椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

平穏&侵入者


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 4/ 2

ドクターカオスは追跡に気づいていなかった。


だがしかし・・・・予め『秘密基地まで追跡されるという事』を知っていたとしたら・・・・。

そこで罠を仕掛ける事はできるのである。


つまり、カオスたちはタマモが自分を発見した時(まだ隠匿術をかけていない時)すでに、このまま秘密基地までつけられてしまう事を理解したのだ。


なので『やっべーなんかばれちゃったっぽいよ。何でこんなところに鼻が利く奴がいるんじゃ〜。でもばれた所でそれほど困る相手でもないな。よし、一丁逆に隙を見せて援軍を呼ばれないようにしなければっ』という判断を下したのだ。


ちなみに『わしらには説得できそうもないから後よろしく』的な思考もあったりするが、それはご愛嬌。








「あ・・・・」

カオスのおっさんが「時の流れってのも大事じゃろ」などと今に始まった事ではないがまた意味不明なことを言って今回はカレンダーを持ち込んできて、それをシロが洗面所の横に貼り付けて、ある日の朝歯を磨く時、初めてその事に気が付いた。





「・・・・俺、もう三十路やん」





時の流れってのは対比するものが合ってこそ初めて感じられるもので世界中を転々と移動したり今のようにふわふわとした生活を送っていると、まるで気が付かないものだ。

「もう十年になるのか〜・・・」

誰に言うまでもなく独り言。別に体中からやるせない思いがあふれ出たとかそういうわけじゃない。かといって十年前の事を『どうでもいい』と思ったわけでもないが。多分こういうのを『思いを消化できた』って言うんだな。きっと。

う〜ん・・・ちょっと前の俺ならここでとことん落ち込んでるんだがなぁ。

やはり、この一年近くの生活で・・・俺は変わりつつある。と思う。


「・・・ありがとうな」
おそらくまだ隣の部屋で寝ぼけ眼を擦っているであろうシロに感謝の言葉をささげた。

そしてモノのついでに「あんたもご苦労さん」鏡の中から間抜けな顔でこちらを見返すいつのまにか三十路になった男にも声をかけた。そして鏡の中の男は「ふっ、気にするな」とキザに答えた。
はっはっは。この色男めが。だがな、よく聞けよ色男。お前はこれから一人の女を泣かせようとしてるんだぜ?

「彼女のためだ。仕方ない」
俺の心の中の問いに、鏡の中の色男は答える。









・・・のをシロは途中からじっと見つめていた。

「・・・・・・・・・・・(頭は)大丈夫でござるか?」

鏡の中と外の男、もとい一人芝居をしている馬鹿、もとい俺は固まった。

「独り言は・・・ハゲの始まりでござるよ」


その後三十路過ぎの男は、鏡で念入りに頭皮をチェックしていたのは言うまでもない。


















・・・ふっ。流石は俺の頭皮。健康そのものだな。←チェック中

どこかのロンゲにはこうはいくまい。


そういえば十年も経ったけど唐巣神父って・・・・・・・・いや、やめておこう。




・・・・・。




あ、白髪発見。

ひえ〜〜俺って苦労人だからなぁ。










「だからな。基本的に魔族とか神族って奴は老化現象があっても若い姿でいられるんだ。それなのにやけにジジイみたいな奴(ゲーム猿とか)もいるのは多分ファッション感覚?見たいな感じでわざわざ年相応の姿しているだけなんだと俺は推測する」

「はぁ」

「しかし俺はたかが十年でそれなりに老化が進んだ。それはなぜか?俺の中の人間である部分が俺の大半を占めているためにこのような現象が起きたということも確かに考えられるけど、知っているとおりもはや俺には人間としての部分よりもむしろ魔族である部分の方が大半を占めている。しかも魔装術を酷使した人間の如く『人体』であった部分ももうすでに魔族化しているんだ。つまりこの仮説はありえない」

「はぁ」



時代錯誤の農民のような格好をした横島あ〜んどシロ(こちらはなぜか何を着ても可愛く見えてしまうのが不思議だ)、森の近くに新しく耕した畑で今日もせっせと畑仕事(他にやることが無い・・・)。はたから見ればまるで仲の良い夫婦のようだ。
しかし先ほどから横島は永遠と老自分の化に関する考えを話しつづけていた。どうやら三十路になったという事に続いて、シロに言われた「ハゲる」発言がよほど心に大きな穴をうがったらしい。

彼はなんとしてでも『俺はハゲねぇんだよぉっ!!!』という事を証明したいようだ。


ハゲ・・・それは人間(特に男)いつかは直面する逃れられない宿命。
高い金を払い、貴重な時間を費やし、毛根の健康に気を使っていてもなるもんはなってしまうと言うまさに人類のDNAに組み込まれた破壊の遺伝子だ。
どんな努力を使用とも、刻一刻と進行する生え際の恐怖、特にご先祖様の写真など目の前にした日には、その恐しさは計り知れないものがある。(泣


「となると何故俺は老化をしたのだろうか?これはあくまで予測なんだが俺の心の深い部分に『年をとるのがあたりまえ』みたいなものがあるんだよ。それが無意識に俺の体に反映されて少しずつ年をとっているように見えるわけだ。だから俺は若作りしようとすれば若くなる事もできるし、いずれ『これ以上は年取りたくないなぁ』と思うところまで年をとれば老化は停止するはずなんだよ」

「はぁ」












「かめはめ・・・」

「はぁ」











・・・・・・・・・。






「ふっ・・・そうだよな。どーせ俺の悩みなんか」

「そっ、そんな事無いでござるよ!」

二人が漫才をやっていると、「イヤー今日もお熱いッすね〜」森の中から冷やかしの声が飛んだ。

風も無いのにハタハタはためくイヤンなローブ、140ほどの体に乗っかった悪ガキのような顔。頭に鉢巻両手に手袋、さらにはクワなんかも担いじゃってるいつぞやの風の精霊エルフ君だった。
「おぉ。今日は早いな」
「旦那ほどじゃないっすよ。それじゃあ早速作業に取り掛かるんでこの辺で」

エルフ君がクワを担いで近くの畑へと向かった後にも、続々と現地住民の方々が、手に農具を持って現われては横島達に挨拶をしながらそれぞれ担当らしい場所へと向かい、農作業を始めた。


はじめこそ仲の悪い彼らと横島らだったが、彼らは一度本気でブチ切れた(シロに怪我させられたから)横島を見て以来「こいつを怒らしちゃあなんねぇ・・・」という事を(生存)本能で感じ取り、以前のような暴挙に出るやからはいなくなった。
しかし、相手が下手に出ると自分もとことん下手に出てしまうのが我等が横島。

何時の間にか交友関係を築きシロ直伝の農作物を育てる技術を伝授(自給自足は人狼村の十八番)、今では日本に稲作などの技術を伝えたという渡来人状態であった。

こうしてドクターカオスによって切り離されていたこの異空間内に職業分担と物資の分配という秩序ができ・・・・・





「ジャムおじさん、こっちの畑はにんじんで良いんですか!」

「・・・・その呼び方やめろや。つーかどこでその知識を得た?」





なんと言うかその・・・それ行けアンパンマンの世界になりつつあった。












お日様が最も高いところへと移動して、短くなった影がまた長くなり始めたころ(異空間になぜ太陽が?というツッコミは無し)、




「そろそろ昼飯休憩でも取るか」
横島のは言い、クワの形のハンドオブグローリーを引っ込めた。
「そうでござるな」
シロは答え、こちらは手作り風のクワを地面に置いた。ハンドオブグローリーをずっと展開しているのはまだシロにはこたえるのだ。


二人はそれぞれの腰から下げた水筒の水で手を洗い、各自めいめいに昼休みを取っている他の連中に混じって食事を始めた。

森と畑の境界線にある一本の大樹。そこが二人の指定席だった。やや肌寒いが、天でお日様ががんばっているので堪えられないわけでもなく、すごしやすいひと時である。

「はい、どうぞ」
「おう、毎日すまんな」
二人が大きく盛り上がった木の根に腰掛けると、シロは懐からプラスチック製の弁当箱(何でプリキュアのイラストなんだろう)を二つ、取り出すとそのうち一つを横島に手渡す。

ちなみにお弁当とはシンプルにたくあんと白米おむすび。
別に手を抜いているわけではなく

「なんかこっちの方がしっくり来るんだなこれが」
「言ってもらえばもっとましな物を作るでござるよ・・・?」

横島の妙なこだわりであった。


「うまいもんだな。俺にはどうしてもできねぇんだよなコレが」
横島はやさしい笑みを浮かべながら傍らの女性に向かって話し掛けた。鋭さを感じさせない程度の三角形の、いわゆるおむすび形のお手本のような形をした握り飯に注がれている。
「しかも・・・・味もぴか一ときた」
おむすびをぱくついて、そのできを絶賛すると、傍らの女性・・・シロは今日も幸せそうな表情を浮かべた。
「へへ・・・それは良かったでござる」
それこそ何100回と繰り返された錆び付いたお褒めの言葉。しかし、それを彼に言ってもらうたびに、彼女は『今この世に自分より幸せなものがあろうか』という顔で喜ぶ。
彼はその顔を見るたびに暖かい気持ちで心が満たされるのを感じ、ちくりと心が痛んだ。


おむすびをすべて食べ終え、手についた塩もなめ終えたころ、
「シロ、お前午後の作業は休め」
左手に巻き巻きしてあるバンダナに引っ付いたご飯粒をとりつつ(これだけははずせない理由がある)、突然横島がそんな事を言い始めた。
「なっ、何ででござるか。こともあろうに先生を働かせて拙者だけサボるなどできませぬ!」
当然、シロは手をワタワタさせながら猛然と抗議を申し立てる。
横島はそんな彼女の子供っぽい抗議を手で制し、諭すように言った。
「お前、最近調子悪いんだろ?俺が知らないとでも思っているのか」

シロが言葉に詰まる。
確かに彼の言うとおり、なるべく目立たないようにはしているものの、最近の彼女は食欲が無かったり(!?)散歩(という名のフルマラソン)を行わなくなったりと体調を崩し気味だった。
本人は「少しムリがたかったか?」程度にしか考えていないのだが、共に生活している横島にとっては気になってしょうが無い。

「しかし・・・」
なおも渋るシロに対し、横島は困ったような顔をして言った。
「お前の気遣いは嬉しい。でもな、それ以上にお前の事が心配なんだ。だから今はゆっくり休んで体調を整えて、それで元気になったらまた働いてくれ。なっ?」

大好きな人にここまでいわれては仕方が無い。むくれながらもシロはしぶしぶ引き下がった。
「じゃぁ・・・お言葉に甘えるでござるよ」

未練たらたら腸を断ち切りつつ後ろ髪を引かれる思いで彼女は家路についた。





「さて、」
彼女が見えなくなるのを見届けてからさらに20分ほど休憩し、横島は腰を上げパンパンと服のほこりを払う。

ここに生活を始めて始めて気がついた事があった。それは自分がかなり農作業が好きであるという事である。

おそらく平穏とは100万光年ほど離れた生活を送っていたが結え、通常の人間が『父っちゃ!おらぁ東京さ行くべぇ!!』とか言って農具放り出したくなるぐらい平穏な生活が楽しくてならないのだと思われる。
実際彼は通常の人間には薄味すぎる平和というものを、常人の10割増ぐらいの味わい方で噛み締めていた。

なので、


「続きをやるか」
むんと片手に力をこめてハンドオブグローリー農具を展開し・・・



すぐさま防御に転じられたのは本当に偶然だった。


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