどの、蒼い魔装術に身を包んで。
「では、行きます」
手に槍を持つ。そのまま斬りかかる。ゲイルが何とか剣で受け止める。
「うあ!」
だが、ゲイルがこらえきれずに吹き飛ぶ。
「あいつ、槍も使えたのか」
「当然よ。あの子は普段は絶対に使わないけど、近距離戦の戦いは最も得意とするところ。特に槍術と打撃戦は超一流よ。まさに、親譲りね」
ゲイルが上空に飛ぶ。
「やるわね。でも………!」
剣を上に構える。そこに霊力が集中する。
「これには、耐えられるかしら?」
剣を振りかざすとそこから霊力の塊が地上に向かって放たれた。
「全員、吹き飛びな」
しかし、美希の鎧から翼が生え空に飛び上がる。
「無駄ですよ!」
その霊力の塊を両手で受け止める。そのまま、逆方向にはじき飛ばす。
「その程度ですか」
一瞬でゲイルの目の前に入る。
「では、さよなら」
槍を一閃させる。
「霊力の共鳴?」
「そうよ、ここが霊力をかき消すなら、かき消せない波長にすればいいの」
「そんなことできるのか?」
その時、ノアが英夫の手を握る。
「心配しないで。あなたはただ、霊力を放出すればいいの。後は私が何とかする」
「わ、わかった」
手を握られていることに照れながらも英夫は霊力を出す。しかし、何の反応もない。
「行くわよ」
そして、英夫は手から何かが流れてくるような感覚を感じた。
「さあ、行くわよ」
その時、周りの雰囲気が一変する。気がついたらどこかの丘に立っていた。
「脱出成功ね」
そう言って、ノアが手を離す。
「ここは?」
英夫が辺りを見渡す。
「中世ね。ん?この霊力は!英夫」
と、手をつかみ飛び上がる。
「え?おい!!」
「それじゃあ、世話になったわね、カオス」
「ああ、未来の儂によろしくな。元気にやれよ」
美神令子と横島忠夫とマリアが現世に帰ろうと時空移動の力を発揮する。
「行くわよ」
光とともに3人は消えていった。
「ふぅ。さて………」
その時、
「一歩、遅かったようね」
空から英夫とノアが降りてきた。
「カ、カオス!!」
英夫がカオスの顔を見る。
「何だ、てっきり変な時代に飛ばされたのかと思ったら」
英夫がカオスに近寄る。しかし、
「誰だ?お前ら?」
「あいつらは、大丈夫だろうか?」
現代では横島が心配そうにウロウロしている。
「落ちついで下さい」
それを小竜姫がたしなめる。
「美希ちゃんを見習いなさい」
美希はただ、落ち着いて座っていた。その時、
「ああ!!」
カオスが奇声をあげる。
「どうしたんだ。おっさん。トイレか?」
横島がどうでもいいいった感じに尋ねる。
「儂は、昔あいつらに会っている」
「「「ええ!!」」」
その場にいた全員が驚く。
「どういうことだ」
「あの二人は【時の最果て】から脱出できたのですね」
「すごいのねー」
「それで、どうなったの」
口々に尋ねるが、
「さ、さあ。大昔のことだから全く覚えておらん」
カオスがあっけらかんと答える。
「おい………」
横島が詰め寄ろうとしたとき、もの凄い寒気を感じた。その寒気にカオスも気づく。
「思い出していただけましたか?」
冷たい笑顔を浮かべながら美希が尋ねる。
「は、はい!」
その迫力に周りの全員が押し黙る。
「なるほどな、状況は解った。しかし、たった今送り返した奴の息子に出会うとはな。人生面白い物じゃ」
カオスが机を挟んで座っている二人に話しかける。
「あの小僧はなかなかやるようじゃが、その息子はそれを遙かに凌ぐな」
「あの………」
「いや、実際そうじゃ。お主達二人はまさにこの時代でも十分にGSとしてやっていける」
「ドクター?」
ノアも何を言っているのか理解できない。
「せっかちな奴らじゃらな。こういう遠回しな言い方をしている時はだな。しかし、お主らはある程度覚悟はできているじゃろう。
結論から言おう。お主らが元の時代に帰れる確率はゼロじゃ」
「はい?」
英夫が固まる。
「こら、おっさん!そんな適当な事を!さっき、父さん達も」
「まあまあ、落ち着け。そちらのお嬢さんを見習え」
と、英夫をなだめる。
「お嬢さんの方は解っているようだな」
と、ノアの方を見る。
「ええ」
ノアが頷く。
「どうやら、不可能のようよ。元の時代に戻るのは」
「何で?!」
「いいか。時間移動とは全ての因果律を否定する特殊な能力だ。実際、お主は時間移動をどうやったらできるかイメージできないじゃろう」
「そりゃ、まあ」
「先ほどの3人とは違う。あいつらは時空間での地図やコンパスといった物を持っていなかっただけにすぎない。それを備えたマリアがあればいい。しかし、お主らは違う。地図やコンパスどころの話ではない」
「そ、そんな………」
その時、ノアが口を開く。
「でも、ドクター。マリアにそれらを持たせられていたということは、貴方はある程度の時間移動のメカニズムを理解してるんじゃないの?」
「ほう、勘がいいな。確かに、少しは理解している」
「じゃあ」
「だから、不可能だと結論付けたのだ。先ほどの美神令子やその母は雷の力を利用して、その電気エネルギーを使って時間移動をしている。しかし、お主達に電気を流しても何も起こらないじゃろう?」
「ええ」
「早い話が時間移動をするのには
@莫大なエネルギーを用意する
Aそれを利用して時空間への扉を開ける
Bその時空間での地図を使い意図する時代に行く
この三行程が必要じゃ。@とBは用意できるが肝心のAじゃな」
そこで、ノアはあることを思い出す。
「そうだわ、文珠よ。文珠があればいいんだわ。カインもそれを使えば時空間を越えられると言っていた」
「ほう、文珠か。確かにそれがあれば不可能ではないかもしれん。しかし、肝心の文珠はあるのか?」
「ええ。それなら英夫が………」
と、横を見ると、難しい話を聞きすぎて頭から煙を出して倒れている英夫がいた。
『今から儂はこいつを解明して、時間移動の装置を作りだす。それまでは研究に没頭しないとならんのでな。悪いが儂の代わりに『万屋』の仕事をしておいてくれ。なーに、簡単な仕事だ』
そう言われて二人は町中の一軒の家に住みだした。
「で、仕事なんか入るのか?」
英夫は横のノアを見た。
「さあね」
と、食事を運んできた。
「へー?こんな事もできるんだ?」
英夫は驚いて声を出す。
「まあね」
と、食卓に並べる。
「で、これからどうするんだ?」
英夫が問いかける。
「そうね。慌ててもしかたがないわ。ドクターの研究成果を待ちましょう」
と、スープを飲む。英夫もつられてスープを飲む。
『あれ?何かもの凄い好みの味だな?』
「どうしたの?」
「いや、料理上手なんだね?」
「そりゃあ、貴方よりはマシよ」
「俺の、何を知ってるんだ?」
「………。全部よ」
その声は英夫には届かなかった。
英夫が寝静まった夜、ノアは英夫の枕元に立っていた。
「幸せそうに寝ちゃって」
と、剣を取り出す。
「………」
だが、その剣を持って部屋を出ていった。そのまま外に出て屋根の上に立つ。
「本当は、この剣で英夫を………」
剣をしまう。そして、夕飯の事を思い出す。
「少し、驚いたかな?やっぱり」
その顔に笑みが浮かぶ。
「そう、全部知っているわ。あなたの事ならね。生活から、好みまで何でもね」
夜空を見上げる。
「もし、時間移動が不可能だったら、この時代に英夫と、ずっと………」
と、目を閉じる。
「それも、一興ね」
それから数日が経ったある日。
「おい。小僧!!見つけたぞ。未来へ帰れる方法をな!」
カオスが部屋に入るなり叫ぶ。
「本当ですか?」
「ああ。時空間への扉を開けるただ一つの手段。地獄炉だ」
ヌルとの死闘が行われた、地獄炉のあった部屋に三人は来ている。
「いいか。今からこの炉を使って地獄への道を開ける。お主達は儂が作ったその装置を使って未来へ帰るエネルギーとを得る。完璧だ」
「で、何か裏はないのか?」
英夫が尋ねる。
「感がいいな。そうじゃ。それだけのエネルギーを得るためにはより大きな穴を空ける必要がある。そのため、大きな怪物が出てくる可能性がある」
「その点なら心配ないわ。私たちが何とでもしてあげられる」
「頼もしいな」
カオスは地面に魔法陣を書く。
「さあ、開け!!地獄の門」
そして、地獄の底より巨大な魔物が出現した。
「何だ?これは?」
「ケルベロス。地獄の番犬だ」
ケルベロスは口から炎を吐く。三人はそれをかわす。
「思ったより、強いな」
「そんなレベルじゃないわね」
ノアが攻撃を加えるがまるでダメージを受けていない。
「だったら、これならどうだ!」
英夫が上から剣をケルベロスの頭に振り下ろす。鈍い音とともにあっさり弾かれる。そこを狙ってケルベロスが炎を吹き付けるがノアがそれを防ぐ。
「どうなってるんだ。俺達二人がかりでも相手になってないぞ」
「そんなことはないわよ」
「え?」
英夫がノアの方を見る。
「おそらく、私たちは防御にも気を取られていて攻撃に集中できていない。攻撃に集中できれば、あいつの防御をうち破れる」
そう言って立ち上がる。
「決まりね。私があなたの盾になるわ。あなたは前霊力を込めて攻撃に集中して」
「いけるのか?」
「ええ。たとえ無理でもこの体で止めてみせるわ」
「そんなことしたら、お前が!」
「いい?あなたのその考えは立派よ。でもね、戦いにおいては時に非情な心が必要なの。剣を握っているときは甘い考えは捨てなさい。たとえ………」
『未来に帰って、私と再び戦うときも』
「え?」
「行くわよ」
作戦は見事にはまった。ケルベロスの攻撃をノアが全て防ぎ、攻撃に集中している英夫がダメージを与えていく。
「いいわ。その調子よ」
二人は徐々に間合いを詰めていく。
「英夫。今よ。行きなさい!」
「おお!」
英夫の振り下ろした渾身の一撃がケルベロスを貫いた。
「見事じゃ」
静寂のおとずれた場所でカオスが二人を見つめる。
「さあ、約束通り未来へ帰してやろう」
と、首飾りを二人に渡す。
「それは、『時の首飾り』。莫大なエネルギーがあれば望む時間へ行くことができる。時空間への扉をこじ開ける莫大なエネルギーはこの地獄炉が生み出す。完璧じゃな。あとは、この地獄炉へ身を躍らせるだけじゃ」
二人は首飾りをつける。
「どう、似合う」
と、笑顔で英夫に見せる。
「あ、ああ」
その笑顔に英夫は戸惑う。
『でも、楽しい時間もおしまいね。英夫』
二人は地獄炉へと消えていった。
「なるほど、それで二人を送り返したというわけですね」
現代の妙神山。美希がカオスに詰め寄る。
「あ、ああ。確かに。上手くやっていれば」
その時、外に何かが落ちた。
「まさか!!」
「痛ててて!」
英夫が顔を起こす。
「まったく、こんな危ない物だったなんてな」
と、ノアの方を見る。
「………」
ノアが無言で英夫の方を見る。その目には冷たい炎が宿っている。
一瞬だった。ノアが剣を振るうのと英夫がその場を離れるのは。
「大丈夫?」
外に出た美希達が見たのは対峙する二人だった。
「どういうつもりだ?ノア?」
英夫は距離を置き尋ねる。
「忘れたの、私たちの関係を?休戦は元の時代に帰れるまで。そう約束したでしょう」
「だからって」
英夫はノアの霊力が上がっていることに気づいた。
「何じゃ、お前ら。中世ではあんなに仲良くしておったのに」
カオスが口を挟む。
「黙っていてください」
ノアがそちらを見ると巨大な重力が皆を襲う。
「英夫を片付けたら、次はあなた達よ」
なにも父親そっくりにすることないと思う。
子供は親のクローンじゃありませんから。 (謎の横島ファン)