椎名作品二次創作小説投稿広場


始まりの物語

発端はさりげなく


投稿者名:ゼロ
投稿日時:05/ 2/28

「次のニュースです。
 参議院は本日×××年10月8日、
霊障に関する治安維持活動とその際の有資格者の義務と権利について定めた『霊障対処法』を可決しました。
 これをうけて法務省では、近年増加の著しい霊障関連の事件の解決率増加にメドが立つとの声明を発表しています。
 またGS協会からは、この法案を機にGSの社会認知度が上がる事を期待するとのコメントがなされています。
 さて、この法案の骨子についてですが…………」

 いまいましげにテレビを見ていた女性がリモコンを押してテレビを消す。
 そのまま勢いよく立ち上がり神通昆を手に取って地下室に下りてゆく。
 そしてこの日のために役に立たないことを願いながらも用意していたサンドバックを殴りつけ
 反動で跳ね返ってきたそれに蹴りを食らわす。

「ふざけんじゃないわよ!どうして儲かってるからって金にもならない除霊なんかやらなきゃいけないのよ!」

 口に出すとますますいらいらが募りそれに比例するように彼女の体から湧き上がる霊力は増大してゆく。
 サンドバッグに加えられる打撃はどんどん重くなってゆき、彼女の攻撃動作も洗練されてゆく。
 その動作は華麗ですらあるが、今の彼女の表情を見れば日頃から彼女のぶっ飛んだ所行にも慣れ
 頻度は減ったとはいえ性懲りもなくスキンシップを図っては
 その都度血の海に沈んでいる少年でもわりとマジで逃げ出すかもしれない。
 
しかし現在では彼女のもとで片腕的な立場で働いている少年は、
 幸運にも彼の一番弟子を自称する少女の散歩に付き合っているおかげで
 サンドバックの代わりにはならずに済んでいる。

「横島くんめ、こんな時は雇用主のストレス解消に付き合うものでしょ!」

 八つ当たりも甚だしい発言をしながらも、美神は更に力をこめサンドバックを殴りつける。
 霊力をこめた美神の一撃はますます重くなり地下室には鈍い音が間断なく鳴り響く。

「ああ、もう!面白くないわね!」

 もしもこの場に横島がいればこのいらいらは大分緩和されただろう。
 彼が卒業して以前よりも頻繁に事務所に通うようになって2年近くが経過したが
 少し前から美神は彼に対する好意をある程度認めるようになっていた。
 まだ決定的な部分までは認めていないものの、
 以前よりも除霊の際に安定感があるなどGSとしての横島の成長は素直に認めている。
 事務所の業績が上がって舞い込んで来る仕事の量が増えるに従って
 こなしきれない部分を彼に任せたりもしている。

 今日も例の法案が成立する憂さ晴らしを彼をしばき倒すことで済ませた後、
 しばき倒したお詫びもかねて彼を食事に連れていってやけ食いに付き合わせるつもりだった。
 そのため前日の夜にシロの食事に一服もって今日の憂さ晴らしの邪魔をさせないように目論んだものの
 健康優良児で野生のパワーみなぎっているシロは普段通りに起床してそのまま横島を連れて行ってしまった。



「おかしいわね?この下剤なら人狼にも効くはずなんだけど、シロの体質を甘く見たかしら?」

 とりとめのない事を思い出すと、いったんサンドバックへの攻撃を止めた。
 タオルで汗をぬぐって用意していたスポーツドリンクに口をつけたとき
 人工幽霊が彼女の事務所に来客があることを告げてきた。

『オーナー、美智恵さんの霊力が近づいています。現在は事務所の入り口までいらしています』

 人工幽霊が告げてきた来客は、美神の予想通り今日必ず来ると確信していた人物であった。





「ご機嫌斜めのようね、令子」

「そういうママはずいぶんと嬉しそうじゃない」

 優雅な手つきで彼女の入れたコーヒーに口をつける母親に対して、美神は剣呑な声で応じた。

「ええ。これからは人手不足に泣く現場から突き上げが減るかと思うと、もううれしくてうれしくて」

 しかし大抵の人間を苦もなくびびらせるその口調を前にしても美智恵は普段通りのペースで返答した。
 このように美神に対して他の人間ならば決して手を出さない火薬庫の如き話にも
 ずばずば切り込んでゆけるのは世界広しといえども美智恵だけだろう。

「これからは、はれて令子もボランティアに勤しむ事になるわね」

「ちょ、ちょっとママ。何をいきなり」

「とぼけちゃって。オカGが構想を練って提出した例の法案が可決されたのは知ってるでしょう?」

 途端に令子は目をそらして黙り込んだ。
 今日一番触れて欲しくない話題があっさりとでたせいで
 先ほどサンドバッグをぼろぼろにしたことで多少は解消されたストレスがまたぶり返してきたのである。
 こころなしかコップを持った手が震えている。
 何かの発作かしらと、薄情な感想をもらす美智恵に向かってゆっくりと視線を戻すと
 美神は溜まっていた鬱憤を晴らそうと美智恵に突っかかった。

「あの腐れ法案なんて知ったこっちゃないわよ!なに、あれは!?
 儲かってるGSは無料除霊で社会奉仕で還元しろって私に対する挑戦なの!?
 こっちが払いたくもない税金を払ってやってるだけで十分でしょ!」

「落ち着きなさい、令子。無料除霊といってもコストがかかるような霊障はオカGがやるわよ。
 GSに割り当てられるのは、コストのかからない簡単な霊障よ。
 横島くん達の教育の一環にでも利用すれば済むことじゃない」

「そういう問題じゃないの!悪霊をしばき倒してお金をふんだくるのなら楽しくて楽しくて笑いがとまらないけどね。
 一銭にもならない除霊なんかしたらストレスが溜まるのよ!健康上良くないのよ!」

 過熱気味の娘の言葉に美智恵は苦笑するが、美神にとっては全く笑い事ではない。
 以前にオカGでコストを気にせず道具を駆使して除霊に勤しんでいた時には
 除霊の間も金勘定が頭から離れずついには入院してしまったという苦い思い出がある。
 それほど美神令子にとって金の絡まない除霊行為は鬼門なのである。
 美智恵も西条や横島から当時の顛末については聞いていた。
 GS協会からのアドバイザーとして法案作りに参加していた唐巣も
 法案の構想を練っていた段階で美智恵にその話をして美神の暴走を危惧していた。

「分かってるわよ。だから無料除霊の代替手段も入れておいたでしょう?」 

「代替手段ってオカGへの無償の捜査協力ってやつでしょう!?金儲けにならないのは同じじゃない!」

「あら、別に美神事務所からオカGに協力するGSは令子でなくてもかまわないのよ。
 横島くんでもおキヌちゃんでも代わりに派遣すれば問題ないでしょ」

「それはそうだけど、でもそうしたら今度はうちが人手不足じゃない」

「いつ協力するかはそちらの都合で決めていいわ。
 忙しくないときにでも誰か派遣してくれればそれで無料除霊はチャラにしてあげるわよ」

 危惧していた通りに暴走気味の娘を宥めるために、
 あらかじめ理論武装してきた美智恵の説得のおかげで美神はやや落ち着きを取り戻した。

「オカGの捜査方法に触れれば横島くん達にとっても勉強になるでしょう?
 そうすればそれが令子の事務所の業績に反映される可能性もあるのよ。
 ただでオカGが従業員にレクチャーを施してくれると思えばいいのよ」

「もう、分かったわよ!緊急の依頼がない時にでも誰か派遣するわよ。」

「協力、感謝するわ。私は良い娘を持てて幸せね」

 ほほほとわざとらしい笑いをする母を見て、
 美神はこの件に関して自分が巧みに丸め込まれた事を悟った。
 しかしそれ以上の抗戦に利がないこともあり口に出しかけた文句を飲み込んだ。
 


「ただいまでござる」

「こんにちわっす、横島です。あ、隊長、おひさしぶりです」

 美智恵が訪れてから1時間ほど経った頃だろうか、
 普段に比べると随分と早い時間に2人が散歩から帰ってきた。

「あら、二人ともお帰りなさい。ずいぶん早かったわね」

「シロのやつ、珍しく腹の具合が悪いみたいでして、今日は隣の県境まで行ったあたりで戻ってきたんですよ」

「うう、早くトイレにいきたいでござる」

 飛ぶような勢いでトイレに駆け込むシロを見て
 美神は昨晩実行した謀略が中途半端に成功した事に気がつき、額にでっかい汗を貼り付ける。

「どうしたの、令子?いきなり顔色が悪くなったみたいだけど?」

「な、なんでもないわよ!そ、それよりちょうど横島君も帰ってきたことだし、
 横島くんにもさっきの話をしてあげたら」

「それもそうね。それじゃあ横島くん」

「は、はい。なんでしょう!?」

「今日ね、国会である法案が成立したんだけど……………」



 物事の発端は大体が他愛もないことである。
 この話を持ち込んだ美智恵でさえこの先に訪れる騒動を予想もしなかった。
 もし未来を知る人間が振り返ってみたなら、
 この時の会話が後に美神事務所を大混乱へと追いやる発端となった事に気がつくだろう。
 とにもかくにもこの日、賽は投げられたのだった。


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