目を開くと影に覆われた灰色の天井が見える。頭の中が、ぐあんぐあんと渦を巻き、美神と酒を付き合った時ぐらいの二日酔い――――みたいなものに暫く付き合った。一呼吸おいて、視線を真正面からカレンダー、カーテンが掛けられた窓へ移す。ぼやけている目の前の景色がしっかりしてきたのは、ほんの数分だった。無意味に窓を眺めるの止めて、次はベットから立ってみる――――と、ふらーっと前のめりに倒れていく。
「うおっ」
思わず声を出し、咄嗟にベットの手すりを掴んだ。足がぐらぐらして安定しないことから、自分が随分と動いてないのを悟った。そんなことよりも、まず一番に悟りたいのは何故自分が此処に入院していること。ふらふらな足取りで窓のさんまで近づき片手でカーテンを開けた、と同時に眩しい太陽の光を浴びた。外の景色を淡々と眺めて、自分の名前、性別、年齢、住所、・・・と順序に思い出してみる。そして自分の職業が頭の中で『ご〜すと すい〜ぱ〜』と出た瞬間に記憶が一気に甦った。カレンダーを今度は真剣に見てみる。
「月が変わっとるがなっ!!」
自分の記憶が飛んでいったある日から三日経っている。
飛んでいったあの日は――――――――
◇
「ぶっ殺す?ふざけるなよ陰念」
雪之丞の殺気が辺りを支配する。以前、不意をつかれ怪我をさせらただけに素直に怒っていた。
リターンマッチに燃える男、バトルマザコンマニア約1名―――――の後方1メートルに殺気の雰囲気とうってかわってワイド版5巻を鑑賞中の男、横島忠夫1名。
「任せな!こいつは俺が殺る」
「“やる”の意味はあえて突っ込まないでおこう・・・」
適当に返事をして、やっと横島は立ち上がった。
「へへへ・・・。成長したな雪之丞。けど俺には勝てねーぜ。」
陰念はあごを少し前に出し、余裕を見せるようにニヤリと不敵な面構えをした。
以前よりも霊波が収束した雪之丞の魔装術に然程驚いた様子は見られない。
「褒められてるぜ、雪之丞。」
「うれしくないだろ、フツー。」
そう言って、地面を蹴り真正面から突っ込んでくる雪之丞に陰念は霊波砲を打ち込む。それもかなり速く、強い。
ドコオォォォォォォオオオン
だが、陰念と一緒に行動していたGS資格試験の頃とは格段に強くなった魔装術はそう易々と打ち負けることはなかった。ダメージをくらいながらも、薄暗く舞う煙の中から抜け出し接近戦に持ち込み、陰念を徐々に追い込んでいった。しかし、横島と雪之丞は油断できなかった。雪之丞と同じく陰念にも魔装術ある。
「どうした、陰念!?魔装術がダサすぎてできねーのか!?」
おもいっきり陰念の下腹部にボディーブローを叩き込むと、吐き捨てるように挑発した。まるで物足りないように。
一方その一発で木の根元まで飛ばされた陰念は立ち上がり、口の中に溜まった血を吐き捨てた。
「くくく・・・見せてやるよ。はあぁぁああぁぁぁっっつ―――――!!」
「――――!!?気をつけろ雪之丞ッ!」
相手が生身とはいえ、押していた雪之丞を観戦していた横島だったが、危険な空気を感じ取った。いつでも文殊がつかえるように準備をする。眩しい光がおさまると目の先には唖然として立ちすくむ雪之丞と始めて戦ったときとは全くと言っていいほど変貌を遂げた陰念がいた。陰念の魔装術は正に魔物―――――そう、勘九朗に似ている。
「・・・・・・・・・。」
二人は陰念の変わりぶりに声が出なかった。
「驚いてくれて嬉しいぜ。さっきのお返しといこうじゃないか。」
「―――――!!上等じゃねぇか。」
雪之丞はへっ、と笑ってみると陰念に立ち向かって行く。
「おい!ちょっと待て――――!」
今やバトルジャッキーとなった雪之丞よりも横島の方が冷静だった。聞く耳を持たない雪之丞は低い体勢で陰念にローキックをかます。が、霊力の強すぎる為か殆ど無傷。
「なっ――――!」
陰念は雪之丞が蹴った右足を即座に掴み、上空に向かって投げ飛ばした。
現場が都会外れの森だったので空には万点の星空で月には雲ひとつ架かってない。その空に舞った雪之丞に無数の霊波砲が打ち込まれる。
「文殊ッ!」
横島は雪之丞に向かって光り輝く文珠をまず一つ投げ込み、ソレが『壁』と成り陰念の霊波砲を阻み、お互いの技がぶつかり合い相殺した。そして更に『爆』の文珠
を今度は陰念に投げ込んだ。
ドコオォォォォォォオオオン
文珠は一瞬光ったかと思うと、相変わらずの威力を見せ付けた。更にもくもくと上がる煙の中から雪之丞が見えたかと思うと、横島は一発殴られた。
「バカ野朗ッ!俺が着地する場所に文珠を投げ込みやがって!」
「おぉ、悪かった・・・。つい、うっかり。」
横島は申し訳なさそうに謝った。もうこれで何度目になるのか、二人は陰念のことなど忘れている。しかしもう慣れてしまったのか陰念は怒らずに口を開いた。
「やるなぁ。さすがメドーサ様を倒したことだけはあるぜ。」
「!!? お前・・・何故それを・・・。」
横島は驚いた。メドーサを倒したのは月の件だけだ。それにコスモプロセッサで復活したときは、除霊されるまでの成り行きを横島だけでなく雪之丞も壊れたヘリの中で見ていた。核ジャック事件の関係者は他言しないことも約束されているので陰念が知る筈がない。
「お前に負けてから、俺はメドーサ様について行ったからな。そして俺はまた力を手に入れた。」
「――――このバカヤローが・・・。」
陰念は魔装術を解いた雪之丞の言葉には耳を傾けず、話を続けた。
「知っての通り魔装術の最大の欠点は使用時間が短いことだ。」
陰念の言う通り、魔装術には己の力を上昇させるかわりに反動も大きい。事実、陰念は術の使い方を誤り力に飲み込まれてしまった。その後は冥子のシャオトラのヒーリングによって回復したが、意識が戻ったのは、GS資格試験から三ヶ月以上も経った頃だった。
「だがな、それを俺は克服したんだ。魔族の霊体片を手に入れたんだよ。いや、埋め込んだとでも言うべきか。」
「霊体片?どっかで聞いたような・・・。」
「ちょうど、お前達が来た前だったからな。」
「おいおい、何の話だ?よく分からねーぞ。」
雪之丞には全く話が見えない。横島に尋ねても思い出せず考え込んでいる。それよりもなにより気になるのが、あの勘九朗でさえ短時間で自我意識を正常に保てなかったのに、陰念は長時間の魔装中にもかかわらず釈然と自我意識を持っていることが気になった。
「――――――!! 陰念、お、お前・・・・・・」
はっ、と横島は顔を上げた。
「横島、何か分かったのか?」
「へへへ・・・気づいたようだな。」
「須狩のネーちゃんとデキてたのかッ!!?」
「――――!!? い、陰念!横島に負けてそこまで堕ちたかッ!!」
どしゃぁぁぁぁああああっつ!!!!
「*+?a#&Qっつ!!ち・・・違うッ!」
かなり、動揺している。顔を少し赤らめてムキに反論するところから少しは気があったのだろうか・・・。虚しくも雪之丞の霊波砲も数十倍もダメージをくらった。話が見えてこない雪之丞もソコへのツッコミは忘れない。
「で、スリーサイズは何だ?」
メモを片手にシャーペンを取り出す横島。
「えぇ〜っと、まず上から(ピーッ)、(ピーッ)・・・・・・って、ち、違う――――――ッ!」
陰念は更にダメージを受けた。
「ふざけんなよ。魔装術を完璧にコントロールするために魔族の霊体片を利用したんだよ。」
「ふざけ始めたのはお前だろ?」
「お前じゃなかったか?」
「そうして俺は魔装術の修行をした。しかし戻ってみれば勘九朗もメドーサ様もいなかった。そう、お前たちGSのせいでな!」
「そもそも須狩って誰だ?」
「あぁ、かくかくしかしかって事があったんだ。スタイルは陰念が言ってたように・・・・・・・・・。」
「ママに似ている・・・。」
「そうして俺は、島国の支配者になることができなかった。」
「お前のママってどんな人なんだ?」
「俺が病弱だった頃にとても優しくしてくれた・・・」
「・・・・・・・(プチッ)。人の話を聞け――――ッ!!」
陰念はとうとうキレて二人の世界に入って話混んでいる中へと突っ込んだ。しかし、それが運の尽きだった。
「「かかったな!」」
急に二人の顔色が変わり、霊波の盾――サイキックソーサー――を投げつける。名付けて『ダブルGSサイキックソーサー』。
ドコォオォオオオオオンッ!!
不用意に間合いを詰めた陰念はそのまま後方へ、ド派手ぶっ飛んだ。過去にもこんなことをしたのだが、魔装術が暴走して勘九朗の『うぉーみんぐ あっぷ』と化した陰念は知るはずもない。と、言うか勘九朗の『うぉーみんぐ あっぷ』になったことすら、記憶になかった。それが、今も尚、自身過剰が直ってない原因かもしれない。
「て、てめえ・・・」
ボッキリと折れた木々の中から陰念が立ち上がる。自称完璧な魔装術と言うだけあって、一発ノックアウトとはいかなかった。しかし、ダメージは大きく霊波の装甲を突き破って左腕からは血がかなり出ている。
「うおぉぉぉぉぉおおっ!!」
GS資格試験時の雪之丞同様に左腕を高く空に突き上げて、霊波が左腕に絡み修復した。
「なっ!回復した!」
「や、やべぇぜ、横島。」
横島はダメージがあったの知りつつもわざと驚いてみせる。雪之丞も合わせてふりをした。そんな反応に陰念は少し喜んでいる。
「「じゃ、そういうことで。」」
横島と雪之丞は陰念に向かって手を振り逃げる姿勢をみせた。
「ふ、ふざけんなッ――――」
二人を追いかけるように、再度突っ込んで行くが、その瞬間二人の目はキランと光った。
「「どっせ―――いッ!!」」
二人は敵に背中を向けた身体を捻り陰念に向かってまたサイキックソーサーを投げつける。
ドコォオォオオオオオンッ!!
またしても、陰念はさっきぶっ飛んだ場所へと逆戻り。そして最後に決め言葉。
「真剣勝負中に気を抜くからだ。」
横島は陰念を指差して嘲笑うかのように吐き捨てる。
すると、煙の上がった木々の隙間――――陰念から霊波砲を打ち込んできた。しかし観客、更に言えば女性など周りにいない横島はソレをサラリとかわす。雪之丞も反対側に逃げ込みかわした。
立ち上がった陰念はもうブチギレ状態の臨界に達していた。殺気をギンギンに放っている。
「こうなったらこれしかねぇ・・・」
陰念はボロボロに崩れた魔装を直さずに右手に霊波を収束させた。
「―――――!!」
いち早く気づいた横島は陰念がやろうとしている術を阻止する為に文珠の『速』と霊波刀で斬りかかった―――が、陰念は高くジャンプし間一髪で避けた。
「終わりだ。死にな横島、雪之丞。」
ドシュ ドシュ ドシュ
遂に陰念は火角結界を完成させた。霊力をかなり使い果たしたのか、火角結界はGS試験の時に勘九朗が放ったものと然程変わりはなく残り時間は30秒。しかし、あのサイズですら美神や冥子、エミといった日本を代表するGSでも解けなかったので、それで十分だった。いくら霊力に目覚めた横島と更に強くなった雪之丞でも無理難題なのは間違いない。そして陰念が火角結界から出――――出ていなかった。
「う、あ、何故だ・・・身体が動かん・・・」
陰念はワケも分からず金縛りみたいなものから脱出しようともがいてみせるが、先ほどの『ダブルGSサイキックソーサー』×2のダメージがかなり効いて振り解けない。
「お、おい横島!どうなってんだ?この文珠。」
横島から見て陰念の奥にいる雪之丞は破れたワイシャツのポケットの中から一つの文珠を摘み上げ、横島に見えるように掲げる。それは陰念と交戦する前に『秘密兵器』として渡しておいた文珠だった。
「おお、どうにかうまくいったな。一回成功しているからな・・・。」
「なんだこれ?『糸』・・・か?」
雪之丞の手元に光る文字はその通り『糸』だった。そして反対方向の横島が持つその文珠――――
「そう。雪之丞の『糸』そして俺が持っているこの文字は――――『専』。そして真ん中の陰念は『点』の役割を果たしている。」
「んな、馬鹿な!『縛』だと・・・。」
「俺も馬鹿な使い方だと思ったよ。さすが美神さんだな・・・反則的だ・・・。」
以前に月でメードサと戦った時に一回完成させているので、横島は『縛』る自信はあった。しみじみと月での戦いを思い出してみる。
「さて、陰念。これで火角結界を解け。このままだとお前も道連れになるぞ。」
脱出するにはこの手しかなかった。火角結界は術の使用者に解かせるか、殺すしかない。
しかし、二人にとっては最悪の返事が返ってきた―――――――
◇
「よぉ、怪我は治ったか?横島。」
横島は随分と記憶の中を彷徨っていたので、気配を感じ取ることができなった。振り返ると、不機嫌な顔でこちらを眺めている。
「治るわけねーだろ。」
しかも文に成長の欠片も見えません。けっこー今回は指摘がないように頑張るつもりだったのに。
とは言え、出してしまったなら仕方が無い。
バトルシーンに手こずりました。霊体片についてはまた次回に説明等が出ますので。
特にバトル一色にするつもりはなかったので、ギャグを入れてみました。と、言うか入れすぎ。
えっと・・・とりあえずご意見、ご感想をお待ちしています。
もしかしたら、私のモチベーションがあがるかもしれません(笑)。 (never green)
ようやく続きがみられてホッとしております。
文章の方は上達していると思いますよ。冒頭の部分を見て「おっ!」と思いましたから。
それに比べて自分ときたら…まるで変わってませんから(汗)
B評価なのは、一番おいしい場面で「文殊」となっていたので、残念ながらマイナスさせて頂きました。他はよかったんですけどね。
それはさておき、横島と雪之丞の息の合い方が面白いです。こいつらホントに仲いいんだなぁ、と微笑ましく思ったり。
続きも頑張って下さい。ではでは (ちくわぶ)
ぐはっ!ほんとだ・・・イージーミスを・・・。何故だ?他は合ってるのに。
雪之丞と横島の戦い方はマジで悩みました(笑)。けど、まあなんとか書けたので良かったです。
>横島と雪之丞の息の合い方が面白いです。
ありがとうございます。前回はギャグがなかっただけに入れすぎました。
GS資格試験の頃を読み直しているときコレだ!と思いついたんで。
と、言いながら私もちょっと登場キャラ増やしたいと思っている、今日この頃(笑)。
では、お互い頑張りましょう!
(never green)
始めの部分を読んだ時はラブコメ系の話だと思いましたが、今回の話には僕の大好きなバトルシーンあったので満足しています。
所々しっかりとギャグも混ぜていますし何よりも雪之丞が出てきたと言うのが一番の好印象でした。
次も頑張って下さい。 (鷹巳)