椎名作品二次創作小説投稿広場


復活

ありえない!!


投稿者名:ETG
投稿日時:05/ 3/12

ぷるるるる、ぷるるる「ハイ、美神除霊事務所です」
「あ、おキヌちゃん。美神君はいるかね」
「少々お待ちください。美神さーん、唐巣神父からお電話です」

これは後に、美神令子の非常識に慣れた、横島とおキヌ双方をして、『とうていあり得ない!』と言わしめた事件の幕開けであった。


「先生、かわりました」
「この間、君から回してもらった依頼の幽霊屋敷の件だけどね」
「はい、何か変わったことでも?」
「書類によると結構強力で、2チームやられてたよね。
 それに『生きてる? いま、横島クン補習で動けないんで、くやしいけど回すわ。ほほほっ。強力だから死なないようにね』
 て君からの添え書きもあったよね。それで、4日ほど前に雪之丞君をさそって、ピート君と三人で行ったんだけどね。
 ああ、それから心配してくれなくても、今は飢え死にする心配はないよ」

雪之丞は、あの美神の旦那が横島がいないと危ないってほど『強力』ってんで喜んで引き受けた。

「は、はい?」
(やばっ、エミに回したヤツと一部書類が入れ替わっちゃったんだわ。添え書きまで間違えるなんて)


ちなみに唐巣神父への添え書きは、
『前略 ・・・いま横島君は補習で動けませんし、ピートなら簡単だと思いますので、
 失礼とは思いますがそちらで処理していただけませんでしょうか。・・・・

 PS:ピートへ、これなら報告書やら判断も一人でやってみるのにちょうどいい物件だと思うわ。練習がてらお願いね。
    それに安めだけどお金取りやすいから。たまには先生にいいもの食べさせてあげね』ってヤツだ。

ちなみに、この添え書きはもちろん小笠原エミのところへ行った。
悪霊3体と共に飛び出してきて、エミの前にひ〜らひ〜らと落ちてきたのだが、
悪霊に対するエミの攻撃で黒こげになりエミには読めなかった。というよりエミには読む気がなかった。

「どーせ、『生きてる? いま、横島クン補習で動けないんで、くやしいけど回すわ。オホホホっ』とでも書いてあるだけなワケ」
ってかんじで。日頃の行いは大事だ。お互いに。


「行ってみたら、レイスとミストが数体、あと、悪霊が少々の普通の幽霊屋敷でね。ピート君だけで片づいたよ。
 依頼書の内容とあまりにも違うので、3人で昨日までいろいろ調べたんだがやっぱりそれだけでね。
 雪之丞君なんて『美神の旦那も焼きが回ったか。これを強力っていうとはな』って感じだったよ。
 ま、親玉が抜けた後だったのかもしれないからとりあえず一報入れとこうと思ってね」

「わ、わざわざありがとうございます。GS協会への報告書はうちから出しときましょうか?」

「それには及ばないよ。あ、それと料金はちゃんともらったから。
 料金が取りやすいからうちへ回してくれたんだろう?ありがとう。君も少しへそ曲がりをなおした方がいいと思うが」

神父も添え書きを皮肉ってるらしい。
「い、いえ、ど、どういたしまして。それと私も念のために現場をチェックしますから報告書は少し待っていただけません?」
「そうしてくれると有り難いね」

何が起こったか察してる様子だ。大体、事後報告書を美神除霊事務所の意見を聞いて書く必要など全くない。
「では後ほど。」

ガチャン

はぁーっ、はー、はぁーっっ!
電話の後、机に両手をついて喘ぐ美神令子。

こんなのばれたら、罰金もんだわ下手すると免停かも。


GS業界ではこの手の、依頼内容の間違いのペナルティはきつい。
下手しなくても命に関わるからだ。単純な事前調査間違いでも罰金というより慰謝料モノ。
今回みたいに100%こちらが悪い場合は考えたくもない。信用低下だけでも痛い。

「あ、おキヌちゃん。厄珍堂行ってきてくれない。おふだ調べて補充しといて欲しいの。終わったらあがっていいわ」
「はーい。わかりました」

とてとてとて・・・、とおキヌは除霊装具置き場にゆく。
今日の予定(前回最後の横島とのデート?)のことに気をとられてなんにも気が付いてないようだ。

えへへっ。横島さんの自転車は後部荷台ないから、下はじいんずがいいわよね。それともぶるまにしようかしら。
お弁当はどこでたべよ♪。


今は11時、横島クンは夕方6時からだったわね。なんでしばきたい時に横にいないのよ!
ま、これからの内容はあんまり聞かれたくない。プライドに関わるわ。

神様、小竜姫じゃなくってもっと高位の神様ー、エミが除霊に取りかかってませんように。
エミは遠距離攻撃タイプだから準備に時間がかかるはずだし。お願い。

ぴろぴろぴろ、ぴろぴろぴろ
「はい、小笠原ゴーストスィープオフィス。フッフッフッフッ、令子ぉ〜待ってたワケ。
 ちょーっとお願いがあるワケ」

くーっ!!令子を呼びつけていたぶってやれる。くくくっ!サイコーなワケ。ほーっほっほっ!!!!
あんの、黒こげおんなー!こっちに弱みがあるからって調子にのりくさってーーー!
なにが『お願い』よ!ぐががががっ

「オタクから回ってきた幽霊屋敷えらくおもしろかったワケ。
 たった2・3週間ほどでただのレイスが霊視を辿れるほど強力になってたみたいなワケ。
 しかも悪霊5000は支配下においてたワケ。
 こーんな例は心霊学会発表モノだから、早速GS協会に詳しい報告書を提出して、発表原稿書こうかと思ってるワケ!

 あ、心配してくれなくても“日本一”の“慎重かつ柔軟に対応できる”GSの小笠原エミ様にかかれば、
 ぺぺぺのぺーで“大黒字”で除霊できたわワケ。
 どっかの悪霊を混入させるわ、書類は入れ間違えるわ、な、助手がいなければ動けないよーなドジGSとは違うワケ。
 で、報告書、書く前に前後の状況聞きたいから、お忙しいトコをヒジョーに申し訳ないけどご足労願いたいワケ」

おキヌちゃんの力を借りたこと、令子はまだ知らないようね。今日中にいたぶるワケ。ほーほっほっほっほっほっ!
横でタイガーが太鼓をたたき、エミは勝利の踊りを踊っている。「ええんですかノー」ドンドコドン

「ぎっ、わ、わかったわ。今からいくわっ」
「今日はヒマだからぁ、ゆうっくり来るといいワケ。じゃね」

エ、エミに呼びつけられて、しっかも、頭を下げなきゃならないなんてっーーー!!
私がどんな悪いことをしたというのーッ!!!キーっ!!!!
悪霊なんかじゃなく、クレイモア(数十人なぎ倒せる強力な対人地雷。封筒には入りません)でもつっこんどきゃよかったわっ!

次の瞬間、机が一つ全壊した。もー、薪にするしかないような状態である。いい机だったのに・・・・



再び電話が鳴る
ぷるるるる、ぷるるるる、ぷるる「はい、美神除霊事務所ですけど」
「令子ちゃん〜、お久しぶり〜。おばさん、ちょっとお願いがあるんだけど〜」

六道理事長、この人に逆らうのはかなりまずい。精神的に余裕はないがとりあえずは聞かなくちゃ。
ママも唐巣神父もこの人には逆らわないもんね。

深呼吸。深呼吸。すーはー。すーはー。
「何でしょう。おばさま」

「実は〜、ウチの冥子が〜」(冥子がらみ?最悪かも)
「横島クンに〜」(横島までかんでるわけ?まさか惚れたとか言うんじゃないでしょうね)
「六道家の門外不出の〜」(除霊道具でも渡したんじゃないでしょうね?。アイツなら厄珍に売りかねないわ)
「式神操演術の奥義を教えちゃったらしいの〜」
(何ですってぇ?ルシオラがらみね。アイツいつのまに〜!一言相談してから行きなさいよ!)

「も、申し訳ありません。監督不行届で・・・・!!」
「それは〜、教えちゃった冥子が悪いんだし、結構前だったみたいだから〜、いいんだけど〜」
ちなみに冥子は発覚後、十二神将全部でぶたれて一日中泣いてら、お父様に飴をもらったそうな。

「横島クン、メモ取ってたらしいの〜」
(いつもは、肝心な所くらいはメモぐらいとれっていっても、取らないくせに〜!余計なときは!!!)

「そのメモを回収して〜、横島クンに口止めするように〜、冥子に言ったんだけど〜、
 あの子泣いてばかりで動こうとしないの〜。泣きやんだら横島クンのとこへ行かそうと思うんだけど〜」
(冗談じゃない。この上、精神不安定な冥子なんて。横島クンがそのままこっちへ相談にでも来たらどーすんのよ)

「いえメモは私が回収してなるべく早くお持ちしますわ!」
「ありがと〜、お願いね〜。この操演術は六道にしか伝わってないの〜」

お願いって言ってるけど完璧に脅しだ。
“漏れたらおまえんとこ以外考えられない”
“奥義なんかは、聞いてもメモ取ってはいけないって業界の常識くらいは弟子に教えとけ”

って言われてると短絡した。

いつもならそこまで悲観的に考えないし、状況から見て最も悪いのは冥子なのは明らか。
六道理事長の口調からも令子を非難してないのは明らかだが、対エミで消耗して精神的余裕がない。



エミと唐巣神父に対するミスと合わせれば・・・・・
「ひぃぃいーーー」美神令子、顔面蒼白。ムンク状態。
多少の脱税や賄賂とはレベルが違う。業界内での信用暴落と孤立。

もちろん、エミと唐巣神父も別にGS協会にチクるつもりはないのはこれも会話から明らか。


GSとして死刑宣告だわ!!!GSでなくなったら悪霊や人外しばいてボロもうけできなくなるじゃない!!!
横島クン以外の人間の男なんて、よわっちくてしばき甲斐がないし、しばいても金にならない!!!
あ、横島クンは人外か。(←自分のことは自覚無し)

ちがーう、少し錯乱して思考が変。
なんで、横島クンとなりにいないのよー!!しばきたい時に横にいないなんて丁稚失格よ!!!
だめだめ、深呼吸。深呼吸。すーはー。すーはー。すーはー。すーはー。


ちょっと落ち着いたわ。

とりあえず誠意を見せるためには六道家に頭下げに行ってこなきゃ・・・・。
時間はかからないから、その後でエミのところへ行くしかないわね。その後に先生のところか。
その後は横島締め上げてメモ回収、か。ふー。
スーツ、スーツ。礼服の方がいいかしら。


「美神令子は神も悪魔も恐れないのよ!たかが人間のエミとおばさまくらいどうってことないわよ!」
と左手を腰に、右コブシを天井に突き上げ、上を向いて叫んでみる。言葉はともかく行動は似合わないことおびただしい。

神=ヒャクメ<<小竜姫≒ワルキューレ>ジーク=魔。小竜姫より私の方が間違いなく強い! OK!!!
エミ<小竜姫だしね!

六道のおばさまはと
・・・・おばさま>ママ>ベスパ>>>ルシオラのキャメラン>>私?

ひーっ!!やっぱりだめかもーーー


この上、ママまで敵に回したら魔界へでも逃げ込むしかないわ!!!
なんとかママにはばれないように処理しなきゃ。ママを見たら逆らわずに機嫌取って・・・。


その時、人工幽霊一号の声が。
「美神オーナー。美智恵様がお見えです」

「ママ、あの「令子ぉー!!九尾の狐の件であれだけ言ったにもかかわらず、
 ユニコーンで同レベルのことやるとは何事よー!!!」

美神美智恵は令子を見るなり怒鳴る
美神家特有のとがった目尻の睫毛が90度逆立っている。

「ママ、ママ。今日は許してーー」こっちの睫毛は水平以下。
「今日という今日は許しません!!!腰据えてやるつもりでひのめは託児所に預けてきました!!」
「ママ、ママ。今日はちょっと行かなきゃならないところが・・」
「そこで、ついさっきおキヌちゃんに聞きました。今日は除霊もお客もないってことは知ってます!」
「ママ、ママ。ほんとなのーーー」
「そんなんだと仕舞いに信用失って、ガミガミガミガミ!!ー」
「ママ、ママ。わかってるって!!、わかってますーー、わかりましたーーー!!!」
「アンタはいつも口先だけで、ガミガミガミガミ!!ー」
「ママ、ママ。ごめんなさいーーー」
「アンタは、なんでそんなにお金に汚いの!ガミガミガミガミ!!ー」
「ママ、ママ。だってだってぇーーー、あーん!!!」
「バチカンでのことも聞いたわよ!ガミガミガミガミ!!ー」
「ママ、ママ。あれは横島クンがーー、ーーー!!!」
「横島クンをいつまでも小遣い程度で使ってるからそうなるの!パートナーとして尊敬しろって言ったでしょう!!」
「ママ、ママ。ちゃんと尊敬してますーー、ーーー!!!」
「男を小遣いで使いたければ、ちゃんとモノにしてからにしなさい!ガミガミガミガミ!!ー」
「ママ、ママ。わかってるけどーー、ーーー!!!」
なにげに爆弾発言もありますな。

        《しばらく続く》

と延々と怒鳴られ、脱税の証拠(追徴額XX億円規模)をちらつかされ、
汚い仕事を金輪際しないという熊野牛王の誓書に署名・捺印・宣誓(録音)させられた。

さらに今回の罰として幻獣保護協会に1億ほど寄付を命じられた。汚い仕事は損だというのを体でわからせるらしい。
そればかりはと断固拒否すると、そこでまた上のやりとりを繰り返した上で、
『令子、アンタが私にかなうと思ってるの?』という殺し文句を三白眼で言われた。

その後、耳を引っ張られて協会まで連行され、結局寄付させられてやっと解放された。



この上、脱税でやられてママまで敵に回したら死んじゃうわ。ミスがママにばれたら何されるか・・・
ママ、やるときは容赦ないから。ママが敵に回ったら西条さんも味方にはなってくれないわよね〜。
ああ、時間たっちゃったわ〜〜。早く行かないとー。


その後、六道家では頭をバッタのように下げ、
(そこまでする必要はないのだが、美智恵に精神をへし折られた直後なので自然にやってしまった。
 ものに動じない理事長がちょっと不思議そうな顔をしていた)

小笠原エミのところでは頭を下げた上に慰謝料と口止め料として除霊料金(美神相場)の5倍ほどの額の小切手を切らされ、
(エミは、青くなったり白くなったり、さらに赤くなったりする令子の顔をみて至福の時を過ごした。
 で、交渉を楽しむつもりでふっかけたら、令子がヤケにあっさり金を出して懇願した時、ほんとに令子なワケ?とか思った)

唐巣とピートに頭を下げて除霊報告書を取り替えてもらい、
(いいわけ最中にうっかり、夜酒を飲みながら書類を整理してたことをしゃべってしまい、唐巣神父に説教を食った。
 この時、令子が素直に反省してますといい、迷惑料(たかが6桁だが)を出して、
 これで教会の壁でも塗り直してくださいというと、横で聞いていたピートが錯乱しかかった。
 神父は『美神君もやっと・・』と涙を流した)

そこにいた雪之丞にまで、こびを売る羽目になった。
(雪之丞は自分に“美神の旦那”が頭を下げた驚きを3年ぐらいも弓に言い続けた。弓は信じなかったが)

横島の高校で今日は横島が追試も補習もないことを知り、横島をしばけないのでさらにストレスをため込んだ。

仕方ないので横島のアパートに勝手に入って(鍵はかかってなかった)メモを回収し、また六道家で頭を下げた。
メモを回収するのに横島のきったないアパートを全部掃除して片付ける羽目になった。
そうでもしないとメモなんて見つかる状態じゃなかったのだ。
(その直後に弓と一文字に会って、おキヌと横島が二人でどっかに行ってることを知って、なんかよけいストレスがたまった。)

もちろん、弓と一文字は土曜日に久しぶりに暇ができたのでおキヌちゃんを誘ったら断られたので、
ねちねちと理由を聞き出し、おねーさまにご報告に及んだのだ。




夕方、やっと事務所に戻ってきた令子。時間の経過と共に、少ーしいつも通りの感覚が戻ってきた。

「あ"ぁー、今日はなんて日なのよ。この美神令子とあろうものがそこらに頭下げまくるなんて!!!
 しかも、今日の損害はナンナノヨ〜〜!横島のヤツは人の苦労も知らずにおキヌちゃんと楽しくやってるにちがいないわ」

どてっとソファに座り込む。もはや妙齢の女性でも、いつも強気のイケイケ女でもない。
「ここんとこついてないわ〜。飛行機から落ちるし、バチカンでは金取り損ねた上にろーやにぶちこまれるし」

ウイスキーをコップに注いでぐーっとあおる。横には空になった牛乳パック(1リットル入り)。

「大体、あれもこれも含めてよーく考えてみれば横島が全部悪い。
 アイツのせいで仕事は選ばねばならないし、六道家に借りはできるし。
 六道のおばさまなんて『横島くんが〜、冥子の夫になってくれたら〜、何の問題もないんだけど〜。
 おっととライバルの前で失言ね〜』なんていうし」


「うだうだ過ぎたこと悩むよりも、今日は横島がきたら即刻殴ろう。式神奥義の口止めを口実に」
そう考えるとなぜか少し落ち着いた。

「走り回って、汚れちゃったわね。とりあえずシャワーでも浴びるか」
とシャワー室へふらふら歩いていく。



数分して、なにも知らないおキヌと横島が自転車で仲良く並んで帰ってくる。
おキヌの前かごには夕食の材料。二人でお買い物もしてきたらしい。

「あ、美神さんも帰ってるみたい。じゃ、着替えてすぐご飯の用意しますね」

横島は荷物を台所まで運んで、おキヌちゃんが料理しやすいように袋から出して分別する。
あと、冷蔵庫や棚などに入れるべきものをほりこんでしまえば、台所にいればかえってじゃまである。

その後、応接室のソファに座り、蛍型式神=ルシオラをポケットから出して、動かそうと試みる。
これは日課というか気がついたらいつでもやっている。

「まだ、動かないんですね。ルシオラさん」「うん。だいぶ大きくなったけどね」

はじめ1cmなかったのが、3cmくらいにはなった。しかし、まだ一回も触角以外のものが動いたことはない。
冥子に教えてもらった方法はとりあえず全部覚えた。使えないが。

横島は奥義を教えてもらったとは思ってない。“基礎”だと思っている。
「はー、なんだかんだいっても冥子ちゃん一流なんだな〜。難しいや全然できない」
なーんて思ってた。

ちなみに覚えた後は、メモの存在なんてすっかり忘れてる。まー、汚くてだれも読めないようなメモだったんだが。


もう一度、念を込めてみる。

その時、蛍の前ばねが開き、後ばねがすうっと展開する。
後ばねがはじめはゆっくりと、そのうち激しくふるえ、蛍が空中へ舞い上がる。
部屋の中をゆっくり飛び回る蛍。

「動いたー!!うごいたうごいた!!」「やりましたねっ。横島さん」

おキヌと手を取り合ってぴょんぴょん跳びはねんばかりに喜ぶ横島。そのまま念を込めてみる、左へ右へ、着陸、離陸。自在に動く。

意識せずにほっといても結構歩いたり飛んだりしている。そのうち、蛍の視界が自分に連結しているのに気が付く。
まだモノクロ。しかもかなり荒い。冥子の話だと、だんだん式神の能力に応じた見え方・感じ方になるはずだ。


しばらく二人で手をつないだまま眺めていたが、当たり前だがそれ以上の進展はない。
おキヌは台所に戻り、横島も通常モードに戻る。

ルシオラが復活していくのを実感でき、心の枷がとれて完全通常モードだ。

「おおっ、美神さんはシャワーか。ふっふっふっ。これは横島忠夫の名にかけて覗かねば。
 そういえばあれ以来お宝をおがんでない!! なんてもったいなことをーっ」

やっと気が付く自分の不甲斐なさに血の涙を流す横島。

「久しぶりに、ちちやしりを覗かせてもらおーか」
ルシオラ蛍をほっといてロープをもって屋上に行く横島。おい、それでいいのか?



しかし、横島といえども久しぶりで勘が鈍っていたようだ。窓にたどり着いたときにはもはや令子は浴室から出ていた。
「チッ、俺も焼きが回ったか。戻るか」

勘が鈍っていたのは令子もだった。ただし、こちらは精神的打撃とアルコールによる。
横島が来ていることを検知できていなかったのだ。

「あー、すっとした」バスタオルを適当に巻いただけで無防備に応接室に入ってくる令子。
ウイスキーもほどよく回って全身ピンク色。男ならよこしまでなくてもとびかかりそーだ。

そこに黒い平たい楕円形の虫がハネを広げて飛びかかってくる。オスか?此奴は。
「きゃーーーーー!! 誰か助けてーーーー!!!」今日は厄日なの〜〜!!!

応接室を自分の格好も忘れて逃げ回る令子。それを追いかける大きなムシ。

なんで追っかけてくるのよおぅ!!!

何事かと台所と屋根裏部屋からそれぞれ応接室に走るおキヌと横島。


「こんのゴキブリがー!、美神令子をなめるんじゃないわよー!!!極楽にいかせてあげるわ!!」
 必死の形相で応接テーブルの上にあった神通棍を見つけて振り下ろす。
 今日のストレスとゴキブリへの嫌悪で鞭状になっている。フルパワーだ。

「美神さんダメーー!!! それルシ「バシーン!」」クリティカルヒット。
直後に「げぇっ」と一声叫んで、ルシオラの方にスライディングして、気を失う横島。

「美神さん・・・・、い、今のル、ルシオラさんなんですけど」
「へっ?」

神通棍の下で、フェードアウトするようにつぶされた蛍が消える。ゴキブリなら消えるはずはない。
「も、もしかして、わ、私、ルシオラを潰しちゃったの? 横島クン、ショックで気を失ったの?」
「た、たぶんそうです」

殺される。横島クンに殺されるわ・・・この場合、仕方ないかも。
ルシオラ2回いや3回も殺しちゃったわ・・・・
世界とじゃともかく私だけじゃ・・・・
走馬燈のように横島クンをしばいた日々が駆けめぐるわ・・・

ふらふらっと横島のそばに行ってへたり込む美神令子。
「うーん」横島が目を覚ましながら、ごろんと転がる。

そこには令子のきれーな、すべすべ、ももいろのふ・と・も・も♪

「ごめん・・・ごめんなさい」と謝る令子。もちろんバスタオル一枚だ。
「美神さんーー!!そのかっこで僕に謝るってことは、もー告白ってことですね!!!」
抱きついて、やーらかい豊かな胸に顔を埋める横島。令子無抵抗。

ああ、やわらかいなーあったかいなー・・・・極楽とはこーいう・・・ええっなんで?

すさまじい違和感に現実に戻り顔を上げる横島。
そこには、横島の背中に手を回し、横島を見つめる今まで見たことのない表情をした令子の顔。

「ごめんなさい。許してくれるなら・・・何でもするわ。私、ルシオラを・・・」
「へっ、ルシオラがどうしたんですか?そういえばなんで陰に戻ってるんだろう」

自分の陰から蛍を出してその辺を飛び回らせる横島。

(あっそーか。ルシオラ、横島クンの式神だったからやられても陰に戻るだけか。
 さっき、横島クンが倒れたのはルシオラが潰されたダメージを不意に食ったからか)

蛍が令子を追い回したのは、もちろん横島の無意識が令子のバスタオル姿に惹かれたからである。


「何でもないわよっ」横島の手をふりほどき、真っ赤になって部屋を走り出て行く。
バタン、ブロロローーー。コブラのエンジン音が遠ざかってゆく。

いつもなら横島をぶん殴るシュチエーションだが、
いろんなショックやら恥ずかしいやら安心感やら口走った内容やらで逃げ出してしまったらしい。

ちなみにバスタオル一枚で自分のマンションまで駆け抜けたんだが、
いつもの格好とそう変わらなかったので通行人は気がつかなかったそうな。


「「・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・」」



そんな“あり得ない美神令子”をぼうぜんと見送るおキヌと横島。

実に半年ぶりの文珠が出ているのにも気が付いていなかった。

「横島さん・・・、晩ご飯ひとり分余っちゃいましたね・・・どうしましょう」



ぷるるるる、ぷるるる、ぷるるるる、ぷるるる、ぷるるるる、ぷるるる
「「・・・・・・・」」
ぷるるるる、ぷるるる、ぷるるるる、ぷるるる、ぷるるるる、ぷる

「    ・・はい、美神除霊事務所っすけど?」
「連続きつねうどん食い逃げ事件でご相談があるんですが」

「へ??きつねうどんっすかぁ??」

「あっこらまだっ」「先生ー!!お久しぶりでござるっ。弟子のシロでござるーー!!!」


to be continued


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