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復活

前衛・後衛(下)


投稿者名:ETG
投稿日時:05/ 3/12

車に乗り込んで移動し始め、わら人形が粉々に飛び散ってから10分ほどたった頃、小高い丘の上の空き地というか公園につく。
他に人はいない。展望所になってるらしく、一応コンクリートで舗装されている。

「タイガー、霊視できないから、式神バラまくワケ」
「200体くらいですかノー」「1000体、その代わりいつもより弱くていいワケ」

タイガーはワゴンから六道印の箱を取り出す。
蝶、蠅などの虫やカラスやスズメ等の鳥の形をした紙を取り出し、呪文で指令を与えてゆく。
式神は四方八方に飛んでゆくが、圧倒的に標的の幽霊屋敷方向に飛んでゆくものが多い。

カット、念入れまで済んだ六道除霊装具(株)の既製品。
グレードは虫が5で鳥が10。10種×10枚+2枚増量、計120枚入りセットで3万円のお買い得品だ。

売り文句は“5マイト以上の霊能者なら使えます”つまり一般人でも使えるのだ。
普通高校での霊能サークルなんかでよく使われている。

もはや式神ケント紙でなく式神ちり紙とでもいうべきものでとても戦闘にも召使いにも使えない。
動作保証10時間。悪霊どころかフツーの浮遊霊にデコピン一発でつぶされ、雨が降れば終わりという代物である。

「これで偵察するワケ。式神の視界をこの水晶玉経由でタイガーに伝達、
 必要に応じてタイガーが私に精神感応で見せてくれるワケ。
 式神使いの修行をしてたら水晶玉はいらないんだけどね。
 タイガー、今回はおキヌちゃんにも見せるワケ」
(1000体だとワッシの能力ではぎりぎりじゃノー。途中でおかしくならければいいがノー)

タイガーの考えがわかったのか、
「たぶん、かなりの式神がすぐつぶされるワケ。今度の敵はかなり頭がいいワケ。」

「式神千体も同時に操れるなんてすごいですねー。
 私、六道の実習でやったら四体以上だと同じ動きするのが出ちゃいました。
 千体もどうやって一体ずつ動かすんですか?」

「それは大丈夫じゃ。ワッシは幻覚感応術者じゃケン。相手に矛盾ない幻覚を見せるよりはずっとらくジャー。
 幻覚は相手に立体イメージを連続で送りつけるケンノー、1000体の式神の動きをイメージするぐらいはできるケン」
「そういえば南極では、大艦隊丸ごと幻覚に捕まえてましたもんね」
「あのときはイメージが単純な暗黒でいいからできたんジャー。普通の幻覚なら、ビル一棟分ぐらいが限度ジャー」


エミ自身は箒のようなってか、どうみても箒そのもので地面を掃いている。
しゃかしゃかしゃか・・・・。ゴミ集めはしない。
表情が真剣かつ霊衣、霊粧をしてるだけに結構間抜けだ。

「地の霊的平面度をあげてるんですね」

「そう、まえもってやっておいたけど、直前にもう一度ね。
 ビルの屋上や地下室みたいに生き物が少ないとほとんど乱れないんだけどね。
 こういう草あり虫あり人ありのところはすぐでこぼこになるワケ。
 この辺は適当なビルや地下室がないんでしかたないワケ。
 私は都会派なワケ」

2、3分でざっと掃き掃除が終わると、箒を持って空中になにやら書いてゆく。

「すごいっ」

箒をまわすとエミを中心として魔法陣がまさに魔法のように地面に現れてくる。
直径10mの大きな魔法陣が1つ、その周りに直径2mほどの小さな魔法陣が8つ。
対フェンリル戦で美神令子が連日徹夜で一文字一文字手で魔法陣を書いてたのとはえらい違いだ。
魔法陣を書き終わるまで2分とかかっていない。まさに“できる”と“使いこなす”の差だ。

「フフフ、こんなので感心されても困るワケ。呪術師や召還師を名乗ろうと思えば、このくらいはできないとだめなワケ。」

っていってもここまでできるのは日本ではエミだけなのだが。世界でも五指に満つまい。
エミ自身も昔は自分ではできずベリアルにやらせていたものだ。


「箒にあらかじめ、何種類かの魔法陣が仕込んであるワケ。それを念写していくワケ」

できあがった魔法陣に宝玉など補助アイテムを配置してゆく。
適当に撒いているとしか思えないのに、魔法陣のしかるべき位置に入る。


「エミしゃん、式神が配置に付きましたケン」「じゃ、幽霊屋敷突入部隊を2分おき、5波に分けて突入させるワケ」
「承知したノー」

主に虫の形をした式神が屋敷内に入ってゆく。

「普通の幽霊屋敷やバカな妖怪なら、あんな弱い式神は虫と間違われて攻撃されないワケ。
 でも今回は片っ端からつぶされると思うワケ」

式神からの映像がエミとおキヌにくる。
「私が心眼で見るよりはっきりしてますし、広範囲が見えるんですね」


しかし、その映像は急速に歯抜けになってゆく。エミの言ったとおり、式神が片っ端から配下の悪霊にやられているのだ。
前の場所での攻撃では、悪霊の四分の一もやられなかったらしい。ヌシが防いだのだろう。

「前の攻撃はほとんど効いてないか。思ったより早い対応なワケ。タイガー、残りの突入部隊、全部一度に突入させるワケ!」

4倍の式神をつぶすのは時間がかかるのか、今度は映像がボケない。屋敷の中の方までどんどん視界が広がってゆく。

「見つけたワケ。あれが中ボスなワケ。とりあえず仕留めて勢力減らすワケ」

準備万端整った魔法陣から前と同じように霊波が飛び出す。
今度は屋敷の上で広がらずそのまま屋敷中に突入、槍のような形になって先ほど見つけた強力な霊体に襲いかかる。

雲霞のごとく入り込む式神に気をとられていたらしいそいつはあけなく払われた。
しかし配下の悪霊は順調に式神を消しているらしく、再び急速に視界がぼける。


「くっ、悪霊の統率が全く乱れない? はずれなワケェ?。替え玉まで用意してるとは・・・。ホントにレイスとミスト主体なワケ?
 こんな強力だとは〜〜!たぶん大赤字なワケェ!!!!!もう一千万、いや二千万ふんだくっとくんだったワケェ!!!」

胸元に握り拳を2つ引きつけて、イヤイヤしながら叫ぶエミ。
(美神さんなら、いちおくえん〜って叫ぶしゅちえーしょんかしらね?)

「心眼で見てみましょうか?霊視と違って霊波を発しないので逆探知されにくいですけど」
「ありがたい申し出だけど、今はいいワケ」「?」
「遠慮してるのではないワケ。おたく、心眼とネクロマンサーの笛はおそらく同時に使えないワケ。どっちも結構霊力消費が激しいワケ」
「こんな遠距離の解像度の高い遠視をしたら、同時どころか少し休まないとダメだと思います」

「それにたぶん、この分だと逆探知はすんでるワケ。もう少ししたら悪霊の群れのカウンターがくるワケ。
 タイガー!来たら霊体撃滅波を打つから魔法陣のアイテムをできるだけ回収するワケ!」


その時、外で警戒する鳥形式神の視界に屋敷からすごい勢いで飛び出してくる悪霊の群れが写る。その数、約千。

「エミさん。先に私が押さえます。その後に霊体撃滅波をお願いします。タイガーさん、アイテム回収急いで下さいね」
「それは小笠原エミとしてのプライドが許さないワケ」
「ふふっ。美神除霊事務所流に言えばプライドより採算ですよ。私の得意なとこですし。
 それに、あの悪霊達もなるべく満足して逝って欲しいですから」
「オタクらしいというか、守銭奴の影響が強いというか・・・・なワケ! わかったお願いするワケ」

「それに周りの8つの魔法陣は守護結界ですよね?エミさんの結界だから結構持ちますよね?」
「一目でそこまでわかったワケ?」「南極でよく似たの見ましたから」

「隠しといたはずだけど?」「これがありましたから」前髪をあげる。
「でも、何時どうやって張ったかはほかに気を取られててわかりませんでした」

「あと、私の見学のために、エミさんが採算割れ、なんて後で美神さんにわかったら小言で済みませんから。
 エミなんかに借りつくってって」
「タイガー、ゆっくり丁寧に回収するワケ。それと、滅多にみれないネクロマンサーの実戦をちゃんと見学するワケ」

タイガーはアイテム回収の手を止めてはいない。エミは守護結界をさら強化している。

「わかりましたケン。ワッシも終わり次第、幻覚感応で時間稼ぎしますケン」
「それより、式神の視界を最後まで送ってください。心眼は使わない方が楽ですから」
「わかりましたケン」(なさけないノー、女のコに先に戦わせて何もできないとはノー・・・あっそうジャー!!)
「エミしゃん、式神をもう2箱ほど撒いてもいいですかいノー」

会心の笑みでエミも答える。
「最後まで視界確保しないと許さないワケ。おキヌちゃん傷つけたら、あとで令子とのけんかに負けるワケ」

先に撒いた式神はもはやあらかたつぶされていた。
今度、タイガーが撒いた式神は機動力より、隠蔽と持ちを重視して、トカゲ、蜘蛛、ネズミなど。
グレードは30。2箱240体を草や木に巧妙に隠しながら配置する。上空は生き残りを遠目に配置。

この後、あっさり悪霊は全部成仏した。守護結界で完璧に守られた上、タイガーが一体一体の情報を送ってきてくれた。
いつものようにハラハラしながら漠然とではなく、落ち着いて効率よく語りかけることができたのだから当然かもしれない。

さすがにエミの守護結界は、横島の「護」の文珠や美神の簡易結界とは安定度が桁違いだ。
悪霊の集中攻撃を受けても軋みもしなかった。
所要時間は10分くらいもかかったが安心して息継ぎもできた。

昔の霊団の時と違い、散らすのではなく全部やすらかに成仏させられたのでおキヌは上機嫌だ。


エミもタイガーも感心した。

「こんなにすぐ済むなら守護結界を強化する必要なかったワケ。タイガー、反撃するワケ!
 こんなに強力な前衛がいるなら場所移動なんか無しでいいワケ。どんどん打ち込むワケ!」

「タイガー、一番大きな水晶玉!場所がばれてもいいなら、視界も霊視で確保するワケ。」


場所移動なしだと、魔法陣を変更しなければ1〜2分間隔、魔法陣を変更しても5〜10分間隔で攻撃できる。
エミは、あたりに攻撃魔法陣と守護結界魔法陣でできた「射撃場」を5個作り、3人で移動しながら攻撃してゆく。

令子の鞭や横島の「浄」「爆」文珠より遙かに強力な霊波が、次々と、20キロほど先の幽霊屋敷を攻撃していく。
ある時は雑魚悪霊をまとめて祓い、ある時は強力な霊体を直撃し、ある時は敵の防御結界を削り、ある時は敵を錯乱させる。

呪い返しは身代わりのわら人形で、悪霊による反撃はおキヌの笛+タイガーの視界で、霊波による遠隔攻撃は守護魔法陣で封じ、
幽霊屋敷を2時間ほどの連続魔法陣攻撃で落城させた。

エミの連続攻撃で2時間持ったということは、逃げられない幽霊屋敷としてはめちゃくちゃ強力だったということでもある。


その後、ちょっと高級目のファミレスで一緒にゆっくり健康的に食事をする。
どこぞの守銭奴のようにすぐ酒ってことにはならないようだ。

タイガーはほくほく顔だ。いつもなら事務所に帰ってサイナラ、なのにエミの財布で美人二人と結構な食事ができたのだ。
おキヌちゃん様々。もちろん一文字には黙ってるつもりだ。


「こんな除霊初めてでした。ありがとうございました」
「こっちこそ助かったワケ。おたくが居なければ間違いなくまだやってるワケ。おかげで採算捨てずに済んだワケ」

「それに、ちょっと自分の方向がわかったような気がします。
 いつも美神さんや横島さんに守ってもらって、不安だったんです。
 こないだも、ハロウイン妖怪にちょっと手元に飛び込まれただけで、高いおふだ使わないといけなくなって。
 私の能力では一人じゃ足手まといなんじゃないか、直接戦闘できない、
 ふがいない、GSとしてやってけるかなって不安だったんです。

「攻撃の主体が誰かはチームの一番強い攻撃力を誰が持ってるかで決まるんで、
 もしおキヌちゃんがそうならそういうスタイルのチームを組めばいいだけなワケ」

「それに、後ろが安心できるって前に出てるとすごく重要なことなんですね。
 エミさんやタイガーさんに比べればまだまだ頼りないから、がんばってもっと頼られるように修行します!」


「心配しなくても、おたくの能力ならどこのチームでも使えるワケ。
 令子んとこみたいに、現場に乗り込むタイプなら後衛で雑魚一掃、
 うちみたいに、遠隔攻撃中心なら前衛なワケ。ヒーリングもできるしいうこと無いワケ」 

「うちのようなやり方だと、横島はともかく令子のようなファイタータイプは突っ立ってるだけで案山子にしかならないワケ。
 遠くまで、令子でなきゃ対応できないような強力なヤツが出張って来るようならおしまいだし、
 令子みたいに、魔法陣1つ書くのに手書きしてちゃ商売にならないワケ」
 
「逆もおなじ、私が間近に乗り込んだら、霊体撃滅波一回うつのに30秒かかって、令子とは比べものにならないワケ。
 ま、私は少々の相手は近接戦闘の方が安上がりで手間いらずだからやっちゃうこと多いけどね」

「戦争に例えるなら、今のおキヌちゃんは歩兵隊。大砲の護衛もできるし、戦車の支援もできるワケ。
 でも戦車は後ろに下がっちゃ意味ないし、大砲は前に出たらただの鴨なワケ。地味かもしれないけど重要なワケ」


「エミさん、もしかして、私が悩んでるの知って誘ってくれたんですか?」
「さあ?私はそこまで善人じゃないよ。タダで優秀な前衛を手に入れただけなワケ」

いたずらっぽい笑顔でおキヌがいう
「それと、今日わかりました。こんなに屋外で動き回ってたら日焼けするの当たり前ですよね。
 私も今日ちょっと焼けちゃいました」
「それどーいう意味なワケ!!!」
「別に他意はないです」


このあと、エミさんに送ってもらった。美神除霊事務所に横付けはさすがにはばかられたので30mほどのところで降りる。

「送っていただいて、ありがとうございました」おキヌはぺこりと頭を下げる。
「またお願いするかもしれないワケ。令子には黙ってね」
「よろしくお願いします・・・でいいんでしょうか?」
「拒否したら、ヒャクメに一報入れるワケ」
「それはぁっ、あうぅぅぅっ」
「くす、冗談なワケ。おやすみ」日焼け発言のお返しだろう。
「エミさんも気をつけて帰ってください」

ぶううう エミのワンボックスワゴンが去ってゆく。



暗い路地を事務所へ歩いて行くところで気が付いた。

「じ、自転車と鞄ーーー!。川の土手におきっぱなしだったーー。どーしよー!」

次の日、横島さんに頼み込んで、自転車の後ろに乗せてもらって取りに行くことになった。
ちょっと遠いからお弁当も持っていこうっと。
これも美神さんにはナイショ。

春休みはいいなぁ。


to be continued


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