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六道女学院教師 鬼道政樹 式神大作戦!!

ハイウェイ・スター!!


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:05/ 5/10

 翌日、夜叉鬼の運転するトラックは、鬼ヶ島の要所を繋ぐ高速道路「鬼ヶ島ハイウェイ」に乗って鬼顔岳を目指していた。


 ちなみに今回のトラックは、昨日彼女が乗っていたデコトラとは違うトラックである。


 相変わらず派手なペイントやメッキパーツによる装飾が施されているが、荷台部分には窓と対面のベンチシートもあって快適性に
何ら問題はない。

 さながらトラック型のバス……いや、護送車か?

 そこで政樹が「何でこんな妙ちくりんな車があるんや?」と尋ねたところ
「家族で出かけるときに使う自家用車で、親父の趣味だべ」という答えが返ってきた。







「オラのクルマはすご〜いクルマ♪すげぇスピードがで〜る〜♪」
(ディープ・パープル:『ハイウェイスター』のリズムで)


 夜叉鬼は上機嫌でハンドルを握っている。
 昨夜浴びるほどに飲んだ酒の影響は全く無いようで、鉄の肝臓ぶりを存分に見せつけていた。



 で、一方の酒飲み面子である政樹、雪之丞、ジークと言えば……



「うう……昨日は調子に乗って飲み過ぎてしもうたか……。」
「頭痛ぇ……。」
「完全に二日酔いですね……。」



 と言った調子で、荷台で死人のようにうなだれていた。




 対面側の座席では
「まったく…緊張感ってものが感じられないねあんた達。これから修行に行くんだろ?」
 と、ベスパがシートにもたれかかったまま呟く。
「こんな風になるのにどうしてお酒なんか飲むんでちゅかね?」
 パピリオも不思議そうに政樹達を見つめる。

「後先なんて考えてたら酒なんて飲めねぇ……父ちゃんがそう言ってただ……。」
 そして、娑婆鬼だけはそんな政樹達に理解を示していた。






 ところで、なぜベスパ達が一緒にいるのか?それは1時間ほど前にさかのぼる。






 旅館を朝早くにチェックアウトし、トラックに乗り込もうとしていたときだった。
 見送りに出てきたグーラーが、そんなに急いでどこに行くのかと尋ねてきた。
 夜叉鬼が目的地を話すと、途端にグーラーは表情を曇らせる。
 そして二日酔いの政樹達を見て心配そうに話し始めた。



「これはちょっと前に来たお客さんに聞いた話なんだけど、最近ハイウェイ荒らしが出るんだってさ。
 無茶な走りであおってきて、そのせいで車が何台も事故を起こしてるそうだよ。
 お兄さん方は強そうだから追い払えると思う……って言いたいんだけど、その様子だとキツいかもね……。」

 グーラーの視線の先には、頭を押さえてグダグダになっている政樹以下2名の姿があった。



 そんな時、やれやれ…とため息をつきながらベスパが歩み出た。



「借りもある事だし、私が目的地までついて行くよ。ハイウェイ荒らしだかなんだか知らないけど
 コナかけてくる奴がいたらぶっ飛ばしてやるさ。」
 ベスパは胸の前で腕を組み、政樹を見る。

「……ベスパ、すまん。」
 政樹は申し訳なさそうにベスパに頭を下げる。
「ちょっと、別にそんなに改まらなくていいんだよ?」

「……ボクは魔族というのは凶暴で悪い連中ばかりやと勝手にイメージしとった。
 でも、君やジークはんのようにええ奴もおるんやな。ありがとう……。」
「な、なんか体がかゆくなるねそんな事言われると……ともかく、これで問題はないだろ?」
「ああ、それじゃよろしゅうな。」



 政樹の言葉にコクリと頷くと、ベスパは
「あんたはジークと一緒に街の見物でもしてきなよ。」
 とパピリオの頭をなでながら微笑んだ。

 だが、パピリオはムスッと唇をとがらせ、ジト目でベスパを睨む。



「……イヤでちゅ。」
「え?」
「せっかくベスパちゃんと会えたのに、これじゃ意味ないでちゅ。それに、そっちの方が面白そうな気がするんでちゅよね〜♪」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべてパピリオは言う。


「バカ、遊びに行くんじゃ……!!」
 頭ごなしに怒鳴ろうとするベスパの肩に、背後からジークの手が掛けられる。


「パピリオはお前に会えるのをずっと楽しみにしていたんだ。少しくらいわがままを聞いてやってもいいんじゃないか?」
「……。」


 ジークの言葉にベスパは押し黙り、そしてゆっくりと振り返る。


「……私が行くって言った以上、どうせあんたも付いてくるんだろ?」
「そうだ。鬼道先生には私も借りがあるしな……。」
 そう呟いたジークの目元には、ハッキリとクマができていた。



(二日酔いのくせに……ほんとにクソマジメなんだから……)



「わかったよ、それじゃみんなで鬼道に付き合うってことでいいんだね?」
 観念したようにベスパが言うと、パピリオはしがみついてその喜びを表していた。



「とりあえず話はまとまったみたいだね。お兄さん方もまた鬼ヶ島に来る事があったらここに寄っておくれよ。じゃ、気をつけて。」
 グーラーは投げキッスを、ガルーダのヒヨコ達もピヨピヨと飛び跳ねながら政樹達を見送ってくれた。






 ……で、現在に至るというわけである。






 そうして数時間の間は何事もなくトラックは走り続け、途中「鬼ヶ島C・C」の起伏に富んだコースを眺めたりする事もできた。
 そう遠くない場所にある火山は絶え間なく噴火し、激しい轟音や地響きと共にもうもうと黒煙を吐き出している。
 ときおり巨大な火柱が天高く噴き上がり、あたりにはおびただしい火山灰や真っ赤に焼けた岩石の破片が降り注いでいたが、どういうわけか道路にはゴミ1つ落ちていなかった。


 夜叉鬼の話によるとこの道路は霊力を帯びた素材で造られ、弱いながらも結界を張って異物の侵入を防いでいるという事だった。






 迫力ある景色の下を走り抜けながら、トラックが長い直線区間に差し掛かった時だった。
 後方を眺めていたパピリオと娑婆鬼が突然騒ぎ始めた。
 何事かと政樹が目をやると、道路を文字通り「走って」近付いてくる人影があった。


「な、なんやあれは!?」


 その影はものすごいスピードで近付き、トラックの後ろにピタッとくっついてきた。
 服装は粗末で郵便鞄を掛けてはいるが、その肉体は鍛えられて引き締まっている。
 その顔は醜く、口は大きく耳元まで裂けており、額から突きだした二本の角が鬼族であることを証明している。
 そして何よりも、4つもある鋭い目が不気味な光をたたえていた。


「まさか…コイツがハイウェイ荒らしか……!?」


 政樹の言葉にメンバー全員が身構える……が



「ううっ、振動が気持ち悪い……!!」
「頭痛ぇ……。」
「うっぷ……!!」



 案の定、二日酔いの3人は全く役に立ちそうもない状態であった。



「あーもう!!邪魔だから引っ込んでな!!ここは私が……!!」
 と、ベスパが荷台後ろの扉を開けると、そこにはもうすでに鬼の姿はなかった。
「……あれ?」



「走る」その鬼は一瞬のうちに運転席の隣に移動し、ハンドルを握る夜叉鬼と目を合わせる。
 夜叉鬼はその鬼が視界に入った途端に不機嫌な表情になり、火花が散りそうなほどにガンを飛ばし合う。



 それから10数秒の睨み合いが続いた後、4つ目の鬼はふいに視線を外してジロジロとトラックを眺める。



 そして、



「……ハン。」



 と鼻で笑うと、ものすごいスピードでトラックを追い抜き走り去ってしまった。



 ゴリゴリッ!!



 ぶちぶちと血管を浮き上がらせた夜叉鬼は、アクセルを床一杯に踏み込んで走り去った鬼の追跡を開始した。
 突然の猛スピードと乱暴なレーンチェンジに、荷台の政樹達は炒り豆のように転げ回って体をあちこちにぶつけていた。


「ちょ、ちょっと、急にどうしたんだよ!?」
 床面を這いずりながらベスパは運転席に近付き、小さな窓から声をかける。

「…の野郎、走るだけしか能のない韋駄天の分際でオラにケンカを売るとはいい度胸だべ!!
 商売の因縁も含めてケリを付けてやるだ!!」
 そう吼える夜叉鬼の目は完全に血走っており、言葉は届いていない様子。
 そして全身からは激しく霊気が放出されている。



「韋駄天……!!」
「……って、なんでちゅか?」


 いつの間にかパピリオもひょっこりと顔を出す。
 だが、ベスパも名前を聞いた事があるという程度で、詳しい事は知らない。


「ものすごい足の速さで有名な神族のことだ……天界で宅配便のような事をしていると聞いたが……。」
 と、そこへ背後からジークの声が聞こえてきた。
 夜叉鬼は「オラがマシンだ、マシンがオラだ……!!」とブツブツ言っているばかりなので、2人はジークの方に振り返る。



「……って、ちょっと待った。さっきのはどう見ても鬼だったよ?」
「韋駄天一族のルーツは鬼だ。何らかの事情で鬼に戻った奴がいたのかもしれないな。」
「へぇ……よく知ってるんだね。」
「仮にも情報士官だからな。」
 事も無げに答え、笑ってみせるジークをベスパはじっと見つめていた。





 2人の間に、奇妙な雰囲気の沈黙が流れる。





「あのさ、ジーク……。」
「何だ?」














「……いつまでその格好してんの?」


 ジークは荷台でひっくり返った姿勢のまま喋っていた。
 それはちょうどM字開脚を逆さにしたようなポーズ。
 もっとイメージしやすく例えるなら、キ○肉バスターを受けている上の人みたいな格好だと思って欲しい。


 そんな彼がベスパと真面目な会話をしているこの状況。
 ……なんかもう、二枚目のイメージ台無しな事この上ない姿だ。



「いや……二日酔いと振動のダブルパンチでもう、動く気力が……。」

 と、ジークは消え入りそうな声で呟くのだった。







 そんなやりとりをしているうちにも、トラックの速度はさらに上がっていく。
 というより、トラックではありえないほどのスピードが出ている。
 180qまで表示されているスピードメーターはとうに振り切れ、なんと先を走っていた韋駄天に追いついて行くではないか。


「い、いくらなんでもおかしくないこのスピード!!トラックだろ!?」
 ベスパがイヤな汗を浮かべながら窓の外を見ていると、いつの間にか娑婆鬼が脇に立ち、
 腕を組んで「フッ…」とほくそ笑んでいた。


「このトラックはただのトラックではねえ。エンジンはボアアップにポート研磨、ROM交換にブーストアップの上さらにニトロを搭載!!
 そしてスポット増しでボディ剛性を上げ、それらを受け止める足回りを……!!」

 娑婆鬼の鼻息は荒く、瞳はキラキラと輝いている。
 乗り物の話をするとき、男とは得てしてこういうものである…それが例え子供でも。



「……要するに、改造してあるんだろ?」
 しかし、ベスパは長くなりそうだと感じ、一気に話の腰を折る。


「う、うむ…そーゆーことだべ。」
 少々不満そうにしながらも、娑婆鬼は落ち着きを取り戻して続きを喋り始める。
「けんど、それだけではねーぞ。このトラックは魔界製だで、霊力でコントロールすることができるんだべ。」
「兵鬼と同じ技術を使ってるのか……。」
「だから今のねーちゃんに話しかけてもまともな返事は期待できねーぞ。」
 夜叉鬼の目は据わり、不気味な笑みを浮かべ続けている。
 どうやら思考に回す霊力まで使ってしまっているらしい。




 そしてついにトラックは韋駄天に追いつき、その横に並ぶ。




「ほう…鬼のトラックなんぞトロくさいドンガメだと思っていたが、なかなかの走りをするじゃないか。
 よかろう、この韋駄天・九兵衛が遊んでやる!!」
 不敵な笑いを浮かべる九兵衛の、4つの目がギラリと光る。



 この九兵衛、かつて地上最速を求めて人間界で事件を起こした事がある。
 だが、その際は同族の八兵衛と美神令子(&横島)の活躍によって捕らえられた。
 九兵衛のその後を知るものはほとんどいないが、肩に掛けている郵便鞄を見る限り仕事には復帰しているようである。



 ともかく、九兵衛と夜叉鬼はますます速度を上げてデッドヒートへ突入する。




 そんな時、ベスパは見てしまった。
 窓の外を

『この先カーブ在り 減速せよ』

 という標識が通り過ぎていくのを




「やばっ!?こんなスピードじゃ曲がりきれないよ!!」
 慌てて運転席の方に顔を戻し、夜叉鬼に速度を落とすよう促す。
 しかし当の夜叉鬼は「うふふふ…」と怪しい笑い声を返してくるばかり。
 娑婆鬼の言うとおり、ロクに会話できる精神状態ではないようだ。


「こっちはダメだね……パピリオ、外のあいつをなんとかするよ!!」
「思った通り面白くなってきたでちゅーっ!!」
 ベスパとパピリオは荷台の屋根によじ登り、激しい風圧にさらされながらも九兵衛を見据える。


「お前!!最近ハイウェイ荒らしが出るって聞いてたけど、こうやって相手を挑発して事故を引き起こしてたんだね!?」
 びしっ!!と指をさすベスパを、九兵衛はフッとせせら笑う。
「何の事だ?俺はただ走っているに過ぎん。事故を起こした連中は操縦ミスでもしたんじゃないのか?遅い上に勝手に事故る奴など、
 生きる価値はないな。」
「何だと……!!」
 他人事のように吐き捨てる九兵衛のセリフに、ベスパの額の血管がぶちぶちと浮き上がる。


 そこへパピリオが身を乗り出してひと言、尋ねた。
「韋駄天って天界の運び屋なんでちゅよね?なんで鬼ヶ島なんかにいるんでちゅか?」


 その途端ピシッ!!と九兵衛の表情が凍り付き、ぎぎぎっとパピリオの方に顔を向ける。
 唇を強く噛み締め、目には涙を浮かべてぷるぷると小刻みに震えている。



「あーそうさ!!どーせ俺は左遷されてこんな田舎の営業所に回されたよチクショー!!
 こうしてストレス発散でもしてなきゃやってらんねーんだよ!!」
 開き直ってキレた九兵衛は裏返った声で叫ぶ。


「んじゃ何……それだけのためにこんなせこい悪事繰り返してたってわけ?」
 ベスパはあまりに情けない言動に眉間を抑えてため息をつく。
「悪いかどちくしょぉぉぉぉっ!!」

「ハァ……私達はお前の憂さ晴らしに付き合ってるヒマなんて無いんだ。消えな!!」


 ゴッ!!


 ベスパは九兵衛めがけ、手のひらから強力な霊波を放射する。
 しかし、九兵衛はそれを難なくかわしてみせる。

「バカめ!!そんなノロい攻撃が俺に当たるものか!!」

 そこは速さが売りの韋駄天、回避力も相当なもののようである。
 ベスパはさらに数発を撃ち込んだが、やはりかすりもしない。



「くそ、当たりさえすればあんな奴一撃で仕留めてやるのに……!!」
「どうにかしてスピードを殺さないとダメみたいでちゅね。でも、道路に障害物になりそうな物もありまちぇんし……どうしよう。」

(障害物……!!)
 パピリオの言葉にベスパはある事を思いつく。

「……パピリオ、今から韋駄天の前方に霊波を撃ち込んで、あいつを空中に誘い出して欲しいんだ。」
「何するつもりでちゅか?」
「説明してるヒマは無いんだ。頼むよ!!」


 とにかく言われたとおりにパピリオが霊波を撃ち込むと、道路が砕け破片が舞い散る。
 九兵衛はそれらをかわすべく跳躍する……その瞬間だった。


「でやあああっ!!」


 ベスパは空中に飛び出し、九兵衛めがけて突進する。

「む!!何を血迷ったかしらんが、俺が易々と捕まると……!!」
 九兵衛はさらに上昇し、ベスパの追撃を振り切ろうとした。
 だが、ある高さに達したとき体に衝撃が走り、九兵衛はその動きを止めてしまう。
「こ、これは……!?」
 異物の侵入を防ぐための結界が、九兵衛を押し止めたのである。
 そのわずか一瞬の隙を見逃さず、ベスパは九兵衛の背中にタックルをぶちかます。


「げふぉっ!!」


 すさまじい衝撃に九兵衛はヒキガエルが踏まれたときのような声を出す。
 ベスパは両腕で腰をがっちりとロックし、ギリギリと締め上げる。
「これでも力には自信があるんだ。このまま締め落とす!!」


 トラックはとうにその場から走り去り、その場には2人だけが残っている。


(く、苦しい……これでは超加速が使えん……!!)


 ベスパにとって幸運だったのは、彼女の怪力が九兵衛の集中力を乱し、韋駄天の超能力「超加速」を知らずに封じていたという事だろう。
 一時的に時の流れを遅らせる術「超加速」を使われていたら、ベスパに勝機は無かったかもしれない。


「は、放せ!!」
 九兵衛は必死に抵抗しベスパの頭部や顔面を殴りつけるが、締め上げる力はさらに強くなる。
 延命処置によって多少霊力が落ちたとはいえ、その怪力は錆び付いていない。



「こ…の…気安く人の頭をポカポカ殴るんじゃないよっ!!」 
 ベスパはフルパワーで体を仰け反らせ、九兵衛と共に頭から地面に急降下する。



「う、うわあああっ!!」



 ドガシャァァッ!!



 それは高々度からのジャーマンスープレックス。
 道路に刺さった九兵衛の姿は『犬○家の人々』を彷彿とさせる。
 フゥ…と乱れた髪を掻き上げていると、遙か道路の先からパピリオが飛んできた。

「ベスパちゃん、やっつけたんでちゅか!?」
「ああ、見ての通りだよ。それよりトラックはどうなったんだい?」


 トラックは、間一髪の所で夜叉鬼が勝利を認識して我に返り、高速コーナーをすさまじいドリフト走行で切り抜けていったとか。




 3カウントとゴングはなかったが、高速道路の攻防は圧倒的なベスパの勝利であった。












 それから数十分後、ベスパとパピリオは事件の連絡を受けた天界の韋駄天達に運ばれ、
サービスエリアで待機していた政樹達と合流した。

「全く申し訳ない。この八兵衛、なんと詫びて良いものか……。」

 白くのっぺりした顔に、小さく丸い目だけが付いている韋駄天は八兵衛と名乗り、九兵衛の上司だという。
 九兵衛は身動きが取れないように縄でぐるぐる巻きにされ、肩に担がれている。

「まあ、幸い我々に大した被害があったわけやないし、あとはそっちで処分してくれたら結構ですから。」
 その八兵衛とは、ようやく二日酔いも収まってきた政樹が話しあっている。



 その脇では、ジークがベスパを座らせて手当をしてやっていた。
 実際ベスパは大したダメージなどは受けていなかったが、殴られた頭や顔には小さな傷がいくつもあった。

 薬液を付けたガーゼをピンセットでつまみ、ベスパの顔の汚れを落としながらジークはため息をつく。

「……なんか不満そうだねジーク。」
「いや、今回はお前のおかげで助かったわけだし、文句など無いさ。」
「じゃあ何でため息なんてついてんだよ?」


「あまり顔に傷を作るような戦い方をするな。せっかく綺麗な顔をしているんだからな。」

 ジークはピンセットを動かしながら何気なく答えたが、言った後になって我に返る。
 ふとベスパの顔を見れば、かああ〜っと真っ赤になっているではないか。



「あ、いや、今のはその、何というかだな……。」
「も、もういいよ!!ケ、ケガも大したこと無いんだし!!」
 ベスパはがばっと立ち上がり、そそくさと立ち去ってしまう。
 ぽつんと取り残されたジークも、恥ずかしそうに頬を掻くのであった。





 一方の政樹と八兵衛の間では、1つの提案が出されていた。
 悪さを繰り返した九兵衛を反省させるため、その霊力の一部を預かって欲しいと言うのである。
「ボクは今回何もしてへんし、タダで受け取るわけには……。」
「聞けば君は修行に向かう身だとか。ならば韋駄天の力はきっと役に立つ。遠慮は無用だ。」
「しかし……。」
「悪用されるくらいならば、その力は有意義に使われた方が良い。違うかね?」
「……。」

 そこへしびれを切らした雪之丞が口を挟む。

「向こうも遠慮すんなって言ってるんだし、たまにはこういう役得があってもいいんじゃねーか先生?」
 雪之丞の言葉に決心がついたのか、政樹はようやく首を縦に振る。

「うむ、それでは頼んだぞ。」

 八兵衛は九兵衛から取り出した霊力を政樹に注ぎ込む。

「うぐ…す、すさまじいエネルギーや……これで一部とは!!」
 体中にみなぎる霊力に政樹は一瞬気を失いそうになる。

「ふむ、君はなかなかの器を持っているようだな。この力を使いこなせるよう精進する事だ。では、さらば!!」

 八兵衛は政樹に激励の言葉をかけ、その他の部下を連れて天界へと帰って行った。












「ところでよ、目的地の地獄洞って場所には一体何があるんだ?」
 それは政樹達がお茶を飲んで一息ついていたときだった。
 雪之丞の問いかけに、娑婆鬼が飲みかけていたジュースのストローを置いて語り出した。
「……オラ達鬼にも地獄洞のことはよくわからねえんだ。ただ、鬼の生誕の地だとか、この世でもっとも恐ろしい者が住んでいるという話が
 伝わっているだけだべ。」
「……。」
 政樹は何も言わずに娑婆鬼の言葉に頷いている。
 鬼道家に伝わる伝承も同じような物だったからだ。
「それに打ち克つ事ができれば、強大な力を得られると言う事や。
 もっとも、成功したものがおらん以上真相はわからんがな……。」

「へっ、ようやく鬼ヶ島らしい雰囲気になってきたじゃねーか。」
 雪之丞は楽しみでしょうがないと言った笑みを浮かべる。

「ああ…気を引き締めていくぞ……!!」


 政樹は気持ちを新たに、自分を奮い立たせるのであった。














 ところ変わって東京。





 冥子はようやく謹慎を解かれ、外出する事を許されていた。
 そんな彼女が最初に向かったのは六道女学院であった。

 冥子が職員室に現れた際、現場はテロリストが現れたかのように騒然となったが、
それを聞きつけた母が顔を出すとその騒ぎもすぐに収まった。



 2人は理事長室で向かい合っていた。
 母はいつも通り平然としていたが、冥子の表情は明るいものではなかった。

「あ、あの〜、お母様〜。」
「なんですか冥子〜。」
「えっと〜、マーくんがいないの〜。電話してもつながらないし〜、お仕事してるかと思ってここに来たけど〜
 やっぱりいないみたいだし〜。お母様は心当たりあるかと思って〜。」

 冥子の母はお茶をすすりながら昨日の政樹の言葉を思い出していた。


(冥子はんには内緒にしてもらえますか?余計な心配をかけたくないんです…)



「……さあ、心当たりはありませんね〜。」
「そう、ですか〜。」
 冥子はしょんぼりと肩を落とし、寂しそうに目を伏せる。
「……マーくんに手伝ってもらおうと思ったのに〜。」
「……。」

 何を手伝うのかは知らないが、やはり誰かを頼る姿勢は治っていないのかと冥子の母は心でため息をつく。

「冥子、あなたがいつまでもそんな風だから、政樹君はあきれていなくなったかも知れないんですよ〜?」
「そ、そんな〜!!」
 あまりのショックに冥子はさらに沈んでいく。
 そして、えぐえぐと涙を浮かべ始める始末であった。


 冥子の母は1つの決意を固めると、厳しい目つきで娘を見つめる。


「いつまでも誰かに頼っていないで、自分1人でもGSとしてやっていけるということを証明して見せなさい!!
 そうすれば政樹君もきっと戻ってくるはずです!!」


 いつになく強い口調で冥子の母は言った。


「1つ簡単な仕事を回してもらいました。この仕事は一切のフォロー無しで、冥子自身の力のみで成功させなさい〜。
 もちろん暴走などもってのほかです〜。もしできなかったときは……。」


 冥子の母は一旦言葉を途切り、ゆっくりと息を吸い込む。
 そして、抑揚を付けず、冷淡に言い放った。


「政樹君と二度と会う事を許しません。」



 もちろん自分の娘が可愛くないはずはない。
 だが、政樹が覚悟を決めて危険な場所へ赴いているというのに、冥子が何の進歩もないままでは申し訳が立たない。

 だから、娘にも試練を与える事にした。
 それが政樹に対する礼儀だと思ったからだ。








 こうして、政樹と冥子、遠く離れた2人にいよいよ試練が訪れようとしている……!!


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