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BACK TO THE PAST!

狐の女


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 4/ 4

ごうっ!
空気を焦がしながら、そいつは無遠慮に突然すぐそばの森の中から飛び出してきた。人の都合を考えない、女性に嫌われるタイプである。


「どわっ!」
横島は突然の事に驚きながらも突如飛来してきた火の玉を、十分な硬度を維持しうる限界の広さまで広げた扇形ハンドオブグローリーで叩き落とした。突然のサイキック活劇に、現地住民の魔法生物達はキャーキャー言いながら雲の子を散らすように逃げ出した。

安心したのもつかの間、次々と火の玉は飛来してくる。
だが最初のは奇襲だったから遅れをとったのであって、初弾以降の攻撃は剣状に戻されたハンドオブグローリーによって軽々と打ち落とされた。ついでにルシオラバイザーも文珠で『呼』び出して装着する。

しかしその見た目とは裏腹に、横島の心中は嵐のようだった。




―――――ここが、感づかれたのかっ!!??

彼の顔が真っ青に変化する。

例え本当に見つかったとしても自分だけがやられるのならまだあきらめられる・・・

しかし、ここにはシロがいる。

彼女には自分ほどの・・・世界からイチャモンつけられるほどの力は無い。
だが、シロにも文珠は使える・・・いや、これはさほど危険な事ではない。そんな事よりも横島が都合よく消してくれていた横島の過去と言う、横島を消したがっている連中にとって邪魔以外の何者でもない記憶を持ち・・・俺を匿っていると言う大犯罪まで起こしている。

コレはもはや、どうしても見つからない横島にプライドをぺしゃんこにされた連中に怨恨だけで殺されても不思議ではない状況だ。

もちろん、Drカオスやマリアだって確実に巻き込まれてしまうし、この世界の住民すら危うい。





くそっくそっ・・・なぜ、何故俺はもっと早くここを去らなかったんだっ!
俺は、一時の、仮初の平和なんぞにうつつを抜かして・・・また皆を危険にさらすのか?





横島は燃えるような自己嫌悪にとらわれ、無意識のうちのその怒りを襲撃者にまで向け始めた。

貴様が・・・貴様がぁ!

「うおぉぉぉっ!!」
とてつもない憎しみを吐き出すような禍々しい雄たけびを上げ、バイザーの探知で解かった、敵がいると思われる木々の間へと飛び込んでゆく。その眼はもはや横島忠夫ではなく、魔人の眼。

敵に向かって真正面から飛び込んでゆく行為。本来ならただ集中砲火を浴び、悪戯に自らの死を早めるだけの愚の骨頂・・・。


チャンスとばかりに打ち込まれる無数の火の玉。しかし、


「こんなものっ!」
ヨコシマは避けようともしなかった。

襲撃者の放つ必殺の炎は身にまとう霊気だけでかき消され、精霊石弾も跳ね返され、駄目出しとばかりに投てきされた鋭くとがった石までも、何か堅いものにあたったかのように砕け散る。

ヨコシマの剣は一薙ぎで前方の木々を切り倒し、その斬撃からかろうじて空に逃れた襲撃者を反す刀で・・・・

「くっ!?」
まさにそいつの首を斬り飛ばす直前、ヨコシマはハンドオブグローリーを鞭状に変化させ、そいつを空中でからめとった。
そしてそのまま先ほど切り倒した切り株にタン、と小さな音を立て静かに着地した。



絡めとられた相手の方は、「殺られたっ!」とでも思っていたらしく、しばし硬く目を瞑っていたが、やがて自分が生かされている事に気づくと、ありったけの憎悪を込めて、唖然とするヨコシマ、いや横島をにらみつけた。

「情けでもかける気?馬鹿にしないで!私の、たった一人の親友を奪ったあげく誑かしておいて・・・それともシロに飽きたから次はあたしって訳?」
「いや、そんなつもりは」
「黙れ!変態悪魔!!」

横島の弁解を聞き、ますます怒りをあらわにするそいつ。

「大体あいつもあいつよ!いきなり目の前から消えて・・・どんなに心配したか・・・・なのに実は私を差し置いて一人で男作って新婚生活?冗談じゃないわ!

何も言わずに出て行って、死んだふりまでしやがって・・・やっと見つけたら・・・これ!?・・・ちくしょう、ちくしょう!・・・わたっ、私はっ・・・親友だと、お、思っていたのにっ!!!」

パリパリと空中放電がほとばしり、僅かながら横島の展開するハンドオブグローリーに侵食を始めた。そいつは怒りと同時に見ていて危険と解かるほどの大量の霊気を放出していた。もちろん、そいつにとって、だ。

「止めろ、それ以上やると危険だ!命にかかわるぞ!」
「うるさいっ!黙れぇぇぇぇ!!」


ズババババババババッ!!


当然横島は止めさせようとしたが、そいつは聞く耳を持たず、むしろさらにテンションを上げる。
横島は一瞬ハンドオブグローリーを解いて、それでそいつの暴挙を止めさせようかとも考えた。しかし相手が誰であれここまで興奮状態になった者を野放しにしたら余計に危険である。さらに今文珠を投げても嵐のように荒れ狂う霊気によってどんな働きをするか解かったものではない。こうなれば、うまく相手がへばって気絶でもしてくれるのを待つしかない。

「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「くそっ・・・」

ズババババババ・・・バババッ!!!!


最後に、ひときわ大きな霊力の爆発を起こし、そいつの暴走は収まった。


・・・死んでいるなんて事はよしてくれよ。


横島はすっとハンドオブグローリーを消し、落下してくるそいつを受け止めた。
そしてそっと地面に寝かせようとしたとき、
「つっ!」
左手に鋭い痛みを感じて手を引っ込めた。おかげでそいつは地面から10cmぐらいの所で肩から落下する。

「いてて・・・」
自分を襲った痛みよりも、そいつを地面に落としてしまった事に狼狽しつつも、痛いものは痛い。痛む所を見て見ると、左手のひらの一部が見事に喰いちぎられている。溢れ出す血液を、ただでさえ数多の血を吸ってきた小汚いバンダナがさらに吸ってゆく。

・・・これだけ元気なら、命に別状はなさそうだ。
彼は自分の傷よりも相手の無事を重視し、心なしか安心した。



「先生っ!」

どうこうしている内に騒ぎを聞きつけたシロがとんで来た。
これだけ時間がかかったと言う事は本当に体調を崩していたようだ。
横島は内心心配したが、今回の場合シロがさっきの場に居合わせなかったのはかえってよかったかもしれなかった。なぜなら余計に話がややこしくなっていただろうから。
などと考えながら横島は口を開く。
「シロ・・・実はな」
が、それを最後まで聞くことなく彼女は自分で理解した。




「タ、タマモっ!!??どうして・・・」
シロは彼女の元へと走りより、心配そうにその顔を覗き込んだ。


そんな懐かしいシロの声を聞いたからだろうか?ぐったりとしていたタマモは、目を開け、








口を開いた。



















「・・・裏切り者」





と。














「カオス・・・お前なんでタマモをここへやったんだよ」
「い、いや。まさかこんな事になるとは思わんかったんじゃ。

・・・ごめんね?」




「マリア、ゴー」
「イエス・ミスター横島」
「ちょ、ちょっと待て。わしはあやまっとるではないか!っというかマリア、お前主人が誰だか忘れていないか!?」
「ノープログレム。マイマスターは・ドクターカオスです」
「解かってるんならやめんかい!・・・・・ぎゃーー!!」





隣で老人虐待事件が起きているのを、どこか遠くの出来事に感じながら、シロは一人で大きな布団の脇に正座して未だ気絶中のタマモの看病をしていた。


「タマモ・・・」
そう呟く彼女はなんだか虚ろで、まるで別人のように感じられた。


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