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復活

ルシと忠夫の平凡な日常―事務所編―


投稿者名:ETG
投稿日時:05/ 4/ 4

ここは美神令子除霊事務所。

学校で覗きに無断で協力させたため、おもっきりルシオラの機嫌を損ねた。
そのため、事務所まで無駄に時間がかかり、横島は若干遅刻し、事務所に入ったとたんに令子にぶん殴られた。

「今度遅刻したら時給255円に戻すわよ!」

それで一応ルシオラの機嫌は直ったらしく、その後はいつも通り横島の胸ポケットに戻る。


で、横島が殴られたのはいつも通り背景に沈み、
除霊前の夕食。もちろんおキヌの腕によりを掛けたご飯。

おキヌは調理の最終段階を終わったものからシロに渡し、
ちっちゃなルシオラがお皿を抱えてテーブルの上を走り回って配膳し、
シロがそこにおキヌが作った料理をよそい、
横島とタマモは手伝いもせずにマンガを読み、
令子は横目でみながら今日の除霊の書類を再確認していた。


「「「「いっただきま〜す」」」」」


横島はいつも通りいぎたなくガツガツと掻き込み、
令子は「3杯目はそっと出したらどうなのよ?」とかいいつつも自分でご飯をよそってやり、
おキヌは「ハイ、お代わり」と4杯目は令子が手を伸ばす前に、ごく自然によそってやり、
シロは「これは3つ目だから拙者のでござる!」「細かいこと言うんじゃねー」
「こればかりは先生といえども譲れないでござる!!」と牙をむきだしてカツを横島と取り合い、
ルシオラ(幻影美少女バージョン)は「ヨコシマ、アーン」とか言いながら横島に給餌しておキヌ&令子&シロに指をくわえさせ、
タマモはそれを横目で見ながら「今なら余計にとってもばれないわね」
と三角厚揚げ2枚(10、11枚目)と稲荷寿司3個(6、7、8個目)を自分の皿に取り込んでいた。


その後、ちょっと休憩して夜がふけると除霊タイム!である。


美神令子除霊事務所所長、所員&居候に命令!

「今日の除霊はCクラスが6件。どれも特に除霊条件は指定されてないわ。
 全員で押しかけて相性の良い人がちゃっちゃっと片付ける、ってな方向で行くわよ」

よーするに安めで数こなすんで考えんのめんどー。だから、近場で移動に時間がかからないこともあって、
大戦力を集中して一気に潰しちゃおうってことだ。
除霊そのものはここのメンツなら誰でも1人でOKだろう。

「で、安めだからね。お札、簡易結界、霊体ボウガンなんかの消耗品がかかるのはみーんな使用禁止よ。
 横島クンは文珠も使用禁止♪ もったいないわ。状況が変わったら私が許可するから」

ほんとーにうれしそーに言い切る。このメンツならCクラスなら元手いらず。しかもルシオラが安全保障してくれるようなもんだ。
こないだの妙神山の帰りに復活したルシオラの強さを目の当たりに見て、気兼ねなく儲けに走る美神令子所長。

いままで、条件が付いて高額にならない限り受けなかったCクラスも近場でまとめてこなして稼ぐつもりだ。
不況なんで、ムリにBクラスにしても除霊に危険と金がかかる割にはあんまりお金が取れなくなってるってこともある。

「じゃ、いつも通り、横島クン、トランクね。シロとタマモは獣形態でおキヌちゃんの膝の上ね」
当然のように言い切る令子。

「またトランクッすか?ええ加減、車買い換えて下さいよ!!!」
「こないだ新しいの買ったら気に入らないかったじゃない。あれ高いのよ!!」
「あれのトランクの乗り心地はサイテーなんです!! なんで、よりによって似たような2シートのオープンカーを買うんです!!
 それにここは日本ですよ!!あんまり雨のふらんアメリカの西海岸や地中海じゃないんですよ!!」
「雨降ったら除霊に行かないからいいのよ!! 似たようなって。ポルシェとコブラじゃ大違いじゃない!!」

「ヨコシマは私が運ぶわ。少なくともコブラよりは早いわ。ヨコシマもその方が良いでしょ?」

苦笑しながらルシオラがピントのずれまくった、というか令子の甘えまくったというか、
横島の丁稚根性が染みついたというかな、不毛な言い争いに終止符をうつ。

「ルシオラ〜〜〜ううっ。おまえだけや〜〜〜わかってくれんのわ〜〜」横島はルシオラを両手で包んで涙する。
「やん♪ 当然じゃない♪」
横島にすりすりするちっちゃなルシオラ。

そっからおキヌとシロの方を振り向いて
「一緒に乗ってかない?もう1人ならいけるとおもうわ」一緒に乗りそうな2人に提案する。
「ちょ、ちょっと、全員バラバラになったら意味無いのよ?」慌てて令子が言いつのる。

「じゃ、私も車に乗っていくわ。なら2人ともOKよ。その方が広くなっていいでしょ?」とちっちゃなルシオラ。

「私はお願いしますね。車が少しでも広くなりますもんね」
「拙者もお願いするでござる。誰かの膝の上で迷惑かけずともすむでござるからな」
おキヌもシロも口では皆のため、態度はこっちが当然とばかりに提案に乗っかる。

「飛ばなくていいなら4人でもなんとかなるわ。タマモちゃんはどうする?」
「わたしは助手席の方がいいわ。4人はいると中狭いんでしょ?
 それにもう私だけだから人間形態のママでいいってことよね?」

タマモ、狭いのはゴメンとばかりに即答。

「じゃ、3人縮めるわ」ルシオラは3人に手をかざして呑んでしまう。

「飛ばないならこのままでいいわね。歩くとしんどいからタマモちゃん胸ポケットに入れて?」
蛍にならないちっちゃなルシオラ形態でテーブルからタマモを見上げて言う。

「OK。車も広くなって良いことづくめね」ルシオラをつまみ上げて胸ポケットに入れてやる。

いままで全員で出かけると狭かったもんね!ひどい時は美神の頭の上で2時間なんてこともあったわね。

な〜んか釈然としない令子だったが文句をつけるところはない。
「だいたいなんで、所長の私が運転手なのよ!?」

アンタが走りたいんでしょーが!!それにみなさん18以下ですからなぁ〜〜


走ってる間中、ちっちゃなルシオラはタマモの胸ポケットで笑ったり相づちを打ったりしている。
ルシオラの中の横島、おキヌ、シロと楽しくやっているのだろう。

「なんか楽しそうね。美神」
「むぅ〜〜〜!」

なんだかな〜感のタマモと釈然としない感が強まる令子。

「あ、ごめんなさい。幻像で中の光景出しましょうか?話に参加できますわ」
「いいわよ!アンタら、仕事の最中なのよ!」

ま、なんやかんやで除霊現場までそんな感じ。



で、除霊現場。

自縛霊やら悪霊やらを、
ある時は令子の鞭でしばき、横島は横で文珠を構えて援護するものの流れ鞭に当たって吹っ飛ばされて、ルシオラが受け止め、
またある時は悪霊の群れをおキヌがネクロマンサーの笛で成仏させ、横島は前で守りに出てルシオラが総て防ぎ、
またある時は下等妖怪をルシオラが霊波砲で吹っ飛ばし、横島は荷物を担いで何もせず、とどめはシロがさし、
またある時は呪屋の使い魔をシロが霊波刀で叩き切り、やはり横島は荷物を担いでぼーっと見て、ルシオラが蹴っ飛ばして止めを刺し、
またある時はタマモが邪妖精をキツネ火で焼くついでに、従えていた雑魚悪霊をたぶらかしたら横島を襲ってしまい、
それを横島が思わずお札で吸引しようとして、
「お札使うなっていったでしょ!!そんな札使ったら今日一日の仕事全部赤字よ!」
との令子のお言葉と右アッパーで横島は床に沈む。
ちなみにその雑魚悪霊はルシオラがデコピン一発で成仏させた。

といった感じで緊張感のかけらもなく除霊を終了!

「これで全部終わりね。じゃ帰るわよ」と令子宣言。


すかさずタマモが、
「ルシオラ、帰りは私も中に入れて?」「いいわよ」
帰りはタマモまでルシオラの中に入ってお話してたんで、事実上コブラを令子1人で運転して事務所に帰ってきた。

横でちっちゃなルシオラがまたもや楽しそうに笑ったり相づちを打ったりしている。
「ヨコシマ、それはダメ〜〜〜」とかいって
たまに、おなかを抱えて笑ってたりしている。

中の人物たちも仕事が終わった開放感から気兼ねなく話に花が咲いているのだろう。
なんせ中に入っているのは箸が転げてもおかしい年頃の娘達と横島なのだ。

「むうぅう〜〜〜!!!」
ますます、釈然としない感が募る令子。

「あ、ごめんなさい。幻像で中の光景出しましょうか?話に参加できますわ」行きと同じことをルシオラが提案する。
「いいわよ!こっちは車の運転の最中なのよ!!!!ガキ同士お話ししてなさい!!!!」
ぶんむくれて怒鳴る令子。


「あーあ、今日の除霊はつまんなかったわねー。こんな除霊100回やっても横島クンのお給料にもなんないわね」
とぼやきながらもほくほく顔で令子が所長席に座り込む。

横島(&一同)は(神通棍と笛以外の道具使わなかったのに、んなこたぁ無いだろ!!!)と思いつつも口には出せなかった。

まあ、自分がしばけたのが2件しかなかったあたりやら、仲間はずれ?だったのが不満なんでしょうなぁ。


「今日は給料日よね。ハイ、おキヌちゃん来月もよろしくね」
とかいいながら、
所長室の引き出し(鍵付き)から封筒を取り出し、今月のお給料&お小遣いを皆に渡してゆく。

令子は、最後に封筒を横島に渡す。
「ハイ、横島クン今月のお給料。今度無断で遅刻したら時給255円に戻すわよ」

横島の顔がゆるむ。
(おー!!これで黄ばんだパンツを買い換えることができる!!!←微妙に連載当時よりUP)

その時、ちっちゃなルシオラが所長席にスゥーっと飛んでくる。

「美神さん、その件なんですけど、ヨコシマのお給料もう少し上げてもらえないかしら?」

令子の顔の真っ正面に浮かんでズバッとネゴシエートにかかるちっちゃなルシオラ。
「ヨコシマにもう少しいい生活してもらいたいの。美神さんもヨコシマ手放す気はないんでしょう?」

言外に『横島をやめさせるカード』をちらつかせるルシオラ。自分の能力もここ数日でたっぷり見せつけた。

(美神さんは間違いなくヨコシマに執着してる。+私の能力。この交渉勝ちね!
 私がよみがえった以上、ヨコシマにはつらい思いはさせないわ!!)
内心ググッとコブシを握る。

「ほほぅ、横島クンの遅刻の原因でしかも式神の分際でいい度胸ね。自我ができたとたん給料交渉とは主思いね」
所長机の上に腕を組んで笑い顔で、ルシオラをにらむ令子。

彼女とて、遅刻の真の原因は彼女だとは思っていない。
どうせルシオラの機嫌を損ねるほどのバカをやったのは横島だろうと頭から思っている。
これに関しては、他の事務所の面々も同じだったりする。

が、今日の往復のこともあり、ここぞとばかりにルシオラにいちゃもんをつける。

「あら、“丁稚の”はとっていただけたんですね」
平然として真っ直ぐに令子を見ながらいうルシオラ。

「まあね。確かに文珠が使えてアンタを式神に持つ横島クンを丁稚呼ばわりはちょっと不似合いよね。
 今日も丁稚の名に値する活躍だったけどね。
 いま、適当な呼び名は考えてる最中よ。別に扱いを変えるつもりはないけどね」

同じく身じろぎもせずに答える令子。

なっさけないことに、横島は自分のことでありながら全く動けないどころか声も出せない。

シロやタマモ、おキヌも息を呑んで2人のやりとりを聞いている。
そして、態度はともかく口で横島を評価したことがなかった令子が横島そしてルシオラを『評価』したことに軽く驚いている。

ルシオラはにっこり笑って
「で、呼び名が変わるってことはお給料はもちろん上げていただけるんですね?」

「美神さん、私からもお願いします。横島さんの時給上げていただけませんか?」
おキヌも真剣なまなざしで令子に頼む。

「フン、自分で交渉できないようなヘタレの給料を上げろと?」
鼻で嗤う令子。

「お、俺は何回も時給を上げてくれと言いましたよ?」
何とか口を開くことのできた横島。

「面と向かって真剣に言ったことがあったかしらね。欲しいもんはもぎ取るのが基本よ」
横島の方へ向き、切り返す令子。
「ルシオラみたいにね。それに『給料などいくらでもいいからついていきます。おねーさま』ってたのは誰かしら」

「拙者か(アンタは黙ってなさい!!)」声には出さないが、ひとにらみでシロを黙らせる令子。
子供が口を出す問題ではないということらしい。


しばらく、ルシオラとにらみ合う令子。その横で懇願するように令子を見つめるおキヌ。

横島は・・・・逃げることもできず立ったまま傍観者化していた。とことん情けないヤツ。


1分、2分。
短いが長い時間が過ぎてゆく。


「わかったわ。ルシオラとおキヌちゃんの頼みだし、顔見てるとシロとタマモも賛成みたいね。上げてあげるわ」
令子はふっと顔をゆるめる。


「とりあえず時給は8000円、アンタが希望するなら美神除霊事務所の初の正社員にしてあげるわ。これは高校卒業できたらね」
言いながらにっこりと笑う。


この条件に横島よりも他のメンバーが目をむく。令子からこんなことを言い出すとは思えなかった。
おキヌなどもしかするとエクストプラズムスーツでもまとった隊長か、悪い霊にでも憑かれたかと思って密かに心眼で見たほどだ。

「ただし、アンタが交渉したわけでは無いからね。お金はルシオラとおキヌちゃんに渡して共同管理してもらうわ。
 直接は2人からもらいなさい。つまり2人双方の合意があれば使えるってこと。
 それに、アンタに直接渡したんじゃ無駄遣いで消えてしまうのが目に見えてるしね」

そこで、ルシオラとおキヌを交互に見ながら、
「2人とも横島クンの給料上げろって言ったんだから責任とってもらうわよ。
 私はいちいち横島クンの金銭管理するほどヒマじゃないの」

といって、机の引き出し中から一冊の銀行通帳、ハンコおよび
それに付随するカード2枚(クレジットとキャッシュ)を取り出す。

「通帳はルシオラに、ハンコはおキヌちゃんに預けるわ。カードはまだ私が持ってるわ。
 キャッシュカード渡しちゃったら1人で出せちゃうもんね。
 クレジットカードはシルバーだからたいした額は出せないけど緊急用に私が携帯してるわ。
 2人を信用しないわけじゃなくって横島クンの無駄遣い対策ね」
 ルシオラ、通帳の使い方がわからなかったらおキヌちゃんに聞いて」

キャッシュカードを金庫に、クレジットカードを自分のカード入れにしまう。

次に通帳を開いて説明する。
「アシュタロス事変以後の時給を8000円換算で入れただけのお金がこの通り入ってるわ。
 これからは横島クンのお給料はここに振り込むから」

通帳の金額記入欄には、令子の言うとおり、毎月8000円の倍数の金額が振り込まれている。
なんだかんだ言って、給料のほとんどを天引きして貯金していてくれたようなもんだ。
もちろんのこと結構な金額になっている。

別途、横島にも直接アルバイト料が払われていたのだから、ここしばらくの時給は8000円以上になっていたことになる


「はい、横島クン昇給おめでとう」
さわやかな笑顔でおキヌにハンコ、ニヤリと意味ありげな笑顔でルシオラに通帳を渡す。

次に横島の顔におもっきり自分の顔を近づけ、横島が一瞬ひるんだすきに
「あ、それからこの通帳に切り替えたからこれは不要ね」といって、持っていた給料袋をサッと取り上げてしまう。

横島は頭がついて行ってないらしく、ほうけた顔であっさり給料袋を令子に渡してしまう。

「じゃ、後の横島クンの金銭管理はよろしく。ご両人♪ 念のために月1回以上私に明細を報告してね」
人の悪い笑みをルシオラに向けて悦に入る令子。薬珍と悪巧みや取引をする時の顔だ。


「もちろん、さっきの『遅刻したら時給255円に戻す』は生きてるからね」



妙神山でのドンパチを再びやって少しは給料上がるか?というつもりで交渉に臨んだルシオラは裏の意味をさとり唖然とする。

(さ、さすが、美神さんだわ。完全に予想外よ。やられたわ!)


要約すると
『横島クンの給料はご両人の協議で決めてね。ただし私の機嫌次第で、いつでも難癖つけてお給料さかのぼって召し上げるわよ♪』
って言ってるわけだ。

(カードが向こうにある以上、美神さんの機嫌は損ねれない!ヨコシマ共々美神さんの奴隷ってこと〜〜〜〜!?!?)

内心、両頬に手を当てて引きつるルシオラ。顔には出してないつもりだが、令子の笑みからはばれてると見るのが妥当だろう。

(これだけのお給料もらって師匠のトコ飛び出したらヨコシマは恩知らずになっちゃう〜〜〜!!!
 美神さんのトコやめれないじゃない〜〜〜〜!!!!!)

通帳の金額は7桁に達してはいるが、持ち逃げに値するたいした金額でないことも確かだ。
“あとで正社員”ってな餌も付いている。この見せ金と餌と義理で横島(とルシオラ)はがんじがらめってわけだ。

時給が今まで通り安ければ横島そそのかしてやめることも可能だがこれではちとしんどい。
もちろん、正社員になった後もこの給料システムを続ける気だろう。

横島の後先考えない行動を考えれば、今までとさほど異なった金額を横島に渡せるわけではない。
極貧の生活送ってるくせに、プロ並みのクレーンゲームの腕を持ち、自炊せずにカップ麺や牛丼食うような男だ。
金などあればあるだけ使ってしまうだろう。

その上、“事務所の良心”おキヌちゃんも見ているのだ。
だいたい、おキヌは無駄使いとはほど遠く、日給30円の頃でもなにがしかのお金がいつもあったくらいだ。

もちろん、通常の食費や被服費などは相当上がるだろうが、高校生の生活費などしれている。
“時給8000円(フルタイムで働けば年俸1800万円相当)”は絵に描いた餅。
令子の手元からは事実上金はさほど出て行かない。

これはこの口座に給料が振り込まれる限り正社員になろうが変わらない。先手を打たれてしまった、というわけだ。

銀行での名義が“横島忠夫”になってるだけ。事実上全額令子のもんだ。

しかもだ、時給が上がったからと言って勤務時間は減らすオプションはなしだ。
『遅刻したら時給255円に戻す』のだ。令子が望んだらまさに飛んで出てこいってわけだ。
ルシオラの飛行能力からして、言い訳は効くまい。


その辺のことがアシュタロスの部下の中では土偶羅に次ぐ演算能力を持つルシオラの頭の中でシミュレートされる。
(ぐぎぎぎ!!!!妙神山でのお返しコミね〜〜〜!!!)
(ほほほほっ! 生まれて一年かそこらの小娘にもならない式神に美神令子の相手が勤まるかしら?
 横島クンとアンタは一生『わ・た・し・の』丁稚よ!さらにがんじがらめにしばったげるわ!
 美神令子は欲しいものは何でも手に入れるのよ!!横島クン、アンタに盗られたままって訳にはいかないのよ?)


「さすが美神殿でござる!金だ金だと口でいっていても本当はいい人でござる!時給8000円でござるか!!先生すごいでござる。
 それに確かにルシオラ殿とおキヌ殿が管理した方が安心でござる!!」

目を輝かせて言いつのるシロ。あっさり誤魔化されたのがここに1人。
この言葉でルシオラの退路は断たれた。もはや普通に給料をくれとは言えない。


「美神さんありがとうございます!ルシオラさん早速ガス代や水道代を自動引き落としに変えましょう。
 これで止まることが無くなりますよ。それに携帯も持った方がいいですよね」

と令子に頭を下げるおキヌ。彼女もとりあえず誤魔化されたらしい。おキヌらしく目先の生活改善に思いがいっているようだ。
携帯などという『連絡がつかなかった』という言い訳のネタを封じるアイテムまで提案しくれている。

「おキヌちゃん、くれぐれも無駄遣いさせないようにね」念を押す令子。
「任せてください!家計簿もちゃんとつけてお見せしますね」と胸を張るおキヌ。

無駄使いさせない=横島の給料事実上減=令子の貯金が減らないとはぴんと来ていないようだ。


「・・・・・」タマモ無言。顔から見ると『なんか裏があるわね』と考えているようだが現代日本でのしきたりや仕組み、
金の価値がイマイチぴんとはきていない状況なのでわからないようだ。

前世の記憶は断片的にしかよみがえっていないし、平安時代は基本的に物々交換経済で金は補助にすぎない。
現代日本のような現金までただの紙切れ、通帳の数字のようなバーチャルな金があふれている経済ではなかった。

この辺は生まれた時から焼き付けで神魔界も含め、主要国の仕組みを知っているルシオラとは違う。
四千年の妖狐も現代日本の中では小遣いもらっている経験不足の中坊(別に中学に通っているわけではない)にすぎない

(とりあえず、横島にきつねうどんおごってもらうのは遠慮しなくてもいいってことかしらね?)


もちろんこの辺も令子の思惑の内だ。横島の名目給料を増やしておけば、シロタマはおっかない令子よりも横島にねだるだろう。
そして、それが理不尽でなければルシオラとおキヌは出すに違いないし、エスカレートしかかれば両者を諭すだろう。

シロタマの小遣い管理までルシオラとおキヌに事実上押しつける気だ。
管理不行き届きなら横島をしばけるという特典付きで。


「ルシオラ、これでいいわよね」ルシオラをニヤっと見ていう令子。

「ええ、不満はないわ」とりあえずこう答えるしかないだろう。
横島の生活程度が大幅アップすることは間違いないのだ。ルシオラにとってもそう悪い相談ではない。

「おキヌちゃん。私はよくわからないから後で2人で相談してもいいかしら?」
(おキヌちゃんをちょっとでも多く巻き込まないとね。これも美神さんの思惑の内でしょうね。
 ヨコシマを私に独り占めさせないための。要所要所で自分も介入する気ね。ま、それはこっちも望むところだけどね)

「ええ、ルシオラさん。あとでゆっくり考えましょうね」にこにこというおキヌ。

シロの再来で横島との接触が減り、さらにルシオラの復活で接触が減っていた。
仕事が増えることより、横島との接触を令子公認で増やせるのがうれしいらしい。

まだ、令子やルシオラと張り合ってまで横島との接触を増やす勇気のないおキヌだった。


というわけで、今度は自分の処遇を、またつんぼ桟敷で決められてしまった横島だが最低限言わねばならないことがある。

「あのー、今日の給料当てにしていたんで、財布が空なんスよ。
 いくらか今コンビニかどっかでおろさせていただけませんでしょうか?」

とおキヌとルシオラにへこへこする。力関係はこれで決まったようなもんだった。


なんのことはない横島にとっての令子が3人に増えただけ。もっとも、この2人の令子は初めの令子よりは温情がありそうだが。

「突然だったもんね。夜遅いから銀行は閉まってるし、コンビニはハンコと通帳ではおろせないわよ。
 今回は大サービスで私からあげるわ。はい、5千円で間に合うでしょ」
といって、令子は横島の元給料袋から取り出す。

「あくまでお給料出してるのは私だからね。間違えないようにね」
と釘を刺しながら、お札を渡す。

「重々承知しております。給料アップありがとうございます」
と令子にもへこへこしながら五千円を押し頂く横島。情けない姿ではある。

「ま、ルシオラとおキヌちゃんに感謝するのね。じゃ、給料アップ分、さらにバリバリ働いてもらうわよ」

ときわどい服の胸あたりを横島にさりげなき見せつけ、髪を片手でかき上げながら所長席から立ち上がる。
この姿が見れるのも今年は後わずかだ。気温が下げれば令子とて、こんな服装はしない。


横島が見慣れているはずなのに鼻の下を伸ばす。さすがにダイブはしない。

(いつみてもかんぺきだよな〜〜。いつかはモノにしちゃる!)(ちょっと大人になったわね)
(はー、何で私の胸は育たないのかしら)(くっ見せつけちゃって!この体でなくても私は貧乳よ!)
(拙者の胸には未来があるでござる!!)何時のことやら?(・・・・・・おもしろ。飽きないわね)


「じゃあ、労使交渉はこれで終わり! 本日の業務はこれで終わり!ごくろうさん」

「「「「お疲れ様でした」」」」



「おキヌちゃん。この後、相談しても良いかしら?」ちっちゃなルシオラがおキヌの正面に浮かびながら小首をかしげて聞く。

(か、かわいい!!やっぱり小さなルシオラさんかわいい!!)
「えへへっ、じゃあ私の部屋でやりましょうか?」

シロも興味深そうに覗いていたが、タマモの「夜のサンポ一緒に行かない?今日は月がきれいよ」との言葉で
「いくいく、行くでござる。タマモが誘うとは珍しいでござるな」と連れだって出て行った。

「誰もいないんだし応接室でやれば?じゃ、おキヌちゃん後の戸締まり頼むわ。私は帰るから」

扉のところでふりかえり「横島クンと二人っきりだから襲われないようにね。その時はルシオラは頼りになんないわよ」
と笑顔で出て行く。「おやすみ」

「ふふふっ、そうですね。でも横島さんはそんなことしませんよね?信用しても大丈夫ですよねっ、ルシオラさん」

「さあねぇ。私はヨコシマの式神だから逆らえないし。頼りになんないわよ? 
 ほら、おキヌちゃん縛ったげるわ!これでヨコシマも喜ぶわよね!!煩悩があがると私も気持ちいいのよ!!
 ヨコシマと私のために犠牲になってね!!!」

縄持っておキヌを追っかけるちっちゃなルシオラ。

ひとわたり2人でキャーキャーとおいかっけこをして、ルシオラがおキヌを隅っこに追いつめる。

ルシオラの手元をネクロマンサーの笛で狂わせてから、
「もうっ。真剣にやりましょう!!人工幽霊一号。何かあったらお願いね」

「お任せを。0.1秒で消火液発射、1秒以内にオーナーに連絡が行きます」

昇給ショックで、何も考えずに、というか
『マフィアは殺す前に贈り物を』とか『潰そうと思うヤツには良い思いを』
とか言う言葉が頭の中を渦巻いておびえきっていた横島は、やっと現実に戻ってきて、

「ルシオラは、俺をなんやと思ってるんや〜〜!!犯罪者扱いか〜〜。
 美神さんならともかくおキヌちゃん襲ったら極悪人やないか〜〜〜!」

今日の昼に自分がやったことはおもっきり棚に放り上げてわめく。

「アラ違ったの?」とのたもうたのはルシオラである。

ドダダダダダ!!バシーン!!!
そこへ「私だと違うんかい!!」予定調和で10秒で戻ってきて横島をしばく令子。

「やっぱり心配だからコイツつれてくわ。ルシオラ、数百mなら離れても大丈夫なんでしょ」
血まみれの横島を片手でコブラの助手席に放り込む。

「美神さんこそ気をつけて下さいね」ちょっと残念そうな笑顔できついことを言うおキヌ。

「コイツに私を襲うだけの度胸と腕があればね。ほら、今日はアンタのおごりで飲みにいこ?白林屋でいいわよ」
と横島のカードをひらひらさせて車を発進させる。

ブロロロロロ〜〜〜コブラのエンジン音が遠ざかってゆく。
白林屋の周辺に駐車すれば目立つだろうなぁ。飲酒運転は・・・いいのか?



二時間ほど2人で飲んだあと令子は横島を連れ帰ってきて、ルシオラに引き渡した。

何があったのか、横島はさほど酔っていないくせに目を回しており、
ルシオラにそのまま呑み込まれてアパートに連れ帰られることになった。

「ルシオラ、やっぱりコイツ度胸無いわね」が、引き渡した時のすっごくうれしそうな顔でのたもうた令子の言葉だった。




ルシオラとおキヌの話し合いの結果はどうだったろう?詳しいことは作者にもわからないが、
自動引き落としのできるものはなるべく自動にし、服や買い置きの食料などはおキヌの監督で買いに行くことになったようだ。
その代金はとりあえずまとめておキヌが立て替え、金額が大きくなったら、3人で銀行に行っておキヌの口座へ振り込む。
という基本行動になったようだ。もちろん、別途お小遣いは横島に渡すということで。


翌日、とりあえずの買い置き食料(カップ麺からレトルトにアップグレード!)や下着を含む服の買い換えをしてこいと、
おキヌにお金を渡されて、アパートから追い出された横島は商店街へ来ていた。
下着やシーツは全部捨ててしまうからそのつもりで買ってきてくださいね!って言い渡されてきたのだ。

しばらくルシオラを胸ポケットに入れて、商店街を歩き回りって買い物をした。

帰りはけっこうな大荷物になったため、横島、ちっちゃなルシオラ双方それぞれ大袋をぶら下げることになった。
アパートに戻るとそれに倍するゴミ袋がアパートから出ていた。
(ああっ!また男のロマンが捨てられてしまう〜〜〜)等ということで内心血の涙を流しているのだが、
ルシオラが居ることもあり顔に出せない。でてるけど。

ルシオラが気にせず「じゃ、私飛べるからこの荷物は窓から入れるわ」といってアパート窓から荷物を抱えて入ってゆく。

横島は荷物を抱えて階段を上がり、部屋へはいるとおキヌがいない。

ちっちゃなルシオラが紙を持ってきて
「こんな書き置きがあったわ。美神さんから急用で呼ばれたみたい。ヨコシマはいいそうよ」

そこには呼び出された経緯とちゃんと片づけといて下さいね!っていうお言葉。

「ふうん、じゃ、2人で部屋の片づけするか」

それには答えず、しばらく考えた後、
「ね、ヨコシマ。今日は一日空いてるのよ。どっか行かない?まだお金はあるでしょ?」
と美少女(白ワンピース花柄カーデガン姿)になって迫るルシオラ。

「買ってきた物は別に腐らないものばっかりよ。おいといても大丈夫だわ」
「で、でも今日中に片づいてないとおキヌちゃんに申し訳が・・・」

どうしようか迷いながら反論する横島。
ルシオラとはいつも顔つき合わせているが、おキヌちゃんとはそうでもない。

久しぶりにおキヌちゃんがアパートへ来てくれたのだ。
こっちが優先かな・・・・・


「ううっ、命をかけて護った恋人より、おキヌちゃんの言うこと聞くのね・・」
涙目、上目遣いで横島の胸にすがっていうルシオラ(くどいですが美少女バージョン)。

横島・・・・・・・あっけなく陥落。

「大丈夫よ!早めに帰って今日中に片付ければいいわ」
うってかわった笑顔で横島の手を取って引っ張って行く。

「初のデートね。長かったわ」とはしゃぐルシオラ。

「まず、四丁目の公園行きましょ?あそこ上から見たらきれいだったのよ!!」
ぐいぐい横島の手を取って引っ張ってゆく。

そうだよな、アシュ戦以来コイツとずっと一緒だったけどデートなんて初めてだよな。
思わず涙を隠す横島。

そんな横島の思いを知ってか知らずか、

後ろから目隠ししたり・・・

腕を組んで横島にもたれかかってきたり・・・

レンズ付きフィルムでツーショット撮ったり・・・

喫茶店で一つのジュースを2人で飲んだり・・・

ゲーセンに行ってクレーンゲームしたり・・・

ルシオラは初めてだったんだけど数回やるとコツをつかんでしまった。
一回で景品を二つも三つも採るようになるとさすがに厳しい。

そのうち店の人が奥から出てきてもうご勘弁を!!とか言ってので、
お気に入りのペア2個以外はお店に返した。

ごく近場で2人。

たあいもない時間が飛ぶように過ぎてゆく



日が暮れてきた。

「そろそろ帰らないとね。ヨコシマ」
腕を組んで、肩に頭に乗せて。

「あと一か所くらいなら大丈夫よね。あの岡の上の公園行ってもいいかしら?」

「うん、見晴らしもいいしな。行ってみよう」

2人で歩いて低い岡の上に昇ってゆく。まさに日が沈まんとして夕焼け。夜と昼の一瞬の風景。

「これで約束のひとつは果たせたのかな」
西を2人で見ながら肩を寄せ合う。
「ええ」

ルシオラは横島を正面から抱きしめ、少し顔を上げて目をつむる。

横島は心持ち開いたルシオラの唇に自分の唇を近づけ・・・・。








2つが重なる・・・・・










「えっ、おキヌちゃん!?!」
重なったとたんにルシオラとは違う、身近な霊波も感じ、横島は驚愕して飛び離れる。

「やっぱりばれちゃいましたね。ごめんなさい横島さん。でも・・・」

今までのルシオラが、髪をアップに纏め、真っ赤な顔で横島を見つめるおキヌにすうっとかわる。
服装は変わらない。
その後、ルシオラがおキヌの体から弾かれるように出てくる。

「ヨコシマ、おキヌちゃんが体貸してくれてたの。ありがとうおキヌちゃん」






               《〜昨夜の事務所〜》

「明日の買い物リストはこんなもんかしら」「そうですね。あとは横島さんのあぱーと見てみないとわかりませんね」
ちっちゃなルシオラとおキヌがテーブルで向かい合って、お買い物リストを確認する。

「おキヌちゃん、ゴメンね。巻き込んじゃって。今回だけじゃなくって妙神山の時もよね」
 あの時、目が覚めたばっかりで、ヨコシマの魂の記憶に触れてメフィスト=美神さんとの前世の縁を知っちゃって、
 美神さんの今のホントの思いを知りたくなって。まわりの迷惑も考えずに・・・・・」

その後、メフィストと高島の前世での出来事をおキヌにポツリ・・・ポツリと話す。

「てなわけで、私にとっては美神さんが最大のライバルなの。今生はともかく来世まで盗られちゃ敵わないから。
 で、確認するのにあんなことやっちゃたわけ。
 あれですぐ追っかけてこなければそのままヨコシマつれて逃げちゃって、今生で縁切っちゃうつもりだったんだけど。
 やっぱり手強いわ。おキヌちゃんたちには迷惑かけたわ」

「いいんですよ。私ってゆーき無いからこうでもしないと横島さんと一緒に居れないから。
 ルシオラさんには想像もつかないでしょうけど」

照れ笑いしながら続ける。
「えへへっ。実はあの時も横島さんときすしちゃったんですよ。横島さん気がついてないかもしれないけど。
 だからちょっとルシオラさんに感謝してます」

「でも、なんでなんだろうな。ルシオラさんには言えるのに、横島さんには会うと言えないんですよね。まだ子供なんでしょうね」
ふっと、うつむいて自問自答。

「フフフっ 今生ではライバルじゃないからじゃない?
 私のは勇気ってより、すぐに、手にしないとって気持ちだったわ。寿命が1年ほどしか無かったから。
 結局、ヨコシマや美神さんやおキヌちゃんのおかげで3姉妹とも長生きできるんだから感謝してるわ」

「・・・・私はなにもできませんでした」コスモプロセッサ破壊の時を思い出してさらにうつむくおキヌ。



「・・・・・・・」
「・・・・、・・・・・」



しばらく2人とも言葉なくうつむいていたが、しばらくしてルシオラが

「今は・・・けっこう幸せかな?」ぽつりとつぶやく。

「え?」

「でも・・・・・・・もう一度、もう一度だけでいいからヨコシマをこの手で抱きしめてみたいの」

ルシオラは両腕をまじまじと見てから、うなだれ、自身をぎゅっと抱きしめてつぶやく。

「・・・・・・」おキヌは身じろぎもしない。

「ヨコシマの今生では私はこのちいさな体のまま。二度と抱きしめることも、抱いてもらうこともできないの!」

「ルシオラさん・・・」

「来世では、私は元に戻ってるかもしれないけど、その時、ヨコシマはヨコシマでなくなってるのよ!」
両手で顔を覆う。

「!!・・・・・・・・・」

「アシュ様をヨコシマが倒して、私の自縛コードを解除したらヨコシマに抱いてもらう約束だったの。
 でももうこれは永遠に果たせないの。ヨコシマは全部約束を守ってくれたのに!!!」


「ゴメンね。おキヌちゃん。言ってもせんないことよね。美神さんもそれで千年待ったんだもんね。
 今、ヨコシマと暮らせるだけ美神さん、いえメフィストより幸せなんだもん。これ以上贅沢は言えないわ」

涙を拭いて嗤う。

「明日のお買い物計画続けましょう」

しばらくじっとルシオラの目を見つめた後、
「ルシオラさん・・・私の体で良かったら・・・・使ってみません?使えるはずですよね?」
ある決意をした顔でいう。

「そんな!おキヌちゃんもヨコシマ好きなんでしょ。他の女とのデートに自分の体を貸そうなんて!!」
驚愕しておキヌの顔をまじまじと見つめるルシオラ。

「好きだから貸せるんです。ルシオラさんこそ、本当の自分の体じゃないんですよ? それでもいいなら」
真っ赤になって言う。
「私もルシオラさんに負けたくないんです。魂まで差し出す自信はないけど体貸すくらいはどうってことないです」

死津喪比女に特攻した時をお思いだしながら言うおキヌ。

あの時も魂が無くなることはなかったわよね。あれ以上が私にできるかしら?
でもあれができたんだからそばにいる資格ぐらいはありますよね。でも千年も待てるかしら?

おキヌがにっこり笑って続ける。
「シロちゃんがここんとこしょっちゅう言うんですよ。ルシオラ殿には敵わないって。
 先生の式神になれるとわかっててもやれない、ましてやなんの保証もない状況ではって。でも私は負けたくないです」

ここで、真顔になっておキヌはルシオラに言う。
「その代わり2つ約束してください。1つ目は私もついていきます。ルシオラさんと横島さんをしっかり見ときたいんです。
 2つ目は、私に気を遣って行動を制限するのはやめてください。それでルシオラさんに悔いが残れば私がイヤですから」

「2つ目の条件は飲めないわ!おキヌちゃんの体でしかも意識もあるのにそれはダメ!」

「提案した時に覚悟はできてますよ? じゃ、2つ目の条件はこうしましょう。
 横島さんにばれたら二度と体をお貸ししません。ルシオラさんがわざとばらそうと、自然にばれようと。いかがですか?」

横島がこの手のことで2度同じ手でだまされるはずはないので2つ目の条件は無いのと同じである。


「おキヌちゃん・・・・・」ややあとで涙を拭きながら「・・・・・・ありがとう」


その後、2人で計画相談。「エクトプラズムスーツは装備庫に」とか「この場合ヘンゲリンαの方が」とか
「いっそシーツや枕も汚いし全部」とか「その上、霊波や体温を似せればヨコシマでも」とか
「私が先に窓から入れば」とか「体型は似てるから」とか「私の幽体はルシオラさんの本体に入って」とか・・・


「だいたいこんなもんかしらね」「後はやってみないとわかりませんねー」


「今生で横島さんは らいばる多いんです。ルシオラさん応援してくださいね」
ざっと計画が終わって、おキヌはにこっと笑ってルシオラにいう。



ブロロロロ〜〜〜、バタン!
「おキヌちゃーん、今帰ったわよぅ!もう相談は終わった?」
玄関からゴキゲンな令子の声が聞こえてくる。

目を回した横島をぶら下げて部屋に入ってくるなり、
「ルシオラ、やっぱりコイツ度胸無いわね」とルシオラに引き渡す。

「じゃ、私は帰るわ!ルシオラ、横島クンはよろしくね!」
バタン、ブロロロロ〜〜〜


「ん、たぶん最大のライバルは彼女ね。私にとってもね。このままだと今生も来世も盗られちゃうわ」
「わかってます。数日会っただけで千年待ってた人なんでしょ。手強いですねー」

ルシオラとおキヌは顔を見合わせて微苦笑。






今日のツーショットやクレーンゲームの景品は、横島の通帳と共に式神ルシオラの中で最初の、そして最も大事な調度品になった。


to be continued


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