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after day

第11話「君を守りたい 前編」


投稿者名:ダイバダッタ
投稿日時:05/ 3/11

 しかし、エミの口から出た言葉は横島の予想外のモノだった。
「横島。
 今、令子の母親から連絡があったワケ。
 令子が倒れたそうよ。原因は呪い。
 このままだと死んでしまうらしいわ。
 おたくと私に直ぐ来て欲しいそうよ」
 横島の目が驚愕に見開いた。

 シロも驚き振り返ろうとする。が、横島に止められた。
 横島の右手がシロの頭をつかんで無理やりこちらに戻す。横島はシロに口づけをすると舌を入れた。そのままシロの口内を蹂躙してヒーリングをむさぼる。
「ん――!」
 シロは横島のいきなりの行動に身を堅くするが、拒否はしない。息を乱しつつも横島に身をゆだねる。時おりビクッと体を振るわせる。
 おキヌはあまりの事に驚いて固まっている。エミは呆れ顔だ。
 横島とシロの舌が絡み合って湿った音を立てる。
「んちゅっ れろ はぁ んん ぬぷ んんん――!!!」
 シロの体がひときわ大きく痙攣した。体から力が抜けて横島の胸に倒れ込む。
 横島は起き上がってシロを抱き上げると、駐車場のバイクに向かって走り出した。途上の生徒達はすぐさま道を空ける。
 横島はバイクの前に到着すると、完全に脱力したシロを地面に下ろそうとして何かに気づき止めた。次にバイクに乗せようとしてコレも止めた。
 そのままシロを抱えてバイクの回りをウロウロする。
 エミとおキヌが追いついた。
「なにやってるワケッ! 貸しなさい!」
 エミはシロから精霊石を外して狼の姿にすると、カバンに詰めておキヌに渡した。ヘルメットをおキヌに渡してバイクにまたがる。
「私達は安全運転で行くから、おたくは先に行ってなさい」
 エミに言われた横島は弾かれたようにバイクにまたがった。前輪をロックしてアクセルを全開にする。その場でマックスターンを一回決めると、ウイリーしつつ急発進。車止めを使ってジャンプすると駐車場の低い囲いを飛び越える。そのままエミ達の視界からフルスロットルで消えていった。

   ◆ ◆ ◆

 横島は事務所の玄関の扉を開けて中に飛び込んだ。
 応接間には美知恵と西条が居た。
「美神さんはっ!?」
 横島は叫ぶように尋ねた。
「寝室に結界を二重に張って寝かせているわ」
 美知恵が冷静に答えた。
 横島は階段に向かって駆け出す。西条がそれを止めた。
「結界を張っていると言っただろう。むやみに部屋のドアを開けるべきじゃない」
「だ、だけどよ――!」
「文珠で出来ることは大体試したんだ」
「お、俺がやればなんとか――!」
「解呪はできるのよ」
 美知恵が静かに告げた。
「文珠で解呪は出来るのよ。でも、呪いは継続的に送られてきているらしくて、また直ぐに呪いに掛かるのよ」
 文珠の欠点の一つは持続しないことだ。今回はそのことがネックとなった。
「とりあえず、呪いの専門家であるエミさんを待ちましょう」
「ですけど――!」
「横島クン、ボロボロじゃない。休んで霊力を回復させなさい。オカルト知識にとぼしいあなたが霊力を使えなかったら、役に立つ事はできないでしょう」
 美知恵のその言葉に横島は押し黙る。
 西条が横島にソファに座るよう進める。美知恵は何か霊力の回復するものをとキッチンに向かった。
 横島はとりあえず目をつぶってソファに体をあずけた。
 足が小刻みに震えていた。

   ◆ ◆ ◆

「結論から言うとお手上げなワケ」
 エミは苦々しげに言った。
「解呪は出来るけど継続的に呪いが送られてきているらしくて、すぐに次の呪いにかかる。結界も令子の周り、部屋、人工幽霊の三重に張っているけど効果無し。呪詛返しもしてみたけど手ごたえが無かったワケ」
 横島に遅れること一時間。エミ達も事務所に到着した。
 事務所に着いたエミは早速呪いについて調べ、色々と手を打ってみた。しかし、そのどれもがさしたる効果を示さなかった。
 横島はソファに座ってボーっとエミの話を聞いている。美知恵に食べさせられた霊力回復用の食事のせいだ。イモリの黒焼きとか怪しげな薬草とかのアレだ。
 おキヌはそんな横島にヒーリングをかけている。シロは狼の姿のまま床で寝ている。
「そもそもこの呪い、呪いなのに呪いじゃ無い見たいなワケ。オカルト的なのにオカルトじゃない見たいと言うか――とにかくよく分からないワケ」
 エミは悔しげにお手上げだと告げる。
 美知恵と西条が顔を見合わせた。うなづき合う。
「恐らく、令子を呪っているのは半年前に令子が殺した九尾の狐だわ」
「あの狐さんですか・・・・・・!?」
 おキヌが少し驚いて悲しげにつぶやく。
「九尾の狐を殺したという事は令子を呪っているのは・・・・・・」
 エミは相手の正体に気がつく。
「ああ、多分殺生石だ」
 西条が答える。
「最悪じゃない! オカルトで在りながらオカルトが通用しないなんて相手にはどうすることもできないワケッ!」
 エミは令子のうかつさを罵った。
 沈黙が場を支配する。
「あの・・・・・・」
 おキヌが手を上げて質問する。
「霊的に無理なら物理的に何とかならないんですか? 前に横島さんが言ってたんですけど・・・・・・」
 おキヌは横島を指差す。
「殺生石を物理的に破壊することは可能よ。でも、それは意味が無いの。いくら粉々にしても元々生きていない殺生石には関係ないわ。この世に存在している限り呪いは継続するわね。
 そして、物理的な方法で物質を消滅させるのはひどく厄介なの。不可能と言ってもいいわね。それに、それを実行する人間も呪われるでしょうしね」
 美知恵はため息を吐いた。

 不意に横島が立ち上がった。まだどこかボーっとしている。
「どうしたの、横島クン?」
 美知恵が尋ねる。
「九尾の狐ってすんげー昔に退治されたんですよね? 何でそれを美神さんが殺せるんですか?」
「強力な妖怪は魔族や神族のように転生復活するのよ」
「転生・・・・・・復活・・・・・・」
 横島の瞳に力が戻り始めた。玄関に向かって歩き始める。
「横島クン、どこに行くの?」
「殺生石のところです」
 横島は力強く答えた。
「何をする気!? 例え殺生石を破壊しても令子の呪いは解けないし、あなたも呪われるだけなのよ!」
「殺生石を破壊する気はありません」
「なら何をしに行くというの!?」
 横島は振り向いた。美知恵の目をしっかりと見据える。
「説得です」
 横島を除いた全員が驚いた。
「説得って相手は石なんだ。生きているわけじゃ無いんだよ!」
「だが、意志を持っている。美神さんを殺したいっていう意志をな。そして、美神さんは死にたくない。だから説得する」
「意志は在っても意識は無いのよ。説得なんて出来るわけが無いワケッ!」
「何とかします。大丈夫、文珠は万能です」
 横島は踵を返すと玄関を通って事務所を出た。
 陰陽文珠を出して「探/索」と刻み、放り投げる。文珠から棒が二本延びていき矢の形になった。そのまま空中にとどまり720Rのランダム回転を始める。
 唐突に矢の回転が止まり、一方向を指す。
 横島は文珠を掴み取り文字を込めなおす。「飛/翔」と。
「横島クンッ!」
 美知恵たちが事務所から出てきて横島に呼びかける。
 横島はそれに応えず、文珠を使って飛び立った。

   ◆ ◆ ◆

 那須高原から少し離れた山奥にそれは在った。
 森の中の少し開けた場所――岩肌がむき出しになったその場所の中央にそれは鎮座していた。
 高さ50p。横幅1.5m。奥行1mの平べったく、やや紫色をした白い岩。
 殺生石はそこに在った。

 横島は殺生石から少し離れた位置に降り立った。陰陽文珠を解除する。
 殺生石をじっと見つめる。特に変わった所は無い。横島の目にはただの岩に見える。
 横島は右手に光り輝くホタル――ルシオラの霊体を出した。それを見つめる。
 脳裏に小竜姫の言葉がよみがえる。
『そのままでは魂が弱くて死産になるし、別の魂でおぎなえばそれは転生ではなくてまったくの別人よ』
 ルシオラの霊体を陰陽文珠に変換する。
「ルシオラ。
 お前のこと、忘れたわけじゃないし、忘れたりもしない。
 でも、お前は死んじまって、俺は生きてる。
 だから――」
 横島は陰陽文珠を殺生石に向かって投げつけた。

 横島は思う。
 死んだ奴の為に出来ることなんてありはしない。
 一生独り身を貫いたり、そいつの意志を受け継いだりしても、それは生きている奴の自己満足で死んじまった奴は喜んだり悲しんだりはしない。
 だから、死んじまった奴の為に生きている人――助けられる存在を助けないのは間違ってる。

「俺は! 俺はまたお前を――!!!」
 陰陽文珠が殺生石に当たった。「転/生」と刻まれた陰陽文珠が。
 瞬間――
 霊気が爆発した。

   ◆ ◆ ◆

 辺りに土煙が立ち込めている。
 横島はまばたきもせず前を見据えている。
 期待や不安。とにかく色んな感情が体中を駆け巡る。ノドを鳴らして唾を飲み下した。
 目の前に薄っすらと人影が見え始める。
 横島は緊張して土煙がはれるのを待つ。

 土煙がはれた。
 そこには少女が立っていた。
 少女は服を着ておらず、目を閉じて静かに立っている。
 十二、三歳くらいの未成熟な体をしている。少しやせ気味だ。
 顔立ちは幼いが、どこか冷たさを感じさせる美貌を持っている。
 ポニーテールにした後ろ髪が九つに分かれており、前髪が二本触角のようにピンと立っている。
 全体的に金髪だが、ポニーテールの先と触角の部分は黒くなっている。

 少女が目を開いた。横島を見る。
「まずは、復活させてくれてありがとうと言っておくわ」
 目を細めて値踏みするように横島を見る。
「でもね――」
 横島をにらむ。
「私に混ぜ物をしたのは許せないわ!!」
 少女の口から大量の炎がほとばしった。
 横島はとっさに地面に伏せると左手にサイキックソーサーを出して炎を防ぎつつ、右に移動する。
 地面に伏せた横島の上を何かが通り過ぎる。
 右手に炎を宿した少女だ。
「なにっ!?」
 二人は互いに驚く。
 横島は気がつく。先ほど少女が放った炎によるダメージがまるで無い。
 それに、今少女は黒を基調とした戦闘服を着ている。
「幻術か」
「そうよ。私は金毛白面九尾、玉藻の前。幻術なんてお手の物よ。それにしても、よくかわしたわね」
「後ろに避けると罠に引っかかる場合が多いんでね。こう見えて、実戦経験は豊富なんだ」
「強い男は嫌いじゃないわ。名前を聞いておくわ」
「ヨコシマ。ヨコシマ タダオだ」
「そう、ヨコシマ。覚えておくわ。でもね、これでサヨナラよっ!」
 タマモがまた火を放った。
 横島は右手にサイキックソーサーを作る。左手に右手のものより少し弱いサイキックソーサーを作り、右手のソーサーにぶつけた。左手のソーサーが爆発を起こす。爆発を前方に押し出し、その空間に飛び込んでいく。
 前に飛び出した横島の後ろを炎が横切った。
 横島の前方の炎は又もや幻術だった。本物のタマモは横島の左側面に回りこみ、そこから炎を放ったのだ。
 横島は直ぐにタマモに向き直る。
「本当に強いのね、ヨコシマ」
 タマモは蠱惑的な笑みを浮かべる。
 横島は応えず、タマモをじっと見つめる。
「なんか、少し違和感があるよな」
 横島は戦いの最中だというのにとぼけた感じでタマモに尋ねる。
「なにがよ?」
 タマモは憮然と尋ね返す。
「妖狐の能力っていったら狐火と化かすことだよな。でも、お前のは完全に幻術って感じだろ」
 横島は少し嬉しそうに言う。
「う、うるさい! 黙れっ!」
 タマモは顔を真っ赤にして怒る。
 横島に殴りかかる。狐火をまとっていない拳だ。
 横島は避けずにその拳をあまんじて受ける。
 タマモは息を荒げて横島をにらむ。
 横島は優しさや悲しさを含んだ複雑な瞳でタマモを見つめる。
「タマモ。俺はお前を助けたい」
 横島は真剣な目で告げた。
 タマモは驚き、そして激昂した。
「ふざけないでっ!」
 タマモを中心に炎が渦巻き膨れ上がっていく。辺り一体を炎が蹂躙する。

 炎が収まっていく。
 タマモの目の前から横島は消えていた。
「タマモ――」
 後ろで声がした。慌てて振り返る。
「俺はお前を助けたい。本当だ。信じてくれ」
 横島の姿が空中に浮かんでいた。向こう側が透けている。
「落ち着いたらここに来てくれ。住所がわからなくてもお前なら臭いで分かるだろ」
 横島が、地面を指差す。そこにはGS免許が落ちていた。傍に文珠が二つ落ちている。刻まれた文字は「残」「像」だ。
「そこにはお前を殺した人も居る。でも、俺はお前の味方をするから。
 俺はお前を助ける。本当だ。信じてくれ」
 それで横島の残像は消えた。
 タマモはGS免許に歩み寄り。恐る恐るそれを拾い上げた。臭いを嗅ぐ。ヨコシマの臭いがした。
「嘘・・・・・・嘘よ・・・・・・」
 タマモがうつむいてつぶやく。
「信じられるわけ無い。そんなの――」
 首を左右に振って否定する。
「そんなの、信じられるわけ無いじゃないっ!!!」
 上を向いて咆哮する。
 夜空にタマモの叫びがコダマした。

   ◆ ◆ ◆

 横島は地面に「軟」の文珠を投げつけそこに落ちるように着地した。
 直ぐに起き上がって事務所へと歩み始める。
「あー、クソッ。けっこうキツイなこりゃ、ハハハ・・・・・・」
 涙が零れないよう上を向いた。
 しかし、歩みを止めたりはしなかった。


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