早春。少し肌寒いが、お日様は満開だ。
川縁の菜の花はまだまだだが、道縁ではオオイヌノフグリが青い絨毯のようだ。
所々にある梅は満開。忙しく蜂とメジロが動き回っている。
川面がきらきら光り、白鷺が魚をつつき、帰りじたくの鴨が葦の間を動き回っている。
右斜め上では雲雀が鳴いている。
もう少しすれば早咲きの桜が咲き、一番乗りのツバメが川面を飛び回るだろう。
学年末テストも終わりほんとに平和な日々である。
六女霊能科の春休みは実家等での修行もあるため結構長い。普通科なんかにうらやましがられるほどだ。
実際は修行で山等にほりこまれる学生が圧倒的で、霊能科ではもっと短くならないかというヤツの方が多い。
ここに、そういうこともなく春休みを満喫する美少女が一人。
「は〜〜」
今週は何回ため息をついただろうか。
おキヌは春風に長い黒髪をなびかせながら川の自然堤防の上の道を走っていた。
「春休みって、宿題もないし、みんなこの辺にいないから・・・」
頭の中で昔っからある漠然とした疑問と不安。ぐーるぐーると意識の上に昇ってくる。
ちなみに弓は実家で修行、一文字は学校で用意された訓練メニューに参加。
おキヌちゃんはなんだかんだ言っても美神令子事務所のハードスケジュールにフルタイムでつきあわされ、参加不能。
一文字曰く「学校のスケジュールよりよっぽどキツイ」
こないだもバチカンで地下牢に潜ってきた。
今はくどいが春休み、除霊もないので、川沿いに自転車で少し遠出しているのだ。
(おキヌちゃんは自転車乗れます。すくーたーは乗れないけど)
気分転換と考え事。別に目的地があるわけではない。
もちろん横島は暖かい教師のもと、今日も愛子と補習と追試の嵐である。
ちなみに、愛子は追試や補習は、必ず横島と一緒に受けている。
というか、追試や補習を受けるべき集団はほとんどの場合、横島を含んでいる。
もちろん、愛子が追試や補習を受ける必要は全くないが、教師達は特に追い出したりはしない。
「愛子クン、次の課題やって」「ハイっ」「さすが愛子クン!完璧だね」「ありがとうございます!先生!」
「俺の補習は!!?進級はぁっ!!!」
「青春だわーー!」
で、この後、さらに愛子による横島個人指導が追加されるのが定番メニューだ。
が、事務所の面々はもちろん知らない。
ふと気がつくと、髑髏な悪霊が十数体、川を横切ってこちらへ近づいてくる。
「何でこんな時間に?」
おキヌは笛を鞄からひっこぬいて自転車を降りる。
こんな時でも自転車を道の横にじゃまにならないようにとめるのが彼女らしい。
が、悪霊はおキヌには目もくれず、木に囲まれた空き地に吸い込まれてゆく。
澄んだ笛の音が、うららかな川面をわたってゆく。数十体の悪霊がおキヌの周りに集まり乱舞しだす。
(こんなにいたの?)
霊衣(巫女衣装)でないので、ちょっと焦りながらも、笛の音に霊波と心を乗せ話しかける。
こんなことはなほんとにしたいことじゃないでしょう・・
こんなことをしても元には戻らないの・・・・
苦しむだけ・・・・
ね・・・成仏しましょ・・・・
新しい出会いとできごとが待ってるよ・・・
転生して、新しい生を受けられる私たちは幸福なのよ・・・
そのしあわせを自ら捨てることはないでしょ・・・・
この世の・・・私たちのためにそれさえできない方々もたくさんいるの・・・
この世を支えている神魔の方々やあの人の思いを無駄にしないで・・・ ね・・・
悪霊の表情が穏やかなものに変わり、次々に天に昇って消えてゆく。
(((ありがとう・・・・)))
「ふぅっ、助かったワケ。ただの幽霊屋敷と思って、ちょっと油断したワケ」
「エミさん!?」「おキヌしゃん、助かったですケン」「タイガーさんも・・」
空き地には「OGASAWRA GHOST SWEEP OFFICE」と書かれたワンボックスワゴンと、
ちょとした大きさの魔法陣が一つ&様々な呪術アイテムが整然とおかれている。
「タイガー、幸運は無駄にしないワケ。急いで続けるワケ」
「合点承知ジャー!」
呪術アイテムをタイガーとエミが慣れた手つきで魔法陣に配置してゆく。
「・・・・にすのむにす、べるえすほりまく・・・我が敵は滅ぶべし!」
呪文が終わると同時に、霊波が魔法陣から飛び出してゆく。
その霊波は20キロほど離れた幽霊屋敷の上で五芒星の形をとり、たむろする悪霊を祓ってゆく。
「すごい・・・・」その強力な霊波におキヌはしらずのうちにつぶやく。
「タイガー、身代わりの型代を。たぶん、すぐ返してくるワケ。型代の用意ができたら急いで移動なワケ!!」
エミも忙しく手を動かしながら
「おたく、見えてたワケね」「ハイ。すごいもの見せてもらいました」
「説明しないわけにいかないワケね。見ての通り幽霊屋敷の除霊なワケ。
タダの幽霊屋敷でならこれで一丁上がりなワケ。でも、あの幽霊屋敷はちょっと強力なヤツの根城だったらしいワケ。
それで、霊視したとたんに気が付かれて、悪霊送り込まれたワケ。悪霊自体はたいしたことなかったけど、
あそこで霊体撃滅波を打ってたら、アイテムやら何やらがめちゃくちゃになって大損してたワケ。」
エミはアイテムをバンに押し込むついでに小切手を取り出して、数字を書き込んでサインする。
おおぉ!!0が6つもついているではないか。しかもその上は棒一本ではないぞ。
「これはほんの気持ちなワケ。おたくとこのイケイイケ女とちがって、正当な対価は払うワケ。」
「そんな・・。たまたま通りがかっただけです。2分ほどで何か使ったわけでもないですし・・・」
「おたくならたぶんそう言うと思ったワケ。
じゃ、ヒマならを日本一のGSの小笠原エミの解説付きでこのあとの除霊見学するってのはいかがなワケ?」
「え、いいんですか。」
「ただし、内容は他言無用、写真撮影禁止。
特に魔法陣は令子はもちろんピートや唐巣神父にもしゃべってもらったら困るワケ。
結構、企業機密もあるワケ。自信ないなら小切手を受け取って欲しいワケ」
「絶対しゃべりませんよ?」といいながら、髪の毛を数本、エミに差し出そうとする。
「おたくは信用してるわ。それに女の子は髪は大切にするワケ」といって髪を抜こうとしたおキヌの手を押さえる。
「エミしゃん、撤収準備できましたノー」
「じゃ、車に乗るワケ」
いつの間にか魔法陣はすっかり消えて痕跡もない。代わりにわら人形が2体おいてある。
エミの呪文でそれはエミとタイガーの「気配」を放出し始める。
2,3分後、3人が車に乗り込んで移動し始めた、まさにそのとき、わら人形は粉々に飛び散った。
エミのハンドルは意外に安全運転だ。っていうかおキヌがいつも乗っている車と比べれば大抵は安全運転なんだが。
コーナーでなんかは結構きゅっきゅー、きゅっきゅーっていってるけど。
ちなみに助手席は霊体ボウガン、霊体ブーメラン等のエミの自衛武器が、後部席は除霊道具山積みで結構狭かったりする。
「横島サンはこんないい思いを毎回してるんじゃノー。あぁワッシはーーワッシはーーーー」とつぶやくタイガー。
後部席でおキヌの横に座ってると、おんなのコの甘いいいかおりがっ、
しかもエミが車を振り回すたびにイヤでも髪や腕、たまにふとももがーーーーぁぁっ
「横島サンはええノー」
一文字やエミにはない“護ってあげたい清純派”の雰囲気にほんろーされていた。
タイガー、横島は普通、トランクだぞ。それでもいいのか?
トランクでなければ美神令子の横で触れるたびにしばかれるんだぞ(99%自業自得説あり。令子のワザと説もあり)。
それでもいいのか?
「ちょと質問があるワケ。おたく、霊波や20キロ先の悪霊なんか全部見えてたようなワケ。
なぜ? 特になんか使ってた様にも見えなかったワケ」
「あうぁぅぅ。実は、、、前のアシュタロス事変でヒャクメ様に貸していただいた心眼、まだお返ししてないんですぅ。
ヒャクメ様、あの事件で出世して神格上がって“百目”から“百二十八目”になられたんで
目が減ったことに気が付いておられないんですよ」
といって、前髪をあげると額に目が。閉じると何もなかったように消えてしまう。
「それに、だいぶ馴染んじゃってるんです」
「はぁぁ、あんなトコで仕事してると、おたくでもそこまで汚れるワケ?」
「あぅぅ。美神さんが向こうが気がつくまでほっとけって・・・。債権の回収は債権者の義務で債務者の義務じゃないって・・」
違うと思いますけど・・・
あんまりな話にエミが話題を変える。
「じゃ、ヒャクメは今“ハチビットメ”様なワケ?」「エミさん・・・128は7ビットですよ?」
ワゴンの中はブリザードが吹き荒れた。
その頃、ヒャクメは神界のベンチマーク施設で増えた能力を堪能していた。
「これなら、同じ魂が1m以内に2つあっても区別つくのね〜」とか
「人間が使う電磁波(光を含む)もきっちり見えるのね〜。レーダーやラジオ・テレビ電波も直接見えるのね〜」
とかなんとか
気がつくのはおキヌちゃんが転生した後だろう。
to be continued
横島を主人公にして話を進めていくと思っていましたが、今回はおキヌちゃんをかなり目立たせてますね。
しかもなにげにエミとタイガーの二人も登場してきてこれから面白くなりそうですね。 (鷹巳)
128メ。結構好きなんですよ。彼女の仲間ももうちょっとしたら出ます。 (ETG)
127は7bitですが・・・
1 2 4 8 16 32 64 128 この区切りで1bitずつ増えていきます。 (hazama)