椎名作品二次創作小説投稿広場


GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『変形>>情念』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 6/26


横殴りに何かが迫る気配に、ようやく横島は我に返る。

呆然としていた銀一を突き飛ばして、自らは左手を横手に突き出しサイキックソーサーを展開する。


「ぐ…ッ!!」

「よ、横っち!!」


直撃こそ防げたものの、叩きつけられた尾の一撃に、横島は弾かれる。

二、三歩よろめきながら、何とか足を踏ん張らせ、それ以上後退しないようにする。

自分たちのいる、東京タワー特別展望台の屋根の上には、それほどの広さがあるわけではない。

吹き飛ばされて、足を踏み外せば250メートル下の地上まで真っ逆さまだ。

実を言えば、このところの仕事続きで、文珠のストックは今現在品切れである。

生身で大気圏突入をやらかした自分でも、ここから落ちて生きていられるか試す気はない。

横島は、緊張した面持ちで相手を見据える。…当惑を滲ませながら。


「フフフ…驚いたやろ? うちも最初は驚いたわぁ。」


着物の袖で口元を隠し、夏子が笑う。

服装と、その細められた双眸が赤く変じていることを除けば、それはいつもの夏子であった。

だが、腰から下はそうではない。

裾から巨大な蛇の体が伸びて、その身をくねらせている。

人に非らざる異形。


「造魔、言うんやて?」

「…それも、さっき言ってた奴が…?」

「そうや。頼みもしてへんのにな、この力の事や使い方…いろいろ教えてくれたで。」


そいつが事件の首謀者なのか?

そんな横島の疑問は、再び叩きつけられた尾の一撃によって、言葉になることなく吹き飛ばされる。


「ぐぁ…ッ!!」


背後の鉄柱に思い切り叩きつけられ、横島は自分の背骨が軋む音を聞いた。

肺の中の空気が搾り出され、息が詰まる。


「よ、横っち!! 大丈夫か!?」

「ゲホッ…がっ…! さ、下がってろ、銀ちゃん…!」


慌てて駆け寄ろうとする銀一を、横島は手をあげて制する。

一時的な呼吸困難のせいで、声こそ苦しげではあるが、大したダメージは受けてない。

夏子は立ち上がる横島を、いっそ静謐とも言える表情で見つめている。

そして、その表情のままに言う。


「うちは横島を殺す。せやから、横島はうちを殺して。うちだけを見て、考えて。そして殺して。」


肌がぞくりと粟立つのを自覚する。

それは眩暈を覚えそうなほど激しい、情念。

声も、表情も静かなものなのに、そこにある感情のうねりは凄まじい。

血に塗れた刀剣のような、鬼気迫る静謐。

ほとんど反射的に霊気を収束させ、『栄光の手』を手甲の形態で構える。

だが、そこまでだ。

横島は身構えたまま、そこから行動に移れないでいた。

一言で言えば、やりづらい。

『造魔は倒せば元に戻る』と理解している。

今の夏子の心理状態で、話し合いが通じるはずもない。

だが、夏子の面影に、どうしても割り切ることができないのだ。


(くそっ…! 迷うな、迷うな…今は。今は戦わないと…!!)


横島は胸の内で、そう自分に言い聞かせる。

しかし、横島自身はっきりとしないが、なぜか酷く嫌な感じがしていた。

このまま戦う、という選択をすることが、どうにもよくない気がした。

それでも、どれほど迷おうと、何が心に引っかかろうと、状況は待ってはくれない。

大蛇が鎌首をもたげる様に、するりと、夏子が上体を持ち上げる。


「さあ、話は終いや…。殺し、殺され…一緒に死のう、横島?」


見れば、夏子の目が爛とした輝きを宿し、唇の隙間から赤い光がちらちらと見えている。

何か…ヤバイ!!

次の瞬間、夏子の顔つきが蛇そのものとなり、その大きく裂けた口から炎が噴出した。

横島はとっさにサイキックソーサーで防ごうとして、はたと気付く。

自分はそれで助かるが、すぐ傍にいる銀一はサイキックソーサーの有効範囲内にいない。

駄目だ。これでは守れない。

横島が迷っている間にも、炎は渦を巻いて迫ってくる。

それはもう、目の前まで─。







          ◆◇◆







その爆音が耳に届いたとき、彼らは一斉に上を見上げた。

自分たちがいる位置からでは、大展望台が邪魔になってよく見えない。

だが一瞬、確かに赤々とした炎が遥か上空で、夜空を舐めていったのが見えた。


「今のは…!?」

「もう戦いはとっくに始まってる、ってことだろ!!」


そう言って、刻真は再び階段を駆け上がりはじめる。

シロとタマモも、後を追う。

今現在、三人はフットタウンを抜けて、大展望台へと向かう階段を上っている途中である。

エレベーターで昇った方が遥かに早いのだが、そのエレベーターが壊れて─いや、壊されていた。

半壊した扉の隙間からシャフト内を覗けば、ワイヤーが切断されていたのだ。

使えないものは仕方ない。

そして、三人は階段で上まで昇ることにしたのだ。


「先生…無事でござろうか…。」

「さあね。でも、俺たちが早く着けば、無事でいられる可能性は上がるだろ。」


シロがぽつりと呟いた不安に、併走している刻真がとぼけた口調で答える。

その様子を、やや鋭い目でタマモが見ていた。

シロは気付いていない。

刻真が、ただの人間であるはずの刻真が、自分たちの速度についてきている事に。

「全力か?」と問われれば、まだ速度は上げられるが、それでも人間がついてこれるはずはない。

現に今、自分たちの速度はエレベーターで昇るよりも速い。

にも関わらず、刻真はシロと併走し、なおかつ会話を交わす余裕がある。

タマモには、そのことを指摘するつもりはない。

刻真に隠し事があろうが、それで敵であると判断するのは早計だと思う。

自分の群れの仲間に危害を加えないのなら、それでいいのだ。


(…少なくとも、今はアンタも群れの一員だしね。)


胸中で呟いて、タマモは口元にわずかな笑みを浮かべた。







そのタマモの位置からも、シロからも角度的に見えてはいない。

刻真の首元、襟の隙間から、灰銀色の光の筋が伸びていた。


今までの評価: コメント:

この作品へのコメントに対するレスがあればどうぞ:

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp