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俺の生きる意味

第一話


投稿者名:時計うさぎ
投稿日時:05/ 5/27



肌寒い風が吹き、チャルメラが聞こえてきそうなそんな夕暮れ時。
背中に夕暮れを背負いながら、横島は坦々とした足取りでアパートへと向かう。


「……………」

アパートに戻った横島は、ため息混じりに呟いた。

「何で隊長がここにいるんスか?」

玄関先には美智恵が微笑を浮かべて待ち構えていた。

「こんばんは、横島クン。聞いたわよー令子の事務所やめたんですって?」

「…えぇ…まぁ……」

冷や汗が背中に垂れる。
本人も自覚していた、自分が行ったあまりに無責任な行動。
しかしあの時、やっと決意した決死の覚悟を無駄にはできなかったのだ。
あの瞬間、横島はこれを逃したら、もう二度と言い出すチャンスがなくなってしまうかもしれないという確信めいたものも抱いていた。

「…………」

「…………」

「…………」

沈黙に耐え切れず、慌てるように言う。

「とっとりあえず汚いっスけど…中に入りません?外じゃ目立つし」

鍵を開けて誘う。

「そうね、お邪魔するわ」

「何のお構いもできませんが…ね」


少しため息交じりの美智恵の返事に、横島は苦笑しながら答えたのだった。












どうにかして二人分の座るスペースを確保しながら、さりげなく煎餅布団の下にエロ本を隠す横島。
向かい合わせに座りながら、美智恵が話し出した。

「令子が泣きながら電話してきたわよ。やめるって理由も言わずにって」

「すいません…」

「………」

「…理由ですね………そうですね…三日前のことでした」

俯いていた顔を上げ、静かに話し始める。

「………」

「猫が死んでたんです」

「?」

「恐らく、車にはねられたんでしょうね。それ見てなんとなく疑問に思ったんですよ、俺は何で生きているのか?俺は何のために生きているのかって。惚れた相手を見殺しにして生きている俺…なんであいつがいない世界に俺は生きているのか、いっそのこと死んでしまいたいとそう思う反面で俺の命は俺だけのものじゃない、ルシオラがくれた、生かしてくれた命なんだから生きて生き抜かなくっちゃって……」

横島は何かに耐えるような表情を浮かべる。

「……………」

「あいつが死んでから、いろんなことを考えるようになりました。苦しかったんですよ、何もかもが。心にぽっかりと大きな穴が開いたような喪失感………俺、本当ならとっくの昔に美神さんの事務所をやめるつもりでした。…それがいつまでもヅルヅルと引きずって、今日やっと決着がついた。居心地がよかったんです………美神さん達といるときは大変で、でも楽しくって……考え事をする暇もなくて、気がらくでした。まるで、何も無かったみたいに…ルシオラと出会う前のような錯覚がおきて………事務所にいるときは忘れられたんです。でも、それって結局…逃げてるに過ぎないですよね…。きっと俺はあの事務所にいる限り変われない、成長することができない、そして理由を見出せない…だからやめたんです。いきなりで美神さんには申し訳なかったんですけど、やっと決心がついたから早く言わないと、また流れてしまいそうで怖かったんですよ」

「理由って…横島クン…?」

「…………俺が生きていい理由ですよ」

「…あなたは…」

横島は美智恵の声を遮った。

「すいません、その先は言わないでください…聞きたくないんです…」

「考え直してはくれないのね…」

「…俺はそこまで強くありません、弱い…ただの一人の人間です。だからこそ、俺が生きている意味を知りたい」

「……これから、どうするの?」

「…俺なりの答えを見つけたいと思います。自分は何故、生かされているのか…俺の存在理由が知りたいんです」
俺が、この世に存在していいその理由を知りたい。

「まぁ、とりあえず、目下の目標はバイト探しっス」
重くなった空気を明るくするように、メシ食えないッスよ、と茶化した。

「あぁ、それなら…免許もってるでしょう?オカルトGメンの仕事をたまにでいいから手伝って欲しいんだけど…もちろん報酬はたんまりと出すわよ?」

名案だと言わんばかりに目を輝かせる美恵子。

「…へ?…いいんすか?…俺まだ見習いっスよ?」

そう横島はまだ見習いだった。
無論、美神が申請していないからである。

「えっ?ウソ?本当に?」

「えぇ、マジっスよ?」

本来ならばとっくに免許を持っているはずなので、美智恵は驚き反面、令子に対して怒りを覚える。

育て方を間違えたわ…ごめんね横島クン…いっぱい迷惑かけたみたしで…。
と、心のそこから申し訳なく思った。

「令子ったら…免許の件は私が何とかするわ」

「うっす…よろしくお願いします!」

横島は笑顔交えて返事する。
それはまるで何かが吹っ切れたかのように…。













横島は選択した。

その瞳にもはや迷いはない。

ただ、己の信じる道へと突き進む。

止まった歯車は動き出した。














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