「奴は・・・まだ見つからんのかぁ!」
どっかーん!と爆発するような怒声が鳴り響き、部屋中のドアといわず壁といわずがビリビリと震え、書類という書類が宙を舞い、小物という小物が棚や机から落下し、ある程度大きな物はその場にひっくり返った。
当然、その某宇宙戦艦の主砲の如き咆哮を正面から受けたものはただではすまない。
ひあぁっ!と悲鳴を上げて腰を抜かしてしまう。
「そんなに怒ると、また血圧が上りますよ」
「何だとっ!」
落ち着いたアンティーク調で統一された部屋にて、高そうなデスク、高そうな回転椅子に座る今にも血管をブチぎりそうになっている男を、どうやらその男の秘書のような女性がたしなめた。
当然先ほど怒鳴ったカミナリ親爺は激昂したが、秘書風女は慣れたもので、てきぱきと散かった物を片付けながら
「先日霊体ドックで何と診断されたか、申し上げたはずですが」
「ぬぐぅ・・・」
お見事。
ここは神界きっての心霊捜査官が集う場所のボスの座につく者の部屋である。
心霊調査科の人間にとって、今はビッグな仕事の真っ最中。何と三界会議とか言う超大規模な会議で三界全てで全面的に魔神ヨコシマとやらを探す事が決定付けられたのだ。
創立1500年。小さい上に、今までたいした成果を上げた事が無い心霊調査科は、一気に名を上げるチャンスである。
だがしかしそれがそうもいカンザキ。何時までたってもホシは上がらない。
と言うわけで『顔の怖さ』『怒鳴り声』などでココのボスまで成り上がったと言うのがもっぱらのうわさのカミナリ親爺は、そのちっとも成果を上げない役立たずに活を入れているというわけだ。
ちなみにこのカミナリ親爺、怖い顔に角を生やしモジャモジャのヒゲをたくわえた上にスーツを着こなす正真正銘の雷神である。
「全く・・・前々から役立たずだとは思っていたが、もはやこれほどだとはな。調査を開始して何年がたつ?10年だぞ10年。ああ、お前と、魔界軍の土偶羅とやらを交換したいよ」
「調査が進んでないのは魔界も同じだし・・・。神魔族にとっては10年なんてあっという間・・・。しかも何故か実際に飛び回る横島捜索部隊ってたったの一人・・・」
「ほう、口答えをするか・・・」
長い愚痴が始まりそうな予感を感じ取った、ただいま怒られ中の部下は、思わず減らず口を叩いたが、雷神の貫禄・・・と言うかバチバチスパークしまくる電撃に怖気づいて口をつぐんだ。
「貴様にはもう一度わからせてやる必要があるようだな・・・そもそも貴様と言う奴は・・・」
抵抗空しく、最低6時間は続きそうなお説教タイムは、無情にもスタートした・・・。
※
6・5時間後、説教はようやく終わりの兆しを見せていた。
ここまで来ると説教のレパートリーの多さにもはや感心まで覚えてしまいそうだ・・・。
「・・・・と言うわけだ。解かったな?解かったのなら、もう帰ってよろしい」
「し、失礼しました」
心身ともに限界まですり減らされたような顔をして、ふらふらと部下が部屋を出てゆく。入ったときより一回りやせてしまったように見える彼女は短期間によるかなりのダイエットに成功していたが、もはやそんな事どうでも良かった・・・。
それを見て、残された雷神は深いため息をついた。
「ふ〜。あいつには困ったものだ。能力は良い筈なのだがどうしてか頭と気力に致命的な欠陥があるのだからなぁ・・・」
「それでもボスは彼女の事を大きく評価していますね。今回だって魔神の捜索などと言う大役に彼女だけを任命していますし、今のボスの口調からは考えられません」
秘書の女性が雷神の傍らで静かに言った。
「ふっ・・・。適所適材と言う奴だ。別に贔屓している訳ではないわ。
それに奴は魔神ヨコシマを『知っている』のだからな。奴ほどの適任は他にいないだろう」
「そうですね・・・。しかし彼女は、彼を知っているがゆえに・・・」
「躊躇うかも知れない。そう言いたいんだろう?」
「はい」
「・・・確かに躊躇うだろうな「それなら・・・」いや、奴だって神聖なる神族の端くれだ。何を優先させるべきかぐらいは解かるだろうよ。
ワシはこの事は奴に、ヒャクメに任せてみようかと思うんだ。いずれワシの後釜になるやも知れんヒャクメにな」
「やっぱり、贔屓ですよ」
秘書は、少し笑った。
「それに・・・今はまだ、捜査していると言う事実さえあればいいのだよ。
とある事から皆の目が逸れればな」
「とある事?」
突然の意味不明な隠語に秘書は眉をひそめた。
これでもボスのスケジュール、人間関係などは全て把握していると自負している。その自分が知らない事など無いはずだった。
「君にもそろそろ話し時期だな・・・実は今、神族過激派はとてつもないプロジェクトを計画しているのだ。
そして私も立場上協力せざるを得ない事になった。
そのプロジェクトというのはな・・・」
※
「貴方の言いたい事、大体解かったわ。
パピリオ、美神令子の死の真相。消された記憶。そしてこの十年のことも。
・・・でも、私は親友を信じているだけ。まだ貴方を信用しているわけではないから・・・」
キれて、暴れて、泣いて、ともかく大騒ぎを起こしたタマモは、翌日やっと落ち着き、その日の朝、元の世界へと帰っていった。
そして・・・・
「シロ〜〜〜御代わり〜〜〜」
「タマモ・・・少しは遠慮するでござるよ」
さらに翌日の(日曜日)の午後、横島とシロの愛の巣(笑)にてうまそうに昼飯を掻き込んでいた。
「・・・・・いいのだろうか?」
隣でちゃぶ台を囲む横島は、なんとも肩身の狭い思いをしながらポツリと愚痴る。
もちろん、彼とてできればシロにもタマモにも寂しい思いはさせたくないし、その原因を自分が作っていたとなれば文句を言える立場でもないし言いたくも無い。
しかし、この異世界に入り、自分と何らかの関係を持つ事イコール常に死の危険性にさらされるとなれば話は別だ。
「あんた私を誰だと思ってるの?ここまでくるのに隠匿術かけてるし、ダミーだってちゃんと置いてきてあるんだから」
・・・さいで。
「それにしてもあんたがウワサの魔神か・・・。高々女一人に言い負かされて、聞いていたよりもずっとなよなよしてるのね。ウワサって頼りにならないものなのね」
「・・・」
ぼろくそ言われて横島はハートが痛んだ。
あまりの仕打ちにタマモの茶碗(持ち込んできた)に飯をよそるシロが口を尖らせたが、
「ちょっとタマモ。いくら親友といえども、先生を侮辱するのは・・・」
「あんたもあんたよ。私より先に男なんか作っちゃってさ〜。あ〜あ、私に内緒で抜け駆けしちゃって、悲しいわ〜。
というよりもあんた達、どこまで進んでるのよ?
白状してもらうわよ〜〜〜」
「うぐっ・・・」
ぐぐいと詰め寄るタマモに、シロはあうあうとうめきながら後ずさり。
そして何だか疎外感を感じ始めた横島は御代わりを求めようとしたが、しばらくシロは使い物にならぬだろうと思い、いそいそと自分の茶碗に飯をよそい始めた。
タマモさん、先ほどのシリアスなセリフはどうなったのだ?
何かが間違っている・・・どこか釈然としないがそれでも・・・
「・・・良かったな」
横島は独り言を言った。
今までシロは、横島との生活と引き換えにその他の人を裏切ると言っても差し支えのないことをしてしまったという罪悪感を常に抱えてきたのだろう。
そしてタマモもかけがえの無い友を失ったというさびしさを常に味わっていたのだろう。
しかし、今の彼女らは横島の記憶の中で一番明るく、楽しそうな二人であった。
勿論、当事者のシロもその時、幸せそうに笑っていた。
「あ・・・あれ?何だか・・・」
それなのに、彼女は突然その場に倒れ、意識を失った。
※
天界と人間界をつなぐ電車が止まるプラットホームのロビーにて、
「はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」
見ているだけでこちらも気がめいりそうな特大のため息をつく人物。
ヒャクメだ。
「鬱なのね〜〜」
一日50本しか通らない電車をロビーのベンチで待っている彼女は、何時も手放さないトランクにもたれかかり、暗い表情で呟いた。
その小さな肩に覆い被さるは三界の交流にすら関係がある超重要任務、そして――裏切りという罪悪感。
彼女は横島を知っていた。
出会った瞬間過剰すぎる愛情表現を示して飛び掛ってきた彼も、共に時を遡ったときの彼も、半ば無理やり月へと飛ばされた彼も、・・・・・英雄だった彼も、悲しみに暮れる彼も。
「貴女は楽よね〜」
幸運にも彼によって全てを忘れてしまっている親友に思いをはせる。今ごろ彼女は妙神山にて正義の名のもとに彼を倒すべく剣を磨いてでもいるのだろう。
「どうにせよ、ぼちぼちやりますか・・・」
そろそろホームに電車が滑り込む時刻である。彼女は重い腰を持ち上げるとコキコキと首を鳴らした。
ちなみに今ヒャクメが神界にいるのは何もおっかない上司に怒られるためだけではない。以前の彼のデータを知っていた彼女は、神界の霊的コンピューターを使い、彼の居場所を演算により割り出す作業を終えてきていた。
ヨコシマが潜伏をする確立が最も高い場所・・・それは日本であった。
「信憑性薄いのね〜・・・」
彼女がそう思うのも無理も無いが、古今東西ありとあらゆる占いや、森羅万象を司る方程式その他モロモロを応用してはじき出されたデータは無視するわけにもいかない。
――――大まかの場所は特定できたとしても、相手は完全に気配を絶ってるのよね〜。どうしたものかしら?っていうかこの状況で見つけることなんてできるの?ふつームリよね〜・・・・・・。日本か・・・妙神山に寄ってご飯でもたかろうかな・・・
展開屈指の捜査官ヒャクメ・・・こう見えても本格的に捜査に乗り出したのであった。
ども、核砂糖です。
ああ、今回も遅れてしまった・・・。理由を上げればテスト期間だった事、他の小説を書き始めた事、そして極めつけに、あわや家庭崩壊というものが起こりかけたと事・・・。
・・・ホント、エライコトナリマーシタ。
つーかかなり精神的に参りました。
でも次はすぐに出ます。
ちなみに新しく書いた小説GSとサクラ大戦のクロスなのですが、書いてて気付きましたもう既に外出ネタでしたね・・・。
でも誰か試し読みしてくれる人がいたら教えて下さい。メールで送ります。
サクラ大戦の世界を何処まで生かせているかは解からないのですが、自分でも上手く書けているような気がするんです。
受け入れてくれるサイトがあればなお嬉し。 (核砂糖)
今後の展開を考えて楽しませていただきます。 (暗き虚の目をした人)
この小説の今の形は、良くある逆行ものの、すっ飛ばされる部分に当たるトコっす。
なので今後はドカーンと凄い事が起こって、ドカーンと時空移動するようなイベントにたどり着く話を、広げまくった風呂敷をたたみつつ続けていきます。 (核砂糖)