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横島異説冒険奇譚

弓矢と雛


投稿者名:touka
投稿日時:05/ 5/ 6

 暴風のような一撃をメドーサはあっさりとかわす。
事実、理性など一欠けらもないのだろう。その丸太のような腕はただただ一直線にメドーサに向かって振り下ろされるだけであり、致命的な一撃を与えられるはずもなかった。
 一振り、また一振りと振り回されるその攻撃は単調なものの、流石に威力だけは凄まじく、横島もグーラーも迂闊にはその暴風雨の中に踏み込めないで居た。
「あああ・・・・・どないしよ・・・・」
「まずいよダーリン。いくらあの蛇女でもこうずっと攻撃されっぱなしじゃあ・・・・」
 グーラーが渋い顔でそう言おうとしたそのとき、今まで腕を振るだけだったベルゼブルが突如、口から魔力の塊を吐き出した。
「なっ!?」
 メドーサの言の通り、中には物凄い量の魔力が詰まっていたのだろう。
まるで先を押さえたホースから飛び出る水のように、圧力をかけられた魔力がメドーサを襲う。
「ぐぅっ!」
 咄嗟に判断が遅れたメドーサは右腕から先をその魔の奔流に飲まれてしまう。
なんとか右手の喪失は避けられたようだがそれでも、ブスブスと煙を上げほとんど炭化してしまったその腕はこの戦闘では使い物になりそうになかった。
「やばいっ!ホンマなんとかせんとっ!!」
 メドーサのピンチに思わず横島は足を動かすが、その直ぐ目の前をベルゼブルのまるで邪魔をするなと言わんばかりの一撃が通り過ぎ、走る前の位置から更に2mは後ずさる。
「ねぇダーリン。なんでそんなにあの蛇女の心配するわけ?話を聞く限りあれとは昔敵同士だったんだろ?」
 セクハラの頻度が多い相手への嫉妬か、グーラーが鋭い目線で横島へと詰め寄る。
「決まっとるだろうが!!あんなピチピチのねーちゃん見す見す死なせたら後世の(注:俺の)損失だろう!!」
「ダーリン・・・・・・・・・・感動したよ。」
 え、マジで?と言った当の本人さえ逆に聞き返したくなるような事をグーラーはうっとりとつぶやくと、くるりと振り返り、ベルゼブルを睨みつけた。
「ダーリンのその言葉感動したよ!
見ていなダーリン!!この愛欲の使徒グーラー・カーマがあんな蝿公、串刺しにしてやるよ。
ザ・ラブマシーン!」
 どこら辺に感動したのか小一時間問い詰めたいような事を言うグーラー。
 と、彼女の手に一対の弓と矢が現れる。
時代がかったその長弓は一輪の蓮の花を模している。それに番う矢も蓮の花びらを模しているようだった。
その弓を確りと握り、そして矢をつがえる。
「疾っ!!」
 鋭い呼気と共に弾き出されたその矢は一直線に義眼へと突き進む、がしかし、ベルゼブルの振るった太い腕に阻まれ浅くその場に刺さる。
 蚊に刺されたほどの痛みも感じないのか、それとも既に痛みを感じるという事すらないのか、ベルゼブルや尚もメドーサへの執拗な攻撃を止めようとはしない。
「くっ!思ったとおりだけどやっぱり威力が足りないね・・・・・まぁいいか。
ダーリンちょっとこっちきて。」
 手招きするグーラーに、何々と不用意に近づく横島。
そして突然グーラーは横島に飛び掛ると







 耳たぶを噛んだ。


「あはぁん!」
 すごい気色の悪い声と共に何故か横島の下腹部から文珠が現れる。
「ああっ!?終に俺の意思とは別のところで文珠がっ!?でも、ちょっと気持ちよかったぞーーーーーーーっ!!」
 もう一回してーーーー!とグーラーに飛び掛る横島を軽くかわすと変わりにその文珠に意味を込めさせる。
込められた文字は『破』
それを矢に叩き込むと甲高い音と共に矢が発光しだす。
それに伴い、グーラーの姿形も変容していく。
ゴキゴキと音を立てて背中が盛り上がり、二対四本の腕が新たに生える。
そして額に一筋の線が走ったかと思うとパックリと割れ、新たに一つの瞳が生まれた。
「し、四妖○拳・・・・」
腕が四本生えたからヤ○チャより上だ!とか言ってまた殴られてる横島を尻目に魔力を高めていくグーラー。
 そして、
「ボーヤたち!!一番から六番まで集合!!」
「ピピピピー!!」
 グーラーの掛け声により六羽のガルーダが彼女の元に集る。
集ったガルーダはすぐさま、文珠によっていくらか大きくなった矢の上に乗る。
先ほどのように弓を縦に構えるのではなく、横に構えガルーダたちが落ちないようにするグーラー。
「いくよ!!ザ・セックス・ピストルズ!!」
 もうなんとなくわかった横島の目の前を物凄い速度の矢が通り過ぎていく。
 先程とは比較にならないほどの速度の矢は真っ直ぐに義眼に突き刺さると思われた。
 しかし、その速度ですら補足するのか、ベルゼブルは真っ直ぐに腕を矢に向かって振り下ろす。
 今度の矢も再び叩き落されるのかと、思わず拳に力を込める横島。
 がしかし、
「ピィ!!」
 先頭に陣取っていたガルーダ1が前方に飛び出ると飛んできた矢を明後日の方向に蹴り飛ばした。
突然の方向転換に目標を失って空を切るベルゼブル。
 肝心の矢といえば、こちらも目標とは違う方向へと飛んでく。
しかし、こんどは二番目のガルーダ2がまたもや義眼の方向へと矢を蹴り飛ばす。
 それを知覚したベルゼブルが驚いたのか今度は逆の腕を振るうがまたもやガルーダ3に蹴られ空振りする。
 まるでブラジルの早いパス回しのようにベルゼブルの攻撃をかわしながら矢を進めていくガルーダたち。まさにカナリヤ軍団!!
 もはやメドーサへの攻撃すら忘れ、矢を必死に叩き落そうとするベルゼブル。
だが、そんな努力を嘲笑うかのようにとうとう矢は義眼へと突き刺さった。
「やった!!」
 喜ぶ横島。しかし、そんな横島の喜びもベルゼブルがとっさに矢を掴んだ事で糠喜びに終わる。
 低い唸り声を上げながら矢を止めたベルゼブルの瞳には確かに勝利に浸った愉悦の情が浮かんでいた。
 しかし、次の瞬間その瞳は驚愕に染め抜かれる。
掴んだ矢の矢尻の前、そこには今まで矢を蹴っていたガルーダたち六匹が勢ぞろいしていた。
 なんとなく先が読める横島。
「・・・・・もしかして・・・・・・オラオラですか?」
 静寂が一瞬支配した後、




「PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPIIIIIIIIIIIIIIIIII!!]


 YES!YES!と言わんばかりの勢いでその手羽と足とを矢尻に向かってぶち込むガルーダ。
恐怖の叫びを上げながら必死で矢を掴み抑えるベルゼブルだったが流石に多勢に無勢、ジリジリと矢が義眼に突き刺さっていく。
 刺さる速度がゆっくりということは伝わっていく痛みもゆっくりという事なのか。
ブチュリと音を立ててめり込んでいく矢先に比例して上がるベルゼブルの叫びも大きくなっていく。
 轟々と辺りの木々を震えさせるその叫びに宿るのは先程の殺気とは正反対の死への恐怖に彩られたもの。
 そして、とうとう矢先が完全に義眼の中に隠れたとき、ベルゼブルの悲鳴はぴたりと止み、小刻みに震えだした。
「まずい!!中に溜まってる魔力が暴走し始めた!このままじゃ爆発する!」
 メドーサが真っ先に状況を把握して警告する。
「なんだって!?まずい、ボーヤたち!一斉タコ殴り!!」
 グーラーの命令でガルーダ全員がベルゼブルもとへと殺到し殴り始める。
「ピピピピィーーーーッ!!」
 もはや、単なる木偶、いやサンドバックと化したベルゼブルをボコボコに殴っていくガルーダ。
そこには一切の躊躇、迷いはなく。
逆に好き勝手に殴れる対象を見つけた事に対する喜びが満ちていた。
 とどめはピッタリと息のあったシンクロナイズド・フィスト。
雛鳥とはいえインド神話最強の鳥の誉れも高いガルーダたちの渾身の一撃に弱ったベルゼブルは長い距離ぶっ飛ぶ。
「距離はとった!今のうちに逃げるよ!」
 号令で渋々戻ってきたガルーダの数を確認しながら横島のほうを振り向くグーラー。
そこには傷ついて自力では立てないメドーサに肩を貸し、いやに密着しながら逃げ支度をしている横島が。
「・・・・・・・・・・(怒)」
 なんだか非常に面白くないグーラーだったが取り合えずその事は置いといて横島たちの後を追う。
戦いの爪痕が残るその開けた場所が完全に無人になったとき、あたり一体を凄まじい轟音と魔力を帯びた暴風が襲った。
「アリーヴェ・デルチ・・・・・」
逃げるとき聞こえたグーラーの呟きを聞いた横島は、そりゃブチャ○ティだろとツッコみたくなる衝動を抑えるのに苦労した。


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