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after day

第10話「すまないと思う 後編」


投稿者名:ダイバダッタ
投稿日時:05/ 3/ 1

「あ、あれはっ!? 霊団でござる!!」
「なんだとっ!?」
 まだ日の高いうちからの霊の集団による奇襲。
 正にそれは前代未聞の歴史的奇襲の瞬間であった。

   ◆ ◆ ◆

「足の速い浮遊霊たちによる奇襲部隊が敵陣に到達する模様です」
 水兵の幽霊が告げた。
 海坊主は重々しくうなづく。
「今夜は――彼らにとっても、我々にとっても――
 一番長い夜になるだろう……!!」

   ◆ ◆ ◆

「シロッ! 遠吠えを上げろ! 俺は先にホテルへ戻る!」
 そう言って横島は駆け出した。
 シロが遠吠えを上げる。霊気をまとったその声は霊団の進行を鈍らせる。
 霊団の進行が鈍ったのを確認すると、シロは横島の後を追った。

 横島はホテルの敷地の前で立ち止まり、文珠を四つ作り出す。
 込める文字は「広」「域」「結」「界」だ。
 追いついてきたシロにその文珠を見せる。
「コイツをホテルの周りに配置してくれ」
 シロは精霊石のペンダントを外して狼の姿になる。
 横島はシロの口に「広」以外の三つの文珠をくわえさせた。シロは走り出す。
 ホテルの玄関からエミと鬼道が駆け出してきた。
「横島! 今の遠吠えは一体なんなワケッ!?」
 横島は迫り来る霊団を指差す。
「あれは!? まさか、こんな真昼間から!?」
 鬼道は驚きを隠せない。
「とりあえず、ホテル周辺に結界を張ります。悪霊程度には絶対破れないヤツを。生徒達の準備は慌てないで構いません」
 横島は落ち着いてひどく冷静に言う。
 おかげでエミと鬼道も少し落ち着いた。二人ともプロと教師の顔になる。
「分かった。エミさん、とりあえず生徒達を駐車場に集合させましょう」
「分かったワケ」
 二人はホテルに戻っていった。

 シロが戻ってきた。横島は精霊石のペンダントを首にかけてやる。
「配置したか?」
「ハイ。だいたい四角形になるように配置したでござる」
 シロは人間形態になりながら答えた。
「よし」
 横島はかなり無理をして四文字の文珠を発動させる。結界という単純な機能だからこそ出来る芸当だ。
 四つの文珠を繋げた線上に壊れれば割れそうな光の壁が展開する。バリアの完成である。
「これで、大丈夫だな」
 横島は肩で息をしながら満足げだ。

   ◆ ◆ ◆

 辺りを黄昏が支配し始める。
 駐車場に生徒達が整列した。全員水着姿だ。
 鬼道が拡声器を持って即席の壇上に上がる。
「あー、こないな事態になったがやる事は変わらん。
 幸い、いち早く霊団に気づいた横島君が結界を張ってくれた。魔族でもなければ破れへん結界や。安心してくれ」
 鬼道はエミに目配せする。エミも壇上に上がる。
「除霊の指揮はさっき説明したとおり僕とエミさんでとる。前衛が僕で後衛がエミさんや。
 ただ、最初の段取りが変わったからそれを今から説明するで」
 鬼道は拡声器をエミに渡す。
 エミは生徒達に作戦を説明する。

   ◆ ◆ ◆

「奇襲部隊が結界にはばまれ進軍できません!」
 伝令からの報告。
「素早い対応だな。敵ながら見事だ」
 海坊主は出鼻をくじかれたというのに嬉しそうだ。
「結界を遠巻きに散会して包囲しろ。近づきすぎたり、固まったりはするなよ。狙い撃ちにされるぞ。
 第一陣が到着したら、戦力を整えて一箇所に集中して波状攻撃を仕掛けて結界を破れ」

   ◆ ◆ ◆

「――というのが作戦なワケ。後はミーティング通りに除霊してちょうだい」
 エミは拡声器を鬼道に返す。
「よーし、みんな死なんよう気ーつけてくれや。今回のはあくまで本物の除霊に慣れとくためのものやからな。どんな結果になっても成績には関係ないで。
 それじゃあ、除霊開始や!」
 鬼道の合図で生徒達が動き出す。
 術師の生徒達が大技の詠唱を始める。他の生徒達も破魔札をかまえる。
「カウントを始めるワケ」
 エミがタイミングを計って十秒から数え始める。
「――3、2、1、放てっ!」
 膨大な霊気が膨れ上がって結界の外の霊たちにまで到達する。所々炎や雷も混じっている。
 霊たちは霊気に触れる側から昇滅する。逃げ出すいとまは無かった。
 破魔札は主に前面に集中しだした霊たちに向かって放たれた。進行方向の障害を取り除くためだ。
 霊気の嵐が収まる。
 辺りの霊はほぼ一掃されていた。
 しかし、水平線の向こうから続々と霊たちは押し寄せてきている。
 生徒達は破魔札を補充する。術師たちも装備を持ち換える。乱戦になれば大技は使えないからだ。
 結界構築班、護衛のための白兵班と霊体ボーガン班が飛び出し、文珠結界の周りに出来た空白地帯と迫り来る霊との折衝点を目指す。
 少し遅れて後衛が続く。
「霊体ボーガン班は両翼に展開! 結界構築班の援護をするのよッ!!
 遠くの霊だけを撃つ! 射界に味方がいたら絶対に撃つんじゃないわよッ! 霊体ボーガンで誤射されたら死んじゃうワケッ!!」
 自分も霊体ボーガンを撃ちつつエミが叫ぶ。エミ自身はいち早く折衝点にたどり着き前線のど真ん中で指揮をとる。
 配置についた生徒達が次々と霊体ボーガンを撃つ。船幽霊達の進軍が遅滞する。すでに反則技でヒシャクを装備していて、やる気満々の船幽霊達は構わず進軍する。
 結界構築班が到着。結界の構築を開始する。
 巨大な破魔板を杭につけたものを木槌で砂浜に打ち付ける。簡易式の破魔結界は直ぐに完成した。
「結界防御ライン完成しました!!」
 構築班の班長が報告を上げる。
「よし、後は結界の内側から攻撃するんや」
 生徒達は遠くの霊を霊体ボーガンで、近くの霊を破魔札で蹴散らす。

   ◆ ◆ ◆

「上陸部隊、苦戦中!! 第一陣の七割が除霊されました!!」
「結界に篭らず、あそこで打って出るとは……ここまで見事にしてやられるとは、天晴れな敵よ」
 実のところエミや鬼道もそこまで考えていたわけではない。
 ただ除霊実習で魔族でもなければ打ち破れない結界などというものに篭って除霊するのは実習にならないから打って出ただけのことである。それに、文珠による結界はあまり持続しないという理由もある。
「ひるむな!! 第二陣出撃!! 第二陣の結界到達と共にコマンドを出撃させて内側より結界を破れ! 第二陣は集中させるなよ。結界全体を攻撃させて、敵の注意をこちらに引き付けさせろ!」

   ◆ ◆ ◆

 完全に日が落ちて夜になった。
「外の結界の再起動はいつになるのー?」
 今回の霊たちはいつもと違う。消耗品の霊具を使わなければ除霊が出来ない生徒達が大半をしめる現状では、この状況はそう長く続かない。
 不安になった理事長が鬼道に尋ねた。
「朝までは無理です……!!」
 それは鬼道も分かっている。苦い顔で答える。
 その時、上空から何かが飛来してきた。
 ナイフを持った中型の魚。人魚の一種、メロウである。
「す、すいません。ボクまちがえました。もっと後ろに落ちてGSをかくらんするさくせんだったんですが。
 えーと……」
 メロウはつぶらな瞳とおちょぼ口で可愛く照れた。
「とゆーわけで――死ね、ゴーストスイーパーッ!!」
 メロウは飛び跳ねて、手に持ったナイフで生徒達に襲い掛かる。
「う、うわっ!」
 メロウの意外な可愛さに呆けていた生徒は驚く。
 しかし、あまりに短いリーチの為に有効な攻撃にはなっていない。それでも除霊の邪魔くらいにはなる。
「わっ、どんどん来る!」
 次々にメロウが飛来してくる。
「打ち落としてやるっ!」
 生徒の一人が霊体ボーガンを飛んでくるメロウに向けて撃つ。
「うっ。」
 見事に命中。
 メロウは砂浜の上に落ちて仰向けになって腹を見せながらケイレンして消えていった。結構無残だ。
「いやーっ!! 私ったらなんてひどいことを……!」
 メロウを打ち落とした生徒は自己嫌悪におちいる。
「見た目にたまされるんじゃないっ!!」
 そばにいる生徒が叱咤する。
「たって……!! たってぇぇぇっ!!」
 しかし、割り切れない。

 結界の奥にはコマンドの別部隊として平家ガニ達が飛来していた。
 彼らは砂浜と林の中間地点に着地、茂みの中へと逃げ込む。
「そっちの茂みの中にも何か落ちたわ!! 見つけて始末するのよ!!」
 生徒達はすぐさま気づいて平家ガニ達を探し始める。
「ええか! ワシらメロウほどかわいくないけん、敵はよーしゃせん!!」
「わかっとります!! 仲間と合流して大群になってから突撃します!」
 平家ガニ達は自分の醜さを理解して慎重に行動する。
 生徒達は平家ガニを見つけ出しては、容赦なく神通棍で叩き潰し、破魔札で吹き飛ばす。

 メロウ達を相手にしていた生徒達に動きが見られた。
「除霊しづらいなら捕獲すればいいのよ!!」
 霊糸で編みこんだ投網を投げてメロウ達を捕獲していく。
「急いでっ!! 敵が結界を乗り越えるわよ!!」
「だめだわ……!! 敵の数がこっちの限界を超え始めた!!」
 徐々に生徒達が押され始める。
 ついには鬼道も式神の夜叉丸を出して生徒達の援護を始める。
「陣形が乱されてるワケ!!」
「攻撃が組織的や! これ以上は限界かもしれへんですね!」
 鬼道とエミは霊体撃滅波の使用を検討する。

   ◆ ◆ ◆

 横島は見ていた。生徒達の除霊を。
 大規模な術で吹き飛ばすのを。
 結界を構築して、破魔札で吹き散らし、霊体ボーガンで打ち抜くのを。
 平家ガニを容赦なく除霊するのを。
 メロウを捕獲するのを。

 無自覚におこなわれる除霊。
 だが、それが普通――あたりまえだ。だから、ただ黙って見ていた。

 除霊されていく霊たち。彼らは何を思ってここに居るのだろうか。
 新たな肉体が欲しいわけでも、道連れが欲しいわけでもあるまい。今のところ生徒達には一人の犠牲者も出ていない。明らかに手加減されている。
 何故だ?

 生徒達が容赦なく平家ガニを殺す。
 メロウを殺した生徒が後悔の叫びを上げる。
 メロウの除霊を捕獲に切り替える生徒達。

 横島の中で何かが切れた。

   ◆ ◆ ◆

 目の前で生徒達がメロウを霊網で捕獲している。
 横島は右手に霊波刀を出すと、メロウを捕獲している霊網を切り裂いた。
「な、何をするのよっ!?」
 驚いた生徒が横島に詰め寄る。
「黙れっ!!」
 横島は怒気をはらんだ声で一喝する。
 生徒はビクッと体を震わせた。
 横島はひどく怒っている。その怒気は辺りの生徒やメロウ達の動きを止める。
「この押されている状況で捕獲だと!? そんなことに回す人員がどこにいる!?
 だいいち、捕獲したメロウをどうする気だ? 除霊が終わったら海に返すのか? それとも、教師やGSに殺してもらうのか!?」
 生徒達は誰も答えることが出来ない。
 メロウ達も事の成り行きを見守っている。
「そこで、容赦なく殺している平家ガニ達とこのメロウのどこが違う? まさか、可愛さだとかいうふざけた考えじゃねーだろーな? お前ら相手が可愛かったらGSになってもそー言うつもりか!?」
 平家ガニとメロウ達。
 このGSと霊たちの戦いに撤退があるのかは知らない。
 だが、敵地の後方にかく乱のために飛来してきた彼らの大半は生きて海へは戻れないだろう。
 それでも、彼らは来た。
 何故だ?
 その上、手加減している。まだ、こちらは誰ひとり死んではいない。
 何故だ?

 横島は生徒達を見る。
 怒られて萎縮したり、不満そうにしている生徒達を。
 ああ。こいつらはなにも分かっちゃいねー。
 彼らが何者であるのかを。その覚悟を。

 殺させはしない。
 殺させたりはしない。
 コイツらには、これ以上、誰ひとりとして、殺させたりはしない。

 殺す。
 俺が殺す。
 俺が、ひとり残らず、極楽にいかせてやる!!!

 横島は陰陽文珠を出すと「人/払」を込めて発動させる。
 海岸から生徒達が次々と弾き飛ばされていく。
 エミも鬼道も、人狼のシロも弾き飛ばされる。
 海岸に居るのは横島と霊たちだけになった。
 横島は「拡」の文珠で声を大きくして、天に向かって吼え猛る。
「俺の名は横島忠夫!
 魔神アシュタロスを倒した剛の者だ!
 貴様ら卑しくも今宵の合戦場に集いしつわものだと自負するなら――
 雄雄しく戦って死ね!!!」
 左右の手に文珠を出して「強」「化」を込めて発動する。
 横島の体が霊気でできた光り輝く陰陽服につつまれた。
 右手に霊波刀を出して構える。

   ◆ ◆ ◆

 海坊主は横島の名乗りを聞いた。

 不本意なる作戦。
 不本意なる敵。
 不本意なる敗北。
 不本意なる死。

 だが――だが、あれを見よ。

「我は大日本帝国海軍真宮司大佐!
 皆、聞けぇい!!
 あれが敵よ!
 我らが敵よ!
 死してなお求めたる戦うべき宿敵よ!!
 事、此処に至っては最早小細工は無用――
 最後の一兵まで華々しく戦って散れぇい!!!」

 メロウ達は横島の名乗りを聞いた。

 目覚めぬ海神。
 望まれぬ性。
 ただ、消え行く存在。

 意義ある死を望んだ。

「我らはメロウ! 深き者共!
 望まれぬ生を意義あるものに変えに来た!
 我ら今こそ水底に露と消えん!!」

 平家ガニ達は横島の名乗りを聞いた。

 和平直後の奇襲。
 女子供を連れて身動きの取れぬ所への蹂躙。
 死を賭して打って出れば蜘蛛の子を散らして逃げ去る臆病で卑怯な敵たち。
 武器と鎧を捨て去ってまで望んだ討ち死ににすら応えない。
 絶望の果てに其の身を海に投げる妻子の後を追った。

 最後は戦って死にたかった。

「我らは平家の怨念! 平家ガニよ!
 源氏への恨みは既にあらねど、武士の本懐を遂げる為にこの地に参った。
 武士道とは死ぬことと見つけたりー!!!」

 船幽霊達は横島の名乗りを聞いた。

 ただ、道連れを探す。
 しかし、最早ヒシャクを積んだ小船など在りはしない。
 何も出来ぬ無力感に苛まれる。
 存在することに飽いた。

 次なる輪廻へ。

「我ら同胞よりはぐれし船幽霊!
 道連れを作る不毛さに飽いた者達よ!
 今望むべきは次なる輪廻。
 底の抜けたヒシャクごと打ち砕いて下されー!!!」

 名も無き存在達も横島の名乗りを聞いた。

「苦しい、苦しい、苦しい!
 解放を、解放を、解放を!」

 この場の全ての霊や妖怪が横島に向けて殺到した。

   ◆ ◆ ◆

 横島は走る。前に向かって。
 両足にハンズオブグローリーを展開。砂浜をしっかりと掴んで人間には不可能な速度でひたすら前へ。
 横島には心眼も制空圏も無い。後ろは見えない。
 だから、前へ。
 前へ、前へ、前へ。走る。
 目の前に立ちふさがる霊や妖怪たちを右手の霊波刀で薙ぎ払う。
 斬り下ろして殺す。ひるがえして薙ぎ払って殺す。遠い間合いを突いて殺す。
 殺す、殺す、殺す。ひたすら殺す。
 目の前に何も居なくなったら、前方に身を投げ出しつつ反転、振り返る。
 砂浜を滑って行く。両足を踏ん張って慣性を殺す。その間に新たな集団を視界にとらえる。突貫する。
 文珠やサイキックソーサーで吹き飛ばしたりはしない。
 霊波刀で一体一体を認識しながら殺していく。
 疲れたら「活」「力」を使って回復する。
 殺す、殺す、殺す。
 ドイツもコイツも嬉しそうな顔をして殺されていく。
 糞、糞、糞!
 何でだ!? 何で何だ!?

 何時間そうしていただろう。もうそろそろ夜明けが近い。
 水平線が明るくなってきた。
 残っているのは海坊主だけだ。
 横島は完全に憔悴しきって血走った目を海坊主に向ける。
 海坊主は心身ともにボロボロの横島を見て思う。
 浅はかだった。
 自分たちのことだけ考えていた。
 この少年は分かっている。殺すということを。自分達の思いを。
 だからこそ、彼に決着をつけて欲しかった。
 だがしかし、だからこそ、彼に決着をつけさせてはいけなかったのだ。
 決着は自分達だけでつければ良かったのだ。
「すまない……」
 思わずそんな言葉が口をついて出る。
 横島は鼻で笑う。
「何がだ? お前は俺が殺す妖怪で、俺はお前を殺すGSだ。謝るのはこっちの方じゃないのか?」
 海坊主は後悔する。
 今となっては、謝罪の言葉など彼を侮辱するだけだ。
 自分は何と愚かで度し難いのだ。
 最早、言葉は意味をなさない。
 重心を低くして、横島に飛び掛る準備をする。
「それでは。いざ、尋常に――」
 二人は互いに向かって突進する。
「――勝負!」
 二人の声が唱和する。
 横島と海坊主がすれ違った。二人とも動かない。
 海坊主が笑う。
 横島が膝をついた。砂浜に倒れ込む。
「見事」
 海坊主が賞賛する。甲羅に亀裂が入っている。
 亀裂が大きくなっていき、甲羅の半ばが砕け散った。
 日が昇る。それに合わせるかのように海坊主は消えていった。

   ◆ ◆ ◆

 人払いの結界が解けた。
「横島先生ー!!!」
 シロが慌てて駆け寄る。
 横島は砂浜に倒れこんで動かない。
 体力も精神力も霊力も、全て限界まで使い切ってピクリとも動けない。
 しかし、横島は疲れも痛みも感じていない。
 胸に在るのはある感情だけ。
 何でだ!? 何で何だ!?
 俺は! 決めたんだ!
 なのに! 何で何だ!
「俺は! 殺さないって――もうなるべく殺さないって! そう、決めたのに!
 何で何だよ!!!
 糞! 糞! 糞!
 何でだー!!!」
 砂浜に仰向けになって叫ぶ。
 シロが横島にすがりつく。
「もういいでござる! もういいでござるよ!
 ああするしかなかったでござる! 仕方が無かったでござるよ!!!」
 シロは横島を舐めてヒーリングをする。
「仕方が……無かった……?」
 横島は虚ろな目でシロを見てつぶやく。
「そうでござる。仕方が無かったでござるよ。だって――だって、彼らの望みは死ぬことだったでござるよ! 他にどうしようもなかったでござる!!!」
 シロは涙を流しながら横島をヒーリングする。
 拙者は――拙者は今ごろ分かったでござる。
 先生の言っていた言葉の意味が――殺すと云うことがどう云う事か。
 もっと早く気づいていれば、先生だけにやらせずにすんだのに――
 シロは泣きながら横島をヒーリングする。
 横島は虚ろな瞳で空を見ていた。

 エミとおキヌが近づいてくる。
 シロはヒーリングに夢中で気がづいていない。
 横島は虚ろな瞳で近づいてくる二人を見る。
 何を言われるのだろう。
 除霊実習なのに自分ひとりで除霊したことか。
 それとも、無茶をした事へのたしなめか。
 どうでもいい。
 しかし、エミの口から出た言葉は横島の予想外のモノだった。
「横島。
 今、令子の母親から連絡があったワケ。
 令子が倒れたそうよ。原因は呪い。
 このままだと死んでしまうらしいわ。
 おたくと私に直ぐ来て欲しいそうよ」
 横島の目が驚愕に見開いた。


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