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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『埠頭>>思惑』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 3/19



霊災対策本部の一室で、今回の事件解決のために集った面子を見回し、美知恵は溜息をついた。


「…報告は以上です。」

「つまり、手がかりは無しってわけだろ。」


伊達雪乃丞は、面白くもないと言った風に手にした資料を机に放る。

そこには、一人の少年の写真が載っていた。

永村邦彦。

この都内の小学校に通う十一歳の少年が、あの堕天使『エリゴール』の素顔である。

前回の襲撃以降、その身元と行方を調査したところ、半月程前から警察に捜索願が出されていた。

それが昨日、無事に帰宅したと報せが入り、すぐに捜査官が向かったのだが。


「本当に、造魔になっていた時のことを何も覚えてないんですか?」

「ヒャクメ様も同行して霊視したから間違いないだろうね。」


おキヌの質問に、西条は頭を振って答える。

今回のDDS事件解決には、ヒャクメも積極的に出向している。

自分の得意分野である索敵や検索、遠見などの方面で成果をあげられなかったのが悔しかったらしい。

曰く、「このままじゃ、私の存在価値の是非に関わるのねー!!」だそうだ。

普段より気合が入っているヒャクメが霊視したのだから、本当に何も覚えてないのだろう。

恐らく、永村少年のプライバシーは、完膚なきまでに失われただろうが。


「何でそんな面倒くさい真似したワケ?」

「そうね。わざわざ連れ戻しておいて、ご丁寧に記憶まで消して…。」


小笠原エミの意見に、美神も珍しく頷く。

刻真の話では、造魔になったからといって記憶を失くすということはないらしい。

それに、ヒャクメなら本人が忘れているような過去まで視ることができる。

それでも、何の情報も得られなかったということは、故意に忘れさせられたということだ。

だが、その意図がわからない。

おキヌらの手前、口には出さなかったが、口封じだというなら殺した方が手っ取り早い。

自らの戦力を減らしてまで送り返すということは、何らかの思惑あってのことのはずである。


「念のため、御家族協力の下で監視を続けているわ。けど…。」

「多分、無駄でしょうけどね…。」


美神の嘆息混じりの呟きに、美知恵も頷く。

そう、易々と尻尾をつかませるような相手ではないだろう。


「それと、仮面の人物についてだが…これを見て欲しい。」


西条はそう言って手元のスイッチを押す。

壁にとりつけられたモニターに、あの襲撃の日の映像が映し出される。

ちょうど、刻真に永村少年のことを聞いているところらしい。

監視カメラの映像らしく、やや画像が粗いが特に変わったところはない。


「何も映ってないじゃないか。」

「慌てるな、横島君。…次だ。」


西条の台詞にあわせるように画面に変化が現れる。

永村少年の隣に黒い穴が出現し、そこからあの仮面の人物が─。


「…? なんか、変じゃないですかいノー?」

「本当だ。画像が壊れてる…。」


タイガー寅吉とピートが呟いたように、画像の一部が処理落ちしたかのように欠けていた。

それは仮面の人物がいたはずの場所であり、その姿を覆い隠すかのようでもあった。


「画像だけじゃない。後で調べたところ、現場から霊的痕跡すら見つからなかった。」

「あッ! その調査には拙者たちも協力したでござるよ!」

「こっちの子供の方はともかく、仮面の奴のものっぽいのは感じ取れなかったわ。」


西条の説明を、シロとタマモが補足する。


「まるで痕跡を残さないのか…厄介だね。」

「ステルス戦闘機のような奴じゃのう。」


唐巣神父が気難しげに、カオスは楽しげにコメントを述べる。

カオスの場合、研究者魂を刺激されたのだろう。

美知恵の口から、疲労感漂う溜息がこぼれる。


「とにかく…これで今のところは手詰まりよ。」

「やっぱり、刻真の言うように事件を追い続けるしかないか─…。」


美神がちらりと隣にいる刻真を見やる。

刻真は─。





「…すぅ〜…すぅ〜…。」





「って、起きんか馬鹿たれェェェーッ!!」


背もたれに身を投げ出して眠る刻真の喉に、美神の渾身の手刀がめり込む。

床に崩れ落ち、声なき声をあげながら悶絶する刻真。

横島の「俺じゃないんですから死にますよ…。」という忠告も、どこか空しく響く。


「アンタ、最初の数分以降静かだと思ったら…話聞いてたの!?」

「…ッ!! …ケホッ、エホッ…! き、聞いてた、から…大、丈夫…ケハッ…!!」


よろめきながら、何とか答える刻真。

どうやらタフネスでは、横島ほどではないにしろ人並み以上はあるらしい。


「まったく!! シロや横島君だってちゃんと聞いてるんだから、もう少ししっかり…!!」

「…令子、令子。」

「何よッ!?」


刻真を怒鳴りつけていた美神だが、エミに呼ばれて憤りもそのままに振り向く。

そこでは─。


「…ムニャムニャ…れーこちゃ〜ん…♪」

「ひ、ヒホ〜…オイラは枕じゃないホ〜…。」


六道冥子が、ノースを抱きかかえて気持ちよさそうに寝言を言っていた。

おそらく、ひんやりして気持ち良いのだろう。ノースが。

美神のこめかみに、ぶっとい青筋が浮く。






直後、美神の怒声が炸裂した。






          ◆◇◆






ぎゃーぎゃーと騒がしい彼らを見ながら、刻真は思う。

話の内容はパオフゥから聞いたものとほぼ同じであり、これで裏は取れた。

だが、肝心な奴らの目的の方が不鮮明だ。

奴らの…いや、奴の『計画』に何らかの関係があるのだろうか?

でなければ、時間稼ぎか人手を割かせようとしているのか。

それとも……『また』白々しい奇麗事をのたまう気か、奴は。

…どうであろうと構うものか。

必ず追い詰めて、そして─。



「刻真!! アンタも他人事みたいに傍観してんじゃない!! 冥子、アンタもGSなら…!!」

「ふぇ〜ん。令子ちゃん、怒っちゃイヤ〜。」


いきなり名前を呼ばれて、刻真の思考が中断される。

美神の説教は、未だ続いていたようだ。


「い、いや…悪かったから、そう怒らないで…。」

「怒るべきときは怒る!! 会議中に居眠りなんて、絶対許されない事ってのは当然でしょーが!!」


まだまだ、続きそうだ。

刻真は小さく嘆息し、諦めて説教を受け続けることにした。


「…美神さん、隊長に似てきたんじゃねーか?」


横島の呟きは、幸い興奮した美神の耳には届かなかったらしい。








          ◆◇◆








男は、室内に入って数歩のところで、不意に足を止める。


「…何の用ですか?」

「ご挨拶だな。我が友人に、頼まれ事の報告をと思って寄ったというのに。」


男の後方、入り口側の部屋の角の暗がりに、仮面が浮かんでいた。

目も鼻も口も無い、鏡で出来ているような仮面。

やがて、暗がりが次第に輪郭を取りはじめ、黒いローブとなって人型をとる。


「ならば、早々に用を済ませてください。」


男はそのまま自らの執務机まで進んで椅子に座り、そこでようやく振り返った。

細い金管に留められた一房の前髪が、切れ長の瞳の前で揺れる。


「…『エリゴール』は無事に送り返した。処理も済ませてある。」

「そうですか…。」


仮面の人物の報告に、男はふと目を伏せる。

だが、くっくっと小さな笑い声を聞きとめると、顔を上げて目の前の人物を睨む。


「何がおかしいのです?」

「わざわざ私を使ってまで連れ戻し、あっさりと返す。奴らはさぞ混乱しているだろうな。」


愉快げな声はひどく歪んでいて、まるでその仮面に映る景色のようでもあった。

悪趣味め、と男は胸の中で罵る。

仮面の人物は、そんな男の心中に気付いているのかいないのか、構わずにしゃべり続ける。


「もはやあの子供に接触する必要は、こちらには無いというのに。こうして駒は増えていく。」

「そういう言い方はよせ。」


男は立ち上がって、嫌悪の表情を露わに仮面の人物を睨みつけた。

自らの口調が変わっていることにも気付かない。


「あの子は同志だ。あの子を帰したのは、それがあの子にとってよいと思ったからだ。」

「成る程。それはお前の正直な考えだ。だが、やってる事は同じだろう。」


男は反論せず、また目を伏せる。

処理とは、記憶の除去のみを指す。重要なのは『造魔となったか否か』なのだ。

口では同志と言いながら、結局は利用しているのと変わらない。

事実を改めて突きつけられ、男は次第に冷静さを取り戻す。


「…もとより覚悟の上です。それをわかった上で、この道を選んだのは私なのですから。」

「ならば、懺悔など止めろ。お前は自分の望みが叶うよう祈っていればいい。」


その言葉に、男の感情が瞬間的に沸騰する。

刹那、男の纏う黄色を基調とした法衣がはためき、室内に暴風が吹き荒れる。

風の刃は一斉に仮面の人物へと襲い掛かり、その体を微塵に切り刻む。

だが、舞い散るのはただ、奴が着ていた黒いローブのみ。

仮面だけが、やはり何もない虚空に浮かんでいた。


「くくッ…まったく、酷いことをする。」

「くッ…!!」


仮面から聞こえる嘲笑に、男はぎりっと奥歯を鳴らす。

見透かされていた。

つい先ほどまで、自分が大聖堂で懺悔の祈りを捧げていたことを。

あんな幼子すら利用する、自らの浅ましさを悔いていたことを。

いつも、この仮面の者は人を試す。

そうして、人があがき苦悩する姿を見ては嘲笑うのだ。

最初に笑っていたのも、彼らに対してではなく、私に対して笑っていたのか。


「…さがりなさい。」

「そうしよう。…ああ、もう一つ。『リリス』が勝手に動いているようだが、どうする?」

「……どうもしません。彼女は彼女なりの意志をもって動いているのです。」


「結構。」と笑い声を残しながら、仮面は暗がりに溶けるように消えた。

いつの間にか、ローブの切れ端すら消えている。

男は深く息をついて椅子に沈みこむと、天井を見上げた。


「…悔いていた、か。」


戻る道などないとわかっていても、私は懺悔せずにはいられなかった。

そうすることで、自分を正当化しようとしていたのだろうか。

なんと恥知らずな。

ならば、奴が言ったように、私は自らの望みだけを祈ろう。


「私の望み…。」


ふと、あの少女のごときあどけない顔がよぎる。

たとえ、どれほど憎まれようと、私の望みは決して変わることはない。


「今一度…貴方にお仕えしたいのです。我が盟主よ…。」


こぼれた言葉は、悲痛なほどの渇望であった。






          ◆◇◆






携帯電話の着信音が鳴り響き、布団から伸びた手が枕元を探る。

何度か左右に動かし、ようやく探り当て通話ボタンを押す。


「…ん、ふぁい…近畿剛一、です…。」


寝ぼけながらも芸名で答える辺り、さすがプロである。


《…宮尾、寝てた?》

「ん…夏子か? いや、ええよ。何か用事か?」


通話口から聞こえてきた幼馴染の声に、銀一の頭も幾分はっきりとしてくる。


《今日も…横島のとこに行かへん?》

「……。」


口調こそ尋ねているが、もう夏子は行くと決めているのだろう。

銀一は、わずかに表情を曇らせ…。


「ええよ。車まわしたるから、ちょっと待っとき。待ち合わせはどこがええ?」


すぐに笑顔の仮面を取り戻し、和やかに言った。

胸の疼きが、悟られぬように。


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