「ちわーっす」
デニムの上着の胸の上に蛍を留まらせた横島が事務所に現れる。
もはや蛍を胸に留まらせるのは習慣となっている。
ここなら、真っ直ぐ留まらせておけば、知らない人には模様かブローチのように見えるので問題ない。
普通の式神使いなら霊力無駄使いになるため、無要の時は陰にしまっておく。
文珠菩薩の『多く使役すれば、少しでも復活が早くなる』という言葉を信じ、
なるべくルシオラは外に出し、使えるときは優先して使うようにしている。
今では寝ているときも出せるようになっている。
おかげで、文珠の個数は激減するは、ハンドオブグローリーは使い物にならないわという弊害が出ている。
その分、お札等のアイテムを使用することにして補なっている。
まあ、デミアン+ベルゼブル戦の時くらいは文珠がでるし、式神としてのルシオラが加速的に強力になっているので、
令子も特にそれについて苦情を言ったことはない。
もちろん、内心はお札代で腸が切れそうで、横島をしばいて帳尻を合わせているのだが。
シロやタマモはド強力な式神+反則ワザの文珠、その上ハンドオブグローリーやサイキックソーサーという
自衛武器を持つ(アシュ以降は除霊では見たこと無いが)ということで、結構ソンケーしていたりする。
“弱くなってる”とは思ってもいない。
ま、アシュタロスと戦った時の“美神令子より強い”横島を見ていないのだから当然である。
ちなみに、シロタマは“ルシオラ”という式神はアシュタロス事変で、
横島がごほーびにもらった菩薩様+ノルン共同作成の式神、という認識だった。
能力がどんどん増えてくるのは、横島が使いこなせていってるからというわけだ。
シロはフェンリルやオーディンよりある意味上位に位置するノルンにもらった、と聞いて一晩中月に向かってほえていた。
令子がそのように説明したし、あと、横島に聞いてもおキヌに聞いても
「そんな感じかな」「そんなもんですね」という返事だったし。
「あ、横島さん、なんかうれしそうですね」
「わかる?ルシオラの能力の使えるのがまた一つ増えたんだ」
そりゃ、毎日注目してますからねッとは言えず、別のことを言う。
(私もゆーき無いなー、ルシオラさん復活する(自我ができる)までに何とか進展させたいのに。
もう8か月たったからタイムリミットまであんまり無いはずですよね。自我ができても蛍のままなのかなぁ)
「すごいですねー、何が増えたんですか?」
「驚く無かれ、幻術だ。ほらっ」
おキヌの目の前できれいな花をいくつも出す。
「へーっきれい!!これで、麻酔、サイコダイブ、霊波砲、幻術とおおよそ全部そろったわけですね」
「俺の知ってる分は全部かな?全部知ってるってわけじゃないと思うけど」
「ヨコシマ、幻覚見せるときはもっと丁寧に出さないと相手にばれるわよ」
横からタマモが口を挟む。
「特にそれ精神幻覚じゃなくて光幻覚でしょ。精神幻覚は相手の心に直接イメージを送り込むから多少荒くても大丈夫だけど、
光幻覚は周りと違和感あったらばれちゃうわよ。ほら、こことここ陰の位置がおかしいでしょ」
「あ、なんか違和感あったのはそのためね!タマモちゃんすごい。じゃ、私もついでに言っちゃいますけど、こんな花ないですよ?
このユリ、花びら8枚もあるし、こっちはダリアにキクの葉っぱついてますもん」
「アンタ、よーするに決定的に思考が雑、知識が足らんってことよ。せっかくの幻覚も実戦で使えないじゃない」
寄ってきた令子が止めを刺す。
「ま、これもしばらく修行してまともな幻覚出せるようにしなきゃね。タマモやタイガーのすごさがわかったでしょ。
暗黒くらいなら使えるかな?」
「だめよ、美神。精神幻覚ならともかく。光幻覚で昼間に暗黒はちょっと無理ね。明るすぎるわ。
全部の光は神魔でもないと操りきれないわ。夜限定なら使えるかも」
「使えないわねー」
「どーせ、どーせ俺はよー!!」と部屋の隅で「の」の字を書く横島。
「まー、まー、美神さん。初めから使えないですよ。そんなに横島さんいじめないでも」
その時、部屋全体が暗黒になる。今は昼の真っ盛り、しかもこの部屋は窓際だ。
みなが驚いているうちにたくさんの蛍が乱舞しだす。
暗黒の無限の空間に遠くまで蛍が舞っている。
1000か・・・10000か・・・・・無数の・・・・淡い光。
「き れ い」「すごい・・・・・・」
横島も唖然として見とれている。違和感のない幻想的な空間
(ルシオラ・・自我が戻ってきたのかしらね。蛍のままなんてちょっとかわいそうね)
(今の美神さんとタマモちゃんの言葉に反応して、できるってことをみせてるのかしら)
(先生すごいでござるう。一回の指摘でここまでできるなんて)勘違いも一人
(とんでもない能力ね。コイツほんとに人間?)この勘違いは無理ないかな
みなが暗黒の中の淡い光の乱舞に気を取られている一方で、
横島の胸から、それだけは視界から消えなかった応接テーブルにひときわ大きな蛍が移動する。
テーブルの真ん中に進んだ蛍はそこで停まり、ふるえ、触覚を下に向けはねを少し開く。
そして・・・
背中がわれて・・・真っ白な光があふれ出す。
その光の泡からたちのぼるように・・・・
まぶたを閉じ、むねと足の付け根を手で覆った
ルシオラが・・・
まさにビーナス誕生。
居合わせた全員が息をのむ。
一言もしゃべるものはいない
「ヨコシマ・・・」
ゆっくりと目を開く
「ルシ・・・オラ?」
部屋が元の状態に戻り出す。
明るさが増し、ソファ、観葉植物、コップなどが徐々に姿をあらわす。
「ルシオラ!!」
片膝を着いて頭を下げるルシオラ。もう、昔に見慣れたバイザー付き戦闘服姿。
「ご主人様。ルシオラに再度生を与えていただいたことに感謝します。なんなりとご命令を」
「ル、ルシオラどういうことだ」声が震える横島。
「やーね。冗談よ。こうでもしないとヨコシマ、みんなの前で抱きついて泣きかねななかったでしょ。それはイヤよ」
(言ったことは本気よ。ありがとう。無理させてゴメンね。これからは私が横島を護るわ)
一転し、立ち上がって片眼をつむって恥ずかしげに手を振るルシオラ。
「ゴメンね。昔だましたことも含めて。これから一生、もしかすると転生先でも離れないんだからよろしくね」
そのあと、他の人々に向き、令子とおキヌのうれしいとも悔しいとも何とも言えない顔をちらっと見て横島の方へ向き直る。
「でも、横島食べちゃえば私は・・・式神じゃなくて魔族に戻れるのよね。横島よく見ればおいしそうよね・・・」
すごくいい笑顔で横島の方に歩み寄るルシオラ。
「ちょっとまて、ルシオラ!さっき言ってたことと全然違うじゃないか」思わず後ずさる横島。
「フフフフっ。すぐ済むわよ。痛くも苦しくもないからね」
横島に手をかざすルシオラ。横島は親指サイズに縮んでしまう。霊力の大半をルシオラに奪われているので抵抗できない横島。
「まってくれー」そのまま、つまみ上げて形のいい口をあけて放り込んでしまう。あーん、ごっくん。
その時、我に返った美神除霊事務所のメンバーが動き出す。
「ルシオラ!どういうつもり!」「ルシオラさん、横島さんはあなたを一生懸命復活させようとしてたんですよ!」
「先生を返すでござる!」「横島をたべたの?」
ルシオラは彼女らに一瞥を与えるとすっと蛍の姿になり猛烈な勢いで事務所の建物を飛び出してゆく。
「人工幽霊一号、とめてっ」「オーナー、残念ですが不可能です。パワーが違いすぎます」
「どっちへ飛んでいったかわかる?」
「霊波も匂いも辿れないわ」「拙者も残念ながら」
「もう心眼の範囲外です。もう少し私に霊力があれば・・・」
「オーナー、私も辿れません。私が見失った時には少なくとも時速250kmには達していました」
「方向は!」「複数の幻像と共に渦巻き軌道を取っていたので不明です」
「クっ! ヒャクメにでも頼むしかないわね。あんな小さいものレーダーでは捕らえられないわ。ルシオラ!!待ってなさいよ!!」
「横島さんまだ生きてるでしょうか」
「それは大丈夫ね。殺しちゃったら、横島クンの魂は転生、ルシオラもひっついて消滅するから」
「どれだけ融合が進んじゃうかってことかしらね。美神」
「そんなトコね。早いとこみつけださないと」
「しかし、どうやって捕まえて先生を分離するでござるか。あの魔族どう見ても我々より強いでござる」
「小竜姫あたりの力を借りないとダメかしらね」
アシュタロス事変の時の圧倒的な力差を思い出す、令子とおキヌ。ルシオラの使い魔にさえ敵わなかったことがよみがえる。
向こうも万全とはほど遠いだろうが、横島を呑んだ後の霊圧はただごとではない。
「妙神山への電話が通じないわ。さすがに手際がいいわね。直接、妙神山に行くしかないか」
妙神山での修行を終えた人物はどういうわけか電話で通話できるようになる。それを妨害されたのだ。
もと霊工学メカニック、しかも光(電磁波)や霊波を操れるルシオラにとってこの手の妨害はお手の物だ。
冥子に電話をして、自家用ヘリを借り出す。さすがの令子もヘリは持ってないし、チャーターする時間が惜しい。
30分後、六道家から自家用ヘリを借り出した美神一行は「私もいく〜」と、のたもうた冥子を加えて妙神山へひた飛んでいた。
ヘリ中で令子がシロとタマモにルシオラについて詳しく説明する。冥子も知らない部分があったようだ。
それを聞いた、真っ先に冷静になったタマモがある推測を披露する。
「その話だと、あのルシオラって式神だか魔族だかが横島を吸収する可能性はすごく低いわね。
自分が消滅する覚悟で横島、護ったんでしょ。しかも4回も」
実際はそれどころではないのだが美神は知らない。
「それに、横島食べる前に、私たちの方をちらっと見てたわ。横島を吸収して戻ろうとする魔族がそんなことするかしらね」
「じゃ、どういうことでござるか」
「簡単よ。横島独り占め。ライバルたちの目の前からかっさらった。ある程度逃げ切れば吸収されたと思ってあきらめるかもしれないしね」
「先生を独り占めということでござるか!!ゆるせんでござる」
「ルシオラならそっちの方が充分あり得るわね。あの女、ウチの丁稚を無断でかっさらいやがって!!」
「でもそれなら、横島さんは無事ってことですよね」
「心は変わりやすいし、推測だけどね。あ、それと二人とも普段ももっと積極的に動かないと誰かにとられちゃうわよ」
「どう意味よ・・」「えっ、ぇ、あう?」「もっと積極的に、でござるか」
(アイツ、○リコンのケはないからね。シロ、気の毒だけど土俵に上がれないわ。
変化の能力はないし、見かけの年齢はどんどん離れていくしね。
シロが“女”になったときはおそらく横島は90超えてるわ)
「私は生まれてまだ3年経ってないけどね。だんだん昔の記憶やらが戻ってきてるのよ。
ターゲットの男をお見合いしてる女の間から盗るのは結構簡単なのよ」
「タマモちゃん〜。それどうやるの〜」
「「「え°」」」」
「男の方も自信ないからそういう状態になるわけ。自信あったら光源氏状態ね。
だからライバルを牽制してる間に積極的に迫ればいいの」
「でね、大抵そういう場合は隠れいい男で、周りに密かに思ってる女がまだ居るの。
お互いけん制のさせ合いするように持ってけばいいのよ」
「よ〜するに〜、積極的に行けばいいのね〜。冥子がんばる〜」
「ま、私の前世では男の好みに合わせるのはお手の物だったみたいだから、それで充分だったけど」
冥子はピシッとおキヌとシロを指して、
「ライバルね〜。横島クンは私がもらうわ〜。令子ちゃん応援してね〜〜」
「冥子、あのそれ」何をどう言っていいのかとっさに判断できない令子。
おキヌとシロは声も出ない。
「横島クンなら〜おかあさまも〜、文句ないわよね〜。今聞いた〜話だと〜
“六道式神操演奥義之五、寝てても式神操作しちゃう”ができてるようだし〜。
私なんか〜起きてても〜ちゃんと〜操作できないのにすごいわ〜」
こめかみを押さえるタマモ。
(なんたる鈍さ! こんなところで聞くからてっきり他の男のことだと思ったわ!!)
(しっかし、ちょっと言うとこの様?! この分だとどこに女隠れてるかわからないわね。
式神までアイツに「ほ」の字だったもんね!
横島を事務所からとられると居心地が悪くなるからなんとかしなきゃね。
いざとなったら魅惑術使ってでも。その前にあのルシオラとかいうやつがどうでるか、か)
みなが、あまりの状況に今が追尾劇中であることを一瞬忘れてしまう。
その時、ヘリのパイロットが叫び声がインカムを通して聞こえてくる。
『お嬢様、前方から無数の発光体が近づいてきます!!』
『霊体レーダーに反応多数。妖怪もしくは魔族です!!』
みな現実に引き戻される。
窓から見ると遠から光る雲が近づいてきている。
「ルシオラ、眷属いたの?!!!一気に全員亡き者にしようっての!」
「こんな〜お空の上で〜、襲われたら〜、ひとたまりも〜ないわよ〜」
「拙者、飛べないでござる〜」
「は〜、居心地考えるよりとっとと逃げた方が利口かも?」
「死んでも幽霊には戻れるかしら」
「とにかく、ヘリではどうしようもないわ。飛べるタマモは外に出て!冥子もシンダラ迎撃にだして!」
「わかったわ〜」「まとめてやられるよりましね」
「無理せずに小当てにしたらこっちに合流して!」
二人がヘリから飛び出してゆく。
「他の人はヘリを防御結界で護るのよ! おキヌちゃんはネクロマンサーの笛の有効射程に入り次第迎撃して!」
「やってみます。心眼は使わない方がいいですよね」
「笛の出力を上げた方がいいわね。冥子も全力で結界強化して!」
「わかったわ〜」冥子も出そうとしていたクビラ(霊視能力)を引っ込める。
「パイロット、高度下げて。メキラの移動能力範囲まで下がれば降りるわ!!降りたら勝負よ!」
『お嬢様、よろしいでしょうか?』「おねがい〜」
その時、ヘリの真正面にルシオラが突然現れる。
「ほっほっほっ、引っかかったわね。蛍はおとりよ!
ヨコシマは私のもんよ!!ヘリごと消えなさい」
真っ正面に現れたルシオラから強烈な霊波砲が浴びせられる。
to be continued
ルシオラは横島をつれて逃走。
それを追う女性5人には魔の手が。
それはそうとして横島もてすぎだろ〜。 (鷹巳)