椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

真の友


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 4/ 5

時は神の手によって逆再生され、その日の正午まで遡る。


前回の視点が横島達だったので、今回は異世界への進入を果たしたタマモ様である。

その時タマモはちょうどドクターカオスの謎のゲートを抜け、そして目の前にした異世界に少しばかり驚いていた。

「ホ、ホントに繋がってたの。あのジジイの作った物だし最悪ブラックホールの真中にでも出ると思ってたけど・・・ま、良いにこした事ないか」
ひどい言いようである。このまま毒舌が発達すれば、持ち前の見た目も荷担して一躍、テレビの人気芸人にでもなれそうだ。
しかしその際「どこ見てんのよー!」などと言い出したら目も当てられないので、やっぱりこの道は断念していただきたいところではあるが。


しっかし・・・どっち行けばいいのかしら?

タマモはほっぺたをぽりぽりと掻いた。
前を見ても後ろを見ても、見渡す限り森、森、森。シロの気配に気を掛けてみてもまったく持って感じられない。ここに来る途中で装着したメガネ(の形した霊視ゴーグル)を起動してみるものの、どうやらゲートをくぐるとき何かのエネルギー波にやられたらしく(磁気に弱いとの現場の声有り)うまく作動しない。

あのじいさん、何考えてるのよ。よりによってこんな所を出入り口にして・・・。

タマモは不機嫌そうにここにはいない老人に呪いの言葉を投げかけ「うぐっ、なんじゃ!?急に心臓が・・・」、そんな事していても仕方が無いので、壊れた霊視ゴーグルをしまうととりあえず勘を頼りに歩き始めた。



五分後。



「あーもうっ!歩きにくいったらありゃしない!!」

彼女はキーキー叫んでいた。
たった五分しか歩いていないのに転ぶわ服が裂けるわ(ワオw)ヒールが折れるわで踏んだり蹴ったりだったのだ。

「ちくしょう。見てなさいよ」
彼女はたった今ヒールをへし折ってくれた木の根に向かってそう言うと、ドロンと煙を噴出しながら美しい狐へと変化・・・いや、人の姿を解いて元の姿に戻った。

「おっほっほ。始めからこうするべきだったわね。
ざまーみなさいあなた達」
ピョーンピョーンと木々の間を縫うようにして走り抜け、タマモは言った。









木に向かって。







「・・・・ちっ」


・・・己の愚行に気づいたらしい。



とまぁ途中少々脱線しつつも、彼女は森のはずれへとたどり着いた。

「畑?」
そこは一面の畑だった。
『モロコシ』だの『サツマイモ』だの書いてある立て札が所々に立っていて、さらにポツリポツリと居る何者かがせっせと畑仕事に精を出していた。

タマモがボケッとその光景を眺めていると10mほど前方にいた何者かが今日にこちらを振り向いた。
「ぶも?」(訳:ん?)

やばっ!見られた!!

いくら隠匿術で気配を消しても、真っ向から見られては効果は薄れてしまう。
しかしこの程度の事で動揺しては我等がタマモ様では無く、ぱっと身をかがめて茂みに隠れ、人の形を取る。
そして地面に落ちていた小枝に術をかけると、ポーンと先ほどの何者かに向かって投げつけた。

投てきされた小枝は空中で小鳥に変わり、何者かの周りをパタパタと飛び始める。

チチチチチ・・・

「う〜も・・・」(訳:なんや、ただの小鳥かいな・・・)
何者かは警戒を解いた。そして、

目の前を飛ぶ小鳥を、突然捕まえる。

チチチチチ・・・ヂッ!

そしておもむろに口に放り込んだ。

むしゃむしゃむしゃむしゃ・・・
「うも」(訳:こらうまい)




その様子を茂みの中から眺めていたタマモはうえぇと顔をしかめた。そしてその光景から逃れるように森沿いに移動を再開する。

あれって・・・前にオキヌが買ってきたキーホルダーのキャラクターよね?
確か名前は・・・ドドロだかトロロとか言ったかしら?
あいつ、肉食だったの?


彼女が現実と作り話(おい)のギャップに動揺していたその時、

                                        「そろそろ昼飯休憩でも取るか」
                                        「そうでござるな」

この声・・・。










そして声を頼りにこっそり覗きにいって見た物は・・・シロと、何とウワサの魔人ヨコシマが、仲良く食事している光景だった。


私は、衝撃的な光景にココロがおかしくなるぐらいのショックを受けた。

――――なぜあなたを殺したはずの魔人と仲良くしているの?

――――なぜそんなに楽しそうなの?















――――なぜ元気だったのに・・・・・私に、黙っていたの?














なんで?

どうして?

なぜ?




――――貴女にとって・・・・私はその程度の存在でしかなかったの?




しばらく唖然として目の前の光景を見つめる事しかできなかったけど、シロの奴がいなくなったあたりで、突然目の前の光景が死ぬほど憎たらしくなった。

もうこうなってしまっては最後で、私は奴らが魔神だとか親友だとかそういうことは吹き飛んでしまって・・・・・











その結果が、この様よ。



私は魔神ヨコシマにまるで赤ん坊の手をひねるが如くあっけなく倒された。しかも殺さないなんていう情けまで掛けられて。







とまあそんなことがあって・・・今に至る。







もう日が傾いて障子からさす明かりが薄暗くなりやや寒さが身を包み始めるころ、こぎれいな和室に布団で寝かされていた彼女はうっすらと目を開けた。
ムクリと身をもたげると、額に乗せられていた濡れタオルずるりと滑り落ちた。

「タマモっ!目が覚めたでござるか!」
ちょうど隣の部屋からふすまを開け、水と氷が入った桶を運んできたシロが思わず笑顔を浮かべたくなる気持ちと、自分にはそんな資格は無いんだという気持ちがせめぎあっているような顔で言った。

察するにどうやら今までずっと彼女が看病をしていたらしい。

一方タマモの方はシロを見たとたん「帰る」と一言。立ち上がろうとしたが崩れ落ちた。
「まだ立ってはいかんでござるよ!」
そう叫ぶシロに半ば強制的に寝かしつけられてしまった。

「気分ははどうでござるか?」
「最悪よ」
再びよく冷やされた濡れタオルを額に乗せられて、払いのけてやりたいところではあるが思うように動く事ができないタマモは機械的に返事をした。
「タマモ・・・」
「何?」


・・・・。


「あ、あははは・・・。何だか腹が減ってきたでござるなぁ。タマモ、お前も腹が減ったのではござらんか?拙者夕飯の準備をするでござるよ」
タマモの無言の圧力に耐え切れなくなったシロは引きつった笑みを見せ、逃げるようにその部屋を後にした。


部屋に残されたタマモは、無表情に薄暗い天井をただ見上げた。






「・・・・何よ今更」










「・・・・」

無言で台所に立ち、沈んだ表情で雑炊を作り始めたシロを見て、横島は居ても立っても居られなかった。だらりと元気なく垂れ下がった尻尾が特に哀愁をそそるのだ。
「なぁ。やっぱ、とてもほっとけないんだが」
タマモとは、また別の部屋にて何故かマリアに拘束されている彼は、傍らで昆布茶をすすっているカオスに意見を述べた。しかしカオスは渋い顔。
「馬鹿たれ。今おぬしに何ができるか。今度の事はあの二人で何とかせねばならない問題じゃよ。今お前が出て行こうとも事態が悪化するだけじゃ」
「でも・・・」
「デモもストライキも無いわ。マリア、しっかり抑えて放すなよ」
「イエス・ドクターカオス」
主人の命令に忠実な彼女は、何故かいつもよりやる気25%増量(当社比)で答えると横島に絡ませた腕に力を込めた。
「アイタタタタタ!マリア、強すぎだっ!それとおっさん!!そもそもの原因はお前・・・」
「はぁ、茶がうまいのぅ」
「都合の悪いときだけモーロクするな!!」


「なーに心配は要らん。わしが見たところそこまでひどい事にはなっとらんよ。ま、そこで見ておれ。わしの十世紀の英知を信じろ」
齢1000年をとうに超える破天荒じじいは、どこか天狗を思わせる声でカカと笑った。



悲鳴をあげる横島、茶をすするカオス、何か嬉しそうなマリアのやり取りを遠くに聞きながら、シロはちょうど出来上がった雑炊を運んでタマモのいる部屋へと入っていった。



「タマモ」
「何?」
シロの声を聞き、彼女はムクリと上体を起こした。
少し、動けるようになってきたらしい。
ちなみに先ほど額に乗せてやったタオルは、投げつけられたのかベチャリと壁に張り付いていた。


「夕飯、作ってきたでござるよ。ホラ、タマモの好きな油揚げも入れたでござる」
ホカホカと湯気の立つ暖かそうな雑炊をすくったレンゲが、タマモの前に突き出された。
鼻孔をくすぐるさもうまそうな雑炊の匂いが、自然と大して空いていない腹を刺激するが、その感覚までもが今のタマモにとっては癪に障る。
「・・・いらない」
タマモはレンゲから・・・いやシロから目をそらして言った。

「遠慮は要らないでござるよ。空腹なのでござろう?」
「・・・いらない」
シロは一瞬身を硬くしたが、再び優しい笑みを浮かべ、そっぽを向くタマモの前に回りこんだ。

「ほら、そんな事言わずに」
「いらないって言ってるでしょう!!」
タマモはキッと目の前でへらへら笑っているモノを睨み付け、突き出されたレンゲを弾き飛ばした。

ばしっ・・・・・ころんころん

「あ・・・」
弾き飛ばされたレンゲは雑炊をぶちまけながら床を転がった。

「あはは・・・床、汚れちゃった・・・。何をするでござるか、タマモ」
シロは「床、拭かないと・・・」と呟いて服の袖でぐいぐいとこぼれた雑炊をぬぐい始めた。


ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい・・・・・


機械的に往復される服の袖。


ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい・・・・・


ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい・・・・・

ぽたぽた。

ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい・・・・・

ぽたぽた。


タマモは、何度も何度も同じところを拭くぽたぽたと涙を流し始めた彼女をじっと見つめ、小さく口を開いた。
「何、泣いてるのよ」

ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい・・・・・

ぽたぽた。

「あんたの方が私の事を裏切ったんでしょ?」

ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい・・・・・

ぽたぽた。

「何とか言いなさいよ」

「・・・・・ごめん、なさい」

「何よ今更・・・。あんた自分がどれほどの事したか解かってるの?」
「・・・ごめんなさい」


・・・。


「・・・たんでござる」
シロが消え去りそうな声で何か言った。

「拙者・・・勝手にタマモを厄介ごとに巻き込むわけにはいかないし、それにタマモなら、いつも強くてクールなタマモなら、拙者がいなくても大丈夫だと思ったんでござる」
少し言葉を強めて言い直す。





「馬鹿じゃないの」
少しの間を置いて、感情のこもっていない声でタマモが言った。

「いくら外見が強そうでも、人の並みの感情ぐらい備えてるわよ」

「ごめんなさい・・・ごめんなさいごめんなさいぃっ!!」
タマモの冷たい言葉に耐え切れなくなって、シロは顔を押さえて泣き始めた。


「えっぐ・・・ひっく・・・」



しばらくの間、部屋には彼女の嗚咽以外何も聞こえるものは無かった。
やがて、タマモはさもその嗚咽とは無関係であるかのように唐突に口を開く。

「何よ、自分ばっかり泣いちゃってさ」

声が震えた。

「泣きたいのはこっちよ・・・。ちょっと仕事で遠出して帰ってきたら、いきなりあんたが死んだとか聞かされて。私・・・寂しかったんだから。怖かったんだから・・・」
顔を伏せ、くぐもった声で彼女は言った。







「シロが・・・生きてた」


ぽた・・・ぽた・・・。
伏せられた顔の下に、二三小さなシミが生まれた。


「シロが生きてた・・・・生きてた、生きてた。生きてた生きてた生きてたっ!!!


良かったよぉぉぉっっ!!!」


彼女はすぐそばで同じく泣いていたシロの腕を掴むとぐいと引き寄せて抱きしめ、わんわんと泣き始めた。

気丈なはずの彼女がしゃくりあげて泣くなどという突然の事に一瞬あっけに取られたシロであったが、気を取り直すかのように大泣きを再開する。


涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃの顔になりながら、まるで今までの溝を埋めるかのように抱き合い、二人は泣きじゃくった。












「うまく、いったようだな。良かった・・・。しかし仲直りできた事はかなりいい事だが・・・どうしてこうもうまくいったんだ?」
別の部屋にて、マリアに背後からおかしな関節技を極められている横島が、少し納得できないような顔をしていた。

シロタマの友情劇にうんうん、と頷きながら感激しているカオスは「解かってないな」と目の前の男をたしなめた。

「それが・・・親友ってもんじゃよ」

「そーゆーもんか?」
「そーゆーもんじゃ。
二人とも、最初から心の底では『昔のような関係に戻りたい・・・』と思っていたんじゃよ。狐のお嬢ちゃんは誰にも弱みを見せたくないから、外見的にはなんでもないように振舞っていたんじゃろうが本当は相当寂しかったに違いない・・・。それに彼女が襲い掛かったのがお前だったというのもミソじゃな。万に一つも魔神に勝てる事など無い。つまり何だかんだ言って狼のお嬢ちゃんとは戦いたくなかったんじゃ。
狼のお嬢ちゃんの方も『彼女なら大丈夫』と無理やり自分を納得させていた節があるからな。本当はかなり後ろめたかったんじゃろう。

・・・今は、二人きりで思いっきり泣かせてやれ」
カオスはそう言うと、手の中の湯飲みに残るすっかり冷めてしまった昆布茶を飲み干した。

未だに昆布茶を飲み干していなかったという事は、偉そうな事言っている割にはハラハラしながらシロタマの様子をうかがっていたようだ・・・。

「よし、マリアもう放していいぞ」
昆布茶を飲み終えたカオスは、未だに横島を拘束しているマリアに、彼を話すよう命令する。
しかし、
「・・・・」

「マリア?どうした・・・・?

ああっ!!こやつ自分でブレーカーを!」
「なっ、じゃあ俺ずっとこのままか!!」




その晩。異世界に佇む小さな家では二人の女性が大泣きする声と、男と老人がぎゃあぎゃあ騒ぐ声が何時までも響いていたそうだ。


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