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復活

ルシと忠夫の平凡な日常―学校編―


投稿者名:ETG
投稿日時:05/ 4/ 4

「よかった〜〜〜!!この世の天国やった〜〜〜」

「やっぱりナマは違うな〜〜。ビデオとは大違いや〜」

横島は記憶をリプレイしては慶び、喜び、悦び、歓びに浸っていた。

「ああ、胸に当たる美神さんのちちの感触〜〜!!!マシュマロみたいに柔らかくて、あったかいし、尻はパンパンに張ってるし〜!!」
「贅肉は全くないし〜〜〜〜!!!抱きしめたときのあの髪の毛の香り〜〜〜〜!!!」
「後ろから抱きつかれた時にちちが背中に〜〜感触が〜〜〜〜!!!!!くちびるが頬にぺちょっと!!!」
「『横島クン好きにしていいのよ』な〜んちて、な〜んちって!!!!」

「おキヌちゃんもよかッた〜〜!!ふれたらこわれそうな華奢な体が〜〜〜。今まで体に触れたこともなかったもんな〜!!!」
「美神さんの髪の香りとはまた違った清純な香りが〜〜〜〜〜!!!!おキヌちゃんの息が首筋に〜〜〜〜〜!耳に!!」
「間近に迫ったおキヌちゃんの何とも言えない恥じらった顔が〜〜〜〜思い出してもあ〜〜〜〜〜!!!!」
「『もー覚悟を決めました!横島さんのおっしゃるとおりにします』あー!!!もー、おキヌちゃんで行くしかない!!!」


「声に出てるわよ。ヨコシマ」ひっじょーに不機嫌な顔をして卓袱台のヘリに腰掛けたちっちゃなルシオラ。

「私は賞味期限切れてまともな体ないわ。まともにキスすらできないの。ヨコシマの寄生虫に過ぎないの。うぅっ。
 ヨコシマの魂に寄生して大きくなるチューブラーベルみたいなもんだわ」

「でも、ヨコシマのこと一番想ってるのは私よ?体目当てなんかで女のコと付き合わないわよね?
 スケベも妄想もちょっとでも私を早く回復させるための、霊力アップ手段よね?」

「だから、多目にみ・て・あ・げ・る♪」
と、とびっきりの笑顔で霊波砲を浴びせるちっちゃなルシオラ。

ちゅどーん!!!横島の体が「く」の字に吹っ飛び、壁に激突する。


もちろん、横島の霊力で撃ってることもあり、横島のダメージは見かけより遙かに低い。
まあ、見かけ通りのダメージでもすぐ回復しそうな気はするが。

案の定、反射的に起きあがり、
「なんてことすんだよ!それでなくとも家賃滞納気味なんだぞ!追い出されちまう!!」
「命掛けた恋人の前で、他の女との出来事を口に出して回想してて、言う言葉がそれ?」
「おまえも周知の事実だろうが!!それにやましいことはなんにもしてねーぞ!!」
「その妄想この前から一体何回やったのよ!毎日毎日!!!それにだんだん事実より願望が増えてるじゃない!!!」
「健康な男子の正常な思考じゃ〜〜〜〜!!!!それにお前も霊力上がった方が気持ちいいんだろうが!!!!」
「やっぱり、ヨコシマ吸収して魔族に戻るわ!!!!!そして美しい思い出に変えてあげる!!!!!!!」
「やれるもんならやってみー!!!!!!!その前に式神符にして燃やしたるわ!!!!!!」

サイキックソーサーを出して構える横島と、空中に浮いて両手を構え、霊波砲を撃たんとするちっちゃなルシオラ。
お互いすこしづつ動きながら、相手の隙を探す。


この数日こんな会話とじゃれあいを何回繰り返しただろうか。

なにせ魂を共有している二人である。一瞬魂がつながっただけの美神美智恵・公彦夫婦でも
100回デートしたよりお互いが判かり合え、一気に結婚してしまった。

現在進行形で魂を共有している二人では、もー完全に犬も食わないというか相手の反応までわかった夫婦げんかである。
相手の気持ちなど知り尽くしている。

隠し事やら重大な嘘などはつける状態ではないし、必要もない。そういう意味では他人がこの二人に割り込む隙はない。

というより、お互いが一部分であるといった方が正確か。



もちろん、ルシオラは横島の式神だから、横島の方は一方的に相手の記憶、感覚の取得はおろか行動総てを操作することができる。

しかし、横島は感覚の取得・行動操作(これは式神操作上仕方がない)以外はしていない。つまり、記憶や考えを共有したことはない。
この辺は美智恵・公彦夫婦とは異なる(横島がしようと思えばすぐにでもできる)。

そういう意味では互いに独立した人格である。

まさに西条の言うとおり“君が女のコを奴隷扱いするはずがないだろう”状態。

そういう意味では西条の思惑は成功したといえるだろう。
ルシオラが式神でも完全な体で復活していたら西条の思惑は“あらゆる意味で”成功していただろう。



ちなみにそろそろ説明しないと倫理規定違反で削除されてしまう可能性があるので解説すると、

冒頭部分の横島の妄想は数日前の前回最後に妙神山から除霊に行った時のルシオラ蛍の中での回想シーンである。
狭いうえにルシオラの急加速・急減速で中がシャッフルされてああいう状態になったのである。

《どこまでが起こったことで、どこからが妄想かは読んでくださっている皆さんの妄想いや想像にお任せします》


ここは横島の安アパートの中。
今は月曜早朝。もうすぐシロがお弁当と朝食を持ってきてくれるはずである。

そのことに思い至った横島はシロとももみくちゃになったことも思い出し、
「俺は◇リコンじゃねー!!」と安アパートの壁に頭を打ちうつけていた。

これもここ数日の慣習行事となっている。
ホンマに追い出されるでコイツら


横島の頭がいい加減血に染まった頃、
「先生ー、おはようでござる!!ルシオラ殿もおはようででござる」
シロが鍵のかかってない玄関をノックも無しで開けて入ってくる。

最初の頃はノックしていたのだが、ノックしても横島が身を繕うわけでもないので
近頃は無駄なことはしなくなっている。

これが普通の同棲ならまずノックしないで戸を開けることもないだろうが、何せルシオラは15cmほどしかないのだ。
外から見れば女のコというより人形。シロにとっては魔族の昔を知らないので人格のある式神、の感覚の方が強い。
また、現状ではその認識の方が正確だ。

シロにとっては先生の命を自らの命を投げ出して救った、先生の次に尊敬すべき人格を持つ式神。


「またご飯とお弁当持ってきてくれたの?ありがとう。わたしが作れたらこんな苦労かけないのにね」

ルシオラは昔、魔族の頃でも人間の料理など食べたことはない。砂糖水のみで充分だった。今は味見もできない。
それに、横島の中で自我が無かった時を考慮すると、まだ生まれて実質1年ほどしか経っていない。
料理などという作業は見たこともない。
料理の作り方、等というものは戦闘には全く関係ないのであらかじめ持って生まれた知識にも入っていない。
この4ないで全くもって料理はできなかった。

「4人分(令子、おキヌ、シロタマ)作るのも5人分作るのも同じでござる。
 それよりルシオラ殿は物が食べれないのでかわいそうでござる」
「ふりはできるけどね。それよりここまで来るのが大変でしょう」
「へっへー、こればかりはおキヌ殿でもできないでござるからな。でも、拙者にとってはサンポのついでにすぎないでござる」

出しなのおキヌのちょっと悔しそうな顔を思い出しながら言う。
随伴者無しでのシロのサンポ巡航スピードは毎時30kmに達する。ちょっと興がのれば60kmである。
まして早朝は人や車が少なく、車道が使える。


「ヨコシマ、せっかくだし頂きましょう。ほら、目を覚ますの」
といって壁際で血をどくどく流して倒れている横島をやさしく揺り起こす。
毎度のことなので手当はしない。すぐ回復するし。

その後、卓袱台の上を片付けて、お茶を二人分入れる。パワーは常人よりあるので楽々空中を飛んで作業してゆく。
となりではシロが持ってきた朝ご飯を二人分ならべている。

横島はルシオラにとってはかけがえのない思い人で再生の恩人のご主人様、
シロにとっては命の恩人で先生なのでこの2人がいると雑用はさせてもらえない。

その後、ルシオラは常人の大きさになり(幻像)自分用の湯飲みと朝ご飯(これらも幻像)も出して一緒に座る。


「そんなに気を遣われなくてもいいと、拙者、前から思ってたのでござるが」

「違うの。むかしヨコシマとこういうことしたかったの。形だけでもできるから・・・・、今幸せかな」
ちょっとしんみりという。

「そうでござったか・・・すまないでござる」気持ちを察したのか、かすれるような小さな声。

「ゴメンね。変なこと言って。食べましょ。ほらヨコシマも座って」

「あ、もう用意できた?」
横島は聞こえてなかったふりをして横に座るが、目が真っ赤。


むりやり食べ物の方に向き直り、食べはじめる。

「今日もうまそうだな。こらうまい!こらうまい!」
食べ始めるといつも通りいぎたなくがつがつと食べてゆく。

しばらくして、きれいに皿の上が片づき、
「ごちそうさま、シロも腕上げたなー」「うれしいでござる。まだまだおキヌ殿には敵わないでござるが」
シロの頭をなぜてやる。

「先生ー、ご褒美のサンポでござる!!」しっぽがぶんぶん振られている。
「しゃーないな、今日は止まれと言えばちゃんとゆっくりと止まれよ」といって階段を降りて自転車に乗る。
「もちろんでござる」

「ヨコシマ、せっかくだからシロちゃんに引っ張ってもらわずに自分で漕いだら?」
「え、コイツに付き合ったら10分と持たないぞ」
「でもそれだとシロちゃん堪能できないでしょ。私が手伝うわ」
「ええっ!いいでござるか?全速で“走って”もいいでござるか?」

目をきらきらさせてシロが聞く。しっぽはちぎれんばかりだ。

「まっかせなさい。私の最高スピードは250kmは超えるわ。ヨコシマしっかりハンドル握っててね」
「ちょ、ちょとまて!!!」
サドル後部にちっちゃなルシオラが飛んでいき、押し始める。

ドン!!

「先生と一緒に思いっきり走れるなんて、すばらしいでござる!!」目を輝かせたシロが全力疾走を始める。

「まて〜〜〜!!!!これではシロに引っ張られるのがまし〜〜〜!!待ってください!!お願いぃぃぃぎぃゃーぁぁぁぁぁぁあっぁ」
「だいじょーぶよ。何かにぶつかる前に引き上げてあげるわ」

ドップラー効果で変に重低音に変わった横島の声を残して二つの黒い陰がアパートから去っていった。


もちろん車道である。交機の白バイが追いかけて振り切られ、その白バイ巡査はショックで辞表を出したとかいうのはまた別の話である。



短時間(約1時間)のサンポに付き合った後、ちょっと?疲れて二度寝(寝込み?)をしていた横島だった。
帰りはルシオラに呑み込まれて帰ってきた。自転車は小さくした後、ぶら下げて。


ルシオラはその後ずっと、いや横島が今日起きる前、暗いうちからもずっと朝日を見ていた。
特に今日は朝焼けがきれいだった。

昔は夕日が好きだったが、今は朝日の方が好きだ。
暗闇から徐々に明るくなり、世界の隅々まで力強く照らす太陽。
何者にもじゃまされずに高空へゆっくりとしかし着実に昇っていく、直視もできぬ命の象徴。



そろそろ時間だ。太陽も相当高くなってしまった。サングラス代わりにしていたバイザーを上げて部屋に入る。

「ヨコシマ、今日は学校行くんでしょう。そろそろ用意しないと」
ちなみにルシオラ復活からは初登校である。

先週までなら一限目、下手すると午前中はパスしてしまう状態だが、今は監視人付きだ。

シロとルシオラのおかげで普通の高校生以上に模範的?な生活だ。夜、除霊で遅かっただけにめちゃくちゃハードとも言う。

「わかったよー」
ごそごそ・・・・いやそーに用意する横島。


用意ができたころ、鍵のかかってない扉をノックする音が聞こえる。
「横島さん、今日は起きておられるんでしょ。一緒に学校行きません?」

同じアパートに住んでいる小鳩だ。

一緒にいる貧乏神が横島(と令子)のおかげで福の神に変わった。その過程で結婚式のまねごとまでさせてもらった。
そのため、本来もらえるが、なぜかもらえなかった生活保護、奨学金等がもらえるようになった。
今は少なくとも横島よりは裕福である。

おかげで、アルバイトも減り、母親が働きに行けるようになったこともあり、成績急上昇中だ。
世の普通の学生と違い、“学校で勉強できる”ということがどれだけ有り難いか身にしみてわかっている。

貧乏くささがとれ、成績上昇で少し自信がつき不必要な控え目さも無くなった。
笑顔も昔の笑わなければ押しつぶされてしまうというような笑いから、心から笑みがもれるように変化した。
生来やさしい上に苦労しているので気配りができる。その抜群のスタイルも相まって学内・ご近所での人気も急上昇中だ。

次期生徒会長最有力候補。もはや後援会と称するファンクラブまであるらしい。
もちろん福の神の御利益もあるのであろう。
商店街福引きやスピードくじ1等賞の常連でもある。


小鳩は横島が朝からごそごそしていると気が付いて誘いに来る。
寝ている時(ほとんどだったんだが)は察して来ないのが苦労人の小鳩ちゃんらしい。

「小鳩ちゃんおはよう。いまでるわ」
「ルシオラさんおはようございます」

数日前に小鳩とルシオラは美神除霊事務所以外の人間としては初めて初顔合わせした。
苦労人同士結構気があったらしい。それ以来ルシオラはちょくちょく小鳩の部屋に遊びに行っている。

そこで、横島ネタで二人して盛り上がっている。
『ホンっトに女見るとすぐに目尻を下げて妄想するのよ』『でも、大騒ぎするだけでしょ』
『バカでスケベであけすけでいざの時は頼りになってやさしいのよね』『いいなぁ小鳩も一緒についてきたいなぁ』
『ついてったら命がいくつあっても足らないわ』『ルシオラさんが言うとすごく説得力あります』
などなど

「じゃ、行きましょ。縮めるわよ」「へーい」ごっくん
「小鳩ちゃんも一緒に乗ってくでしょ?」「いいんですか?」
「ちょっと狭いと思うけど」

ルシオラ蛍なら高校まで本来3分かからないが、ゆっくり飛んで中で3人で会話をしている。
「こういうのはべんりやなー」寝っ転がって言う横島。
「なんか便乗させてもらって悪いですね」きちんと正座してる小鳩。頭はギリギリつかえない。
「短距離だから2人でも大丈夫よ」例によって管につながってるルシオラ。


下駄箱に ぶーん 止まり、  ぽん。

でるときはどういうわけか吐き出されるわけではなく、突然空中に現れるような形になる。

まず横島が、しばらくして小鳩が現れる。

「のわ!!横島さん!!小鳩さんも?突然現れないでください」
目の前にいきなり現れられておもわずピートがのけぞる。

「あ、ピート。おっす」と横島。小鳩も丁寧に挨拶して、ルシオラにも礼を言って自分の教室へ去ってゆく。
「ピートさんお久しぶり」齢700歳、超美形のバンパイアハーフの高校生にちっちゃなルシオラも挨拶する。

「ルシオラさんでしたよね。先週も毎日お会いしてましたよ。復活したんですか。おめでとうございます」
にっこり笑ってピートも挨拶と祝福の言葉をかえす。
「私が憶えてないだけだったんですね」と横島の制服の胸ポケットに入った15cmのちっちゃなルシオラは笑う。

胸ポケットから首だけ出したルシオラと共にピートとしゃべりながら教室に向かうところでタイガーに会った。
「横島サンが一限目の前から居るなんて天変地異の前触れですかノー」
「ご挨拶だな。コイツのおかげでな」と胸ポケットのちっちゃなルシオラを指しながら言う。

タイガーは横島の肩をガシッとつかんで揺さぶりながらいう。
「横島サン!!人間の女性に相手にされないからってそれはいけませんノー。とうとう美少女フィギュアに走るとはノー」

パァァーーーン
「横島!!久々に学校へまじめに来たと思ったら、そんなモノ持ってくるんじゃない!!!職員室で預かる!!まったくもって!!」
と後ろから現れ、ハリセンで横島の頭を張って、ルシオラを取り上げる、めがねの担任。


「やん、そんなに強くつかんじゃ痛いわ」といつもの口調と全くちがう声色で言うルシオラ。
完全に楽しんでいる。だいたい、普通の人間はおろか2流GSに金槌や神通棍で殴られてもどうってことはないはずだ。

「のわ〜〜〜なんだこりゃ!!呪いのモガちゃん人形か?」
暖かくて柔らかい感触と相まって思わず放り出す担任。ルシオラは空中に浮かんで、片手を口に当てて笑っている。

「横島サン、美少女フィギュアのみでは飽きたらず、文珠で命まで与えたんですかいノー」
「タイガー、いつまで呆けてる!!コイツはルシオラだ!!!先週まで蛍をもってきてたろーが!」
「オオ、ルシオラさんですカイ。無事復活よかったんジャー」

ポンッと手を打つタイガー。本気でフィギュアだと思っていたらしい。


怒鳴る横島の後ろでピートが担任にルシオラのことを説明している。

説明を聞いた担任は
「ええ話や〜〜、横島にはもったいないええ話や〜〜〜」と突然関西弁に変わって涙を流している。
「そういうことなら一緒に授業を受けろ。横島」
「え、いいんですか?」だめなら陰に戻そうと思っていた横島である。

普通の式神と違い、ルシオラは横島から数百メートルしか離れられない。魂を共有しているためだろう。

「別にじゃまにはならんし、その子も学校は初めてだろう。おれが責任もって校長の許可を取ってやる」


さすが机妖怪、バンパイヤハーフの学生やドッペルゲンガーの教諭がいる高校である懐が広い。

4人で校長室に行き許可を取った(ソッコーで許可)後、教室に行って他の学生に紹介。みな驚くが特に拒否反応を示さない。
横島がらみなので何でもありだとでも思っているのだろう。

それに、4人とも学生には(刺激が強すぎるので)式神としか紹介していないし、15cmの人形だ。
他の男子学生も「裏切り者〜〜〜」とかは言い出さなかった。
経緯を知ってるタイガーですら女性・恋人という感覚にはならなかったようだ。前に会った時のような妬心は顔に出ない。

前に1度だけ横島を校庭で待っていた美少女と結びつける学生は皆無だった。もう一年近くも前のことだ。


それよりも女子の方が反応が良かった。
「かわいい〜〜!!」「さわらせて〜〜」「今度うちのモガちゃんの服持ってくるわ〜」「そのつの動くんだぁ」等々。
横島は横に放り出され、机の真ん中に立ったちっちゃなルシオラの周りで盛り上がっている。

ルシオラもうれしそうにクラス女子と話している。
時たま着ている服を早変わり(幻術)で変更してポーズをとってくるっと回ったりしている。
生まれて以来戦闘と任務に明け暮れていたので、こんな経験は初めてなのだろう。


一通りそういった嵐が過ぎ去った頃、机をかついだロングヘアの女学生が近寄ってくる。
小声で「おめでとう。横島君が目に見えて元気になったわ」

普通の声にもどして「あ、私はここにおいてもらってる机妖怪の愛子よ。横島君とは補習仲間よ。一緒に青春しましょうね」
といって手を出しす。ルシオラは両手で愛子の人差し指をにぎって握手?。


その時、教室の扉がガラっと開いて、「始めるぞ、席に着け」と一限目の先生が入ってくる。

「お、本当に横島がいるな。これからは心を入れ替えるらしいな」
「ええ、よろしくお願いしますわ」「君がルシオラ君か、横島をよろしくな」
(勝手にそういうことにするんじゃね〜〜〜〜〜!!)
「一時限目から来れる時は必ず来ますわ」
(何が悲しゅうて朝っぱらから学校にこなけりゃならんのだ!!!!)
その考えは高校生としては間違ってると思うぞ。

「ヨコシマ。通学・通勤時間が事実上無くなるから学校には今までより長く居れるわよ」
正論とルシオラの笑顔に何も言えない横島だった。


「では、授業を始めるぞ。教科書157ページを開け」

授業が始まる。
案の定、10分もしないうちにうつらうつらし始める横島。はじめはルシオラが起こしていたが、あきれたのか起こさなくなった。
その、突っ伏した頭の上に座って授業を聞いている。新鮮なのか結構熱心に聞いている。


先生が黒板に書きながら、教科書を示して教えてゆく。たまにベタな冗談が混ざり眠気をはらう。

熱心にメモをとる学生、板書は写さないが真剣に聞く学生、別のこと考えてるような学生・・・・

先生が質問を学生にランダムに当ててゆく。

自信を持って答える学生、俺が当たらないかとびくびくする学生、
なぜ俺を当てないかといらいらする学生、当たっても答えられない学生・・・。

出された宿題の解答をすらすら黒板に書く学生、フリーズしてしまう学生・・・

そんな、高校として当たり前の授業風景が流れてゆく。

50分の授業が終わり10分の休憩が入る。


愛子、タイガー、横島の三人がポテチを囓りながら雑談している。ルシオラはポテチ袋横の辞書に座っている。
ちなみにポテチは愛子が出した。

「横島サン結局ほとんど寝てましたノー」
「朝からシロのサンポに付き合わされて疲れとるんじゃ!!」
「青春よねー。一緒に補習受ければ大丈夫よ♪」と愛子が楽しげに言う。
「でも、ここで教えることって大事なんでしょ?ヨコシマちょっと座ってくれない?」
「なんだよ」といっておとなしく座る横島。

ちっちゃなルシオラが横島のひたいに近づいて、触覚を触れさせる。
ぱちん。
「あて!!なにすんだよ!? お、なんか授業内容が頭に入ってるぞ?」
「今の授業整理して、頭に刷り込んだわ。サイコダイブの応用ね。本来は知識を正確に伝達する時に使うの。
 はしょった部分は私に知識に入ってるから要るなら取り出せるわ。確かに体を休めるのも重要だもんね」

「便利ですノー。ワッシにもお願いできますケンノー?」
「タイガーさん授業聞いてたでしょ?」
「ワッシはあまり頭が良くないでノー。今日の授業でわからない部分があるんジャー」
「ヨコシマに合わせて作ったから役に立つかどうかわからないけど、いいわよ」

ばちん。「ぎいや〜〜〜〜〜!!!」と頭を抱えてひっくり返るタイガー。
何事かとクラスメートが振り返る。

「だ、大丈夫?タイガーさん」
いたたっと頭を抱えながらタイガーが立ち上がる。
「とんでもないショックじゃ〜〜。横島サンは平気なんかノー。ああ、でもわからなかったところがわかるようになってるノー」


それを聞いた他の学生がなにが起きたのかを察していいつのる。
「俺にもやってくれ!!」「私にも!!!」

「こんなの青春じゃないわー!!」と1人涙を流している愛子。
それと共に憎々しい表情を隠せない一部“優等生”。

「俺からねっ。ぎょえ〜〜〜!!!」ひっくり返って気を失ってしまう。
「ええっ? 命には別状無いはずだけど大丈夫かしら?」

ルシオラはとりあえず、気を失った学生をサイコダイブで叩き起こして、異常がないかをチェックする。
「たぶん、異常は何もないわね。どお?」
「確かにもう何もないし、わからなかったところがわかるようになってるがこれは辛すぎる!!」

「タイガーが大丈夫なら、おれも大丈夫かもしれない!やってみてください!!」「いいの?」「成果には代償が必要です」
その後、「きゃ〜〜〜」「ぐげ〜〜〜〜」とかいって、受けた学生が気を失ってしまう。
それを見た後続の学生はびびって尻込みをしてしまう。


「どうやら、霊能がないと厳しいようですね。霊能力が高い方がショックが少ないんじゃないですか」
見ていたピートがいう。

「僕にもやってみてくれません?」「わかったわ」
ばちん。
「全然ショックがないですね。あ、ルシオラさんてこういう風に理解してたんですね。だいぶ僕とは理解の仕方が違いますね」

「霊能もだけど、その霊能が魔力・妖力に近い方がショックがすくないんじゃない?霊力そのものは横島君の方が上なんでしょう?」
最初から見ていた愛子が口を挟む。

「私にもやってみて。私は3人より間違いなく力が低いからそれでわかると思うわ」「ええ」

ばちん。

「あいたー。ちょっとショックがあるわね。やっぱり両方よね」
頭を片手で押さえて軽く言う愛子。

ってことは。「事実上、タイガー、横島専用かい!! 愛子やピートが必要なわけないもんな!」
「ワッシもちょっと遠慮したいノー。生きるか死ぬかならともかく一時間ごとに毎日では気が狂うノー」

というわけで、ルシオラは横島専用カンペとなった。
ただし「横島(ルシオラ)が授業を受けてなければどうしようもない」という重大な落とし穴が。

おかげで、補習の回数は意外に減らなかったそうな。
なんせルシオラも高校の授業内容なんて何にも知らないし、強突張りの仕事人間令子のおかげで出席日数はさほど増えなかった。
あと噂を聞いた数人の学生が決死の覚悟で試験前に来たりしたがやはり全員1回で敗退したという。


それは後日の話として、休み時間も終わり次の授業が始まり、居眠りし休み時間が来て刷り込まれ、を繰り返す。

「あー、やっと午前中の授業終わりやなー」
「横島君はほとんど寝てたじゃない」
「あとで、教えてくれるから安心して寝れるな。わははははっ」
「安心して寝ててね♪」

「それより弁当!弁当!」とシロ手製の弁当を広げる横島。


同じ机の向かいに自分用の弁当と椅子を出し、自分も大きくなるルシオラ(くどいですが幻術です)。
これは譲れないらしい。服もこの高校の制服に換えている。
一緒に楽しそーに食べ始める。しかも弁当の内容は横島と同じ。

どう見ても手作り弁当をラブラブで他人に見せつけながら食べるバカップル、である。

「ううっ横島サン!!裏切り者ジャ〜〜〜」
とパンの耳とスキムミルクを溶かした弁当を出して涙を流しながら横島をにらむタイガー。
今月は大失敗してエミに足蹴100回と減俸を食らったのだ。

久々にGS助手初期の頃の貧乏生活に逆戻り。

それでなくともここ数ヶ月、シロ製豪華弁当を目の当たりにしているタイガーは『横島サンはええノー』とため息をついていたのだ。
その代償が朝っぱらからサンポ、という名の耐久レースに付き合わされているとも知らずに。

まー、人間、隣の芝は青く見えるモノだ。

ここに至って、妬心と悔しさをむき出しにするタイガー。
周りの学生もどよめく。「横島!!それはどいうことだ!!!」「彼女のいるヤツは敵だ・・・・」
サバイバルナイフや肥後の守を取り出すやつ、釘バットをにぎるやつetc。etc。
「ルシオラちゃんて横島君のモノだったの?」そーでっせ。「なによあれ」


「姿が変わるだけでこんなに変わるもんですかね?」とバラの花の弁当を吸収しながら苦笑するピート。
姿で苦労しているだけに実感があるらしい。
この分ではタイガーにピートファンからの差し入れ弁当を奪われることはなさそうなので先生に持って帰ろうかな、などと考えている。

その隣で「青春よねー」とこれも自分の異空間の中で作った弁当を食べながら眺める愛子。


タイガーを横目で見ていた横島はルシオラにぼそっとつぶやく。おもっきりしらけた顔で。
「タイガーの向かいに魔理ちゃん出してやってくれ。弁当付きで」

こないだ、おもっきりラブラブで公園で弁当を食べていた2人を思い出して、ちょー不機嫌な横島だった。
自分がタイガー同じ立場だったら間違いなく文珠の一発も投げつける。

が、横島がタイガーの心情を察する、などという思考パターンを持つわけはない無い。
式神のルシオラはもちろん横島には逆らわない。

「ヨコシマの記憶見ていい?」「ああ」
「相変わらず、女のコの記憶は鮮明ね。でもこれなら完璧ね」


開けっ放されていた扉から一文字魔理が入ってくる。
「ようタイガー、一緒に弁当食べないかい」いつもの屈託のない笑顔で笑いかける六道の制服の魔理。
「なっななな、何で魔理しゃんが?」「細かいこといいっこなしだぜ。たまにはいいじゃんか」

となりの座ってない机から椅子を持ってきてタイガーの向かいに座って弁当×2を広げ、箸を縦にくわえてタイガーに微笑みかける。

「タイガ〜〜〜それはどういうことじゃ〜〜」「おまえ何時のまに〜〜〜」青白い炎が頭の上に燃えている。


横島のは式神だとみんな認識しているので本物の彼女が現れたタイガーに一斉に寄ってくる。

「こ、これは何かの間違いジャー!!」「私が間違いってのかい?」柳眉を逆立てタイガーに詰め寄る魔理。
「そ、そういうわけではないんジャー!」

たじたじのタイガー。油汗が滝のようだ。
詰め寄る男子学生達。

「ヨコシマ、これ以上は気の毒よ」
といって魔理はくすくす笑ってちっちゃなルシオラに戻る。

同時に横島の向かいに座っていたルシオラ、弁当、椅子が消える。
「タイガーさん。ごめんねー。ご主人様には逆らえないの♪」


「幻術じゃったか!」全然わからなかった。自らが幻術使いだけに冷や汗を流す。

だまされた悔しさ、恋人の存在をばらされた恥ずかしさよりも、実戦で使われたらと思ってぞっとする。
エミに化けてそばにこられても判るまい。

タイガー寅吉、いままで他人の幻術に惑わされたことはなかった。

精神幻覚なら精神波動で一発で見破れたし、光幻像でもその画像の違和感ですぐに見やぶってきた。
幻術に関しては小笠原エミにも負けないという自負があった。

タイガーはエミが苦労して探してきた、超一流の精神幻覚感応術者なのだ。

それがルシオラが幻術使いと知らなかったとはいえ、見破れなかったのだ。
いや、実戦で“私は幻術使いです”と名乗って幻術使うヤツは居ない。
いきなり、判らないようなシュチエーションで使うのが当たり前だ。

髪の毛一本一本、肌の動きはもちろんのこと、布の毛羽立ちまで表現されていた。
近づいた手の暖かみ(赤外線放射)や、詰め寄った時にその手に集中した霊波まで。
まー、そんなことまで憶えていた横島も異常なんだが。
(ふ、触れてみれば良かったんジャ。いやそれでは実戦で使える判別法にはならないんジャー)


ピートも同じことを感じたらしい。赤い目と鋭い牙。顔が高校生ではなく齢700歳のバンパイアハーフのそれになっている。
いつもピートにまとわりついている女子生徒達が見れば、震え上がるだろう。
幸い、今のことに気をとられて誰も見ていなかった。

第三者の目で冷静に見ていたピートには横島が何かやったことはすぐに察しが付いた。
それで、こっそりエヴィルアイで見ていたのだがどう見ても彼の知る一文字魔理そのものだったのだ。
もちろん、横島の向かいに座るルシオラが居なくなっていたことも判らなかった。

式神になったとはいえ、魔神アシュタロスが三界を相手にした決戦時に3鬼しか作らなかった、
直属魔族長姉ルシオラの力のすさまじさ。
自分がしょせんは人間界の妖怪に過ぎないこと思い知らされた。相手は遊びでやったのだ。

10人がかりでやっと末妹のパピリオを倒したのを思い出す。
後から考えると、あの時は相手は眷属無し、油断ありなどとかなりいい条件がそろっていた。
暖かい異空間ではなく極寒の南極の大地で勝負するだけでも人間側は負けていただろう。

他の学生も横島(+ルシオラ)のGSの能力の一端を目の当たりに見てシーンとしている。
彼らほどではなくとも超常の能力のすさまじさを感じたらしい。
何人かが自分の目を信じられなくなったのか手を見つめたり、お互いにさわりあいをしたりしている。


「ちぇっ、タイガーがたこなぐりになると思ったのに」と予想した反応とはちょっと違って不満顔の横島。
みなが畏怖やら感心やらしているのは全く感じていない。
うまく行くと思ったいたずらが失敗しちまった!ルシオラも、もーちょっと続けりゃよかったのに。とくらいにしか思っていない。

「ルシオラ、こっちこいよ。弁当の続きにしようや。つまらんこと頼んでスマン」
「ハーイ!ご主人様♪」「ご主人様はやめろよ!普段もいわないくせに」
ひゅんっととんで横島の向かいにもどり、また弁当と椅子を出して座る。

どう見ても手作り弁当をラブラブで他人に見せつけながら食べるバカップル、に戻った2人にみな質問もできない。


が、横島が決してルシオラに触れず、ルシオラも一定距離を保っていることに気づき、
ピート・タイガー・愛子は三人して皆に顔を見せないように部屋の隅に行ってしまった。

煩悩魔にさわれない恋人。おまけに相思相愛。片方はそれを維持しないと元に戻れず、忘れるために別れることもできない。
これほど残酷な組み合わせもないかもしれない。

「はー、見てられませんノー」前のデートで魔理に初キッスをしてもらったタイガーが我が身を振り返って言う。
「ほんとね。軽く装ってるだけに痛々しいわね」愛子も青春とは遠いわという顔でうなずく。
「アシュタロス事変では神魔はともかく人間界ではほとんど人も妖怪も死にませんでしたからね。
 結局あの2人が最大の功労者で被害者なんでしょうね」ピートも頷く。

復活したなんてとんでもなかったんだ、と3人でため息をつく。

こっちはそんな他人様の気遣いなど無縁のバカップル。
「それにだれが、ご主人様には逆らえないんや?」
「あら、いつもハイハイって言うこと聞いてるじゃない」
「今朝は時速100キロ以上で自転車で車道突っ走らせたよな」
「シロちゃん大喜びだったし、別に怪我一つしてないでしょ」
「意見も聞かずに妙神山にひっさらわれたよな」
「別に反対はしてなかったじゃない」
「あっけにとられてただけじゃ!!その後も俺の意見なんて聞かなかったくせに」
「妙神山の後、煩悩全開してたのは誰!!!しかも恋人の中で他の女と!!!!!」
「あんな状況にになれば、男なら誰だってああなるわい!!!!!」
「開き直ったわね!!!!!」「どっちが!!!!」

ちゅどーん!! ちっちゃなルシオラに戻ったルシオラの霊波砲炸裂!。横島かわしてサイキックソーサー投擲!
どかーん!! ちっちゃなルシオラかわす! 幻術で10人に分裂! 10人から一斉に霊波砲発射!
どどーん!! 何もいなかった空間から、横島に霊波砲ヒット!その爆炎からハンドオブグローリーが槍のようにのびる! 

教室の他の学生が逃げまどう。
「やめてくださーい!!ここは学校ですよ!除霊現場じゃないんです!」横島に組み付きながら言うピート。
「軽く装ってるんじゃ無くって、ホントに軽かったようジャー」心配してソンした〜〜顔であきれるタイガー。
「青春よねーー!」と弁当の続きを食べはじめ、見物に徹する愛子。
「こらうまい」タイガーもこの隙にとばかり横島の弁当をあさる。

騒ぎを聞きつけためがねの担任が駆けつけてくる。
「よこしまーー!!学校を壊す気かぁぁっ!!」と前襟首をつかんでつるし上げて怒鳴る。
「授業始まるまで職員室前で正座しとれー!!!!」とそのまま横島を引きずってゆく。さすがである。

ちっちゃなルシオラがあわててついて行く。
「ルシオラ君、昼休み中に教室を掃除・修理しておくように!」と振り返ってめがねを光らせる担任。

しゅたっ「ハイッ!わかりました」とアシュタロス以来の敬礼をするルシオラ。ちなみに土偶羅にもやったことはない。

あわてて、ちらかったものを片付けはじめる。

「清い交際と恋人とのけんか。いいわねー」と片づけを手伝う愛子。心底うらやましそうだ。
ピートも「僕も手伝いましょう」
タイガーは・・・・主が居なくなった横島の弁当をまだあさってます。


そうこうしているうちに昼休みが終わりにちかづく。次は体育なのでみな着替えにいきいなくなってゆく。

「ごめん、私も行くわ」と愛子やピートも去ってゆく。
「いままでありがとう」壁にくぎを手で打ちながら言うちっちゃなルシオラ。

そこに横島が戻ってくる。
「いててて。サド担任め、堅い廊下で正座なんかさせやがって」

「だれがサド担任だ」監督にきた、めがねの担任がぽこっと頭をはたく。

「みんな次の授業は体育とかで着替えに行ったわよ」
「そうか、今日は昼から体育だったか」ぽん!と手を打つ横島。

「ルシオラ、ここは俺がやっとくから女のコたちに謝ってきてくれないか?授業が始まるまでに」
「ええ、いいわよ。男子は?」
「男は後で俺が一緒になるからいいよ。体育は男と女が別なんだ」
「じゃ、行ってくるわ」
「たぶん今なら、まだみんな女子更衣室にいると思うぞ」と担任が口添えする。

担任に女子更衣室の場所を教えてもらった後、そちらへ飛んでゆくちっちゃなルシオラ。


そのころ女子更衣室では
『みんなゴメンね〜』と手を合わせるルシオラ。
『気にし無くっていいわよ。横島クンが居るといつもあんなんだし』
『そうよ、それに今教室修理してるんでしょ。先生と一緒に。なら覗かれる心配もないしね』

その時、ルシオラは横島が視界をつなげるのを感じる。
(あ〜〜!これが目的だったのね!!!!)
(フッフッフッ!これほど完璧な覗きはあるまい)と拳を握りしめながら邪悪な笑いをする横島。
(そろそろ視覚をつなぐか。これはルシオラのためでもあるしな!!)とルシオラの視覚・聴覚とシンクロする。
見かけ上は壁修理の手を止めない。

『そ、そろそろ教室の修理もあるし戻るわ』
『いーじゃないゆっくりして行きなさいよ。体育は一緒にやれないんだから』
『あの幻術ってすごいわね〜。10体に別れてたけど、本体は別のトコにいたんでしょ。わからなかったわー』

『ああでもしないとヨコシマには当たらないから。ああっもう行くわっ』
『遠慮すること無いわよ』
『それより、いいわねー。服なんかいくらでも自分の自由になるんでしょ』
『スタイルなんかも自由自在だもんね。うらやましいわー』

『絵里はAカップだもんね』
『うっさい!』『育てたげるわー』と級友の胸を後ろからつかんでもむ。
『ちょっとやめなさいよ。あんたレ△?』

(ああっ、ヨコシマの煩悩が上がって霊力が上がってるわ。気持ちいいけど気が咎めすぎるわ!)

『ルシオラちゃん真っ赤よ〜〜かわいい〜』『結構うぶなんだ〜。えい!』
と胸にちっちゃなルシオラを押しつける。

飛び離れながら『ちがう〜ちがうのよー』

横島が覗いているとは言えないルシオラだった。


こちらは教室、

(あ〜しまったぁ!こんな状態になるなら、触覚もつなぐんだったぁ〜〜!!!!)
内心で奥歯がつぶれるほど歯がみする横島。

「どうした。気分でも悪くなったのか?」と担任が横島をのぞき込む。
「な、なんでもありません」けんめーに声に出るのを抑える。


こちらは女子更衣室
『早く着替えないと先生に怒られるわよー』
『きゃっ急がないと』

遅れている数人が恥じらいも何もなく服を脱いであわてて着替えてゆく。

『またあとでねー』最後の1人が出て行く。
『じ、じゃあ私も戻るわ』あたふたとルシオラも教室のほうへ戻ってゆく。


こちらは教室
(おわっちまったか・・・でも大成功やなー。あとでルシオラにしばき倒されるだろうが、後の後悔より今の快楽や!!!)

「ま、大体こんなもんでいいだろ。横島、おまえも着替えて体育にいけ。遅れ気味だが間に合うだろう」
といって担任は職員室へ戻る。

「へーい」


その時、少しぐずり気味だった空から雨が落ち出す。やがて沛然と降り出す。

「こりゃ体育は自習か」横島は更衣室に行くのをやめて教室に戻りだす。

ほとんどの学生も体育着のまま教室にUターンしてくる。
「せっかく着替えたのになー」「降るならもうちょっと早くにふりゃいいのに」

「ルシオラちゃんすぐ会えちゃったわね〜」「更衣室から3分経ってないわね」

ルシオラが「そ、そうね」とか答えている。

それをタイガーが聞きとがめる
「ルシオラしゃん女子更衣室へいったんですかノー」
「ええ、着替えてる時にさっきのこと謝りに来てくれたの」

笑って答える女子生徒達。

顔色を変えたタイガーが叫ぶ。
「ピートしゃん、横島サンを逃げないように捕まえるんジャー!!」

ダッシュで逃げようとした横島を、訳がわからないまま、ピートがバンパイアミストで絡め取って拘束する。
「どういうことです?」「式神の視覚・聴覚などの感覚は術者に直結させることができるんジャー!!!」


それを聞いたクラスメート全員が何がおこったかを瞬間的に察する。なにせ横島だ。

「ルシオラさん・・・本当?」冷たい目でルシオラに質問する愛子。

「・・・・・はぃ」

机の真ん中に正座して小さな体を縮めるようにして答えるルシオラ。

「それでルシオラちゃん途中で帰りたがったのね」
「そういえば途中から態度が急におかしくなったわね」
口々に言いつのる女子生徒達。

「タイガーくん、式神って術者が自由に動かせるのよね」「もちろんですジャー」
「それで途中から出て行きたがってたけど、出て行かなかったし、言えなかったのね」
これはぬれぎぬだがまず晴れないだろう。


女子生徒達の怒りの気が一気に大きくなる。斜め上から三白眼で横島をにらみ据える女子生徒達。

「ああぁっ。しょうがなかったんや〜〜。みんなかんにんや〜〜」しりもちをついて後じさる横島。

360度クラスメートに取り囲まれて逃げ場なぞあるものか。しかも皆動きやすい体育着。横島は学生服。
体育は自習だから時間はたっぷりあるぞ。

何人かが、机や椅子を隅にどけて闘技場いや屠殺場を作りはじめる。


「横島サン、なんてうらやま、もといさすがにあきれましたんジャー!!
 精神幻覚感応マッチョにもみくちゃ!! & タイガーパンチ」ドカン、どすう。

「ゲフッ!マッチョはいや〜〜〜男は勘弁〜〜〜」

ムキムキのマッチョに抱えられて押さえ込まれ、マッチョに殴られているイメージ!!
激しい精神汚染を被る横島。霊防御値半減!!!

あおりを食ってルシオラ、蛍化。蛍はこれ幸いに教室の壁にこそこそゴキブリのよーに逃亡!!誰も気が付かない!

「彼女を覗きに使うなんてサイっテーだわ!机の角アタック!」ガイイイィイン。本体である机に霊力を込めて斜めに殴る愛子!!
「女性は大切に扱わなくてはいけません!!ダンピールフラッシュ!!」ドゴーン!!「横島さんなら死にませんよね」
温厚なピートもさすがに切れたようだ。


この3人から霊力のある攻撃を受けて動けなくなったところでクラスメートの攻撃!!

「安心して殴ってつかあさい。女のコに殴られても、マッチョに殴られたように横島サンは感じてるけぇ」
#マークがこめかみに浮かんだ虎マスク状態で皆に言うタイガー。

クラス女子全員が箒、椅子、辞書等で殴りかかる。中には愛子並みに机で殴ってるコもいる。
「純真なルシオラちゃんを無理矢理使うなんて!」「嫁入り前の玉のお肌が!」
「彼女持っても変わらないのね!」「ルシオラちゃんも何でこんなのがいいんだか!」

お次に控えますは男子生徒のみなさんです。皆さん、釘バット、木刀、鉄パイプ、ナックルなどを装備しておられます。
「なんてうらやましい!」「由香ちゃんは俺だけのモノだ!」「彼女がいるくせにその上に覗きだと!」
「横島のくせに!」「なんでおまえのようなヤツが霊能持ちで彼女持ちなんだ!富の偏在じゃ!」


約40分後、皆に飽きるまで攻撃されぼろぼろになった横島は豪雨の降る校庭に放り出された。

グランドが赤く染まっていったが助けに行くものはルシオラを含めて誰もいなかった。


なんとか踏みとどまって復活する横島。先ほどの女子更衣室のシーンをリプレイしながらしながら霊力を上げ、体の回復を図る。
「はー死ぬかと思った」もはや傷は癒えてきたようだ。

しっかりした足取りで教室に戻る。傷はもはや1つもない。どういう訳か服まで乾いている。

「ヨコシマ、大丈夫?」蛍からちっちゃなルシオラ状態に戻って飛んでくる。
#マークが額に浮かびちっとも心配そうな顔ではない。
ま、形だけでも心配してくれたのは彼女だけだ。他の人は日常会話で振り向きも揶揄もしない。


次の授業が始まる。この授業は理科の実験。2コマ連続だ。今日最後の授業でもある。

実験にもかかわらず、横島は充分に安心して理科教室の隅で居眠りする。
反省とか、後悔とかいう上等なものはぜーんぶ母の胎内に忘れてきてしまった男である。

授業が終わった。どういう訳かすぐ目を覚ます横島。

「ヨコシマ、この授業も憶える?」「ああ、たのむわ」
額に近づいて触覚を触れさせるちっちゃなルシオラ。

バチーン「ぎゃっ!!!」横島は白目をむいて後ろにひっくり返る。起きあがってこない。

「あっ大丈夫?今の授業、端折らずに全部刷り込んだんだけど?この辺は私も知ってるから周辺も合わせてね。
 ついでに今までの授業の端折った部分も刷り込んだわ」

とこめかみに#マークを浮かべてにこにこしながら言う。

サイコダイブで叩き起こし、まだふらふらしている横島に再び触覚を触れさせる。
「女子更衣室の風景も刷り込んであげるわ。見たかったんでしょ。ヨコシマの記憶より鮮明だから上書きしてあげるわね」

バチーン「っぐぎゃぁぁぁぁぁつ!!」

「カラー動画が多いから情報量は半端じゃないわね。一部モザイクもかけといたわ」
もはや痙攣して顔が真っ青になっている。


「ルシオラさんて結構怖いわね」「怒らせない方がいいんジャー」「自業自得ですね」
帰り支度をしながら見物する面々。


「さっ、帰りましょ」と痙攣する横島のベルトをつかんでぶら下げ、飛び上がるちっちゃなルシオラ。

周りからおお〜〜っと言う感嘆が上がる。

横島をぶらさげたまま、窓から出て行く。


今日は雨の中、横島は蛍の中へ入れてもらえず、ぶら下げられてアパートに帰り、美神除霊事務所へ行くことになった。
しかもアパートから事務所まで無駄に高速に飛び回られ、しかも数分で着くところを30分も掛けられた。

ちなみに傘を持ってなかったので、玄関でまごまごしていた小鳩はちゃんとアパートまで中に入れてもらって帰ったそうな。





to be continued


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