椎名作品二次創作小説投稿広場


復活

おキヌちゃん決意!!


投稿者名:ETG
投稿日時:05/ 4/30

今日の仕事の説明をする令子とそれを聞く一同。おキヌは特に真剣な表情で聞いている。

今回の対象は自殺した霊が悪霊となって自縛しているようだ。

「この通り、通常説得は不可能。所有者の六菱地所からは超特急でって言われてるのよ。
 明後日にも引っ越し工事が始まるらしいわ。
 それまでに噂にもならないような形で除霊しろってのが条件ね。
 いままでほっといたわけではなくってビルが空だってもんで、一週間程前に入り込んで自殺したヤツが居てね。
 一昨日、引き渡し工事前に物件チェックした時に、死体共々発見されたって訳。ホントーに、はた迷惑なヤツよね」

ぽんぽんと書類をはじきながら説明してゆく。表情も哀れな自殺者への同情は全く無し。
むしろ突然不動産価値が下がりかねない、六菱地所に対する同情が言葉からも現れている。


六菱地所は警察にも手を回すか、死体そのものを処分して自殺そのものを無かったことにしてしまおうとでも思っているのだろう。
その辺の禁忌感の無さも美神除霊事務所は有名だ。

事務所のメンバーも令子や横島はもちろん、最も常識派にみえるおキヌもこういった辺りの法律遵守概念は意外と薄い。
自縛している悪霊に対する深い同情はあっても、命の根元たる魂が抜け、もはやモノに過ぎない死体は2の次3の次なのだ。

『あんまり良くないけど、美神さんだから仕方がないですよね』で終わる程度。
シロなどは規律違反が嫌いなのだが、上3人が気にしないのでその辺が規律違反であることに実は気が付いていなかったりする。
タマモあたりは「あっそう」でおわらせそうだ。


閑話休題
「予想難易度C+、除霊そのものはここの誰でも1人でできる程度だけど、
 条件が条件だけに全員で行って、静かにサクッと終わらせるわよ」

ここで書類を皆に回して確認させ、その間に念を押す令子。

「とにかく周りにばれないように、静かにサクッと除霊しちゃうのが重要なのよ。
 それができないと違約で事実上ただ働きになっちゃうからね」


こういう「周りにばれないように」依頼は結構多い。ってかこれができるGSが儲かるのだ。

儲かるシュチエーションはこの手の“急ぎ”や“こっそり”等の条件付きケースと、
除霊難易度が高くて並のGSでは対処できない時のふた通りだ。
美神除霊事務所は双方できるからボロもうけが可能なのだ。どっちもできないスイーパーは結構もうけが低い上に収入が不安定だ。

資本主義の世の中、しかも不況下、他人にでけることではもうかりまへん。でなきゃみんなGSになるし、企業化されてるわな。




それから具体的な作戦を皆に説明し終わると、横島とルシオラに命令する。
「じゃ、作戦通り横島クンとルシオラはおキヌちゃんつれて先行するのよ」

「私はシロとタマモを連れて車で行くから。簡単そうに見えても私がつくまで手は出しちゃダメよ」

「了解したわ」ごくん。ごくん。ぶーーーん。


ルシオラは横島とおキヌを呑み込んで現場へ静かに飛んでゆく。

静まりかえった深夜のビル街。ほとんどがオフィス。どのビルも不審者よけに電灯がついている。
時計の長針はとっくの昔に次の日に入ってから2〜3周しており、ほとんど人はいない。
中には残業中なのだろう、窓の中の所々に人影が動き、全くの無人ではない。

くだんのビルは1階の窓と出入り口はシャッターが下ろされ、2〜24階の窓は暗く、明るい周りのビルの中で沈み込んでいる。
なるほど、不況の中これだけのビルを丸ごと使おうとは、借りるのか買うのかは知らないが豪儀なクライアントだ。
過去の霊的不良などうわさだけでも嫌うだろう。


数分後、三人は現場よりちょっと離れたビルの陰になっている駐車場で、ルシオラから出る。
その後、ルシオラの幻術で姿を写真で見たビルの管理人の姿に変えてビルの一階に入る。

1階ロビーにたどり着くと三人は立ち止まり幻術解除。ルシオラは2人の目の位置で浮遊。
ロビーには六菱地所により、騒霊用の簡易遮音結界が張られている。とりあえずビルから音を出さないための処置だ。
おかげで話すに不自由はしない。

「じゃ、おキヌちゃんたのむわ」
「ええ」
おキヌ心眼発動。額に縦に大きな目が開く。ビルをくまなくなめるように偵察してゆく。

ルシオラはゆっくりとあたりを飛び回りながら警戒。そして、横島はおキヌに手をかざして霊力補充。
これで、横島は霊力消耗により戦闘力喪失、ルシオラのみが戦力だ。もしくは式神ルシオラを引っ込めて横島が戦うかだ。

心眼は遠距離も近距離隠蔽物も見え、しかも霊視と違い霊波を発しないので相手にばれにくく便利。
しかし、めちゃくちゃ霊力消費が激しい。全力である程度長時間使うとなると人間では2人がかりでないと動かせない。
南極でもカオスが霊力を補充してくれていたし、高速で動き回るパピリオをとらえていただけなので全力ではなかった。

こんなのを127も同時に動かすヒャクメはやはり神様なのだ。

あたりに気が付かれないように“静かにサクッと除霊”でなければ偵察なしで一気に三人で乗り込んだ方が間違いなく効率がよい。
しかし、その場合相当どたばたして間違いなく近隣住民に知られてしまう。


10分ほど経ったところでおキヌが口を開く。
「居ました。5Fでロビーを中心に動き回ってますね。自殺死体もそこにあります。まだ他の浮遊霊を引きつけたりはしてないですね」

ビル全部の偵察が終わり、ターゲットをロックするのに必要最低限の力で心眼を発動しておキヌが言う。
心眼は糸のように細くなっている。

このシュチエーションでは、横島本体よりもおキヌの方が戦闘効率がよいので、横島はおキヌへの霊力補充を止めない。
この補充により、おキヌは若干、戦力を取り戻す。

ネクロマンサーの笛と心眼を同時に使えれば、除霊終了だが、それほどの霊力はおキヌ+横島のコンビではない。
それは、令子とシロタマが来てからの話だ。今は、上の悪霊に気が付かれないように見張ってるのが仕事だ。

悪霊はうろうろし、偶に机などを壊したり、ぶつぶつとつぶやいたりしているが、5Fから動く気配はない。
もはや何を言っているのかはわからない。言葉としても、思考精神波としても意味をなさなくなっている。


ぶろろろろ〜〜〜。令子とシロタマが近くまで来たようだ。
「ヨコシマ、幻術つかうからおキヌちゃんへの霊力補充を念のために止めて」「へーい」

霊力をぎりぎりまでおキヌへ補充したまま、幻術を使って、万が一式神としてのルシオラが暴走でもすれば洒落にならない。

ルシオラが一時的に蛍の姿でビルの外へ出、令子、シロタマを別のビル管理人の姿へ変えてビルの一階へ入れる。
タマモの幻術は精神を操るため機械類はごまかせない。
どこかの監視カメラ等に偶然写ることなど考えると光そのものを操るルシオラがやらざるを得ない。


令子が来るなりおキヌに聞く。ビル管理人の姿はビルに入った時点で解けている。

「どう、ターゲットの様子は?」
「依頼書通りですね」額の心眼を半眼にしてターゲットをロックしたまま令子に説明するおキヌ。

しばらく説明を聞いた令子が口を開く。

「問題なさそうね。じゃ、予定通りおキヌちゃんに霊力補充して祓っちゃうわよ。
 ルシオラとタマモはビルの外へ出て、万が一悪霊が外に出た時に祓っちゃって。
 その時、ルシオラは幻術で周りになるべく見えないようにして。ま、自縛してるからまず無いと思うけど」

2人がうなずいて、ルシオラは蛍に、タマモは蛾に化けて換気口から外へ出て行く。

「横島クン、文珠以外の戦力はもはやないでしょ。文珠は何個出せる?」
「サイキックソーサーですらあやしいッスね。文珠は5個って感じかなと」

令子は自分は吸印札数枚を袖口のお札入れに入れ、神通棍を手にして指示する。
神通棍は念を込めない。念を込めると僅かながら光るからだ。

「念のために2個出して「護」にしておいて。たぶん使うことはないわ。シロも襲われるまでは霊波刀を出しちゃダメよ」
「了解ッス」「わかり申した」

シロ、令子が前衛、横島が最後尾でおキヌを中心に円陣を組み4Fに階段で上がってゆく。
もちろんおキヌは悪霊へのロックをはずさない。
ルシオラが横島からの情報でみなに霊波迷彩を施している。まず、霊波は感知されないであろう。

4F到着。5Fにいる霊の真下に移動する。そこでおキヌに両手をかざし令子、シロ霊力補充。横島は文珠を構えて警戒。

抜群に高い令子の霊力を浴びておキヌがみるみる霊力を回復させる。いや自力での最大値よりはるかに高くなっている。
シロもそこそこ霊力を渡せている。


心眼全開。今まで意味をなさなかった悪霊の心理が理解できる形でおキヌの心の中に流れ込んでくる。

おキヌが、すう と息を吸い込みネクロマンサーの笛に口を付ける。

妙なる調べが床を通して自縛した悪霊を包んでゆく。

おキヌは心眼で悪霊の気持ちを見ながら、ネクロマンサーの笛の音を通して
その凍てついた心を融かしてゆく。

死に至る経過に同情し、慰める。新しい可能性に希望を持って転生するよう・・・・

最初は驚いた悪霊だがすぐにその表情が穏やかになり、髑髏がむきだしだった顔がだんだん人間のそれに近づいてゆく。

痩けた頬に肉が付き、まぶたがうつろな眼窩を覆い、むき出しの歯が唇で覆われてゆく。
狂気を宿した目から狂った光が消え、理性がそこはかとなく回復されてゆく。

しばらくすると普通の浮遊霊のような表情に代わり、最後にこの世に未練のない、まさに「仏」になり成仏してゆく。

(ありがとう・・・)の念波をのこして。

ここまで笛を吹き出してから約30秒。

その後、2人から霊力をもらいながら心眼で再びビル全体をなめるように調べてゆく。

「終わりました」簡潔におキヌがいう。


「ふうー、結構疲れるわね〜」令子がぐてっと座りながらつぶやく。
「ホントでござる。心眼とネクロマンサーの笛は疲れるもんなんでござるなぁ」シロも喘ぎながら答える。
「横島クン、外の2人に終わったこと知らせてやって」令子が指示する。
「了解ッス」横島も疲れた顔で最低限の答えをする。ルシオラに伝え、ルシオラがタマモに伝える。

(最後の確認は心眼じゃなくって、いつも通り手分けして霊視ゴーグルでチェックした方が楽かもね)
令子が戦術変更を考える。まだまだこの戦術は改良の余地がありそうだ。

「最初の偵察はおおよそ霊視で視てから、心眼に入った方がたぶん楽ッスね」
横島も同じようなことを考えていたらしい。
「でもそれだと悪霊に気が付かれる可能性があるわね」

「あっそうか。俺もまだまだッスね」
「でも、今回みたいに雑魚ってわかってるばあいはその方が良いわね。雑魚って確認するのは心眼でやって」

大先輩2人の会話をうんうんと聞くシロ。なんとか1人でやれる方法は無いかしらねと考えるおキヌ。

ルシオラとタマモが窓から入ってきて4人の前に現れる。
「うまくいったのね」「成仏する霊が見えたわ」この2人は元気いっぱいだ。ほとんど何もしていない。

「みんなありがとうございます。わたしのわがままきいてくれて。でもあの人も安らかに成仏できました」
おキヌがうれしそうな顔で皆に頭を下げる。一番疲れているはずだがすごくいい笑顔だ。

(これで・・・私がいつかそこへ行く時は・・・きっとちゃんと思えるわ。
 みんなにもらった命、ネクロマンサーとしての能力、ありがとうって。その日まで精一杯生きれるわ)

(GSになってできるだけたくさんのかわいそうな霊を癒して安らかに成仏させる。きっとこれが私の生きる道なんだわ)


「閃光やら爆発音やら全く無しの静かな除霊だったわね。外からも除霊中なんて全然わからなかったわ」
タマモが消耗したおキヌに霊力を分けながら言う。

「おキヌ殿以外なら、文珠やキツネ火、霊波砲が爆発したり、鞭や剣が光ったりして派手でござるからな」
「私が見ても、光や音はおろか霊波すら漏れてなかったわ。おキヌちゃんって笛の霊波すごく絞れるのね」

タマモ、シロやルシオラが口々に静かだったことを言う。感覚が鋭敏な彼女らが言うからにはよほど静かだったのだろう。

ネクロマンサーの笛はそもそも極近傍と操作対象以外には音が聞こえにくい。
従って、操作霊波が絞られていればほとんど周りに音が聞こえなくなる。
若い頃の呪殺屋だったエミが、ネクロマンサーに操られた霊に奇襲を食ったくらいである。

「えへへっ、だいぶ練習しましたからね」
感心されて照れるおキヌ。

「こっそり除霊するには最適ってわけね。何よりも、定番の吸引札使わなくてお金がほとんどかからなかったのがいいわね!」
令子が答える。
“静かに除霊”の定番の吸印札は相当する威力の破魔札より値段が高い上に後処理コストががかかる。

感謝して成仏した悪霊を見て、おキヌちゃんが菩薩に思えて涙が出そうだったから、とは口が裂けても言えない令子だった。


「それは美神さんにとっては何よりじゃないッスか?」横島が混ぜっ返す。
「そうね、これからこっそりする時だけじゃなく、死霊相手で霊力に余裕のある時はこの方法に決定ね!」

あくまで採算で決めたというスタンスを崩すつもりはないらしい。

「そういえばおキヌちゃんヒーリングしたのは初めてッス」
「あれをヒーリングというならね。私も初めてよ」
「へっへー、拙者はあるでござるよ」
他愛のない会話をする一同。


今回の方法は、小笠原エミと除霊した時に、霊を見ながら語りかければ
少々の霊は散らすのではなく安らかに成仏させれるのを知ったおキヌが提案した。
それを令子が具体的な戦術に整えたのだ。

今までは現場では、成仏が確実ではないため、
ネクロマンサーの笛で操った悪霊達を、結局は散らすか、破魔するか、吸印していた。
安全の為とはいえ、輪廻に再び入れるとはいえ、
霊を騙すことになるそのような方法は、おキヌの心に重い疑問となって渦巻いていた。

ネクロマンサーの笛と必要最低限の心眼の同時使用。
これなら確実に成仏させられる。後は力を付けさえすればよい。


そして、一番攻撃力が高い人物が主力で攻撃すればよいとのエミの言葉。
死霊を中心とした霊体が相手なら、おキヌは世界的に見ても稀な攻撃?力を誇る。

今回の方法はその二つをおキヌなりに考えた結果。

そして、除霊のほとんどのケースは霊が相手なのだ。
妖怪やら悪魔等というのはごく稀なケースで、しかもその時でも悪霊やゾンビ等を従えていることが多い。


大成功だろう。除霊としてはどこにでもある小さな一件。でもおキヌには大きな前進だった。



目標がはっきりしたおキヌは決意を新たにした。
「私もやっぱりごーすとすぃーぱーになります!!
 きっと今日のようなことを1人でできるようになって、
 みんなの後ろを守りながら、たくさんの霊達を癒して見せます!!」




今日は新戦術のテスト&充分高報酬なため、除霊は一件だけ。

令子にはもう少し我慢して車を運転してもらおう。

今回の除霊をみんなでご飯を食べながら再検討するのが楽しみだ。



今日はきっといい夢が見れるだろう。




to be continued


今までの評価: コメント:

この作品はどうですか?(A〜Eの5段階評価で) A B C D E 評価不能 保留(コメントのみ)

この作品にコメントがありましたらどうぞ:
(投稿者によるコメント投稿はこちら

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp