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六道女学院教師 鬼道政樹 式神大作戦!!

渡る世間は鬼だらけ!!


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:05/ 4/18



〜おいでませ鬼ヶ島へ〜
〜いにしえから変わらぬ伝統と自然があなたを待っています〜
〜美味い酒と食事、そして雄大な景色をお楽しみ下さい〜





 巨大な鉄の門をくぐった政樹達が最初に目撃したのは、そう書かれたのぼりの数々であった。
 その先には和風の木造建築が立ち並び、クラシックな雰囲気な街並みを作り上げていた。

 目の前は大通りになっていて、その往来は多くの人々(鬼や魔族)で賑わっていた。
 道沿いには多くの売店が建ち並び、売り子の鬼が行き交う人々に威勢のいい声をかけ、立ち止まった客に土産を勧めていたりしていた。
 旅館や温泉の看板もたくさんあり、「鬼火温泉」だの「血の池温泉」だのと書かれたものがそこかしこに立ててあった。




「なんだここは!?まるで田舎の温泉街じゃねーか!!」
 それらを目の当たりにした雪之丞は思わず声を上げてしまう。
 想像していた鬼ヶ島とのギャップがあまりにも激しすぎたからである。

「オメー知らなかっただか?鬼ヶ島は異界のリゾート地として有名なんだべ。」
 娑婆鬼はさも当然(ここに住んでるんだから本当に当然だが)という風に答える。


「ちょ、ちょっと待ってくれ…鬼や魔族はまだわかるが、あの集団はどう見ても……。」
 政樹の視線の先には、神々しいオーラを放つ一団が鬼のバスガイドに案内されながら列を作っていた。
「あ、ありゃお前……神族の連中じゃねーか……!?」
 雪之丞もこの事実に驚きを隠せなかった。

「ああ、ここは神さん達も観光に来るだ。えっと…確か父ちゃんが鬼ヶ島は中立区域だって言ってたな。」
「確かに鬼は神・魔の両方に関わりの深い一族やが……本当にリゾート地って事なんか……どう思う雪之丞?」
 コメントに困った政樹は雪之丞に話を振る。
「どうって…俺はなんつーかこう、もっと迫力のある絵を想像してたんだが……。」


 雪之丞のイメージでは、どよよ〜んとした空気の中をいかにも凶暴でマッシヴな鬼達が闊歩しているはずだったのである。
 政樹も同じ意見だったらしくうんうんと頷いている。

 肩すかしを食らった雪之丞は肩を落とし、心底残念そうに大きなため息をついた。


「ん?何か不満そうだなや。」
 2人の微妙な反応を見て娑婆鬼が尋ねる。
「い、いや別に不満なんてあらへんよ。ははは……。」
 政樹は乾いた笑いでそう答え、
(結構なことなんやが……修行に来た身としては緊張感を削がれてしまうな……)
 と、落ち込む雪之丞を見ながら苦笑していた。





「で、式神使いの先生はどこに行きたいんだべ?」
 娑婆鬼は腕を組みながら政樹に尋ねる。」
「ああ…ボクは(地獄洞)という場所へ生きたいんや。知ってるか?」
 地獄洞という言葉に娑婆鬼の表情が一瞬けわしくなる。
「……知ってるけんど、ここからだとずいぶん遠いぞ。」


 娑婆鬼はその場にしゃがみ込み、地面に簡単な地図を描いて見せた。
 それはちょうど鬼ヶ島の中心にそびえ立つ岩山「鬼顔岳」の頂上にあるという。
 娑婆鬼はその山に向けて進む簡単なルートを書き加えたが、それは大きく曲がりくねっていた。


「ずいぶんと大回りせなあかんのやな……。」
「途中には谷や峠もあるし、人間が歩いて行こうと思ったら3日はかかるべ。」
「そ、そんなに遠いんか?」
「それに鬼ヶ島の森や荒れ地には野生の魔物がウヨウヨしてるだ。歩いて行くのはやめた方が身のためだべ。」


「へっ、面白れぇじゃねーか…俺はそれでもかまわねえぜ。」
 そのとき雪之丞が指をポキポキ鳴らしながら話に加わる。
「雪之丞、ボクの目的は試練に挑戦するためや。そこにたどり着くまでに力を使い果たしてしまっては意味があらへんやろ。それにここは見知らぬ異界やし、何が起こるかわからん。よく考えて行動せんと。」
「じゃあどうすんだよ。歩いて行く以外に方法があんのか?」
「それは……。」


 政樹が答えに困ってしまったとき、娑婆鬼が立ち上がり自分の胸をどんっ、と叩いた。
「オラに任せろ。」


「「え?」」
 思いがけない言葉に2人はついハモってしまう。



「オラんちは運送会社をやってるから、父ちゃんか兄ちゃん達に頼めば一台くらいトラックを貸してくれるだ。それに乗ってけば半日くらいで着くはずだべ。」
「本当か!?よかったな先生!!」
 雪之丞は政樹の背中をバンバンと叩いて喜ぶ。


「し、しかし…今日会ったばかりのボクがそこまでしてもらってええんか?」
「地獄洞はオラ達鬼でさえめったに近付かねえ場所だ。人間のオメー達がそこで何すんのか興味がわいてきたんだべ。」
 フッ、と娑婆鬼は笑ってみせる。
「娑婆鬼君……おおきに。」
 感動に目を輝かせた政樹はサッ、と右手を差し出す。
「君はいらねえだ先生。」
「おおきに娑婆鬼!!」
 娑婆鬼はキリッとした表情で政樹の手を握り返し
 友情のシェイクハンド(本日2回目)を交わすのであった。












 娑婆鬼の案内で、政樹達は大きな倉庫のような建物の前にやってきた。
 屋根には「鬼ヶ島運送 物流ステーション」と大きな看板が出ており、広い敷地内には電球やアートペイントで装飾されたデコトラがせわしなく出入りしていた。


 荷物の積み卸しをするトラックの脇をすり抜け、3人は事務所へとやってきた。


 だが、その中に鬼の姿は見あたらなかった。
 あるのはスチール製のデスクにソファー、そしてタバコの吸い殻が山のように積もった灰皿や牌が散らかったままの雀卓だけであった。
 壁には「打倒韋駄天急便!!」とスローガンが掲げられ、その隣にあるホワイトボードには従業員達の予定が雑な文字で書き込まれていた。

 娑婆鬼はホワイトボードの前に立ち、身内の予定を調べ始める。
「あちゃー、父ちゃんも兄ちゃん達も当分帰ってこれねえだな。誰か残ってるのは……。」


 バンッ!!


 娑婆鬼が指先でホワイトボードをなぞっていると、突然誰かが事務所のドアを蹴り破った。


「娑婆鬼!!オメー仕事の手伝いもしねーでどこさほっつき歩いてたんだべ!!」


 その声に娑婆鬼は体を硬直させて振り返る。

「ね、ねーちゃん!?」

 そこには姉である「夜叉鬼(やしゃんに)」が怒りの形相で仁王立ちしていた。



「「ねーちゃん?」」
 政樹と雪之丞は互いに顔を見合わせる。


「ん……なんだべこいつらは?」
 2人に気付いた夜叉鬼はくんくんと霊気の匂いを嗅ぐ。
 その途端、額に青筋がぶちぶちと浮き上がり始めてきた。
「こいつら人間でねーか!!それを勝手に事務所に連れ込んだりして、どうなるか覚悟はできてんだべな!?」

 夜叉鬼はズカズカと歩み寄り、娑婆鬼の耳を思いっきり引っ張り上げる。
「いだだだ!!ま、待ってくれねーちゃん!!これにはわけが……!!」
「やかましい!!」
 彼女は政樹達を無視して娑婆鬼を外に引きずり出してしまった。



「お、おい先生……!!」
「ああ……!!」
 2人は慌ててその後を追った。



 外では金棒を担いだ夜叉鬼が、スマキにされて転がされた娑婆鬼を見下ろしていた。
「さて、百叩きの刑の前に何か言うことはあるか?」
「……言ったらやめてくれるだか?」
「調子こいてんじゃねーべ。」


「……。」
「……。」


 姉弟の間に静寂が流れる。


「うわーん!!鬼ーーーー!!!!」
「さーて、そろそろおっぱじめるべ!!そーれッ!!」

 泣きわめく娑婆鬼が殴られる寸前に政樹達がその場に駆けつけた。

「ちょっと待ってくれ!!いくらなんでもやりすぎと違うか!?」
 ぴたっと金棒を寸止めし、夜叉鬼は顔だけを向けて政樹を見る。
「人間が余計な口出しするでねえ!!これはウチの教育方針だべ!!」
「アホ!!体罰は懲戒もんやぞ!!教育委員会に怒られるで!!」

 がくっ。

 論点のずれた答えに雪之丞は思わず力が抜けてしまう。

「なんの話をしてんだッ!!」
「い、いや、職業柄つい……。」
 照れる政樹を押しのけ、雪之丞が前に出る。

「そのチビには大事な用があるんだ。わかったらとっとと失せな姉ちゃん。」
 雪之丞はぐぐぐっ、とガンを飛ばし夜叉鬼を挑発する。
「なんだと…オラにケンカ売ってんのか人間!!」
「だったらどうするんだ?」
「上等だべ!!まずはテメーを血祭りに上げてやるだ!!」
 2人は一触即発の火花をバチバチと散らし、ぶつかり合う霊気があたりに風を巻き起こし始めていた。


「よせ雪之丞!!ボクらはこんな所でケンカしてる場合じゃないんやぞ!?」
「どいてろ先生!!こういうヤツは理屈よりも体でわからせた方が早いんだよ!!」
 政樹が仲裁しようとするものの、火がついてしまった雪之丞は全く話を聞かなかった。


「ごちゃごちゃうるせえだ!!まとめて死ねッ!!」


 政樹と雪之丞がもみ合っている隙を突き、夜叉鬼はいきなり金棒で殴りかかってきた。

「しまっ……!?」



 ドガシャァァッ!!



 政樹は気を取られていたためにかわす動作が間に合わなかった。
 ……が、次の瞬間強い力で突き飛ばされて地面に倒れていた。

 目をやると自分の立っていた場所はもうもうと煙が舞い上がっており、夜叉鬼の一撃の凄さを物語っていた。


「雪之丞!?」


 やがて煙が晴れていき、そこには2つのシルエットが並んでいた。
 政樹は雪之丞の無事に安堵するも、その姿に息を呑んだ。
 それは全身を物質化した霊気の鎧で覆う「魔装術」の姿だった。
 その強力な装甲は、夜叉鬼の金棒を軽々と受け止めていた。


(雪之丞は魔装術を使うんか!?しかもあの波動…完璧に術を使いこなしてる……!!)


 魔装術のことは政樹も知ってはいた。
 だが、これは一種の邪法で、使いこなすのは相当な達人でも難しいと聞いていた。
 雪之丞の魔装術に霊力の乱れは全く感じられず、高次元で安定している。
 これほどまでに完成された魔装術を目の当たりにするのは初めてのことであった。

(これは…ずいぶんと頼りになる助っ人やな……!!)

 政樹はすっかり感心し、止めるのも忘れて見入ってしまった。



 そうしている間にも政樹と夜叉鬼のケンカはさらに加速し続ける。

「ふん、やるでねえか!!けど次は手加減しねーぞ!!」
「それはこっちのセリフだ!!」

 夜叉鬼はその女性的な体型からは考えられない力で金棒を振り回し、雪之丞も負けじと拳で金棒を弾き返していた。



 娑婆鬼はみの虫のような格好でぴょんぴょんと避難してくると、じっとケンカを観察している政樹にすがりついた。

「先生、ボーッとしてねーで何とかしてくれ!!」
「はっ!?ああ、すまんすまん。つい知的好奇心が勝ってしもうた。」
 我に返った政樹は娑婆鬼をスマキから解放してやり、ケンカを続けている2人を見る。

 だが、もはやこのケンカは生身で止められるレベルではなくなっていた。


(やれやれ…なるべく無駄に霊力を使いたくないんやけどな……)


 心で1つため息をつき、政樹は夜叉丸を影から呼び出す。
「タイミングが重要やぞ夜叉丸……行くで!!」
 夜叉丸はコクリと頷いて激突する2人の間に飛び込んでいく。


 ガシッ!!


 その瞬間、3人の姿が重なって動きが止まる。
 夜叉丸は左からの金棒を右手でいなし、右側から飛んできた拳を左手で掴む。
 つまり格好として、ちょうど腕が交差するような形である。


「お前らええ加減にせえ!!ちょっとは頭を冷やしたらどないや!!」
 政樹の本気の怒声にようやく雪之丞は我に返る。
「……ちっ、わかったよ。」
 雪之丞は拳を納め、一歩後ろに引く。
 だが、夜叉鬼は夜叉丸を凝視したまま動きを止めてしまった。





「えーと、娑婆鬼のお姉さん?」
「姉ちゃんの名前は夜叉鬼だべ。」
 呼び名に困った政樹に娑婆鬼が耳打ちする。
「夜叉鬼はん、頭に来るのももっともやけど、1つ冷静になって僕らの話を聞いてくれへんか?」
「……。」


 しかし、政樹の呼びかけにも夜叉鬼は反応しない。


「おい、どうなってんだ?全然動かなくなっちまったぞ?」
 雪之丞も様子がおかしいことに首をかしげる。
「ねーちゃん…どっか具合が悪くなったんだべか?」
 心配した娑婆鬼が顔をのぞき込もうとしたその時だった。






「ずっと…ずっと前から愛してましただーーーーッ!!!!」



 ひしっ!!


 突然夜叉鬼は夜叉丸に抱きつき、頬をすり寄せ始めた!!



 だああっ!!



 突然の出来事に政樹達はひっくり返ってしまった。


「な、なんなんだ一体!?」
「どうなってるんや……?」
「ね、ねーちゃん……?」


 呆然とした3人をそっちのけで、夜叉鬼は夜叉丸の胸元をさすったり耳に息を吹きかけていた。


「ああ……鬼の男なんて脳ミソまで筋肉でできたようなむさ苦しい連中しかいないと思っていたのに……こんな美形がいたなんて……この出会いは偶然ではねえ!!ずっと昔から決まってた運命なんだべ……!!」


 夜叉鬼はうっとりと遠くを見つめ、胸の前で指を組み合わせた「乙女ポーズ」をしながらくねくねと悶えていた。

 そこにいたのはさっきまでの鬼女ではなく、1人の恋する女であった!!


「う、うんめい?」
 娑婆鬼は顔を引きつらせながら呟く。
「そうだったんか夜叉丸……?」
 政樹の問いに夜叉丸はブンブンと力一杯首を振る。


「夜叉丸?それがダーリンの名前か?きゃー!!オラは夜叉鬼って言うだ!!同じ言葉が入ってるなんてこれはもう運命なんてものを超越した宇宙の意志なんだべッ!!」


「だ、だーりん?うちうのいし?」
「や、夜叉丸……?」
 今度は涙を流しながら夜叉丸は首を振っていた。




「よ、要するにだ…このバカ女は先生の式神にホレちまったってことか?」
 引きつった笑いを浮かべながら雪之丞がこっそり尋ねる。
「たぶん…そういうことみたいやな……。」
 その答えを聞いて雪之丞はニヤリとほくそ笑む。
「だったら好都合なんじゃねえか?どうやらこいつもここの従業員みてえだし、うまく丸め込んで手伝ってもらおうぜ。」
「し、しかし……。」
「ためらってる場合かよ。やるときはガツンとやるんだよ!!」
「いや、だからボクが気にしているのはそういうことじゃなくてやな……。」
 政樹はチラリと夜叉鬼を見る。



 夜叉鬼は相変わらず夜叉丸にベタベタとくっつき、鬼同士にしかわからない言葉で何やら会話しているようだった。
「ええっ!?じゃあダーリンはあの人間の式神として仕えてるんだか!?」
 夜叉丸と政樹の関係を聞いた夜叉鬼は頭を抱え込む。


(そんな…せっかく理想のダーリンを見つけたと思ったのにコブ付きだなんて……なんという運命のいたずらなんだべ……)

 よよよ、と崩れ落ちるのもつかの間、突然夜叉鬼の瞳が怪しく輝く。

(ならばいっそのこと…あの人間を亡きものにしてダーリンを奪ってしまおうか……)



 夜叉鬼はギラギラした目で政樹を見つめ、視線の合ってしまった政樹は大きくため息をつく。
(あれはボクを亡きものにして夜叉丸を奪ってしまおうとか考えとる目やな……)
 政樹と精神が通じている夜叉丸はその考えを読み取り、青筋を浮かび上がらせる。
(この様子やと夜叉丸をつけ狙ってあれこれ仕掛けてくるかもしれんし、娑婆鬼の姉さんに乱暴するのも気が引けるしな。味方に引き込んだ方が得策か……)



「……わかった雪之丞。彼女の性格は少し気になるところやが、ボクらに選択の余地はないしな。」
「そういうこった。じゃ、交渉は任せたぜ先生。」



 政樹は夜叉丸を通して地獄洞へ向かう事情を説明し、トラックを貸してくれるように頼み込んだ。
 夜叉鬼は「愛するダーリンのためなら」と快くOKしてくれたが、あいにく今日はまだ仕事が残っているので出発は明日になるということだった。



「今日は街でもゆっくり見物して、明日に備えるだ。ここに人間でも泊まれる旅館の住所を書いておいたから、そこで寝泊まりするといいべ。」
 デコトラのウインドウから身を乗り出し、夜叉鬼は政樹にメモを手渡した。
「おおきに夜叉鬼はん。じゃあ、明日はよろしゅうな。」
 夜叉鬼は潤んだ瞳で夜叉丸を見つめ、1オクターブ高い声で呟き始めた。
「ああっ…名残惜しいけど行かなくちゃ……でもすぐ会いに行くからねダーリン!!」
 投げキッスを飛ばしながら夜叉鬼のデコトラは走り去っていった。





 政樹と夜叉丸は走り去るデコトラをじっと見つめていた。


「夜叉丸……もう一つ大きな試練がふえてしもうたな……。」
 その言葉に夜叉丸は涙を流しながらコクコクと頷いていた。













 政樹と雪之丞、そして退屈だからとついてきた娑婆鬼はメモにあった住所に向かっていた。
 しばらく歩いているとやがて大通りを離れ、小高い丘の上に建つ一軒の旅館にたどり着いた。
 建物はまだ新しく、そこから見下ろす島と街の眺めは絶景であった。

 玄関の脇には「人間も安心して宿泊できます」と札が掛けられている。


 玄関をくぐった政樹達を出迎えたのは、仲居ではなく20数匹のヒヨコの群れであった。
「な、なんでこんな所にヒヨコがいるんだべ?」
「先生、なんかこっち見てんぞ。」
「目を逸らすなよ…逸らしたら負けやで。」
「そりゃイヌの話だろうが……。」
 何とも言えない絵に3人は固まってしまう。



「ピヨピヨピヨピヨッ!!」
 しばらくにらみ合いが続いた後、突然ヒヨコ達が飛びかかってきた。
「うわっ!!なんやこいつら!?」
「わははは!!く、くすぐってぇ!!」

 ヒヨコ達はふわふわの羽毛で体をくすぐり、政樹達の手荷物を取り上げてしまう。
 そして数匹が荷物を抱えてスタコラと旅館の奥に走り去ってしまった。

 3人が呆然としていると、奥から着物を着た女性が歩いてきた。
「いらっしゃい。私はここの女将をやってるグーラー(食人鬼女)さ。当店のサービスは気に入ったかい?」
 グーラーは自己紹介をしながら政樹の前に歩み寄ってくる。
「サービスって、さっきのヒヨコ達のことか?」
「ええ。あのコ達は当店の名物、ガルーダの幼生さ。小さくてもよく働いてくれるんだ。かわいいだろ?」
 そういってグーラーはにこっと笑ってみせる。
「ガルーダの幼生!?それはまたすごい従業員やな……!!」

 ガルーダといえば神の乗り物とも言われる鳥の鬼神である。
 幼生とはいえそのガルーダがこんなにも集まり、しかも旅館で仲居をしているのだ。
 政樹はその事実にフツーに驚いていた。



「おい、ちょっといいか?」
 その時雪之丞がずいっ、と前に出る。


「俺達は人間でも安心して泊まれるって聞いてここに来たんだがな。その旅館の女将がグーラーとはシャレにしちゃ笑えねーぞ。」
 雪之丞は警戒心むき出しでグーラーに迫る。
「ああ、最初のお客さんにはよく言われるんだ。安心しなよ…私もこのコ達も、絶対に人間には手を出さないから。」

 グーラーは足下にいたヒヨコを肩に乗せながら明るく答えた。
 だが、これくらいで警戒を解くほど雪之丞もお人好しではない。

「口先だけの話で信用させられると思ってんのか?」
「……。」
 その言葉にグーラーは黙り込んでしまう。

「おい、失礼やぞ雪之丞!!」
 政樹はあわてて雪之丞を引っ張り戻す。


「気を悪くされたら申し訳ない。けど、ここは鬼ヶ島でボクらは人間や。慎重になるのもわかってもらえるやろか。」
 政樹は謝罪すると共に自分達の立場の理解を求めた。


 グーラーはしばらく目を伏せていたが、やがてゆっくり口を開いた。

「……私はここにたどり着く前、2度も人間に助けられたんだ。
 だからさっきの話……ウソじゃないよ。」

 何かを思い出すようにグーラーはそう言った。
 政樹はその目をしばらく見つめたあと、振り返って雪之丞に言った。


「彼女の言うことは本当やろ。夜叉鬼はんの紹介のこともあるし、信用してもええと思う。」
「……先生、あんたちょっと甘いんじゃねーのか?」
 雪之丞は不満そうな声を洩らす。
「ボクは多くの生徒を相手にする仕事上、ウソを見抜く目には少々自信があるんや。
万一何かがあったときはボクが責任を取るさかい。」

 政樹の表情は真剣そのものだった。
 その顔を見て、雪之丞はしょうがないといったため息をついた。
「……わかった、ここは先生に免じて信用してやるよ。悪かったな。」
「いいんだよ、気にしてないさ。じゃあゆっくりしていっておくれよ。うんとサービスするからさ!!」


 こうして政樹達は鬼ヶ島での宿泊地を無事に確保できたのであった。







 チェックインを済ませると、政樹達は再び街に足を運んだ。
 旅館でくつろぐにしてはいささか時間が余りすぎていたからである。
 娑婆鬼にガイドを頼み、鬼ヶ島の名所をあちこち見て回ることにした。

 政樹達は鬼ヶ島の中では目立つ存在ではあったが、鬼達は商売慣れしているからか気さくに対応してくれた。



 3人がすっかり観光気分で街を歩いていると、脇にある茶店の縁側に1人の魔族の若者が座っているのが見えた。
 政樹も娑婆鬼もそれを気に留めず通り過ぎようとしたが、雪之丞は足を止めてその魔族に近付いていった。


「まさかと思ったが……やっぱりお前ジークじゃねーか!?」
 その声に魔族の若者……ジークフリード立ち上がり顔を向ける。
 彼は妙神山の修行場で雪之丞と知り合い、共に戦った戦友でもある。
「雪之丞!?久しぶりだな!!」
 思わぬ再会に2人は声を上げた。


「お前こんな所で何してるんだ?見たところ1人のようだが……。」
「実は……。」


 ジークが口を開きかけたとき、通り過ぎてしまった政樹と娑婆鬼が戻ってきた。

「どないしたんや雪之丞…こちらの方は?」
「ああ、先生は初対面だな。こいつは魔族のジーク。俺の修行仲間だ。」
 ジークは背筋をピンと伸ばして政樹の方へ向き直す。
「私は魔界軍情報士官のジークフリード少尉です。あなたは?」
「ボクは六道女学院除霊指導教諭の鬼道政樹言います。よろしゅう。」
 2人はていねいな挨拶の後、軽く握手を交わす。

「ここは異界のリゾート地ではありますが、あまり人間の出入りするところではないはず。鬼道先生はどうしてここへ?」
「ボクは修行のためにここに来たんです。もっとも、今日は観光になってしもうたけど。」
「で、俺は先生の付き添いで一緒に来たってわけだ。」
 と、横から雪之丞が言葉を付け足す。

「ジークはんは軍人さんということやけど、休暇か何かで?」
「ええ…そうだったんですが、実は一緒に来ていた仲間達とはぐれてしまいまして……
なにぶん土地勘が無くて困っていたんです。」
「それは大変でしたな。よろしければボクらもお手伝いしましょうか?」
「いや…あなた方にそんなお手数をかけさせるわけには……。」
「かまわへんよ。ボクの連れには地理に詳しいもんがおるし、それに雪之丞の仲間が困ってるのを放っておくわけにはいかんしな。」


 政樹が目をやると、雪之丞も娑婆鬼もコクリと頷いた。


「鬼道先生……ありがとうございます。」
 ジークは一礼し、感謝の意を表した。


「ほな、お仲間捜しを始めようか!!」



 こうして一行は「はぐれたジークの仲間捜し」を開始したのであった。
 


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