「さあ、次は私の番ね。アホな兄に代わって、GSになって見せるわ」
優子が高らかに立つ。
「次の対戦は西条選手と、石井選手です」
長身の男が上がってくる。
審判が武器を渡す。
「はじめ!」
結界が張られる。
「さっさと終わらせるよ!」
神通棍を手に構える。
「ほお、少しはできるのか」
余裕に構える。
「最近のGSは道具に頼りすぎね。こういった正攻法を身につけておかないと、いつか痛い目見るのよ」
「確かにそうだな」
と、神通棍を構える。
「行くぞ!」
剣技の応酬が続く。
「へー、やるわね!でも!!」
石井の神通根を弾き飛ばす。
「さあ、どうするの?」
と、間をおく。
「ふふふふ、さすがだな。しかし!!」
その時、男の雰囲気が一変する。
「な、まさか魔族?!」
「こいつが二人目か!」
「わ、私の娘が!!」
叫んでいる西条は無視してリングサイドに下りる。
「おい、棄権しろ!」
横島が声をかける。
「バカ言わないで。おじさま」
と、構え切りかかる。
「魔族ごときに遅れをとったら、母さん達を超えられないんだから」
「愚かな」
あっさり弾き飛ばす。
「レベルが違いすぎる?」
ちなみに、周りの人間は魔族であることに気づいていない。ハイレベルな戦いを楽しんでいる。
「まだまだ!」
数枚のお札を構え投げつける。
「ほう」
数々の爆発をかわしながら、が間を詰める。
「おしまいだよ!お嬢さん!」
長い爪が優子を貫く。
「やったか・・・」
試合場から下りようと背を向ける。
「ん?」
しかし、結界が解けていない。
「おかしい。相手を気絶させれば結界が・・・」
「甘いわよ」
その時、後ろで声がした。
「お、お前!」
後ろから羽交い絞めにする。
「お前、死にたいのか?!」
「GSをなめんじゃないわよ!!」
優子の体から光が発する。
「ば、ばかな!!」
物凄い爆音が響く。
「両者・引き分け!!」
担架で2人が運び出される。
「引き分けの場合はどうなるんだ?」
英夫が美希に尋ねる。
「両者にGS免許が与えられるはずですが」
「ふーん」
「でも、相手の魔族にも与えられるのはどうかと思いますが」
その後、美希があっさり勝利を収めた。そして、
「勝者、野亜」
謎の女性も勝利を収めた。
「次からは完全な実戦です」
選手控え室で、美希と英夫が話し合っている。
「先ほどのような、よく解らない勝利でもいいですから、頑張ってください」
「おお、珍しいな。美希が俺の心配をするなんて」
意外そうに見る。
「まあ、死んで化けられても困りますし。その時は、遠慮なく斬りますが」
「やっぱり、冷たいな」
席を立つ。
「まあ、何とかなるだろう」
と、拳を握る。
「さあ、行って来るぞ!」
「奴も、敗れたか。残るは・・・」
もう一人の魔族が試合場を見下ろしている。
「横島、相手は残り一人だな」
「そうだな」
二人は周りに警戒の目を向けている。
「すると最後の一人が『バランサー』ね」
小竜姫も同じく警戒の目を緩めてはいない。
「お前の息子か、俺の娘。どっちが当たるかな?!」
「あるいは、両方か」
「両方?」
伊達が、キョトンと見る。
「知らなかったのか?今年からルールが一部変更されたんだぞ?!」
「さあ、俺の相手は誰だ!」
英夫が試合場の中央ですごむ。手には神通棍が握られている。先ほどの戦いが英夫に自信を付けさせた。しかし、
「ああ、さっきの試合で両者K.Oになったから、君の不戦勝だ」
「へ?」
あまりにも事に神通棍を落としそうになる。
「だから、君の勝ちだ。そういえば君は一回戦もそうだったな」
「え、そんな」
「はい、じゃあ、次の人!!」
肩を下げながら英夫が試合場から下りた。すれ違いざま、
「運がいいですね」
美希が冷たく言い放った。
「勝者、伊達!!」
「勝者、野亜!!」
「勝者、奈樹!!」
ベスト4が出揃った。
「ええ、四人の諸君。準決勝進出おめでとう」
圧倒的な美人の野亜、背の高い男性の奈樹、そして英夫と美希が集められた。
「知ってのとおり、準決勝はチーム戦である」
審判が説明を始める。
「知らなかった」
英夫が呟く。
「ん?何か言ったかね?」
こちらをジロリと見る。
「い、いえ・・・」
ちなみに美希に足を踏まれている。
「今大会からの特別ルールでな、2対2の戦いをしてもらう。勝ったチームが決勝戦で優勝者を決めるというわけだ。
そもそも、最近の悪霊は凶暴化しているからして、GSはチームで戦う機会が増えてきている。それの適正を見るために行うのである」
と、一通り解説をして目の前にクジを置く。
「さあ、引き給え。そして、相棒を決めるのだ。同じ色を引いたものがチームだ」
四人はクジを引いた。
「うむ。伊達・横島ペア対奈樹・野亜ペアの戦いになった」
「はあ、よりによって美希とか」
廊下でジュースでも買おうかと自動販売機に向かった。
「よお、息子!元気か?」
前から横島夫妻が歩いてきた。
「父さん」
久しぶりの対面である。
「準決勝もがんばりな、と言いたいところだが」
と、周りを見渡す。深刻な表情だ。
「いいか、一つ忠告しておく」
「?」
「気づいたかもしれんが、魔族が送り込まれている。三人だ。一人は伊達美希が、もう一人は横島優子が倒した」
「気づかなかった」
「・・・・」
「まあ、いいわ」
小竜姫続ける。
「あなたが準決勝で当たる二人のうちのどちらかが魔族よ」
「・・・・」
「さすがに、驚いたか」
「父さん」
深刻な顔で尋ねる。
「何だ息子。今まで秘密にしていたが、お前には・・・」
「魔族って何だ?」
横島夫妻は盛大にこけた。
「ま、魔族も知らんのか?」
「知らん」
いたって真面目な表情だ。
「・・・まあ、いい。とにかく気をつけろ。お前は全魔族に命を狙われているといっても過言ではないんだからな」
「何でさ?」
「・・・それは、お前には莫大なち・・・」
『準決勝進出者は集合してください』
「あ、行かなきゃ。じゃあ、行ってくる」
英夫は走り去った。
「・・・まあ、いいか。後は、あいつ次第だ」
集合場所に向かう途中、野亜に出会った。
「あ、あんたは」
英夫は一次試験を思い出した。
「あの時は助かったよ」
と、声をかけた。
「そう」
短く答えた。
「ねえ」
今度は逆に声をかけてきた。
「あなたは何故この大会にエントリーしたの」
綺麗な声だ。
「さあ、解らない」
「解らない?」
「母親が勝手にやったんだ。俺はGSになる気もなければ、除霊なんかした事もない」
正直な答えだ。
「そう。それで一次試験も」
野亜は目を伏せる。
「君は?」
今度は英夫が尋ねた。
「・・・宿命よ。そして、あなたと出会ったのは運命」
その瞳には大きな哀しみが映っていた。
「え?俺がこの試験に出たからか?」
「違うわ。この試験がどうであれ、私達はいずれ出会う運命だったのよ。それが遅いか早いか」
と、謎の言葉を残して去っていった。
「さあ、お待たせしました。いよいよ準決勝の開始です!」
試合場の中央でアナウンサーが叫んでいる。
「さすがね、この熱狂振り」
「ええ、この準決勝からは武器の使用は何でもありだからな」
事実、準決勝からは受験者の身内意外は入場料が取られる。
「さあ、準決勝に勝ち進んだのはこの四人。まずは赤コーナー」
と、野亜と、奈樹が入ってきた。
「続いて青コーナー」
英夫と美希が入場する。
「勝負は無制限の一本勝負。先に相手の二人を両方気絶させたほうの勝ち。
この結界は特殊なものを使用しており、外部内部問わず、一切の攻撃を遮断します。一度張られると勝負が着くまで決して解かれることはありません」
「つまり、一度張られると、外部からは一切手が出せないということか」
もしかしたら、最悪の結果になるかもしれない。
「何で、こんなルールを作ったんだ?」
伊達が横島の方を見る。
「何でも、何年か前に結界の外から横槍を入れた奴がいたらしい。バンパイア・ハーフと魔装術の使い手の戦いだったらしいが?」
「………。間接的に俺が原因かよ」
と、舞台を見る。
「では、始め!!」
会場中の歓声とともに結界が張られる。
「さあ、どちらかが魔族なら・・・」
と、美希はお札を構える。
「片方は人間。さすがに精霊石で殺すのは悪いですね」
と、お札を投げようとする。
「行け!」
お札が相手側の二人の間に落ちる。
「英夫は男の方を!」
「了解!」
神通棍を手に奈樹に切りかかる。
「ほう、まずは君か?」
腰から霊剣を抜く。
『だめ、引いて!!』
先ほどの声が頭に響く。
「え?」
急停止した。寸前で攻撃の圏外だったようだ。
「審判」
奈樹は試合場の外に尋ねる。
「この結界は本当にどちらかのチームが倒れるまでは解かれないのだろうな?」
「ああ。特に外部からは一切何もできないようにできている」
「・・・それを聞いて安心した」
その時、奈樹の周りから光の柱が昇り、中から別人が現れた。
「ま、まさかこいつが魔族?!」
衝撃は観客席にも移った。
「カイン!!」
横島はリングサイドに下りる。後を小竜姫、雪乃丞が続いた。
「おい、審判!!至急結界を解け!!あいつは・・」
「む、無理です。先ほどもお話したとおり、この結界は一度張ると決して解くことはできません」
「くそ!!美希!!」
雪乃丞が魔装術に身を包み結界に攻撃を加える。
「ま、まったく効かない!!」
「そうですか。貴方が」
美希がカインの前に立つ。
「なら、遠慮はいりませんね」
精霊石がいくつも美希の周りを回りだす。
「ヒデは下がっていてください」
美希がカインのほうを指差すと精霊石がカインの方に向かう。
「ほう、やるね?さすがに私が送り込んだ者を倒しただけはある」
石一つ一つに意思があるかのようにカインに向かう。
「それだけかね?」
「まさか」
石からレーザーが発射される。
「むう」
カインはそれらをかわしていく。
『いけないわ、あの子のレベルじゃ勝てない』
頭の声が言う。
「何だと。しかし、美希は強いぞ。そんじゃそこらの魔族相手なら」
『相手が悪すぎるの。貴方の親、絶頂期のヨコシマでも・・・』
「え、父さんを知っているの」
『・・・まあね。しかし、そんな事よりカインをどうするかね。貴方が力のコントロールをできればいいのだけれど』
「コントロール?」
『そう、GSの基本中の基本』
「やってやるよ。さっきみたいに戦えるようにしてくれ」
神通棍から剣は伸びていない。
『まあ、その力だけでも100%出せば何とかなるわね。問題は貴方の【鍵】ね』
「【鍵】?」
『ヨコシマの煩悩であったり、あのカインにしてみれば戦いに関しての喜びに当たる物ね。見たところ貴方はそれらとは違う。その鍵さえ解れば』
その時、精霊石がカインを囲む。
「お別れです。魔族さん」
精霊石が一斉に輝き光の柱が立ち昇る。
「やったぜ!!」
英夫が叫ぶ。精霊石が美希の手に帰る。
「そんな・・・」
爆風の中、カインは立っていた。
「何故、この技は耐えようがないはず」
「確かにな。驚いたぞ。私も生身では辛かったかもしれん。しかし」
と、手を開く。そこには【防】と書かれた珠が握られていた。
「文珠?」
「そうだよ。私は作れるのだよ。この文珠がね」
と、いくつかの小さな珠を見せる。
「さすがだな。私にこれを使わせたのは横島忠夫以来だ。誉めてやろう」
と、一気に間を詰める。
「く?!」
美希は神通棍でガードしようとするが、
「な?体が動かない?!」
「おしかったな」
剣が美希を貫いた。
「え?」
「ひ、ヒデ・・・。に・・げ・・・」
そこで美希は倒れた。
「み、美希・・・」
英夫は呆然としている。
「さあ、後は君だけだよ。横島英夫クン。さあ、私を楽しませてくれ」
と、飛び掛る。
「く!」
間一髪でかわす。
『【鍵】は何なの?それさえ解れば』
頭の声が焦っている。
「いい反射神経だ。だが次はどうだ?」
霊気の塊を投げてくる。巻き起こる爆発が英夫を躍らせる。
「さあ?どうしたのかね?早く本気を出したまえ?ん?」
そこで攻撃を止める。
「?」
「そうか。霊気の【鍵】が解らんのかね?英夫クン。いや、違うな。この感じは・・・。そうかそういうことか」
と、考え込む。
「なるほど、転生できんとなったらそいつのチャクラの中に潜んでいたのか」
「何を言っている」
「まあ、どうでもいいがな。私は君が強くなってくれさえくれれば。
ふむ、【鍵】か」
と、目を閉じる。
「おい、美希!!横島何とかならんのか?」
「く!」
横島は拳を硬く握っている。
「外からは絶対に開かない、となるとやはり中からか」
「何を言っているんだ?お前の息子があの化け物に勝てるとでも思っているのか?」
「く・・・」
小竜姫も先ほどから結界に攻撃を加えているがびくともしない。
そんな様子をカインは見て、
「そうか、解ったぞ」
と、静かに笑う。
「教えてやろう、お前の鍵をな!」
と、倒れている美希の近くに飛ぶ。
「さあ、どうする?」
「な!?」
美希の首を持ち吊るし上げる。
「このまま、こいつの首を圧し折ろうか?今ならまだ間に合うぞ」
「え?」
「だ・・・だめ・・・」
美希の声が聞こえた。
「や・・・」
『霊力が』
「や・・・やめ・・・」
『お、抑えられない・・・』
「やめろー!!」
その時、衝撃が走った。
「素晴らしい」
カインの顔は喜びに満ちている。
『【怒り】が鍵だったの?』
「・・・」
リングサイドで見ていた皆が驚きで目を丸くする。
「何だ、この霊力は?!GSの比じゃねえぞ」
「封印は?」
心配そうに小竜姫を見る。
「それは大丈夫のようです。あれまで外れたら、世界が滅びます」
そんな声はよそに、
「おおお!!」
英夫が一気に間を詰める。そのまま右手で切りかかる。カインは飛び退く。
「ほお!いいね」
英夫の右手には霊波刀が伸びている。
「刀が?」
『言ったでしょう。力の使い方を教えてあげるって』
その時、英夫の後ろに女性の像が浮かび上がる。それを見て、数人から声が上がる。
「ル、ルシオラ」
そして、カインが離した美希の傍に野亜が立った事には誰も気づいていなかった。
「くらえ!」
英夫の手から霊気の塊が飛んでいく。
「!!」
カインはそれを受け止めるが衝撃で吹き飛ばされる。
「なるほど、巨大な力にそれをナビゲートする者がついているのか。いいね、20年も待った甲斐があった!」
剣を手に英夫に切りかかる。それを霊波刀で受け止める。
「ならば、これならどうだ?」
文珠を手にする。
『奪って!使う前に』
英夫はスピードを上げカインの手から文珠を奪った。
『【解】の字を思って』
「え?」
『早く!!そして、それを結界に投げ付けるの』
英夫は言われるがままにした。文殊が結界に接触した瞬間、結界が解けた。と、同時に、
「カイン!!」
横島英夫が霊波刀を手に切りかかる。
「君の息子はまだ、未完成だ。また、成長したころに来るとする」
と、空へ飛んでいった。
「美希ー!」
雪乃丞が娘の下へ急いだ。
「小竜姫、急いでヒーリングを!」
「はい!」
右手をかざす。が、
「え?治っている」
「何だと・・・」
美希は目を開けゆっくりと立ち上がった。そして、野亜の方を見る。
「助けてくださり、ありがとうございます」
「いえ・・・。あのまま死なれても、いいことはありませんからね」
と、美希の方を向く。しかし、
「貴方、何者です?」
美希が言い放つ。
「な、何を言ってるんだ。この人はお前を!」
「変だと思いませんか?送り込まれた魔族は三人」
「そうだよ、三人いたじゃないか」
雪乃丞が三人の魔族を思い出す。
「いいえ、確かに『送り込まれた魔族』は三人です。しかし、先程のカインという魔族はそれを送り込んだ人でしょう。本人が言っていました」
「そういえば・・・」
全員が野亜の方を見る。
「さあ、貴方は誰です?」
野亜は目を伏せている。しかし、ゆっくりと顔を起こす。
「気づかれていたのね」
一陣の風が吹いた後、肌の色、格好と人間と変わらないが、圧倒的な魔力を携えた女魔族が立っていた。
「このまま、引き下がっても良かったのに」
何処か悲しげである。
「仕方ないわね、これも運命」
「う、うう・・」
その場いた全ての者が圧倒的な力の前に動けない。
「カイン以上」
「私の名前はノア。あなた方が言う『バランサー』よ」
と、英夫の方を見る。
「バランサー?」
「知らないのね。私は貴方のことなら何でも知っているのに」
未だ悲しげな表情を浮かべている。
「え、ストーカー?」
一歩下がる。
「さっきも言ったでしょう。運命よ。私とあなた。出会うのは。そして、戦うのは!!」
一気に間を詰め攻撃を加える。
それを何とかかわす。
「駄目ね、ぜんぜん霊力が出ていない」
と、構えを解く。
「貴方は【怒り】で強くなる。今はその力はない」
「く・・・」
「今はその時ではないのね。でも、これだけは覚えておいて」
と、英夫に近づく。
「私と貴方は表裏一体の存在。貴方が生まれたから私も生まれた。貴方が強い力を持つから、私も・・・」
どこか悲しげである。
「・・・あなたとは、もっと違った形で・・・、いえ、それは叶わぬこと」
と、離れていく。
「また、会いましょう」
そして、消えていった。
「父さん、説明してもらいましょうか?」
英夫がすごむ。
「そうですね、何しろ私たちは死にかけたんですからね」
美希と優子も同調する。
「まあ、落ち着け。話せば長くなるんだ」
と、少し下がる。
「そもそもの始まりは・・・」
と、彼と一人の女魔族・ルシオラの過去を語りだした。
「と、いうわけで、お前の中には俺から受け継いだ魔族のチャクラがあるわけだ。俺の中ではただのガラクタに過ぎなかったが、その力は目覚めつつある」
「ちょっと待ってください」
美希が横から口を挟む。
「古来より魔族と人間の間にできた子供はたくさんいます。それらの全ては【魔】のチャクラを持っていた。しかし親の、魔族を超えるチャクラを手にしたものはいないはず」
「そう、【魔】だけなら少々霊力の強い人間が生まれるはずだった。しかし、・・・」
と、小竜姫の方を見る。
「あ、・・・そういうことですか」
「え、何?」
英夫には納得できない。
「お前の母親は神族だ。つまり、お前は【神】のチャクラも持つ。本来なら有り得ないんだよ。【魔】と【神】。二つの相反するチャクラを持ち合わせた人間など」
と、英夫の方を見る。
「これらの二つのチャクラの相反するエネルギーを持った人間のエネルギーはとんでもない物だ。事実、お前が生まれたときは神界が震撼した。その圧倒的な力を前にな。そして、それがそもそもの始まりだ」
小竜姫が続ける。
「知ってのとおり、神と魔は冷戦の時代を抜けようとしています。再び神魔戦争が勃発するでしょう。その時に備え、貴方を神側の戦士に鍛え上げるように神の長は私たちに命じました。
もちろん私たちは拒否をしました。英夫がそんな目に遭わなくても十分に互角以上に戦えるはずでした」
「しかし、二つの誤算が生まれた。一つは長い間表舞台に姿を現さなかったカインの出現。あいつはより強い者と戦うために、今回の冷戦終了に一役買った人物だ。そんな奴がお前の存在を知った。これによって、お前が狙われ始めた。今回のようにな。
そして、もう一つの誤算は『バランサー』だ」
「さっきのノアとか言う奴?」
「ああ。神と魔は天秤の両皿の様な物。片方に強い存在が生まれれば、もう片方にも生まれる。お前という存在によってあいつが生まれた。お前が強力な霊力を持つから・・・」
「さっき、言っていたのと同じこと・・・」
「そういうことだ。
英夫。強くなれ。強くなって、あの二人を倒せ。そうすれば神と魔は再び冷戦に突入できる。お前の存在が要になってな」
「・・・・・」
「そうか、引き受けて・・・」
「嫌だ」
「そうか、嫌・・・。え?!」
横島は目を丸くした。
「何で俺がそんな事をしないといけないんだ?神と魔がどうなろうと知ったことではない。そもそも、俺はそんな戦いには興味がない」
「く、くくく!」
「ふふふ!」
横島夫妻は大きく笑い出した。
「いやー、それでこそわが息子だ」
「本当。『神のために戦う』なんて言われたらどうしようかと思ったわ」
「え?!」
今度は英夫が目を丸くする。
「そうだ、お前の人生だ。好きに生きろ。なーに、心配いらん。俺と小竜姫の二人で魔族の進行はどうにでもなる。カインの奴も俺が何とかしよう」
と、笑顔で話す。
「しかし、これだけは気をつけろ。敵さんは二つのグループに分かれている。一つはカイン派だ。こいつはお前により強くなってもらい、そんなお前と戦うことを目的としたグループだ。
もう一つはお前の力に恐れをなして力を発揮する前に消しに来るグループだ。特に後者には気をつけろ。今のお前ではどうにもならん」
その時、
「ご心配なく。私が何とかします。こんなバカでも死なれると目覚めが悪いですからね」
美希が言った。
「そう」
と、小竜姫が美希に近づき小言で何かを話す。瞬間、美希の顔が真っ赤になる。
「な、何を言っているのですか?!」
「まあまあ、そうね。貴方になら任せられわね」
と、横島の方を見る。
「ああ、あれか・・・」
と、美希に近づく。
「英夫には最後の封印がある」
「その力はあまりにも強力すぎるため、赤子のときに封印しました。その封印の鍵を貴方にお渡しします」
小竜姫と横島の手から光の玉が出て、美希の体に吸収された。
「できることならこの力は使わないでくれ。コントロールが効かない可能性がある。いや、おそらく暴走するだろう。もし、暴走してしまったら・・・」
と、全員の顔を見渡す。
「全てが消し飛ぶ」
「え?俺にそんな力が」
「ああ。
俺は世界中の魔族の駆除に向かわねばならん」
「私は妙神山で魔界の監視をしないといけないの。だから英夫。がんばってね」
横島夫妻はそれぞれ旅立って行った。最後に、
「ルシオラ。英夫を頼む」
と、言い残して。
「さて、これからどうしますか?」
家への道で美希が英夫に尋ねた。
「うーん。思いつかない」
と、手のひらのGS免許を見る。
「俺がGSか。
そうだな、GSの仕事でも始めるかな」
「え?マジですか?」
あからさまに嫌そうな顔をする。
「じゃあ、美希。しばらく手伝ってくれ。俺は素人だから全く解らないから、色々と教えてくれ」
「嫌です」
キッパリと言い放つ。
「何で私がそんな事しないといけないのですか?それに今私はひのめさんの助手をしているんですよ。貴方の世話なんてしている暇なんてありません」
「じゃあ、俺もひのめさんに雇ってもらえるように頼んでくれ」
「それも、お断りします」
「ほう、そういう態度をとるんだ」
冷たい目で美希を見る。
「え?何がですか」
「GS試験で俺に助けられたのは誰かなぁ?」
「う!」
確かに英夫がいなかったら・・・。
「俺は少しでも対応が遅かったら・・、今頃、皆黒い服を着て」
と、目を閉じる。
「わかったわよ。わかりました!何とかします」
「おお、これでこそ。我が心の友」
できれば、横島と小竜姫の結婚前の話が聞けたらなぁ〜!! (孔明)
>「気づいたかもしれんが、魔族が送り込まれている。三人だ。一人は伊達美希が、もう一人は横島優子が倒した」
横島じゃなくて西条じゃなかった? (ななし)