椎名作品二次創作小説投稿広場


GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『旧交>>想起』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 2/24



夢崎区─。

娯楽施設の多いこの街は、最近になって人気の出てきた繁華街である。

その一角にあるファーストフード店『ピースダイナー』に、横島たちの姿があった。

通りを見下ろす窓際の席で、横島はどこか落ち着かない様子でいた。

理由は、この店内にいる奴らの視線だ。

荷物を抱えて、この店に入ってきたときも。

シロと気が合うかもしれない、何故かござる口調の店員に注文しているときも。

こうして、席について三人で話している今も。


「…どいつもこいつも、ジロジロジロジロと…!」

「まあ、しゃーないやん。宮尾は一応、芸能人なんやし。」


苛立つ横島を、夏子が宥めるように言う。

「すまんな。」と銀一が苦笑した。


「やっぱ、サングラスか何か、しといた方がよかったかな?」

「そんなんしてたら余計に目立つし、変に怪しまれるで。」

「そうだぞ、銀ちゃん。それに、俺が苛立ってんのは、そういう視線じゃなくて…。」


ちらりと横島が視線を走らせれば、いくつもの疑わしげな視線とぶつかる。

そう、店内の視線のほとんどが横島に向けられているのだ。

視線は語る。


『えぇ〜? 何で、あの近畿剛一と美人の組み合わせに、あんなのが混じってんのぉ〜?』


というか、そんな声が実際聞こえてたりする。


「…そんなに俺はお邪魔虫か? そんなに俺は違和感あるのか? 俺は異物か、異物なのか…!?」

「落ち着けっ、横っち!」


かなり本気でキレ始めてる横島を、銀一が必死に宥める。

横島の目に宿る危ない光に気付いたか、店内の視線が蜘蛛の子を散らすように引いていく。


「くそっ! メチャメチャ不愉快や!」

「まあ、そう言わんとき。ここの支払いも全部、宮尾が持ってくれんねんから。」

「あー…それやけどな、夏子。」


夏子の言葉に、銀一がすっと視線を横に滑らす。

そこには、服やら化粧品やらの買い物袋の山が子供の背丈ほどに積まれている。


「何ぼなんでも買いすぎやろ!! ちょっとは遠慮せぇよ?!」

「えーっ? ええやん、このくらい。いっぱい稼いどるんやろ?」

「くっ…! 芸能人や思うてたかりよってからに…!」


今の今まで入ってきた店の全てが、支払いは銀一が持っていた。

すでにその総額は、横島にとっては口に出すのも恐ろしい額になっている。

もっとも、横島もそれにあやかっているため、夏子にそれを進言する権利はないが。


「えぇ〜いッ、なんぼでも払ったるわ! 次行くで、次!!」

「そうそう。男はやっぱ、そうでないとな♪ …あ。荷物持ち、頼むで横島。」

「……はい。」


つくづく立場の弱い男である。




          ◆◇◆




「ヒホ〜…。」


夕食を終えて、ノースはリビングでくつろいでいた。

ソファに身を投げ出し、これ以上ないくらいのだらけぶりである。

刻真はといえば、片付けの後は部屋に引っ込んで、それきり出てきていない。

ふと。

ぼそぼそと、かすかな話し声がノースの耳に聞こえてきた。

不思議に思い顔を上げると、声はどうやら刻真の部屋から聞こえているようだった。

好奇心に駆られ、てくてくと近づいていき扉に耳を寄せる。

聞こえてきた声は、ふたつ。


「…ああ、今夜もそっちに出向く。一応、ヴィクトル達に伝えておいてくれ。」

『そう焦るな。急ぎすぎれば、思わぬ油断を呼ぶぞ?』

「…急がなきゃならないんだ。急がないと…。」

『待て。……我はもう戻るとしよう。話はまた今度だ。』


刻真のものではない、重みのある低い声がそう言うと、急に室内が静かになった。

ノースがさらに身を寄せたとき。


「…どうした、ノース? 入って来いよ。」

「ヒ、ヒホ〜!?」


ドアが開かれ、ノースは室内に転がり込んでしまう。

ベッドが一つ置いてあるだけの部屋は、ひどく寂しい感覚をノースに与えた。

この部屋の主である刻真を、ばつの悪そうな表情で見上げる。


「コクマ…さっき誰と話してたんだヒホ?」

「それは……ノースには関係ないさ。そう…誰にも関係なんか…ないんだ。」


そう言う刻真は、この部屋同様に寂しそうで。

皆が大切だからこその拒絶だと、何となくそう感じた。

だからこそ、ノースは敢えてその答えに満足げな笑顔を浮かべる。


「オイラもヨコシマも、みんなコクマの仲魔ヒホ。だから…オイラは何も聞かなかったヒホ♪」

「…すまない。」


ノースの拙い心遣いに、刻真は少しだけ笑った。




          ◆◇◆




「ほらほら! 見てみぃ、二人とも!!」


甲板をはしゃぎながら、手すりに駆け寄っていく夏子。

三人は今、最近の穴場として知られている海上ホテルに来ていた。

すでに廃船として動かなくなってはいるが、豪華客船を改装しているだけあって中々の趣がある。

その船内にあるレストランで夕食をとった後、甲板に出た夏子が感嘆の声を上げたのは。


「ほら! すごい夕焼け!!」

「ほぉ…! ホンマに綺麗やなぁ!」


夏が近づくこの季節、遅い夕焼けはとても大きく。

海に照り返す光と相まって、まるで世界の全てがその暖かな緋色に包まれてしまったかのようだった。

二人が素直に感動する中、横島はその色に焼き尽くされそうな思いを胸中に抱いていた。

その光景は、まるで『あの時』のようであったから。



初めて彼女と、ルシオラと夕日を見た時─。



あの時も、今と同じように海も、空も、全てが朱に染まっていた。

ふと、自分の視線の先で並ぶ、夏子と銀一の姿があの日の自分たちに重なる。

横島は小さく苦笑して、頭を振る。


「…本当にすげーな。良い景色だよ。」

「せやなぁ…。」


三人はしばらく素晴らしい眺めに、言葉もなくただ立ち尽くしていた。








やがて。

銀一が「自販機で何か買ってくる」と言って船内に戻っても、横島と夏子はゆっくりと沈む夕日をただ眺め続けた。

横島は思う。

彼女を、ルシオラを。

彼女の表情。声。仕種。笑顔。

次々と浮かぶ記憶は、思い出というには鮮明すぎて、記録と呼ぶには眩しすぎた。

あまり、こういう感傷に浸り続けるのはよくないと、わかってはいるのだが。

どこまでも情けないな、俺。

ふっ…と、横島の口から知らず、小さな自嘲が零れた時。







「……短い時間しか見れへんから、こんなに綺麗やねんなぁ…。」







ふいに聞こえてきた言葉。

その言葉にはっとして、横島は隣の夏子を見る。

夏子は、静かに横島を見据えていた。

その瞳にはどこか悲痛なものが見え隠れしていたが、驚愕に囚われている横島は気づかない。

だが、それも気のせいだったかと思わせるほど、すぐに夏子はいつもの笑顔に戻る。


「横島も、そう思わへん?」

「え…あ、ああ、そうだな。うん、俺も…そう思うよ。」


戸惑っていた横島も、何とかそれだけを言ってまた夕日に心を飛ばす。

夕日はもう、半分近くが海に沈んでいた。


「…あんな、横島。」

「ん?」




「うち、横島が好きやで。」




「………へっ!?」


突然告げられた言葉に、心ここにあらずだった横島も、一気に覚醒する。

ちょっと待てよ。

確か小学生のとき、夏子は銀ちゃんに告白してなかったか?

あれは俺の勘違いだった?

というか、何で俺が告白されてるんだっけ?

衝撃の大きさに、思考も上手くまとまらない。


「な、夏子…? あの、え、お、俺…!」

「返事は!」


見れば、夏子は正面の夕日を見つめたまま。

その頬が赤いのは、夕日のせいだろうか。


「…返事は、そのうち聞かせてな。」


横島は、ただ茫然と。

何も言葉を返せずにいた。












甲板に続く扉の影で、銀一はジュースを抱えて立っていた。

その顔は笑おうとしてはいるものの、どこか優れない。

やがて浮かんだ笑みは、「は…ッ」という自嘲気味な響きと同じくどこか哀しげに歪んでいた。


「…未練たらたらやないか、俺…!」


ぎゅっと、ジュースを抱える手に力を込めて、扉の影から甲板に出る。

二人の後ろに歩み寄り、声をかける。


「─よッ! お待たせ。」


その笑顔は、まるで何事もなかったかのようで。

さきほどの自嘲の表情は、その気配すらなかった。

心のどこか片隅で、俳優としての自分を恨めしく思う気持ちを、銀一は確かに感じていた。




          ◆◇◆




甲板に並んで談笑する三人を、男はサングラスの奥の瞳でじっと見つめていた。

手元のタバコから立ち上る紫煙が風に流され、男の長い黒髪にからみつく。


「へえ…あれが横島忠夫、ねぇ…。 どれ…挨拶でもしてくるか。」


男は手元のノートパソコンを折りたたむと、椅子から立ち上がり甲板を歩き始めた。


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