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横島異説冒険奇譚

蛇と鶏


投稿者名:touka
投稿日時:05/ 4/28

 ドッコンバッコンとものすごい爆砕音が木霊する。
様子を見に来た横島がそこで目にした光景とは、
「・・・・・なんでグーラーがメデューサを追っかけまわしてるんだ・・・・・・?」

「あたたたたっ!!この餓鬼どもっ!!いいかげんにしなっ!」
「その勢いだよ坊やたちっ!!そのいけすかない蛇女をつつき殺しちまいなっ!!」
 何がなんだかわからない。いや、あそこで逃げているのは確かに死んだはずのメデューサだし、追いかけてるのはピヨピヨピーヨのガルーダの雛鳥とグーラーだ。それはわかる。
 幾分成長して雛と成鳥の中間ぐらいのガルーダは確かにあの盛田・須狩事件で助けたやつだし、そんな物騒な大群引き連れたグーラー(食人鬼女)なんて世界中探しても一人ぐらいだろう。それはわかる。
 だが何故、こんな奥深い山の中でおっかけっこを?もしや新種の鬼ごっこか何かだろうか?
と、本気で考えているあたり心底馬鹿な横島忠夫。これでも世界で唯一の文珠使い。

「あの・・・・・・・なにやってるんで?」
 思わず声をかけてしまう横島。
草葉の陰で蛍の化身が馬鹿野郎!!とかなり下品な単語を文字通り投げつけている、がそんなことには気づかない。
「ああっ!!」
 思わずハモる二人。シンクロ率400%。
「横島っ!!」「ダーリン!!」
 でもないらしい。見事にばらばらな呼称で再び睨みあう。

「なんなんだいそのダーリンてのは気色悪い女だね!!」
「あんたこそ一体ダーリンのなんなのさ!!」

 いきなり目の前で再発した諍い━今回は二人だけだった━を横目で見ながら物思いにふける横島。
(どうせダーリンと呼ぶなら語尾は『だっちゃ』がいいげふっ!!な、なにすんだ!!」
 邪な?思いを巡らせていた横島の横っ面、というより側面にガルーダたちの一斉攻撃が入る。
 残ったガルーダたちの掲げる看板には、
『修正力』の三文字。
「あー、はいはい、どうせ同じ雑誌媒体だったんだからいいじゃ・・・・・・ごめんなさい。もう言いません」
 全員で一斉にジークンドーの構えを取るガルーダ。揃いも揃ったそのステップは見事なまでに一致し、大地を揺るがす。塵も積もれば何とやら、体調三十センチかそこらでも数十体集まればものすごい威力である。
 降参降参、俺高二だけど降参だとポーズを取ってるとふいに背中に衝撃が、
「げふっ!!」
 声の主は吹っ飛ばされたメデューサ、ではなく横島。飛ばされたメデューサがかなりの勢いで衝突し、しかも肘がいい具合にレバーに直撃したのだ。
「ふんっ!!あんたの実力はそんなもんかい!喧嘩吹っかけてきておいてザマァないね」
 へんっ!!と、中指までおっ立てて勝利のポーズのグーラー。
随分と人間の文化に詳しいようで。
 対して、ボロボロ、とはいかないまでも随分とやられているメデューサ。
そこにはかつて、度々美神令子を苦しめたあの雄姿は無い。
ボサボサの髪は艶を失い、服装もガルーダにつつかれてボロボロである。つまり見えそうで見えないという事で、
「ピッチピチーーーーーーーー!!!」
 突然の奇声に驚く二人、声の主はここのところの超空間修行で煩悩溜まりまくりの横島忠夫。メデューサの状況を把握してスイッチが入ったらしい。
「なにすんのさこのヒョーロク玉がっ!!!」
 それでも腐っても上級魔族、邪矛で一撃の元に横島を叩き落とす。が、その威力もかつてほどではないのか、すぐ復活する横島。
「あてて・・・・・ん?あんまり痛く、ないかな。どうなってんだ?」
 横島自身が強くなった、というわけではない。寧ろ霊力が落ちている分霊的防御は下がっているだろう。
斉天大聖の修行ですこし伸びたとは思うがそれでも絶対量が格段に落ちている。
「ちっ!!忌々しいねまったく。まぁいいさ、どうせ生きても仕方が無いんだ、さぁ殺しな!!」
 言うなり大の字に寝転がって目を瞑ってしまう。
今までの抗いが嘘のような態度に引きまくる一同。
あわわ、どうなっとるんや・・・・横島も吃驚、である。
 と、寝転がったメデューサの首に見慣れないものが。
よく見てみると、それはぬらぬらと妖しい光沢のある皮の黒い首輪。魔界産である事は間違いない。なぜなら、巷の似非パンク趣味とは一線を画すその代物には複雑怪奇な文様と数個の宝珠、そしてなぜかギヌロと横島を睨む目玉が存在していた。
「な、なんだこりゃ・・・・・・新手のSMぷれごふっ!!」
「お前の頭の中はどうなってんだい!?どこをどう見たらそう見えるってんだ!!」
 寝転がった状態からの飛び起きハイキックが見事横島の顎にヒットする。呆れるほど阿呆なやり取りではあるが、それでも当人の投げやりな雰囲気を払拭する事はできた。
「これは疑眼!!SMでもMSでもないんだよこのトンチキ!!」
「しぃましぇん・・・・・・で、その疑眼ってなんだよ・・・・・」
 殴られた鼻を押さえ、おずおずと尋ねる横島。余談だが鼻が陥没するほどの威力であったそれは彼が手をかざした後跡形も無く消えている。ある意味、いや真のイリュージョン!!
「こいつはお前が昔つけてた心眼と同じようなモンさ。ただし用途はまったく逆だけどね。
こいつは装着者に対しての霊的拘束と使役者に対する情報進呈、及び自爆機能を持つって言う拘束具だ。今回の任務に当たって無理やり着けさせられてね」
「任務?」
 横島とグーラーがハモる。どうでもいいがグーラーは横島にかなり近接してしなだれかかっており、ガルーダはガルーダで話がなにやら難しげな方向に向かう事を察知したのか、離れたところで地面に潜むミミズを穿り返そうと躍起になっていた。
いやに鶏くさい魔獣である。
 
 閑話休題。

「あのミミズつついてるガルーダを捕獲すんのが任務だよ」
「ええっ!!」
 閑話どころか本題であったそのガルーダへと視線を移す横島。視線の先にはまるで我関せずを貫くガルーダたちが。
「ガルーダって、あのミミズつついたり追いかけっこしてるあれか?」
「そう、あのミミズつついたり、あまつさえ砂浴びしてる鶏もどきがあたしの目的なんだよっ!!っていうかね!これは元はといえばアンタの所為なんだよ!!」
「俺ぇ!?」
 ビシィッ!!と思い切り横島を指差すメデューサ。
「ど、どういう事だよメデューサ!!」
「正確にはあんたとあの美神令子の所為、なんだけどね。あんたたち何したか覚えてないのかい!?」
 と、いわれて思い出そうにも、メデューサが関わってきた事件はコミックス39冊の内おそらく数巻分、おまけに終盤では復活したチョイキャラで出てきたため印象は皆無。何をしたかといってもあまり覚えていない横島であった。が、
「あ、あれの事?俺の体の中で若返ったんだよなお前。ってことは・・・・・・・・・・・俺の娘も同然!!成長の具合たしかめぐへっ!!」
 ツッコム気にもなれず無言で張り倒すメデューサ。腐っても指名手配魔族の張り手に数mは吹っ飛ぶ。
「ぼ・・・・・・ボケ殺し・・・・」
「ちゃんとツッコんでんだろバカ!!
ちょっとアンタそこに黙って座ってな。アンタが話すと話がややこしくなるんだよ!!」
 はい、と大人しくその場に正座する横島。
その太股を枕に横になるグーラーに、何故かメデューサはこめかみの緊張を覚えながら話を続けた。
「アシュタロスの部下だったアタシが色々と兵力集めをしたのをおぼえてるかい?」
 そう言われて脳内で色々と思い巡らす横島。
「ああ、あったねそんな事。確か・・・・月のカグヤ姫はいい腰つきしてたし、女だらけだったし、須狩のねーちゃんも働く女!って感じでセクシーだったなぁ・・・・」
「アンタ女の感想以外なんかないんかっ!!」
「へぶらっ!!」
「まったくだダーリン!!おまけになんで須狩の一件でアタシの感想が入ってないんだよっ!!」
 何故か二人の魔性の女、および興味津々のガルーダ数匹から私刑を受けた横島は再起動するのに数分を要した。

「・・・でだ。あの時アシュタロスの計画には幾つかのデタント反対派の魔族が裏で糸を引いていてね。」
「マジか!?」
 いきなり明かされる裏事情に面食らう横島。かなりの重傷を負ったはずなのに思わず身を起こす。
事情を知らないグーラーたちは置いてけぼりである。
「本気と書いてマジさ。
まぁ、この事は神界側は最高神しか知らない。魔界でも極一部しか知らないくらいだからね。
 デタント反対派の魔族にとってはアシュタロスの企みは好都合だった。
どんな形にせよ神界へ侵攻してくれるんだからな。そうすれば、それを口実に神界はデタントを破棄するだろう、と踏んだんだろうね。神界側にも原理主義者ってのはいるし、反撃してくると思ったんだろう。
 反対派はアシュタロスへの物質的サポートを秘密裏に行った。
何を隠そうアタシもその増強員として送られたからね。」
 そう言って自嘲気味に微笑むメデューサ。
その気弱な笑みと若さに思わず心のエンジンに火が点るが膝の上に乗るグーラーの頭が邪魔で飛び出せず断念。
「まぁ、結局アシュタロスの目論見は失敗したわけだけど、その件で反対派はアシュタロスに提供した兵力のほとんどを失ったわけさ。
 で、その兵力を補おうと先の戦いで復活可能な魔族を強制復活した後、兵力増強の駒として使ってるって訳。」
 話し終わってメデューサは、ふぅ、と溜息をついた。話し続けて唇が乾いたのだろう、ぺろりと唇に舌を這わせる。
まるで、歴戦の淫魔のようなその仕草に普段はリミットブレイクしそうな横島だったが、今の彼はそんな事を気にも留めず、ただ一つの事を考えてた。
「・・・・・・・復活。復活っていったかメデューサ?」
 膝の上にあるグーラーの頭の存在を忘れたかのように前のめりになる横島。
突然の枕の動きにグーラーは頭を強かに地面に打ち付け悶絶するが無視する。
「なぁ!!一度死んでも復活させる事ができるのか!?オイ!!」
 突然の横島の変貌にメデューサは面食らう。
「な、なんだい急に?」
「なぁ!!答えてくれよ!!ホントに、ホントにお前は復活させられたのか!?」
「あ、ああ。アタシは元々が国津神だからね。縁のある所にはアタシがまだ地上にいたころの霊破片が保管されてるんだよ。なんだい、アンタ復活させたい奴でもいるのかい?」
「・・・・・・・ルシオラだよ。」
 ガックリと項垂れ、襟を放さない横島の手を外しながらメデューサが尋ねると、ポツリと言葉がこぼれた。
「ルシオラって・・・・あのアンタに惚れたとか言う物好きな!?」
「物好きで悪かったな!!ちくしょーーーその乳もませたばっ!!」
 どうせ俺はモテねぇよちくしょー!!と、ドサクサ紛れにメデューサに飛び掛った横島を横からグーラーの容赦ない一撃が叩く。
「ちょっとダーリン。なんでウチがいない間に女なんか作ってんの!?」
 あんたたち、やっちまいな!!
と、威勢のいい号令の元繰り広げられる、鶏によるジークンドー。
ちょっと待て、とか落ち着こう、とか色々聞こえていた言葉もだんだん小さくなっていく。
「つっこみ殺し?・・・・・」
辺りに飛び散る紅の華を横目に、メデューサは行き場がなくなった右手をとりあえずワキワキと動かしてみた。


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