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GS〜Next Generation Story〜

時の歯車


投稿者名:ja
投稿日時:05/ 6/ 2

魔族との激闘から一夜明けて。
「さて、状況はだいたい解ったわ。問題は、やはりレベルの差ね」
 ひのめが三人を見渡す。
「また、魔族が襲ってこないとも限らないわ。そのためにも、やはり今回以上のレベルアップが必要ね。何か手は無いかしら?」
と、外を見る。空は雲一つない上天気である。
「確かに、今回はかろうじて勝てた感じでした。最終的にはヒデの封印を解いたわけですし。今必要なのは、修行ですね」
 美希が提案する。その時、
「それなら、いい場所があるわよ」
 玄関から一人の女性が入ってきた。
「姉さん」
 美神令子だ。横に西条ジュニア。
「妙神山よ。ちょうどこいつをそこに預けようと思ってね。こんなんでも戦力になるでしょう」
と、息子の背中を叩く。
「母さん」
「今は一人でも戦力が欲しいところ。やれるわね?」
「あ、ああ・・・」
 西条は母の真剣な目を見る。
「妙神山か」
 英夫が遠い空を眺める。
「また、あそこへ行くのか」
 一方、美神は瑞穂に近付くとその顔を見る。
「へー、おキヌちゃんの子供が来ているって聞いていたけど。よく似ているわね」
と、微笑む。
「美神令子さんですよね?母から話は聞いています。と、いっても聞いたのは最近ですが」
「そう。あの子も一児の母か。しかし、私の話を聞いたのが最近とは」
と、不機嫌な顔だ。
「ええ。何でも昔は英夫さんのお父さんと三人で仕事をしていたって」
 その言葉に美神は固まる。
「なるほど。それでか」
と、若干悲しそうな顔をした。しかし、それも一瞬だった。
「でも、お父さんにも似ているわね」
「ええ。それも言われますが、父もご存知で?」
「一緒に仕事をしたことはないけどね。彼は、横島クンが独立した時に助手として雇った子だから」
 その時、
「姉さん」
 ひのめの声が響く。
「無駄話はそれくらいにしない?」
「無駄話って」
 しかし、ひのめの目に押され黙る。
「さあ、今後の予定だけど」

「遠い、こんなに遠いの?その山?」
 瑞穂がだるそうに着いてきている。英夫と美希にとっては慣れた道だ。
「よく、平気ね。二人とも」
 息がつらそうだ。
「そりゃ、昔はあそこに住んでいたし」
 最初は来る気はなかったが、特別手当が出ると聞いてついてきていた。
「着きましたよ」
 先頭を行く美希が巨大な門の前に立った。
「開けてもらえますか?鬼門さん?」
「おお、お主は。大きくなったな?」
 鬼門が嬉しそうな声で答える。
「それに、あれは英夫様ではないか?」
 もう片方の門が尋ねる。
「あんた、ここでも『様』扱い?」
 息が整ってきた瑞穂が横を見る。
「母さんがここの管理人だからね」
「ふーん」
 その時、さらに死にそうな声が後方から響いた。
「横島クン。さすがにこの扱いは・・・」
 後ろから巨大な荷物を担いだ西条がついてきた。
「お前が自分で言ったんだろうが。『レディには物を持たしてはいけない』って」
 どうでもいい、といった感じで英夫が後方を見る。
「そうだよ。だから、君も荷物を・・・」
 その時、門が開きヒャクメが出てきた。
「ハーイ。よく来たのねー。小竜姫は少し手が離せないのねー。とりあえず、入って入って」

「早速だけど、貴方たちには個別練習に入ってもらいます」
「え、いきなり?」
 英夫は慣れた手つきで、お菓子を探している。
「そう、特に英夫君は念入りにと小竜姫から頼まれているのねー。じゃあ、瑞穂さんは私と『心眼』のお稽古よ。あんたのお母さんも昔やったわ」
「『心眼』ですか?」
「そう。これからの魔族との戦いはチーム戦になる。その時にチームの『眼』となる人が必要なの。それから、西条さんはチームのリーダーになる特訓をしてもらいます」
 すかさず、英夫が叫ぶ。
「意義あり!こんな奴がリーダーなんて!!」
「いいのよ。適材適所。この子にはその頭脳を鍛えてもらうわ」
と、西条を見る
「了解した」
 頷く。
「そして・・・」
と、美希のほうを見る。
「貴方の希望する修行はここではたった一つだけあるわ。かつて貴方のお父さんや横島さんが挑んだあの修行がね」
「え、何それ?」
 英夫が目を丸くする。そんな話は聞いていない。
「今回はそれをさらに進化させた修行を用意してあるわ。魂に過負荷を与えた状態での霊力増強。猿神様も人間がその修行に耐えられるか疑問視しているわ」
 真剣な目のヒャクメに美希は余裕な顔を見せる。
「望むところです。それくらいをしないと、私は魔族と対等に渡り合えるとは思えません」
「いいでしょう。貴方と英夫君はその修行です。死んでも知りませんよ」
「え、それはちょっと・・・」
 英夫の呟きを一睨みで黙らせる。
「ただし、同じ過負荷下での修行ですが先生が違います。美希ちゃんの相手は猿神様がしますが今回、英夫君には特別講師を招いてあります」
 合図をすると一人の女性が入ってきた。
「始めましてセイラと申します。先日は弟がお世話になりまして」
 神族らしい女性は一礼する。
「え?弟?」
「キラよ、この方はキラのお姉さん」
 ヒャクメが横から教える。
「貴方が小竜姫の息子?へー、よく見れば面影がありますね。あの子とは同門の修行を積んだ仲なの。ヨロシクね」
 そして、それぞれの修行が始まった。

 周りに何も無い部屋で、英夫はセイラと向かい合う。
「さて、では始めにあなたのコーチを呼びましょうか」
 セイラが英夫に言った。
「え?して下さるんじゃないんですか?」
「言葉が足りなかったようですね。私の特技は精神術。これからあなたには精神世界で修行をしていただきます。その先生をあなたの精神世界に召還します」
「あの、言っている意味が…」
 その時、英夫はその場に倒れ伏した。

「こ、ここは?」
 先ほどと同じく何も無いが、違う場所であることは解った。
「ようこそ、精神世界へ」
 目の前にセイラが立っていた。
「あなたのデータを確認させていただきました。あなたには3つの相反する力があります。一つは父親から受け継いだ【人】の力。一つは母親から受け継いだ【神】の力。あなたはこれまでこの二つを使い戦ってきた。確かにこの二つを使えるだけでもかなりの強さになります。しかし、あなたがこれから戦わなければいけない敵、カインとノアは強さの次元が違います。そこでです、あなたのもう一つの力、あなたのチャクラに潜んでいた【魔】の力を使いこなせるようになっていただきます。それを使いこなせるようになれば、あなたの戦闘能力は格段に上がります。そして、あの力。あなたに封印された力をコントロールしていただきます」
 そして後ろを振り向く。
「そこで、です。あなたの先生です」
 目の前にマントを被った者が現れた。
「魔族?」
 一瞬で解った。しかし、どこかで感じた事がある気配だ。
「ええ、もちろんです。この魔族の方に教えてもらって下さい。ただし実地訓練でです。
 この精神世界は私の支配下にあります。つまり、私の思うがままにこの世界をコントロールできます。今、この世界では【魔】の力以外を無効にしました。つまり、【魔】の力以外での攻撃はいっさい無効です」
「なるほど、厳しい修行だ」
「では、がんばって下さい」

 その頃、
「どうした、その程度か?お主の父親はもう少しがんばったぞ?」
「くっ…!」
 美希は何とか立ち上がる。目の前には巨大な猿が立っていた。
「つ、続けて下さい」
「ふふふ、その目。真っ直ぐと全てを貫く目はそっくりじゃの」
 呟いて猿神は構える。
「行きます」
 魔装術に包んだ美希の周りを精霊石が回転し始める。猿神との間合いを一気に詰め攻撃を始める。猿神のガードした隙を精霊石が攻撃する。
「見事じゃ、精霊石をここまで自在にコントロールするとはな。そして、それだけではなく打撃戦もなかなかの物じゃ。しかし、……」
 猿神が棍棒を一振りすると美希は吹き飛ばされた。
「まだまだじゃ。お主に眠りし潜在能力を引き出すには、まだまだ足りぬ」

「ヒャクメさん、全然見えません」
「何度言ったら解るの。見るんじゃなくて感じるの」
 遙か向こうでヒャクメが叫ぶ。
「いい。あなたがその心眼を使いこなせるかどうかで、カインのと戦いの勝敗が大きく変わるんだからね。はい、続けるわよ。これは?」

「さて、今回の作戦をまず説明しておきましょう」
 小竜姫が美神令子、ひのめ、優子を前に話す。
「あなた方3人には一族特有の能力【時間移動】の能力が備わっています。それを使わせていただきます」
「私はともかく、この子たちは……」
 美神が答える。
「解っています。今回あなた方はその力を直接使うことはありません。いえ、言い換えるとその力を私に使わせて下さい」
「小竜姫が?」
「ええ、」
 その時、カオスと横島忠夫が入ってきた。
「そうじゃ、今回の作戦はお主たちの時間移動能力を利用した作戦じゃ。儂が作ったこの装置を使ってな」
「大丈夫なんでしょうね?」
 嫌そうに尋ねる。
「心配はいらん」
 そこで、小竜姫が3人を見渡す。
「カインとノア。この二人のレベルは次元を超えています。はっきり言って、霊力で倒すのは不可能でしょう。しかし………」
「待って、あの二人に時間移動の能力がないとも言い切れないんじゃない?」
 カインが文珠を使えることは皆が知っている。
「ええ。それは解っています。そこであの二人を『時の最果て』に飛ばします」
「時の最果て?」
 初めて聞く名だ。
「ええ。神と魔。それぞれのトップのお方ですら脱出不可能とされる牢獄。そこにあの二人を飛ばします。これが、今の最前の方法です」

「妙神山だ。今、あいつらは妙神山にいる」
「それで、どうなさいますか?」
 カインの居城でノアと向かい合っている。
「知れたことを………」

「どうしました?そんな事じゃ、カインやノアには勝てませんよ」
 英夫は手も足も出ない状況だった。
「【魔】の力をコントロールするには【魔】の心をコントロールすることです」
「くっ………!!」
 英夫はゆっくりと立ち上がる。
「おお!」
 剣で斬りかかるが魔族にあっさりとはじき返される。
「思い出すのです。GS試験の出来事を」
 英夫は再び立ち上がる。
「目の前に倒れた友」
 剣を構える。
「その友を貫いたカイン」
 その剣先を魔族に向ける。
「そして、そのカインに抱いた、【怒り】の心!!」
 その時、一筋の光が立ち上った。そのまま、英夫はその場に倒れ伏した。
「お見事です」
 セイラが倒れた英夫に近づく。
「あなたもお疲れさま」
 魔族の方を向く。

「もう少し、もう少しで何かが掴める」
 猿神との死闘の中美希は自分の中で何かが目覚めつつあることに気づいていた。そして、それは猿神とて同じであった。
『この者の潜在能力は、まさか、あの力か!!』
 美希の周りの精霊石が徐々にその光を増していく。
『精霊石とは、この星の霊力を司る精霊の力が溢れだし長い時間をかけて結晶化した物』
 それぞれの精霊石が白く輝きを増していく。
『この者の潜在能力。それは【完全なる精霊石の覇者】。精霊王の力か?!」

「た、大変です!!外に、魔族の大群が」
「な、何ですって!!」
 小竜姫達は部屋から飛び出す。
「待ってくれ!」
 それを横島が制す。
「皆は、あれの準備を始めてくれ。おそらくカイン達を来ているだろう」
と、文殊を渡す。【忍】の文字が刻まれている。
「その間は俺があいつらを止めておく」
「できるの?」
 心配そうに小竜姫が尋ねる。
「やってみせるよ」
「わかりました」
 
「どうやら、敵さんが攻めてきたようですね」
 ヒャクメが瑞穂に言う。
「あなたの修行はこれまでです。お見事でした。これであなたは超加速状況にすらその目でとらえることができるでしょう」
「はい、ありがとうございました」
「では、隣の部屋で西条君の修行も終えているはずです。彼と行って下さい。そして、あなた方の駒となる二人もそろそろ終えるでしょう。私は小竜姫の手伝いをしなければいけません。がんばって下さい」

「起きてください」
 声に英夫は目覚めた。目の前にセイラが立っていた。そして、傍らには魔族が。
「お見事でした。あなたの修行はこれで終わりです。【魔】の力をコントロールできるようになった今、あなたのレベルは我々上位神族レベルすら越えているかも知れません。しかし、あの力。あなたに眠る封印の力。あれを使うときはくれぐれもご注意を」
 傍らの魔族が一歩近づく。
「彼女の紹介がまだだったわね」
 魔族がマントを脱ぐ。そこにはルシオラが立っていた。
「ルシオラさん?」
「彼女はあなたのチャクラに潜んでいた一種の残留思念。その彼女があなたの【魔】の力を抑制していてくれていたの。私はそれを切り離した」
「じゃあ、もう」
「心配しないで。もともと私はとっくに死んでいるはずの存在。あなたとともに生きてはいけない存在。こんな私でも最後に役に立てて良かったわ」
 そして、思い出しかのように言う。
「以前、ゲイルとの戦いの時に精神世界で見た二人、覚えている?」
「ええ」
 獣人と、黒衣の男だ。
「実は、それぞれがあなたの【神】と【魔】の【魂の欠片】と呼ばれているものなの」
「何それ?」
「まあ、難しい話よ。あなたの力が強大すぎるために生まれたと思ってくれていいわ。
 前回は【神】の力を解放した。いえ、そちらしか使えなかったの」
 確かに、黒衣の方は姿が薄らいでいた。
「【欲望】が鍵な【神】の力。コントロールを失うと、前回のあなたみたいに、ただ欲望のままに全てを破壊する状態になる。
 でも、今回の修行であなたは【魔】の【魂の欠片】を使えるようになったの。解る?『使える』ようになったの。決して『使いこなせる』ようになったわけじゃないの」
 その目は何かを恐れている。
「少しだけ、その力を覗いたけど………」
 英夫を見据える。
「絶対に使わないで。おそらく、ヨコシマが恐れていたのはこの力。前回の【神】とは明らかに違うわ。押さえ込むのに失敗したら、それで世界が終わりよ。そしてその力の鍵となるのは【憎悪】。
でもまあ、あなたには縁のない言葉だけど」
と、最後に安心したような顔だ。
「さあ、お行きなさい。外にカイン達が来ている。その手で、決着を付けるのよ」

「もう少し遅ければ、危ないところじゃった」
 美希は魔装術を解いていた。
「年をとると手加減すら難しいな」
 美希は少し笑っていた。
「さあ、行くがいい。お主の新しい力を使ってな」
「ありがとうございました」
 美希は修行場から出ていった。その瞬間猿神の鎧が崩れ落ちた。
「一瞬、奴の霊力は神族レベルに到達した。
 人間も、ここまで進化できるようになったか」

「早速、お出ましか。小竜姫達の準備が終わるまで、ここは通さん」
 霊剣を手に横島が魔族達を迎え撃つ。
「姉さんに呼ばれましてね。及ばずながら、お手伝いしますよ」
 キラが横に立っている。
「私もお手伝いします」
 瑞穂が門から出てきた。
「僕もやろう」
 西条が続いて出てきた。
「英夫達はまだか。まあいい。カインは抑えると言った手前、有言実行しなければな。
 いいか、三人はチームで動くんだ。決して単独では行くな。いくらキラが強くても、油断はできん。何しろ、バックには最強の魔族達がいるんだからな」
「わかりました」

「見える。右です」
「おう!」
 キラの斬撃が一体の魔族を切り捨てる。
「次、来るぞ」
 西条の呼びかけでキラは間一髪で攻撃をかわす。
「このー!」
 続いて、数体の魔族を切り捨てた。

「いいコンビじゃないか?」
 横島は横目で西条達の戦いぶりを見て、目の前の敵を切り捨てていく。
「奴は?カインはどこだ?!」
 辺りを見渡すがそれらしき気配はない。
「邪魔だ!どけ!!」
 文殊が炸裂し辺りの魔族が消し飛ぶ。その時、
「なかなかね」
 真後ろで殺気を感じ、間一髪でかわした。
「お、お前はゲイル?」
 間を取る。
「どうしてここに?」
「勘違いしないでね。別にカインの軍門に下ったわけじゃないわ。別に横島英夫を殺そうとどうしようと構わないと許可をとってあるんだからね」
「ちぃ!どいつもこいつも!」
 横島は互角の戦いを繰り広げる。
「へー、やるじゃない?今のところは父親の方が上のようね」

 キラは魔族を倒すなか、ある異変に気づいた。
「どういうことだ?敵の数が減らない。ん?こいつ、さっき倒したはずなのに!」
 見覚えのある敵が何体か現れる。
「どういうことだ?」
 西条も気づいた。
「まさか?生き返らせているの?」
 瑞穂が辺りを探る。
「そこの岩陰よ、キラ!!」
「おう!!」
 岩陰に剣を振り下ろす。
「ほう、さすがだな。心眼か?」
 そこから、一体の魔族が現れた。
「お前は、ジュダ?」
 キラが間合いを取る。
「知ってるの?」
「ああ、神魔戦争の時、何度かな。そうか。死者を生き返らせる能力のあるお前がいるなら、全てが頷ける。
 だがいいのか?隠れてコソコソするのが得意なお前が、こんな所に出てきて?」
「別にかまわんさ。お主が私に勝てるとも思えんしな」
  ジュダの周りを魔族が守る。
「さて、どうする?私を倒さないと、こいつらは一向に減らんぞ。もっとも、私を倒そうとしてもこいつらが邪魔をするがな」
 魔族が一気にかかる。その時、
「そうですか。では、二度と甦れないように消しましょう」
 数個の精霊石が魔族達を囲み、結界を作る。
「消えなさい!」
 光の柱が昇り魔族を消し飛ばした。
「ほう?だが………」
 ジュダが目の前で印を結ぶ。しかし、
「無駄ですよ。あなたが甦らせれるのは魂がまだ浮遊している状態の者だけ。私の精霊石は直接あの世に送ります。おまけにここは妙神山。そう簡単にはいきませんよ」
 ゆっくりと美希が近づいてきた。
「直接だと?」
と、美希を見る。そして、周りの精霊石を。
「白い精霊石だと?!まさか、神話の時代に存在したという、精霊王か!!」
「すげぇな。まさか精霊王とはな」
 キラがジュダの前に立つ。
「精霊王が相手では、さすがのお前でも無理があるか?」
「確かに、精霊王に葬られてはさすがの私も甦らせることはできん。しかし、私とて伊達に神魔戦争を生き抜いておらぬわ」
 ジュダがキラとの間合いを詰める。その時、美希は横を見る。
「西条さん。ここはお願いします」
「え?」
「ヒデのお客さんのようですが、私が応対しておきます」
「カインか?」
 西条が身構える。
「いいえ、『運命の人』らしいです」
 ゆっくりと、そちらに歩き出す。
『私は認めませんがね』

 その頃、英夫はやっと戦場に辿り着いていた。
「み、皆は?」
 辺りを見渡す。
「向こうの方に気配がする」
と、そちらを見る。しかし、
「行く必要はない」
 横から声がした。
「カイン?」
「ほう。かなりのレベルアップを果たしたようだね?感じるよ。溢れ出す、君の霊力を」
 カインが構える。
「では、楽しませてくれ」
 二人の剣が交じり合う。
「いいね。この間とは格段の差だ。そうだ、これだ。より強い者との戦いが、私の生きる証!!」
「この!」 
 英夫がカインをはじき飛ばす。
「超加速!」
「超加速!」
 二人の姿が消えた。

「英夫が来ているようだな」
 遠くの気配を横島は感じとった。
「あら?ご自分の心配はいいのかしら?」
 ゲイルとの戦闘は一進一退の攻防が続いている。
「全然平気さ」
 軽口をたたいている者の、その額には汗がにじみ出る。
「互角だが、長期戦になるとこちら不利か。年は取りたくないな」

「もう少し、もう少しだけ」
 小竜姫を中心とするメンバーは結界を張るのに全力を掲げていた。

「いるのは解っています。出てきたらどうですか?」
 美希が見つめる先の虚空が歪む。
「よく、解ったわね。気配は消していたはずだけど」
 ノアがゆっくりと現れた。
「確かに、あなたの気配の消し方は見事でした。しかし、遠くにヒデの気配が出た一瞬だけ、あなたの気配が出てきました」
 二人の女性が見つめ合う。
「単刀直入におたずねします。あなたは何のつもりですか?」
 美希は間をおいてゆっくりと喋る。
「カインはヒデを強くしそれと戦うために。ゲイルはヒデを殺すために。それぞれの目的を持ってヒデに関わっています。では、あなたは何のためにヒデに関わっているんですか?」
「………」
「あなたはヒデと対を成す存在として、この世に産み落とされたようですね。では何故、彼に関わり合おうとするのですか?別に関わり合う必要性がないはずです」
「………。最初はね、別に彼に関わる必要性はなかった。彼の存在が私を作ったとはいえ、別に彼に関わる必要性はなかった。
 ただ、興味があった。魔族は生まれてまもなく成人する。成人した私は自分が何故これほどの強力な力を持っているか不思議だった。そこで、知った。英夫の存在を」
 遠い昔を思い出しながら、ゆっくりと語る。
「私は人間界に行き、彼を見た。まだ幼い子供だった。それから、暇さえあれば何度も彼を見に行った。徐々に成長していく人間というものに興味もあったし、面白かったわ。そして………」
と、そこで言葉を切り美希の方を見る。
「お喋りはここまで」
と、剣を抜く。
「あなたに、直接的な恨みはないけど、悪く思わないでね」
「………。そちらこそ」
と、精霊石が美希の周りを回り出す。
「私はヒデと違って、甘くないですよ」
 ノアが詰めると、精霊石から攻撃が始まる。
「白い精霊石?」
 ノアはその攻撃をかわしていく。
「なるほど。以前とは違うというわけね」
 ノアの周りを精霊石が囲んでいく。そこから精霊石が攻撃を加えて行くが、ノアは全てをかわしている。
「悪くはないんだけどね。詰めが甘いわよ」
 しかし、
「そうですね」
 ノアがかわした先に、美希が待ち伏せていた。
「そっちこそ、甘いですよ」
 美希はいつのまにか魔装術に身を包んでいる。
「な?!」
 驚いているノアを殴り飛ばした。
「さあ、どうしました?」
 美希がノアを見下ろす。
「そう、手加減はいらないというわけね」

 英夫とカインの戦いはまさに頂上決戦ともいえる迫力であった。
「いいね、いいぞ!」
 カインの斬撃を英夫が必死にくい止める。かと思いきや、英夫が反撃に出る。それをカインがかわす。
「いいぞ。素晴らしい飲み込みの早さだ。ど素人がここまでになるとはな。人間にはまったく驚かされる」
 カインは嬉しそうに笑う。
「この!!」
 英夫が【魔】の力を解放する。
「ほう!!そんな芸当もできるようになったか?
「【神】と【魔】と【人】。三つの相反するチャクラの醸し出す絶大な力。そんな圧倒的な霊力を使いこなす精神力。見事だ。まさに、最強の名に相応しい!」
「何を言っている?!俺は人間だ!!」
「面白いことを言う。そんな力を持った人間が他にいるか?いや、神族や魔族にすらおらん。君はそれらを超越した存在なのだよ。
 君が望むなら、神族側に立って魔族を滅ぼすだけの力はある」
 そう言って間を空ける。
「俺が魔族を?そんなことは………」
「あり得ないと?」
 さも驚いたかのようにカインが呟く。
「なるほど。君はまだ子供だな」
「何だと?」
「考えが甘すぎるんだよ。君のその力、おそらく神族側としては魔族討伐に使いたい力だろう。たとえ君が死んでも君の魂はまた、同等の力をもった存在に強制的に生まれ変わるだろう。そして、君はまた戦わされる」
「そんなこと、お断りだよ」
「そう、言い切れるか?!」
 強い口調で言う。
「なら何故君は今戦っている。父親に似てお優しい君だ。仲間のため言うのか、それとも降りかかる火の粉を払うためだとか………。まあ、そんなことはどうでもいい。たとえ、理由はどうあれ君は神魔戦争が続く限り一生魔族達に狙われる。それが運命だよ。そして、火の粉がかからないようにするためには火の元を消さねばならん。魔族全部をな」
「なら、俺の力で、神魔戦争を終わらせる」
「ほう、面白い。そのためには、私を倒さなければならないがね」

「どうしました?その程度ですか?」
 先ほどから、美希がノアを押している。
「………」
 ノアは防戦一方で反撃すらしてこない。
「ならば、これでおしまいです!!」
 精霊石がノアの周りを囲む。その時、
「もう、止めてください」
 ノアが口を開く。
「貴方では私には敵いません」
 哀しい目で美希を見る。
「貴方は確かに強い。下等魔族はもとより、中級魔族にすらその力は通用するでしょう。しかし、そこまで。貴方の霊力はマックス数万マイト。かつて存在したアシュタロスは数百万マイトです」
「………算数のお時間ですか?」
「頭のいいあなたならお気づきのはずです。人間のチャクラの強さ、霊力には限界がある。ある一定値を越えるのは不可能です。よほど特殊な魂を持つ美神令子か、横島忠夫。この二人ですら単独の霊力は絶頂期ですら今の貴方と同等です。まあ、もっともこの二人は、文殊による霊力の共鳴増幅によってその霊力を数百倍にあげたという裏技がありましたがね」
「なら、私はその限界を破って見せましょう」
 ノアの周りを囲む精霊石がその速度を増していく。
「無駄よ」
 そのつぶやきと同時に、白い光が天に昇る。しかし、その中心で何事もなかったかのようにノアが立っている。
「え?」
「今の攻撃ですら十万マイトくらい。後学のために見せおきましょう」
 そう言って霊力を放出する。
「………!」
 美希は声すら出ない。
「私は英夫と対を成す存在。彼の潜在能力の分だけ、私は………」
 哀しい目で呟いた。
 
 その頃、遙か上空でこの戦局を見つめる二人がいた。
「双方、なかなかやりますね」
 若い女性の声がする。その体からはまるで愛の光が溢れだしているかのような感覚を覚える。
「そうやな」
 横の男が答える。軽い口調のように思えるが、圧倒的な覇気を醸し出している。
「さあ、いつまでつばぜり合いが続くかな?」
「そろそろでしょう。小竜姫さん達の用意が整ったようです」

「来た!」
 その時横島は小竜姫のテレパシーを感じた。
「よし!!」
 手の中の文殊に文字を刻む。
 【集】

「な、何だ!!」
「これは?」
「何だ」
「?!」
 一瞬でカイン、ノア、ジュダ、ゲイルの四人が一カ所に集められた。
「今さら、何を」
 カインが横島を見つめる。
「や、やばい!!」
 一瞬の虚をつきジュダとゲイルがその場を離れる。
「二人逃したか。まあいい、行け!!」
 その時、カインとノアを結界が囲む。
「結界、何を見せてくれるんだ?」
「?!まずいです。この感じは」
 結界の外側に小竜姫達が現れた。
「ほう。文殊で隠れていたのか?」
「美神一族!!」
 周りの空間が歪みだす。
「やはり、【時間移動】!!」
 ノアはその気配が何を示すのかを瞬時に理解した。
「なるほど。考えたな。俺達を遠い時代に飛ばそうというわけか。だが、残念だったな。俺には文殊がある。これを使えば時間移動なぞ………」
「ああ、そうさ」
 横島が結界を挟んで目の前に立つ。
「ただの時間移動の旅だと思ったか?お前ほどの上位魔族なら知っているはずだが?永遠なる牢獄、そこからは神々さえも脱出不可能と言われた」
「と、【時の最果て】か!!」
「あばよ!」
 空間が歪みを増す。

「時の最果てか。確かにあそこからの脱出は不可能」
「ええ、そういう風に作られていますからね、あそこは」
と、女性が手をかざす。
「でも、それはつまらないですね」
「かき消すつもりか?」
「いいえ、それよりも面白いことです」
 そう言うと、手が光る。
「見せてもらいましょう。あの二人の可能性を。どれほどの不可能を可能にするかを」

 まさに、一瞬だった。
「え?」
「?!
 英夫は結界の外から様子を見ていた。それば瞬きもせぬうちに結界の中に入っていた。逆にカインは結界の外に出た。
「な、何が?」
 そのまま結界は輝きを増し、消失た。
「え?」
 その場で全員が呆然としている。
「今、英夫が中にいたよな?」
「カイン!」
 上空でカインが見下ろしている。
「お前、何をした?」
 しかし、カインですら自分の身に起きたことに呆然としている。
『ばかな、あの結界を越えてこれほどの力を及ぼすとは』
 カインは遙か上空にいる何かの存在に気づいた。
「何故、あいつらがここに?いや、何のためにあんな事を」
 そして、不適な笑みを浮かべる。
「なるほど、そういう事か」
と、地上の横島達を見る。
「横島。これは、面白い展開だな。あの二人が生還できる確率は限りなくゼロだが、まあ気長に待とう」
 そのまま、カインは飛び去った。


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