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六道女学院教師 鬼道政樹 式神大作戦!!

試練の入り口!!


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:05/ 4/13



 意識が戻った政樹は念のため1日入院し、その翌日に退院した。




 しかし、病院を後にした政樹の表情は複雑なものだった。
 冥子のプッツンで入院したことは今までも何度かあったが、そのたび彼女は退院するまで見舞いに来てくれていた。
 だが、今回はその冥子の姿がなかったのである。
 看護師に聞いても、やはり病院には来ていないという。


(冥子はんに何かあったんやろか……)


 政樹は電車を乗り継ぎ、職場である六道女学院へ向かっていた。










「冥子はんが謹慎!?一体どういう事ですか理事長!!」
 放課後の理事長室から政樹の声が響き渡った。


「あのコは自分が起こしていることの事の重大さをいまいち理解していません〜。ですから、一度厳しい処分を与えることにしたのです〜。」
 冥子の母は湯飲みのお茶をすすりながら平然と答えた。


 冥子はデジャヴーランドでの暴走の責任を取らされ、一週間の謹慎を言い渡されていた。
 その話を聞いて政樹は真っ青になる。


「しかし、今回のことはボクにも……!!」
「式神とはもともと鬼。鬼を扱う以上、式神使いは重大な責任を負う義務があるのです〜。大勢の一般人を巻き込んだ事実は、たとえどんな理由があるにせよ許すことはできません〜。わかりますね……政樹君〜。」
 冥子の母は政樹の言葉をさえぎり、厳しい視線を向ける。
 それは冥子の「母」ではなく、1人の式神使いとしてのものだった。
 政樹を愛称の「マーくん」ではなく、「政樹君」と呼ぶところからもそれがうかがえた。


 政樹は目の前が真っ暗になっていく気がした。
(あれはボクのせいや……ボクが不甲斐なかったばかりに冥子はんを暴走させてしまったんや……ボクがもっとしっかりしとればこんな事には……)
 後悔の念が波のように政樹の心に押し寄せていた。


「本当はこれでも軽すぎるくらいなのよ〜?事件のもみ消しにもずいぶん苦労したんだから〜。」
 ほほほ、と冥子の母はいつもの調子に戻って笑う。
「でも〜、冥子1人じゃなかなか暴走を押さえられそうもないのよね〜。だから〜、早いところどうにかしてちょうだいね〜。」
「ど、どうにか……?」
「あら〜、こないだ言ったわよね〜。何とか方法を考えてみるって〜。忘れたとは言わせないわよ〜。」

 彼女は変わらずのほほんとした表情であったが、その目は笑っていなかった。
 ここで余計な反論をすれば火に油を注ぐ結果となるのは明らかだ。
 政樹はこの瞬間、逃げ道を完全にふさがれてしまったのである。
(な、なるほど…この強引さというか、押しの強さが六道家を支えてきたんやな……)
 政樹はたじろぎながらもつい感心してしまう。


 政樹はしばらくうつむいた後、顔を上げて答えた。
「もう少し……いえ、明日まで待ってもらえますか……。」
「いいわよ〜。期待してるからね〜。」








 その夜、政樹は自分の部屋の荷物を引っ張り出して何かを探していた。
 引っ越しの時に使った大きなスーツケースを開けると、中には桐の箱が大切にしまわれていた。
 それを取り出すと床に置き、正座して見つめた。


(夜叉丸と共に鬼道家に伝わる宝……まさかボクが使うことになるとはな……)


 政樹が箱を開けると、綺麗な和紙に包まれた板が入っていた。
 ていねいに和紙を外し、中の板を手に取る。


 その板には「通行手形」という文字と、夜叉丸の顔が描かれていた。


(いままで誰も成功せんかったために鬼道家のタブーとなった試練……この手形はその鍵なんや……)


 政樹の脳裏に一抹の不安がよぎる。
 冥子の母からのプレッシャーも重くのしかかってくる。
 だが、それらをかき消すように冥子の寂しそうな顔が浮かんでは消えていった。


「……。」


 政樹はしばしの沈黙の後、目を伏せ手形を箱にしまうのであった。













 翌日。


 政樹は再び理事長室を訪れていた。
 そして、理事長のデスクには休職届が置かれていた。

「これは〜、どおゆうことですか〜?」
 冥子の母は休職届を手に取り、政樹をジロッと見つめる。
「……見ての通りです。一週間ほど休みをいただこうと思いまして。」
「もしかして冥子のことを気にしてるのかしら〜?だったら認められないわよ〜。政樹君は優秀な教師なんですから〜、簡単に休んでもらっては困るわね〜。」
「いえ……そうではなく、鬼道家に古くから伝わる試練に挑戦するためです。」
「……どこに行くつもりなの〜?」
「夜叉丸の故郷へ。瀬戸内海にあるという……。」
「鬼ヶ島ね〜。」
「ご存じでしたか……その試練を克服した者は強大な力を得られると言われているんです。成功すれば冥子はんの暴走を押さえるのに役立つと思いまして……。」

 冥子の母は休職届をデスクに置き、しばらく考えたあと口を開いた。
「……鬼の本拠地に行くとなればその効果は期待できそうですね〜。わかりました、休暇を認めましょう〜。」
「ありがとうございます理事長。」
 政樹は深く一礼する。


「あの……このことは冥子はんには内緒にしてもらえますか?余計な心配をかけたくないんです。」
「わかったわ〜。でも、くれぐれも体には気をつけてね〜……マーくん。」


 その言葉は優しい「母」としてのものだった。
 冥子の母には人間的に気になる部分が多いのも事実である。
 しかし、気にかけた相手に対する気遣いや優しさは彼女の懐の広さを物語っていた。
 政樹がこの職場で働くことになったのも、そういった部分を知ったからこそである。

「……はい。」

 もう一度深く頭を下げ、政樹は理事長室を後にした。













 政樹は新幹線やバスを乗り継ぎ、四国の瀬戸内海に面した港へとやってきた。
 伝説ではこの海に鬼ヶ島が浮かんでいたのだという。


 政樹は小型のボートをチャーターし、1人沖へと向かっていった。
「確か……伝承ではこのあたりなんやが……海の上だとわかりづらいな……。」
 霊視ゴーグルで慎重に辺りを見回すと、波のざわめきに紛れた空間のひずみを発見した。
 ボートを近づけ、通行手形をかざすと空間が大きく異界へ移行し始めた。
 すると今までは何もなかった海の上に、巨大でごつごつした岩に覆われた鬼ヶ島がその姿を浮かび上がらせた。
「よし……上手くいったみたいやな!!」


 ビィーーーーッ!!


 だがその時、突如けたたましい音が鳴り響きあたりに暗雲が立ちこめる。
「な、なんや!?」
 空を見上げると、重く立ちこめた雲の中から一匹の鬼が姿を現した。
 その顔は牛で、体はボートよりも大きく腕は政樹の胴体よりも太さがある。
「牛頭鬼(ごずき)……鬼ヶ島の門番か!?」
「人間……オ、オラと一緒に来るべ。」
 牛頭鬼はそう言うと、政樹の乗ったボートを持ち上げ鬼ヶ島の岸に向かって飛び始めた。
「おい、ボクをどうする気や!?」
「し、静かにするべ。落っこちても拾ってやらないぞ。」


 やがて岩場の上にある、小さな小屋に政樹は運ばれた。
 その壁には「入島管理事務所」と看板が掛けられていた。
 牛頭鬼に促され、政樹は小屋の中へと入る。


 部屋の中にはスチール製のデスクとソファーにストーブ、そして小さなテレビが1つおいてあり、壁には「一発逆転」と書かれた額縁が飾られていた。
(なんやここは……まるで田舎ヤクザの出張所みたいやないか)

 一歩踏み込むと、ソファーに座ってテレビを見ている女の姿があった。
「あ、あの〜。」
 政樹が尋ねると、女はガバッと立ち上がりこちらを振り向く。
 それは警備員風の制服を着た、メガネ着用の美人で若い女性だった。
 ロングヘアーに軽いパーマを当て、ともすればファッション誌出てくるようなスラリとしたプロポーションの持ち主であった。
 ……ただし、その額からは立派な角が伸びていたが。

 女はつかつかと政樹の前に歩み寄り、中指でメガネをクイッと直す。

「え、えっと……ここは一体……。」
「ハイじゃあまず自己紹介!!私はここの管理やってる馬頭鬼(めずき)!!外のでっかいのは牛頭鬼っちゃんね!!で、なんでキミはセキュリティーに引っかかったわけ!?面倒だからちゃっちゃと答えてよ!!」 
 馬頭鬼と名乗る女は政樹の言葉をすっとばしてものすごい勢いでまくしたてる。
「い、いや、ボクにもさっぱりわからへんのやけど……。」
 馬頭鬼は怪訝そうに政樹をジロジロと眺めていたが、突然大きな声を出した。

「あーーーッ!?」
「い、一体どないしたっちゅうんや……?」
 馬頭鬼は政樹が手に持っていた手形を取り上げ、それを突きつけてきた。
「よく見てみなって!!この手形有効期限過ぎてんじゃないの!!これじゃセキュリティーに引っかかるはずだよ!!キミ、ここから先へは入れないよ!!」
「な、なんやて!?」
「やれやれ……じゃあそういうわけなんでお引き取りくださーい!!牛頭鬼っちゃん!!」
 馬頭鬼の言葉にうなずき、牛頭鬼は小屋の入り口に手を突っ込み政樹を掴もうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!ボクはここでどうしてもやらなあかん用事があるんや!!どうにか見逃してくれへんか!?」
「例外は認めませーん!!」
「じゃ、じゃあ他に入る方法はないんか?」
「鬼にあなたの身元を保証してもらえれば入島できまーす!!でも式神はアウトだかんね!!キミ、鬼に知り合いいる?」
「……。」


 ここへ来て、政樹のツキのなさがその威力を発揮してしまったのであった。













 政樹は港で途方に暮れていた。
「い、いきなりつまずいてもうた……これからどうしよう……。」
 防波堤の上でヒザを抱えて落ち込んでいると、そのすぐ下の道路を1人の男が通りかかった。
 ハットとコートに身を包み、旅行バッグを持って歩くその男は政樹を見つけるとその足を止めた。
(あいつ……どこかで見たような……)
 男はしばらく政樹を見つめて考えたあと、防波堤に昇って政樹に近づいた。

「よお兄さん、ずいぶん落ち込んでるみてーだけど、何かあったのか?」
 男の声に政樹は顔を上げる。
「……君は?」

 男はハットを取りその顔を見せる。
 それは魔装術の使い手である伊達雪之丞であった。
 だが、政樹に彼との面識はない。

「俺は伊達雪之丞。一応GSのはしくれさ。今は修行のために旅をしてるんだ。見たところ兄さんも霊能者みたいだな?」
「見ただけでそこまでわかるとは、君もなかなかやるみたいやな…ボクは東京の六道女学院で教師やってる鬼道政樹いうんや。」
 その言葉に雪之丞はポン、と手を叩く。
「そうだ、六女の先生だ!!あんた、弓かおりって知ってるよな?」
「ああ、弓は確かにボクの担当の生徒やが…なぜ彼女のことを?」
 その質問に雪之丞は思わず赤くなってしまう。
「い、いや、色々あってあいつのことはよく知ってるんだ。先生のこともよく聞いてるぜ。こないだ弓が持ってた写真に先生が写ってたんで、それでどこかで見た気がして声をかけたんだ。」
「そうか……まったく奇遇な話やな。ところで、君は弓とずいぶん仲がええんやな。」
「えっ!?や、その、なんつーか……まあな……。」
 雪之丞は照れながら小さな声で答える。



「不純異性交遊はつつしんでくれよ?」
「俺達はまだそんなんじゃねえッ!!」
「まだ……?」
 政樹はじとっ、と雪之丞を見る。
「そんなことより、なんで六女の先生がこんなとこにいるんだよ!!」
 その言葉に政樹は固まり、やがてしくしくと声を出さずに泣き始めてしまった。






「なるほどな、そういうわけだったのか……。」
 事情を聞いた雪之丞は腕を組み、うんうんと頷いていた。
「冥子はんの式神を何とかせんと、いつまた同じ事が起きるとも限らんやろ。それに今回はボクにも責任があるさかい、こうすることで少しでも彼女の力になれればと思ってな……。」
 雪之丞はうつむく政樹の肩に手を置き、真剣な表情で政樹を見据えた。


「ホレた女のためか……気に入ったぜ先生!!あんたの修行、俺も付き合ってやるよ!!」
 雪之丞の瞳には「漢」に向ける熱い輝きがきらめいていた。
「ゆ、雪之丞君……おおきにッ!!」
「君はいらねえぜ先生。」
「おおきに…雪之丞ッ!!」
 2人はガシッ!!と友情のシェイクハンドを交わすのであった!!


「しかし、これからどないしようか…鬼ヶ島は門前払いやし、鬼に知り合いがおるわけでもないし……。」
「いるぜ、知り合いならよ。」
「え?」
「鬼には心当たりがあるんだ。そいつに頼めば先生も中に入れてくれるかもしれねえな。」
「本当か!?」
「ああ。それじゃ早速行ってみようじゃねーか!!」

 一度は予期せぬ不運で挫折しかけた政樹に、追い風が吹き始めていた。








 政樹と雪之丞がボートで鬼ヶ島に向かうと、さっきと同じように警告音が鳴って牛頭鬼が2人を小屋へと運んだ。


「まーた来たのねキミ!!今度は友達同伴なの!?手形もさっきのままだし!!」
 そして相変わらず馬頭鬼がものすごい勢いでまくしたてる。
「さっき姉さん言うたよな?鬼に知り合いがいれば鬼ヶ島に入れるって。」
「ええ、そのとーりです!!」
「で、この雪之丞が鬼に知り合いがいるそうなんや。これなら文句ないやろ?」
 馬頭鬼はメガネをクイッ、と上げ雪之丞を見る。
「それはかまいませんけど、それだと中に入れるのは雪之丞さんだけですよ?」
「……だろうな。」
 雪之丞は思った通り、と笑みを浮かべる。
「1つ頼みがあるんだねーちゃん。ここに俺の知り合いの鬼を呼んでくれねーか?」
「わかりました……それで、どなたをお呼びしましょう?」
 馬頭鬼は雪之丞から鬼の名を聞き、古めかしい黒電話の受話器を取った。






 それから15分も経った頃、小屋のドアを叩く鬼の姿があった。
「誰だ、オラをこんな所に呼び出した人間は!!」
 青筋を立てながら入ってきたのは子供の鬼「娑婆鬼(しゃばんに)」であった。
「よう、久しぶりだな。いつかのミニ四駆勝負以来か?」
 雪之丞は口元に笑みを浮かべて娑婆鬼に近づいていく。
「オメーは確か雪之丞って除霊師だな!!オラに何の用だ!?勝負ならいつでも受けてやるぞ!!」
「まあ慌てんなよ。お前に用があるのは俺じゃねぇ、こっちの先生だ。」
 雪之丞は興奮する娑婆鬼を押さえ、親指で背後の政樹を指す。

「君が娑婆鬼か。突然のことですまんが、ボクを鬼ヶ島に入れるために口をきいてもらいたいんや。」
「何でオラがそんなことをしなくちゃなんねーんだ?」
「もちろん鬼の流儀はわきまえてるつもりや。これから1つボクと勝負してくれんか?それでボクが勝ったら鬼ヶ島を案内して欲しい。君が勝ったら尻子玉でも何でも持って行ったらええ。どうかな?」
 勝負という言葉を聞いた瞬間、娑婆鬼の目はギラギラと輝き出す。
「面白れぇ…勝負は何にする!?TVゲームか?カードバトルか?何でもいいぞ!!」

 そう言われて政樹は困ってしまった。
 さすがにこの年で子供の遊びに興じる趣味はない。
「うーん、ここには遊ぶようなオモチャもあらへんし、ボクは式神使いでゲームの方はあんまり得意やないからな……。」
 式神、という言葉に娑婆鬼はピクッ、と反応する。
「お前……式神使いか?」
「ああ、多少の覚えはあるで。」
「だったらうってつけの勝負があるだ!!表へ出ろ!!」






 小屋から少し離れた海岸で、政樹と娑婆鬼は向かい合っていた。
「で、どんな勝負をするつもりなんや?」
「オメー、ポケットクリーチャーってゲーム知ってるべ?」
「ちょっとなら…確か、自分が育てた魔物と他人が育てた魔物を戦わせるっていうやつだったかな。」
「オラ達鬼の世界ではそれを実際にやるのがはやってるんだべ。そして、これがオラの育て上げた魔物だ!!出てこいカチュー!!」
 娑婆鬼の声と共に、影の中からサッカーボールくらいの大きさのネズミが姿を現した。
 そのネズミは緋色の毛皮に身を包み、つぶらな瞳で辺りを見回していた。

「こいつ自分も魔物のくせに魔物を飼ってやがるのか……?」
 雪之丞は複雑な顔で娑婆鬼を見る。
「別にこれはめずらしいことやないで。強い魔物が弱い魔物を支配するのは昔から普通に行われとることや。」
 政樹は冷静に雪之丞に答えてやる。
「さあ、オメーも式神を出せ!!」
「わかった……来い夜叉丸!!」
 政樹の声に、夜叉丸も影からその姿を現す。
 娑婆鬼は夜叉丸をジロジロ観察し、フフンと笑う。
「ふーん、なかなか強そうだべ……勝負のルールはいたって単純!!魔物か式神が戦闘不能になった時点で勝負ありとするべ!!そして勝った方は負けた相手の魔物を奪うことができるだ!!用意はいいか!!」
「……式神同士の戦いと一緒やな。ボクの方はいつでもええで!!」



「じゃあ、開始の合図は俺がしてやるよ。」
 雪之丞は2人の間に立ち、勝負の開始を告げた。
「始めッ!!」



 開始の合図と共に、娑婆鬼のネズミが走り出す。
「行けカチュー!!(でんこうせっか)だッ!!」
「カチュー!!」
 緋色のネズミ…カチューはものすごいスピードで先制の体当たりを仕掛ける。
「ガードや夜叉丸!!」
 間一髪の所で腕を交差させ、夜叉丸はカチューの体当たりを防御する。
 ガキッ!!という激しい音が響き、2体は再び元の間合いに戻る。

「オラのカチューはみっちりトレーニングを仕込んであるだ!!このまま一気に攻めてオメーの式神もゲットだべ!!」
「こいつ……!!」
 政樹は娑婆鬼の言葉に驚愕の表情を隠せないでいた。


「どうした先生!!ボサッとしてんじゃねぇ!!」
 固まっている政樹に雪之丞が喝を入れる。



「この展開とかこいつらのセリフとか、著作権大丈夫なんやろうなコレ!!」

 だああっ!!

「わけわかんねーこと気にしてねーで集中しろ!!」
 思いっきりずっこけた雪之丞は砂まみれになりながら突っ込んだ。



 そうしているうちに、カチューは素早い動きで連続攻撃を仕掛けてきた。
 だが、夜叉丸はそれを最小限の動きでかわし続け、一瞬の隙を突いてカチューを殴り飛ばした。
 カチューは地面を転がり、娑婆鬼の足下へ転がっていく。
「やったか先生!?」
「いや、手応えは浅かった…大したダメージは与えてへんはずや。」
 政樹の言葉通り、カチューはガバッと起きあがって夜叉丸を睨む。
「人間のくせにやるでねーか…ならばこっちも本気を出すべ!!」
 娑婆鬼の言葉に反応し、カチューの毛がどんどんと逆立っていく。
 やがて緋色の毛は炎に変わり、頭と尻尾以外の場所が炎に覆われてしまった。


「もしやと思ったが……こいつは火鼠(かそ)やったんか!!」
「火鼠?」
「古い伝説に出てくる生き物で、火山の火口に住んでいてどんな炎にも耐えることができるそうや。」
 政樹の説明に娑婆鬼は自慢げに頷く。
「んだ!!けんども、カチューの力は火を防ぐだけじゃないぞ!!」
 カチューが体を震わせ始めると、その炎が伸びて夜叉丸に襲いかかる。
「かわせ夜叉丸!!直撃をもらったらヤバいで!!」
 カチューの炎を紙一重でかわす夜叉丸。
 だが、反撃のチャンスを与えまいと炎は執拗に夜叉丸を狙い続けていた。



「オラオラ、逃げてばっかりじゃ勝てねーぞ!!」
 政樹はカチューの隙を探し、何とか反撃したかった。
 しかし炎の勢いとカチューのスピードに押され、どうにも攻めあぐねてしまう。
(苦しい展開やが…必ずチャンスが来るはずや……こらえてくれよ夜叉丸……)



 一方の娑婆鬼も、攻め続けてはいるもののちょこまかとかわし続ける夜叉丸にだんだんとまどろっこしさを感じるようになっていた。
「くそ、これじゃキリがないべ……こうなったら一気に勝負を決めてやる!!」
 娑婆鬼はカチューを呼び戻し、最後の作戦に出た。
「行くぞカチュー!!必殺スーパーダイナマイトだべ!!」
 カチューは天高く舞い上がり、その体を高速で回転させ始めた。
 炎で覆われた体は文字通り火の玉となり、さらにその勢いを増していく。

「勝負を決めに来やがったな……どうする先生……!!」
 雪之丞も最後になるであろう攻防を固唾を呑んで見守っていた。




「いっけえええッ!!」



 ゴオオオオオッ!!



 夜叉丸めがけ、火の玉と化したカチューが突進する。
 夜叉丸はそれをかわす動作をせず、正面からその場で待ちかまえた。
「止めようとしても無駄だべ!!さわった瞬間に黒焦げになるのがオチだ!!」
 このとき娑婆鬼は勝利を確信した。


 だが……


「夜叉丸!!今や!!」



 ドギャッ!!



 それはわずか一瞬の出来事だった。
 夜叉丸は高速で回転するカチューの、燃えていない顔面だけを狙って突きを放ったのである。
 カウンターをもろに食らったカチューは砂浜に墜落し、もう立ち上がってこなかった。


「カチュー!?」


 娑婆鬼はまさかの出来事に呆然としていた。
「勝負あったな……。」
 雪之丞は政樹の腕を取り、天高く突き上げた。



「なんで…なんであんな事ができるんだべ!?一歩間違えれば死んでたかもしれないのに……!!」
「最後のは賭けやった。けど、ボクと夜叉丸は生まれた時からずっと一緒に暮らしてきたんや。きっとやれると信じとったからな。」
「そうか…生まれたときから……3ヶ月しか一緒に過ごしてないオラとは年期が違うってわけだべ……。」

 娑婆鬼はがっくりとうなだれ、気絶したカチューを抱き上げていた。


「娑婆鬼…勝負はボクの勝ちや。約束通り鬼ヶ島に案内してくれへんか?」
 肩を落とす娑婆鬼に政樹は声をかけた。
 娑婆鬼はごしごしと涙を拭い、まっすぐに政樹を見た。
「……鬼に横道はないべ。約束は守る!!このカチューも大事にしてやってくれ……。」
 政樹がカチューを受け取ると、夜叉丸と同化して緋色の衣へと変化した。
「なあ、あのネズミ死んじまったのか?」
 雪之丞が初めて見る式神の同化について尋ねた。
「いや、死んだわけやないよ。あの火鼠は夜叉丸の衣として同化してるだけや。これで夜叉丸は炎に強くなったってことやろうな。」
「へえ、便利なもんだな。」
「そのかわり精神力の消費も激しくなるからいいことばかりではないんやけどな……。」
2人が立ち話をしていると、娑婆鬼はすでに歩き出していた。
「何してるだ!!早くこねーと置いてくぞ!!」



 こうしてようやく政樹は鬼ヶ島に入る資格を得たのであった。






 しばらく岩場を歩いたあと、巨大な鉄の門の前に3人は立っていた。
 まるでこの世とあの世の境を連想させるような、重厚な門がそこにそびえ立っていた。



「これでようやく鬼ヶ島に入れるってわけか……楽しみだぜ!!」
 この先にどんな強敵がいるのか……そう考えるだけで雪之丞の戦い好きの血が疼いて仕方がなかった。



 政樹は門を見上げゴクリと唾を飲み込む。
「鬼ヶ島…鬼の本拠地か……どんな試練が待っていようと、ボクは必ず乗り越えたる!!」


 固い決意を胸に、政樹は鬼ヶ島の門をくぐるのであった……
 


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