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始まりの物語

美神事務所の特殊な方針


投稿者名:ゼロ
投稿日時:05/ 2/28

『霊障対処法』
 近年増加傾向にある霊障事件の解決率を上げるために×××年10月8日に公布された。
 この法律により協会に勤めるGSや利潤を上げている事務所に所属するGSは
 無償でオカGまたはGS協会が指定した霊障事件に取り組む義務を負う。
 何らかの事情でそれを果たすのが困難な場合、一定期間オカGへ無償協力をしなければならない。
 なお速やかな霊障の解決のための特別処置により、この法律は公布から1ヶ月後に施行される。
 

 所用でオカGに来ていた唐巣は感無量の面持ちで、自らが作成に携わり今日から施行される法律を眺めていた。
 この法案は唐巣が長年悩みながらも実現させようとしてきた夢の具現であった。
 貧しい者達を苦しめる霊障を取り除く、
 唐巣自身が何度も飢えに悩まされながらも続けてきたその行為を
 法による強制とはいえまもなく多くのGS達も行うようになるのである。


 この法案を実現するために、長年固辞し続けてきたGS協会からのオファーを受けて幹部の一人となり
 GS協会派遣のオブザーバーとして法案の作成に関わり続けた唐巣にとって
 法案が成立した日は記念日といっても過言ではない。

 満足感と同時に、破門され苦しんだ末に得た自らの理念に理解を得ようとして
 長年奔走し続けてきた唐巣は一抹の寂寥を感じてもいた。

 自らの考えに共鳴して弟子入りしたピートも
 2年前から一人前のGSとしてオカGに勤めることになり最早自分が教えることもない。
 これからは何を目標にしようか、ふとそんな想いが頭をよぎった時、懐かしい声が聞こえた。

「先生、お久しぶりです。」

 気がつくと彼のすぐ側に愛弟子であったピートがいた。
 おそらく自分が感慨に浸っている間にここまで来たのだろう。

「やあ、ピートくん。今日は珍しく現場ではないのかい?」

「はい、昨日大きな事件が解決しまして今日はその報告書を作成する予定なんです。
 あ、先生。法案成立おめでとうございます」

 うれしそうに祝辞を述べる愛弟子の言葉に思わず唐巣の目に涙が浮かぶ。
 しかし同時に先ほどの寂寥感が胸の中に蘇り、彼は複雑な顔で祝辞を受けた。

「どうしたんですか、先生?なにか法案がらみで厄介なことでもあったんですか?」

 そんな彼の表情を目ざとく見咎めたピートは率直に尋ねてきた。
 自身の複雑な思いが顔に出たことを悟り、
 唐巣は愛弟子に先ほどから感じていたもやもやについて打ち明けた。




「………それでね、あの法案が成立してから何をすべきか考えたら何も思いつかなくてね」

 ははは、と自嘲的に笑う師の胸のうちを察して、ピートは彼を励ます為に殊更明るい口調で応じた。

「先生、確かに法案は成立しましたけど、未解決の霊障は減っていません。
 それに今回の法案の対象となるGSの方達は先生のように理念で行動するわけではなく法の強制に従っているだけです。
 先生が目指したとおりの結果が出るかどうかはまだまだこれからですよ。
 すぐにやらなければならないことがないのでしたら、また弟子をとってみてはどうですか?」

 愛弟子の激励は少なからず唐巣の心をうった。
 彼は自分の元を巣立っても順調に成長している。
 そうだ、何故自分はここで立ち止まろうとしたのだろう?
 この法案が条文どおりにきちんと機能するかどうかはまだまだ未知数なのだ。
 ならば自分がやることなどいくらでもあるだろう。

「ははは、肝心なことを弟子に言われるまで気がつかないようでは、僕もまだまだ未熟だね」

「何をおっしゃるんですか。先生を必要としている人はまだまだたくさんいます。」

「うん、ありがとう、ピートくん。ところでそろそろ仕事に戻ったほうがいいんじゃないかい?」

「あ、そうですね。それでは失礼します」

 足早に立ち去る弟子を見送りながら、唐巣が随分と楽な気分になったのを感じていた。
 ピートの言う通りだ。現在の自分の力ならば昔のようなペースで現場に立つのはともかく、後進を育てる分なら十分やれる。
 少し前までのように、2年前から特別な方針を掲げている美神達の仕事を手伝うのもいいだろう。
 唐巣は2年前に美神事務所が『人と人外の存在の共存共栄』という方針を掲げた時のことを思い出した。
 




「美神くん、どうしたんだね?君がこんなに素晴らしい理念を打ち出すなんて。
 ピートくんを弟子に迎えている私としてはこの方針には大賛成だよ」

「先生、アシュタロス大戦以降に本来無害な妖怪まで敵視する人間が増えたことはご存知ですか?

「ああ、全く嘆かわしいことだよ。
 あの戦いで騒動を起こしたのはアシュタロス配下の一部の魔族と妖怪に過ぎないというのに」

 アシュタロス大戦で核ジャックが起きたせいかアシュタロス大戦以降、
 一部の国では人外の存在を徹底的に狩るべしという過激な意見が流れた。
 そこまでいかずとも人外の存在に対する風当たりは強くなっていった。
 あの戦いでピートが英雄の1人としてメディアに大々的に取り上げられたせいで
 幾分風当たりの強さは緩和されたものの日本でも人外と人との間のトラブルが増加しつつあった。


「先生、現在私の元には人狼族などコネのある妖怪から人との仲裁になってくれないかという要望が届いています。
 それらの要望を満たせば報酬として金銭価値の高いアイテム、情報等が手に入る見込みです。
 そこで発想を転換しまして、問答無用で妖怪を退治するのではなく場合によっては美神事務所の上客になってもらおう、
というのが、この『人と人外の存在の共存共栄』という方針の狙いです。
 こういった要望はまだまだあるでしょうから方針は早めに掲げるにかぎります。
 もちろんこの方針の最大の目的は私の現世利益の最大追求のためですが」

 黒い笑いを浮かべて力説する教え子を見て唐巣は内心では涙を流しながらも更に尋ねた。

「しかし美神事務所が妖怪の味方という噂が流れて人間の依頼者が減る危険がないかい?」

「そのあたりには注意するつもりです。基本方針はあくまで共存共栄ですから。
 妖怪の味方になるわけではなくあくまで揉め事の仲裁人として
 妖怪にも人間にも納得のいく条件で手打ちをしてもらうように働きかける方向でいくつもりです」


 美神がある程度プランを固めていることを悟ると唐巣は気を取り直してある提案をした。

「では、美神くん。私からも協力させてくれないかね?
 私にも協会やオカGには多生のコネがある。厄介事が起きたときに口利きをして貰うことぐらいはできるよ。
 ピートくんはまもなく私の元から離れてオカGに入ることになっているし、今はそれほど忙しくないからね」

「本当ですか、先生!是非お願いします」

 思わぬ唐巣の申し出に美神は立ち上がって彼のさしだした手を握った。





 それから2年、美神のなだめすかしや脅迫を駆使した説得や横島の人外に好かれる性質を武器に
 美神事務所はその方針を軌道にのせ、人外と人とのトラブル解決の第一人者として名を馳せるようになった。
 そんな回顧に浸りながらも唐巣は軽い足取りでオカGのビルの出入り口へと歩き出した。








 『美神事務所』
 S級GSである美神令子が所長を勤め、依頼に対する解決率の高さや
 ハイリスクを伴う依頼も頻繁にこなす実績から
 事務所を立ち上げてからほどなくして一流事務所の仲間入りを果たした。
 そして2年前からとある特殊な方針を打ち出した事により
 現在この業界で最も注目を集めている事務所といえよう。
 


 事務所に備え付きの電話が鳴り、何度目かのコールの後に受話器がとられる。

「はい、こちらは美神事務所です。
 ええ、依頼の対象に特に制約は設けておりませんが。
 あ、はい。了解しました。それでは担当の者と替わります」

 電話を取って応対したおキヌは保留ボタンを押すと横島を呼んだ。

「横島さん、相談にのって欲しいという電話です。多分妖怪の方です」

「はい、お電話替わりました。あ、はい、横島です。
 以前お会いした事がありましたでしょうか?
 え、美衣さんっすか。いやー、久しぶりですね、今日はどうしたんですか?」


 ピクリ。
 受話器に向かって話している横島から女性の名前が出た瞬間
 事務所の空気がわずかに変わった。露骨に耳をすませる者もいる。
 しかし横島はそんな事にも気がつかず楽しそうに会話を続けた。

「おう、ケイか。元気にしてるか?
 はは、そりゃ良かった。へー、身長が30cmも伸びたのか。
 そういや、最初に会ってから3年くらいたってるもんな。
 うん、こっちも元気にしてるぞ。あ、もう一度お母さんに換わってくれ」

 相変わらず楽しげに話す横島に美神はどんな難癖をつけてやろうかと企み
 おキヌは目を潤ませながら横島を見つめる。
 シロはすぐにでも電話中の横島の背中に飛びかかれるように体を浮かせ
 タマモはこれから起きる騒動のとばっちりを受けぬように後ずさりする。

「ええ、分かりました。こちらでも何か良い手があるかどうか検討してみます。
 そうですね……12時間後にまたこちらに電話してください」



 電話を切った横島に殺気が集中するが

「ちょっと知人が厄介ごとに巻き込まれたみたいなんだ。相談に乗ってくれないか?」

 振り向く彼の顔が珍しく真剣だったため、事務所のメンバーはとりあえず殺気を収めた。
 もし彼が注意深く観察していたらメンバーの中に顔を紅くしている女性がいる事に気が付いたかもしれない。

「どうしたの、横島くん。妖怪の厄介事絡みのようだけど?」

「美神さん、猫又の美衣さんの事を覚えていますか?
 さっきの電話は美衣さんがかけてきたんですけど、
 なんだかあの山が国に特別区域に指定されるみたいなんです。
 それで調査の人間が急増したせいで美衣さん達の家が見つかっちゃって
 少し厄介なことになってるようです」

「美衣さん?ああ、あの猫又退治の依頼の時の・・・・・・・」

 げしっ!
 美神はつかつかと横島の許に歩いていくといきなり横島の脛を蹴っ飛ばした。

「い、痛いっす。何するんですか、美神さん!」

「うるさい!あの時は良くも私に逆らってくれたわね。
 おかげで依頼料貰えなかったじゃない。思い出したらむかついてきたのよ」

 げしっ!げしっ!げしっ!
 痛みに転げ回る横島に美神は容赦なく追い打ちをかける。

「し、仕方なかったんや。あんなシーン見せつけられたのに見捨てるなんて人として無理なんや」

「ほほぅ。それは私を鬼だと言いたいわけね」

「でも、結局美神さんはあの方達を見逃してあげたんですよね、十分優しいですよ」

 横島の悲鳴にこめかみを引きつらせ止めを刺そうとする美神の様子に慌てておキヌがフォローを入れる。

「お、おキヌちゃん!わ、私は別に・・・・・・・」

「お、俺にも優しくして・・・・・・・」

 珍しく優しいと言われて照れる美神の下でぼろ雑巾と化した横島がうめいていた。





「それじゃあ、横島くん。今日は珍しく暇だし、相談くらいのってあげるわよ」

 横島をどついて憂さ晴らしをしたおかげで上機嫌な美神に
 いつものように人外の回復力であっという間に元に戻った横島は切り出した。

「美衣さんが人に化けて調査隊の人から聞いたところ、
 彼女の家がある場所は人の立ち入りを厳しく制限する保護区域(コア)に指定されるみたいなんですよ。
 まだ美衣さん一家が住んでいる事は知られてないんですけど、
 家が見つかったせいでそこに帰れなくて立ち往生してるみたいなんですね」

「それで、またあそこに住めるようにどうにかしてくれないかって言われたの?」

「そんなところです」

 どうにも妙案が浮かばないのだろう。
 事情を話し終えた横島は少し困った顔で事務所のメンバーを見た。

「どうにかできないっすかね」

「多分できるわよ」

「へっ!?」

 自分にとっての無理難題をあっさり美神が答えたため驚愕する横島。

「どっ、どうすればいいんですか!?」

 横島の驚いた顔を見て意地の悪い笑いを浮かべると美神はすげなく告げた。

「あんたへの相談でしょ。お金にもなりそうにないし、まず自分で考えてみなさい」

「うう、分かりました」


 
 しばらく考え込む横島だが思考がどつぼにはまったのか、頭を抱えて何事かぶつぶつ呟きだす。
 そんな様子を見かねたのかおキヌが助け船を出した。

「美神さん、少しヒントを上げたらどうですか?」

「もうしょうがないわね。人外担当になって二年たつでしょ。
 こういったケースはこれからも増えていくんだから
 1人でも解決できるようにならなきゃだめでしょ。勉強不足よ、横島くん」

「め、面目ありません」

「よく聞きなさい。まず保護区域に指定されたあとは美衣さんがその家に暮らし続けるのは無理よ。
 出入り禁止の場所に生活感のある家があったら誰が住んでるのか厳しくチェックされるからね。
 でもね、あの山で暮らし続けるのは不可能ではないわ。立ち入り禁止の保護区域に住まなければいいのよ」

「どういうことですか?」

「あの山全体が国に特別保護区域に指定されたとしてもね。人の立ち入りができないのは一部よ。
 人里に近い部分は人の出入りが許可されてる緩衝地帯(バッファーゾーン)になるからそこなら住んでも問題ないわ」

「そうなんですか。それじゃあ、あとは美衣さんが無害な存在だとオカGに証明してもらえばいいんですね」

「ヨコシマ、多分それだけじゃ不十分よ」


 それまで黙って二人のやりとりを眺めていたタマモがそこで口を出す。

「もしその山で何か問題が起きたら妖怪という理由だけでも美衣が疑われる可能性があるわ」

「そうか。無害ってだけじゃあ確かに甘いな」



 そこまでたどり着いた横島を満足げに見ながら美神はもう一つヒントを出した。

「横島くん、美衣さんがあの山の保護・管理に協力するとしたらどう?」

「あっ!なるほど、美衣さんが国の事業の協力者になれば排除される危険はほぼ無くなるか」

「正解。やっと分かったわね。それなら彼女の立場を保証するためのプランを3時間後までに練ってみなさい」

「了解っす!」

 勢いよく立ち上がった横島におキヌが声をかける。

「横島さん、私も手伝います」

「それじゃあ、おキヌちゃんはあの山に一晩過ごせるような建物がないかどうか調べてくれないかな?
 ケイもいることだし、美衣さんでも何日も野宿するのはつらいだろうし」

「分かりました、やってみます」




 3時間後、なんとか基本方針をまとめた横島が美神にそれを見せていた。

「オカGの職員と美衣さんを会わせて彼女の身柄を保証してもらう。
 美衣さんが何年もあそこに住んでいた実績と彼女の身体能力を生かして
 彼女には迷い込んだ人の救助、貴重植物を採ってゆく人間の取り締まりをしてもらう。
 そのためにオカGを通して彼女をボランティアとして何らかの役職に就けてもらう。
 なるほどね。まあまあ良くできてるわ。80点をあげても良いわよ」

「80点っすか?結構頑張って作ったんですけどまだ穴が残ってました?」

「ヒントなしでここまで考えたなら90点あげてもいいんだけどね。
 すぐに彼女の立場を確保するならオカGの保証だけでは足りないわ」

 そこまで言うと美神は横島に問い返すような眼差しを向ける。
 それを受けた横島は少し考え込んだあとに答えにたどり着いた。

「つまり、彼女と接触した調査隊の誰かを連れていけって事ですね」

「そういう事よ。美衣さんがあの場所に何年も暮らすためには、
 これから何度も来るあの山の調査に来る人間の理解があれば手っ取り早いわ。
 調査隊が彼女を理解してくれれば協力関係を築くのも楽になるしね」 


 横島の反応に満足した美神はプランの実行の指示を下した。

「ママに連絡取ったんだけど、今日行くならピートを派遣してくれるそうよ。
 必要な書類は美衣さんに会った後で彼が作ってくれるそうよ。
 ピートが来たら今から出発して現地に向かうわよ。到着したら調査隊と接触して同行をお願いするわ。
 あ、おキヌちゃん。何かいい建物は見つかった?」

「はい。多分調査隊の方が泊まっていると思うんですが、結構大きな山小屋があるみたいです」

「それなら、美衣さんから電話がかかってきたらその場所の近くに向かうように伝えてちょうだい。
 近くにいれば私たちなら彼女の妖気を察知できるから隠れていても大丈夫だってね」

「はい、分かりました」

 二人のやりとりにふと横島は疑問を感じた。

「美神さん、一緒に行ってくれるんですか?お金がでないかもしれないのに」

「ああ、大丈夫よ。ママに連絡した時に聞いてみたらこういうケースだと
 私たちは仲介者って名目で報酬が出るみたい」

 ちょうどそこまで言ったときに人工幽霊がピートの訪問を告げた。


「それじゃあ、行ってくるわよ。おキヌちゃんは電話番よろしくね。
 シロとタマモは今回は大人しく留守番してなさい」

「気をつけてくださいね」

「うう、残念でござる」

「お土産よろしくね」

 3人の声を背に美神は事務所の出入り口へと向かい、荷物を担いだ横島がそれについてゆく。
 そんないつも通りの姿に僅かな羨望を感じながらもおキヌは今回の件の成功を祈った。  







 

「それで結局うまくいったんですか?」

 翌日の夕方に帰ってきた2人におキヌはさっそく成否を聞いてみた。
 
「ええ、ばっちりよ。とりあえず彼女はあの山小屋で暮らせることになったわ。
 もともと自然保護区域に入る人間ってほとんどが政府の人間か、
 政府から許可を取った人間なんだからオカGの保障さえあれば美衣さんの身柄は安全よ。
 それに同行した調査隊の人と美衣さんが話してみたらすぐにうち解けたの。
 何年も前からあの場所に暮らしていたおかげで、彼女があの山に精通していたのが良かったのね。
 次回の調査からは彼女にアドバイザーとして参加してもらうそうよ。
 それが成功すれば、彼女にあの山の管理の補助をしてもらう可能性もあるわ。
 トラブルが起きないように、その際にはオカGから担当者がつく事になるみたいだけどね」
 
 心配そうなおキヌに向かって美神は自信満々に答えた。
 それを聞いて安堵するおキヌ達だが、横島はもう1つ気になっていた事を尋ねた。

「美神さん、報酬はどうだったんですか?
 こういう場合にもらえる報酬って雀の涙みたいなものだってピートから聞いたんですが」

「確かに国が出した報酬なんてたかがしれてたわ。
 でもね、別の筋から副収入があったから問題ないのよ!」

「別の筋って、美衣さんから貰った乾燥させた雑草のことですか?
 あれって、そんなに珍しいものでしたっけ?」

 首を傾げる横島に美神は笑みを浮かべながら種明かしをした。

「別に貴重な種類の植物ってわけじゃないわよ。
 でもね、あれってあの山にある霊脈の側に生えていた植物なのよ。
 あの山の霊脈はあまりものではないけれど、
 それでもそこから流れる力を吸収して育った植物ってわけね。
 そういう植物はオカルトアイテムの原料になる物が多いのよ。」

「神話に出てくる金丹や霊薬の原料みたいなもんですか?」

「まあ、流石にそこまで価値のある物はないと思うけどね。
 見た感じだと結構質の良いのが揃ってるのよ。
 裏のルートで厄珍に流したとしても最低数百万、珍しいのがあれば数千万はいくわね。
 美衣さんに霊脈の場所は教えてもらったから、
 また暇なときにあそこに採りに行くことだってできるわ!
 これだから妖怪に恩を売るのはやめられないのよね!」


 ほっほっほっほと高笑いする美神を前にして横島は自分の頬に熱い何か流れるのを感じた。
 自分達は今回の件で何も間違ったことはしていない。
 人間公認であの山に暮らせるようになった美衣、美衣の協力の下で調査を行う政府関係者たち
 そして事務所の方針である『人と人外の共存共栄』を体現しつつ利益を得た美神事務所。
 満足な結果を得た当事者全員が幸せな気分になってもおかしくないはずだ。
 だから、おキヌやシロ達が引き攣ったような顔をしていても
 自分が何か大切なものを手放して汚れてしまったような気分になっていようとも
 いま頬に流れているのは嬉し涙に決まっているのだ。


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