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横島異説冒険奇譚

蜂と戦隊モノ


投稿者名:touka
投稿日時:05/ 4/29

「ふ〜ん、そんな事があったのかい。」
 落ち着いたグーラーとポツリと座っていたメデューサに事情を説明する横島。
「結論から言えば、そのルシオラを蘇生させるのはやっぱり不可能だねぇ。
あたしらみたいな上代から存在しているならともかく、できたのが一年チョット前じゃあねぇ・・・・」
「そうか・・・・・」
 辺りに沈黙がただよう。
美神美知恵に言われたとはいえ、再びこうして魔族に否定されると落ち込むものがある。
近年まれに見る落ち込みをみせる横島。
何故かメデューサもそれ以上喋らず黙りこくったままだ。
自分も作られてそんなに日が経ってない為、こういう沈黙に慣れていないグーラーはなんとなく居た堪れなくなって話題を変えた。
「と、ところでさ。アンタ急にペラペラ喋って平気なのかい?それ監視されてるんだろう?」
 指差した先にはこちらを睨みつける疑眼。
ヌメヌメと光沢のあるその眼球はある意味つぶらだがお世辞にもかわいいとは言えない。
と、突然その疑眼がなにやら目まぐるしく動き出す。
『ギ・ギギ・・・対象ノ造反ヲ感知。しすてむ自爆もーどニ入リマス。自律自爆可決可決可決。臨界点突破マデかうんと開始カラ30。
29.28…』
「別にいいのさ。聞いたろ?監視されている対象の造反が確認されたら直ちに自爆。相手の霊的素子を破壊する。解除できるのは施工者のみ。
どうせ、復活したくもないのに無理やりさせられたんだ。
大して変わりゃしないよ。
さ、アンタたちもさっさと逃げな。このままここにいると道連れだよ。」
 そう言うとメデューサは寂しげに笑ってその場に身を横たえた。
今までの悪女鬼女っぷりがまるで嘘の様なその姿に驚きそして、何者かに無理やり自分の運命を決定される彼女のその姿は横島にある一人の女性を思い起こさせた。
 横島はその場を立ち去るどころか無言でメデューサの傍らにしゃがみこむとポケットから一つの宝珠、文珠を出すとしばらくの間四苦八苦してキーワードを込める。
『解』と込められたその文珠を疑眼へと叩きつけると、まるで空気のように溶け込んでいった。
その数秒後、
『きーわーど認証確認。自律自爆停止、否決否決・・・・可決可決可決。自律自爆解除可決。しすてむ通常もーどニ移行シマス。』
 ギギィ、というとても耳障りな声と共に首輪が外れる。
まるで打ち上げられた魚のように地面の上をビチビチと跳ねる疑眼を気持ち悪そうに見た後踏み潰すと、横島はメデューサに手を差し出した。
「な、なんでだ?・・・・」
 差し出された手を困惑の表情で見つめるメデューサ。
「ん、わかんね。でもなんかそのまま死ぬのはもったいねぇんじゃねぇの?
 思い出したけどさ。あの月の時は俺の身体ん中入ってまでいきのびようとしたじゃん。なんで今回はそんな諦め良いんだよ?」
「別におまえには関係ないだろう。フンッ。長く生きてるとね、生きてるのが段々嫌になってくる事だってあるんだよ。」
 魔族らしい意見を吐き捨てるように言うと、メデューサはそっぽを向いた。
しかし、その答えを聞くと横島は怒ったように腕を振りかぶり、そしてそのままの勢いで腕を振り下ろし、





メデューサの胸を鷲掴みにした。





 ふに。




「げばらっ!!」
「一体アンタ何考えてんだい!!お前の頭に詰まってんのはカニ味噌かっ!!」
 上半身を起こした状態から、反動をつけて起き上がり、その勢いのまま右足刀による延髄蹴り、というすごい一発を加えると倒れている横島の胸倉を掴む。
「わ、わりぃ・・・カッとなってやった・・・・頭に拳骨くれてやろうと思ったんだけど・・・その胸が目に入って・・・・・・
だが反省はしていない!!」
 カッ、と目を開くと惚れ惚れするくらい漢らしく立ち上がる。
それを見て、かっこいいダーリン、と恍惚とした表情を浮かべるグーラーを二人は丁寧に無視すると再び向かい合った。
「メデューサ!!仕切りなおしだ!!
いいか!!自分の気分で生き死にを考えるな!人間はそんな簡単に自分の命を捨てないし!!魔族だってお前みたいに何回も生き返ったりできるわけないだろ!!」
 いつの間にか胸倉を掴む相手と掴まれる相手が逆転していた。
月の一件で若返ったメデューサは今では横島より若干背が低い。
その横島に胸倉を掴まれたメデューサは足が地面より少し浮いて苦しそうだった。
「あ、悪ぃ・・・」
「ケホッ!・・・・まったく、アンタは相変わらずの甘ちゃんだね。
で、生きてどうしろっていうのさ?」
 三白眼で横島を睨みつけるメデューサ。
心なしか、その瞳はまるで美神と対峙している時のそれのように、闘志がチロチロと燃え燻っている。
「えと・・・・・俺のダッチワばべっ!!」
「一片死んでこい!!」

「死ぬのはテメェだよメデューサ。」

「!!」
 突然響いた第三者、この場合は第四者の声に驚いて辺りを見回す三人。
「誰だい!?」
「おいおい、ご挨拶だな。」
必死に気配を探るメデューサの前に現れたのは、一匹の魔族。
耳障りな音を絶えずだすその薄羽と毒々しい黄色と黒の斑模様の体躯は見るもの全てに嫌悪の情を想起させる。
「おまえは・・・・・・・・・
 
 すまん、誰だっけ?」

「ベルゼバブだよ!!ベルゼバブ!!一緒に仕事しただろうが!!」
 ああ、そういやそんなのもいたねぇ、と全く取り合わないメデューサに思わずコメカミに怒りの四つ角ができるベルゼバブ。雰囲気ぶち壊し。
「はっ!上司にたてついて疑眼のお世話になって、挙句の果てに人間のコゾーとよろしくやってるとはな!」
 ざまぁねぇな、と唾を吐きながら悪態をつくベルゼバブ。
そうしながらも、その身をどんどんと分身させ、増殖していく。
ねずみ講のように倍々のドン!!なベルゼバブの増え方は常軌を逸していて、まるでたちの悪いSFXのようである。
「ち、義眼か・・・・・・厄介だね。
横島、アンタ文珠であれ全部吹き飛ばしな!!」
 利用できるものは何でも利用する。戦闘家の鑑であるメデューサは手っ取り早く横島を使おうとするが、
「ワリ、さっきのが最後の文珠だばっ!!」
「本っっっ当に使えないね!!このボケッ!!」
「堪忍やぁーーーー!!だってお前助けるために使ったやないかぁ!!」
 横島の言葉に、そういえばそうだったとちょっと自己嫌悪が入るメデューサ。
 が、そんな事すぐに宇宙の彼方に打っ棄って、横島の再利用方法を思い巡らす。
「じゃあ、さっさと文珠生成しな!」
 が、
「いや、それが最近文珠生成するのが難しくって・・・・・霊力も足らないし・・・・・
 だから、ちょっとその乳もまばっ!!」
 霊力補充のため、煩悩を満たそうとルパンダイブを敢行した横島は今度こそ、メデューサの一撃の下、倒れ伏す。
さらに、横からグーラーの、なんでウチじゃないっちゃ!!という理不尽な攻撃によって更にボコられる。
 横島忠夫、セクハラするが、受け入れられるとちょっとテンパる、そして許してくれる相手にはちょっとしづらい17歳、多感なお年頃である。

「おーい、もう攻撃していいかぁ?」
 目の前で繰り広げられる馬鹿なやり取りを律儀に待つベルゼバブ。悪党失格。ものごっつい隙を見せながらもそれを突いてこないとはかなりの甘ちゃんである。
 その隙を逃すはずもない横島。
「喰らえ!!ギャグに奔って隙を見せたら負け攻撃!!」
 アホなやり取りにベルゼバブの緊張が解けた瞬間、横島の霊波刀がベルゼバブの顔面を襲う!!すげー卑怯。
「ぐあああああああああああっ!!てめぇえええええ!!」
 悪のピチピチ蛇女、メデューサでさえもちょっと感心しちゃう一撃を食らわせると素早く安全圏へと退避する。
「前から思ってたんだが・・・・お前ってほんっっっっとにゴキブリのような奴だな。」
 見所あるよ小悪党の、とわけの分からん褒め方をした後、メデューサも臨戦態勢に入る。
「くぅーーーっ!!ダーリンやるね!!
あたしも負けてらんないわ!!行くわよ坊やたち!!」
 どこが負けてられないのかわからないが、とにかくグーラーも一気に戦闘ムードに入る。
そして、一番嬉しそうなのは今まで好き勝手に寛いでいたガルーダたち。
目の前に広がるサンドバック予備軍の量に、口々に喜びの鳴き声をあげる。
「フンッ!!元仕事仲間だろうとなんだろうと、このアタシに喧嘩売って来た以上手加減しないよっ!!」
 何処かの誰かにスゲェ似たような事を言って矛を構えるメデューサ。
雪之丞とはまた違った意味で戦闘好きな彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
「おおおおおおっ!!てめぇら容赦しねぇぜ!!霊子の欠片まで蹂躙してやる!!死んで後悔しろぉ!!」
 霊波刀によって焼け爛れた顔面を押さえながらベルゼバブは一斉攻撃の合図をする。
幾百の耳障りな羽音を撒き散らしながら分身たちが横島たちを襲う!!


 が、


「あべべべべべべべべべっ!!」
 数十体のガルーダによりボコボコにされるベルゼバブ・コピー。
「めっちゃ強いなあの鳥・・・・・・」
 そりゃ魔族も欲しがるわ、と納得する横島と言えば、メデューサの陰に隠れながら、時折後ろからチクチクと攻撃するだけ。
一時期のあのシャドウ(影法師)のように落ちぶれてしまった横島。というかむしろメデューサのシャドウ状態。
「ちょっとアンタ邪魔だよ!集中できないじゃないか!」
「だってーだってー!!ワテ霊力操作全然できないんやもーん!!
こうして後ろからの攻撃しのいでるだけいいやないかーーーーー!!」
 涙ながらに力説する横島。
事実、彼の手元から伸びる霊波刀、ハンズ・オブ・グローリーの長さは今までの竹刀ほどの長さからカッターナイフの刃程に短くなっていた。
「・・・・・・・・ふんっ!この短小!!」
「ぐはぁっ!!」
 男として、いや漢として余りにも痛すぎる一言に胸を押さえ呻く横島。
当然押さえる胸はメデューサのもの。
「だからセクハラを止めろと言っただろうがこのスカタンっ!!」
 毎回毎回メデューサも補足できないほどの速さで胸を揉むという荒業を疲労する。
 そして、それを毎回律儀に突っ込むメデューサ。上方お笑いの素養十分である。
 がしかし、ツッコミによって発生したコンマ何秒の隙をベルゼバブは見逃さなかった。
「死ねぇ!」
 数体まとめての波状攻撃がメデューサに迫る。
「くっ!」
 初めの一体は防いだものの、いかんせん力が弱まっているのか似たい目の攻撃を受け損じ、三体目の攻撃をモロに腹に喰らう。
「ぐぅっ!!」
 咄嗟に魔力を集中させ貫通は防いだもののジクジクと血が滲み、さらに魔力すらもそこから段々と漏れていく。
「へっ!落ちぶれたもんだなぁアンタも。」
「・・・うるさいねぇ・・・・・相変わらずお喋りが好きな野郎だよまったく・・・」
 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらメデューサに歩み寄るベルゼバブ。
「どうだ?このまま死にたくないだろ?俺の下につくというのなら上に掛け合ってやってもいいんだぜ?」
 日頃の恨みを晴らそうと救済措置を持ちかけるベルゼバブ。
だが、メデューサの返事は言葉ではなく、気合鋭い矛による一閃だった。
「はっ!もうこれ以上誰かの下で働きまわるのはウンザリなんだよっ!!」
「ぐぁああああああああっ!!貴様ぁ、なら死ねぇ!」
「死ぬのはおまえだぁベルゼバブぅ!!」
 メデューサに襲い掛かろうとしたベルゼバブの背後から横島が飛び掛る。
手に持ったのは先ほどのお触りで貯めた霊力を振り絞って作り出した文珠。込められた文字は『爆』。
それをベルゼバブの口の中に放り込むと顎を殴って飲み込ませる。
「グーラー!!」
「だっちゃ!!」
 文珠を叩き込むと直ぐにその場を離れグーラーにバトンタッチする。
グーラーはその怪力を生かしてガルーダが追い詰めているコピーの群れの中へオリジナルを蹴り飛ばす。
「おのれえええええ!またお前かぁあああああああああ!!あべしっ!!」
 文珠を取り出そうと喉を掻き毟るが、その努力も虚しく周囲を巻き込み爆発四散するベルゼバブ・オリジナル。
 轟々と燃え盛る爆炎をバックに横島がカッコよく決めの台詞を言おうとしたその時、
『ギ・・・ギギ・・・・対象ノ霊的損傷率80%超過確認。しすてむおーばーろーどニ移行。おーばーろーど提案サレマシタ。承認承認承認。』
 ベルゼバブの首にかけられていた首輪から幾本もの黒い触手が飛び出ると、バラバラになった欠片に取り付いていく。
 そして、
『ルォオオオオオオオオオオオン!!』
 物理の質量保存の法則を完全に無視した巨大なベルゼバブが森の中から身を起こした。
「なっ!!ナニこれぇええええええ!」
「ちっ!やっぱり起動したか・・・・」
 パニくって怪獣怪獣騒ぐ横島を鉄拳で黙らせると腹部を押さえながらメデューサは忌々しげに巨ベルゼバブを見上げる。
最早、理性も何もあったもんではないらしく。ただひたすら唸り声を上げ、その巨大な体躯を振り回すのみ。
それでも、一応の目的は把握しているのか、その目線の先はメデューサにガッチリとロックされていた。
「た、助けてマ○ンジャーーーーーーーーーーー!!」
 静かだった森に横島の悲痛な叫びがこだました。


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