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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『思惑>>激発』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 3/23

声が聞こえてた。

あの女の人が、うちの前に現れてから、ずっと。

今ではもう、あの女の人が現れることもないのに、声はまだ聞こえてる。

ううん。

最初から、そんな声なんてなかった。

あれは紛れもなく、うちの…自分自身の声─。






          ◆◇◆






「え? 横っち、おらんの?」

「うん。何かブリーフィングとかで、皆出かけちゃったよ。」


美神所霊事務所の玄関。

留守番をしていた鈴女から横島がいないと聞かされ、銀一はどうしたものかと頭を抱えた。


「あちゃ〜…やっぱ連絡でも入れといたらよかったなぁ…。」

『皆様のお帰りなら、午後四時ごろの予定になりますが。』


人工幽霊壱号の報告に、銀一はちらりと腕時計に目を走らせる。

現在時刻、午後二時五十二分。


「ん〜…後一時間ちょいってところか。さて、どないしよ…。」

「待たしてもらうわ。」


銀一の言葉を待たず、夏子はそう言い置くとスタスタと邸の中に入っていく。


「ええよね?」

「うん! お話ししようね、夏子ちゃん!」


鈴女は嬉々とした様子でその後に続くが、銀一はその場に立ち尽くしていた。

自分の横を通り過ぎる一瞬、夏子がひどく固い表情をしていたのが見えたのだ。

まるで、何かを必死で堪えているかのような。


「近畿く〜ん。何してるの〜? 早くあがりなよ〜。」

「ん…ああ。」


鈴女の自分を呼ぶ声に、銀一も事務所の中へ入っていく。

さっきのは見間違いだと、そう言い聞かせながら。









「─でね! また横島が美神さんに折檻されたの!!」

「またぁ? ホンマにしょーもないなぁ、横島は。」


鈴女の話に相槌を打ちながら、くすくすと笑う夏子。

それを見ながら、銀一はやはりさっきの夏子の表情は見間違いだと安心していた。

ちなみに、銀一らの前にはコーヒーが置かれているが、これは銀一が入れたものである。

鈴女がやろうとしたが、さすがに無理だろうと思ったのだ。

その時も、夏子は固い表情で台所の入り口に立っていたようだが、それも見間違いだったのだろう。

会話が途切れ、銀一が静かにコーヒーを口に含んだ時。


「…昨日の横島も、この事務所の話ばかりしてたなぁ。」


ぽつりと夏子が呟き、銀一は「ん?」と顔を上げる。

夏子はどこか遠い目をして、背もたれに身を預けていた。


「まあ、そらそうやろ。横っちの生活のほとんどが、事務所中心みたいやし。」


横島の話では、高校入学とほぼ同時にこの事務所でのバイトを始めたらしい。

いわば、横島の青春時代のほぼ全てがこの事務所に詰まっているのだ。


「俺もお前も、横っちも。皆、それぞれの生活を手に入れたんや。」

「…変わったんやね。」

「そらそうや。少しずつ変わっていくんが当たり前のことやしな。」

「…ん。せやけど、うちは…。」


トゥルルルル…

夏子が言いかけたその時、事務所の電話が着信を知らせた。

鈴女が、夏子の肩からふわりと舞い上がり、電話機の方へと飛んでいく。


「はいは〜い。…って、私じゃ持ち上げられないし。」

『私が応対しましょう。─はい、こちら美神除霊事務所です。』


人工幽霊壱号が言うなり、着信音が鳴り止む。

続けて、聞きなれた声が電話機から聞こえてきた。


《あ、その声は人工幽霊壱号か?》

『横島さんでしたか。何かありましたか?』


何かもなにも、後ろの方が何やら騒がしい。

横島の声にも、苦笑している気配がうかがえる。


《それがさぁ、美神さんがまぁ〜たヒス起こしちゃって…ブッ!!》

《また、とか言うな!! それにヒスでもないッ!!》


横島の声が中断され、次に飛び込んでくる美神の怒声。

そして連続する殴打音。

なんとなく、通話口の向こうの様子が理解できる。

横島がしばかれているだろう殴打音をBGMに、おキヌの声が聞こえてくる。


《というわけで、ちょっと帰るのが遅れそうなの。》

『わかりました。ですが現在、宮尾様と小川様がお待ちなのですが。』

《えっ? ちょっと待っててね。横島さーん。》


いまだ殴打音…いや、何か液体が飛び散るような音が続く中、おキヌは暢気な口調で横島を呼ぶ。

聞いている方は、その暢気さが逆に不気味で仕方がない。

ふいに嫌な擬音が止み、しばしの沈黙の後。


《もしもし? 銀ちゃんたち、そこにいんの?》


先ほどまで殴打されていたはずだが、聞こえてきた横島の声はまったく平然としていた。

通話口の向こう側のことはなるべく考えないようにして、銀一は答える。


「ああ、夏子もおるで。」

《悪いけどちょっと待っててくれ。美神さん宥めねーと、帰るに帰れない…ブッ!!》

《私ゃ猛獣かッ!?》


再び、嫌なBGM再開。そして、そのまま通話は切れた。

最後の方、「ちょ…刻真、加勢してくれ〜!!」とか「悪い。無理。」とか聞こえていたが。

とりあえず、銀一が今出来ることは、友が無事帰ってくることを祈るのみである。


「まあ、もう少し待たせてもらうか。なあ、夏…ん?」

「あれ? 夏子ちゃんは?」


銀一と鈴女が振り向いたとき、確かにそれまで居たはずの夏子の姿が無かった。


『小川様なら、現在屋根裏部屋におられます。』

「はあ? 何でまたそんなとこに…?」


人工幽霊壱号からの報告に、首を傾げながら銀一と鈴女は部屋を出て行く。

…もしも。

もしも、人工幽霊壱号にも首があったなら、きっと同じように首を傾げていたはずである。


『…どうやって、私の知覚に悟られず移動されたのでしょう?』






          ◆◇◆






二つのベッドが並べられている部屋。

夏子はつうっと指で何かを確かめるように、自分が腰掛けている窓の縁をなぞる。

今は、シロとタマモの部屋である屋根裏部屋には、どこか森の匂いがする。

話では、二人が入居する以前に、粉々に吹き飛んだことがあるらしい。

だが、それでも。

夏子はそれを、『彼女の残り香』を感じていた。


「…ここで、暮らしてたんやね。」


夏子は立ち上がり、その指を壁に這わせ、なぞりながら部屋を歩き回る。


「ここで…横島と笑ってたんやね。ここで…。」


やがて、また元の位置に戻ると、窓の縁に手をついて背を向ける。

その手が、ぎゅうと固く握り締められる。

ふいに、誰かが階段を登ってくる音がしたが、夏子は振り向かない。

いや、聞こえてすらいないのかもしれなかった。

やがて、銀一が鈴女とともに顔を出す。


「夏子。こんなとこで、何してんのや?」


銀一の問いかけにも、夏子は無反応であった。

訝しげに眉をひそめながら、銀一は屋根裏部屋にあがると夏子に近寄っていく。


「おい、夏子…?」

「…ッダメ! 近畿くん、離れて!」


銀一が手を伸ばしかけたとき、鈴女がはっとして銀一の襟を引いて制止する。

その声になにやら切迫したものを感じ、戸惑いながらも数歩後ろに下がる銀一。


「な、何や? 一体…。」

「こんな…。」


ふと夏子の口から漏れた呟きに、銀一がびくりと身を震わせる。

そうさせるだけの、何か危険なものを感じ取ったのだ。

夏子を見れば、肩を震わせて戦慄いている。

両手は拳を握り締め、ぎりぎりと銀一まで音が聞こえるほどの力が込められていた。


「こんな場所…!!」

『!! 危ないッ!!』





次の瞬間、美神所霊事務所の屋根裏部屋は、以前の破壊を上回る規模で吹き飛んだ。


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