「うーん」
厄珍堂でおキヌが脂汗を流している。冷房はよく効いている。
「やっぱり高いな〜」
霊を視るのを全部心眼でやると霊力消費が激しすぎてしんどい。
ここ何ヶ月かの訓練で心眼もネクロマンサーの笛も、かなり絞り込めるようになったのだが。
それでも、同時に使用するとすぐに力を使い果たしてしまう。
最後の最後以外はやっぱり心眼を使用すべきではない。
それで、通常はやっぱり定番の霊視で視ることにしようと思い立って水晶玉を買いにきたのだ。
令子は、おキヌには結構時給をくれている上に事務所住まい、食費も出してくれているので高校生とは思えないくらいのお金はある。
それにこないだ、また小笠原オフィスの手伝い(ヒミツにしといてね!お願い!!)に行って7桁小切手をもらった。
で、令子にねだっても良いが、そこはそろそろ他人が使う可能性の低い専用アイテムは自前で買おうかと思い立ったのだ。
主装備のネクロマンサーの笛はさすがにおキヌの手におえる金額ではないし、予備を持たねばならないほど壊れやすいわけでもない。
「は〜〜〜、横島さんみたいに全部自前でできる人って、やっぱりうらやまし〜〜」
ちょっと天を仰いで、つぶやいてため息をつくおキヌ。
文珠に、サイキックソーサー、ハンドオブグローリー、式神のルシオラ。格闘から空中戦まで、なんでもござれである。
寝ている間にもルシオラを動かせるので、いざになったら文字通り24時間戦えます!ってかんじである。
しかも霊力補充は令子の隠し撮り写真or盗んだ下着+妄想でOK!というリーズナブルさ。
ちなみに令子のはともかく大人な写真集、大人なビデオのたぐいはなぜか横島がみる時に限って、
顔だけは全部同じ(黒髪ボブカット、少しタレ目)になるのが不思議なところだ。
「美神さんも近頃、横島さんが居ない時はしょっちゅうぼやいてますよね〜。なんでアイツにばっかり、富の偏在だわって」
事務所の中では令子が最も消耗品を食う。破魔札や精霊石なんかで億単位の金はすぐ飛んでしまう。
神通棍もけっこう痛む。しかも大出力の令子の霊波に耐えれる神通棍は特注に近いのだ。
しかも令子は発射攻撃ができないので敵にギリギリまで接近しなくてはいけない。
ま、その代わり近接戦では事務所はおろか世界的にも最強の攻撃力、守備力を誇るのだが。
このへんはおキヌも同じ。霊限定なら、横島はおろか令子を遙かに凌駕する攻撃?力がある。
令子と違い射程も結構ある。守備力は・・・・・皆無。
隣の花壇の花は赤いもんですって。
閑話休題
「おキヌちゃん、さっきからなに迷ってるアルか。その辺の水晶玉はいつも買ってもらってる神通棍やお札なんかより安いアル。
令子ちゃんとこで買うなら迷うような金額じゃないアル」
迷ってるおキヌに店の主人、厄珍が声を掛ける。
「今日は美神さんのお使いじゃないんです」自分の目的を説明する。
「おキヌちゃんも自分のアイテム欲しくなったアルか。プロの霊能者として始めの一歩アルな」
微妙におだてて将来の顧客開拓をする厄珍。
そこに
「ちーっす」ルシオラを胸ポケットに入れた横島が入ってくる。
「あんなボウズみたいなのが増えたら商売あがったりアル」
横島をみて厄珍がぼやく。戦闘力だけなら一流と言ってもいいGSのくせにアイテム、特に値の張る装備アイテムはほとんど使わない。
「美神さんの注文したヤツ受け取りに来たんだけど」
「令子ちゃんは相変わらずええケツしとるか?」
おキヌにはまず言わない言葉をもらしながら紙袋を取り出す。
「あいかわらずやな〜。オッサンは他人て感じせんな〜」
紙袋に入ったアイテム類を受け取りながら答える横島。今日はこんだけで5億。
やっとびびらずに事務所まで持ち帰れるようになった。
そこで店の奥にいるおキヌに気づき、
「あ、おキヌちゃんも?2重になったちゃったのか?」
「あー、おキヌちゃんは自分用の水晶玉買いにきたアルよ。高いので迷ってるようアル。
ボウズ高給取りになったて風の噂できいたアル。日頃の世話になってるお礼に買ってやったらどうアルか?」
すかさず営業活動をする厄珍。
「この水晶玉、中距離までの霊視しかできないぶん安いアル。霊力消費も低いし一番のお勧めアルな」
「こっちのは中古で傷ついてるけど、使う分には問題ないアル」
「これは色付いて見にくいけど、かなり広範囲が見えるアル。二番目のお勧めアルな」
などとまるで買うことが決まってるかのように説明してゆく。
「ね、ヨコシマ。買ってあげたら?私からもお願いするわ。前、身体貸してもらったし」
ルシオラが胸ポケットから出てきて水晶玉のショーウインドウの上に立って横島を見上げて頼む。
「ヨコシマも結構世話になってるでしょ」
「噂のルシオラちゃんアルか。美人アルな」
厄珍がグラサン顔を近づけてしげしげと見ながら言う。
「ありがと。おっきかったらもっと良かったって思ってるでしょ」
そのあとおキヌと2人であれが良いかしらとか、私の貯金ではちょっとムリですよとか、
ヨコシマが半分出せば何とかとか言い始める。
それを見て厄珍が「ボウズ、ボウズ」と横島を手招きする。
店の片隅に引き寄せて膝寄せてよこしまな密談。
(ルシオラちゃんのブロマイドないアルか。あったら2割引くアル)
(てめ、ルシオラをなんだと思ってやがる。美神さんの風呂上がりじゃダメか?)
(それはこないだもらたアル)(最大譲歩して服着てるのなら)
(せめてセミヌード無いアルか)(俺も2度しか拝んだことないもんがあるわけねー!!)
頭上からクーラーが暴走したかのような冷た〜い殺気!!!が降ってくる。
そ〜〜ぅっと上を向く2人。
「2人とも聞こえてるわよ。ヨコシマ、あったら渡すつもり?」
「いつもそんなことやってるんですか?美神さんに言いつけちゃいますよ」
いつの間にかルシオラとおキヌが上から睨んでいる。
「い、イヤそういうわけでは。おキヌちゃんの欲しい水晶玉はどれ?」
「こ、これを勧めるアル。おおまけで1割引アル」
強引に話題を元に戻す厄珍と横島。
厄珍はお勧め1番の“霊視専用近〜中距離水晶玉”を取り出して、おキヌに試用を勧める。
比較的小さくて軽いので、戦闘時は紐をつけて胸に下げれるのがよい。まん丸ではなくてレンズ状。
ヒャクメが使ってる“虫眼鏡”タイプ水晶玉だ(柄はない)。
おキヌが説明書を見ながら操作する。
「ええと、〔霊視による探索は利き手の平など、霊波を集中、操作しやすい部位に乗せて念を込める〕」
10cm程のレンズがおキヌの右手の上でくるくると回り出す。回るたびにクローバーリーフ探索パターンで扇状に霊視波が出る。
半径2km程の範囲の霊圧のあるもの、つまり生き物や浮遊霊などに反射してその霊視波が返ってくる。
「あ、あの人、自縛しかかってるんじゃないかしら? 探索から注視に切り替えるには、どうするのかしら。
ええと、〔操作者の大きな霊脈中心近辺に持ってゆき、対象に意識を集中する〕か。
ようするに、胸や額なんかのチャクラのあるところに持ってこいってことですね」
額のチャクラは心眼が占めてるので使えない。紐にワンタッチで装着し、水晶玉が心臓近辺に来るように位置を調節して意識集中する。
扇が閉じるように霊視波が絞られ、注視した霊の近辺を細かく走査しはじめる。
へこんだガードレールそばに、やはり自縛しかけの交通事故死霊。
笛は持ってなかったけどおキヌちゃん話しかけて説得してます。霊視しているので霊の気持ちがちゃんと伝わってきます。
30分ほど慰めて訳を聞くと、身寄りが無かったので、だれも拝みに来てくれないとのこと。
4人で拝んで、シキミと白輪菊&高級線香(花は厄珍堂にないので横島が買いに行った)を供えると、
おキヌちゃんのお祓いと共に成仏してゆきました。
「来世はきっといろんな良いことがありますよ」途中まで幽体離脱し、手を振って見送るおキヌ。
しばらく後に戻ってきて、
「心眼で探すと元気が残らないんですよね。
霊視だと霊力余裕があるから、笛無しでもひとりくらいならなんとか安らいでもらえますね」
「ううっ。わかってたけどやっぱりおキヌちゃんはええこやなぁ」とは横島である。
ルシオラと厄珍もしみじみしている。
セミ時雨の中、一陣のさわやかな涼風が4人の間をぬけてゆく。
ああ、そういえばもうすぐお盆アルなぁ。
あと試してみたら心眼とも相性が良かったのでこれにした。
おキヌの貯金ではかなり足らなかったので、横島が足した。
おキヌちゃんのハンコ(+ルシオラの通帳)で振り込みに行ったのがなんだかなーやけど。
「毎度アリ!」
振り込み証と引き替えにモノを渡す厄珍。
「横島さん、ルシオラさんありがとうございます!! さっそく今日の練習から使ってみますね」
うれしそうに言うおキヌ。プレゼントした甲斐がある。
「美神さ〜ん。また使用済み吸印札もらいますね」
といってゴーストハザードマーク(丸どくろ3つ)の付いた衣装箱くらいの箱を持ち出す
「怪我しないように気をつけるのよ?」
事務所裏庭、建物日陰の2重の対霊結界中で、吸印札から解放する。
横島なら破るとこだがおキヌは丁寧に封印解除。あとで念を込め直せば再使用できる。だから令子もご機嫌♪。
封印を解かれたとたん「ぐをぉぉぉっ!!! GSはどこだ〜〜〜!!!」とばかりに、結界中の巫女姿のおキヌに襲いかかるが、
笛の音が聞こえたとたんにおとなしくなり、成仏してゆく。
その光景を横島(+ルシオラ)はポテチを、シロはホネを囓りながら体育座りで見物している。
「早いな〜20秒かかってないな〜」「気持ちよさそうな悪霊がうらやましいでござる」
「ああなると悪霊とはいえないわね」
何回かそれを繰り返した後、おキヌは結界から外に出て目隠しをする。
「どうですか〜、笛の霊波漏れてます?」
「どっから見ても、私には全然みえないわ」
「やっぱり霊の後ろでは少し感じるでござるよ」
「もう少し絞らなきゃダメってことかしら。だいぶ絞ったんだけどな〜〜」
「でも、普通こんな弱い霊波感じてもなにも思わないでござるよ」
横島は全く会話に参加できない。
ルシオラに結界の中に悪霊を10体ほど放してもらい、
まず心眼で視てロックオン。その後、心眼は最低限に絞り、笛はできうるかぎり最強、しかし、悪霊に絞り込む。
「すげっ」「一瞬でござる!」
不浄霊から傷ついた魂を癒され、仏になって次々と天に召されてゆく霊達。
なかには深々とおキヌを拝んでから成仏する霊も居る。
おキヌが目隠しをはずして見物人たちに近寄ってくる。
「ちょっとつかれたから休憩しますね」「ハイ、おキヌちゃん。ヤモリとジュース」
六道霊能食品(株)のヤモリの黒焼きスティック。“効能そのまま、味は抜群!人前で食べても大丈夫!”のキャッチコピー。
六女で大流行のスナック菓子だ。キムチ味、醤油味、ガーリック味、カレー味がある。
これは醤油味。箱のヤモリの絵もデフォルメされてかわいらしい。値段は普通のスティック菓子の50倍だが。
商品名“ゲッキー”、1本で約1匹分。
「おキヌちゃん、1人で心眼とネクロマンサーの笛を同時に使用できるようになったんだ」
横島が口笛ふかんばかりの顔で言う。双方どれだけ操りにくいか。
「1回限り、失敗したら後がないですけどね」
照れ顔でおキヌがゲッキーをくわえながら答える。
30分ほど休憩した。再び10体ほどの悪霊を結界の中にはなす。
「今度は霊視でやってみます」目隠しをしたおキヌが言う。
水晶玉から霊視波が出、悪霊に当たって光る。
同じように10体を成仏させた後、連続でもう20体成仏させる。
疲れが残ってるのか、霊視では霊の気持ちがわかりにくいのか心眼の時よりは時間がかかる。
でも、天へ召されてゆく霊達の心を洗われたような安らいだ表情がなんともいえない。
動物霊も子犬や子猫のようなかわいらしい姿で天に召されてゆく。
ああ、あの犬、三途の川の船頭さんの顔舐めてるよ・・・・。
幽体離脱しての見送りから帰ってきたおキヌ菩薩が
「やっぱり楽ですね〜」ニコニコしながら目隠しをはずしながら言う。
「これなら、たくさんの人(霊)たちを楽にできますね」
この分なら、あの吸印札、今日中に全部成仏させれるわ。
横島さんに買ってもらって良かった。
ルシオラとシロが手を合わせて拝んでいる。
「それにしても、いつみても悪霊が幸せそうに成仏していくわね」
いつの間にかタマモも見物している。
実は、成仏間際の悪霊のシアワセそうな顔がここのところの美神事務所の心のオアシスになってたりしているのだ。
で、おキヌの訓練に付き合うと称して見物しているのだ。
「精が出るわね〜おキヌちゃん」
令子も書類仕事が終わって顔を出す。いや実はとっくに終わって窓からみてたんだが照れくさかったのだ。
「アンタらも観てるだけじゃなくって、たまには訓練しなさいよ!」
横島とシロタマの方をみて、渋面を作る。
「ふうん、これが新しく買った水晶玉ね。使いやすそうじゃない。厄珍もおキヌちゃん相手だとサービスするわね」
「最初に自分で買ったアイテムは結構思い出に残るものよ。で、やっぱりおキヌちゃんGS試験受けるの?」
ちょっと心配そうに言う令子。
「ええ、美神さんや横島さんみたいに立派なGSになりたいんです!」きっぱり言い切る。
「GSって、知ってると思うけど悪霊だけじゃなくって、妖怪や悪魔なんかとも殴り合うのよ?
霊免二級もってるネクロマンサーがそんなことする必要ないのよ?」
最後の説得って感じでいう令子。
「でも、心霊物取り扱い資格(通称、霊免)では一級甲種もってても、霊団やB級以上の幽霊屋敷は扱えないじゃないですか。
ああいうところにおられるひとたちが一番かわいそうなんです。
そういうひとこそ安らかに成仏させてあげなきゃ」
コブシを握って力説するおキヌ。
霊免は僧侶、神主など、霊障を起こさないようにする仕事に従事する人物が取得すべきもの。
霊能もさることながら、知識と性格も重視の資格だ。
調べもせずに霊を地脈から切り離して日給30円で使い、あげくのはてに妖怪復活させるような性格ではとれない。
同じ心霊物取り扱いでも霊障を力で排除する、心霊障害駆逐作業資格(通称、GS資格)とは性格が180度異なる。
GS資格試験は、多彩な心霊障害と臨機応変にわたりあうための戦闘力と運重視の、受験生同士のトーナメント試合形式の試験。
そして、独立資格である「営業免許」は100鬼退治かつ、連帯責任者の推薦が必要など取得に制限が多い。
特殊能力に特化した能力者は汎用的な戦闘力のあるGSに保護されながら作業するほうがよい。
GSは華やかな外見はともかく、実態は対心霊傭兵と言っても良いやくざな商売だ。
六道、美神、小笠原のような名の知れたGSなら、広域暴力団の地獄組や極悪会のほうが三舎を避ける。
閑話休題
「しゃあないわね〜。でも、どうやって実技試験受かるつもり? おキヌちゃん、対人・対妖怪戦闘ほとんどできないでしょう?」
ひたいに手を当て、天を仰いで言う令子。
「うぅ」とたんに言いよどむ。C−クラス、300万円報酬のハロウイン妖怪程度でもキツイです〜。
「おキヌちゃんは、死霊操って敵にぶつけるなんてネクロマンサーが普通やるような戦闘したくてなるんじゃないでしょう?」
「あぅ・・・・。今から神通棍の使い方勉強します!!!」
「あのねぇ。はぁぁ〜。それに今度のGS試験は、タイガーや雪之丞もでるのよ?」
「えっ、雪之丞が?」横で聞いていた横島が驚く。「アイツがナンで? 持ってるはず。あっそうか」
前のGS試験ではメドーサの手先だったので取れてないのだ。で、晴れて無罪になり再受験。
「そういうこと。妙神山最難関修行終えて、魔族と何度もやり合ったことのある受験生なんて前代未聞だけどね。
それで上の方ちょっともめてるらしいわ。いくら法律上はそうかもしれないけどってわけで」
「それはともかくとして、おキヌちゃん、神通棍てねぇ」
こめかみを押さえる。
「たしかにおキヌちゃんが神通棍振り回してるすがったって想像できないッスね」
横島もウンウンと納得している。
「そういう問題じゃないの! 横島クン、おキヌちゃんのために丸太になりなさい!!!」
言うと同時に0.5秒で横島を呪縛ロープで縛り上げて最寄りの杭に引きずっていってつなぐ。
「いきなりなにするんスか〜〜〜〜!!!!」
じたばたとあがきながら泣きわめいて抗議。
「おキヌちゃん、横島クンをこの神通棍でおもっきりしばくの!!」
神通棍をおキヌに突きつけた後、横島をビシッとさして指示する。
「美神さんならともかくおキヌちゃんにしばかれたら生きてけないっす〜〜〜〜」
「よ、横島さん殴る理由が無いんですけど・・・・」
それぞれの理由で弱々しく抗議する2人。
「おキヌちゃんがしばかないんなら、私がしばいて、時給255円に戻すわよ!!!」
自分の神通棍を出して念を込める。神通棍がぐにゃりと禍々しく変形。悪霊・妖怪はおろか魔族をも極楽へ導いてきた鞭。
「・・・・おキヌちゃん、私もヨコシマ殴ってみることお勧めするわ」
それを見ていたルシオラがもうちょっとよい方法は無いの? 美神さんって顔でしぶしぶ賛成する。
「ルシオラまでなんてこというんや〜〜〜」
「ヨコシマを殴れないなら私でもいいわよ。美神さんそうでしょう?」
「さすがね」
令子が頷く。やっぱりルシオラはわかってるわ。あのバカと違って頼もしいわね。
それを聞いて決心したおキヌが神通棍をにぎる。念を込めると、結構強いおキヌの念を受け、ジャキッ!と伸びて輝き始める。
「ひぃ〜〜〜、やめて〜〜〜〜〜!!!」
あんなので、しかもおキヌちゃんにしばかれたら再起不能や〜〜!!
「横島さん、ゴメンなさい!!! 美神さんよりはずーっとずーっと弱いから大丈夫ですよね!!!」
目をつぶって、しかし両手で握って、おもっきり振り下ろす。
ぺきょ!!「あれ、あんまり痛くないぞ。おキヌちゃん手加減してくれたの?」
「おもっきりやったのに!!!なんで?なんで!!!」
と我を忘れて横島を連続でしばくおキヌ。
びし、ばし、びし、びし、びし〜〜〜!!!
「おキヌちゃんやめて、痛くはない、痛いどころかなんとなく気持ちイイけどやめてくれ〜〜〜」
横島、情けない声で、聞きようによっては危ない台詞で哀願して逃げ回る。
紐でつながれてるので回るだけなんだが。
「あー、おキヌちゃんもうわかったでしょ。おキヌちゃんには攻撃的な霊波がほとんど出せないのよ。
申し訳ないじゃなくって、殴ってやる!!なんて強くは思えないでしょ。いまの下手したらヒーリングになってるわよ」
我に返ったおキヌが無駄にヒーリングし、シロとルシオラが呪縛ロープをほどいてくのを見ながら、再度説得にかかる令子。
ころころころ・・・・
「突然ごめんね。人工幽霊一号にこっちだと聞いたもんだから」
令子が再度説得にかかってるところに、
火気厳禁のお札を貼ったベビーカーにひのめを乗せ、日傘を差した美智恵が裏庭にはいってくる。
「あら〜? 練習? 昼間から精が出るわね」
呪縛ロープやら結界やら空の吸印札やらを見て言う。
「あ、ママも説得してくれない? おキヌちゃんが今度のGS試験受けるって聞かないのよ」
ちょうど良いところにとばかりに、母に経緯を説明する。
「ふぅーん。おキヌちゃん、私にも見せてくれない? あっ、神通棍じゃなくって悪霊の除霊の方」
神通棍を手に取ろうとしたおキヌを見て、逃げ腰になる横島に苦笑しながら言う。
悪霊瞬間成仏を再び披露するおキヌ。
初めて観る美智恵は、ほけっとして言葉がない。
「ね、ママ、こんなすごいネクロマンサーが命のやりとりするGSになることないと思わない?」
令子が何とか説得して、といわんばかりに母に目線ですがる。
「すごいじゃない。おキヌちゃん。ぜひGS免許取って!!!」
「そうでしょ? それに、おキヌちゃん死霊以外に対する戦闘力皆無に近いし・・・・って、え、ママ?」
予想外の答えを返されちょっとほうける令子。
「感激したわ〜! この歳でこんなに速くこんなに安らかに成仏させれるなんて!!
私にやり方教えてさせて。これだけ霊波のコントロールできてたらGS試験突破するぐらいの戦闘力なんてすぐよ。
戦闘なんて霊波の流れを読んで、自分の得意な部分で攻撃する方法論を見つければいいだけなんだから」
おキヌの肩をつかんで目を輝かせていいつのる。
「え、本当ですか? ありがとうございます」
手を合わせて、目を輝かせるおキヌ。
「試験場で令子叩きのめしてあげなさい。こんだけの力みてGS試験受からせる指導ができない未熟者なんか敵じゃないわ」
令子の方をみて挑発的に笑う。
「ちょっと。ママ。指導できないなんて言ってないでしょ。それになんで私が試験場で戦わなきゃならないのよ?」
未熟者、と、みんなの前で言われて、とがった睫毛を逆立てて聞きかえす。
「小耳に挟んだんだけどね。もうすぐGS協会から正式に依頼が来ると思うわ」
令子から流れてくる霊圧を柳に風とばかりに受け流して答える美智恵。
「雪之丞君の1,2回戦の相手としてよ。彼の場合、普通の受験生、相手にならないから。
だから、資格取得関係無しで令子と横島クンに戦ってもらうの。
ついでにその後、受験生と混ざってトーナメントでハンデ戦をやってもらて、
受験生に現役最高ランクのGSの戦い方を身体で知ってもらうことに決まったらしいの。
雪之丞くんも3回戦以降はハンデを背負ってもらうわけ」
伝い歩きでベビーカーから抜け出して、足下にまとわりつくひのめを抱き上げながら説明する。
「ちょっとそれおかしいわよ。それなら雪之丞に始めからハンデ戦させればいいじゃない。勝敗関係ないんだし」
令子がすぐ指摘する。
「ま、名目だからね。ホントの目的は令子と横島クンの戦闘をみんな見たいのよ。ルシオラさんの能力もコミでね」
抱き上げたひのめの土埃をはたき落としてから、火気厳禁札を貼り直しながら答える。
「なんで、私がそんな見せもんにならなきゃならないのよ!! 絶対断るわ!!!」
母を睨んで激昂する。
「横島!逃げるな!あんたも関係あるでしょ!!」
横島、とばっちりを受けないように逃げかけるが失敗。首根っこを左手で捕まえられる。
シロタマはもはや人工幽霊一号の陰に隠れて首だけ出している。
美智恵は平然として続ける。
「でね、そういうだろうから、見物人から入場料取って、優勝者に2/3贈呈することにしたらしいの。
受験生ならお祝い金、令子や横島クンなら報酬てことで。
内々に市場調査したらね、3万円で1万人分程はチケットが売れそうよ。
令子、良かったわね。人気アイドルかそれ以上よ。どうする?」
「やる」
目を輝かせて令子即答。
ヒヨッコ相手に私か横島クンが優勝したら2億円♪ 雪之丞は何とでもなるし濡れ手に粟だわ!!!
もはや目が逝ってしまって、周りは見えていない。
「横島クン!勝ちにいくわよ!!!後輩の指導も大事よね!!ほほほほっ!!」
横島は、興奮した令子に左手で絞められて泡を吹いている。
「美智恵さん。計画したのあなたね・・・」
しら〜〜ッとした顔で横島の胸ポケットから上半身を出したルシオラが指摘する。
ヨコシマに怪我させないようにしなきゃね。勝敗なんてどうでもいいけど。
「あ〜ら、違うわ。でも私も見てみたいから、ちょっとだけ知恵貸したわ。
あ、ルシオラさん、横島クンvs令子も模範試合としてやるそうよ」
なにげないふうを装って重要なことを付け加える。
「おもっきりやらせてもらうわ」
衆人環視のもとで叩きのめして美神さんじゃなく、私の方がヨコシマのパートナーだと言うことを証明してあげるわッ!!
内心ぐっと拳を握りしめてやる気満々のルシオラ。
「ああっ、また俺の意志は関係なし?」
美神さんにしばかれたうえに、雪之丞にぼこられるのか〜!!!下手するとおキヌちゃんにまで??イやだァーッ!!!
やる前から完全に逃げ腰の横島。
「お金がからんで本気になった美神さんと戦うなんて〜〜。確かぎぶあっぷは認められなかったですよね〜」
なんでこうなるんでしょう〜? 美神さんに狙われた妖怪か自縛霊の気分です〜〜。と涙目のおキヌ。
「犬と狐の形態ならタダで見れるかしらね? シロ」
「狼でござる!! でも良い考えでござるな。先生の活躍を間近で見れるでござるな」
「横島かおキヌちゃんに頼んで鞄にでも入って行けばいいわね」
お気楽なシロタマ。
とある山中の道場。
「ふふふ、あとひと月、いや、27日で!!!」
どどどどーーーーちゅどーん!!!←連続霊波砲の音「わーはっはっはっ! おもっきり戦えるぞ!! へぶ?」
「ちょっと、雪之丞!手加減しなさいよ。道場が壊れちゃうわ!!!」
「そっちこそ手加減しろ!!!いきなり水晶観音のフルパワー顔面に食わせやがって!!」
「そのぐらいで、どうこうなるあなたじゃないでしょう? ああっお姉様、立派になった私の姿をお見せしますわ!!」
ちょっと逝っちゃってるカップルがひと組。
とあるGSオフィス。
「タイガー、こんだけ私を付き合わせて特訓したんだから、今度すべったら呪いのニエにするワケ!」
「まかしてつかあさい!(魔理しゃんのためにも)今度は優勝ジャー!!!」
珍しく大言壮語する虎男。
「でも、本質は変わったわけではないから気をつけるワケ」
ちょっと親心を見せるエミ。
to be continued
ヤモリの黒焼きスティックの六女生徒がうまい棒代わりに囓っている所には笑わせられました。
ただ、文章表現では所々気になった部分がありました。
>「ふうん、これが新しく買った水晶玉ね。使いやすそうじゃない。厄珍もおキヌちゃん相手だとサービスするわね」
>「最初に自分で買ったアイテムは結構思い出に残るものよ。で、やっぱりおキヌちゃんGS試験受けるの?」
>ちょっと心配そうに言う令子。
これは両方とも令子のセリフだと思うのですが、
同じ人物の2つのセリフに間があいている場合は、
地の文でなんらかの補完をしたほうが状況が分かりやすくなると思います。
例えば、
「ふうん、これが新しく買った水晶玉ね。使いやすそうじゃない。厄珍もおキヌちゃん相手だとサービスするわね」
そう言うと令子は少し懐かしげな顔をしながら尋ねた。
「最初に自分で買ったアイテムは結構思い出に残るものよ。で、やっぱりおキヌちゃんGS試験受けるの?」
また、もし上のセリフと下のセリフを喋ったのが別人だったのならば、
言葉使いだけでは区別ができないので、誰が言ったのかを明らかにした方が良いと感じました。
>「・・・・・・・こんだけの力みてGS試験受からせる指導ができない未熟者なんか敵じゃないわ」
このセリフなのですが、なんだか美智恵が勢い込みすぎて喋っているせいか、少し口調に違和感を覚えました。 (ゼロ)
丁寧なご指摘ありがとうございます。
相変わらずミス多いです。スミマセンm(_ _)m。
まずこの部分ですが、
>「ふうん、これが新しく買った水晶玉ね。使いやすそうじゃない。厄珍もおキヌちゃん相手だとサービスするわね」
【横島にいくら補助したのか聞いた令子は、おキヌが持ってるはずのお金と足しても安いので感心したようにつぶやく。エミの所でのバイトがばれたかとおキヌは冷や汗を流す。令子は厄珍がえらく値引いたと思ったようで、特に気にした風でもなく・・・・】
>「最初に自分で買ったアイテムは結構思い出に残るものよ。で、やっぱりおキヌ
この間は【】の中のような意味の文が入ってたの抜いたの後の修復ミスですね・・・。全く気が付いてませんでした。冗長&流れ上不要、かつうまく表現できないので抜いたんです。
抜いた後の、スペースと間の「」を取るのを忘れてました。
おっしゃるようなつなぎ文は見事です。なかなか私は思いつきません。
参考にさせて頂きます。
>「・・・・・・・こんだけの力みてGS試験受からせる指導ができない未熟者なんか敵じゃないわ」
う〜んやはり不自然ですか。この辺からもはや美智恵の挑発が始まってるので、冷静に挑発する台詞が難しくて・・・
もっと練らないといけませんね。
(ETG)