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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『鉄塔>>変形』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 5/18


一人の少女が、赤々とした夕日に向かって佇んでいる。

その光景に横島の心が、どうしようもなく騒ぐ。

地上250メートルに位置する、東京タワー特別展望台の上に彼女はいた。


「夏子…!」


銀一の呼び声に、彼女はゆっくりと振り返る。

うっすらと微笑むその顔は、どこか虚ろで危ういものを思わせた。


「ようやっと来てくれたなぁ、横島。…宮尾も一緒やね。」


あからさまに、『余計なもの』扱いされた銀一は、ぐっと言葉を詰まらせる。

しかし、ここで引いては何の為にここまで来たのかわからないと、銀一は自らを鼓舞する。


「夏子…お前、何してんのや!! 一体…!!」


だが、そんな銀一の言葉も聞こえているのかいないのか、夏子はふいと視線を夕日に向ける。

半分ほど沈んだ太陽を眺めやって、夏子はさも可笑しそうに笑った。


「ふふ…『昼と夜の隙間』かぁ。今がまさしく、それやね。」

「…夏子。お前、知ってるんだな?」


何を、とは横島は言わない。

それはもう、確信であった。

夏子は、物憂げで寂しそうな表情を浮かべる。


「ルシオラさん、やったっけ…横島の恋人だった人…。」

「……ああ。」


答える横島の顔は沈痛そのもので、銀一が見たことのない親友の表情に目を見張る。

それに気付いて、横島は銀一からわずかに顔を背け、視線だけを夏子に返す。


「何で、それを…?」

「教えてくれた人がおってん。」


夏子の言葉に、横島は眉をひそめる。

教えてくれた人がいたと言っても、あの事件においてルシオラの名前は出ていない。

少なくとも、当事者たち以外には知れていないはずだ。

それに『昼と夜の隙間』という言葉にいたっては、自分とルシオラだけの思い出だ。

他人に知れようはずがない。

一体、誰が…。


「なあ、横島? うちが告白したときのこと、憶えとる?」

「え? あ、ああ。」


横島の思考を遮って、夏子の妙に明るい声が響く。

夏子が言っているのは、つい昨日のことだ。

動揺する横島は、隣で銀一が辛そうに顔を伏せたことに気付かない。


「そのとき、横島がどんな顔しとったと思う?」


夏子の声は明るい調子のままだったが、わずかに震えていた。


「…うちがさっき、ルシオラさんの名前を出したときと同じ顔してた。」


戸惑ったような。

申し訳なさそうな。

横島はそっと、自分の顔に手を伸ばす。

自覚はなかったが、なんとなくそんな気はしていた。


「…うちは…横島の中にはおらへんのやね…。」

「夏子、それは…!」


違う、と反射的に言いかけて、横島は口を閉ざす。

夏子が大切な『友人』であることには違いない。

だが、夏子が求めている答えはそうではないだろう。

横島の迷いが、わずかな沈黙を生み─。



「─…嫌や。」



夏子の呟きに、横島と銀一は身を強張らせる。

その声音に含まれるものが、つい先ほどまでとまるで違う。

例えるなら、ゆっくりと何かが鎌首をもたげていくかのような。


「うちは横島だけを見てきた。横島に見て欲しくて、今まで頑張ってこれた。」


一生懸命、綺麗になろうと努力して。

そうして、モデルにまでなって。


「せやのに…横島の中には、うちじゃない人がおる…。そんなん…そんなん、嫌や!!」


そう叫んで顔をあげた夏子を見て、二人は驚愕に目を見開く。

夏子の瞳が、燃えるような赤色に染まっている。

そしてようやく、辺りの空気がいつの間にか、異様な圧迫感に包まれていることに気付く。

ドクン、ドクン、とまるで空間が脈打っているような錯覚を覚える。


「な、なんや、コレ…! な、夏子…ッ!!」

「さがれ、銀ちゃん!!」


すでに日は沈み、黄昏の薄闇が世界を覆っている。

その中にあって、ぼんやりと夏子の体の周囲、その輪郭だけが赤く浮かび上がる。

夏子が握り締めている胸元の辺りから、幾筋もの赤い光が全身に伸びていく。


「…うちは横島だけを見てきた。横島も…うちだけ見てればええんやッ!!」





          ◆◇◆





バンから降りたった美神たちは、辺りを見回す。

周囲に人気はない。


「横島君は…やっぱり上ね。」


遥か上方を見上げながら、美神はぽつりと呟く。

すっと細められた瞳は、何を思ってこの紅の塔を見つめるのか。

その表情が、ふいに強張った。

視線の先、タワーの上から異様な気配が伝わる。

刻真たちも同様に、はっとした表情で上を見上げている。


「この感覚は…! 急ごう!!」

「シロとタマモも、先に行きなさい!! 私はここでママたちに連絡をとるわ!!」

「オイラも、行くホー!!」


駆け出す刻真の後を、美神に指示されたシロとタマモ、そしてノースが追いかける。

四人が東京タワーの中に消えていったのを見届けてから、美神はもう一度上を見上げる。

その顔はどこか悔しげに見えた。


「…美神さん。」


鈴女の治療を続けるために残っていたおキヌの呼びかけにも、美神は振り向かないなまま答える。

俯いて、掌で覆い隠した表情は、憂いに沈んでいた。


「ダメね…私はまだ、ここに入れない。…ううん。入りたくない、かな…。」


どうしても、彼女を思い出してしまうから。

思い知らされてしまうから。

それは、おキヌも同じ思いであった。

自分たちには、ここは入ることの出来ない場所。

美神はもう一度、タワーを見上げてから、携帯電話を取り出した。






          ◆◇◆






赤い光の筋に覆われた夏子の体が、まるで内側から弾けるように輝く。

次の瞬間、そこに現れたのは巨大な蛇。

一抱えはある体をくねらせながら、ゆっくりと上体を持ち上げる。

その先にあるのは、蛇の頭ではなく、美しい装束に身を包んだ女性。

半人半蛇の異形の姿がそこにあった。

何より、おぞましくも美しいと感じたのは、その顔に夏子の面影がそのまま残っていたことである。

その禍々しさに、あの堕天使『エリゴール』の姿が蘇る。

造魔。

刻真がそう呼んでいた事を、横島は漠然と思い出していた。

異形は、シューッと空気の抜けるような鳴声をあげると、横島を睨めつける。


「横島…うちのものにならんのやったら、せめて…殺してやる!!」


夏子の声そのままに、鬼女『キヨヒメ』は吼えた。


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